ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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連休前に病院に行ったら、逆流性食道炎と診断されました。・・・とりあえず、今後はアザゼル先生に少しだけ優しくしようと思います。


第百三十六話 それは小さいけれど大きな変化

「あ、こっちよリョーマ!」

 

俺達の様子を見に来たというロスヴァイセ先生と合流し、混雑を予想して開始時間の三十分前に花火会場へ向かうと、既にリアスやアーシアといった他の子達が会場の一角に揃っていた。

 

「いい場所だ。よく確保出来たな」

 

こういうのって大体事前に場所取りとかしておかないといけないと思うのだが。

 

「大人げないと思うけれど、権力っていうのはこういう時に使わないとね。・・・ところで、それどうしたの?」

 

リアスが示すのは、俺の背におぶさるオーフィスちゃんだった。ここに向かう途中で、彼女の下駄の鼻緒が切れてしまったので、おんぶして連れて来たのだ。

 

「我、裸足でもいい。けど、フューリーに止められた」

 

「普段ならまだしも、今日はどんなゴミが落ちているかわからない。足でも切ったら大変だからな」

 

(『無限』を傷付けられるものなんてあるわけないと思うのだけれど・・・。リョーマはオーフィスをあくまでも“女の子”として扱うつもりなのね。立場や肩書きが全てでは無いけれど、相手との接し方を考える要素の一つである事は間違い無い。けれど彼には・・・かつての世界で、異なる人種、異なる国籍、果ては異星人や異種族とも協力して戦い抜いたリョーマには、余計なものに惑わされずに、その人の本質を見抜く力があるのかもしれないわね)

 

リアスが難しい顔をして何やら考え始めた。そんなに悩ませる様な発言をしたつもりはないのだけど。

 

・・・そういや、この辺りの土地ってリアスが治めてるんだよな。ひょっとして今の俺の発言にこの街のゴミ問題について思う所があったのだろうか。なら、邪魔するのも悪いしそっとしておこう。

 

「神崎先輩。私は日本の祭りがこんなにも素晴らしいものだとは思っていなかった。叶うなら毎日でもやってもらいたいくらいだ」

 

ゼノヴィアさんがパック入りのたこ焼きを片手にホクホク顔で話しかけて来た。その顔を見れば、彼女が今日という日を満喫したのがよくわかる。見ているこっちもなんだか嬉しくなってしまいそうだ。

 

「そういえば、たこ焼きは食べてなかったな」

 

「それは勿体無い! 先輩、是非ともこれを食べてみてくれ!」

 

ゼノヴィアさんがつまようじに刺したたこ焼きを俺に差し出す。え、いいの? そういう事なら遠慮無く頂きます。

 

「どうだ?」

 

「ああ、美味しいよ」

 

「そうだろうそうだろう! 気に入ってもらえてなによりだ」

 

「ちょ、ちょっとゼノヴィア・・・!」

 

そう言って自分もたこ焼きを口に運ぶゼノヴィアさん。すると、突然紫藤さんが彼女を連れて俺から離れてしまった。こっちをチラ見するその顔が妙に赤らんでいるのが気になる。

 

(なんだイリナ? お前も食べたいのか?)

 

(違うわよ! あ、あなた、今自分が何やったかわかってるの!?)

 

(何って・・・神崎先輩にたこ焼きを食べてもらっただけだが。それが何か問題があるのか?)

 

(大ありよ! こ、恋人でもないのにあ、あーんするなんて!)

 

(なっ!? え、あ、ま、待て! 私はそんなつもりでは!)

 

(し、しかも、自分が使っていたつまようじで食べさせて! か、かかかかか間接キッスなんて破廉恥よ!)

 

(ッ~~~~~~~!?!?!?)

 

ちょっ!? ゼノヴィアさんが素手でたこ焼き食べ始めたぞ!? アーシア、ハンカチはいいからまずは止めたげて!

 

「ん?」

 

ふと、視界に地面に座り込む黒歌の姿を捉えた。気になったので近づいてみると、彼女の膝を枕にして、小猫とレイヴェルさんが眠っていた。

 

「黒歌、その二人はどうしたんだ?」

 

「あ、ご主人様。心配しないで。勝負だっていって、色んなゲームで競い合ってすっかり体力を使い果たしちゃったみたい。傍で見てたけど、あれだけはしゃげば無理もないけどね」

 

「・・・焼き・・・鳥・・・」

 

「・・・猫又・・・娘・・・」

 

「ふふ、ホントにしょうがないんだから・・・」

 

微笑みを浮かべつつ、眠る二人の頭を優しく撫でる黒歌。その姿は、姉であると同時に、どこか母を思わせるものであった。

 

「お待たせしました」

 

とそこへ、アーサーさん達のグループが姿を現した。だが、その中に美猴さんの姿が見えない。まさか、あの人だけはぐれてしまったのだろうか。

 

「木場君、美猴さんはどうしたんだ?」

 

「あの人でしたら・・・」

 

「ご、ごめんなさいぃ! 僕が悪いんですぅ!」

 

いきなり謝罪するヴラディ君。流石にそれだけではわからないので、詳しい事情を聞いてみる事にした。

 

「美猴は嫌がる彼にニンニクラーメンを食べさせようとしました。美猴にとってはただの悪ふざけのつもりだったのでしょうが、どうも他の方々にはそうは見えなかったみたいで」

 

つまり、嫌がる少女(ヴラディ君)にちょっかいを出そうとする変質者(美猴さん)だと誤解され、リアル「警備員さんコイツです」されてしまったらしい。

 

「なので、今彼がどこにいるかは私達もわからな・・・」

 

「いいかげん観念しろ変質者!」

 

「だから誤解だっていってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

どこからかそんな声が届いて来た。

 

「・・・ともかく、そういう事です」

 

「む、迎えにいかなくていいんですか?」

 

「放っておきましょう。どうせ捕まらないだろうし、美猴にはいい薬だわ」

 

いいのかよ! ヴァーリさん、美猴さんにちょいと厳しくないですか? 俺があの人の立場だったら泣いてるわ。

 

「それよりルフェイ。あなたそのお面どうしたの?」

 

アーサーさんの背後から顔を覗かせるルフェイさんは、日曜朝八時の戦うヒロインのお面を被っていた。

 

「どうやら、顔を隠せば騎士殿と話が出来ると思っていたみたいですが・・・この様子では意味が無かったみたいですね」

 

「うう、だって恥ずかしいんだもん」

 

「お~~う! お前等こんなところにいやがったのか~~~!」

 

ハイテンションながら呂律の回っていない声に俺達が振り向くと、レイナーレさんに支えられたアザゼル先生が、ビールの缶を持った手を上げながらふらふらとこちらへ歩いて来ていた。その後ろを心配そうな顔をしたカラワーナさんとミッテルトさんがついて来る。・・・なんであの二人、ボロボロになってるんだろう。

 

「だ、大丈夫なのですか、アザゼル様?」

 

「ああ? 何がだよレイナーレ? 俺ぁこの通り絶好調だぜぇ? んぐ・・・ぷはあ!」

 

いつものワイルドイケメンな感じはどこへやら。完全に酔っ払いと化したアザゼル先生が缶ビールに口をつける。羨ましくなるくらい幸せそうな顔だな。

 

「なんだか、あそこまで酔っぱらったアザゼル先生を見るのも久しぶりな気がするな。やっぱり、祭りの空気がそうさせたんだろうか」

 

「・・・飲めなかった原因はあなたなんだけれどね(ボソ)」

 

「リアス? 何か言ったか?」

 

「ううん、何でも無いわ。まあ、今日だけは先生もハメを外したくなったんでしょうし、好きなだけ飲ませてあげましょうよ」

 

そうだな。普段お世話になりっ放しだし、こういう時くらいはのんびりしてもらいたいしな。そう思っている間に、アザゼル先生は前の方へ腰をおろしてビニール袋から二本目を取り出した。

 

「いたいた! おーい、みんなー!」

 

続けて、松田君と元浜君が駆け足でやって来た。

 

「二人とも、イッセー君はどうしたんだい?」

 

「ありゃ? そういやアイツがいねえ。おい元浜、イッセーは?」

 

「わからん。桐生と何か話しているのは見たが。まあ、心配しなくてもすぐやって来るだろう」

 

これで兵藤君と美猴さんを除いた全員が集まった。腕時計を確認すると、花火の打ち上げ開始時間までもう十秒も無かった。

 

『皆さま、お待たせいたしました。これより、花火の打ち上げを開始させて頂きます』

 

「お、始まるぞ!」

 

大勢の人々の見守る中、ついに花火の打ち上げが始まった。雲一つ無い夜空に、様々な色の大輪の花が次々に咲き誇っていく。その迫力、その美しさに、俺達はただただ見惚れた。

 

「・・・不思議だわ。アレは言ってしまえば火薬を爆発させているだけ。なのに・・・私はそれを綺麗だと感じている。私にとって、何の益にもならないもののはずなのに、私は今、こうしてアレを見ている事をとても嬉しいと思っている。何でかしらね」

 

うーん、無駄な物に幸せを感じるって、何やら哲学的な話っぽいな。けどまあ、正直な所、そんな難しい事は考えなくてもいいと思うよヴァーリさん。

 

「綺麗なものは綺麗・・・それでいいんじゃないかな」

 

「・・・そうなのかしら」

 

「きっとな」

 

というか、そうじゃないと、この花火を見てひゃー! とか、すげー! とかしか思って無い俺が馬鹿みたいじゃないですか!

 

「・・・ありがとう、亮真。あなた達のおかげで、人間界の暮らしを満喫出来たわ。ずっとこっちにいたくなってしまうほどにね」

 

「ならまた遊びに来てくれ。俺はいつでも歓迎するよ」

 

「ふふ、そうなるとアザゼルに怒られちゃいそうね」

 

ヴァーリさんの笑顔が花火に照らされる。この子・・・こんな風にも笑えるんだな。

 

「ヴァーリ、フューリーと一緒の時、よく笑う」

 

「え?」

 

「フューリーの周り、みんな笑う。アーシア、黒歌、みんな笑顔。ヴァーリも笑う。我は笑わない。どうして笑うのかわからない。我、静寂を求める。フューリーの周り、静寂じゃない」

 

ここまで饒舌なオーフィスちゃんは初めてだった。この子から何かを伝えたい気持ちが伝わって来る。俺は一字一句聞き逃さない様集中した。

 

「我、次元の狭間、『禍の団』にいた時には知らなかった事、たくさん知った。キスをすると幸せになる。マダオの中のマダオを極めた。独りでは気付かなかった事、気付いた」

 

これまでの思い出を、一つ一つ丁寧に口にしていくオーフィスちゃん。俺もその場面を思い出しながら彼女の話を聞き続ける。

 

「フューリーと過ごす。我の中、知らない感情が生まれた。理解出来ない。言葉に出来ない。でも、不快じゃない。この感情の正体、我は知りたい。次元の狭間に帰るより、静寂を得るより、我はこの感情が何なのか知りたい。フューリー、ヴァーリ、我は知りたい」

 

・・・何となくだが、俺にはその答えがわかった。自惚れで無ければ、オーフィスちゃんはたぶん・・・。

 

「・・・それが“楽しい”という感情よオーフィス」

 

「楽しい・・・?」

 

「亮真の家に住む事で、あなたは初めて他者との“触れ合い”を経験した。一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、一緒に寝る。それは、次元の狭間に独りでいても、『禍の団』にいても経験出来なかった事。『無限の龍神』でも、『禍の団』のトップでも無く、ただのオーフィスとして亮真達と過ごす事で初めてあなたは“孤独”では無くなった。そして、他者との触れ合いの中で、自分以外の誰かと一緒にいる事の“楽しさ”を知った。それが、あなたの言う感情の正体よ」

 

「・・・わからない」

 

「わからなくていいの。あなたはもうそれを“知った”。頭では無く、心でね。それでも不安だっていうのなら、また亮真の家に遊びに行けばいいわ。あなたがそれを理解出来るまで、何度でもね」

 

「フューリー。我、またフューリーの家に行ってもいいのか?」

 

最早答える必要も無いだろうが、俺はオーフィスちゃんにハッキリ告げた。

 

「もちろんだ。さっきヴァーリさんにも言ったが、いつでも遊びに来てくれ。キミはもう、俺の日常の一部・・・大切な友人の一人なんだからな」

 

初めて顔を合わせた時、この子は俺の日常に入りたいと言った。その為にわざわざこうして俺を訪ねて来てくれた。むしろこっちからお願いしたいくらいだわ。

 

「そうか。今なら少しわかる。それは・・・嬉しいこと」

 

「ッ・・・。オーフィス、あなた今、笑って・・・」

 

え、ちょ、マジで!? 超見たいんですけど! ええい、おんぶしてるから見えねえよちくしょうがぁ! 誰かカメラ貸してくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

SIDE OUT

 

 

 

リアスSIDE

 

「・・・ねえ、あの三人から溢れる親子みたいな空気は何なの?」

 

私達は花火そっちのけでリョーマ、ヴァーリ、そしてオーフィスの三人の様子を凝視していた。

 

「納得いかないわ、髪色的に、私の方が違和感ないと思うのに」

 

「そ、それなら私も・・・!」

 

朱乃とレイナーレの発言は無視するとして・・・。いいかげんあの空気を何とかしないとマズいわね。

 

「(お願いだから、無限龍にまでフラグは建てないでちょうだいね)」

 

私は心の中で強くそう願うのだった。

 

リアスSIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

「始まっちゃったわね」

 

会場まであと少しという所で、打ち上げが始まってしまった。

 

「だから言ったのよ。私なんか置いていけばよかったって」

 

「ったく、まだそんな事言うのかお前は」

 

「・・・ゴメン。私が言っていい事じゃなかったわね」

 

ああくそ、調子狂うぜ。いつものコイツならこういう事言わねえはずなのに。どんだけ俺に対して悪いと思ってんだ。

 

「まあ、気にすんなって。一応、目的は果たせたしよ」

 

「目的?」

 

「おう、女の子と一緒に花火を見るって目的をな。まあ、相手がお前だって事は目を瞑るとしてだが」

 

「しっつれいねアンタ。私だってアンタなんかじゃなくて彼氏と一緒に見たかったわよ」

 

「え、お前って彼氏いんの?」

 

「そ、それは・・・まだいないけど」

 

「だと思った」

 

「な、何よ! そういうアンタだっていないんでしょう!」

 

「おい、何で決めつけるんだよ!」

 

「ふん、ちょっと評価が良くなったからって、アンタが変態なのは相変わらずなんでしょう」

 

評価が良くなった? 何の話だ?

 

「・・・ね、ねえ、もしかして、ホントに彼女いるの?」

 

何でそこまで気にするんだコイツ? そんなに俺を笑いのタネにしたいのか?

 

「・・・ねえよ」

 

「え?」

 

「だから、いねえって言ってんの! これで満足かよちくしょう!」

 

うう、何で馬鹿正直に答えてんだよ俺!

 

「ふ、ふうん。そっか、いないんだ。ま、そりゃそうよね。アンタに彼女とか、かなりの物好きじゃないと絶対無理だもんね」

 

「この野郎、嬉々として傷口に塩をぐっ!?」

 

「誰が嬉しがってるって言うのよ!」

 

「だ、だから首は止めろってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

もうやだ、何なのコイツ。誰でもいいから代わってくださいよ!

 

『モッピー知ってるよ。いつか素直になれる時が必ず来るって』

 

「うわっ!? ビ、ビックリした。おい桐生、いきなりモッピーキーホルダーのボタン押すなよ!」

 

「私、押してないわよ?」

 

「・・・え?」




これにて日常回終了、次回からサイラオーグさんとのレーティングゲームに入ります。

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