ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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今回はまるまるイッセーSIDEの話となります。


第十二話 人間辞められませんでした

イッセーSIDE

 

 あの堕天使達の戦いから数日が過ぎた。いや、まあ、実際には気合い入れて行ったらほとんど終わってたんですけどね…。

 

 この日の放課後、俺はオカルト部の部室にいた。俺だけじゃない。木場は相変わらずのムカつくイケメンフェイスで俺の隣に座ってるし、小猫ちゃんは静かに読書している。そんでもって朱乃さんはニコニコ顔でこれから来るお客さんの為にお茶を準備していた。

 

 で、部長はというと、自らそのお客さんを迎えに行っている。そのお客さんっていうのは、他の誰でも無い、神崎先輩とアーシアだ。

 

 何でアーシアが駒王学園にいるのかって? それは部長の計らいのおかげだ。教会にいられなくなった彼女を、この学園に迎え入れてくれたのだ。実質的に学園を支配している部長にかかれば、女の子一人転入させる事くらいわけないってさ。

 

 そんなわけで、俺と同い年のアーシアは、クラスも俺と一緒になった。可愛い彼女はあっという間にクラスに馴染んだけれど、その中であいつら…松田と元浜が当然の如くアーシアに迫った。予想してた俺は全力で二人からアーシアを守った。彼女をあの変態共の毒牙にかけさせるわけにはいかないからな! …お前もその一人だろうって? うるせえ! 今は俺の事はいいんだよ!

 

 それに、俺は結果のわかってる勝負に挑むほど愚かじゃない。アーシアの口からはしきりに神崎先輩の話題が出て来る。そんなの聞かされてたら嫌でもわかるっての。

 

 そんな事を考えていると、複数の足音が部室の方へ近づいて来るのが聞こえた。そしてそれは入り口でピタリと止み、直後、扉が開いて部長が入って来た。

 

「さあ、どうぞ入ってちょうだい」

 

「失礼する」

 

「し、失礼します!」

 

 部長に続いて、神崎先輩とアーシアが部室へ入って来た。アーシアは緊張している様子だったが、先輩はしきりに周りをキョロキョロしている。あれだ、初めて俺がここに来た時と同じだ。魔法陣とか、リアルで見るの初めてなんだろうな…。

 

「適当に座って。今、朱乃がお茶を淹れるから」

 

 二人がソファーに座った。部長のアイコンタクトで朱乃さんが優雅な手つきでお茶を淹れる。二つのカップがそれぞれ先輩とアーシアの前に置かれた。

 

「ありがとう」

 

「い、頂きます」

 

 先輩達がお茶を飲む。そして、少しだけ間を空けて、いよいよ部長が本題へと入った。

 

「神崎君。大体の話はアーシアから聞いたわ。けれど、私はどうしてもあなた本人から直接聞きたい事があるの」

 

「…俺に答えられる事なら」

 

 すげえな神崎先輩。部長の前であんなに堂々としてられるなんて。俺だったら、部長に正面から見詰められたらついその大きなお胸様に目が…っとと、流石に今はエロは自重しないとな!

 

「ありがとう。それなら聞くわ。あの日…どうしてあなたは教会にいたの?」

 

 神崎先輩は人間。それは間違い無いって部長は言ってた。けど、それならどうして、普通の人である先輩が堕天使達の根城にいたのか? 教会の関係者かと疑ったが、それは先輩自身が否定した。

 

『俺をあんなヤツらと一緒にするな!!』

 

 …初めて見た。先輩があんなに感情を露わにする所を。正直、ちょっと…いや、かなり怖かった。部長の疑念は、先輩の触れてはいけないものに触れてしまったらしい。

 

 木場は冷や汗を流し、小猫ちゃんは怯えた様子だった。朱乃さんもいつもの表情を崩してた。部長がすぐに謝るといつもの先輩に戻ったけど、あの時の事は当分忘れられそうに無いな。

 

「そうだな…何から話したらいいか」

 

 俺は回想を止め、先輩の話に集中した。果たして、どんな内容が語られるのか。怖くもあり、楽しみでもあった。

 

「数日前、俺は偶然アルジェントさんと出会い、友人になった」

 

 あっ! アーシアが俺の事をこの街で出来た二人目のお友達って言った意味がわかった! そうか、先輩もアーシアと…。よかったな、アーシア。先輩って凄くいい人だからな。

 

「あの日、俺はアルジェントさんを訪ねてあの教会へ赴いた。そして…俺はそこで一人の神父に襲われた」

 

 ッ!? それってまさか“アイツ”か!? 思わず立ち上がった俺を、みんなが一斉に注目する。

 

「どうしたの、イッセー?」

 

「あ、あの先輩! もしかしてその神父って、若くって白髪で、言動が滅茶苦茶なヤツじゃなかったでした!?」

 

「ああ、確かそんな感じの男だったな」

 

「やっぱり!」

 

 あの野郎…フリード・セルゼン! やっぱりあの場にいやがったのか! アーシアを殴ったアイツを俺は絶対に許さない。いつか、絶対にぶん殴ってやる!

 

「よく無事でしたね、先輩」

 

 木場もびっくりしたのか、いつものイケメンフェイスを驚きで満たしている。いや、でも確かに木場の言う通りだ。フリードはヤバい。そんなアイツに襲われて無事だったなんて。

 

「まあ、流石にいきなり剣を振り回されたのは驚いたがな。それを壊したらあっさりどこかへ行ってしまったよ」

 

 …あれ、俺の聞き間違いかな? そうじゃなかったら、先輩、今とんでもない事言いましたよね?

 

「こ、壊した!? エクソシストの持つあの剣をですか!?」

 

 今度こそ木場が狼狽した。木場だけじゃない。アーシアを除く俺達全員が同じ反応をした。フリード達エクソシストが持つ光の剣は、光が苦手な俺達悪魔にとって最悪の物だ。もちろん、悪魔だけじゃない。人間だってあの剣で斬られたらあっけ無く死んでしまう。それをぶっ壊したって…。

 

「ど、どうやって!?」

 

「少し握ったら簡単に壊れたぞ。神父にも言ったが、あの程度の玩具、その気になれば誰でも壊せるだろ?」

 

 いやいやいやいや! 無理ですから! 死んじゃいますから! 先輩、あなたほんとに人間ですか!? 止めてください。その玩具に苦戦した俺の立場が無いッス…。

 

「話を続けていいかな?」

 

 圧倒されてばかりの俺達は、ただただ頷くしかなかった。あの部長ですら、先輩の滅茶苦茶な話に顔を引き攣らせている。まあ、そんなお顔も美しいんですけどね!

 

「去り際、あの神父から、アルジェントさんは地下にいると聞かされてな。嫌な胸騒ぎがしたので向かってみれば…そこには大勢の人間とレイナーレさん達。そして…十字架に張り付けにされたアルジェントさんの姿があった」

 

 ビクリと体を振るわせるアーシア。きっとあの時の事を思い出して怖くなったんだろうな。そんな彼女の頭を優しく撫でる先輩。凄く紳士です。はあ、ああいうさりげない部分が女子にモテる秘訣なんだろうなぁ。現に、アーシアは震えを止めた代わりに、その可愛らしい頬を薄紅色に染めている。

 

「その光景を見た瞬間、全てを理解した。俺は怒りのままに連中を叩き潰し、アルジェントさんを救出した。その直後だ、兵藤君達があの場に現れたのは…」

 

 この人は何回俺達を驚かせれば気が済むのだろう。あの大勢のエクソシスト達にたった一人で立ち向かうなんて。ただ友達を助ける…その為だけに。

 

「怖く…なかったんですか?」

 

 小猫ちゃんが尋ねる。それに対し、先輩はどこまでも真っ直ぐな瞳で答えた。

 

「恐怖は無かった。俺はただ彼女を…アルジェントさんを助けたかった。その為なら、例えあんな連中が何人立ちはだかろうとも、全て打ち倒すのみだ」

 

 …カッコいい。純粋にそう思った。すげえよ、先輩。正にヒーローじゃん。クールだとばかり思ってたけど、本当はこんなにも熱い心を持ってる人だったんだな。ちくしょう…俺は女の子が大好きなはずなのに、不覚にもドキッとしちまった。

 

 見ると、部長達の顔が赤い。そりゃ、自分の事じゃ無いとはいえ、ここまでストレートな事言われたら気恥ずかしくもなるよな。

 

 ただ、今の先輩の言葉で、アーシアの目がえらい事になってた。なんか、キラキラって擬音が聞こえて来そうだ。…グッバイ、俺の初恋。

 

「以上が、俺があの場にいた理由だ。納得してもらったか?」

 

「え、ええ。よくわかったわ」

 

 部長、何で先輩から目を逸らすんですか? …はっ、ま、まさか、今ので何かしらのフラグが!? そんな…そんなはず無い! 俺は認めないぞぉ!

 

「こ、コホン。なら次の質問よ。神崎君、レイナーレ達とどこで知り合ったの?」

 

 あ、それ、俺も気になってました部長。土下座してまで助けたあの三人と先輩の関係って何なんだ?

 

「彼女達との出会いは公園だった。俺が買ったシュークリームに興味を持ったミッテルトさんが俺の前で立ち止まったのが始まりだ」

 

 そこから語られた話に、俺はまたしても耳を疑った。つーか、あいつら、見ず知らずの他人のお菓子に集るって何やってんだよ…。

 

 あの堕天使達、先輩に自分達の計画を話したらしい。もちろん、少しぼかした感じでだ。これには部長が驚いていた。人間を軽視する傾向にある堕天使が、全てじゃ無いにしろ、先輩に対して計画を話した事が信じられないとの事だ。

 

「そういえば、彼女達はどうなったんだ?」

 

「約束通り、しかるべき場所に引き渡したわ。…そうそう、伝言も預かってるわよ。「どんなに無様でも、どんなに惨めでも、罪を償って、必ず約束を果たしに行きます」ですって」

 

「そうか…」

 

 先輩はそれ以上何も言わなかった。けれど、その顔がどこか嬉しそうに見えたのは、きっと気のせいじゃないと思う。

 

「さ、これで私の質問は終わりよ。あなたから何か質問はあるかしら?」

 

「ならば、反対に、どうしてキミ達があの場に現れたのか、教えてくれないか?」

 

「当然の疑問ね。ええ、話してあげる。そうね…みんな」

 

 部長の合図で、木場達が一斉に悪魔の翼を出現させた。そういう事かと俺も慌ててそれに続く。

 

「その前に私達の正体を教えてあげないとね。神崎君…私達はね、『悪魔』なの」

 

「…え?」

 

 部長のカミングアウトに、先輩はどこか呆けた表情で反応した。今の先輩の顔を撮ったら、女子にいくらで売れるかな…。

 

 そんな下世話な事を考えている間にも、部長は先輩に色々説明していた。俺達『悪魔』、それと敵対する『堕天使』、そしてその二つを纏めて滅ぼそうとする『天使』。それぞれが大昔からずっと争い続けている現状の基本的な説明から、人間だった俺が『悪魔の駒』と呼ばれるものによって『悪魔』になった事。そうなってしまった理由である『神器』について。とにかく様々な事を先輩へ伝えていった。

 

「だいたいこんな所かしらね。どう? 突然の事で戸惑ったかもしれないけど、納得してくれた?」

 

「ああ。…だが、一つだけ腑に落ちない事がある」

 

「何かしら?」

 

「何故その三つの種族は争っている? 昔は一緒に戦っていたんじゃないのか?」

 

「ッ…!?」

 

 何気ない先輩のその一言に愕然とした表情の部長。俺も説明を受けたけど、確かに先輩の言う通り、三陣営の争いはある存在の介入によって一度終結した。それがなんなのかはまだ話してもらってないけれど。

 

 答えない部長の代わりに、木場が先輩の問いに答えた。

 

「先輩のおっしゃる通りです。ですが、どうしてあなたがその事実を・・・?」

 

 先輩は何も言わない。代わりにどこか納得したような感じだった。

 

「…神崎君。あなた、“フューリー”という単語を聞いた事は?」

 

「いや…初めて聞くな」

 

「…そう」

 

 俺も初めて聞く単語だった。後で部長に教えてもらおう。

 

「なら、他に何か聞きたい事は?」

 

「いや、特には」

 

「ならいいわ。所で神崎君…あなた、『悪魔』になってみる気は無い?」

 

「部長!?」

 

 突然の部長の言葉に、目を丸くする俺達。

 

「俺が『悪魔』に?」

 

「あなただけじゃないわ。アーシア…あなたも」

 

「ふえっ!? わ、私もですか!?」

 

「ええ。あなたの持つ神器はとても魅力的なの。それを狙ってまたよからぬ事を考える輩があなたの元へ現れるかもしれない。けど、あなたが私の眷属になれば、そういった連中からあなたを守ってあげられるわ」

 

 そう言って、今度は先輩に顔を向ける部長。

 

「神崎君は…いえ、回りくどい事は言わないわ。私は、あなたが欲しい」

 

 なんというストレートなお誘い! 部長、それって、先輩の戦闘力が魅力的だからって意味ですよね!? 決して男女の感情によるお誘いじゃないですよね!?

 

「…どうする、アルジェントさん? 俺としては、またあの教会の連中のようなのが現れるかもしれないと考えると、グレモリーさんに守ってもらった方がいいと思うんだが」

 

「わ、私は…信仰を捨てる事になるかもしれませんが、命の恩人であるリョーマさんがなるのなら、一緒に…」

 

「そうか…。なら、グレモリーさん。まず俺を『悪魔』にしてくれ」

 

「嬉しいわ、神崎君。なら、あなたには『騎士』の駒を授けるわ」

 

 『騎士』か…なんか先輩にピッタリだな。駒を先輩の胸に当てながら詠唱を開始する部長。やがて、その詠唱が終わると同時に『騎士』の駒は先輩の胸に吸い込まれて行き…直後、勢いよく飛び出して来た。

 

「成功したのか?」

 

 首を傾げる先輩の前で、部長が普段の優雅さの欠片も無く取り乱していた。

 

「こ、駒を受け付けない!? いえ、むしろ駒が自ら出て来たの!? どういう事!? こんなの前代未聞だわ!」

 

 部長にも予想外の事だったらしい。ただ一つだけ言えるのは、先輩は『悪魔』にはなれなかったという結果だけだ。

 

 結局、先輩がならないのならと、アーシアも『悪魔』になる事を拒否。けど、『悪魔』にならなくったって、友達であるアーシアを傷付けようとするヤツは俺がブッ飛ばしてやるさ! それに、先輩もアーシアの事を気にかけてくれるって言ってくれたしな。

 

 そんな感じで、この日は解散となった。ただ、先輩とアーシアが帰った後も、部長が落ち込んだままだったのがやけに印象的だった。

 

 …本気でショックだったんですね、部長。微妙な雰囲気の漂う部室内で、俺達はそんな部長を労わるような目で見つめるのだった。




こんなにもオリ主と周りで意識の差があるとは思わなかった・・・! これじゃ俺・・・オリ主に真実を教えたくなくなっちまうよ・・・。すみません、言ってみたかっただけです。

というわけで、オリ主は悪魔になれませんでした。てか、なってたら”彼女”の出番が無くなってしまうじゃないですか。やだー。

ちなみに、オリ主はこの後、家に帰ると自室へ直行し、ベッドの上で盛大に悶えます。フューリーの名が今にまで伝えられている理由を「真面目な戦いの中で痛いセリフを叫びまくった恥ずかしいヤツ」として語り継がれていると勘違いして。

今回で一巻部分が終了しました。これまでいかがでしたでしょうか? ちゃんとみなさんに楽しんで頂ける作品が書けたでしょうか? 色々初めての試みな作品なので、いつもびくびくしてます。

さて、次回からは焼き鳥さんとのお話となります。果たして騎士と不死鳥の戦いは実現するのか・・・。そして、そこにまともな理由は存在するのか!? それは作者の腕次第!

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