ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
「―――以上で今回の試合におけるルール、ダイス・フィギュアの説明を終わります!」
丁寧に時間をかけたルール説明をそう締めくくるガミジンさん。とりあえず整理すると、お互いの『王』がサイコロを振って、出た目の大きさで戦う人や人数が決まるって事でOKな感じか? レーティングゲームには色んなルールがあるって前にリアスが言っていたが、こう考えると俺がDと戦った時のルールってかなりシンプルだったんだな。最も、あの時はペロリスト共の乱入でゲームどころじゃなくなったが。
「以上のルールを踏まえた上で、両アドバイザーにお聞きします。ズバリ、今ゲームの見所や期待する所はどんな所でしょうか? まずはアザゼル総督、お願い致します!」
「そうですね。アイツ等・・・失礼、グレモリーチームは、前回のソーナ・シトリーとのゲームで随分不甲斐無い結果を出してしまいました。ですが、本人達はしっかり反省し、今日まで己を鍛え直して来ました。その結果を今回は見せてくれると思います」
「なるほど! これは期待大ですね! では、続いてベリアル氏、お願いします!」
「サイラオーグ選手は心技体、全てにおいて『王』として相応しい人物です。その実力はチーム最強でもありますが、決してワンマンというわけではありません。彼の眷属達にも注目してもらいたいです」
「サイラオーグ選手には“とっておき”があると窺っていますが?」
「ああ、“あの技”の事ですね。威力だけで言えば・・・おそらく一撃必殺は確実でしょうが、あまり実戦的向きではないので、この試合で使うかどうかは彼次第です」
「おおっと! 何とも興味をそそるお言葉! 果たしてサイラオーグ選手の“とっておき”は炸裂するのか! これも期待が高まります!」
興奮を隠しきれない様子のガミジンさんの煽りに、観客達のボルテージも上がって行く。等と呑気に観察していたら、ガミジンさんの目が俺を捉えた。
「この流れで神崎氏にもお聞きします! 神崎氏の目からご覧になりまして、両チームはどのような感じなのでしょう!」
ッ・・・! アザゼル先生の言う通り、やっぱり俺にも質問が来たぞ。やべえ、緊張して来た。果たして俺に先生の指示通りの受け答えが出来るだろうか・・・。
―――教師なんてやるようになった所為か、懸命に努力する若いヤツ等を見てるとどうもお節介焼きたくなっちまうんだよな。
・・・何を弱気になってるんだ俺は。あれだけ若者の未来を考える、正に教師の鏡の様な人が俺に頼んで来たんだぞ。これに応えなきゃ男じゃない。
思い出せ、この世界に来て最初の頃、アル=ヴァンモードではっちゃけまくっていた俺を! あの時に比べれば、ただ質問に受け答えするだけなんだ。何とかなる!
俺は決意を固め、二度と外すまいと決めた自重という名のリミッターを今一度解除した。
SIDE OUT
アザゼルSIDE
「この流れで神崎氏にもお聞きします! 神崎氏の目からご覧になりまして、両チームはどのような感じなのでしょう!」
さて、狙い通りの流れになったな。後はフューリーの野郎が打ち合わせ通りやるかどうかで決まる。
実況アナウンサーの質問に対し、フューリーはまずグレモリーチームの面々について相変わらずの歯の浮く様なセリフを混ぜながら語り始めた。・・・まあ、観客達を話に惹きつける効果はあったみてえだな。観客達がヤツの言葉を聞こうとあっという間に黙りこみやがった。
「ありがとうございます! やはり人間界で同じ学園の通う仲という事で、グレモリーチームのみなさんについてはよくご存知のようで! それではバアルチームはいかがでしょう?」
「お答えしたいのは山々ですが、自分はサイラオーグさんの眷属の皆さんについてはあまりよく知らないんです。なので、申し訳ありませんが、サイラオーグさんについてだけお話させてもらってよろしいでしょうか?」
「お願いします!」
「彼は、“謹厳実直”な性格で、立ち振る舞いは“質実剛健”、自らの夢を堂々と語る姿はまさに“志操堅固”。尊敬の意味で使われる“男が惚れる男”という言葉がこれほど似合う人もいないでしょう。若手悪魔のみなさんの会合の場で初めて顔を合わせた時から、自分はずっと彼にそんな印象を持っていました」
(お前は別の意味で一部の冥界の野郎共から惚れられてるみてえだがな)
それはともかくとして、俺の指示その一“とにかくサイラオーグを褒めまくる”をちゃんと実行したな。お前が褒めれば褒めるほど、サイラオーグはそれだけの逸材だと他の悪魔達に印象付ける事が出来る。しっかりやれよフューリー。
「神崎氏は随分とサイラオーグ選手を買っているのですね!」
「ええ。サイラオーグさんを見ていると、どうしても“ある人物”を思い浮かべてしまいまして」
「ある人物とは?」
おっと、その一を終えたと思ったらもうその二に移るつもりか。実況アナウンサーに促され、フューリーは静かにその人物について話し始めた。
―――それは、特別な力を持たずとも、真っ直ぐに、ひたむきに努力し、ついには一般人では決して越えられないはずだった限界を越え、真の強さを手に入れた男の物語だった。戦火に巻き込まれ、偶然戦う力を得たその男は、平和の為に集った者達と共に戦う道を選んだ。
「ですが、彼は戦いとは無縁の生活を送っていました。ですから、最初の方は随分と苦労していたんです」
そんな男が戦えた理由・・・それはその男が得た力に備わっていたシステムの恩恵のよるものだったらしい。
「ですが、そのシステムの本当の役目は彼の潜在能力を引き出し、力を振るうに相応しい“兵士”へ変える事だったんです。結果、彼はそのシステムに支配され、仲間に牙を剥きました」
暴走を仲間に止められた男は、システムを封印して戦う事を決めた。その決意に応えた仲間達との特訓により実力を増していく男だが、一般人であった男には苦労も多く、仲間に助けられる場面も多く、いつしか面子に拘るようになり、ついには何故自分が戦いの道を選んだのか、そのきっかけさえも忘れてしまっていた。
「彼は仲間達の元を去ろうとしました。ですが、街を・・・人々を傷付ける敵を目の当たりにして、彼は思い出したんです。どうして強くなりたかったのか。それは、こんな非道を行う外道が許せなかったから。そんな外道に虐げられる人々を守りたかったからなんだと」
戦う理由を思い出した男は新たな力と共に、迫り来る百の敵をたった一人で壊滅させた。そこにいたのは最早ただの“一般人”ではなく、燃え盛る闘志を胸に戦う“戦士”だった。
「けれど、彼には最後にもう一つだけ、越えなければならないものがあったんです」
とある敵との戦いに男は敗れた。それは、男が百パーセントの力を発揮出来なかった事による敗北だった。だが、百パーセントの力で戦えば、それは男の崩壊を招く事になると仲間達は告げた。
「仲間は彼にこう言いました。以前の力を野球のボールとするならば、今の彼の力はボウリングの球だと。どれほどの速度でも前者であればぶつかっても跳ね返る。だが、後者はぶつかれば砕け散ってしまう。その様な状態で全力など出せるわけが無い。ただ一つ・・・システムを使わない限りは」
そして男は封印していたシステムを解放させようとした。けれど、最後の最後で踏みとどまった。システムを使ってしまえば、それはもう自分の戦いでは無くなってしまうからと。
「これまでの努力、仲間達の想い、そして、胸に抱く闘志。文字通り、己の持つ全てを発揮して放った彼の一撃は・・・まさに“神の雷”のごとく敵を貫きました」
「で、ですが、全力を出せば崩壊してしまうと・・・」
「それを避ける方法がたった一つあったんです」
「そ、それは?」
「全ての力を一点に集中し、完全に真芯で相手をとらえる事です。常に動きまわる実戦においてそれを見極め、かつ正確に撃つ・・・彼はそれをやってのけたんです」
己の力のみで手にした神技。それは男がシステムを・・・定められていた限界を越えた瞬間だった。
「・・・私も会ってみたいですね。その青年・・・いや、戦士に。ひょっとして、彼は『鋼の救世主』の一員なのでは・・・?」
「・・・ご想像にお任せします」
言葉を濁すって事は認めてるって事だぜフューリー。例の悪魔王ほどのインパクトは無かったが、それでも驚くには十分だったな。ったく、ヤツの世界じゃ一般人ですら最終的にそんな達人レベルになっちまうのかよ。
「話は戻りますが、神崎氏はその戦士とサイラオーグ選手を重ねているという事ですね?」
「滅びの魔力を持たずとも、サイラオーグさんは努力を重ね続け今の実力を身につけた。・・・彼はよくブレイクスルーという言葉を口にしていましたが、サイラオーグさんはサイラオーグさんのブレイクスルーをいつか成し遂げるはずです」
ブレイクスルー・・・解明や進歩って意味でも使われるが、その男には限界を“突き抜ける”って意味の方が似合ってるな。そして、それはサイラオーグにも。
(さて、指示その二の“鋼の救世主に関連づけて話す”もクリアだ。話題性が絶頂期の今、多少強引でも悪魔達の食いつくネタを入れられればと思ったが・・・フューリーめ、強引どころかサイラオーグに上手く合わせやがって。そんじゃ、止めと行きますか。
「失礼、発言してもいいですか」
「どうぞ、アザゼル総督」
「私、人間界では教師をやっておりまして、ここにいるフューリー氏やグレモリーチームの学園に赴任しているのですが、私の耳にもフューリー氏がサイラオーグ選手を高く評価していると届いています」
「そうなのですか?」
「ええ、何せ・・・叶うのなら弟子にしたいと言わせるくらいですからね」
実際はサイラオーグから弟子にして欲しいと言って来たんだが、ここにゃ真実を知る者は俺とフューリーしかいねえ。嘘だろうがハッタリだろうが言ったもん勝ちだぜ。
弟子にして欲しいと弟子にしたいでは意味が全然違って来る。指示その一、及び指示その二でヤツが語った内容と、今の俺の弟子発言で、「サイラオーグは伝説の騎士にそこまで言わせるほど期待されている」とこれを見ている悪魔達は思うだろう。そうなればサイラオーグ・バアルという悪魔の“価値”を疑う者はフューリーの言う“くだらない面子やプライドを持つ連中”以外ほぼいなくなるだろう。
「フューリー氏は夢を持つ者やそれに向かって努力をする者を尊重しますからね。逆に、それを嘲笑う者や壊そうとする者は絶対に許しません。ですよね、フューリー氏。もしも・・・ええ、本当にもしもの話ですが、今回の試合の結果次第でサイラオーグ選手を見限ったり切り捨てる様な連中がいるとしたらあなたはどうしますか?」
わざとらしく質問する俺に、フューリーは満面の笑みで答えた。
「潰します」
・・・怖えよ馬鹿。つーか潰すってなんだよ。その笑顔も含めて、俺は好きになれないとか、許せないとかそんくらいのレベルで嫌悪感を見せろって言ったはずだろ。・・・この前の祭りでビール飲んでなかったら多分エライ事になってただろうな俺・・・。
「まあ、あくまでももしもの話ですけどね」
「そうですよ、アザゼル先生。まさか、サイラオーグさんみたいに立派な人を見限る様な者なんているはずないですよ」
「ですよね」
「ええ、そうですよ」
「「はははは」」
ふむ・・・これくらいやりゃあいいか。最後の発言が少し過激だったが、フューリーはサイラオーグの味方の立場だと明確に示す事が出来た。・・・ふと思ったが、くだらねえ連中とパイプを築くより、フューリー一人バックにいる事にすりゃそれだけでもう十分じゃねえか?
(ま、俺がそこまで考える必要はねえか。後は他のヤツ等の考え次第だしな)
そう結論づけた俺はふとスタジアムを見渡してみた。
「・・・なんだありゃ?」
俺達の真正面・・・そこに蒼いローブを纏った謎の集団がいた。つーか待て、あの最前列にいるのってカテレアじゃねえか。
「まさか、アレがサーゼクスの言っていた連中か?」
おいおい、サラッと見ただけでも百人以上いるじゃねえか。あの怪しさでよく入って来れたな。
「第四勢力の誕生・・・冗談じゃ済まなくなるかもな」
アザゼルSIDE OUT
サイラオーグSIDE
モニターの向こうで神崎殿と総督殿が笑い合っている。
「サイラオーグ様、フューリー殿はもしや・・・」
わかっている。神崎殿は俺の為にあのような発言をしたのだ。下手をすれば上級悪魔達と溝が出来るかもしれないというのに。
「憶えているか、お前達。あの会合の席で、ソーナ・シトリーの夢を笑った上層部の者達へ神崎殿が向けたものを」
「幻視してしまうほどの強烈な殺気・・・忘れるわけがありません」
「私は、騎士殿のあの笑顔に、あの時の騎士殿と同じものを感じてしまいました。騎士殿はそれほどまでに我が主の事を・・・!」
「どうしたベルーガ。何故声を振るわせる?」
「私は嬉しいのです! 伝説の騎士殿に我が主君を認めて頂いた事がこの上なく嬉しいのです!」
「僕も同じです。サイラオーグ様は人間と交じってまで生きながらえた僕達の一族を受け入れてくれた。認めてくれた」
「なのに、そんなサイラオーグ様を認めてくれる者は少なかった。それが許せなかった。我等の『王』は他のどの『王』よりも優れているというのに・・・」
「けれど、今はもう違う・・・!」
「ええ。伝説の騎士に認められた。それだけで万の味方を得た様な気分です」
「・・・そうか」
「サイラオーグ様?」
先程から込み上げて来るこの感情は。全身を走る熱さは。漲る力の正体は・・・。
「今わかった。俺は神崎殿に認められた事が・・・嬉しいのだ」
母上や眷属以外の他人からあれほどまで純粋な称賛を受けた事が今まであっただろうか。少なくとも、俺の記憶の中には存在しない。レーティングゲームで勝利した際に観客から浴びる歓声とはまた違う。なんと言えばいいのだ・・・。
「ふふ、サイラオーグ様、子どもみたいな目になってますよ」
「なに?」
「まるで憧れていたヒーローに会えた子どもみたいな・・・」
「・・・ああ、そうだな。神崎殿は間違い無く、俺の尊敬する真の騎士だ」
「では、そんな方にみっともない姿は見せられませんね」
「ふっ、そうだな」
相手はリアスだ。北欧の悪神や聖槍を持つ英雄との戦いを潜り抜けたアイツ等の実力は相当なものなのだろう。だが、そんな事は関係無い。俺は・・・俺の眷属達は誰が相手だろうと必ず勝つ。
「誰であろうと俺の野望を阻ませはせん! 立ちはだかるものはこの拳で撃ち貫くのみ!」
オリ主の大激励によりバアルチームの気力が上昇した様です。