ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
黒歌SIDE
平日の昼下がり、私は久しぶりに猫の姿で外に出ていた。この街との付き合いはまだ一年ちょっとくらいだけれど、もう随分長く住みついている様な気がするにゃ。
主殺しの罪を背負っていた頃は、同じ場所に長く居つく事は出来なかったからなぁ。そんな事をすればハンターに襲われちゃうから。
でも、今の私はもうそんな事を気にする必要は無い。ただの黒歌としてこの街でご主人様や白音達と一緒に生きているのにゃ。
ご主人様は私にたくさんのものを与えてくれた。居場所。家族。自由。数えあげればキリが無い。私がもう二度と手にする事が出来なかった、もしくは取り戻す事が出来なかったものばかり。私は一生をかけてこの恩を返して行かないといけない。
・・・なんて、それっぽく理由をつけてるけど、本当はただご主人様の事が好きだから一緒にいたいだけなんだよね。というか、ご主人様はずるい。カッコ良くて優しくておまけに強い。これで惚れないわけないじゃない。現に私以外にもご主人様ラブな子はたくさんいる。そしてそれは今も拡大中にゃ。
私はご主人様が大好き。だからこそ、もっと役に立ちたいし、もっと深い関係になりたい。具体的に言うと、仮ではなく正式な眷属になりたい。
街外れの鉄塔に登り、人の姿に戻った私は、懐から『戦車』の駒を取り出した。ディオドラとの戦いからそれなりに日は経ったはずなのに、未だにご主人様に返せていない。
ううん、返せないんじゃなくて返さないんだ。我ながら未練タラタラで嫌になる。既にご主人様からも返して欲しいと何回か言われてるけど、その度に適当な理由をつけて逃げている。こんなの私のキャラじゃないんだけどな。
もちろん、このままでいるのは良くない事はわかってる。案外、お願いしたらアッサリ眷属にしてくれるかもしれない。でも、もしも断られたら? ご主人様は眷属を得る事にあまり積極的じゃない。悪魔の駒を貰ってからレーティングゲームまで、ご主人様から眷属が欲しいという言葉は一切無かった。あのルールが無ければ、おそらくゲームも一人で挑んでいたはずだと思う。
それがわかっているから尻ごみしてしまう。別に眷属になれなくても、ご主人様と私の仲が駄目になるとは思わない。それでも私は眷属に・・・ご主人様のモノのなりたいのにゃ。
「ホント・・・私らしく無いよね」
いつもお気楽で気まぐれな猫・・・それが黒歌さんだったはずなのにね。あーもう。それもこれもご主人様が悪いのにゃ! というわけで、帰ったらまたたっぷり甘えさせてもらうから覚悟しててね!
「今日こそはご主人様の膝を独占にゃ。あんなお子ちゃまワンコ達にいつまでも調子づかせる私じゃないんだからね!」
私は駒を仕舞い、鉄塔から飛び降りた。そして、再び黒猫姿になって家までの道をのんびりと戻り始めるのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
久しぶりの散歩で色々寄り道していたらすっかり夕暮れになってしまっていた。玄関先で人の姿に戻って扉を開ける。
「はい、では明日お邪魔します」
リビングへ入ると、ちょうどご主人様がどこかへ電話をかけていた。受話器を置いた所で私に気付く。
「お帰り黒歌。どこへ行ってたんだ?」
「ちょっと散歩してたにゃ。ご主人様こそ、今どこに電話してたの?」
「ああ、レイナーレさんの家にな。前に悪魔の駒の事で話したい事があるからと言われてたのを思い出したから、明日お邪魔しようと思って連絡したんだ」
「え・・・?」
悪魔の駒についてって。・・・もしかしてレイナーレ達・・・!
「ご主人様! わ、私もついて行っていい?」
「ん? 俺は別に構わないけど、一応レイナーレさん達に聞いてみるか」
そう言って、ご主人様はもう一度レイナーレの家に電話をした。結果、私も明日着いて行っていい事になった。
ゴメンね、レイナーレ。でも、あなた達の決意を見れば、きっと私も勇気が持てると思うから。
私は『戦車』の駒をそっと握り締めるのだった。
黒歌SIDE OUT
IN SIDE
次の日、俺と黒歌はレイナーレさん達の家を訪ねた。道中、黒歌の表情がやけに真剣だったのが不思議だったが、話しかけられる雰囲気でも無かったので、何とも言えない無言の時間を味わう俺だった。
ともかく、家に到着したので早速インターホンを押すと、ドアが開いてレイナーレさんが姿を見せた。
「よ、ようこそ神崎様。どうぞお入りください」
「お邪魔します」
これまた表情の固いレイナーレさんにリビングへ通されると、席についていたカラワーナさんとミッテルトさんが揃って立ち上がって頭を下げて来た。
なんか、俺の思ってた雰囲気と違う。この張り詰めた空気・・・こっちまで緊張して来そうだ。
「こちらにお座りください。すぐにお茶を用意します。ミッテルト」
「はいっす!」
ミッテルトさんがてきぱきとお茶を準備する間、俺は席についてジッと待っていた。しばらくして、いい香りのするお茶が全員の前に置かれた。早速それを飲んでみる。うん、美味しい。
「え、ええっと、神崎様」
「何ですか?」
「あ、その・・・アザゼル様から教えて頂いたのですが、何でも神喰狼を手に入れたそうで」
「ええ。今ではすっかり家の一員ですよ」
「あんな化物まで従えるとか凄過ぎっすよ」
「流石伝説の騎士殿ですね。お見それいたしました」
ひょっとして、この三人フェンリル達に興味があるのかな。それなら今からでも俺の家に会いに行きますかね?
そう提案すると、三人はそうじゃないと首を横に振った。
「すみません。話を逸らしてしまいました。私達が本当にお話したかったのはこれの事です」
レイナーレさんが机の上に『兵士』の駒を置く。他の二人も同じ様に駒を置き、俺の前に三つの駒が並んだ。
「神崎様は当然ご存知無いでしょうが、あの『禍の団』との戦いを終えてから、他の悪魔の方々から自分の眷属になって欲しいとの話がいくつかありました。中には相当な有力者の方の名もありまして、どうも私達の戦闘中の姿も中継されていたようで、その内容を評価して頂いたらしいのです」
つまり・・・スカウトって事か? おお、それって凄い事じゃないの。俺も納得だ。確かにあの時のレイナーレさん達は凄く頼りになったもんな。というか、あの場にいたみんなが滅茶苦茶強かった。だからこそ、俺はアーシアを助ける事が出来たんだから。
「驚きましたが、同時に嬉しかったです。下級堕天使である私達にそれほどの評価をして頂いて」
「では、みなさんはその人の眷属に?」
「いえ、確かにありがたいお話でしたが、全て断りました。私・・・私達が眷属にして頂きたいのは、たった一人ですから」
へえ、レイナーレさん達にそこまで言わせるなんて、一体どこの誰だ? 俺の知ってる人か? どちらにせよ羨ましい。
「・・・神崎様。今こそ私達の気持ちを伝えさせて頂きます。どうか、私達をあなたの正式な眷属にして頂きたいのです」
へえ、俺の眷属になりたいのかぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?
「お、俺のですか・・・!?」
「神崎様に救われたあの日からずっと考えていたんです。私達の様な下級堕天使ではどうやっても返せないほどの大恩にどうやって報いればいいか・・・」
「それで三人で話し合って決めたっす。眷属として、この身を一生神崎様に捧げようって」
いや、その理屈はおかしい! 俺、そんな一生を捧げられるような大それた事をした憶えはまるで無いです!
慌てて訂正を入れようとしたが、レイナーレさんは俺がそんな反応をするのがわかっていたとばかりに微笑んだ。
「そうおっしゃられると思っていました。まさしく英雄の心を持つ神崎様にとっては、他人に手を差し伸べる事は当然だったのでしょう。・・・ですが、刃を向けたにも関わらず、私達の為に下げる必要の無かった頭を下げられた神崎様のお姿は、私達にそう思わせるだけのものがあったのです」
言葉の出ない俺に対し、レイナーレさんがさらに続ける。
「ご存知でしょうが、私達は下級堕天使の中でもさらに底辺に位置していた者です。手を差し伸べられた事はもちろん、蔑まれる事はあれど、優しくされた事などありませんでした。そんな私達に、あなたは迷う事無く手を差し伸べてくれた。いなくなっても誰も気にしない・・・生きているのに死んでいる様な私達の存在を認めてくれた。私達にはそれだけでよかった。それだけで私達は嬉しかったんです」
僅かに表情を沈ませながら、最後には晴れ晴れとした笑顔を見せるレイナーレさん達に、俺は何も言えなかった。彼女達の目は本気だ。もちろん、こんな事冗談で言えるわけが無いとはわかっているが、彼女達の決意の込められた瞳に射抜かれ、俺はただただ圧倒されていた。
「・・・アザゼル先生はこの事を知っているんですか? 確か、みなさんは先生の助手のはずじゃ」
「アザゼル様からはクビを言い渡されたっす。・・・たぶん、尻ごみしていた自分達を後押ししてくれたんだと思うっす」
何やってんスか先生!?
(あと、こう言えば神崎様なら絶対に断らないともおっしゃっていたが、何だか点け込む様で申し訳無いな。明らかに神崎様の表情が変わってしまった)
「神崎様、突然こんな事を言われてお困りかと思いますが、どうかお返事をお願い致します。ですが、どのようなお答えだろうと、私達は今後も神崎様のお役に立てるのでしたら何でもさせて頂く所存です」
レイナーレさん達がジッと見つめて来る。・・・きっと、今日までずっとずっと考えた末にこうやって話をしてくれたんだろう。もう理由がとかそんな事は考えない。彼女達の思いに俺もちゃんと答えないといけない。
眷属か・・・。どう考えても、俺がリアスや支取さんの様な『王』になれるとは思えない。だけど、『王』は決して情けない姿を眷属に見せてはいけない。リアスだってそう言っていたし、いつも正しい『王』であろうとしている。果たして、俺にそんな覚悟が出来るかどうか・・・。
(・・・いや、出来るかどうかじゃない。やらないといけないんだよな)
そうでなければ、眷属を持つ資格なんてないだろう。もちろん、最初から上手くいくとは思わない。でも、少しずつでも前に進み続ける事が大切なはずだ。その大切さを、俺はあの戦いで学んだはずなのだから・・・!
「・・・俺は未熟です。これから先、レイナーレさん達を幻滅させる様な事を何度もやってしまうでしょう」
「「「・・・」」」
「ですが、そんな俺でも、誰かに支えてもらえれば一歩ずつ成長出来ると思います。いや、成長してみせます。レイナーレさん達に相応しい『王』になる為に」
「ッ・・・で、では・・・!」
「レイナーレさん、ミッテルトさん、カラワーナさん。こんな情けない俺ですが、どうか支えてくれないでしょうか。いつか、あなた達が眷属になった事を後悔しない様な『王』になる為に」
「「「・・・はい!」」」
迷い無く返事をするレイナーレさん達。この瞬間、俺は本当の眷属を得る事となった。三人に並んでもらい、改めて悪魔の駒を渡して行く。
「カラワーナさん」
「我が命、神崎様の御為に・・・」
「ミッテルトさん」
「絶対にお役に立ってみせるっす!」
「レイナーレさん」
「・・・この日を迎えられた事を感謝します。私の全て・・・神崎様に捧げます」
『兵士』の駒が三人の胸の中へ消えて行く。淡い光が生じた以外は特に変化は無い。これでいいんだよな?
「ふふ、これで私達も悪魔の仲間入りね」
「でもお姉様。悪魔の羽が出て来ないっすよ?」
あ、そっか。レイナーレさん達はオカンの駒の事知らないんだよな。まずは説明しないと。
というわけで、早速説明すると、三人は酷く驚いた様だった。まあ、悪魔に転生せずに眷属になれるなんて普通じゃありえないもんな。
そうやって説明している間にいい時間になったので、今日はひとまずお暇する事にした。レイナーレさん達もアザゼル先生に報告するらしい。
お邪魔した時とは正反対のとても朗らかな表情の三人に見送られ、俺と黒歌は彼女達の家を後にするのだった。
SIDE OUT
黒歌SIDE
レイナーレ達の家を後にした私達は、家までの僅かな道をゆっくりと歩いていた。
私の予想通り、レイナーレ達は眷属にして欲しいとご主人様へお願いした。結果、あの三人は見事眷属となる事が出来た。おめでとうレイナーレ。あなた達の勇気・・・私にも分けてね。
「そういえば、結局黒歌の用事は何だったんだ?」
私の決意を知らないご主人様はそう言って私の顔を覗き込む。ふう・・・よし、私も伝えよう。私の気持ちを。
「ねえご主人様。私も眷属になりたいって言ったら・・・驚くかな」
「・・・え?」
あらら、やっぱり呆けちゃった。そりゃ、ついさっき眷属にしてくれと言われてまた言われたらそうなっちゃうよね。
「私はずっと前から思ってたんだよ。犯罪者だった私を助けてくれて、正体を隠していた私を許してくれて、たくさんのものを私に与えてくれたご主人様。いつか、この人の眷属になりたいって。ずっと、ずっと・・・」
「黒歌・・・」
「私はもうご主人様の傍から離れる気は無いにゃ。えへへ、運が無かったねご主人様。黒歌さんは一度手に入れたものを手放すなんて事はしないのにゃ。だからね、私をご主人様の眷属にしてください。私は、ずっと、ずっとご主人様と一緒にいたいんです」
うにゃうにゃ・・・頬が熱くてしょうがないにゃ。眷属の話がいつの間にか告白みたいになってしまった。まだ早い。それに、家の子達にもチャンスをあげないとフェアじゃないしね。
「黒歌、俺は・・・」
いいよ、ご主人様。どんな答えでも、今の私なら受け入れられるはずだから。
そしてこの日―――私とご主人様の関係は一歩だけ進んだのだった。
黒歌SIDE OUT
???SIDE
「・・・何故でしょう。何か取り返しのつかない事をしでかしてしまった気がします」
というわけで、ようやく正式な眷属を得たオリ主でした。最初は明るいノリで書くつもりだったのに、いつの間にかシリアスもどきになってしまった・・・。
黒歌とレイナーレ達が何を思って今まで過ごしてきたか、それが少しでも伝われば嬉しいです。