ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百四十三話 グレモリーVSバアルその裏で・・・

「塔城選手とバラム選手の対決はまさかの共倒れ! 波乱に満ちてまいりました!」

 

勝負もまさかだったけど、それ以上に小猫の変身の方が驚きだったわ。彼女も将来は姉の様に破壊力抜群なスタイルになるのか。知りたかった様な知りたく無かった様な・・・。

 

リアスとサイラオーグさんがダイスを振りに出て来た所で、変な胸騒ぎがした。アル=ヴァンセンサー・・・とは違う。上手く言葉に出来ないが、俺達が通って来た通路の方から妙な気配を感じる。・・・ついに俺も新人類の仲間入りか?

 

なんてアホな感想は置いといて、ちょっと見に行ってみるか。Dの時だって、最初からアル=ヴァンセンサーを信じてたら公園で顔を合わせた時点でどうにか出来てたかもしれなかったんだ。気になった事は確認しといた方がいい。

 

「リョーマさん、どちらに?」

 

席を立った俺にそう聞いて来るアーシアにすぐ戻ると返し、俺は通路の方へ向かうのだった。

 

SIDE OUT

 

 

レーティングゲームに盛り上がる観客達の熱気に包まれるスタジアム。その中でゲームになど目もくれずドーム内の通路を進む二人の男がいた。一人は貴族風の装いをした男。そしてもう一人はローブ姿で軽薄そうな笑みを浮かべている男だった。

 

「ターゲットはこの通路を抜けた先だ。わかっているな?」

 

「へいへい。言われなくとも大丈夫だっての。にしても、アンタのご主人様もとんでもない命令を出してくれたもんだな。コレが成功したら冥界中が大騒ぎになるかもしれんぞ」

 

「我が主は他の腑抜け共に代わり悪魔の誇りを取り戻す為に決断をされたのだ。それを侮辱するのは許さんぞ」

 

「誇りじゃ腹は膨れねえよ。ましてや、「フューリーを暗殺しろ」だなんて正気の沙汰とは思えんね。どうせ、他の暗殺者にも依頼したんだろうが、全て断られたから俺に回って来たって所だろ。じゃねえと、俺みたいな底辺も底辺な暗殺者に貴族様・・・ましてや冥界でも屈指の大貴族であるあの・・・」

 

「それ以上無駄口を叩けば、フューリーの前に貴様を始末するぞ」

 

男が射殺さんばかりに睨みつけても、暗殺者は涼しい顔をしてそれを受け流した。この二人の目的は、このレーティングゲームにゲストとして呼ばれたフューリーを暗殺する事だった。男は自らの主に命じられ、そんな男に暗殺者が雇われたのだ。

 

「貴様は暗殺者としては二流だが、毒の知識や扱いは一流だと聞いている。だからこそ貴様を雇ったのだ。頼んでいた物は持って来ているんだろうな?」

 

「商売道具を忘れるわけねえだろ。言われた通り俺が持つ毒の中でとびっきりにヤバいヤツを持って来たぜ。一滴でも体内に摂取すれば、全身から血が噴き出して苦しみながら死んでいく。これを塗ったナイフでお前さんがフューリーに背後から襲いかかるってプランだが・・・本当に大丈夫なのか? こんな衆人環視の中で決行したって正直、成功する気が全くしないのだが。失敗したらお前さんの立場も危ういんじゃねえの?」

 

「大勢の者達の中でやる事に意味があるのだ。それに元より生きて帰れるとは思っていない。いざとなったら、人間ごときに決して屈しない事を示す為に潔く自決してやる」

 

「ああそうかい。ま、金も前金でもらってるし、俺は役目を果たしたらトンズラさせてもらうぜ」

 

「ふん、勝手にするがいい。そろそろ貴様も準備を―――」

 

そこで男の言葉が停止した。言葉だけじゃない。全身の動きが止まってしまった。突然動かなくなった男に暗殺者が声をかけようとしたその時だった。

 

「おい、どうし・・・ッ!?」

 

暗殺者から見た男の首の位置がズルリと動いたと思った次の瞬間、男の頭が冷たい通路の床にゆっくりと落下した。赤黒い液体がじわじわと床に広がって行き、同時に体の方も血を吹き出しながら糸の切れた操り人形の様にその場に崩れ落ちた。

 

「な、何が起きたんだ・・・!?」

 

たった今会話を交わしていた相手が一瞬でもの言わぬ骸になってしまった事に狼狽する暗殺者。そんな彼の耳に、通路の前方から何者かの声が聞こえて来た。

 

「無様な格好。愚か者にはお似合いの最期ね」

 

現れたのは蒼いローブに全身を包んだ一人の女悪魔だった。つまらなそうな目で男の死体を見下し、手をかざす。すると男の死体が一瞬で炎に包まれ、溜まっていた血と共に数秒で灰すらも残さずに消えてしまった。

 

「イライザ様の指示で待機していたら中々興味深い話が聞けたわ。・・・ねえ、暗殺者さん」

 

「なっ・・・!?」

 

「フューリー様を暗殺? あなた達ごときがあの方に手を出せると思ってるのかしら。このドームの中も外も“私達”が見張ってるわ。わかる? “私達”がいる限り、あの方には何人たりとも触れる事は出来ない。だって・・・“私達”が“消す”から」

 

暗殺者の顔が凍りつく。女の言う“消す”とは誇張でも何でも無い。この女はこの場で自分を本気で消すつもりだと本能で理解してしまったのだ。先程、全く気配を感じさせずに男を殺害した時点で、この女の実力は自分より上だ。暗殺者はどうにかしてこの場を切り抜けようと頭を回転させた。

 

「ま、待て待て。とりあえず落ちつけよ。コイツは殺る気満々だったがよ、俺は別にそこまで本気じゃなかったんだ」

 

「本気じゃない? 一滴でも危険な毒をフューリー様に対して使おうとしたくせに?」

 

「そ、それは・・・」

 

「けど・・・そうね。あなたを雇ったという貴族の名前を教えてくれたら考えてあげてもいいわ」

 

「ほ、本当か!?」

 

「ええ」

 

「わ、わかった。俺を雇ったのは・・・」

 

暗殺者はアッサリと雇い主の正体を女性悪魔に教えた。続けて投げかけられた二、三の質問にもベラベラと口を割る。とにかく助かりたい一心で暗殺者は口を動かし続けた。

 

「ふうん・・・。それなりに力のある家みたいね。これはイライザ様に報告しないと」

 

「こ、これで見逃してくれるんだよな? じゃあ俺はこれで・・・」

 

暗殺者がその場から逃げだそうとした次の瞬間、女の手から伸びた魔力刃が暗殺者の胸を貫いた。自身を貫く刃を呆然とした表情で見下ろし、暗殺者が倒れ伏せる。

 

「ごふ・・・な、なん・・・で・・・」

 

「勘違いしていた様だけど、私は見逃すなんて一言も言っていないわよ」

 

「だ、騙した・・・のか・・・」

 

「私は考えるとしか言ってないわ。それをあなたが勝手に勘違いしただけでしょ。私・・・いえ、私達の前であの方を害そうとした罪・・・死で以って償いなさい」

 

「お前・・・一体・・・」

 

それが暗殺者の最期の言葉だった。女は先に消した男と同様に、暗殺者の死体を燃やしつくし、その場には女一人だけが残る事になった。

 

「排除完了。ひとまずイライザ様に報告ね」

 

懐から携帯端末を取り出し、女は連絡を始める。たった今得た情報を全て報告し、連絡を終えようとしたその時、背後から何者かが声をかけてきた。

 

「すみません。ちょっといいですか?」

 

「ッ・・・。はい、なんでしょう・・・か・・・」

 

狼狽しかけつつも、女はすぐさま冷静さを取り戻し振り返った。先程の凶行の証拠になる様な物は念入りに消したので気付かれるはずはない。適当に言い訳してこの場を乗り切ろう。そう判断した女だったが、振り返った先に立っていた相手の正体に一瞬で思考を停止させた。

 

『リコ? どうかしましたかリコ?』

 

端末の向こうから自身を心配する声が聞こえて来るが、今の女にそれを気にかける余裕は一切存在しなかったのだった。

 

IN SIDE

 

通路に向かって数分。いつの間にかあの嫌な気配が消えていた。もう少し調べて何も無かったら戻ろう。そう決めて歩き続ける俺の目線の先に、蒼いローブを纏った人の姿があった。こんな所で何してんだろう。もしかしてこの人が気配の正体? いやでもこうして近づいても何も感じないし・・・この人は関係無いのかな。

 

「すみません。ちょっといいですか?」

 

「ッ・・・。はい、なんでしょう・・・か・・・」

 

とりあえずこんな所で何してるか聞いてみよう。そう思って声をかける。振り返ったその人は綺麗な女性だったのだが、その表情が俺を見た途端固まってしまった。

 

『リコ? どうかしましたかリコ?』

 

手に持っている携帯電話みたいな物からそんな声が聞こえて来る。ひょっとして、電話中に邪魔してしまったのだろうか。

 

「イ、 イイイイイイイライザしゃまぁぁぁぁぁぁ! あの、げほっ! あのおk、うぐ!あのお方が私の前にぃ! 指示を! 指示をお願いしますぅぅぅぅ、おえっ!!!」

 

ちょ、いきなりどうしたのこの人ぉ!? 女性がしたらダメなレベルでえづいてるのに電話なんかしてる場合じゃないでしょ!

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ひいい!? 私ごときを心配して頂くなんて恐れ多すぎますぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

アカン、完全に錯乱しとる! 後ろから声をかけたのがそんなにビックリしたんだろうか。このままじゃロクに話も出来んぞ。

 

「イ、 イライザ様! え、代わる? ちょ、え、あなたは・・・。はあ!?」

 

そんな感じで困っていると、電話の相手と一言二言交わし、女性が酷く驚いた顔を見せ、それから手に持った携帯電話を俺に差し出して来た。

 

「あ、あああああの! で、電話!」

 

「代わればいいんですか?」

 

「!」コクコク!

 

千切れるんじゃないかと思うくらい激しく首を振る女性を心配しつつ、俺は電話を受け取った。こうなったら向こうの人に事情を聞くしかない。だが、受け取った電話の向こうにいたのは予想だにしない人だった。

 

『はあい、亮真』

 

「その声・・・まさか、ヴァーリさんか?」

 

こんな所でヴァーリさんの声を聞く事になるとは全く思ってなかったわ。聞けばこの女性はヴァーリさんの知り合いらしく、施設内で迷子になってしまってヴァーリさんに助けを求めようと電話をしていたらしい。ヴァーリさんの知り合いって事は、やっぱりこの人は何の関係も無いって事でいいんだな。

 

『私、そのドームに入った事あるから誘導してあげてたのよ。だから、その子の事は気にしないでいいわ。ゲストのあなたがそんな所にいつまでもいたらダメよ』

 

まあ、気配も完全に消えたし、もう戻ってもいいんだが。

 

「ヴァーリさん、よければ俺がこの人を観客席まで案内するが」

 

『あら優しいのね。でも、おそらく今その子、あなたとまともに会話も出来そうに無い状態だと思うんだけど』

 

「あばばばばば・・・!」

 

「・・・余計に一人にしておくのが不安なんだが」

 

『大丈夫よ。それで平常運転だから』

 

マジで!?

 

『しばらくしたら落ちつくと思うからそっとしておいてあげてちょうだい』

 

「わ、わかった」

 

そこまで言われたらもうヴァーリさんを信じるしかない。俺は女性に電話を返し、軽く会釈して来た道を戻り始めるのだった。

 

「フュ、フューリー様の触った携帯・・・。密閉して金庫に仕舞わないと・・・!」

 

SIDE OUT

 

 

ヴァーリSIDE

 

「・・・どうやら誤魔化せたみたいね」

 

役目を終えた私は電話をイライザに投げ渡すと、一分ほど通話してイライザは電話を切った。

 

「リコは何とか落ちついたみたいです。あなたの機転のおかげで助かりました」

 

「まあ、本当に誤魔化せたかどうかはわからないけどね。あなたまでいきなり慌て始めるから何事かと思ったわよ」

 

「突然目の前にあの方が現れれば誰だって慌てますよ」

 

「でも、あなた前に亮真と会った事あるんでしょ?」

 

「ああ、握手会の事ですか。あれは私がこの世に生を受けて今までで最大の戦いでした。あの方の前ではなんとか耐えられましたが、会場を後にしてすぐに脱水症状で死の淵に瀕しましたからね。何せ、全身の穴という穴から体液が・・・」

 

「それ以上は結構よ」

 

流石イライザね。組織内でカテレアと並んで変態ツートップだっただけはあるわ。・・・一時期私も入れてスリートップになっていたとか聞いた事もあるけど、心外だったわ。

 

「リコには引き続き施設内の巡回をお願いしました。現在、彼女を含め、二十人ほどの者達が不審人物の発見、排除の為に動いています」

 

「そして、ドームの外にはあなた達ってわけね。随分厳重じゃない」

 

「当然です。万が一にもあの方にもしもの事があってはなりませんもの。観戦組も含め、私が指示すれば皆すぐに動く様に命じてありますから」

 

「よくやるわね」

 

「そういうあなただって、こうして私達に協力しているじゃないですか。どうしてですか?」

 

「別に大した理由なんてないわよ。一応、彼等の友人としては、せっかくの晴れ舞台を邪魔されるのは気に食わないと思っただけ。ホント、ただそれだけよ」

 

若手ナンバーワンと言われるサイラオーグ・バアルとの勝負。一誠は今回の戦いで新たな段階に上がる。私には予感では無く確信があった。

 

「そうですか」

 

何よその優しい目は。何でみんな私が友人云々の話をするとそんな目で私を見るのかしら。なんだか子ども扱いされているみたいで不快なんだけれど。

 

「それにしても、まさかあの家がフューリー様の命を・・・。これは調べる必要がありそうですね。フラン」

 

「ここに」

 

「至急調べて欲しい事があります。人もお金も自由に使って構いません。一週間後に報告を聞かせてもらいます」

 

「かしこまりました」

 

「ではまず・・・」

 

イライザの指示を受けたフランがその場から消える。早速仕事を始めたみたいね。

 

「けど、正直驚いてるわ。酔狂で作ったと思ってた組織が、今じゃそれなりの規模になってるんだもの」

 

「私達はただ、人々にフューリー様の偉大さを広めているだけです。元々、私達は今の悪魔社会・・・上級の貴族達に不満や恨みを持つ者達の集まりです。貴族は私達にとって絶対の力を持った存在でした。そんな中であの方は現れた。貴族どころかあの二天龍すら上回る絶大な力を持ちながら、高潔な心を持つ真の騎士。私達にとって、あの方はまさしく“希望”なのです。ライザー・フェニックスを下した時など、涙を流す者までいましたから。その“希望”を守る為、私達は活動していこうと決めたのです」

 

強さというのはただそれだけで人を惹きつける事がある。彼女達は自分達にとって絶対だったはずのものを上回る力を持った亮真に救いを得たという事かしら。

 

「いっその事、オーフィスを連れて私達のチームも合流させてもらうのもいいかもしれないわね」

 

「・・・どうやら決別の時は近い様ですね。歓迎しますよ」

 

「その時はお願いね。あ、そうだわ。オーフィスで思い出したんだけれど、ちょっと聞きたい事があるの」

 

「何ですか?」

 

「あなた、良いサングラスを売ってるお店知らない?」

 

「サングラスですか? それなら私よりもカテレアの方が詳しいと思いますけど、あなたがかけるんですか?」

 

「私じゃないわ。ウチのお姫様が欲しがってるのよ」

 

「オーフィスがサングラス? ・・・何かの冗談でしょう?」

 

「私もそうだと思いたいのだけどね・・・」

 

まさかとは思うけど、あの子・・・。

 

「・・・なんて、そんなわけないわよね」

 

私は頭に浮かんだものをそっと消すのだった。

 

ヴァーリSIDE OUT

 

 

ゲオルクSIDE

 

「曹操、いるか?」

 

部屋をノックすると、中から曹操が返事をしたので入室すると、彼はジッと椅子に座って窓から外を眺めていた。最近の彼はこうやってよく考え事に更ける時間が増えた気がする。一体何を考えているのかは教えてくれないが。

 

「ゲオルクか。どうした」

 

「他の派閥の者達がゲーム会場に襲撃をかけたそうだ」

 

俺の報告に、曹操は大した興味も無さそうな表情で「そうか」とだけ言った。その態度に俺は思わず声を荒げた。

 

「そうか・・・じゃない! 何故こちらからも人員を送らないんだ!」

 

「無駄だからだよ。考えてみろ。向こうには神崎君に総督殿、さらには皇帝を含め名だたる実力者達が揃っているんだ。そんな場所に攻め込むなんざ自殺しに行く様なものだぞ。ただでさえ京都の敗北で仲間の数を減らしたのに、そんな所に送り込めはしないさ。・・・どうせ、襲撃も失敗したんだろ?」

 

「・・・」

 

「沈黙は肯定と受け取らせてもらうぞ」

 

「・・・確かに襲撃は失敗したそうだ。しかも、襲撃組を阻んだ一団の中にヴァーリの姿があったとも報告を受けた」

 

「ふうん」

 

「曹操!」

 

「大声を出さないでくれゲオルク」

 

「わかっているのか曹操! これは完全な裏切り行為だぞ!」

 

「今さらだろう。これまでも彼女のチームは散々組織をひっかき回してくれたんだからな」

 

まるで気にした様子も無く曹操はそう言ってのけた。数日前、ヴァーリチームが無断でオーフィスを連れ出した事が発覚した時も、他の派閥の者達が糾弾する中で、曹操だけは何も言わなかった。まるで、そんな事に時間を取られたくないと言わんばかりに・・・。

 

「それよりもゲオルク。俺は今から出かけさせてもらうぞ。そうだな・・・今回は五日間ほど空けさせてもらう。その間の事はキミに任せた」

 

椅子から立ち上がり、立てかけてあった槍を手に出て行こうとする曹操に、俺は思っていた事をストレートにぶつけた。

 

「どうしたというんだ曹操・・・。最近のキミはおかしいぞ。先日も急にいなくなって、三日前に帰ってきたばかりじゃないか」

 

しかも、全身ボロボロになってだ。これで気にしない方がおかしい。なのに、そうやって心配する俺達に曹操が見せたのは、満足そうな笑みだった。

 

『ふふ、自分がどれほど聖槍の力に頼り切りだったかがよくわかったよ。おかげで中級相手にこのザマだ。・・・だが、悪くない。悪くない気分だよゲオルク』

 

爽やか過ぎるその表情が、逆に俺を戦慄させた。傷だらけなのに、この時の曹操からは言い様も無いプレッシャーじみた何かを感じた。それに圧倒され何も言えない俺達を尻目に、曹操は手当てを受けさっさと部屋に戻ってしまった。これが三日前の出来事だ。

 

「道をな・・・引き返そうと思ったんだ」

 

「道?」

 

「ああ。楽だが先の無い道から、険しくとも・・・その先にある“覇”を手に入れる為の道に戻る為にな」

 

そう言い残し、今度こそ曹操は部屋を出て行った。一人残された俺の目に、机の上に置かれていた一冊の書物が映る。

 

「・・・鋼の・・・救世主・・・」

 

曹操・・・キミは・・・

 

「ゲオルク! 曹操は・・・?」

 

部屋を出て自分の部屋に戻る途中、出くわした仲間の一人がそう聞いて来た。

 

「出かけたよ。彼の言う事を信じれば、帰って来るのは五日後だ」

 

「またか・・・。一体曹操は何を考えているんだ・・・!」

 

「何を考えていようと、俺達は曹操を信じてついて行くだけだ」

 

それは仲間に言ったのか。それとも自分に言い聞かせる為に言ったのか。今の俺には分からなかった。

 

「あ、ああ、そうだな」

 

「だが、例の計画は彼抜きで行う必要があるかもしれん」

 

「え?」

 

「・・・何でも無い」

 

俺は早足でその場を去った。そして、部屋に戻った所で、棚から一冊の書物を手に取った。これは数ヶ月前、仲間の一人が偶然手に入れた物だ。その者曰く、銀髪のファンキーな中年男性にいきなり渡されたらしい。最初聞いた時はもちろん怪しんだが、中身を見てすぐにこの魔術書は“本物”だと理解した。

 

「第一級禁術『時空転移』・・・。既に必要な物も人も揃えた。後は決行するだけだ」

 

場所どころでは無い。文字通り時間と空間すらも越えて対象を転移させる超魔術。人間界どころか、冥界や天界でもこれほどの魔術書は滅多に見られないだろう。

 

そして、本の裏には悪魔の文字でこう書かれていた。

 

―――ルシファー。

 




もうすっかり遅いですが、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さて、ちょっと寄り道しちゃいましたが、次回からゲームに戻ります。

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