ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
イッセーSIDE
世の中ってのは何が起きるかホントわからないな。ヴァーリちゃんがオーフィスを連れて来てから既に三日が経過した。今の所、騒ぎは起きていない。けど、部長や朱乃さんといった神崎先輩の家で暮らしているみなさんの顔が心なしか憔悴している感じがした。無理も無い・・・というか当然だよな。組織内で立場が揺れているらしいとはいえ、敵のトップと一つ屋根の下で暮らしてんだから。
けど、そんな存在相手だろうと、神崎先輩とアーシアには全く関係がないらしいけどな。家じゃあの二人だけオーフィスと普通に会話したりしてるって部長から聞いた。先輩は先輩だから・・・で納得できるけど、アーシアは・・・やっぱり逞しくなったよなぁ・・・。俺にゃ『無限の龍神』に夕飯何が食べたいなんて聞けねえよ。
ともかく、オーフィスが先輩と交わした約束とやらが果たされるまでは、誰にも気付かれない様に、俺も細心の注意を払っておかないといけない。俺って顔に出やすいらしいから特に気をつけておかないとな。
さて、そんな俺は今、特訓用フィールドの中心でヴァーリちゃんと向かい合っていた。彼女にはこれから俺の特訓の相手になってもらう。きっかけはアザゼル先生の言葉だった。
―――お前の無茶を受け入れてやったんだ。少しくらい恩を返しやがれ。イッセーの特訓相手にでもなってやれ。
この言葉を、以外にもヴァーリちゃんが二つ返事で受け入れた事で、この特訓が実現した。特訓とはいえ、この子と勝負するのって何気に初めてなんだよな。
「いい場所ね。広さも十分だし、亮真の家からも近い。アザゼルも準備が早いじゃない」
「このフィールド自体は結構前から存在してたんだよ。神崎先輩がディオドラとのゲームの為の特訓場所として使ってたんだ。最近じゃ俺達もよく利用してるけど」
「あら、そうだったの。・・・そうだわ、どうせなら亮真も呼んで三人でやりましょうよ。駒王協定の時のリターンマッチよ」
「却下!」
ウキウキ顔を見せるヴァーリちゃんの案をすぐさま切って捨てる。にしても、相も変わらず先輩と戦う事を諦めて無いのなヴァーリちゃん。
「ヴァーリちゃんはさ、やっぱり強くなる事が夢なの?」
「急にどうしたの一誠?」
「あ、いやさ、最近夢について色々悩む事があってな。色んな人の夢を聞いてみたりしたんだ。だから、ヴァーリちゃんの夢も気になっちゃって。もしよかったら教えてくれないかな」
興味本位で質問する。すると、ヴァーリちゃんは意外な答えを口にした。
「夢・・・ねぇ。確かにあなたが言った様に、私は強くなりたいとは思っているけれど、それは決して夢なんかじゃないわ」
「え? ど、どういう意味?」
「だって、そんな事を夢にした所で、先が無いじゃない。強くなるのが夢って事は、強くなった時点でその夢は終わりでしょ。そもそも、どうして強くなりたいのか。重要なのはそこじゃないかしら。ただ強くなりたいなんて思ったって、そんな漠然としたものに意味なんて無いと思わない? 勘違いしている人が多いけど、“なりたい”事と“したい”事は似ているようで全く違うものよ。前者だけを夢にしたって、それは決して夢なんかじゃない」
・・・確かに、ヴァーリちゃんの言う事は最もだ。何故強くなりたいのか。強くなって何をしたいのか。それを考えず、ただ強くなりたいと願ったって意味が無い。目的も無く、ただ手段だけを持っていた所で何にもならない。
「強くなりたいという事に関して言えば、順番が逆なのよ。強くなる為に何かをするんじゃなくて、何かをする為に強くなるの」
「なら、ヴァーリちゃんは何をする為に強くなりたいんだ?」
「私の願いはただ一つ。・・・この手であの男の息の根を止める事。それだけよ」
そう答えたヴァーリちゃんの声は、底無しの闇を孕んでいた。顔からは微笑が消え、憎悪だけが満ち満ちている。その声に、その表情に、俺はただ恐ろしさだけを感じていた。
「・・・少ししゃべり過ぎたわね。どう、少しは参考になったかしら?」
けど、次の瞬間にはいつものヴァーリちゃんに戻った。事情を訪ねたい気持ちもあるが、きっとはぐらかされるだけだろう。なら、俺も見なかった事にしよう。彼女もきっとそれを望んでるはずだ。
「あ、ああ。そういう考えもあるんだなって参考になったよ」
何になりたいかだけじゃなく、何になって何をしたいのか。俺はみんなを守りたい。その為に、俺は何になればいいのか・・・。少しずつだけど、俺の目指す夢が形を成して来た気がする。
「なら、今度は私から質問していいかしら。あれから『覇龍』について何か進展はあったの?」
おっと、何となく聞かれると思ってた質問が来たな。“練成”出来るようになった事を説明すると、ヴァーリちゃんは感心した様子で頷いた。
「へえ、凄いじゃない。そこまで辿りついたって事は、『覇龍』へ至るのも時間の問題ね」
そういや、いきなりだった上に状況が状況だったから聞きそびれてたけど、“練成”が可能になった今、『覇龍』へ至るまで後何人の先輩に認められたらいいんだろう。
―――あと一人だ相棒。あと一人認めさせれば、お前は『覇龍』へ至る。
脳内に響くドライグの声に仰天する。マジかドライグ!? マジであと一人なのか!?
『ドライグの言う通りよイッセー。あなたはもう『覇龍』の入口に立っている。・・・それにしても、あなたには驚かされたわ。神器内において歴代所有者との対話が可能になってから、あなたは様々な覚悟を胸に強敵との戦いに臨んで来た結果、歴代の所有者達は次々にあなたを認めていった。前回の戦いで“練成”の段階まで昇りつめたけれど、ここに来るまでの期間は、間違いなくあなたが歴代最速よ』
続いてエルシャさんの声が聞こえて来た。歴代最速って・・・俺が!?
―――ああ、誇っていいぞ相棒。お前は俺やエルシャの予想をあっという間に越えてしまった。お前の見せて来た可能性、そして覚悟は歴代の者達に比べ勝るとも劣らない。
『あなたはこれまでの所有者達とは違う。そんなあなたが至る『覇龍』が今から本当に楽しみだわ。もしかしたら・・・歴代最強の称号を譲る時が来るのかもしれないわね』
そ、それは流石に畏れ多いッスエルシャさん。だって、俺がこれまで戦って来られたのは、仲間達がいたからで・・・。
『だからこそよ。最初から最後まで己だけの力を求めて戦い続けた私達と違って、あなたは自分の弱さを認め、仲間に頼り戦って来た。一+一のはずだった力を、三にも四にも変えてね』
―――仲間がいるから強くなれる。相棒が俺達に証明した事だぞ。
や、止めろよ。そうハッキリ言われると恥ずかしいわ!
『ふふ、照れなくてもいいじゃない。他の所有者達もあなたの事を応援しているのよ。認めるって事は、そういう事なの。私達はみんな、あなたの成長が嬉しいの。だから、イッセー。これからも、あなたはあなたらしくいなさい。そんなあなたを、私達はずっと見守り続けるわ』
―――そういう事だ相棒。エルシャに愛相を尽かされぬよう頑張るんだな。
お、お前なぁ・・・。他人事みたいに言うけどお前だって責任重大なんだぞ!
―――ふ、わかってるさ。俺もお前の相棒として、これからも力を尽くす。よろしく頼むぞ相棒。
へいへい、精々こき使ってやるから覚悟しとけよ。
―――望む所だ。
そうやってドライグ達と脳内会話してると、ふとヴァーリちゃんが微笑んでいるのに気づいた。
「どうしたんだ、ヴァーリちゃん?」
「歴代所有者達との仲は良好な様ね。羨ましい限りだわ」
「わかるの!?」
「ええ、何となくね。はあ・・・私も白龍皇じゃなく、赤龍帝として生まれたかったわ」
―――ど、どういう意味だヴァーリ!? 私よりもドライグの方がいいというのか!?
動揺してんなアルビオン。なんか声がめっちゃ不安そうなんですけど。
「あなたはいいのよアルビオン。あなたはね・・・」
ああ、そういやあっちの歴代所有者達って色々残念なヤツが多いんだっけ。力が欲しけりゃコスプレしろって要求するんだもんなぁ・・・。
「ま、ロキ戦の後にたっぷりとOHANASHIさせてもらったから多少はマシになったけれどね」
―――消滅寸前までボコボコにする事をお話とは言わんぞ・・・。
うわぁ・・・あの時の俺の予感って当たってたのか。本当に殺るつもりだったんだなこの子。
「そういえば、ヴァーリちゃんの『覇龍』は何を求めての結果だったんだ?」
「それはヒ・ミ・ツ。そうね、あなたが『覇龍』に至ったら、その時は教えてあげるわ」
「あ、そうですか」
「さてと、随分長く話しこんじゃったけど・・・そろそろ本来の用事に戻りましょうか」
ヴァーリちゃんが俺から距離を取る。そうだったそうだった。話だけならどこでも出来る。俺達は鍛練しに来たんだ。俺達はそれぞれに鎧を纏って対峙した。
「考えてみると、今代の赤と白が戦うのってこれが初めてじゃないかしら。ふふ、何だか興奮して来たわ」
そう言いながら俺をジッと見つめて来るヴァーリちゃん。今回はあの刺激的な格好じゃない。確か、段階があるって言ってたっけ。
「ヴァーリちゃん。『白龍皇の光翼』の禁手って段階があるらしいけど、そもそも禁手に段階ってあるの?」
「いえ、本来の『白龍皇の光翼』の禁手はこの状態の鎧であって、もう一つの状態は元々存在していなかったわ」
「存在してなかった? じゃあ、ひょっとしてヴァーリちゃんが創り出したの?」
「あなたも知ってるでしょ? 神器は所有者の想いに応えて進化する。私が全力を出せるように、鎧は進化したの。あなただって、駒王協定の時に、アルビオンの力を取り込んで鎧を進化させたじゃない」
全然使えて無いですけどね。けど、そういう事なら、俺が強く求めさえすれば、俺の鎧もヴァーリちゃんの鎧みたいに・・・。
(オロロロロロロ・・・!)
うげげ! また誰か脳内で吐きやがったな! 誰かっつーか、あの先輩なんだろうけど。人のイメージ覗き見した挙句に吐くって勝手すぎにもほどがあるだろ!
「? 一誠、顔が青いけどどうしたの?」
「な、何でも無いよ。ところでさ、アルビオンにちょっと聞きたいんだけど」
―――何だ?
「取り込んだお前の力が使いたいんだけど、その為にはお前に認めてもらわないと駄目だってドライグから聞いたんだ。なあ、どうしたら認めてくれるんだ?」
―――ふん、知らんな。そういうのは自分で考えるべきではないのか。
うう、言葉に棘があるな。やっぱり、自分の力を勝手に使われるのって嫌なんだろうな。
「素直じゃないわね、アルビオン。今代の赤龍帝は強くなりそうだって言ってたじゃない」
―――なっ、ち、違うぞ! 私は中々に骨のあるヤツだとしか・・・はっ!
「という事らしいわよ、一誠。とっくにアルビオンはあなたの事を認めてるみたいね」
―――情けないな、アルビオン。その様な単純な手に引っ掛かるとは。
―――煩いぞドライグ! ええい、ヴァーリ! ヤツ等に思い知らせてやれ! 実力は我等の方が上なのだとな!
―――それはこちらのセリフだ! 相棒! 負けるなよ!
ドライグもアルビオンも燃えてるな。口調に熱が籠りまくってるわ。
『それはそうよ。赤龍帝と白龍皇は互いを高め合う戦友で、同時にライバルなんだから』
「アルビオン達もこう言ってるし、そろそろ始めましょうか。あ、言っておくけど、鍛練とはいえ、中途半端な気持ちでいたら・・・死ぬわよ?」
「え・・・?」
聞き返そうとした瞬間、俺は腹部に激痛を感じながら思いっきり吹っ飛ばされていた。その状態で何とか受け身を取ってヴァーリちゃんの姿を探すと、彼女は片足の状態で、もう一方の足を突き出していた。俺、ひょっとして蹴られたのか? ヴァーリちゃんの姿がまるで見えなかったぞ!
「げほっ、げほっ! は、速ぇ・・・。それに、パワーも予想以上だ・・・!」
「あら、この程度で褒めてもらっても困るわ。ほら、次行くわよ」
ヴァーリちゃんの姿がかき消える! 正面? ・・・いや!
「左かぁ!」
両腕を交差させると同時に、ヴァーリちゃんのキックが腕に直撃する! くぅ、痛え。けど、捕まえたぞ。ここから反撃・・・。
「させないわよ?」
『Divide!』
機械音声が聞こえたと思ったら、俺の体から一気に力が抜けた。や、やばっ、支えきれな・・・!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あっさりと防御を砕かれ、俺は再び吹っ飛ばされた。そこへヴァーリちゃんのさらなる追撃が入る。
「ほらほら、のんびりしてるヒマは無いわよ」
ヴァーリちゃんの突き出した右手から十発以上もの魔力弾が一気に迫って来る。容赦ねえなヴァーリちゃん! ええい! こうなりゃヤケじゃ!
俺はブースターを全開にし、態勢を整えてから全速力でヴァーリちゃんに突っ込んだ。魔力弾? 知るか! 一発や二発くらった所で死にゃしねえよ!
「成せばなる! 兵藤一誠は男の子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ッ・・・!?」
構えた右手を“練成”し、曹操にかましてやったあのブースター付きの籠手に変え、俺はヴァーリちゃんに突っ込む!
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全力全開の俺の一撃は、衝撃で地面を陥没させ、フィールドそのものを大きく揺るがした。けれど、届かせたかった相手に、その拳が届く事は無かった。
「・・・流石に今のは危なかったわね」
俺の拳を受け止めきったヴァーリちゃん。いつの間にか鎧が本気モードのそれに変わっていた。
「“練成”でこの威力・・・。ふふ、『覇龍』として発現したのなら、いったいどれほどのものになるのかしらね」
感嘆しつつも余裕を崩さないヴァーリちゃん。・・・これが白龍皇。今までは敵対した事無かったからわからなかったけど、いざ戦うとここまでの実力差があるのか・・・!
「面白くなって来たわ。さあ、反撃させてもらうわよ一誠」
「え、ええっと、手加減を・・・」
「してもらえると思ってる?」
「ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
その後、俺は完膚なきまでにボコボコにされ、ヴァーリちゃんに背負われて神崎先輩の家まで運ばれ、そこでアーシアの治療を受けた。
(ちょっとやり過ぎたかしら。でも、初めて顔を会わせてから今まで、一誠は驚異的なスピードで成長している。ふふ、これから楽しみが増えそうだわ)
俺、こんな調子でサイラオーグさんと戦えるのかなぁ・・・。
赤と白の初対決は白の勝利でした。ヴァーリの実力を描きたかったのですが・・・やり過ぎたかもしれん。
さて、次はオーフィスで何か書ければいいけど・・・どうしようかな。