ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百十七話 彼はあと二つの枷を残しています

祐斗SIDE

 

「やあ木場祐斗! 僕はずっと待っていたよ。こうしてまたキミと戦えるこの瞬間をね!」

 

僕の相手となるジークフリートが熱の籠った声を投げかけて来る。まるで、長い間待ち焦がれていた恋人にようやく出会えたかの様に、その顔は歓喜に染まっていた。

 

「まさか、この僕が悪魔に心を奪われる日が来ようとはね。さすが、悪魔は人を惑わすのが上手だよ。こうやって話す間も惜しい。早くキミと斬り結びたいよ」

 

「その狂気じみた戦闘欲・・・さすがあのフリードと同じ機関の出身なだけある。その白髪が何よりの証拠だ」

 

「おっと、また懐かしい名前を出してくれたな。彼にも英雄派に入って欲しかったんだが、いつの間にか居なくなってしまってね。居場所を知らないかい木場祐斗?」

 

「さあね。あんな狂人の行方なんて興味無いよ」

 

「それは残念」

 

会話を続けながらも、互いに闘気を漲らせていく。さて・・・無駄話はこれくらいにして、そろそろ始めようか。

 

僕が聖魔剣を創り出すと同時に、ジークフリートも腰から二本の剣を抜く。前回と同じくグラムとバルムンクで来るつもりか。

 

数秒見つめ合い、僕達は誰に合図されたわけでもなく、同時に相手に向かって駆けた。僕の振り上げた剣とジークフリートの振り降ろした剣が激突と共に甲高い音を鳴らす。

 

「木場祐斗。今のキミじゃ物足りないよ。早く枷を外してくれないか!」

 

ジークフリートの力が増していき、僕の剣が圧されていく。・・・初撃はあえて正面からぶつかってみたが、やはり力勝負は向こうに分があるか。なら・・・やっぱり速さで攻めるしかない。

 

僕はジークフリートの力を利用して自ら後方へ飛び、空中で一回転しながら着地した。追撃のチャンスだったにも関わらず、ジークフリートはその場から動こうとしなかった。

 

完全に僕の事を侮っているその様子に、僕は怒りよりも先に疑問が湧いた。人格はともかく、剣士としてのジークフリートの実力は素直に称賛出来る。そんな彼ならわかっているはずだ。枷を外した僕が・・・彼の実力を完全に上回っていると。

 

決して彼を軽んじているわけでもないし、自分の実力を過信するなどもっての外だ。ただ冷静に、あらゆる可能性を考慮した上で、僕は彼に負ける未来を描けなかった。

 

「余裕ぶるのは結構だが、やり過ぎると滑稽なだけだよ」

 

彼が何を考えているのかはわからないが、油断してくれるのならありがたい。さっさと倒して、仲間達の援護に向かおう。

 

「リミットブレイカー」

 

鍵となる短剣を胸に刺し、僕は第一段階の枷を外した。同時に、聖と魔のオーラが僕の足を包む。一日で二回の解放・・・師匠にバレたら大目玉をくらうだろうな。

 

「遊びに付き合っている暇は無い。仲間達が待っているんでね」

 

地面をしっかりと踏みしめ、僕はジークフリートへ突貫した。案の定、ジークフリートは僕の攻撃を受けるだけで精一杯の様子だった。

 

「とったぞ!」

 

背後への高速移動から聖魔剣を一閃させる。防御どころか振り向く事さえ出来ず、無防備に背中をさらすジークフリートはこれで倒れるはずだった。

 

「・・・甘いよ」

 

「ッ・・・!?」

 

しかし、ジークフリートが捉えられていなかったはずの僕の剣は、彼の背中から突如として出現した三本目の腕が握る剣によって受け止められた。衝撃的な光景に一瞬体を硬直させてしまったが、すぐさま僕はジークフリートから距離をとった。

 

「・・・それがあなたの神器か?」

 

「驚いたかい? そうさ、これが僕の神器だよ。『龍の手』っていうありふれた神器の一つなんだけど、御覧の通り、僕のこれは普通の『龍の手』とは違ってね。籠手じゃなくて龍の腕そのものが生えてきちゃったのさ」

 

ジークフリートの変化はそれだけにとどまらなかった。膨れ上がるプレッシャーが形を成すかのように、背中へ二本目、三本目、四本目の腕が現れる。元々の腕が二本。背中の腕が四本。合計にして六つの腕が、それぞれに持つ剣を僕へと向けて来た。見る者が見ればおぞましさに震えるであろうその異様な姿は、さながら阿修羅とでも表現するべきか。

 

「そして、これが僕の禁手さ。名前は『阿修羅と魔龍の宴』。いい名前だろう? 腕の数だけ力が倍加するシンプルな能力だけど、僕にはこれで十分なんだ。ついでに紹介すると、背中の腕が持つ剣は一番右から順にノートゥング、ディルヴィング、ダインスレイブ、そして、教会の戦士の時だった頃の名残である対悪魔用の光の剣だ」

 

「それがあなたの余裕の正体か」

 

「それは誤解だよ木場祐斗。僕は余裕をかましているつもりは一切無い。ただ、キミとの殺し合いが楽しくて楽しくてしょうがないんだよ!」

 

「戦闘狂め・・・! やはりお前は英雄などでは無い! 殺しに快楽を覚えた時点でお前はただの殺戮者だ!」

 

「知らないのかい? 一人殺せば殺人者だが、千人殺せば英雄なんだよ。木場祐斗、キミを斬れば、僕はまた英雄に一歩近づける。キミの次はキミの仲間達だ。聖女様も・・・捕まえる前に腕の一本でも斬り落とせば大人しくなるだろうしね」

 

その言葉に、僕の心は自分でも驚くくらい急速に冷えていった。

 

「・・・やれるものならやってみるがいい。だが、断言してやる。アーシアさんに手を出そうとしたその瞬間、お前は“大いなる怒り”によって魂すらも両断され、消滅するだろう」

 

イッセー君ではないが、僕も今になって連中が自殺志願者に見えて来てしょうがない。前回のレーティングゲームの後、三陣営のトップによる話し合いで、アーシアさんを最上級の要人に指定したという話を聞いた。邪気に塗れた手を伸ばせば、それは即ち真の“フューリー”を降臨させてしまう。それがアーシア・アルジェントという少女なのだ。

 

なのに、何故この連中はここまで愚かなのだろう。アーシアさんという存在の意味、その重要性、そして・・・その危険性がどうしてわからないんだ。

 

ひょっとして、あのゲームを観ていないのか? ・・・いや、データだ資料だと口にする連中が、アレを観ていないわけがない。まさか、自称英雄である自分達の行動は常に正しい・・・などというお花畑な思考にとりつかれているわけじゃないだろうな。だとしたらもう笑う事すら出来ない。

 

「一つ聞きたい。お前達はあの人に・・・神崎先輩に勝てると思っているのか?」

 

「曹操はそのつもりみたいだよ。対抗策もいくつか考えているみたいだしね。どれほどの強さを誇ろうが、人間である事からは逃れられない・・・彼はそう言っていたよ」

 

「人間だからこその弱点がある・・・そう言いたいのか?」

 

「さあね。それは曹操から直接聞けばいい。最も、彼が教えてくれるとも思わないけどね」

 

「いや、それだけ聞ければ十分だ」

 

言葉と同時に不意打ちを仕掛けるが、ジークフリートの背中の腕が反応して僕を止める。今の感じ・・・僕の動きを読んでいたのか?

 

「ひゅう! 悪魔お得意の騙し討ちかい? だけど残念。僕の目は少しずつキミの速さに慣れて来ている。このまま時間をかければ、いずれ完璧に捉えられるだろう。キミの奥の手はそこでお終いってわけさ」

 

この短時間で僕の速さに追いつくつもりか。・・・やはり、剣士としての実力は本物だ。・・・だがジークフリート。一つ忘れていないかい? 僕の枷は・・・まだ完全に解かれていない事を。

 

「・・・リミットデストラクション」

 

第二の枷を“破壊”するべく、僕は左手に厚い刃を持つ剣を出現させ、それを自身の胸へ突き立てた。その刃は第一の枷を越え、第二の枷を貫く。瞬間、足を包むオーラがさらに増幅し、背中からも聖と魔のオーラが一気に噴出する。

 

「ぐ、うぅぅぅぅぅぅ・・・!」

 

急激に溢れ出す力に翻弄されながらも、僕はそれを必死に制御し続けた。その結果、背中から噴き出ていたオーラは白と黒の巨大な翼へとその形を整えていた。

 

「その翼は・・・!?」

 

目を見開くジークの問いに答えず、僕はチラリと戦っている仲間達の方へ目を向けた。

 

「わざわざイッセー君達から距離をとっておいて正解だったよ。ここから先の世界では・・・僕自身何を斬っているか視認出来ないからね」

 

ジークフリートが何か言おうとした刹那、一陣の烈風と共に、彼の右腕が宙を舞った。―――そうして初めて、僕が今斬ったのは彼の右腕なのだと理解出来た。

 

「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

流石に脇腹と違って痛みを我慢出来ないのかな。鮮血を迸らせながら絶叫するジークフリートの姿に、僕は前回と今の彼を比較してそう思うのだった。

 

「さあ・・・改めて始めようか。キミの言う楽しい楽しい殺し合いってやつをね」




アーシア「あうう、いつの間にか危険人物にされちゃってましたぁ・・・」

本人の知らぬ間に危ない人認定されてしまった我等が天使へ励ましのおたよりをお願いします。

ついでにさらっとどこぞの宇宙の帝王みたいな事をしでかしている木場君へのおたよりも募集しております。

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