ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第八章 修学旅行はパンデモニウム
第百二話 今日のわんこ


ロキとの戦いから既に数日が経った。目前に迫る修学旅行へ向けて色めき立つ二年生の子達とは対象に、三年生と一年生は特に変わる事の無い生活を送っている。

 

あ、でも厳密に言えば俺の周りは変化があったな。家に新しい同居人とペットが増えたのだ。まだ一緒に暮らす様になって日は浅いが、朱乃もフェンリル達もすっかりここでの暮らしに慣れた様だった。・・・というか朱乃は慣れ過ぎだ。長い事一人暮らしだったというのはあるだろうが、風呂上がりにシャツ一枚でうろついたりとかしないでください。リアスや黒歌に関してはもう諦めてるが、俺の精神を過信しないで欲しいです。

 

ここまで無防備だとまるで意識されてない様で地味にへこむ。いやまあね、意識してもらいたいなんて身の程知らずな事をほざくつもりは無いが、お互いの為にも、もう一枚だけでいいので何か羽織って欲しいと思うのは決してワガママでは無いはずだ。

 

だがしかし、そんな風に神経をすり減らしている俺を癒してくれる存在を忘れてはならない。その名はスコル! そしてハティ! 俺がソファに座ろうものなら小走りで駆け寄って来て、そのまま俺の膝へジャンプ。全身を使って甘えて来る二頭を前に、俺の心はたちどころにヘブン状態!

 

もちろん、フェンリルだって忘れて無い。頭だけソファに乗せてジッと俺を見て来るので、思う存分撫でまくってあげるのだ。テレビを見る時はもうこのスタイルが定着しつつあった。

 

ちなみに、三頭とも室内で飼っている。リアスからは問題無いと言われたが、やっぱりスコルとハティは小さいし、フェンリルだけ外に出すのも可哀そうなのでこんな感じになった。

 

・・・余談だが、このスタイルの時、かなりの確率で猫モードの黒歌が乱入してきて、俺の膝の上でちょっとしたバトルを繰り広げる。・・・この時の猫パンチと犬パンチの応酬がまた可愛くてしょうがない。いやあ、動物って本当に素晴らしいですね!

 

さて、思い返すのはこれくらいにして、そろそろ出かけるかな。今日は日曜日。そして、今から俺とスコルの楽しい散歩タイムが始まるのだ。

 

「それじゃあ、行って来ます」

 

「ぎゃう!」

 

玄関を開けると同時にスコルが外へ飛び出す。それに遅れまいと俺も駆け足で続いた。三頭の性格については何となく理解出来ているのだが、このスコルはとにかく元気が良すぎる。加えて好奇心も強い。見る物全てに興味があるのか、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、とにかくリードを握っているだけでも大変だ。

 

でも、こんな姿を見ていると、ロキの所にいた頃は、こういう風に散歩もロクにさせてくれなかったのだろうかと思ってしまう。なので、周りの迷惑にならない程度や、危なくない程度には好きにさせてあげている。

 

ついでに他の二頭に関して言うと、ハティはスコルとは逆にうろちょろせずのんびり散歩をするのが好きで、ベンチ等で休憩するとそのまま俺の膝の上で眠ってしまい、帰りは抱いて帰るのが基本だった。そんでもってフェンリルはというと、何故か俺の後ろを一定の距離を保ちながら着いて来る。「まるで従者ね」とリアスは冗談めかして言っていたが、これではどちらが散歩に連れ出されているのかわからない。

 

あと、フェンリルは非常にモテる。たまにすれ違う散歩中の別の犬が雌だった場合。ほぼ確実に擦り寄って来られる。そのモテ力をちょっと分けてくれればいいのに。

 

・・・余計な事を漏らしてしまった。とにかく、三頭の中でスコルの散歩が一番激しくて疲れる。ここは前回と同じ様に公園でボール遊びでもして勘弁してもらおう。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

というわけで、公園に到着したのだが・・・。

 

「あ、こんにちは神崎君」

 

入口で遭遇したのは山田先生だった。・・・なんだか随分懐かしい感じがする。学園でよく顔を合わせてるはずなのに。

 

「こんにちは山田先生。どこかへお出かけですか?」

 

「ええ。今度の修学旅行で必要な物の買い出しに」

 

そういえば、俺達が進級する時に山田先生は俺達の担任から外れてまた二年生の担任になったんだっけ。なんか元々の担任が病気か何かで長期療養が必要だからなんとか・・・あんまり憶えて無いけど。

 

「神崎君はどうして・・・ってあら?」

 

山田先生がスコルに気付く。瞬間、先生の顔がふにゃっと蕩けた。

 

「わあぁ! か、可愛い! ど、どうしたんですかこのワンちゃん!?」

 

「事情があってウチで世話する事になったんです」

 

「名前はなんて言うんですか?」

 

「スコルです」

 

「初めまして、スコルちゃん。私は山田真耶です。よろしくね」

 

山田先生がしゃがみ込んでスコルへ声をかける。・・・それはいいのだが。山田先生、ご自分がスカートをはいているって忘れちゃってませんかね。・・・今日一日は水色の物は視界に入れない様にしよう。

 

「ぐるるる・・・」

 

で、案の定というか、思いっきり警戒しているスコル。噛みつき禁止令を出しているので山田先生をぱっくんする事は無いだろうが、注意しておかないと。

 

「大丈夫。大丈夫だよ。私はあなたを傷付けるつもりは無いよ。あなたと仲良くしたいだけなの。ね? だから安心して」

 

そんなスコルに対し、優しく、ひたすら優しく微笑みながら語りかける山田先生。するとどうだろう。スコルの唸り声が徐々に小さくなって来たではないか。さらに、スコルの方から少しずつ近づき始めた。そして、互いの距離がゼロになった時、スコルは山田先生が差し出した手をぺろぺろ舐め始めた。

 

「ありがとう。優しい子ね、あなたは」

 

驚きはそれだけでは無かった。山田先生が喉を撫でると、スコルは甘える様な声を出してその場にコロンと仰向けになった。耳や尻尾も垂れて完全にリラックスモードに入っていた。

 

「・・・お見それしました、山田先生」

 

スコルを抱いて立ち上がった山田先生に、俺は称賛の拍手を送った。いや、マジで凄い。出会って五分もかけずに動物が心を開くとかどこの動物王国園長ですか。

 

「えへへ、昔から動物には好かれる体質みたいなんです。その所為で大変な目にも遭った事がありますけど、こういう役得もあるんですよね」

 

我が子を可愛がるように、抱いたスコルを撫でる山田先生。スコルも母親に甘えるかのように先生の胸に前足で触れる。

 

「ふあっ!?」

 

次の瞬間、ひどく艶のある声と共に山田先生の体が震えた。な、なんだ? 今の温かなシーンから急展開過ぎやしないか。

 

「だ、駄目。スコルちゃん。そこは触らないでぇ・・・!」

 

そこってどこ!? すぐに確認すると、スコルは山田先生の胸が気に入ったのか、前足でプ二プ二押していた。そして、その押している部分というのが、胸の頂点。つまりスコルが今プ二プ二している場所は・・・!

 

「ス、スコル! 離れろ!」

 

俺はすぐさまスコルを山田先生から引き離した。尚も先生に向かって足を伸ばすスコルをガッチリ確保したまま、俺は先生へ声をかけた。

 

「だ、大丈夫ですか、山田先生?」

 

「ん・・・はあ・・・だ、大丈夫です」

 

僅かに頬を上気させながら答える山田先生。・・・もしもこの場に学園の山田先生ファンの連中がいたら発狂していただろうな。

 

「あ、あはは、スコルちゃんはいたずらっ子なんですね」

 

「すみません。ご迷惑を・・・」

 

「ううん、そんな事無いです。それじゃあ、私はそろそろ行きますね。スコルちゃん、今度また遊びましょうね」

 

「く~ん」

 

最後にスコルの頭を一撫でし、山田先生は去って行った。その後ろ姿を、スコルはいつまでも見つめ続けていたのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「・・・という事があったんだ」

 

夜、俺は公園での出来事をみんなに話した。

 

「不思議ね。どうして山田先生にそんなに懐いたのかしら」

 

「がうがう」

 

「『あのおねーさんに撫でられるとぽかぽかするのだ』・・・だってさ」

 

スコルの声に続いて黒歌がそんな事を口にした。って、ちょっと待て。まさか黒歌・・・。

 

「く、黒歌さん、スコルちゃんの言葉がわかるんですか!?」

 

「仙術を応用すれば簡単にゃ」

 

仙術の力ってすげー!

 

「ぽかぽか? 暖かくなるという事かしら」

 

「なるほど、何となくわかる気がするにゃ。ご主人様のナデナデは気持ちいいけど、真耶のナデナデは何か安心するんだよね。イメージとしては・・・母親っていう言葉がピッタリな気がするにゃ」

 

「何で山田先生を名前で・・・そういえば、以前先生の家でお世話になった事があるんでしたっけ」

 

「母親・・・か」

 

「部長?」

 

「ロスヴァイセから聞いたけど、スコル達の母親は二頭を産んですぐ、用済みとされてロキに“処分”されたらしいわ。だから、この二頭は母親の愛情を受ける事が出来なかった。もしかしたらスコルは山田先生に母親を重ねたのかもしれないわね」

 

そうか。山田先生から溢れる母性を感じてあんな風に甘えていたのか。・・・ロキのド腐れ野郎め、俺も一発ぐらい殴っておけばよかったわ。

 

「でも、どうして山田先生なのでしょう」

 

「それは・・・まあ・・・母性の象徴ともいえる部分があの人は立派だからでしょうね」

 

リアスの言葉に僅かに無言の時が流れる。うん、直接言葉にしなくてもわかってしまった。

 

「けど、それなら私達だっていけるはずじゃないかしら」

 

「私・・・“達”?」

 

塔城さんの呟きに再び言葉が途切れる。おい、なんだこの空気は!? 誰かなんとかしてくれ!

 

「白音!」

 

「・・・何ですか姉様?」

 

「元気出して! 諦めたらそこで試合終了だよ!」

 

満面の笑みで塔城さんの両肩へ手を置きながらそう言い放った黒歌。その目線が塔城さんの顔から下へ動いていく。

 

「よくも目線下に向けてくれましたね・・・!」

 

「痛たたたた!!! ま、待って白音! 千切れる! 千切れちゃう!」

 

軽率な言動によってお仕置きされる黒歌。ふとそこから視線を外した先で、スコルが点けっ放しだったテレビをジッと見つめていて、そこには母親に抱きかかえられている子どもの姿が映し出されていた。

 

スコルが何を考えているのかはわからない。けど、リアスの意見は決して的外れでは無いと、この時の俺はそう思ったのだった。




修学旅行まで日がありませんが、書ける所は書いておこうと思います。

そして、久々登場山田先生! 別に気まぐれで出したわけじゃありません。ちゃんと意味があります。

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