ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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一気に試合を消化していきます。


第百四十五話 男の戦い

イッセーSIDE

 

失神したゼノヴィアが医務室に運ばれて数分後、会場にアナウンスが鳴り響いた。

 

『えー、次の試合を開始する前に皆さまにご報告があります。先程の試合終了後に倒れたゼノヴィア選手ですが、どうも戦える精神状態ではないとの判断でドクターストップがかかりましたのでリタイヤ扱いとなりました』

 

「ゼノヴィアェ・・・」

 

「すみません! すみません! 僕が役立たずだったせいですぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「い、いいえ、ギャスパーは何も悪くないわ・・・」

 

「そ、そうだよ。まさか開幕からいきなりアレを使うなんて誰も思ってなかったんだから・・・」

 

「え、ええ。それに、ギャスパー君を温存できたんだからこちらとしてはよかったですわよ・・・」

 

「うえぇぇぇぇん! 気遣いが心苦しいよぉぉぉぉぉ!!」

 

泣くなギャー助。部長が言う通り、お前には何の非もねえよ。堂々と「俺は悪くねえっ!」って態度でいればいいんだよ。

 

『ゼノヴィア選手のリタイヤにより、グレモリーチームは残り五人、そしてバアルチームは残り三人となりました。人数的にはグレモリーチーム有利ですが、バアルチームに残るのはいずれも強力なメンバーばかり。勝負の行方はまだわかりません』

 

確かに、残っている『兵士』は駒の消費が七だし、『女王』はいわずもがな。そして、大将であり最大戦力であるサイラオーグさん。こっからが滅茶苦茶きつくなりそうだぜ。

 

ダイスシュートが始まる。サイラオーグさん側の出場選手が少ないので、出れる数になるまで数回振り直した結果、出た目の合計が九になった。この数なら朱乃さんも出れるな。

 

「九という事は、向こうは『女王』か『兵士』のどちらかね。ただ、これまでの試合の流れから見て、おそらく『兵士』は出て来ないわ」

 

「何でですか?」

 

「サイラオーグはあの『兵士』を可能な限り使わない気がするの。大きな数字という事もあるけれど、それでも二回は出す機会があったのに出さなかった。温存というにはちょっと大げさすぎると思ったの」

 

「となると、出て来るのは『女王』ですね」

 

「ええ、名前はクイーシャ・アバドン。サイラオーグの『女王』にして、『番外の悪魔』と称されるアバドン家の者よ」

 

話に聞くとアバドン家の実力は相当なものらしく、現在のゲームランク三位もアバドン家の人だったはずだ。以前見たグラシャラボラスとのゲームの記録映像でも、クイーシャさんは絶大な魔力と、アバドン家の特色とされる『穴』を使って活躍してたっけ。

 

「ようやく私の出番のようですわね」

 

そう名乗り出たのは朱乃さんだった。確かに、まだ一度も出場してないけど・・・。

 

「・・・いけるの朱乃? 相手はアバドンよ?」

 

「だからこそよ。私よりも実力が上のイッセー君と祐斗君は少しでも温存したい。ギャスパー君はさっき出たから連続出場は出来ない。だったら、私が出るのが一番ですわ」

 

「朱乃さん・・・」

 

「頼りになる人達が後ろにいてくれる・・・。イッセー君、あなた達の存在が私に戦う力を与えてくれるのですわ。たとえ勝てなくとも、体力や魔力を少しでも奪ってあなた達に繋げます。みんなで勝利を掴みとりましょう」

 

ニコニコと、朱乃さんはいつも俺達を安心させてくれる笑顔を俺に向けて来た。・・・これ以上何か言うのは野暮だよな。

 

「行ってらっしゃい朱乃。繋ぐなんてケチくさい事言わないで思いっきりやってきなさい」

 

「ええ。別に倒してしまっても構わないのでしょう?」

 

部長に背中を押され、朱乃さんが魔法陣へ向かう。

 

「・・・あれ? あ、朱乃先輩・・・!」

 

と思ったら、ギャー助が何かに気付いて慌てて朱乃さんを追いかけた。けど、すでに朱乃さんの姿は魔法陣の向こうへ消えていた。

 

「どうしたのギャスパー?」

 

「あ、な、何でも無いです。・・・うん、戻って来たら渡したらいいよね」

 

何がしたかったんだギャー助? っと、それよりも試合だ試合! モニターに目を向けると、まず映しだされたのは石で出来た塔が多く立ち並ぶフィールドだった。朱乃さん、そして対戦相手の『女王』クイーシャ・アバドンさんがそれぞれ向かい合う様に塔のてっぺんに立っている。巫女服姿の朱乃さんに会場の男達が興奮した様子の声を上げていた。悪魔が神聖な衣装に興奮するってどうよ? 俺も人の事は言えんが・・・。

 

『やはりあなたが出て来ましたか。雷光の巫女』

 

『こちらもあなたが出て来ると思っていましたわ』

 

『試合開始!』

 

開始の宣言と共に、両者が翼を羽ばたかせ空へ舞い上がる。朱乃さんもクイーシャさんも共に魔力に秀でた者同士だ。なら当然その戦いもそれを使ったものになる。

 

『いきますわよ!』

 

『受けて立ちます!』

 

そして、互いの全力を込めた魔力の撃ち合いが幕を開けた。朱乃さんが放った炎とクイーシャさんが放った氷が二人の中心で激しくぶつかる。なんてパワーだ! 今の衝突で周囲の塔が根こそぎ破壊されてしまった!

 

『流石、素晴らしい魔力ですわ』

 

『それはこちらのセリフです。ですが、それがあなたの全てでは無いでしょう? 撃って来なさい、雷光を』

 

『言われなくとも見せてあげますわ!』

 

天空に生まれる暗雲。そこからクイーシャさんに向かって極大の雷光が降り注ぐ。自分の血を受け入れた朱乃さんだからこそ使える雷と光を組み合わせた雷光! 当たれば悪魔にとって致命傷間違い無しだ。

 

『これが雷光・・・! ですが・・・』

 

直撃の寸前、クイーシャさんと雷光の間に円形の『穴』が生まれ、その中へ雷光が吸い込まれて行った。なんでもかんでも吸い込むアバドン家の能力、ここで使って来たか。

 

『見事な一撃でした。では・・・お返ししましょう』

 

『え・・・!?』

 

朱乃さんの頭上に『穴』が空いた。何をする気だと思った次の瞬間、その『穴』から眩い光が朱乃さんに向かって降り注いだ。あれは・・・まさか朱乃さんの雷光!?

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

悲鳴と共に朱乃さんの姿が光に飲み込まれる。ど、どうして朱乃さんの攻撃が朱乃さんに!?

 

『私の『穴』は今みたいな具合に、吸い込んだ相手の攻撃を分解して放つ事も出来るのです』

 

「何ですって!? くっ、グラシャラボラスとのゲームでは使っていなかったのに・・・!」

 

確かに、グラシャラボラス戦では吸収しかしてなかった。あの時は隠してたのか!

 

『姫島選手、自らの放った雷光が直撃! これで決まりかぁ!?』

 

『雷光の巫女、切り札は最後まで取っておくものです』

 

『―――ええ、その通りですわね』

 

『ッ・・・!?』

 

突如として放たれた光線がクイーシャさんを襲い、慌てて回避行動に移ったクイーシャさんが目を見開く。その視線の先には、致命傷どころか衣服すら無傷なまんまの朱乃さんの姿があった。

 

「よ、よかった・・・。無事だったんだな朱乃さん」

 

でもどうして? 確かに直撃したはずだったのに。これじゃまるで朱乃さんも『穴』を使って吸収してしまったかのようだ。

 

『まさか、返されるとは思っていませんでしたわ。・・・ですが、おかげでチャージの手間が省けました』

 

そう微笑む朱乃さんがかざした右手・・・その指にはバチバチと帯電し、うっすらと発光するお札が挟まれていた。あれって・・・確か朱乃さんが先輩に教えてもらった技だ。名前は・・・。

 

『『爆雷符』・・・札に込めた力を術者のタイミングで発動させる技。私がリョーマに教えてもらった技ですわ。前回のゲームではトラップとして使用する事に拘り過ぎてあんな終わり方をしてしまいましたが、あれから改良して、今ではこうして直接攻撃用のお札も作らせてもらいましたの』

 

胸元からもう一枚お札を取り出す朱乃さん。またしても観客達が歓声を上げる。ええい、うるせえ! 朱乃さんの声が聞こえねえだろうが!

 

『最も、トラップ用のお札に比べて、雷光をチャージするのに時間がかかるのが欠点ですけれど。それもあなたのおかげで解消しましたわ』

 

『・・・まさか、先程のチャージ云々の発言は・・・』

 

『気付いた様ですわね。あなたが返して来た雷光・・・そのままこのお札に込めさせて頂きましたわ。さあ、どうします? 返せば返すほど、爆雷符の威力はどんどん上がりますわよ?』

 

『ならば、それをさらに返すだけです』

 

『それを私が返します。ふふ、この反撃合戦、はたしてどちらに軍配があがるのか楽しみですわ!』

 

おお、朱乃さんも反撃吸収の手段を持ってたのか。てかあのお札すげえ! あんな小さいのにさっきみたいな馬鹿でかい光も吸収できるのか!

 

そして、再び魔力の撃ち合いが始まった。炎、水、風、ありとあらゆる魔力がフィールドを奔り、雷光を互いに飲み込み相手へ返す。互いに決定打を与えられず、時間だけが過ぎて行った。

 

『(持ち込んだお札は二十枚。ここまで使ったのは十九枚。次で最後ね)』

 

『お返しします!』

 

クイーシャさんが何度めかの雷光を放つ。対する朱乃さんもお札を取り出そうと胸元へ手をやるが・・・。

 

『ッ!? な、何で!? お札が無い!? ッ、嘘、破けて・・・!?』

 

朱乃さんの顔が驚愕に染まる。その一瞬の隙が全てを決めた。

 

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

『リアス・グレモリー様の『女王』のリタイヤを確認』

 

絶叫と共に朱乃さんの姿が光に包まれ、無情なアナウンスが俺達の耳に届いた。朱乃さんが・・・負けた?

 

「最後がちょっと腑に落ちなかったね。どうして動きを止めてしまったんだろう?」

 

「ああ、なんか信じられないって顔をしてたよな」

 

何かトラブルがあったんだろうか。けど、それを確かめる術は無い。

 

「・・・気を取り直しましょう。朱乃は善戦してくれた。終盤に差し掛かっているのだから気は抜けな・・・ギャスパー?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「ギャスパー君?」

 

「ぼ、僕の所為だ・・・! 僕があの時もっと早く動いていれば・・・!」

 

ギャー助が顔を真っ青にして震え始める。

 

「僕が・・・僕が・・・!」

 

「おい! しっかりしろギャー助!」

 

『両『王』はダイスの前に』

 

「行って来るわ。二人とも、ギャスパーをお願い!」

 

ギャスパーの異変を心配しながらも部長がダイスを振りに行く。出た数字は・・・なんと十二! マックスの数字だ。そしてそれはあの人が出て来るかもしれない事を意味していた。

 

『十二! 十二です! ついにこの数字が出ました! そう! 価値十二のサイラオーグ選手が出場出来る数字です!』

 

実況に合わせて向こうの陣地でサイラオーグさんが上着を脱ぐ。間違い無い、出る気だ!

 

「・・・イッセー君、僕が出る」

 

「木場!? 待てよお前、まさか・・・一人で出るつもりか!?」

 

「うん」

 

「うん・・・じゃねえよ! わかってんのか!? 間違いなくサイラオーグさんが出て来るんだぞ!」

 

「もちろんわかってるさ。僕ではあの人に勝てないのもわかってるよ。それでも僕が出る。一太刀でも浴びせてキミと部長に繋ぐ。その為ならば喜んでこの身を投げ打つさ。本音を言えばギャスパー君にも付き合ってもらいたいけど・・・とても出れそうな状態じゃなさそうだしね」

 

「けど・・・!」

 

「それに、これも立派な作戦だよ。この試合の後、おそらくさっきの『女王』が出て来るはずだ。それをイッセー君が倒す。そうすると残りは二人だけど、連続出場禁止のルールである以上、続けてイッセー君は出れない。そこでギャスパー君を出してすぐにリザインさせれば、イッセー君はサイラオーグ・バアルと戦える。・・・ですよね、部長?」

 

・・・そうか、コイツ・・・そこまで考えたからこそ一人で出るつもりなんだな。それが木場の覚悟なんだな。なのに、俺はそんな事にも気付かずに・・・!

 

「・・・わかった。ならもう何も言わねえ」

 

「ありがとう。では部長、行って来ます」

 

「祐斗・・・私は・・・!」

 

「何も言わないでください部長。僕も、これまで倒れて来た仲間達も、あなたの“愛”に報いたいから戦うんです。リアス・グレモリーという、眷属を愛してくれる素晴らしい『王』の為、『騎士』である僕はこの身を捧げます」

 

「・・・なら、私はその“献身”に報いてみせる。祐斗、約束するわ。必ずこのゲームに勝利してみせる。だからあなたは・・・」

 

「はい。全てを出し切って来ます」

 

ニコリと微笑み、木場は勝ち目の無い戦場へと転移していった。

 

湖の湖畔、先に転移していたサイラオーグさんが木場を見て組んでいた腕を下ろす。

 

『ほお・・・お前一人か。あの『僧侶』も出て来ると思ったが』

 

『ギャスパー君には別の役目がありますからね。僕だけでお相手させてもらいますよ。あなたからすれば不満かもしれませんが』

 

『不満? あるわけがないだろう。むしろ逆だ。お前のその目・・・。覚悟と決意に彩られた戦士しか持ち得ない目を持つお前と戦える事に、俺は喜びしか感じていない!』

 

一切の油断を見せず木場を見据えるサイラオーグさん。だよな。あの人ならそう言うと思ってた。

 

『やれやれ。少しでも油断や慢心をしてくれればよかったのに・・・』

 

『試合を開始してください』

 

試合が開始する。刹那、サイラオーグさんの両腕と両脚に見た事も無い紋様が浮かびあがった。

 

『“枷”を外させてもらう。お前の覚悟に全力を以って応えるために!』

 

紋様が消えた次の瞬間―――空気が、大地が、湖が、世界が爆発した。サイラオーグさんの全力にフィールドが悲鳴をあげていた。

 

「これが・・・サイラオーグさんの全力・・・!」

 

戦慄する俺が次に目にしたのは、爆発の中心に佇むサイラオーグさんの姿。その体は白く発光し、全身に闘気を纏わせるその姿は、小猫ちゃんを彷彿とさせた。まさか・・・あれって仙術!?

 

『どういう事だ・・・。サイラオーグが仙術を習得しているという情報は得ていない。なら、あの可視化するほどの質量の闘気は・・・』

 

『ど、どういう事なのでしょう、皇帝?』

 

『あれは仙術では無く、体術を鍛え続けた者だけが目覚めさせる事の出来る闘気です。仙術と区別する為にオーラとでも呼びましょうか。魔力では無い、生命の根本とも言うべき純粋なパワーの究極の形といってもいいでしょう。果ての無い努力の結果、彼だけに許された、正に彼だからこそ得られた努力の結晶です。・・・ここまでくると畏敬の念を禁じ得ません』

 

皇帝の言う通りだよ。この人、どこまで凄い人なんだ。こんな人と戦うのか、俺は・・・。

 

『さあ、いくぞ聖魔剣使い! お前の覚悟と俺の覚悟、どちらが上かこの場で決めようではないか!』

 

木場へ向かって走り始めるサイラオーグさん。進路上のありとあらゆるものを破壊しながら迫るその様子は、まるで自然災害が人の形をとっているかのようだった。

 

『風よ!』

 

木場がベルーガ戦で見せた巨大竜巻をサイラオーグさんへ放った。が・・・。

 

『散れぃ!』

 

サイラオーグさんの右拳が竜巻とぶつかったと思った瞬間、竜巻がかき消えた。ちょっ! あの人ワンパンで竜巻吹っ飛ばしたんですけど!? パンチだぞ!? 物理でどうにかなる物じゃないでしょうが!

 

『だったら・・・!』

 

冷や汗を流しながら、木場が続けざまに聖魔剣による壁を幾重にも展開させるが、サイラオーグさんの勢いを止まらない。目の前に現れた聖魔剣の壁を拳も振るわず、ただの突進で次々と突き破って行く。め、滅茶苦茶過ぎるぞこの人!

 

『この程度で俺を止められると思ったかぁ!』

 

『くっ・・・非常識は神崎先輩で十分だっていうのに・・・!』

 

先輩へのさりげないdisりを漏らしつつ、木場がサイラオーグさんから距離を取る為に高速で動き始める。それを追いかけるサイラオーグさん。両者の距離が見る見る内に縮まって行く。パワーだけじゃない。速さも規格外なのかよ!

 

『捉えたぞ聖魔剣!』

 

『ッ、しまっ・・・!』

 

左手で木場を拘束したサイラオーグさんが、離すと同時に右拳を全力で木場の腹部に叩き込んだ。喰らった木場は冗談の様な速度で湖の向こう岸まで吹っ飛んで行った。

 

『逃がさんぞ!』

 

サイラオーグさんが湖に向かって駆けて行く。そして、またしてもあり得ない光景を俺は目撃する事となった。

 

『は、走っています! サイラオーグ選手、なんと湖の上を走っています! はっ! これはまさか人間界で有名なジャパニーズ・ニンジャ!?』

 

水面を割りながら爆走するサイラオーグさんは、一分もかけずに向こう岸に辿りついてしまった。

 

『はあっ・・・はあっ・・・』

 

そこでは聖魔剣を杖にしながらも木場が立っていた。誰が見ても満身創痍だ。だけど、その瞳の輝きだけは全然弱くなっていなかった。

 

『まだ立つか・・・』

 

『ベルーガ殿に勝った僕が、簡単に諦めては彼に申し訳ないからね!』

 

『ベルーガ・・・。ああ、そうだ。ヤツの意地を俺は誇りに思う。ベルーガだけでは無い。コリアナ・・・ガンドマ・・・リーバン・・・ラードラにミスティータ・・・。誰もが俺には過ぎた眷属達だ。負けはしたが、ヤツ等が残してくれた物は全て俺の中にある。それを今、お前に見せてやる』

 

そう言うと、サイラオーグさんは右の拳を力強く握ると、ゆっくりと引いた。全身を纏っていた闘気が全て拳へと流れて行き、右腕そのものが異様な盛り上がりを見せた。ヤバい・・・あれは本気でヤバいヤツだ!

 

『すまんな、聖魔剣使い。どうやら俺は、眷属がやられた事に、思っていた以上の憤りを感じていた様だ』

 

拳を放つ寸前、サイラオーグさんは謝罪を口にした。

 

『ゴメン・・・イッセー君。結局、何も出来なかったよ・・・』

 

木場が何か言った直後、映像が激しく揺れ、それが治まった時、サイラオーグさんの位置から直線上の地面が大きく抉れていた。それはあの一撃が・・・眷属達の無念を込めた怒りの一撃がもたらした結果だった。

 

『リアス・グレモリー様の『騎士』のリタイヤを確認しました』

 

試合終了が告げられる。結局、木場が成す術も無くやられてしまっただけで終わってしまった。サイラオーグさんの実力を目の当たりにし、俺の心にどうしようもない想いが生まれてしまった。

 

―――俺は、あの人に勝てるのか?

 

若手ナンバーワンの意味を甘くみていたつもりはない。研究だってして来た。それでも、こうして直接あの人の戦いを見て、果たして俺はまともに戦えるのだろうか。

 

「イッセー? イッセーってば」

 

マイナスな考えに浸っている俺に部長が声をかけて来た。

 

「は、はい? なんでしょう?」

 

「ダイスを振って来たわ。合計の数字は九よ」

 

ダメだ。集中しろ、俺。ここで負けたら戦う事すらなくなるんだ。まずはこの勝負に勝たないと。

 

「わかりました。じゃあ作戦通り俺が―――」

 

「・・・僕が出ます」

 

「「え?」」

 

声を揃える俺達の前に立つのはギャスパーだった。さっきまで錯乱状態だったはずなのに、今は怖いくらい冷静な表情をしていた。

 

「次の試合、僕が『女王』と戦います」

 

「ギャー助、それは・・・」

 

「あのね、ギャスパー。あなたは・・・」

 

「ちゃんと聞いてましたよ。次の試合でイッセー先輩が『女王』を倒して、次に僕が出てすぐにリザインするんですよね?」

 

「え、ええ・・・」

 

淀みなくスラスラと作戦について答えるギャー助。なんだ? 今のコイツからなんか違和感が・・・。

 

「それなら、僕が『女王』を倒してしまえばイッセー先輩は余計な消耗をしなくて済みますよね? だから僕が出て『女王』を倒します。あの人は僕が倒さないといけないんです」

 

「・・・本気で言っているの、ギャスパー?」

 

「本気です。行かせてください部長さん」

 

いつもならば逸らしてしまう目を、一切逸らす事無く部長と向かい合うギャー助。数秒して、部長が静かに口を開いた。

 

「・・・わかったわ。行って来なさい、ギャスパー」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

深々と頭を下げ、ギャー助が魔法陣へ向かう。

 

「いいんですか、部長?」

 

「確かに、この判断は正しく無いのかもしれない。けどね、イッセー。あの子が・・・ギャスパーが自分から戦いを志願して来たのよ。私は、あの子の意思を尊重してあげたい」

 

「部長・・・」

 

「もちろん、それだけが理由じゃないわ。ギャスパーは“倒す”と口にした。自分の実力に中々自信を持てていなかったあの子がハッキリとそう言ったの。きっと何か考えがあったからこそ、そう言ったんだと私は思うの」

 

そうか、俺が感じてた違和感の正体がわかったぞ! 部長の言う通り、自分が出たら負けるってビビっていたギャー助とは思えない発言だ。

 

「部長さん、イッセー先輩」

 

魔法陣まであと一歩といった所でギャー助が振り返った。

 

「信じてます。二人がいれば、絶対に勝てるって」

 

そう言い残し、ギャー助は消えて行った。

 

「・・・どういう事、ギャスパー?」

 

部長の言いたい事がわかった。ギャー助の今のセリフ・・・まるで自分はもう帰って来ない様な言い方じゃねえか。違うだろ。お前は勝って帰って来るんだろ・・・?

 

『試合開始』

 

ギャー助とクイーシャさんの戦いは開戦直後から終始クイーシャさんのペースで進んでいった。魔力による攻撃で、あっという間にギャー助はズタボロになっていった。

 

『攻撃もせず、ただただ逃げ惑う・・・。何をしに出て来たのですかあなたは?』

 

『効かない。効かないぞこんなの! 撃って来い! 朱乃先輩を倒したあの技を!』

 

『・・・いいでしょう。まだ雷光は残っています。お望み通り、仲間の一撃で終わらせてあげます』

 

ギャー助の頭上に『穴』が出現し、そこから光が降り注ぐ。ギャー助は避けようともせず、ただ光を見上げていた。

 

『―――!』

 

そして、何かを叫びながら、ギャー助は光の中へ飲み込まれて行ったのだった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

クイーシャSIDE

 

『穴』から放った光が『僧侶』を飲み込む。しかし、リタイヤのアナウンスが流れない。

 

(・・・驚きました。まだ戦闘不能になっていないようですね)

 

ならば、今度こそ止めをさそう。そう思い、『僧侶』へ近づこうとした私は、ふと違和感に気付いた。

 

(何かしら? 体の動きが鈍いわ・・・)

 

腕が、足が、全身のあらゆる部分が意思に反してどんどん動きが鈍くなっていく。ち、違うわ。動きが鈍いのではなく、体が動かない・・・!?

 

「・・・僕の頭上に・・・『穴』を開けた時点で、僕が・・・神器であなたを・・・止めました・・・」

 

『僧侶』の姿が視界に映る。私を捉えるその眼が爛々と輝いていた。

 

クイーシャSIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

『・・・僕の頭上に・・・『穴』を開けた時点で、僕が・・・神器であなたを・・・止めました・・・』

 

「し、信じられないわ。ギャスパーがあの光に耐えるなんて・・・」

 

部長が驚愕している。俺も同じだ。普通に考えて、ギャー助があれに耐えられるわけが無い。それこそ、何かで防がない限り。

 

それでも、ダメージはデカイ。皮膚の一部は焼けただれていて、見ていて痛々しい。その状態のまま、ギャー助はクイーシャさんへ近づいていった。今にも倒れそうな動きで、ゆっくり、ゆっくりと。

 

『・・・コレが・・・何かわかりますか・・・?』

 

そして、クイーシャさんの目の前に立つと、ポケットからある物を取り出した。その正体に俺は目を見開く。それは、朱乃さんが使っていたお札だった。しかも、チャージまで完了している。なんでギャー助があのお札を!?

 

「まさか・・・光を込める為にワザと受けたっていうの・・・!?」

 

ギャー助がそんな捨て身な行動をしたってのか!?

 

『あなたとの戦いに向かう前に、朱乃先輩が落としていった物です。この一枚を持って行かなかった所為で、朱乃先輩はあなたに負けた・・・。ううん、違う。僕がもっと早く気付いて朱乃先輩に渡していればよかったんだ』

 

―――あ、な、何でも無いです。・・・うん、戻って来たら渡したらいいよね。

 

ギャー助のあの試合前の謎の行動はそういう事だったのか。だから、朱乃さんが負けた時にあんなに取り乱していたって事か!

 

『だから、あなたは僕が倒さないといけないんだ! 朱乃先輩の仇は僕が取るんだ!』

 

ギャー助がお札を持った方の手を振り上げる。

 

「ま、待ちなさいギャスパー! そんな至近距離で撃ったらあなたまで・・・!」。

 

『イッセー先輩! 後はお願いします!』

 

ッ・・・! お前、まさか最初からそのつもりで・・・!?

 

『僕は・・・僕は、リアス・グレモリー様の『僧侶』、ギャスパー・ヴラディだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

叩きつけるように手を振り降ろすギャー助。そして、お札から溢れ出る極光がギャー助とクイーシャさんを容赦無く飲み込んでいった。

 

『リアス・グレモリー様の『僧侶』、サイラオーグ・バアル様の『女王』リタイヤ』

 

審判からのリタイヤ宣言が行われる。ギャー助・・・本当にやりやがった。

 

「・・・そういえば、ギャスパーは“倒す”とは言ったけれど、“勝つ”とは一言も言っていなかったわ。あの子は最初から『女王』を道連れにするつもりで・・・」

 

―――イッセー先輩! 後はお願いします!

 

ギャー助・・・いや、ギャスパー。お前の想い、確かに受け取ったぜ。絶対に無駄にはしねえからな!

 

「イッセー・・・」

 

「やりましょう、部長。みんなの想いを背負って、必ず勝ちましょう!」

 

「・・・ええ!」

 

『クイーシャ、よくやってくれた。そしてリアスの『僧侶』。ヤツもまた真の戦士だった。敬意を払うと共に、俺は提案したい。どちらも残りは二人。そして『王』と『兵士』だ。もはや細かなルールなど必要無いだろう。俺は次の試合、二対二の団体戦を希望する!』

 

『おおっと、ここでサイラオーグ選手から団体戦の提案が出ました!』

 

『まあ、出た目によっては彼が赤龍帝と戦えないかもしれないですからね。それならば団体戦にしてしまえというわけですか』

 

『いいんじゃねえか。ここまで来たら個人戦でも総力戦もかわらねえだろう。最も、全ては委員会の判断だが』

 

「全く、こっちを置いてどんどん話を進めちゃって」

 

「でも部長」

 

「ええ。そっちの方がわかりやすくていいわね」

 

『・・・え? あ、はい、わかりました。委員会から認めるとのお言葉を頂きましたので、次の試合を事実上の決定戦となる団体戦として執り行いたいと思います!』

 

こうして、最後の戦いは俺と部長の二人で挑む事となったのだった。




やっとここまでたどり着いた・・・。もう、自分で何書いてるかわからなくなりましたが、ようやく次回からイッセー対サイラオーグ戦が書けます。さて・・・今から気合いを入れねば。

朱乃は・・・原作より頑張ったと思います。

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