ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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最近胃の調子が悪いのですが、これはもしや、本編で虐め過ぎたアザゼル先生の呪いなのでしょうか・・・。


第百三十五話 あなたは食べる派?それとも遊ぶ派?

朱乃SIDE

 

立ち並ぶ露店。笑顔の人々。聞こえて来る祭囃子。その雰囲気を楽しむ様に、私とリアスは二人でゆっくりと歩を進めていた。

 

「それにしても、こうしてあなたと二人だけで行動するのも久しぶりねリアス」

 

「ん、そうね。モグ・・・。でも、ハム・・・。イッセー達には、ング・・・。羽を伸ばしてもらいたいし、モグモグ・・・。私達は私達で、精々楽しみましょ」

 

「・・・もう充分楽しんでいるのではなくて?」

 

チラリと横を向けば、頭に狐のお面、右手に綿あめを持ち、そして左手で水ヨーヨーをベシベシ叩いているリアスがいた。入場から一緒に行動していたのに、いつの間に揃えたのかしら・・・。

 

「ち、違うわ。これは・・・その・・・あ、そうだわ! みんながちゃんと楽しめるかどうか私が率先して確かめる為に仕方無く・・・!」

 

あらあら、思いつきにしたってもう少しいい言い訳を考えられなかったのかしら。思いっきり“そうだ”って言っちゃってるじゃない。

 

「でも、せっかくのお祭りですし、私もあなたを倣って楽しんだ方がいいのかしらね」

 

「そ、そうよ。お祭りは楽しんだもの勝ちなんだから、私は何も間違っていないわ!」

 

私が正解とばかりにフンスと鼻息荒くドヤ顔するリアス。・・・ちょっと調子に乗ってるみたいね。私はリアスの持つ綿あめを一口頂く事にした。

 

「あ、ああ! 私の綿あめ!」

 

「ふふ、甘くて美味しいわ」

 

「うう・・・」

 

眉を八の字、そして口をω(どうやってるのかしら)の形にしながら、リアスがガックリと肩を落とす。その様子は、まさに“ショボーン”という言葉がピッタリだった。

 

普段、『王』であろうと心がけるリアスが滅多に見せない表情。だけど、本当のこの子はみんなが思っているよりもずっと子どもなのよね。見栄っ張りなこの子が他の子達に本当の自分を曝け出せるのはまだまだ先になりそうだわ。

 

「ねえ、リアス、もう一口」

 

「ダ、ダメよ。これは私のだもん!」

 

うふふ。だもん! ですって。可愛いわね。今のリアスを見ていると、こう・・・私の中のS的な部分が沸々と・・・。

 

「―――聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら・・・やっぱりあなたでしたかリアス」

 

「え? あ、ソーナじゃない!」

 

背後からの声に振り返ると、そこには制服姿のソーナさんがいた。人ごみの中で立ち止まるわけにもいかないので、そのまま彼女を加えて歩きながら話をする事にした。

 

「あなたも来てたのねソーナ」

 

「学園の生徒が他のお客様に迷惑をかけない様、生徒会は全員で見周りをしています」

 

「だから制服なのですね」

 

「そういうあなた達は浴衣ですか。とてもお似合いですが、わざわざこの日の為に用意したのですか?」

 

「ええ。今日はちょっと特別な日になるから」

 

「そうですか。では、私は見周りに戻りますので、あなた達は楽しんでください」

 

そう言って私達から離れようとしたソーナさんをリアスが引き止める。

 

「待ってソーナ。せっかくだし、あなたも私達と一緒に来ない?」

 

「お誘いは嬉しいですけれど、説明した通り、私がここに来たのは見周りの為で・・・」

 

「何もずっと一緒にいなさいって言うわけじゃないわ。けど、ずっと見周りを続けるのも疲れるでしょ? 気分転換だって必要よ」

 

「・・・いえ、やっぱり私は・・・」

 

「見周りでしたら私達に任せてください」

 

断ろうとするソーナさん。とそこへ、今度は副会長の真羅椿姫さんが現れた。

 

「椿姫、何かありましたか?」

 

「いえ、今の所特に問題は起きていません。ですから会長、見周りの事は気にせず、祭りを楽しんでください。後の事は私が引き受けますから」

 

「あなた達を差し置いてそんな事は出来ません」

 

「いえ、これは生徒会メンバーの総意です。会長は働き過ぎです。こういう時くらい休んでください。頷くまで私は戻りません」

 

「椿姫・・・」

 

まだ何か言いたそうなソーナさんだったけれど、やがて観念したように静かに頷いた。

 

「・・・わかりました。では、三十分だけリアス達と一緒に行動させてもらいます。その後は私も見周りに戻りますので」

 

それだけは譲れないと言うソーナさん。真面目過ぎとも思えるけれど、それが彼女の良い所だってみんなわかっている。だから生徒会長として、そして『王』として尊敬されているのだから。

 

「それではリアスさん、姫島さん。会長の事、よろしくお願いします」

 

そう言って、真羅さんは人ごみの中へ消えて行った。

 

「さて、それじゃあソーナも加えて色々回りましょう。何か食べたい物はある?」

 

「私の事は気にせずあなた達の好きな物を選んでください」

 

「ほら、遠慮しないの。いいから言ってみてちょうだい」

 

再度尋ねるリアスに、ソーナさんは小さな声で答えた。

 

「・・・です」

 

「え?」

 

「リ、リンゴあめが食べたいです」

 

注視しなければ気付かないけれど、ソーナさんの頬が僅かに赤くなっていた。うふふ。これは・・・リアスと同じ匂いがしますわ。

 

「リンゴあめね。そういえばさっきお店を見た憶えがあるわ」

 

「では、そちらまで戻りましょうか」

 

私達は人の流れの邪魔にならないよう、来た道を戻る事にした。

 

「ところで、今日ここに来たのはあなた達だけなのですか?」

 

「いいえ、みんな来てるわ。ただ、ちょっと人数が多くなり過ぎたから、それぞれグループに分かれる事にしたのよ」

 

今頃、他の子達も思い思いに祭りを楽しんでいるでしょう。そうね・・・アーシアちゃんのグループは今何をしているのかしら。

 

朱乃SIDE OUT

 

 

アーシアSIDE

 

グループ分けの際、私はゼノヴィアさんとイリナさんと一緒のグループに入れて頂いた。学園でも同じクラスのお二人と一緒だなんてとっても嬉しいです。嬉しいのですが・・・。

 

「ゼノヴィア! 焼きそばよ!」

 

「よし、買いだ! 店主、三人分頼む!」

 

「あいよ!」

 

ソースの香ばしい匂いが漂うお店の前で、ゼノヴィアさんとイリナさんがホクホクした顔でお店の方からパックに入った焼きそばを受け取っていた。

 

「お待たせアーシアさん。ほら、これアーシアさんの分ね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

イリナさんから焼きそばを受け取る。ゼノヴィアさんは既に食べ始めていた。

 

「しかし、日本の祭りというのは素晴らしいな! まさかこんなにもたくさんの美味しいものを食べられるとは思えなかった!」

 

「あーこれこれ! お祭りと言えばやっぱりこれよ! 久しぶりだけどやっぱりいいわぁ!」

 

お二人ともとっても幸せそうに焼きそばを口に運んでいる。それを見ているだけで私はお腹一杯になりそうです。というか、実際にもうお腹一杯です。

 

フライドポテトから始まって、イカ焼きにアメリカンドッグ、さらには牛肉の串焼きに焼きトウモロコシ、そしてこの焼きそば・・・。私は三つ目くらいでもう十分でしたけれど、一体このお二人のこの細い体のどこにあんなに入ってしまうのだろう。

 

「ん? どうしたアーシア。食べないのか?」

 

「は、はい。私もうお腹一杯ですから、お家でお留守番している子達のお土産にしようかと思いまして」

 

一緒に付いて来たがっていたスコルちゃん達にそう約束したから。

 

「神喰狼って焼きそば食べられるの?」

 

「ミドガルズオルムすら飲み込むんだ。焼きそばくらい余裕だろ。けど、そういう事ならもう少し土産を増やした方がいいんじゃないか。三匹に対して焼きそば一つだけじゃ物足りないだろう」

 

「さっきの串焼きとか喜びそうだけど」

 

「まあ待て。他にも色々あるみたいだし、ここは私達で土産に相応しいか味見をしながら選んでみようじゃないか」

 

「そうね。そうしましょうか」

 

「ええ!? ま、まだ食べるんですか!?」

 

「「当然」」

 

ビ、ビックリです。まさかお二人がこんなに大食いさんだったなんて。きっと小猫ちゃんがここにいたら凄く喜んだでしょうね。黒歌さんのグループと会ったら入れ代わってみようかな。

 

アーシアSIDE OUT

 

 

 

黒歌SIDE

 

アザゼルめ、せっかくご主人様と一緒に回れると思ったのに。まあ、代わりに白音と一緒になれたからいいけど。けど、なんでもう一人、しかもよりにもよってこの子なのかしら。

 

「もう! さっきから食べてばかり! 少しは他の事にも興味を持ってはいかがなの!」

 

フェニックス家から来たというレイヴェル・フェニックス。まともに会話をするのは今日が初めてだから、私は特に何とも思わないけれど、白音はこの子に対抗心の様なものを抱いている様に見えるにゃ。今日をきっかけに、少しは仲良くしろっていう事なのかしら。

 

「うまうま・・・」

 

「ああ、ソースが口から垂れてますわ! せっかくリアス様がご用意してくださった衣装なのですから気をつけてくださいまし!」

 

そう言いながら、ハンカチで白音の口元を拭うレイヴェル。あれ、ひょっとしてもう仲良くなってる? というかマズイ。今のは姉である私の役目だったのに出遅れてしまったにゃ。

 

「・・・ありがとう」

 

「ふ、ふん! 同じレディとして、あなたのはしたなさに我慢が出来なかっただけですわ。まったく、あなたはもう少し慎みを持ってですね・・・」

 

百点満点のツンデレにゃ。・・・はっ! わかったにゃ! 白音は同じツンデレ枠としてこの子に負けたくないのね! だからこの子に対して対抗心を・・・!

 

「ちょっと待ってて」

 

そう言って、白音は近くの屋台で何かを買って戻って来た。そしてその買った物をレイヴェルへ差し出した。

 

「なんですの、コレ?」

 

「お礼。よかったら食べて」

 

「け、結構ですわ。私はお礼してもらいたくてしたわけでは・・・」

 

「わかってる。でも、嬉しかったから」

 

「・・・そ、そこまでおっしゃるのでしたら、頂くのもやぶさかではありませんわ」

 

(チョロイにゃ・・・)

 

レイヴェルがそれを口に含む。ゆっくりと咀嚼し、やがてゴクリと飲み込んだ。

 

「どう?」

 

「美味しいですわ。この濃厚なタレがお肉によくマッチしてますし、お肉が小さいから食べやすいですわ。ところで、これはなんて言うお料理ですの?」

 

「焼き鳥」

 

「・・・え?」

 

レイヴェルの顔がピシリと固まった。そこへ白音が再び告げる。

 

「焼 き 鳥」

 

「な・・・な・・・なあっ・・・」

 

「焼き鳥娘が焼き鳥を食べる・・・」

 

「あ、あなたって子はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

我が妹ながら中々にやってくれるにゃ。・・・え、何で買って来た時点で止めなかったって? だってこの方が面白いじゃない。

 

「あれ、あそこにいるのはレイナーレ達にゃ?」

 

店の前で座り込んで何やってるのかしら。

 

黒歌SIDE OUT

 

 

レイナーレSIDE

 

私は一心不乱に机に向かっていた。それは両隣に座るカラワーナ、ミッテルトも同じだ。

 

(もう少し・・・もう少しよ)

 

既に目標の八十パーセントはクリアしている。焦らず、このままいけば必ず成功させられるはずだわ。

 

「へへ、例えお姉様が相手だろうと、ゲームで負けるわけにはいかないッス・・・って、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ミッテルトの悲鳴が響き渡る。どうやら失敗してしまったようね。

 

「全く、無駄口を叩くから・・・あっ!?」

 

やってしまったとばかりにカラワーナが声を上げる。今の言葉、そっくりそのまま自分に返って来たわね。二人とも、始める前に店主から言われた言葉を聞いて無かったのかしら。・・・この“カタヌキ”は集中力を切らした者から脱落していくって。

 

「おおっと、残念だったな嬢ちゃん達。ほれ、その嬢ちゃんはもう少しだ。応援してやりな」

 

「頑張ってお姉様!」

 

「私達の仇を!」

 

「ちょ、机を揺らさないで・・・」

 

パキッ!

 

「げっ!?」

 

「むっ!?」

 

「・・・」

 

私は絶望のあまり絶句した。机の上・・・私が挑戦していた龍の顔に、思いっきり罅が入っていた。

 

「さ、さあて! お姉様もダメだったし、そろそろ他の店に行ってみるッス!」

 

「そ、そうだな。他にも面白そうな場所がありそうだしな!」

 

「と、というわけですからお姉様。先に行かせてもら―――」

 

「ドコヘイクツモリ?」

 

二人の肩を全力で掴む。さあて・・・どう落とし前をつけてもらおうかしら・・・。

 

レイナーレSIDE OUT

 

 

 

ロスヴァイセSIDE

 

「「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「あん? 今カラワーナとミッテルトの悲鳴が聞こえた様な・・・」

 

アザゼル先生が一瞬人ごみの中へ目を向ける。けど、次の瞬間には元に戻っていた。

 

「にしてもロスヴァイセ。別に無理して俺に付き合わなくてもいいぞ」

 

「いえ、私達は一応引率者という立場ですから。何かあった時、すぐに対処できるように一緒にいた方がいいです」

 

「まあそうだが・・・。ある程度は自由にしてて構わんぞ。俺はそういうわけにはいかんが」

 

「いえ、あなたこそこういう時くらい息抜きをするべきです」

 

「そういうわけにはいかねえよ。不本意だが、アイツ等の責任者は俺だからな。サーゼクスにミカエルめ、一ヶ月だけでも代わってみろってんだ」

 

「だからこそですよ。今あなたが倒れたら大変な事になります。勇者s・・・神崎君達の事は私に任せてください」

 

「へっ、自分の体調くらいわかって・・・」

 

「ビールいかがっすかぁ!」

 

「ッ!?」

 

首がもげそうな勢いで振り返るアザゼル先生。その視線の先のお店ではビールを売っているようだった。それにしても、これだけの大勢の人々の声が響く中で、あんな遠くのお店の方の声を聞き分けるなんて・・・。

 

「ビールか・・・飲まなくなってもうどれくらい経つだろう」

 

今の呟きで、最近の彼は酒に酔う事すら許されないほどの忙しさに追われていたのだと理解出来た。

 

「・・・飲みたいのでしょう?」

 

「・・・」

 

「いいんですよ、我慢しなくて。そう・・・あなたは今飲んでいいのです」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

ふらふらと、まるで夢遊病者の様な足取りでお店へ近づいて行くアザゼル先生の後ろをついて行く。店前に立った所で、店主の方がアザゼル先生へ声をかける。

 

「らっしゃい!」

 

「ビールを・・・ビールをくれ」

 

「あざっす! カップのサイズはどうしますか?」

 

「一番いいヤツを頼む」

 

「ラージっすね! 了解です!」

 

アザゼル先生の視線は、プラスチックのカップに並々と注がれる黄金色の液体に釘付けとなっていた。・・・私も飲みたくなって来たけど、我慢我慢。

 

「はい、お待たせしました!」

 

「こ、こいつ・・・キンキンに冷えてやがるっ・・・!」

 

それがビールを受け取ったアザゼル先生が最初に発した言葉だった。そのまま慈しむようにカップを両手で持ちながら、アザゼル先生は一気にそれを口に流し込んだ。

 

「どうですか、久しぶりのお酒の味は?」

 

「・・・めえ」

 

「え?」

 

「美味え・・・美味えよぉ。何なんだよこの犯罪的な美味さはぁ・・・!」

 

堕天使の総督であり、愚痴やぼやきはしても、決して弱い部分は見せなかったアザゼル先生。そんな彼が、一杯のビールの為に・・・その双眸から大粒の涙を流していた。

 

「お、お客さん? どうしました―――」

 

「もう一杯くれ!」

 

「え? あ、は、はい」

 

「かあ~~~~~! そうだ! ビールってこんな味だったんだよな!」

 

・・・さて、そろそろ行きましょうか。おそらく、彼はしばらくここから離れないだろうし、私は私の役目を果たしましょう。

 

「とりあえず、彼等を探さないといけませんね」

 

「足りねえ! もっとだ! もっと飲ませろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

アザゼル先生の叫びを背に、私はその場を後にするのだった。

 

ロスヴァイセSIDE OUT

 

 

 

IN SIDE

 

「それでは、ルフェイはこちらで引き受けますね」

 

「僕も彼等について行く事にします。花火会場で会いましょう」

 

「ひいぃ! 助けてください先輩ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

オーフィスちゃんとヴァーリさん。それに木場君とヴラディ君。そしてルフェイさんと一緒にグループを作ったのだが、たった今木場君とヴラディ君とルフェイさんが離脱した。先に会場入りしていた美猴さんとアーサーさんに偶然遭遇し、色々あってアーサーさんが妹であるルフェイさんは任せて欲しいと言って来た。木場君はそんなアーサーさんと話がしたいから、ヴラディ君は美猴さんにニンニクラーメンを食わせてやると言われて泣き叫びながら拉致されて行った。正にスポット参戦だったな。

 

「美猴・・・酔ってたわね」

 

「確かに、顔がちょっと赤かったな。キミ達も何か食べたいものがあったら遠慮無く言ってくれ」

 

この日の為にお金はたっぷり引き出してある。最近、予想もしてなかった収入があったからな。・・・というか、何もしてないのにある日いきなり通帳にとんでもない額が振り込まれてるなんて誰が予想出来るかっての。リアスに聞いたら、冥界で売れた俺のグッズやら何やらの売り上げからモデル料的な感じでいくらか頂いた様だ。具体的には言えないが・・・とりあえず、俺が前世で稼いだ額を余裕で上回っていた。

 

「といっても、私は美猴みたいに特別好きなものも無いし。オーフィスは何か無いの?」

 

その問いにオーフィスちゃんは答えない。代わりに視線で俺達に訴えかけた。

 

「かき氷? あれが食べたいの?」

 

「初めて聞く。どんなものか知りたい」

 

「なら、最初はアレにしよう」

 

俺は早速二人と一緒にかき氷屋さんへ向かう事にした。

 

「いらっしゃい!」

 

「すみません、二人分お願いします」

 

「ありがとうございます! 味はどうされますか?」

 

「どうする二人とも」

 

「ん・・・我はこれ」

 

オーフィスちゃんが選んだのはブルーハワイだった。

 

「フューリーと同じ色」

 

え、ひょっとしてそれが理由? ど、どうリアクションしたらいいんだ?

 

「なら、私はこれにしようかしら」

 

俺が困っている間に、ヴァーリさんはイチゴ味に決めた様だ。注文を受けたお店の人が業務用のかき氷機でガリガリと氷を器へ盛っていく。完成した白い山へ、青と赤のシロップをこれでもかとかける。

 

「はい、お待たせしました!」

 

まず俺が受け取り、それぞれに手渡した。

 

「ふうん、これがかき氷ね」

 

「ヴァーリさんも初めてだったのか?」

 

「ええ。というか祭り自体初めてですもの。ふふ、初体験の相手があなただなんて嬉しいわ」

 

誤解される言い方止めて! わざと言ってるのバレバレだけど誰が聞いてるのかわからないんだから!

 

「うっ・・・ふう・・・」

 

「おい、どうしたんだよ急に前かがみになって」

 

「いや、何でもねえ。ちょっとトイレ行って来るわ」

 

・・・振り返るな。忘れろ。今のはただの聞き間違いだ。絶対そうだ。

 

「それで、これはどうやって味わえばいいのかしら?」

 

「あ、ああ。その刺してあるストローは先がスプーンみたいになってるからそれですくって食べればいいんだ」

 

俺の説明を聞いたオーフィスちゃんは言われた通りにかき氷を一口。そして次の瞬間、目をパチクリさせた。

 

「中々美味しいじゃない。そっちはどうオーフィス」

 

「・・・冷たい。それに、不思議な味がする」

 

「ふふ、氷だから当然じゃない。けど、お気に召したみたいね」

 

はは、それはよかった。ヴァーリさんも嬉しそうだし、掴みとしては上々だな。

 

それぞれにかき氷をパクつく二人。五分くらいで完食してしまった。

 

「我、完食」

 

「あら? ちょっとオーフィス。舌を出してみてちょうだい」

 

「?」

 

「やっぱり青くなってるわ。シロップの色が移っちゃったのね」

 

「心配しなくても、時間が経てば元に戻るさ」

 

「じゃあ、私のも変わってるのかしら」

 

ヴァーリさんが舌を出す。綺麗なピンク色だった。

 

「ヴァーリ、ピンクのまま」

 

「イチゴ味だからあまり変わらなかったみたいだな」

 

「そう、残念ね」

 

さてと、気を取り直して、今度は何かで遊んでみるか。ええっと、近くに遊べそうな所は・・・金魚掬いと輪投げか。どっちにしよう。

 

少し悩んだが、どうせ時間はまだたくさんあるんだし、どっちもやればいいという結論になった。なので、まずは金魚掬いで遊ぼうとしたのだが・・・。

 

「・・・」

 

ポイを持ったオーフィスちゃん。そんなオーフィスちゃんから逃げるように水槽の端へ我先にと泳いでいく金魚達。結果、オーフィスちゃんの目の前から金魚の姿が消えてしまった。

 

「どうやら魚達もオーフィスという存在を本能で理解した様ね」

 

本能云々は置いといて、このままじゃゲームにならない。ここは俺が何とかするしかないな。・・・『挑発』使えば近寄って来るかな。

 

「・・・来た」

 

流石精神コマンド。金魚にだって効果抜群じゃないですか! よし、ついでにオーフィスちゃんのポイに『不屈』と『鉄壁』かけとこう! 店の人には悪いが、オーフィスちゃんとの思い出作りの為ならば、俺は卑怯者でも何にでもなってやる!

 

「亮真、あなた何かしたでしょ?」

 

「・・・何の事かな」

 

「ふふ、悪い人」

 

ヴァーリさんと悪のボスとその側近ごっこをしながら、俺はオーフィスちゃんの金魚掬いを見守り続けるのだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

「・・・こんなもんかしらね」

 

桐生が満足した顔で銃を置く。コイツ・・・宣言通り全部落としやがった!

 

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

ギャラリーの歓声に手を振って応える桐生。ちょっとしたアイドルみたいだ。

 

「ちっくしょー! またやられちまったぜ! 今年こそ負けねえと思ったのに!」

 

「また来年に期待させてもらうわ。じゃあおじさん、落とした景品は」

 

「わかってるよ。こんだけの量は荷物になるからな。明日にでも家に持って行くよ。親父さんによろしく言っておいてくれな」

 

「うん、わかった。それじゃ私はそろそろ・・・って、まだいたのアンタ達?」

 

「お、お前・・・凄えな」

 

「別に、こんなの大した事無いわよ」

 

いやいやいや! 十分大した事あるっての! どこのスナイパーだよお前! さっきの俺達どんだけ情けないんだよ!

 

「おいイッセー! リベンジするぞ! せめて一つくらい落とさねえと俺のプライドが許せん!」

 

「いや、アレを見た後にやるのは流石に・・・」

 

「え、アンタ達、まさか一つも獲れなかったの? うわー、ダサーい。何も獲れないのが許されるのって小学生までだよねー」

 

煽るように言って来る桐生。・・・上等だ。そこまで言われて引きさがってられるかよ!

 

「おっちゃん! もう一回やらせてくれ!」

 

「もう小物しか残ってねえけどいいのかい?」

 

「大きさじゃねえ! ゲットする事が重要なんだ!」

 

「そ、そうか。頑張れ」

 

「行けイッセー! お前の力を見せてやれ!」

 

「無駄に熱い展開だが・・・嫌いじゃないぞこういうの!」

 

松田と元浜の声援を背に、俺は銃を構え、一発目を撃った。しかし、玉は景品に当たる事無く壁へと激突した。

 

「くそ! 次だ!」

 

間を開けず二発目を撃つが、これも外れだった。くそ、何でだ! 何で当たらねえんだ!

 

「・・・ああもう! じれったいわね!」

 

三発目の玉に手を伸ばそうとしたその時、いきなり桐生が横から俺の手を取った。

 

「き、桐生さん!?」

 

「アンタは構えからなって無いのよ兵藤! いい? 銃身を持つ手はここ! それと、無駄に銃を突き出す様な態勢じゃバランスが悪いから、多少距離が空いてもちゃんと固定できるように腕をここに・・・」

 

熱心に説明して来る桐生。互いの顔がかなり近づいているのだが、気付いて無いみたいだ。

 

(桐生、まつ毛長いんだな・・・って、こいつ相手に何考えてんだ俺!?)

 

「で、後は景品の重心がどこにあるかわかれば落とせ・・・ッ!?」

 

「き、桐生?」

 

「な、何でもないわ! やるならさっさとやりなさい!(い、いつの間にか兵藤の顔があんな距離に・・・!)」

 

「な、なら、もう一つ聞いていいか。お前だったら残りの景品の中で何を狙う?」

 

「そ、そうね・・・。って、あら、モッピーのキーホルダーがあるじゃない」

 

桐生が興味深そうに見つめる先には、両手を頬に当てながら笑っている黒髪ポニーテールの女の子? のキーホルダーがあった。体が肌色一色だけど・・・服着て無いのか?

 

「モ、モッピー?」

 

「ラビット束っていう人が書いてる漫画の主人公よ。結構人気なんだけど、知らないの?」

 

「は、初めて見た」

 

そのはずなんだけど・・・なんでだろう。夏休み明けに出会った“彼女”になんとなく似ている気がする。

 

「迂闊だったわね。気付いていたら真っ先に落としてたのに」

 

「欲しいのか?」

 

「べ、別にそういうわけじゃないわよ。それより、アレはアンタじゃ無理だから、もう少し大きいヤツを・・・」

 

「いや・・・俺はアレを狙う」

 

「え?」

 

「無理って言われると燃えるタイプなんだよ俺は。だから絶対にアレを落としてやる」

 

「ふ、ふーん。どうせ無理だろうけど、やってみれば」

 

ええっと、持ち方はこうで、構える時は無理に突き出さずにバランスを・・・。

 

「お、なんか様になってるぞイッセー」

 

「ああ、これはいけるかもな」

 

「おりゃっ!」

 

桐生の教えを忠実に守って発射した三発目は、モッピーキーホルダーの中心に当たったが、落とすまでには至らなかった。

 

『モッピー知ってるよ。グルグル眼鏡の女の子は眼鏡を外したら美人さんだって』

 

「「「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!?!?!?」」」

 

「ああ、コイツはおしゃべり機能がついてるんだよ。ホレ、胸の所にボタンがあるだろ。そこへ玉が当たったからしゃべったんだよ」

 

な、なるほど。ちゃんとそういう風に作られてたんだな。知らなかったからビクッたわ。

 

「兵藤! もう少し下を狙いなさい!」

 

「え? あ、わ、わかった!」

 

桐生の指示通り、少し下を狙って四発目を撃つ。今度は景品じゃなくそれを置く台に当たってしまった。

 

「くそ、下げ過ぎた!」

 

「まだ二発残ってる! 諦めるなよイッセー!」

 

「おう!」

 

気付いたらすっかりマジモードになっている俺。そんな俺を応援する松田達にも力が入って来ていた。

 

「・・・ダメだ、外した!」

 

「次でラストか・・・」

 

「イッセー、お前はやれば出来る子だ!」

 

「これで・・・落ちてくれ!」

 

最後の一発がモッピーキーホルダーに命中した。キーホルダーが大きく揺れ・・・やがてパタリと倒れた。

 

「よっしゃあ!」

 

ガッツポーズする俺に、おっちゃんがキーホルダーを渡して来た。

 

「おめでとう。いい勝負が見れて嬉しかったよ」

 

「オッス! ありがとうございます!」

 

「やったなイッセー!」

 

「まさか、射的で感動する日が来るとは思わなかったぞ」

 

「へへ、お前等が応援してくれたおかげだよ。それに・・・」

 

俺は手に入れたキーホルダーを桐生に差し出した。

 

「な、何で・・・?」

 

「俺、このキャラ知らねえし、それに・・・お前のアドバイスが無かったら獲れなかっただろうしな。礼ってわけじゃねえけど、やるよ」

 

「あ・・・」

 

答えを聞かず、俺は強引に桐生にキーホルダーを握らせた。これでいい。いらねえならいらねえで捨てるだろうし。

 

『モッピー知ってるよ。これがフラグだって』

 

「ッ・・・⁉︎」

 

「というか、俺達射的だけで時間潰し過ぎじゃね?」

 

「そ、そうだ! まだ何にも食ってねえし、そろそろ移動しよう!」

 

「とりあえず、無難にたこ焼きから攻めるか」

 

「なら、行きましょう。美味しいタコ焼きのお店がそこにあるわ」

 

「おう・・・って桐生? お前まさか付いて来るつもりか?」

 

「だって、アンタ達三人だけだと何しでかすかわからないもの。クラスメイトとしてきっちり監視させてもらうわよ」

 

「とか何とか言って、本当は一人が寂しいんじゃ・・・」

 

「何か言った?」

 

目にも止まらぬ速さで松田の額に銃を突きつける桐生に、俺達は震えた。目が・・・目がやべえよ。

 

「な、何でも無いッス」

 

「なら付いて来なさい。グズグズしてたら置いて行くわよ」

 

「やれやれ・・・仕方ない。行こうぜイッセー」

 

「おう」

 

こうして、俺達のグループに桐生が加わる事になった。それから四人で色々な店を回ったり、部長や他のグループと鉢合わせたり、見周りをしているという匙に会ったりしていると、気付いたら花火が始まる時間まで残り十分くらいになっていた。

 

「そろそろ花火会場に向かった方がよさそうだな」

 

「じゃあ行こうぜ」

 

「ああ・・・ん? どうした桐生?」

 

桐生の様子がおかしい。右足を庇う様に歩いている。

 

「別に・・・ちょっと擦っちゃっただけよ」

 

そっか。こいつ下駄だもんな。慣れない履き物で歩きまわった所為ってところかな。

 

「おーい! 置いてくぞイッセー!」

 

「ほら、呼んでるわよ。私の事は気にせず行きなさいよ。待ち合わせしてるんでしょ?」

 

・・・ったく、コイツは。

 

「んな寂しそうな顔してるヤツを放って行けるかよ」

 

「は、はあ!? 誰が寂しそうな顔してるっていうのよ! 意味わかんないんですけど!」

 

「いいからほら、乗れって」

 

俺は桐生の前にしゃがみこんだ。それを見た桐生は首を傾げる。

 

「何してんの?」

 

「おんぶしてやるって言ってんの。いいから乗りなさい」

 

「お、おんっ!? 馬鹿言うんじゃないわよ! 何でアンタなんかにおんぶされないといけないのよ!」

 

「足痛いんだろ? 会場まで連れてってやるよ」

 

「お、お断りよ! アンタにおんぶされるくらいなら我慢して・・・!」

 

「ほら、やっぱり我慢してたんじゃねえか」

 

「うっ・・・」

 

「よし、十秒以内に乗らなかったら担いで行くからな」

 

「アンタねえ、女の子を何だと思って・・・!」

 

「くっくっく、それが嫌なら大人しく俺の背に乗るがいい」

 

「・・・馬鹿、変態、スケベ」

 

「はいはい、何とでも言いやがれっての」

 

数秒して、背中に桐生がおぶさって来たので、しっかり足を持って立ち上がる。そして、そのまま花火会場まで俺は歩き始めた。

 

「・・・ありがと」

 

「ああ? なんか言ったか?」

 

「ッ・・・! 変な所触ったら殺すって言ったのよ!」

 

「それは無・・・グエェ!? く、首が・・・!」

 

「ふふ、このまま落としてやろうかしら」

 

(つーか、この密着した背中に感じる二つの柔らかな物って・・・)

 

(やば、急に黙っちゃったけど、やり過ぎたかしら)

 

(き、桐生って結構大きいんだな)

 

(冷静に考えると、今の状況って相当マズいわよね)

 

いつしか互いに無言となり、何とも言えない空気のまま、俺は歩くスピードを速めるのだった。




一万文字以上も使って何書いてるんだろ自分・・・。

すみませんが、もう一話だけお付き合いください。

モッピー可愛よモッピー。 セッシーやニクミーも出したいよ。

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