ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
アーシアSIDE
「はふ・・・」
夜、私はお部屋で今日起こった事を頭の中で整理していた。・・・まさか、こんな所で『禍の団』の名前を聞くなんて。
私の心に恐怖、そしてそれを上回る怒りが込み上げて来た。あんなに幼い子のお母様を攫うなんて絶対に許せない。もしもリョーマさんがここにいれば、きっと同じ事を言うはずだ。
「リョーマさん・・・」
家族に身を案じる九重ちゃんを見ていて、私の頭に浮かんだのはリョーマさんや黒歌さんの顔だった。今の私にとって、家族と呼べるのはあの人達だけだから。そんな人達がある日いきなりいなくなってしまう。・・・考えただけで心が押し潰されそうになる。
『アーシア・アルジェント』
ッ・・・! オ、オ・クァーン様!? ど、どうされました!?
突然、オ・クァーン様の声が聞こえて来た私は、ベッドの上で慌てて姿勢を正した。そんな私に、オ・クァーン様はあの慈愛に溢れる暖かいお声をかけてくださった。
『あなたの悲しみの感情が強まったのを感じたので様子を知ろうと思いまして。それで、何かあったのですか? 私でよければ力になりましょう』
そ、そんな、私の事でオ・クァーン様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんし・・・。
『構いません。むしろ、あなたはもっと他人へ迷惑をかけてもいいのですよ』
あうう、私なんかが畏れ多いです。で、でも、オ・クァーン様がわざわざこうしてお声をかけてくださったのだから、断ったら逆に失礼なのかな。
・・・そ、それでは、聞いて頂けますか、オ・クァーン様?
『ええ、聞かせてください』
意を決し、私はオ・クァーン様へ現在京都で起こっている事について説明を始めるのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
『そうですか。『禍の団』が。・・・やれやれ、まだ懲りてへんみたいやな』
え?
『いえ、こちらの話です。そういう事であれば、いざという時にはすぐに力を貸せるように私も気に留めておきましょう』
あ、ありがとうございます! とっても心強いです!
心からの感謝の気持ちをお伝えしようと祈りを捧げる私に、オ・クァーン様は最後にこうおっしゃった。
『では、そろそろ私は消えましょう。どうやらここへ誰かが訪ねて来るようです。アーシア・アルジェント。助けが必要な時はいつでも私を呼びなさい。いつでもどこでも、私はあなたの味方です』
それっきりオ・クァーン様のお声は聞こえなくなった。異世界の神様にそんな風におっしゃって頂いて、本当に私は幸せ者です。・・・でも、どうして私なんかにここまで御心を砕いて下さるのだろう。
少し考えて、私はこの疑問が意味の無いものだと理解した。神は全ての存在へ平等に愛を注いでくださる。だから私にもそうしてくださっているだけなんだろう。きっと、他にもオ・クァーン様に救われた方はいっぱいいらっしゃるはずだ。
「じゃないと、私みたいに、神器さえなければ特別でも無いどこにでもいる様な女の子を気にかけてくださるわけないもんね」
「がう?」
ベッドの近くで観葉植物の葉っぱをペシペシしていたスコルちゃんが私の言葉に首を傾げる。・・・そういえば、この子が私について来た理由って実際はどうなんだろう。
「スコルちゃん。あなたともお話出来たらいいのにね」
「がう」
と、スコルちゃんとの一方的な会話をしていたと思った次の瞬間、スコルちゃんは何かに気付いたかのようにペシペシを中断し、お部屋の入口へ駆けていった。
「どうしたのスコルちゃん?」
「がうがう!」
「ただいま~! って危な!? 踏んじゃう所だったじゃないスコル~~」
そこへ扉が開き、桐生さんが戻って来た。さっきお部屋を出て行ってから十分くらい経っただろうか。
「お帰りなさい、桐生さん。どちらへ行かれてたんですか?」
「ふふん、まずは見てもらった方が早いね。さ、どうぞ」
「お、お邪魔します」
「ッ!?」
私はビックリして目を丸くした。桐生さんに続いてお部屋に入って来たのは、間違い無く山田先生その人だった。
「が~うがう!」
そして、そんな山田先生を見て、スコルちゃんはとっても嬉しそうに尻尾を振っているのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「・・・なるほど、それは大変でしたね」
お部屋に入るなりスコルちゃんを見て驚く山田先生に椅子に座って頂いて、私は事情を説明した。当のスコルちゃんは、山田先生の膝に乗って幸せそうに丸まっていた。
「あれ、でもどうして神崎君の飼っている犬をアーシアさんが連れて来てるんですか?」
「そ、それは、その・・・」
ど、どうしよう。一緒のお家に住んでいる事は秘密だって言われてるから言えない。
「まあまあ、そんな事どうでもいいっしょ。大方オカルト部で交代でお世話してるとかそういう事なんじゃないの?」
答えに詰まる私に何かを察したのか、桐生さんが助け船を出してくださった。正直、嘘を吐くのは心苦しいけれど、ばれたらリョーマさんと一緒に暮らせなくなるかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。だから、ごめんなさい山田先生。
「・・・にしても、見事なまでに懐かれちゃってるね真耶ちゃん先生」
すっかり大人しくなったスコルちゃんを見て、桐生さんが面白そうに目を細めた。私はリョーマさんがお聞きして既に知っていたから別に驚きはしなかった。
「でも、相性がいいなら話は早いね。ねえ真耶ちゃん先生。ちょっと私達に協力して欲しいんですけどぉ」
「な、何ですか?」
「いや、そんな怯えないでくださいよ。別に難しい話じゃないですよ。修学旅行は残り半分。その間、他の先生や生徒達にスコルの事がばれない様に協力して欲しいんですよ。真耶ちゃん先生だって、こんな可愛い子犬のイタズラに本気で怒れないでしょ?」
「それは・・・まあ、そうですけど・・・」
「はい言質取った! これでもう真耶ちゃん先生も共犯だね。やったねアーシア、味方が増えたよ」
「は、はい・・・」
い、いいのかな? なんだか山田先生涙目になっちゃってますけど。あ、スコルちゃんが手を舐めたら顔がふにゃっちゃった。先生も犬が好きなのかな。
「とりあえず、真耶ちゃん先生は明日ホテル待機組でしょ? んでもって一人部屋」
「え、ええ。でも、どうしてあなたがそれを知って・・・」
「私の情報網を甘く見ないでください。で、私達は明日嵐山方面の観光をするつもりなんですけど、その間真耶ちゃん先生にスコルを預かってて欲しいんですよ。そうすれば、私達も安心して観光が出来るし、真耶ちゃん先生もスコルと思う存分戯れられる。ギブアンドテイクですよ」
な、何だか話がどんどん進んで行っちゃってる。けど、桐生さんは私の為に交渉してくださってるんだし、はうう、何も言えないです。
「・・・わ、わかりました。あなた達の言う通りにします」
山田先生が諦めた様に首を縦に振った。こうして、スコルちゃんを山田先生に預かって頂く事が決定したのだったけれど、話はそれで終わらなかった。
山田先生がお部屋を出ようとしたら、スコルちゃんが先生のロングスカートを咥えて離さなくなってしまったのだ。どうも、山田先生がいなくなる事が嫌みたい。
流石にこれ以上はいけないと思ってスコルちゃんを注意しようとしたら、山田先生が意外な事をおっしゃった。
「あ、あの、よければ今からでもお預かりしましょうか? そうすればあなた達も明日すぐに出かけられるでしょうし」
という事で、何も持って来られなかった山田先生に代わって、スコルちゃんを鞄に入れて私達はお部屋を出た。念のため、桐生さんもガードの為について来てくださった。
そうして、山田先生のお部屋に到着したところで、私はスコルちゃんを先生にお渡しした。
「本当にこれでよかったんでしょうか?」
自室へ戻る途中で私はついそんな風に漏らしてしまった。すると、桐生さんはまるで気にしてない様に手を振りながら答えた。
「大丈夫大丈夫。私が山田先生を選んだのはね、他の先生よりも話をわかってくれるってのもあるけど、それ以上にあの人が・・・」
「あ・・・!」
「どうしたの?」
「山田先生のスコルちゃんの睡眠時間についてお話するのを忘れてました」
「・・・ああ、声をかけないと起きないってヤツね。確かに、知らないと死んでるんじゃないかと勘違いするかも」
「私、もう一度先生のお部屋に行って来ます」
「それなら私も行くよ。・・・ひょっとしたら面白いものが見れるかもしれないし」
面白いもの? ・・・って、いけない。まずは先生のお部屋に行かないと。私は若干の駆け足で先生のお部屋へ戻った。そして、先生のお部屋まで後数メートルの所まで来た時・・・。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ッ!? い、今のは山田先生の悲鳴!? まさか、スコルちゃんが何かご迷惑を!?
「せ、先生! 大丈夫で―――」
「はうぅぅぅぅぅ! 可愛いよぉ! 可愛すぎるよぉ!」
ノックもせず部屋に飛び込んだ私が目にしたもの。それはベッドに横たわってスコルちゃんへ頬ずりしている山田先生の姿だった。先程私達のお部屋でスコルちゃんに手を舐められた時以上に顔が凄い事になっていた。
「いい顔してるね真耶ちゃん先生。写真取れば学校のファン連中に高く売れそうだけど、それだとスコルの事もばれちゃうし、我慢するか」
「あ、あの、桐生さん。山田先生どうしたんですか?」
「ああ、やっぱりアーシアは知らなかったのね。ならさっきの続きだけど、私が真耶ちゃん先生を味方にしようとした理由のもう一つがアレ。あの人、大の犬好きなんだよ。よく観察すればわかるけど、身の回りの物とかにも犬の意匠の物が多いし。ま、私としては犬より牛の方が似合ってると思うけど」
「う、牛ですか?」
「うん。ほら、いかにもホルスタインって感じでしょ? ウチの学校で一番大きいんじゃない?」
「えへへー。今日は大浴場は止めてお部屋のお風呂に一緒に入りましょうか。寝る時も一緒に寝ましょうねー」
「がうがう!」
「よーし! それじゃあ早速お風呂の準備・・・を・・・」
スコルちゃんを一撫でして、ベッドから起き上がった山田先生が私達に気付く。その瞬間、先生の表情が一気に凍りついた。どこからかピシリなんて音が聞こえて来そうだ。
「あ、あの、山田先生・・・」
「・・・いつから見てました?」
「はうぅぅぅぅぅ! 可愛いよぉ! 可愛すぎるよぉ! からですけど?」
桐生さん!? 私でもここは誤魔化すのが正解だってすぐにわかりましたよ!? なのにそんな正直に答えたら・・・!
「そう・・・ですか・・・」
桐生さんの真似を見た山田先生はフラフラと窓際まで歩いて行き、窓を開けた。そして、窓枠に手と足をかけて・・・え、ちょ、ちょっと待ってください!?
「ステイステイステイステイ! 何やってんの真耶ちゃん先生!?」
私と桐生さんは慌てて山田先生にしがみついた。
「離してください! 私は今からあのどこまでも広がる空へ飛び立ちます! そう・・・無限の成層圏まで!」
「飛び立つどころかあの世にまっさかさまですから! ていうか無限の成層圏って何!? そもそも成層圏って無限なの!?」
「と、とにかく落ち着いてください山田先生!」
「これが落ち着いていられますか! よりにもよって生徒のあなた達に見られるなんて、これじゃ教師としての威厳が・・・!」
「だ、大丈夫! 真耶ちゃん先生には元々威厳とか無いから!」
「桐生さん!」
「あ、やば・・・!」
「うぇぇぇぇぇぇぇん! やっぱり、やっぱりみんなそう思ってたんですね! 神崎君の嘘つきぃ! やっぱりそのままの私じゃ駄目じゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
おそらく、こんなに力一杯誰かを引っ張るなんて、後にも先にも今回だけだと思う。ともかく、私達はなんとか山田先生を窓際から引きはがす事に成功した。
その後、山田先生が教師としてどれだけ立派な人かを、私は誠心誠意伝えた。そのおかげかどうかはわからないけれど、先生はなんとか落ち着いてくれた。
「はあ・・・なんかどっと疲れたわね」
お部屋に戻ると、桐生さんが憔悴しきった様にベッドに倒れ込んだ。私も同じ様にベッドに倒れ込むと、そのまま眠ってしまったのだった。
山田先生は犬派。はっきりわかんだね。