ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百十三話 違えた道 取り返しのつかない道

アザゼルSIDE

 

俺と曹操は桂川の下流へ移動しながらやりあっていた。既に辺りは互いの攻撃の余波やらなんやらでボロボロだ。

 

「・・・なんだ、この魔力の波動は・・・?」

 

そんな中、ふと曹操が目線を上流へ移す。その隙に攻撃してやってもよかったが、光と闇の相反するオーラの放出に、俺もついそちらへ目を向けてしまった。こんなマネが出来るヤツはウチの中で一人しかいねえ。

 

「くくく、木場の野郎。あんなモン隠してやがったのか・・・」

 

「聖魔剣の木場祐斗・・・。彼にあれほどの力は無かったはずだが」

 

「はん、どうもお前等はアイツ等の事を過小評価している節があるな。若いヤツってのは少し目を離した間に驚くくらい成長するもんだぜ」

 

「なるほど、確かにあなたの言う通りだ。だが、一つだけ訂正させてもらえるならば、俺達は決して彼等を過小評価しているつもりは無いよ。赤龍帝、聖魔剣、デュランダル使い、さらにはあのミカエルのエース、それにあれは・・・北欧の戦乙女かな? あれほどの戦力を相手に侮れる余裕が人間である俺達にあるわけないだろう」

 

そういう割には、戦力が少なすぎる。あの魔帝剣使いと『魔獣創造』のガキ以外はこれといって目立つ戦力は見られない。俺がコイツの立場ならば、もう二、三人は使えるヤツを用意するはずだ。

 

「今回はあくまでも顔見せと手合わせのつもりだった。だからあの二人だけで十分だと思ったのだが・・・」

 

「イッセー達の力が予想以上だったってか?」

 

俺の指摘に、曹操はあっさり頷いた。

 

「そう・・・それだけが俺の予想を越えていた。対悪魔用のアンチモンスターは悪魔の苦手な光を出せる。対天使、対堕天使のモンスターほどではないが、自身にも多少の光への耐性は持っていた。それを呆気無く消し飛ばしたゼノヴィアの“力”。本気で無いとはいえ、あのジークに剣を届かせた木場祐斗の“速さ”。未だ聖女殿と姫君へ手を伸ばさせていない紫藤イリナの“防御力”。それを支え、誰をどの順番で迎え撃つか瞬時に判断し、的確に対処する戦乙女の“空間認識能力”。能力で押し通るだけではなく、衣服さえ利用し、相手によって戦い方を変える赤龍帝の“柔軟性”。そして、全員に共通する悲壮感さえ感じさせるあの研ぎ澄まされた表情から見える“決意”・・・。それが彼等を突き動かしている様に俺は見える。それが俺には気になってしょうがない。なんとなくだが、その“決意”の所為で、こちらの計算が狂ってしまったのだと思うんだ」

 

・・・なるほど、中々にいい読みをしやがる。正解だぜ曹操。アイツ等・・・いや、俺も含めて全員、下手すりゃこの京都まるごとの命運がかかってるんだよ。

 

「その表情・・・知ってるなら教えて頂きたいですな総督殿」

 

「わかっちゃいねえ。お前等はわかっちゃいねえんだよ曹操。ここで何も知らないまま楽にしてやった方がお前等の為だ。慈悲をかけるのはミカエルの専売特許だが、今回だけは俺がその役目を負ってやるよ」

 

無知ってのは罪であり幸福でもある。コイツ等の“罪”はフューリーという男を知らな過ぎた事。そして“幸福”は既にどうあがいてもフューリーの排除対象という運命から逃れられない事に気付いていない事。

 

「慈悲か・・・。そうやって超常の存在は俺達人間をいつだって見下す。「自分達がいなければ」「自分達が導いてやらなければ」なんて具合にな。まるで支配者だ。・・・俺達はそんな驕りや高ぶりが許せないんだよ」

 

「・・・それがお前等の戦う理由か?」

 

「そうさ。だから俺達はあなた達に挑戦するのさ。“人間”として、悪魔やその他の超常の存在を倒す。それが“英雄”だ。そして、英雄になるのはいつだって“人間”だ。俺達は英雄を自称しているんじゃない。いずれそう呼ばれる様になるのだから、今から名乗っても別に問題無いだろう?」

 

「けっ、カッコつけやがって。素直に白状しろよ。「自分達はただ中二病をこじらせた痛いだけの集団です」ってな」

 

今の会話で確信したぜ。こいつらは英雄の本当の意味を全くわかっちゃいねえ。・・・つーか、それを抜きにしてもやっぱりコイツ等はムカつく。こいつらの言動を見ていると、封印したかつての忌まわしい記憶がががが・・・・。

 

「世界中の神器所有者を誘拐、洗脳。幼い子を持つ母親を拉致。その他諸々合わせて、とても英雄がやる様な真似じゃねえぜ」

 

「それが俺の覇道さ。よわっちい人間が超常の存在に挑む為には手段など選んでいられない。英雄に敗北は許されない。負ければただの人間だ。俺はこの道を極め、そしていつの日か彼の・・・フューリーの王道を越えてみせる」

 

覇道・・・。覇道ねぇ・・・。確かにそう言えば聞こえはいいが・・・。

 

「く、くくく・・・。なるほど、コイツはとんだ勘違い野郎だぜ・・・」

 

「勘違い? 俺が何を勘違いしていると?」

 

「聞きてえか? なら教えてやるよ。お前のそれは覇道なんて立派なもんじゃねえ。ただの“外道”だ。フューリーの王道を越えるだと? 越えるどころか、お前はアイツと同じ土俵にすら立ててねえんだよ!」

 

「ッ・・・!?」

 

「よわっちいから人間だから手段を選ばない? はっ! 同じ人間のアイツはいつだって真正面からぶつかってたぜ! かつての二天龍との戦いでも、以前のレーティングゲームでも、アイツはアイツのままだった。大切な者を奪われようが、それでもヤツは外道に手を染めなかった」

 

「それは・・・彼ほどの力があればこそ出来た事だ」

 

「そうだな。というか、アイツみたいなのが増えてたまるか。だが曹操、俺が言いたいのはそういう事じゃねえ。お前はヤツみたいに全力なのか? 全身全霊で、命をかけて、それでも無理だったから外道に手を染めたのか? 違うだろ? お前はただその方が楽だと思ったからそっちを選んだんだ。お前は最初から逃げてたんだよ。その時点でお前は覇道から逸れて外道の道を爆進してたってわけさ」

 

「・・・」

 

「それと、お前はさっき英雄に敗北は許されないとか言ったな。その理論で言えば、フューリーも英雄の資格は無いって事になるぜ?」

 

「え・・・?」

 

「俺も全てを知っているわけじゃねえが、アイツはかつて何度も敗北を味わって来たらしいぜ。特に“重力の魔神”とかいう存在には何度も絶望を与えられたとか言っていた」

 

あれは・・・確か合宿の時だったな。リアス達への必殺技のプランを話し合っていた時に、ヤツから聞かされたんだ。

 

「だが・・・それでもヤツは諦めなかった。何度も味方の部隊を失いながら、それでも挑み続け、そして最終的に“重力の魔神”を打ち倒した。何度負けようが、どんなに無様だろうが、決して希望を失わずに立ち上がり続ける。・・・英雄に求められるのは勝利だけじゃねえ。その姿で、その心で、周りに希望を与える。それも英雄に求められるファクターの一つだぜ。・・・ま、今のお前じゃ一生かかっても無理だろうがな」

 

・・・ったく、何テロリスト相手に英雄論を語ってんだろうな俺。だが・・・こういう話は嫌いじゃねえんだよな。

 

「“重力の魔神”・・・。何故だ。そんな存在が何故現代に伝えられていないのだ」

 

そりゃそうだ。この世界の話じゃねえんだからよ。まあ、それもサーゼクスとその息子の“企画”で世に明るみになるんだろうがな。ったく、グレモリーってのは本当に商魂が逞しくて嫌になるぜ。下手すりゃマジで新興勢力が出て来そうだが、そうなっても堕天使は手助けしてやらんからな。

 

「お前は英雄の器じゃねえよ曹操。自分の力を試したいんだったら、ハンターにでも何にでもなればよかったんだ」

 

「・・・それでも俺は英雄にならなければならない。英雄の子孫、そしてこの聖槍を持って生まれた俺に、それ以外の道なんて無いんだ」

 

「はっ! そうやってまた逃げるのか? お前の御先祖様が見たら泣くぜ? 自分の子孫がこんなにもヘタレ野郎だって知ったらな。生まれはどうする事も出来ねえ。だがな、そこからどう生きて行くのかなんていくらでも修正が出来る」

 

「アンタは何も知らないからそう言えるんだ・・・!」

 

おっと、ようやく素のテメエを見せ始めたな。あの作り物の表情よりよっぽどマシだぜ。

 

「お前がどうやって生きて来たかなんざ知ったこっちゃねえよ。俺はお前の家族でも友人でもねえ、ただの敵なんだからよ。同情する義理なんざはなっから存在してない。俺にとってお前はテロリストで、妖怪との協力体制の第一歩を邪魔してくれたムカつくヤツってだけだ」

 

神器を持って生まれた人間が必ずしも幸せになれるとは限らない。むしろその力の所為で迫害されたりする事の方が多い。その点に関して言えば確かに同情する部分はある。だがこいつは・・・こいつを含めた英雄派の神器所有者達は、その力をよりにもよってテロに使っている。自分を傷付けた者達への復讐のつもりかもしれないが、それがまた別の誰かを不幸にするとわかっていないのだ。

 

「ヒーローごっこがしてえなら、誰にも迷惑かけずにやるんだな」

 

「総督殿。・・・どうやら俺は、あなたの事が嫌いらしい」

 

「奇遇だな。俺もだよ」

 

互いに口元を歪ませ、俺達は再びぶつかり合うのだった。

 

アザゼルSIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

枷を外した木場とジークフリートの戦いは、さっきとは打って変って終始木場が圧倒していた。ジークフリートは魔帝剣グラムに加え、北欧の伝説の魔剣と呼ばれるバルムンクの二刀流で木場を攻めるが、そんな伝説の剣も、当たらなければ木剣と変わらない。

 

木場が動く度に、周囲で幾度となく爆発が起こり、地面が抉れていく。それがうまい具合に牽制となり、他の英雄派の連中を援護に入らせなくしていた。・・・こいつ、今の俺達の中で一番強いんじゃね?

 

―――どうやら“壁”を乗り越えたみたいだな。相棒も取り残されない様に頑張れよ。

 

わかってるよ。俺だってもっと強くならないといけないんだからな。

 

「ただ放出するだけで無く、極一部へと集中させる。・・・そうか、私に足りなかったのはこれだったのか・・・!」

 

ゼノヴィアが一人頷いている。何か掴んだのだろうか。

 

「いいかげん本気になったらどうだい? このままじゃ『禁手』もせずに敗北する事になるよ?」

 

・・・流石に言葉までは速くなるわけねえか。つーかジークフリートのヤツ、これでも本気を出してねえって・・・大物ぶってるつもりか?

 

「ずいぶんと急いでいるじゃないか木場祐斗。まあ、“それ”を見れば理由はわかるけどね」

 

“それ”? 首を傾げる俺の傍で爆発が起こる。その際、俺の頬に生温かい何かが付着した。それは真っ赤な液体・・・即ち血液だった。

 

「これ・・・まさか木場の!?」

 

見れば、地面の所どころが赤く染まっている。あの超スピードの代償なのか!?

 

「さっきから少しずつスピードが落ちている。だから見えるよ木場祐斗。キミのその速さは体の負担を度外視した事で得たもの・・・。既にボロボロのその足でいつまで戦えるのかな?」

 

ッ! こいつ、まさか木場が限界を迎えるまで待つ気か!?

 

「テメエ! 卑怯だぞ!」

 

「卑怯? これも作戦だよ赤龍帝」

 

それでも納得いかない俺を止めたのは、木場だった。超高速移動を止め、俺の隣に立った木場の足はやっぱりボロボロになっていた。

 

「いいんだイッセー君。ジークフリートの言う通り、相手の限界を待つのも立派な作戦さ。だけどね・・・僕が何も考え無しに枷を外したと思うかい?」

 

「え?」

 

「祐斗さん!」

 

その瞬間、木場の体を光が包み込んだ。これ・・・アーシアの癒しの光!?

 

木場の足の出血が、光が治まると共に止まっていた。とっさに背後へ振り返ると、そこには両手を突き出しているアーシアの姿があった。

 

「ありがとう、アーシアさん。最高のタイミングだよ」

 

「木場、お前ひょっとして」

 

「ジークフリートと戦う前にアーシアさんにお願いしておいたんだ。僕が戦いを始めたら、いつでも癒しの波動を飛ばせるように準備しておいて欲しいってね」

 

この野郎、ちゃっかりそんな根回しを・・・!

 

「どうだい、ジークフリート? キミの言う限界までまだまだ先は長そうだよ?」

 

ジークフリートの表情が苦虫を噛み潰したようなものへ変わった。

 

「・・・なるほど。僕とした事が聖女の存在をすっかり忘れていたよ。やはり回復手段を持たれると厄介だな」

 

「では私達が・・・!」

 

何人もの英雄派のメンバーがアーシア達の方へ駆けだしていく。俺とゼノヴィアが迎撃しようと前に割り込もうとしたその瞬間、地面から火柱が立ち上った。

 

「な、何だこの炎は!?」

 

「見ろ! 他にも魔法陣が! これは・・・北欧魔術!?」

 

慌てふためく英雄派達の前方にロスヴァイセさんが立ちはだかった。

 

「それ以上近づくのであれば、他の魔法も見せてあげますよ。氷漬けがいいですか? 風に切り刻まれるのがいいですか? それとも地割れに飲み込まれたいですか? いいですよ、お好きなものを味わわせてあげましょう。ええ、私、久しぶりにこれでもかとドタマに来てますから。なんだったら全部まとめてお見舞いしてあげましょうか?」

 

た、大変です! ロスヴァイセさんがインフェルノってます! 美女がキレてるのってやっぱり怖えわ!

 

ロスヴァイセさんの一睨みで英雄派の連中がたじろいだ。そして、俺とゼノヴィアはすかさずロスヴァイセさんの横に並び、改めて迎撃態勢を整えようとしたその時、下流の方へ行っていたアザゼル先生と曹操が戻って来た。二人とも纏っている物が所々壊れたり破けたりしているけど、これといって怪我は見られない。

 

「お前等無事だな?」

 

「先生こそ、大丈夫なんですか?」

 

「ふん、この俺があんなヘタレに負けるわけがねえだろ」

 

「年寄りのやせ我慢は良く無いですよ総督殿?」

 

「ああん!?」

 

な、何だ? ヘタレとか年寄りとか、何があったんだ?

 

「いくぞお前等! あの中二病集団をぶちのめして、とっとと八坂姫を救出するぞ!」

 

「もうあなたの時代じゃない。それを俺達が思い知らせてあげますよ!」

 

なんか知らんが、アザゼル先生と曹操がヒートアップしてる!? それに引っ張られる様に俺達も構えようとした次の瞬間、俺達と英雄派の間に見た事の無い紋様の魔法陣が出現し、そこからこれまた見た事の無い女の子が姿を現した。

 

「あれれ、ひょっとして今から始めるつもりでした?」

 

向かい合う俺達を見てそんな事を言う女の子。いやいや! というかキミ誰よ!?

 

「キミは・・・確かヴァーリの所の子だったな。何の用だい? 俺達は派閥同士干渉はしないという取り決めだったはずだが?」

 

「ルフェイ・ペンドラゴンです。そっちから決まりを破っておいてよく言いますね。監視者の事、バレないとでも思ってましたか?」

 

「キミ達のチームは『禍の団』でも異質だからね。テロに参加せず、それどころか邪魔をする事も何度かあった。挙句の果てに独断でのフューリーや赤龍帝達への接触。これで監視するなという方がおかしいとは思わないかい?」

 

「思いません。私達は私達の思うままに行動する。それを邪魔するものは誰であろうと許さない。・・・ヴァーリ姉様の言葉です。だから、余計な事をしてくれたあなた達にはお仕置きですよ」

 

展開についていけない俺を激しい震動が襲った。ええい! 今度は何じゃい!?

 

「ルフェイ・ペンドラゴン。・・・ルフェイといえば伝説の魔女、モーガン・ルフェイを思い浮かべるが、それに倣ったのか? ついでにペンドラゴンと言えばアーサー・・・ひょっとしてあの野郎の血縁か何かか?」

 

「冷静に分析してないでちょっとは慌ててくださいよアザゼル先生!」

 

なんて言ってる間に地面が盛り上がり始めたぁ! んでもってそこから何か出て来たぁ! 人型の物体ですけど、なんすかこれはぁ!?

 

「これは・・・間違いねえ、ゴグマゴグか!」

 

そして、やっぱり知ってるんですかアザゼル先生! ひゃっほう! 流石我等が総督様だぜぇ!

 

・・・はっ! 俺とした事がついテンションが上がり過ぎておかしくなってしまった。ともかく、あの巨人が何なのか教えてもらわないと。

 

「先生! あれは何ですか!?」

 

「ありゃゴグマゴグつってな。お前が知ってるもんで例えたらゴーレムみたいなヤツだ。だが、アレは全て次元の狭間に放置されていたはずだが・・・」

 

「はい。その通りです。以前、オーフィス様がまだ動きそうな巨人の反応を感知されて、それを聞いたヴァーリ姉様がいいトレーニング相手になりそうだって回収に出られたんです。あれは確か・・・フューリー様がレーティングゲームをされた時でした」

 

「なるほど。その次元の狭間のすぐ傍だったからこそ、あの場に現れたってわけか」

 

「どちらかというと、フューリー様の勝負の方が気になってたみたいですよ。このゴッくんを発見した後は美猴様達に任せてご自分はあのフィールドに行かれたみたいですし」

 

な、なるほど、あの場にいきなりヴァーリちゃんが現れた時は不思議だったけど、まさかそんな事情があったとは。

 

「曹操・・・」

 

「ああ、やり合う気分じゃなくなってしまったな。そろそろ戻るとしよう」

 

ッ! しまった! あの野郎逃げる気か!?

 

曹操達の周りを霧が覆い始める。あれは、俺達をこのフィールドへ転移させた霧か!? じゃあ、曹操の隣に立つあのローブ姿で手元に霧を発生させている野郎が霧使いか!?

 

「曹操!」

 

「総督殿! 俺達は今夜、二条城において実験を執り行わせてもらう! 止めたければ来るがいい! 精一杯のもてなしをさせてもらおう!」

 

たちこめる霧はさらにその濃さを増し、最早完全に視界が霧に包まれてしまった。そこへ、アザゼル先生の声が響く。

 

「通常空間に戻るぞ! お前等すぐに武装解除しろ!」

 

その言葉通り、いつの間にか俺達は観光客の溢れる渡月橋の前に立っていた。・・・英雄派の姿は無い。あのルフェイって子とゴーレムもいなくなっていた。

 

その後、桐生達と合流し、俺達は二条城を観光してホテルへと戻るのだった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

曹操SIDE

 

「さすが、若手悪魔でも有名なリアス・グレモリーの眷属達だったね。思わず“アレ”を使いそうになってしまったよ」

 

「・・・そうか」

 

ジークの言葉を聞き流しつつ、俺はあの堕天使から投げつけられた言葉をずっと反芻していた。

 

―――お前のそれは覇道なんて立派なもんじゃねえ。ただの“外道”だ。

 

―――越えるどころか、お前はアイツと同じ土俵にすら立ててねえんだよ!

 

―――全身全霊で、命をかけて、それでも無理だったから外道に手を染めたのか? 違うだろ? お前はただその方が楽だと思ったからそっちを選んだんだ。

 

―――お前は最初から逃げてたんだよ。

 

超常の存在らしく、偉そうに戯言をのたまってくれた。あんなもの聞く価値すらなかった。途中で切り上げてさっさと戦闘を再開すればよかった。・・・なのに、何故俺は最後までそれに耳を傾け、あまつさえここまでいらついている・・・?

 

(何も知らないヤツへの苛立ち? いや違う・・・。この苛立ちは俺自身へのものなのか・・・?)

 

自分の感情が何に向けられているのかわからない。それが俺を余計苛立たせた。・・・わからないといえばあれもそうだ・・・。

 

―――アイツはかつて何度も敗北を味わって来たらしいぜ。

 

俺の知識の中に、“重力の魔神”などというものは存在しない。あの伝説の騎士を倒した者の記録が残されていないはずないのだが、これまで俺が調べて来たデータや資料には全く登場していない。

 

何故戦えたのか。何故諦めなかったのか。何故・・・立ち上がる事を止めなかったのか。そもそも、人間であるはずの彼がどうしてあれほどまでの力を持つに至ったのか。その力で何を成して来たのか。俺は何も知らない。知らないからこそ・・・興味が湧いてしょうがない。

 

「・・・神崎君、俺はキミの事が知りたい」

 

「何か言ったかい曹操?」

 

「いや・・・今日の夜の事を考えていただけさ」

 

「ふふ、僕も待ちきれないよ。きっと素敵な夜になるだろうさ」

 

そうだ、今は俺の疑問など二の次だ。まずは今日の夜の事だけを考えておこう。

 

俺は頭を振り、英雄派の拠点へと戻るのだった。

 

曹操SIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

早いもので、アーシアが修学旅行へ出発して三日目となった。明日には我等が天使様がお戻りになる。

 

初日の夜にスコルが鞄に紛れ込んでいたという連絡が来た時は驚いたが、それ以降は特に連絡は無い。まあ、緊急の用事以外で連絡する事なんて特に無いし、今頃は班のみんなと楽しく観光しているんだろう。渡月橋とか二条城とか行ったのかな? 何気に俺のお気に入りだったりするんだよな。

 

さて、そんな風に一年前の事を思い出している俺はというと、冥界のグレモリー家にお邪魔していたりする。しかもちゃっかりお昼ご飯まで頂いてます。

 

「すみません。お昼までご馳走になってしまって」

 

つい謝ってしまう俺に、リアスのお父さんは笑顔で答えた。

 

「何を言う。私達の間で遠慮は無用だぞ神崎君。以前にも言ったが、自分の家だと思ってもっとリラックスしてくれたまえ」

 

そりゃ無理です。こんな立派過ぎるお家が自分の家とかありえないですから。

 

そんな感じで昼食を済ませた後、俺はミリキャス君とグレイフィアさんに連れられて彼の部屋へ向かう事になった。さて、いよいよミリキャス君の見せたかった物とご対面だ。

 

「これは・・・!?」

 

部屋へ通された俺が見た物。それは、山の様に積まれた大量の本だった。というか一冊一冊がめっちゃ分厚い所為で天井に届きそうになってるんですけど!

 

「え、えっと、その・・・」

 

それに目を奪われていると、ミリキャス君が挙動不審になっていた。顔が強張ってかなり緊張している様に見える。そんな彼の背中を、グレイフィアさんが優しく押した。

 

「頑張ってミリキャス。この日の為にあなたは頑張って来たのでしょう?」

 

「お、お母様・・・。はい、そうですね。僕はこれが僕の使命だと思ってこれまで頑張って来たんです!」

 

そう言うと、ミリキャス君はその本の中から一冊抜くと、それを俺に手渡して来た。

 

「この本は・・・?」

 

「神崎様。以前あなたはミリキャスへあなたの世界での戦いを話されたそうですね?」

 

俺の世界の戦いって言うと・・・ああ! ひょっとしてアルファシリーズの事か? うん、確かに調子に乗って語りまくった憶えがあるわ。

 

「それを聞いたミリキャスが、その全てを本に纏めたのです。『鋼の救世主』・・・それがその本のタイトルです」

 

全てって・・・え!? まさかアルファからサルファまで!? ここにある本が全部アルファシリーズのストーリーを文章化したものって事!?

 

「あ、あの! 僕、フューリー様からお話を聞いて、もの凄く感動して、これは僕だけじゃなくてもっと多くの人々に伝えなきゃいけないって思って・・・!」

 

おうふ・・・マジか。というか、そんなに気に入ってくれたのかミリキャス君。ゲームの話だよ? それをこんなたくさんの本にしちゃうなんて・・・純粋に凄すぎるだろ!

 

「本日お越しいただいたのは、この本を出版させるか否か、神崎様に判断して頂きかったからです。これが世に出れば、あなたが異世界よりやって来た事が明るみになります。もしもそれが不都合というのであれば、もちろん出版は取りやめさせて頂きます。・・・ですが、母親として、息子が心血を注いで書き上げた物が日の目を見ずに消えるのは・・・」

 

「別に構いませんよ」

 

「「え?」」

 

即答する俺に、二人はしばし呆気にとられた顔を見せた。もうこの人達含めて何人にもバレてるのに、今さら隠しても意味無いし。何より、グレイフィアさんが言う通り、これほどまでに頑張って書ききったミリキャス君の頑張りを無駄になんか出来ないし。てか、そもそもフィクション物で何で俺が異世界から来た事がバレるわけ? それ以前に俺登場しないよね?

 

「どうぞ出版してください。俺は別に困りませんし、何よりミリキャス君の書いたあの戦いがどうなっているのか俺も読んでみたいですし」

 

そう言うと、パアっと表情を明るくさせるミリキャス君とグレイフィアさん。・・・なんか、反応がそっくり過ぎて面白いな。

 

「ほ、ホントですか!? 本当にいいんですか!?」

 

「ああ」

 

「お、お母様! ぼ、僕・・・!」

 

「ええ、わかっています。旦那様と奥様に教えてあげなさい」

 

「はい! で、ではフューリー様! 失礼します!」

 

勢い良く部屋を飛び出していくミリキャス君を見送り、部屋の中は俺とグレイフィアさんだけになった。

 

「神崎様、本当にありがとうございます。あの子のあんな嬉しそうな顔は初めて見ました」

 

「いえ、別にお礼を言われるほどの事では・・・」

 

(この本が世に出れば、神崎様は益々注目を浴びる事になる。神崎様をよく思っていない一部の悪魔達も本腰をあげて来るかもしれない。・・・いえ、この方の事です。きっとそれすらも踏まえて許可を出してくださったのでしょう。この本を世の人々にも知ってもらいたいというミリキャスの“夢”を守る為に・・・)

 

「グレイフィアさん?」

 

「ふふ、この流れでリアスお嬢様の“夢”も叶えてくだされば、義姉としては嬉しいのですけど」

 

リアスの夢っていうと・・・グレモリー家の立派な当主になるってヤツだよな? それは俺がどうこうじゃなくてリアス本人の努力が求められるんじゃ・・・。

 

その後、何故かお父さんとお母さんにまで感謝され、『鋼の救世主』の第一巻を土産に、俺は人間界へと戻るのだった。

 

そしてその夜、俺は自室で早速それを読む事にした。

 

―――この物語を『鋼の救世主』、そして彼らと共に戦い続けた『騎士様』へ捧げます。

 

そんな一文と共に物語は始まった。この騎士様って、ひょっとしなくても俺の事だよな? はは、なんだかこれだと俺も登場人物の一員になった気がするな。

 

そんな感想を抱きつつ、俺は本文へと目を移した。

 

物語は、総司令官である“俺”という人物の視点で描かれていた。まあ、プレイヤー視点と言った方がわかりやすいか。

 

でもって、一話目のタイトルが『鋼鉄のコクピット』で数行目でクスハが出て来た。そういや、ニルファに繋げやすいからって理由でクスハ主人公で話をした様な。何人も主人公出て来たらミリキャス君も混乱してただろうしね。

 

そのまましばらく読み進めていたが・・・うん、これ面白いわ。俺が説明してない所をミリキャス君の感性で違和感無く表現してるし、何よりロボット同士の戦いの描写が無茶苦茶上手い。意外な才能・・・と言ったらミリキャス君に失礼かな。

 

けど、一つだけ気になった事がある。この“俺”という人物、どうもフィクションではなく、実際にあった戦いの様な語り方をしている。これもミリキャス君の文章力が優れているからだろうが、これ勘違いする人が出るんじゃないだろうか。

 

「・・・なんて、こんな荒唐無稽な話を信じるわけないか」

 

うん、俺の考え過ぎだな。俺は余計な考えは放り投げ、久しぶりにアルファの世界を堪能するのだった。




すでに戦力的にも精神的にも劣勢な英雄派。ここにスコル放り込んだら・・・。

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