ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百六話 見ている人はちゃんと見てくれてるんです

桐生SIDE

 

・・・え、もう始まってるの? あー、じゃあとりあえず自己紹介ね。どうも、桐生藍華です。・・・というかこのしゃべり方めんどくさいから止めていい? いいよね。ハイ終了。

 

私達が乗り込んだ新幹線が出発して十分くらい経ったかな。他の班の子達はそれぞれにお菓子やらなんやら取り出して楽しくおしゃべりしてる。そんでもってまあ、ウチの班も適当に持ちあって色々話でもしようかと思ったわけなんだけど・・・。

 

「「「・・・」」」

 

すみません。誰か後ろの席から圧のある視線を送って来る兵藤、ゼノヴィア、イリナをなんとかしてください。何故にウチの班だけこんな殺伐としてんのかね。

 

「俺さ、実は新幹線初めてなんだよ。だからちょっとワクワクしてたんだ」

 

アンタはこんな時でもお気楽だね松田。トリオのメンバーの様子がおかしいくらい気付きなよ。・・・あ、でも最近で言えば兵藤だけ評価が上がり始めてるんだよね。

 

っと、話が逸れかけてしまった。とりあえず、このままじゃこっちも落ち着かないし、あの三人を何とかしないと。はあ・・・こういう時班長は辛いわ。

 

「アンタ達、何でそんなになってるか知らないけど、せっかくの修学旅行なんだからもっと楽しい顔しなさいよ」

 

嗜める様に言うと、三人が顔を寄せ合って何やら話し合いを始めた。

 

「どうする?」

 

「桐生さんの言う通り、私達ちょっと片肘張り過ぎかもしれないね」

 

「確かに、この状態を四日間保つのは難しい。休める所は休んでおこう」

 

「だな。よし、とりあえずこの移動中はのんびりしよう。・・・ただし、警戒は怠らない様に」

 

「「了解」」

 

「いや、アンタらホントに何なの・・・?」

 

私のツッコミには何の反応もしなかったけど、とにかく三人の表情が幾分か和らいだ。・・・何で行く前からこんなに気を遣ってるんだろう私・・・。

 

「そうだ! 私もお菓子を持って来たんですよ!」

 

とそこへ、アーシアがニッコリしながらカバンを取り出した。やっぱりこの子はいいね。見てるだけで癒されるよ。

 

「あ、でも私の好きな物ばかりだからみなさんのお口に合うかどうかわかりませんけど」

 

「そんなのぜーんぜん問題無いよ!」

 

「そうそう! アーシアちゃんの好みは俺の好みだから!」

 

松田と元浜が席を乗り出してアーシアへ顔を近付ける。同時に背後からのプレッシャーが増した。あーもう、やっと落ち着いたと思ったらこれだよ。

 

「待ってくださいね。今出しますか―――」

 

「がう」

 

「ッ・・・!?」

 

カバンを開けると同時に目にも止まらぬ早さでカバンを閉じるアーシア。目をまん丸にして、なんだか汗まで流し始めている。

 

「どうしたのアーシアちゃん?」

 

「え、あ、そ、そのですね、ごめんなさい。私、うっかりして持って来るのを忘れちゃいました!」

 

後頭部に手を当てて「まいったなー」なポーズをするアーシア。それを見て松田と元浜が興奮する。

 

「うっかりアーシアちゃん萌えぇぇぇぇぇ!!」

 

「やれやれ、うっかりなら仕方ないな。なら代わりに俺のお菓子を分けてあげよう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ぎこちない笑顔で松田からチョコスティックをもらうアーシア。・・・うん、怪しい。さっきカバンを開けようとした時に聞こえた変な声も気になる。これは・・・ホテルに着いたら追求しないとね。

 

それからしばらく、松田と元浜のアホトークに付き合いながら時間を潰していると、前の席から女子の黄色い歓声が聞こえて来た。立ち上がって確認すると、木場君が通路を歩いてこちらに近づいて来ていた。

 

木場君はそのまま私の横も通り過ぎて、後ろに座る兵藤へ声をかけようとしていた。そんな彼に再び女子達が騒ぎ出す。

 

「ええ!? 木場君が兵藤の所へ・・・!?」

 

「何で彼がエロの領域へ・・・!?」

 

「やっぱり兵藤×木場君は鉄板なのね!」

 

そんな女子達の声など気にする様子も無く、木場君は兵藤の隣へ座った。私を含め、女子達の視線がそこへ集中した。あ、別に私は木場君の事は何とも思って無い。確かにカッコイイとは思うけど、私とは住む世界が違うというか、釣り合うわけないし。

 

私には二枚目よりも三枚目の方が相応しい。普段は間抜けだけと、決める時はキッチリ決めるヤツとか。

 

って、私の好みなんて今は関係無いか。今はあの二人のやり取りを観察しよう。

 

「よお、どうした木場?」

 

「駅での事が気になってね。・・・何かあったのかい?」

 

「お前は気にしなくていいさ。別クラスのお前にまで迷惑をかけたくないしな」

 

「イッセー君の悩みは僕の悩みだよ。だから話してくれないかな。僕で力になれるのなら何でも協力するよ」

 

「・・・いいんだな? 聞けば戻れなくなるぞ?」

 

「覚悟の上さ」

 

「わかった。ならしっかり聞いてくれよ」

 

(・・・アイツ、あんな顔もするんだ)

 

クラスでは見せた事の無い真剣な表情を浮かべる兵藤に、何だか胸がざわついた。それは他の女子達も同じみたいだった。

 

「ねえ、何の話かわかる?」

 

「ううん。・・・でも、今の兵藤ってちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど・・・カッコいいって思った」

 

「ええ、マジで言ってんのアンタ? 兵藤だよ? あの変態三人組の兵藤だよ?」

 

「でもでも、最近は少し大人しくなったって噂だよ。前に廊下で兵藤とぶつかった子がいてさ、その時の第一声が「悪い、余所見してた」だったんだって」

 

「あ、それ私も聞いた。その後、松田と元浜がその子がまだ近くにいるのに、「柔らかかったか?」とか「いい匂いしたか?」とか聞いたけど、兵藤は「怪我が無くてよかった」って言ったらしいよ」

 

「マジで!? 信じられないわ・・・」

 

「夏休みくらいからだよね。何かあったのかな?」

 

「ついに国家権力のお世話になったとか?」

 

「ヤ○ザの娘にセクハラして埋められそうになったとか?」

 

口々に憶測を並べ始める女子達。けど、やっぱり兵藤の評価はクラス内だけじゃなくて外にも広がってるみたいね。これは変態三人組が二人組になる日が来るかもしれないわね。

 

「でも、それはそれで面白くないわね」

 

「桐生さん。何かおっしゃいましたか?」

 

「ううん、何も。あ、そうだアーシア。この前テレビで簡単な恋占いのやり方をやってたんだけど・・・知りたい?」

 

「は、はい! ぜひ!」

 

というわけで、私はアーシアに恋占いの方法を教え始めるのだった。

 

桐生SIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

木場・・・やっぱりアイツは最高のダチだ。向こうに着いたら風呂で背中でも流してやろう。

 

先頭車両へ戻る木場を見送り、俺は周りを見渡した。ゼノヴィアとイリナはアーシア達と何やら話している。松田と元浜は・・・寝てやがるな。アイツ等が大人しくしてればまあ問題は無いだろう。俺も今の内にやる事をやっておこうか。

 

―――始めるか、相棒?

 

ああ、頼むよドライグ。また歴代の先輩達と話をさせてくれ。

 

俺の意識が徐々に暗い暗い底へ沈んでいく。それが突然真っ白になれば、そこは歴代の先輩達が集う例の白い空間だった。

 

以前までは、ここにはエルシャさんとベルザードさんだけしかいなかった。けど、あのロキとの戦いの後、ここには二人を加えて十人以上の先輩達が姿を見せてくれるようになっていた。全員、あの時俺が見せた“覚悟”を認めてくれた人達だ。

 

「ん? おお! また来たのかガキンチョ!」

 

顔に真横に傷を走らせた筋骨隆々な男性が俺に気付く。あの最終局面でミョルニルの重さに耐えられなかった俺に力を貸してくれた人だ。

 

「ちょっと! 俺の名前は兵藤一誠だって前も言ったじゃないッスか!」

 

「へ! お前なんざガキンチョで十分さ!」

 

「ぐぬぬぬ・・・!」

 

「ほらほら、せっかく来てくれたのにその言い方はないでしょ」

 

奥の方へ座っていたエルシャさん綺麗な微笑を見せながら俺の傍へやって来た。

 

「イッセー。彼の言う事はあまり気にしないでいいわ。口ではああ言ってるけど、あなたの事はちゃんと認めてるんだから。だからこそここにいるし、あの時だってあなたに力を貸してくれたんだから」

 

「・・・けっ!」

 

顔をそっぽに向けたまま男性は向こうの方へ行ってしまった。・・・ツンデレとか言ったらブッ飛ばされそうだから止めとこう。

 

「イッセー。次にあなたが来たら話をしようと思ってたの」

 

「話ですか?」

 

「ええ。とりあえず座ってちょうだい」

 

言われるままに席に着くと、他の先輩達も一斉に席に着いた。全員の視線が俺に注がれ、否応なく緊張してしまう。

 

「な、なんですか? 俺、なんかやらかしちゃいました?」

 

「いいえ。その逆よ。おめでとう。あなたは前回の戦いで“第一段階”を突破したわ」

 

拍手するエルシャさんに合わせて、他の先輩達も「おめでとう」と言いながら手を叩く。第一段階? それって覇龍への第一段階って事か?

 

「私達が覇龍を封じる“枷”だという事はドライグから聞いてるでしょ?」

 

「は、はい。それが全て外れる・・・つまり先輩達全員に認められた時、俺は覇龍を使える様になるって」

 

「そもそも、あなたは覇龍というものがどんなものかわかってる?」

 

「・・・すんません。具体的には何も」

 

「謝らなくていいわ。そうね・・・。ならまずは覇龍の正体について教えてあげましょうか」

 

覇龍の正体・・・。ずっと気になっていた謎がとうとう明かされる時が来たか。

 

「覇龍というのはね、『赤龍帝の籠手』を持つ者の求めを純粋に叶える力なの。システムと言ってもいいかしら。「全てを破壊する力が欲しい」、「光を越える速さを得たい」、「究極の魔術の理が知りたい」・・・求めるものは何でも構わない。あなたがロキとの戦いで彼から与えられたあの力は、彼が覇龍に至った時に発現させた力を模したものよ。彼はかつてあの『赤き覇の超剛拳』で大陸を一つ消し飛ばした事があるわ」

 

んなっ!? た、大陸一つ消し飛ばしたですと!? なんつーヤバいもんを貸してくれたんですか!

 

「彼は邪魔するものを粉砕する力を求めた。その結果が『赤き覇の超剛拳』よ。あなたが覇龍へ至った時、同じ力を求めれば、システムはあなたにその力を与えてくれる。そこに制限や常識は存在しない。それこそが覇龍・・・あなただけの可能性の力よ」

 

俺だけの力・・・。お、おお、なんかテンション上がって来たぞ! まさに“僕が考えた最強の赤龍帝”じゃないですか!

 

「覇龍についてはこれくらいかしら。さらに詳しい話はまた機会があればしてあげる。それで話を戻すけど、あなたはこれだけの歴代所有者達を認めさせた。それによって第一段階・・・あなたの可能性の“根源”を解放するわ」

 

「根源ですか?」

 

「あなたの可能性は全てこの“根源”が元になる。どんな力を求める事になっても、そのきっかけは“根源”になるの」

 

「よく・・・わかりません」

 

「ちょっと難しい言い方をしてしまったかしら。つまり、あなたはなぜ力を求めるのか・・・その理由が“根源”になるのよ」

 

俺が力を求める理由・・・。そんなの答えは一つしかなかった。

 

「理解出来た様ね」

 

「これで合ってるかわかんないですけど」

 

「今はそれでいいわ。最初から全てを理解されたら私達の立場がないもの。だけど、これだけは覚えておいて。その“根源”が純粋であればあるほど、あなたの覇龍はその力を増していく。そう・・・もしかしたら、あの伝説の騎士に並ぶほどのものにね」

 

「伝説・・・。ッ!? そ、それってまさか神崎先輩!? いやいやいやいや! 無理無理無理無理!」

 

「情けねえぞガキンチョ! 男なら挑む前から諦めるんじゃねえ!」

 

「やかましい! アンタ等はあのディオドラ戦のブチ切れ先輩を見て無いからそんな事言えるんだよ! 文句があるならあの状態の先輩の前に立ってから言いやがれぇ!」

 

流石に我慢出来なかったので俺は席を立ちながら叫んでやった。それから、何故か他の人を巻き込んでのくだらない言い争いを繰り広げる事になってしまった。

 

「・・・」

 

その中で、相変わらず無言のベルザードさんが俺達を煽るようにテーブルをバンバン叩いていた。・・・ひょっとして気に入ったんだろうか。あの人、子どもっぽい所があるんだよな。

 

最後にそんな感想を抱きながら、俺の意識は神器の中から離れるのだった。

 

目を開けると、そこは新幹線の中だった。景色以外、潜る前と特に変わった所は無い。

 

なあドライグ、“根源”は? 解放されたらしいけど特別変化は無い様な気がするけど。

 

―――さあな。目に見えるものではないと思うぞ。

 

なんだよその含みのある言い方は。お前なら詳しいはずだろ。

 

―――ああ。だが教えない。俺はお前がどんな覇龍を発現させるか今から期待している。その為にも、余計な口出しはしない事にした。

 

へいへい、お心遣いに感謝させて頂きますよ。

 

その時、もう少しで京都へ到着するというアナウンスが流れた。それから少しして新幹線がゆっくりと停止し、俺達はついに京都の地へと立った。

 

「ここが京都か・・・」

 

「はいはい。まずは集合場所のホテルへ向かうわよ。急がないと午後の自由時間が減っちゃうわよ」

 

桐生の言う通りだ。とりあえずまずはホテルへ向かおう。そう決めて動こうとした俺達の前でちょっとした騒ぎが起こっていた。

 

「おらぁ! 大人しくしやがれ!」

 

そこでは、男性が別の男性にキャメルクラッチをかけていた。技をかけられている方の男性が必死でホームの床を叩いている。

 

「俺の前で痴漢なんてふざけた真似しやがって! 駅員へ突き出す前に俺が教育してやる!」

 

「うわあ・・・。完璧に決まってるなアレ」

 

元浜がぼそりと感想を漏らす。確かに、素人目から見ても滅茶苦茶綺麗に決まっている。見た目はヒョロっとしてて頼りなさ気な感じだけど、人は見かけによらないもんだな。

 

「お、おい! どうした田中! お前そんなアグレッシブなキャラじゃなかっただろ!」

 

「俺にもわからん! だが、こいつに痴漢されている女性の涙を見たら我慢出来なかった! 今なら素手で岩でも砕けそうだぜ!」

 

熱血漢だな田中さん。ああいう人がもっと増えれば痴漢も無くなるんだろうな。

 

「なんだかあの人、イッセーさんみたいですね」

 

「え?」

 

「あ、わかるかも。イッセー君って昔から泣いてる人とか見るのが嫌いだったよね」

 

「誰かの為に怒る所もお前とそっくりじゃないかな」

 

「な、なんだよそれ・・・」

 

「おんやぁ? 照れてるの兵藤?」

 

「う、うっせえぞ桐生! ほら、荷物持ってやるからさっさとホテル行くぞ!」

 

「あ・・・」

 

乱暴に会話を切り上げ、自分のと桐生の荷物を持ち大股で歩き始める俺の後ろを、他のみんなも駆け足で追いかけて来るのだった。

 

「・・・兵藤の癖に不意打ちなんて生意気な」




密かにイケメン度を上げて行くイッセー=サン。たぶん、この章で化けます。

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