ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百二十七話 ネガティブはネガティブを呼ぶ

ミスラさんのお見舞いから二日後、俺はまたしても冥界へとやって来ていた。今回お邪魔するのはアガレスさんの所だ。といっても、アガレスさん本人では無く、執事のアリヴィアンさんから呼ばれたのだが。なんでも、アガレスさんの事で助けて欲しい事があるとの事だった。・・・まさかとは思うが、アガレスさんもどこか体の具合でも悪くしてしまったのだろうか。

 

アガレス家に到着してすぐにアリヴィアンさんの案内で例のジオラマの部屋の前まで移動した。扉を開けてアガレスさんを探す。・・・いたいた、奥の大型PCの前で何やら作業してるっぽいな。とりあえず挨拶しに行こう。

 

「こんにちは、アガレスさ―――」

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

・・・なんか、ものっそい速度で打ち込みしてるんですけど。え、なに、どっか攻撃してんの? アガレスさんってハッカーだったの? こんな超高速の打ち込みなんざアニメでしか見た事ないわ。

 

「・・・ああ、もう! やっぱりしっくり来ないわ!」

 

と思ってたら、キーボードをバンと叩いてアガレスさんが立ち上がった。恐る恐る後ろから画面を覗きこむと、そこにはとある機動戦士によく似たロボットの全体像が映し出されていた。

 

「所詮、これは私が文章から得たイメージを元に描いた物に過ぎない。こんなのじゃ、神崎様にご覧になって頂いた時にガッカリされるかもしれないわ。かといって、神崎様に教えてもらうのは本末転倒だし、どうすれば・・・」

 

「アガレスさん」

 

「え?」

 

声をかけるのはこのタイミングだと思って名前を呼ぶ。だが、振り返ったアガレスさんは俺の顔を見てもどこか呆けた様な表情を浮かべていた。あれ、ひょっとして認識されてない?

 

「いけない、幻聴が聞こえて幻覚が見えるくらい疲れが溜まってるのかしら。しかも、よりにもよって神崎様の幻覚を見るなんてね」

 

苦笑しながら、アガレスさんは俺の顔に手を伸ばして来た。スベスベで柔らかな手が俺の頬を撫でる。

 

「それにしても、随分とリアルな幻覚ね。まるで本物だ・・・わ・・・」

 

アガレスさんの表情が凍りつく。そして、絞り出すような声で俺の名を呼んだ。

 

「か、神崎・・・様・・・?」

 

「・・・お久しぶりです」

 

あ? もっと他に言うべき事があるだろうって? なら聞くが、この世の終わりを迎えたかのような表情を見せている女性に追い打ちかける様な真似が許されると思ってんのか? (精神年齢が)年上としてここはスルー一択だろうが。

 

「・・・逝って来ます」

 

それから、PCの画面に頭から逝こうとするアガレスさんを俺とアリヴィアンさんの二人がかりで抑え込み、彼女が落ち着きを取り戻した所で改めて話をする事になった。・・・アガレスさんの名誉の為にも、詳しく思い出すのは止めておこう。

 

「それで神崎様。この様な無様な醜態をさらした私なんかになんのご用でしょうか」

 

「今回はアリヴィアンさんに呼ばれてお邪魔しました」

 

「アリヴィアンが? どういう事ですか?」

 

そういえば、俺もただアガレスさんの事で助けて欲しい事があるとしか聞かされてない。

 

アガレスさんがアリヴィアンさんへ話を振ると、彼は俺を呼んだ理由を話し始めた。きっかけは、アガレスさんが『鋼の救世主』を購入した事。それから連日連夜、食事や睡眠もロクに取らずにずっとこの部屋に籠りっ放しで、流石に心配になったアリヴィアンさんが部屋に入ると、アガレスさんは本を片手にひたすらPCでロボットのデザイン設計の作業を行っていたらしい。いいかげん休めと言っても聞いてくれないので、俺を呼んだのだとか。

 

もしかしなくともアガレスさん、『鋼の救世主』に登場した機体を自分の手で再現しようとしたのだろうか。けど、それなら端末を使って俺に聞いてくれればいくらでも教えてあげられたのに。

 

そう言うと、アガレスさんは気恥ずかしそうに俯きながら答えた。

 

「神崎様を驚かせたかったんです。かつてのお仲間達の機体を再現すれば喜んで頂けると思って・・・」

 

でも、中途半端な物を作ってはかえってガッカリさせてしまうかもしれない。描いては消し、描いては消しの繰り返しでずっと悩んでいた。そこへ俺が現れたものだから、頭の使い過ぎで幻覚が見えたのだと思ってしまったとアガレスさんは続けた。

 

「なら、アガレスさんは俺の為に・・・」

 

「神崎様は私の趣味を認めてくれた。だから、この趣味で、少しでもお返しがしたくて」

 

よし、OK。アガレスさんは超良い人。あと、照れる姿がめっちゃ可愛い。異論を唱えたければ俺を倒してからにしろ。

 

「ありがとうございます、アガレスさん。けど、アリヴィアンさんや他の人達も心配しますし、無理はしないでください」

 

「わ、わかりました。これからはのめり込み過ぎない様自重します」

 

無茶した事を反省したアガレスさん。とりあえず休んで欲しいとのアリヴィアンさんの言葉に従い、自分の部屋へ戻って行った。俺も役目を終えたので、アリヴィアンさんに見送られ、アガレス家を後にした。

 

その夜、端末でアガレスさんにPC画面に映っていた機体のディテールについてと、今後、悩んだらいつでも聞いて来て構わないとメッセージを送っておいた。俺も詳しくは憶えていないが、アガレスさんならきっと完璧な機体に仕上げてくれるだろう。

 

「・・・完成したら一体譲ってもらえないだろうか」

 

流石にそれは図々しいかな。いっその事、本当にプラモとして販売してくれたらなぁ・・・。

 

そんな妄想をしつつ、俺は就寝するのだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

祐斗SIDE

 

この日、僕達はグレモリー領にある高級ホテルへやって来ていた。これから行われるのは、グレモリー、及びバアル両眷属の合同記者会見だ。メインはもちろん部長とサイラオーグ・バアルだが、僕達にもいくつか質問が来る予定になっているそうだ。

 

控室に通され、それぞれ時間が来るまで適当に時間を潰す事にした。小猫ちゃんなんかは用意されていたケーキをひたすら食べている。ギャスパー君は相変わらず女子の制服を着ているけど、隠れる為の段ボール箱を持って来ていない。これから大勢の目に晒される事になるのだけれど、彼も成長しているのだろう。

 

「イッセー君は緊張してないのかい?」

 

「・・・あ、ああ、してるよ」

 

一人離れた場所へ座っていたイッセー君の隣に座って話しかけると、彼はワンテンポ遅れて返事をした。・・・そろそろ聞くべきだな。

 

「ねえ、イッセー君。何を悩んでいるんだい?」

 

「な、何だよ急に。俺は別に悩みなんか」

 

「ずっとそんな様子で、誤魔化せると思っているのかい?」

 

「うっ・・・」

 

言葉に詰まるイッセー君。それだけでもう悩んでますと言っている様なものだ。素直すぎるのが彼の良い所で悪い所だな。

 

「水臭いじゃないか。僕達は同じグレモリー眷属で親友だろ。話してみてよ。僕で力になれる事なら何でも協力するよ?」

 

エクスカリバーの事件の時、イッセー君は僕の為に尽力してくれた。だから、彼が助けを求めているのなら全力でそれに応えたい。

 

「は、はは、そんな大げさなもんじゃないんだ。うん、ホントに」

 

曖昧に笑むイッセー君。・・・彼が何かを誤魔化す時に多用する表情だった。

 

「イッセー君、キミは・・・」

 

その時、部屋の扉がノックされ、スタッフの方が入室して来た。

 

「皆さま、そろそろお時間となりますので、移動のほどよろしくお願いいたします」

 

「よし、行こうぜ木場」

 

「・・・うん」

 

イッセー君に続き、僕は部屋を後にした。会場までの通路を進んでいると、途中で匙君と出会った。

 

「やあ、匙君。どうしたんだいこんな所で」

 

「よお木場。なに、お前達と一緒さ。シトリー眷属は今度アガレスとゲームをする。その記者会見をする為に来たんだよ」

 

「そういえばそうだったわね。確か、会場はアガレス領の湖上に浮かぶ島だったかしら」

 

「その通りッス。そっちも同じくアガレス領の空中都市でしたよね。観客もめっちゃ呼びこむって聞いてますよ」

 

「そうか。お互い頑張ろうね」

 

「おう。って、さっきからずっと黙ってるけど、どうしたんだ兵藤?」

 

「なあ、匙。ちょっと聞いていいか?」

 

「な、なんだよ改まって」

 

「お前の夢って学校を建てる事なんだよな。その夢っていつから持つようになったんだ?」

 

直前の会話からいきなりの突飛な質問に面食らう匙君だったが、少し考える様な素振りを見せた後、答えた。

 

「んー・・・最初はさ、惚れた人の夢だから俺もって感じだったよ。けど、会長が学校にかける想いとか、冥界の現状とか色々知ってさ、俺も本気で学校を建てたいって思う様になった。だからいつからって聞かれたら、気付いた時にはって答えになるな」

 

「・・・そうか。わかった、ありがとな匙」

 

「? よくわかんねえけど、どういたしまして。そんじゃ、そろそろ行くわ。またな」

 

その場を後にする匙君の背を見送るイッセー君。さっきの質問に何の意味があったのか。それは彼だけにしかわからない。

 

「さ、私達も行きましょう」

 

歩きだす部長の後を追い、僕達は記者会見場となるホールへとたどり着いた。入ると同時に写真のフラッシュが至る所から発生した。かなりの人数だが、やはりグレモリーとバアルという事で相当注目されているようだな。

 

既にバアル側は着席していたので、僕達もそれぞれの席に着いた。・・・この肌を刺す様な闘気はバアル眷属によるものだろう。この場で既に戦いは始まっていると言っても過言ではないだろう。

 

「では、両眷属の皆さんが揃った所で、記者会見の方を始めさせて頂きます」

 

進行役が記者会見のスタートを宣言する。ゲームの概要や日取りなどが説明され、続いて部長とサイラオーグ・バアルがそれぞれに意気込みを語った。

 

それから、それぞれの選手への質問の時間へと移り、まず質問されたのはゼノヴィアだった。

 

「すっかり天嬢さんとして認識されていますが、今回のゲームはどのように立ち回るおつもりでしょうか」

 

ああ、またそれか。いいかげんゼノヴィアが不憫だからそれについては触れないであげて欲しんだけど。

 

「・・・私はただ全力を尽くすだけだ」

 

「それでは今回も・・・」

 

「ああ、最高のショーをお見せしよう」

 

・・・後ろの席に着くゼノヴィアの方から“ビキビキ”という音が聞こえて来た様な気がした。というか、質問した記者の方の顔が妙に強張ってるんだけど・・・。

 

続いて他の女性陣、僕、ギャスパー君の順で質問があり、最後にイッセー君の番となった。

 

「『それいけ! せきりゅーてー』のモデルとして冥界の子ども達の中で人気が上昇中の兵藤一誠さん。是非とも、この会見を見ているであろう子ども達へ夢のあるコメントをお願い致します」

 

結構な無茶ぶりをするなあの人。アニメもまだ直接見て無いし、イッセー君もなんて答えるつもりなんだろう。

 

「・・・夢を持ってない俺が言っても説得力ねえよ」

 

「はい?」

 

「あ、えっと・・・と、とにかく頑張ります!」

 

直前の呟きを誤魔化す様に声を張り上げるイッセー君。その声の大きさとは裏腹に、顔は沈んでいた。

 

(それがあなたの不調の理由だったのね、イッセー)

 

そんなイッセー君を見つめる部長。席が隣だから、イッセー君が何を呟いたのか聞こえたのかもしれない。

 

「では、これ以上質問が無いようでしたら、本日の記者会見を終了させて頂きます」

 

こうして、記者会見は幕を閉じたのだった。終了後、会見場の裏手にグレモリー眷属とバアル眷属が集まった。

 

「どうだ、リアス。ゲームに向けての準備は順調か?」

 

「当然よ。あなた相手に不足部分なんて一欠片でも残しておきたくないもの」

 

「そうか。決戦の日が待ち遠しいぞ。特に兵藤一誠。お前との戦いが一番楽しみだ」

 

「お、俺ですか?」

 

名指しされ、戸惑いを隠しきれない様子のイッセー君に、サイラオーグ・バアルは不敵な笑みを向ける。

 

「お前は俺好みの戦い方をする。そんなお前と全力の勝負がしたい。俺には肉体(これ)しかない。負ければ全てを失う。だからこそ、夢の為、野望の為、俺は俺の全てをかけてお前達との勝負に臨ませてもらう」

 

・・・大きい。これがサイラオーグ・バアル。『消滅』の魔力を受け継げずとも、愚直に己を極限まで鍛え続けた男の言葉の力強さ、重さは尋常ではない。

 

だけど、イッセー君だって負けていない。京都で僕達の先頭に立って『禍の団』と戦っていた彼の姿はサイラオーグ・バアルに勝るとも劣っていなかったのだから。

 

「次に会うのは決戦の時だ。リアス、兵藤一誠、そしてグレモリー眷属達よ―――空で会おう」

 

踵を返し、去っていくサイラオーグ・バアルと彼の眷属達。僕はイッセー君に声をかけようと近づいた。

 

「直々のご指名だね、イッセー君」

 

イッセー君は答えない。代わりに何かを呟いた。そして、その呟きは先程とは違い、僕の耳にハッキリと届いた。

 

「・・・勝てねえ。夢を持ってない俺が、夢の為に戦うあの人に勝てるわけねえよ・・・」

 

それは、今まで諦めや絶望に決して屈しなかったイッセー君の口から出たとは思えないほど、暗く、諦観に満ちた言葉だった。




溜めて溜めて溜めてドーン! 作者はこのパターンが大好物です。

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