ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

10 / 187
急展開です。

七月四日・・・フリードとの戦闘? シーンを修正しました。


第十話 聖女の祈りは神に届かずされど友の叫びは騎士へ届く

 教室へ入ると、グレモリーさんが女子に囲まれてた。「何であんなのと!?」とか「考え直した方がいいわ!」とか耳に届く。あの子達、さっきの騒ぎを窓から見てたみたいだな。

 

「おはよう、神崎君」

 

「おはよう。朝から凄い騒ぎだな」

 

 女子達から解放されたグレモリーさんに挨拶すると、彼女は疲れた様子で苦笑いを見せた。

 

「みんな気にし過ぎよ。私はただ後輩君と一緒に普通に登校しただけなのに」

 

 いやキミ、もうちょっと自分の影響力というものを考えた方がいいぞ。大丈夫かな、兵藤君。いつか闇討ちされるんじゃないのか…。

 

「あなたはどう? もしかしてヤキモチとか焼いた?」

 

「いや別に」

 

 本人が普通の事だって言ってるのに、今の話のどこにヤキモチを焼く要素があったのだろう? そう言うと、グレモリーさんは少し不満そうに頬を膨らませた。

 

「…即答しなくてもいいじゃない」

 

 何ですか、その可愛い反応は…。普段は優雅で大人びている様子の彼女が見せた子どものような表情にちょっと萌えた。

 

「いや、すまない。そうだな…今、少しだけ兵藤君が羨ましいと思ったよ」

 

「え? あ、そ、そう…」

 

 今度は照れたように頬を染めるグレモリーさん。さっきの顔と合わせて、こうやってたまに年相応の反応を見せるのも彼女の魅力の一つなのかもな。とりあえず、今この場にカメラが無かった事が残念でならない。

 

「そ、そろそろHRが始まる時間ね! 神崎君も席に着いたら?」

 

「そうだな」

 

 いそいそと自分の席に向かうグレモリーさんを姫島さんが微笑ましいものを見るような目で見つめていた。しかし俺は騙されないぞ。あれは、何か面白いものを見つけましたって感じの目だ。頑張れグレモリーさん。

 

 その後、朝の登校騒ぎ以外に特に何かが起こる訳でもなく、あっという間に放課後になった。俺はいつものように図書室へと向かおうとしたが、その途中で二人の男子に出会った。

 

「あ、神崎先輩」

 

一人は兵藤君。そしてもう一人は…。

 

「こんにちは、先輩」

 

 …誰だこのイケメンは!? いや、まあ木場君なんだけどね。

 

 彼は兵藤君と同じ二年生の木場祐斗君。兵藤君とは別の意味で有名な少年だ。何で有名なのかなど語る必要も無い。その顔を見れば全てがわかる。今こうして挨拶している間も、教室や廊下の各所から女子の黄色い歓声があがっている。

 

「見て! お兄様と木場君のツーショットよ!」

 

「誰かカメラ持ってないの!?」

 

「おい! 俺もいるんですけど!」

 

「うっさい兵藤!」

 

「そこどきなさいよ! アンタまで写っちゃうじゃない!」

 

「ちくしょう! だから一緒に行きたくなかったんだ!」

 

 ガチ泣きしてる兵藤君。…うん、そっとしておこう。とりあえず木場君に話を振ると、これから兵藤君をある人物に会わせるそうだ。で、そのある人物っていうのがグレモリーさんで、今は彼女のいるオカルト研究部の部室へ案内していた途中なんだとか。

 

「そうか。すまない、邪魔をしたみたいだな」

 

「いえ、お気になさらず。こうして先輩とお話し出来て光栄ですからね」

 

 おお、なんというイケメンセリフ。彼は男まで落とす気なのか? 元々イケボイスなのにそんなセリフ言われたら落ちない女子なんていないんじゃないのか?

 

 あ、イケボイスと言えば、生前とあるオタク友達に「お前、顔は残念だけど、声は割といいよな。なんか某声優に似てる気がする」とか言われた事があるが…。悪かったな残念で。

 

「それじゃ、先輩、僕達は行きます。…ほら兵藤君、どうして泣いてるのかわからないけど、そろそろ泣きやんでくれないかな」

 

「それをお前が言うか!? ああはいはい! わかりましたよ! どこにでも連れて行ってくださいってんだ!」

 

 木場君を置いて歩きだす兵藤君。連れて行けって言ってるのに先に行ってどうするんだ? …まあいいか。とりあえず、俺も目的の場所へ行きますかね。

 

 次の日、兵藤君が「ハーレム王に俺はなる!」と叫んでいる場面に出くわした。一体昨日何があったのかと心配になってしまった俺だが、とりあえず頑張れとだけ心の中で呟いた。

 

 そして、それからさらに数日が経過した。気分が乗らなかったので図書室へは行かず放課後すぐに帰宅する事にした俺の前に…天使が現れた。

 

 いきなり何言ってんだ? とか思われるかもしれないが、とにかくそう表現するしかないほど、目の前の少女…アーシア・アルジェントさんは愛らしく、そして素晴らしい心の持ち主だった。

 

 彼女との出会いは数分前、歩いている俺の元へヴェール…でいいのか? が飛んで来た。それを拾い上げた直後、一人の少女が駆け寄って来たのだ。その子は俺の持つヴェールに目を向ける。それでこれが彼女の物だと察した俺はヴェールを差し出したのだが。

 

「これはキミのか?」

 

「あ…う…」

 

 何故か言い淀む少女を見て、俺は一つの仮説を抱いた。金色の髪に翠色の目。明らかに日本人じゃない彼女はもしかしたら日本語が話せないのではないかと。

 

 困った。言葉が通じなければどうしようもない。困った俺の頭にオカンの声が響く。

 

『お困りのようやな』

 

 本当に、どうしてこう毎回毎回絶妙なタイミングで現れるんですかね、この神様は。

 

『神様やから』

 

 シンプルかつベストな回答ありがとうございます。で、俺はオカンの力で違う言語でも会話が出来るようにしてもらった。

 

「…俺の言葉がわかるか?」

 

「ッ! は、はい!」

 

 互いの言葉が伝わるようになった所で、俺は改めて少女にヴェールを差し出した。それを受け取った彼女は正に太陽の様な笑顔でお礼を言って来た。

 

「ありがとうございます! おかげで助かりました!」

 

 なんという眩しさ! ああ…俺の心の汚れた部分が浄化されていくのを感じる…。

 

「私、アーシア・アルジェントと申します。少し前にこの街の教会に赴任して来たシスターです」

 

「ご丁寧にどうも。俺は神崎亮真。この街にある駒王学園の三年生だ。よろしく」

 

「はい、こちらこそ。…はあ、また道行く方にご迷惑をかけてしまいました。この前だってイッセーさんにぶつかっちゃったのに…」

 

 アルジェントさんから知人の愛称が飛び出た事に驚く俺。なんでも、この街に来たその日に兵藤君とぶつかってしまったそうで、教会の場所がわからなかった自分を嫌な顔せず案内してくれたらしい。おお、やるじゃないか兵藤君。俺の中で彼に対する評価が上がった。

 

「ただ、その、私を見る目がちょっとギラギラしてたのが怖かったです。駄目ですよね私、親切にしてくださった方を怖いなんて思ったら」

 

 その直後、アルジェントさんの続けた言葉で再び下降する評価。…兵藤君、マジで自重。

 

 にしても、こんな若い子が一人でこんな所に来るなんて、何か事情があったりするのかな? それとなく話を振ってみると、アルジェントさんは今の今まで明るかった表情をあっという間に暗くさせたと思うと、その場で涙を流し始めた。ちょっ!? スタッフゥーーーー! どうなってんのコレ!? そんな泣くほどの地雷踏んじゃったの俺!?

 

「す、すみま…せ…急に…泣い…たりなんか…して」

 

「い、いや、こちらこそすまない。嫌な事を聞いてしまったみたいだな」

 

「気にしないでください。…聞いてもらえますか、リョーマさん?」

 

「俺でよければ」

 

 そして、彼女は自分の半生を語ってくれた。

 

 生まれてすぐに両親に捨てられ孤児院で育った事…。

 

 子どもの頃から信仰深かったおかげで奇跡の力を手に入れた事…。

 

 その力によって『聖女』として崇められた事…。

 

 その裏で、周りが自分を人とは違う生物であるかのように見ていた事…。

 

 ある時、偶然自分の近くに現れた悪魔を助けた事…。

 

 それによって『魔女』の烙印を押され教会から追い出された事…。

 

 その時、誰も自分の味方をしてくれなかった事…。

 

 行き場の無くなった自分を、とある組織が拾ってくれた事…。

 

 悪魔って…もしかしなくてもあの赤髪のイケメンと魔法少女みたいな人達の事だよな。え、悪魔ってこの世界にもいるの?

 

 予想以上のハードな内容に始めは驚いた俺だが、聞いている内にとある感情がふつふつと湧いて来た。それは…こんな優しい少女を傷付けた全ての存在に対する怒りだった

 

 馬鹿だろ両親! アホだろ教会! ああ、叶うならこの子を追い詰めた連中全員の所に行ってボッコボコにしてやりたい。

 

「きっと、私の祈りが足りなかったんです。だからこそ、主はこうして試練を与えてくれたんだと思います。今を頑張れば、いつかきっと報われる時が来ると私は信じてます。そうすれば、友達だってきっと…」

 

「なら…俺と友達になろう」

 

「え…?」

 

 また泣きそうになっていたアルジェントさんにそう言うと、彼女は涙の代わりにポカンとした様子でそんな声を出した。

 

「キミは自分の心に従ってその悪魔を助けた。それのどこが悪い。その優しさは人として何よりも清く尊いもの。そんなキミのどこが『魔女』だ。キミは今も間違い無く『聖女』だよ。俺は、そんなキミと是非とも友達になりたいと心の底から思う」

 

 アル=ヴァン先生というフィルターを通して俺の口から気障なセリフがスラスラ出て来る。だけど恥ずかしいとは思わない。俺自身の稚拙な言葉よりずっと気持ちが籠ってるように思うから。

 

「どうして…私なんかにそんな言葉をかけてくれるんですか?」

 

「理由は無い。ただキミと友達になりたいだけだからな」

 

 俺の言葉に、アルジェントさんはクスっと小さく笑う。そう、笑ってくれたのだ。

 

「…はい、こんな私でよければ友達になってください」

 

 差し出された手を握り締める。小さく、温かい手だった。

 

「何か困った事や助けて欲しい事があったら呼んでくれ。いつでもどこでも駆けつけるからな」

 

 アルジェントさんの為ならオルゴン・クラウドを使う事も辞さないぞ俺は!

 

「ふふ、はい。その時はよろしくお願いします」

 

 それから、早速どこかへ遊びに行こうかと誘ったが、実は用事のあったアルジェントさんは申し訳なさそうに断った。だから今度、アルジェントさんのいる教会にこっちから遊びに行くと約束して、その日は別れた。

 

 さらに数日後、俺はアルジェントさんの所へ遊びに行く事にした。途中駄目元で例の限定シュークリームの店に寄ったら、奇跡的に三つだけ手に入った。運がいい。レイナーレさん達に出くわさないようにしないとな。

 

 調べた住所を頼りに歩き続ける事数十分。辺りはすっかり暗くなってしまった。まずいな、こんなに時間がかかるとは思わなかった。今からお邪魔しても迷惑かもしれない。よし、とりあえずシュークリームだけ渡して帰ろう。そう決めた俺の前にようやく教会が姿を現した。

 

 さて、アルジェントさんはどこにいるだろう? とりあえず、目の前の聖堂に入って、中に誰かいたら居場所を聞いてみようか。

 

 静かに両開きの扉を開けると、中には神父の格好をした一人の男性が立っていた。いや、男性というよりは少年かな?

 

「んー? おいおい、てっきりあのクソ悪魔君達がやって来ると思ったんですけどねぇ。つーか誰ですかアンタ?」

 

 なんか神父というにはちょっと言葉使いが悪い気がするが、あの格好は間違い無く教会の関係者だろう。丁度いい、彼に聞こう。

 

「すまない、ここにアーシア・アルジェントさんという子がいると思うのだが」

 

「おやおやぁ? アーシアたんを知ってるって事は、アンタもしかしてあのクソ悪魔君達のお仲間ですかぁ? 悲しいねぇ。人間のくせに悪魔と仲良くするなんて。そんな残念なアンタは・・・ここで死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ッ!?」

 

 考えるよりも先に体が動く。その刹那、神父は光る剣で俺の頭があった場所を薙ぎ払った。

 

 お、おまわりさーーーーーーんっ! ここです! ここに銃刀法違反のクレイジー神父がいます! てか何なのあの剣!?

 

「ああもう、よけんじゃねーですよ! 大人しくしてろって! じゃないと殺せないでしょーが!」

 

「何の真似だ?」

 

「だから殺しますって言ってんだろうが! 頭に蛆でも湧いてんのかテメエ!」

 

 忌々し気に叫びながらクレイジー神父が懐から拳銃を取り出す。って拳銃!? やば―――。

 

「はい、ドーン!」

 

 一切の躊躇無く引き金を引くクレイジー神父。そして発射された弾丸は一直線に俺の胸に突き刺さる…事は無かった。

 

 まるで見えない壁に阻まれているかのように、弾丸は動きを止め、やがて地面に落下した。これは…まさかバリア? え、ラフトクランズの姿にならなくてもオルゴンクラウドって発動するの?

 

「おいおいおいおい! 何だよテメエ! 神器所有者なら先に言いやがれ!」

 

 神器? 何それ美味しいの? なんてボケてる場合じゃない。この状況は良くない。何とかこのクレイジー神父を取り押えないと。

 

 どうしようか考えを巡らそうとした俺に向かってクレイジー神父は素早い動きでこちらに接近。再度剣を振り降ろして来た。迫り来る刀身に対し、俺は両手で挟みこむようにして受け止めた。これぞ…真剣白刃取り!

 

「んなっ!?」

 

 驚愕した様子のクレイジー神父を見つめながら、俺は心の中で悲鳴をあげた。

 

 っっっっ怖えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! これ駄目だ! もう二度とやらねえぞ! は? お前の体なら問題無いって? 馬鹿野郎! オルゴンクラウドとチートボディがあったって怖いもんは怖いんだよ!

 

 そ、それより、クレイジー神父が固まっている今がチャンスだ。今の内にこの剣を取り上げてしまえば! そう思い、挟む手に力を入れた刹那、剣は俺の手の中で呆気無く砕け散った。

 

(え、剣ってこんな簡単に砕ける物なの? これじゃまるで玩具じゃ…玩具?)

 

 俺はその瞬間理解した。そうか! あの剣は玩具だったのか! って事は、このクレイジー神父、玩具振り回して遊んでただけ? さっきの銃も玩具だったのか?

 

「…テメエ、マジで何者だ? あの剣をただの人間が砕けるはずが…」

 

「その程度の玩具ならその気になれば誰でも壊せるだろう」

 

「玩具!? はは、こいつはいいや! 言うに事欠いて玩具呼ばわりかよ! 止めだ止め! アンタみたいなバケモン相手に出来っかよ!」

 

「何?」

 

 突然だった。クレイジー神父が参ったとばかりに両手をあげる。

 

「つーわけで俺はここでドロンさせて頂きます。アンタ相手じゃあのクソ堕天使共も終わりだな」

 

 えーっと…つまり見逃してくれるって事でいいのか? 混乱する俺に対し、クレイジー神父は奥の方を指差した。

 

「アンタの愛しいアーシアたんは地下にいるぜぇ。助けるならどうぞご自由に、俺にはもう関係ねえからな。そんじゃ、バイビー」

 

 言うなりさっさと聖堂から出て行くクレイジー神父。何だったんだ一体? 最後にアルジェントさんの場所を教えてくれたって事は実はいい人? いやいや! 玩具とはいえ、剣とか銃を向けて来る相手がいい人なわけない! 騙されるな、俺。

 

 なんか、アルジェントさんの事が凄く心配になって来た。俺はシュークリームの入った箱をその場に残し、クレイジー神父の指した方へ向かった。そこには巧妙に隠された階段があった。いかにもヤバい雰囲気だが。ここまで来たら行くしかない。

 

 階段を下りると、そこには道が一本だけ存在していた。そしてその一番奥に巨大な扉を確認した俺はそちらに歩を進めようとした…その時だった。

 

「助けて! 助けて、リョーマさん!」

 

 それは間違い無くアルジェントさんの声だった。その尋常じゃない声色に即座に走り出す俺。女の子があんな声を出す時は…“G”か!? “G”でも出たのか!? 正直俺も苦手だが、アルジェントさんはもっと苦手なんだろう。ならばここは彼女に代わってヤツの相手を…!

 

 そんな事を考えながら扉を開ける。そこには衝撃的な光景が広がっていた。

 

SIDE OUT

 

 

アーシアSIDE

 

「さあ、アーシア、覚悟は決まったかしら?」

 

 レイナーレ様が微笑む。だけど今の私にはわかる。その笑みに優しさや慈しみは一切込められていない事を。

 

 私がここに送られた理由。私がこれから何をされるのか。そして、その結果私に何が待ち受けているのか。レイナーレ様はその全てを私に話した。

 

「あなたの神器…『聖母の微笑み』を手に入れる事で、私は至高の堕天使となる! そうすれば、私はあの方々の寵愛を授かる事が出来るのよ!」

 

 恍惚とした顔で語るレイナーレ様。その傍にいるカラワーナ様とミッテルト様はそれとは対照的に、どこか気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「お姉様…本当にやるんですか?」

 

 ミッテルト様の言葉にレイナーレ様が表情を改める。

 

「今さら何を言っているのミッテルト? もうあと少しで目的が果たせるのよ?」

 

「そう…ですけど。なんか、本当にこれでよかったのかなって。もしかしたら、あの方々から愛してもらう方法は他にもあるのかもしれないって。何でですかね。ついこの間までそんな事考える事無かったのに」

 

「あの人間の所為なの?」

 

 ビクッと体を振るわせるミッテルト様。一体何があったのか想像もつかない。でも、ある人がこの方達に何かしらの影響を与えたというのは何となく理解出来た。

 

「…そうね。私にも思う所はあったわ。でももう遅い。私達は取り返しのつかない所まで来てしまった。…さあ、この話はもうお終いよ。儀式を始めるわ」

 

 レイナーレ様が私に近付いて来る。

 

「受け入れなさい、アーシア。これもまたあなたの言う主の与えた試練なのだから」

 

 これが試練? “死”を受け入れる事が試練?

 

(…いや)

 

 少し前の自分なら、もしかしたら受け入れていたかもしれない。だけど、今は違う。

 

『なら…俺と友達になろう』

 

『アーシア、俺が友達になってやる。いや、俺達、もう友達だ』

 

 だって今の自分には、ずっと欲しかった素敵なお友達が二人もいるのだから!

 

 “死”が近付いて来る。今さらだけど恐怖が湧きあがって来る。助けて欲しい。私を“死”から救って欲しい。

 

『何か困った事や助けて欲しい事があったら呼んでくれ。いつでもどこでも駆けつけるからな』

 

 その中でふと、彼と交わした約束を思い出した。彼にとっては軽い口約束だったのかもしれない。私がこんな事になっているなんて彼が知る筈もない。…それでも、あの時の彼の優しい表情を思い出すと叫ばずにはいられなかった。

 

「助けて! 助けて、リョーマさん!」

 

「リョーマ? 誰だか知らないけど、助けなんて来るはずが…」

 

 バンッ! とレイナーレ様の言葉を遮るように勢いよく開かれた扉。そして…その奥に彼は立っていた。

 

「リョーマ…さん」

 

 届く筈の無い私の叫び。だけど、彼は…リョーマさんは来てくれた。

 

「何を…何をしている」

 

 リョーマさんが言葉を発する。その瞬間、部屋の中の温度が急激に下がったかのような錯覚に陥ってしまった。レイナーレ様は目を見開き、カラワーナ様は顔を青ざめ、ミッテルト様は震えていた。

 

 誰もが一瞬で理解した。リョーマさんは怒っている。それも周りに影響を与えるほど強烈に。その様子に恐怖を抱いてしまう私だったが、同時に胸に何か温かいものが込み上げて来た。

 

 だってリョーマさんは、私の為に怒ってくれているのだから。さらにリョーマさんは私と目を合わせると、あの時と同じように優しく微笑みながら告げた。

 

「アルジェントさん。すぐに助ける」

 

 その言葉に、その姿に、私はどこまでも頼もしさを感じるのだった。まるで・・・お伽噺に出て来る騎士様のように…。

 

アーシアSIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

「リョーマ…さん」

 

 俺の目に飛び込んで来た光景…。まずは大勢の人間。全員がさっきのクレイジー神父と同じ光る剣を握っていた。ならばこいつらも教会の人間という事か。

 

 そいつらの奥にそびえる巨大な十字架。何故かその傍にレイナーレさん達。そして…その十字架に張り付けにされたアルジェントさん。

 

「何を…何をしている」

 

 ふざけるな…ふざけるなよお前ら! アルジェントさんをここへ招いたのはこんな事が目的だったのか!

 

 あの優しくて、純粋で、無垢なアルジェントさんを………………十字架プレイなんてマニアック過ぎて意味不なプレイに巻き込む事が! おのれ! アルジェントさんを傷付けたくせにその上こんな辱めを与えるとは! そもそも十字架プレイって何だよ!? 何が楽しいか理解出来ない! てかしたくない!

 

 アルジェントさんと目が合う。彼女は泣きそうな顔をしていた。当然か、友達にそんな恥ずかしい格好を見られてるんだから。でも大丈夫。お兄さんはわかってるよ。キミが自ら望んだわけじゃないって。優しいキミの事だ。頼まれたから断れなかったんだろう。

 

「アルジェントさん。すぐに助ける」

 

 とりあえず…ここにいる変態どもを全員ぶちのめしてからな!




シリアスの中、ただ一人勘違いするオリ主。ただ、本当の事を全く知らない以上、仕方ない事だと思います。・・・仕方ないよね?

さて、次回でおそらく一巻分のラスト。オリ主による変態共へのお仕置きと、レイナーレ達へのOSEKKYOUとなります。

主人公の声はみなさんご自由に想像して再生して下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。