ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百二十五話 目標は大きく持ちましょう

「山田先生、さよなら~」

 

「じゃあね、真耶ちゃ~ん!」

 

「さようなら。気をつけて帰ってくださいね」

 

放課後、学園一階の廊下で生徒達と挨拶を交わす山田先生。そして、そんな先生をジッと見つめている俺。・・・言っておくが、別にストーキングしているわけでは断じてない。

 

「ほほぉ、随分熱い視線を送ってやがると思ったら、なるほど、お前のタイプは真耶ちゃんみたいな子だったわけか」

 

突然肩を叩かれたので振り返ると、そこにはニヤケ顔のアザゼル先生がいた。続いて、その顔を俺から山田先生に移す。

 

「わかるぜ、その気持ち。同年代とのイチャラブもいいが、年上のお姉さんに甘えるのもいいもんだぜ・・・」

 

「あの、さっきから何の話を?」

 

「あ? 真耶ちゃんが好き過ぎてストーキングしてたんだろ?」

 

ちょ、さっそく誤解されてるし! 最近ロリコンの濡れ衣を着せられそうになったから、そういう風に見られるのマジで勘弁して欲しいんですけど。

 

「ち、違います。俺はそんなつもりでは無くてですね」

 

「じゃあ、何でだよ?」

 

「山田先生、京都で危険な目に遭ったって聞いてから、どうも心配というか気になってしまって・・・」

 

「ああ、その事か。心配すんな。こっちに帰って来てからは、真耶ちゃんには監視をつけてある。まあ、監視っつっても、真耶ちゃん自身じゃなく、彼女の周囲に対する監視だがな。怪しいヤツが現れたらすぐに俺の耳に届くようになってるぜ。万が一の時は堕天使が対応するから任せとけ」

 

おお! なんと頼りになるお言葉! 流石アザゼル先生。ちょっと大げさな気もするが、またあの危険な連中が現れるかもしれないし、むしろそれくらいしておかないといけないのかもしれないな。

 

「・・・そうとも。この街を焦土にするわけにはいかねえんだ。頑張れアザゼル。お前なら出来るさ」

 

と思ったら、虚ろな目でブツブツと呟き始めるアザゼル先生。かなりお疲れの様子だな。理由はわからないが、愚痴くらいなら聞きますよ?

 

「お前が言うな!」

 

「え・・・!?」

 

「あ、いや、すまねえ。なんか急に叫びたくなっちまって・・・」

 

これは・・・重症だな。それにしても、誰に対する叫びだったんだろう。あの悲痛感たっぷりな感じの声からして、かなり困った相手みたいだが。

 

「そ、それよりもだ。修学旅行に行く前に報告を受けたが、お前、レイナーレ達を眷属にしたそうだな」

 

「え? ええ、そうですけど」

 

「あー、その、なんだ。俺から言うのも何だがよ」

 

どこか気恥ずかしそうに頬を掻いた後、アザゼル先生は俺に向かって小さく頭を下げた。

 

「・・・アイツ等の事、大事にしてやってくれ。まだまだ足りねえ部分が多い小娘共だが、お前を想う気持ちだけは本物だからよ」

 

その姿と言葉には、不器用ながらもレイナーレさん達に対する愛情が確かに存在していた。先生からしたら、大切な部下を俺に託したんだもんな。・・・改めて、眷属を持つ意味を考えさせられる気分になった。

 

「誓います。絶対に大切にすると」

 

「そうか・・・。くく、お前が言う“絶対”ほど説得力のある言葉もねえわな」

 

顔を上げた先生がそんな事を言う。しかし、今のやり取り・・・結婚前の彼女の父親との会話を彷彿とさせる何かが・・・。はいそこ、妄想乙とか言うな。

 

「眷属になった以上、全てにおいてお前が優先されるが、時々でいいから俺の所に貸してくれ。助手がいるといねえとじゃやっぱり研究の捗り具合が違うんだよな」

 

「え、ですが、ミッテルトさんがクビにされたって言ってましたが」

 

「・・・やっぱり早まっちまったかなぁ・・・」

 

なんか後悔してるっぽいアザゼル先生。会話している間に山田先生も移動してしまったのか姿が無い。そろそろ俺も帰ろうかな。

 

「あ、ここにいたのね。探したわよリョーマ」

 

声をかけて来たのはリアスだった。口ぶりからして俺に用事があるみたいだが。

 

「ちょっとオカルト部に顔を出してくれないかしら。あなたに会いに来た人がいるの」

 

「ああ、そういやアイツが来てたんだったか。行って来いよフューリー」

 

というわけで、リアスに連れられてオカルト部へ向かったわけだが・・・。

 

「久しいな、神崎殿」

 

そう言って俺に握手を求めて来たのは、なんとサイラオーグさんだった。

 

「ええ、お久しぶりです」

 

慌てて握手に応じたのも束の間。予想だにしなかった人物は、これまた予想だにしない言葉を放り投げて来た。

 

「それで、サイラオーグ。リョーマにお願いしたい事ってなんなの?」

 

「神崎殿! 突然の申し出に戸惑われるかもしれないが、このサイラオーグ・バアル! 貴殿に師事して頂きたく参上した! 今度のレーティングゲームにおいて、俺にその資格があるかどうか、判断して頂きたい!」

 

真っ直ぐ過ぎる目で俺を見つめながら叫ぶようにそう口にしたサイラオーグさん相手に、俺は固まってしまった。いやだってさ、こんな時の正確なリアクションなんて俺にはわからないって。

 

「・・・って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

驚こうとしたら兵藤君に先を越されてしまった。って、他人事の様に聞いてる場合じゃない! とにかく、詳しい話を聞かないと・・・。

 

「神崎殿、回答を頼む」

 

無理でした。畳み掛けられました。逃げ道が無いです。

 

「待ってサイラオーグ。いくらなんでも単刀直入過ぎよ。リョーマだって戸惑っているみたいだし、一から順番に話してちょうだい」

 

「むっ、すまない。神崎殿を前に少しばかり気を急かし過ぎた様だ」

 

ナイスサポートだリアス! そうだよな。やっぱり戸惑ってたのって俺だけじゃなかったんだよな。サイラオーグさんも心なしかソワソワしてるし、彼が言った様に焦ったのかもしれない。

 

俺とリアス、対面にサイラオーグさんが座り、周りを兵藤君達が囲む。いつの間にか全員分のお茶を用意していた朱乃の気遣いに感謝しつつ、リアスが口火を切った。

 

「それでサイラオーグ。あなたさっきリョーマに師事・・・言い換えれば弟子になりたいと言っていたけれど、どういう事?」

 

え、さっきのってそういう意味だったの!? 目を丸くする俺を尻目に、サイラオーグさんはスラスラと答え始める。

 

「俺は魔王になるのが夢・・・いや、絶対になってみせる。その為には今よりもさらなる力を得なければならない。神崎殿に鍛えてもらえれば、俺はさらなる高みへ昇れるはずだと思ったのだ」

 

「何故このタイミングなの?」

 

「本来であれば、もう少しの間は自分だけで鍛え続けようと思っていたのだが・・・これを読んで考えが変わったのだ」

 

サイラオーグさんが取り出したのは一冊の本。・・・間違いない。俺の罪が形となったあの『鋼の救世主』だ。

 

「人々を守る為に戦い続けた鋼の救世主達。これを読んで思い出したのだ。子どもの頃を。・・・伝説の騎士に憧れ、いつか、自分も母上を守れるだけの強さを得るのだと誓ったあの頃の事を・・・」

 

「ミスラおばさまは・・・」

 

「・・・」

 

無言のサイラオーグさんを見て察したのか、リアスはそれ以上何も言わなかった。何か、深い事情があるのだろう。なら、ここは追及などせず、次にいこう。

 

「俺は魔王になって証明する。滅びの魔力が無かろうとも、俺はバアル家のサイラオーグだと。母上には何一つ非は無かったのだと。この拳で、この体で、この意志で、凝り固まった頭の連中に思い知らせてやる。必ずな」

 

自身の拳に目を落としつつ、サイラオーグさんは宣言した。俺が言うのもおこがましいが、その決意の込められた勇壮な顔は、既に魔王としての資質は十分だと思わせるものだった。

 

しかし・・・この人、一体どこまでイケメンになるつもりなんだろう。見た目も性格もイケメンって別次元にしかいないと思ってたのに。

 

「神崎殿、俺の都合ばかり押し付ける様で心苦しいが、どうか認めてくれないだろうか。財産は少ないが、お礼として渡せるくらいは蓄えている」

 

「・・・わかりました」

 

自分でも驚いてしまうほど、その言葉は自然に発せた。

 

「では・・・!」

 

「ですが、俺は人に教えられるほどの指導力はありません。出来る事と言えば精々模擬戦くらいにしかなりませんが」

 

「十分だ! むしろそれを望んでいたのだ俺は! 感謝するぞ神崎殿!」

 

立ち上がり、深々と頭を下げるサイラオーグさん。正直、師匠とか弟子とか荷が重すぎる。けど、この人もまた鋼の救世主(泣)である俺を頼ってここに来た。だったら、俺はそれに応えなければならない。そうする道を俺は選んだのだから。

 

「あ、あの、サイラオーグさん。それなら別にレーティングゲームの結果でとかじゃなくて、普通に先輩と鍛錬したらいいんじゃないですか?」

 

兵藤君が尋ねると、サイラオーグさんは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 

「その方がモチベーションが上がるのでな。何より・・・神崎殿より技を習得させられたお前達に勝てなければ、俺に資格は無い」

 

「・・・負けるつもりは無いわよ?」

 

「当然だ。そうでなければ意味が無い」

 

見つめ合うリアスとサイラオーグさん。その間には見えない火花が散っていた。その後、サイラオーグさんがオカルト部を後にした所で、俺達も解散するのだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

夜になって、俺はベッドに横になってジッと天井を見上げていた。今日は本を読む気にはならなかった。代わりに思い出すのはサイラオーグさんの言葉だった。

 

―――俺は魔王になるのが夢・・・いや、絶対になってみせる。

 

そう言い切った時のサイラオーグさんは滅茶苦茶でっかく見えた。冥界での初顔合わせの時以上に、その言葉には“重み”があった。そんな人と、俺達は戦うんだよな。

 

「夢・・・か」

 

サイラオーグさんだけじゃない。俺の周りには、夢に向かって努力する人達がたくさんいる。部長は立派な当主になる事。会長や匙は学校を建てる事。他のヤツ等だってそれぞれに夢や目標を持っていて、それを叶える為の努力をしている。夢と現実は違う。夢を叶えられる人間なんてほんの一握りだろう。けど、少なくとも、部長達はみんな夢を叶えるんじゃないかな。あの人達は途中で諦めたりせず、叶えるまで努力し続ける人達だから。

 

なら、俺自身の夢は? 今の俺に、部長達みたいに胸を張って言える様な夢ってあったか? ハーレム王・・・は違う。そんな浮ついたものじゃなく、絶対に折れない、誓いとでも呼べるようなものを俺は持っていない。

 

「俺は何をしたい? 俺は・・・何になりたいんだ?」

 

一人呟き、掌を見つめる。サイラオーグさんのそれに比べ、ずっと小さく、弱々しく見えた。




葛藤=覚醒フラグです。

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