ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百三十八話 せきりゅーてーが託されたもの

イッセーSIDE

 

試合開始を間近に控え、俺は一人サーゼクス様のいるというVIPルームへとやって来ていた。さっき控室へ現れたライザーから、サーゼクス様が俺に話があると聞いたからだ。

 

それにしても、あのムカつくホストキャラだったライザーが随分と変わってたな。正直、以前のアイツを知っている身としては、違和感ありまくりでちょっと気持ち悪かったわ。なのに、部長ってば「サイラオーグに続いて、またあなたのライバルが増えたわね」なんて俺に言うんだ。今回の対戦相手であるサイラオーグさんはまだわかるけど、ライザーは何のライバルだって言うんだろう?

 

「よく来てくれたね、イッセー君。試合前で集中したいはずだろうに」

 

おっと、いかんいかん。焼き鳥野郎の事なんかより、今はサーゼクス様とのお話の方が大事だ。

 

「お気遣いありがとうございます。ところで、こうしてお邪魔しておいてなんですが、部長じゃなくて俺でいいんですか?」

 

「ああ。話がしたいのはリーアじゃなくキミだからね」

 

「お、俺、何かやらかしちゃいました?」

 

「はは、そうじゃないよ。むしろキミにはお礼を言いたいんだ」

 

「お礼・・・ですか?」

 

「・・・ありがとう、イッセー君。キミ達のおかげで、京都での英雄派の計画は阻止され、妖怪達との協力体制を築く事が出来た。私達の目指す平和と安寧の未来へまた一歩進む事が出来たのは、キミ達が命がけで戦ってくれたからだ。本当に感謝しているよ」

 

引き締まった表情で頭を下げるサーゼクス様。魔王様が下級悪魔に頭を下げる。そのありえない姿に、俺は慌てて声をかけた。

 

「あ、頭を上げてくださいサーゼクス様! 俺なんかにそんな・・・!」

 

「なんか・・・ではないよ。キミ達の功績はキミ達が思っているよりもずっと大きいんだ。これはまだリーアにも話していないのだが、キミや他の眷属の子達の何人かには、四大魔王及び上層部による協議の元、昇格の推薦が発せられる予定になっている」

 

「はあ、昇格ですか・・・。って、えぇぇぇぇぇぇ!? し、昇格って、俺がですか!?」

 

降って湧いた話に、俺は間抜けにも繰り返すだけだった。いや、だって昇格って。そりゃいつかは出来たらいいなとは思ってたけど、このタイミングでですか!?

 

「驚く事は無い。キミ達がこれまで重ねて来た功績というのはそれだけのものなのだからね。聞けば、京都で新たな力の発現に成功したそうじゃないか。実力で言えば中級などとっくに通り越して上級レベルと言っても差し支えないだろう。それだけのものを持つキミ達が、下級のままでいるのもおかしい話だからね」

 

「あ、えっと・・・ど、どうもです」

 

サーゼクス様のべた褒め攻撃に、気の利いた返しも出来ずただ頭を下げるだけの俺。魔王様直々のお褒めの言葉とか、俺なんかには勿体無さ過ぎだろ。

 

「で、でも、サーゼクス様は功績と言ってくださいましたけど、正直、俺達はただ俺達の使命を果たすというか・・・自分達の命を守る為に英雄派と戦っただけで、結果的に京都は守られたというか・・・」

 

それに、連中へ決定打を与えたのは、俺達じゃなくスコルだしな。今も目を瞑れば、褐色肌の妖艶な美女が英雄派の幹部や構成員達を火達磨にするあの光景が鮮明に思いだせる。あれが本当の地獄絵図って言うんだろうな。

 

「・・・キミはどうも自己への評価が低い傾向にあるようだ。結果的だろうとなんだろうと、キミ達が守ったという事実は変わらない。そこは素直に誇るべきだよイッセー君」

 

「あはは、まあ、周りにいる才能の塊みたいなヤツ等に比べたら、俺なんて全然ですからね。置いてかれない様必死に食らいついてますよ」

 

「自分の未熟さを受け入れ、それでも高みを目指し努力を続ける。・・・それも立派な才能だ。キミも・・・そして“彼”もな」

 

「・・・サイラオーグさんの事ですね」

 

あの人の過去は俺も部長から聞いている。滅びの力を持たずに生まれながらも、血の滲むなんて言葉じゃ収まらないほどの壮絶な努力を重ね、今の実力を得たサイラオーグさん。俺があの人の立場だったら間違い無く途中で挫折しているだろうな。でも、サイラオーグさんはそうじゃなかった。蔑まれながら、疎まれながら、それでも自分を鍛え続けた。その姿は、一人の悪魔・・・いや、一人の男として、とても尊敬出来るものだった。

 

「今日の試合は冥界全土に生中継される事になっている。・・・実力さえあれば出自など関係無く伸し上がれる冥界を目指すサイラオーグ。転生悪魔でありながら、メキメキと頭角を現して来たキミ達。今回のゲームは一部で代理戦争だと囁かれているらしいが、私はこう言わせてもらいたい。今回のゲームは・・・キミ達と同じ下級悪魔、そして転生悪魔達にとって夢や希望の込められた試合だと」

 

「夢や希望・・・」

 

「特にイッセー君。「それいけ! せきりゅーてー」のモデルであるキミは冥界の子ども達にとってまさに夢と希望の象徴なんだ。放送局には子ども達からキミへファンレターがたくさん送られて来ているそうだ。セラフォルーも驚いていたよ。まさか、ここまで人気が出るとは思ってなかったらしい」

 

そう言って、サーゼクス様は俺に手紙を数枚手渡して来た。一枚一枚に目を通して行くと、子どもらしい拙い文字で色々な事が書かれていた。

 

『せきりゅーてーがすききらいしたらしたらダメだっていうから、にがてだったおやさいもがんばってたべるようになったよ!』

 

『ぼくはなんでもすぐにあきらめてしまいますが、いまちょうせんしていることはぜったいにあきらめずにがんばろうとおもってます。じゃないと、せきりゅーてーになぐられちゃうから!』

 

『おおきくなったらせきりゅーてーみたいになってパパとママをまもりたいです!』

 

「これ・・・こんな・・・」

 

言葉が出なかった。手にしている手紙がもの凄く重く感じる。これが・・・この重さが、自分じゃない誰かの夢を背負う重さなのか・・・?

 

「どうだい、初めてのファンレターは?」

 

「・・・俺は、自分の夢に対する答えもまだ出せていない半端野郎です。正直、今の俺には荷が重すぎます」

 

「そうか・・・」

 

「けど、これだけはわかります。半端野郎だろうがなんだろうが、これは絶対に投げ捨てちゃいけないものだって。俺は、この手紙の重さを・・・この手紙に込められた子ども達の想いを背負えるだけのヤツにならないといけないんだと思います」

 

俺の答えに、サーゼクス様は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「・・・やはり、キミは神崎君によく似ているな」

 

「先輩と俺がですか? いやいや、あんな完璧超人と俺に共通点なんて・・・」

 

「夢を大切にして、それを守る為に戦う。今、子ども達の夢の為に決意を固めたキミを見て、私は神崎君を重ねてしまった。もしかしたら、彼の背中に追いつけるのは、キミの様な者なのかもしれないな」

 

「サーゼクス様・・・」

 

「さて、長々と話をして済まなかったね。キミもそろそろ戻るといい。若手悪魔達の全力のぶつかり合い、期待させてもらうよ」

 

俺はVIPルーム後にした。昇格の話、子ども達の夢の話、色々考えさせられる内容ばかりだったけれど、ここからは試合に向けて集中しよう。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

ゲーム開始を目前に控え、俺達は試合会場となるドームの入場ゲート前に集まっていた。ゲートの向こうからは会場の熱気と共に観客の怒号にも似た歓声が聞こえて来ている。

 

ゼノヴィアと朱乃さん以外はみんな駒王学園の制服を着ている。けど、この制服はゲーム用の特別仕様であらゆる攻撃に対する防御力が高められている。無敵ってわけじゃないけど、普通の制服よりは遥かにマシってわけだ。

 

ゼノヴィアは以前から愛用している自前の戦闘服。そして朱乃さんは・・・何故か巫女服だった。前にお家にお邪魔した時に着ていた物と同じっぽいヤツだ。その姿で懐からお札を取り出す様は、ゲームなどでお馴染の退魔士みたいに見えた。タイトルをつけるなら『退魔士アケノ』って感じ? ・・・名前をカタカナにした意味は特にありませんです、はい。

 

「凄まじい歓声だな。試合開始前からこの熱気は異常とも思えるが・・・」

 

「無理も無いさ。なにせ、今回はゲストも含め、色々豪華だからね」

 

「ディハウザー・ベリアル。そして神崎先輩・・・」

 

「“皇帝”と“騎士”の共演というわけね。特にリョーマは『鋼の救世主』発表から初めて公の場に出て来たわけだから、大変でしょうね」

 

「うう、今からその中へ向かう事を考えるだけでもう・・・」

 

ゼノヴィア達が口々に感想を漏らす。ギャー助以外は緊張している様には見えないし、ギャー助も例の段ボールを持って来てない辺り成長しているようだ。

 

「みんな、試合開始前に聞いて欲しい事があるの」

 

部長が俺達一人一人の顔を見渡す。自然と俺達は背筋を伸ばしていた。

 

「私達は前回のレーティングゲームで醜態といってもいい結果を出してしまった。だけど、あの時の私達と今の私達は違うわ。例え相手が若手ナンバーワンと言われているサイラオーグだろうと、私達ならきっと勝てるはず。いえ、必ず勝ってみせるわよ」

 

「当然です」

 

「私はこの試合で汚名を払拭してみせる」

 

「ふふ、リョーマの見ている前で二度も無様な姿は晒せませんわ」

 

「・・・やってやるです」

 

「あ、当たって砕けますぅ!」

 

それぞれに決意を口にする木場達。その時、ゲートの向こうからアナウンスが聞こえて来た。

 

『では、両チームに登場してもらいましょう! まずは・・・東口ゲートからサイラオーグ・バアルチームの登場です!』

 

声援に歓声。バアルチームの入場で会場は大きく震えた。

 

『そして西口からは・・・リアス・グレモリーチームの入場です!』

 

「出番ね。行くわよみんな!」

 

部長が先頭に立って進み始める。そういや、俺だけ決意表明してないな。俺は早足で部長に近づき、そっと呟いた。

 

「部長、俺、この試合で自分の全てを出し切ってみせます。だから、みんなと一緒に見ててください。俺の・・・夢の形を」

 

この試合の中で、俺は一つの答えを得る事になるだろう。予感ではなく、俺はそう確信していた。




イッセーの夢は、これまで関わって来た人達に関わるものです。仲間、ライバル、敵、目標、守るべきもの・・・それら全ての為に自分はどうなりたいのか。答えはシンプルです。というか、原作でも口にしています。だけど、そこに至るまでの考えは変わります。

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