ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

155 / 187
今回をもちまして、連載開始からずっとついていたタグの一つが外れます。


第百四十八話 自分REST@RT

兵藤君とサイラオーグさんのひたすらに熱いぶつかり合いは、最終的に相討ちという

結末を迎えた。固唾を飲んで見守っていた俺はいつの間にか握り締めていた拳を開いた。力を入れ過ぎていたせいでちょっと赤くなっていた。

 

「「「赤龍帝! 赤龍帝!」」」

 

「「「サイラオーグ! サイラオーグ!」」」

 

試合終了後からすでに十分以上が経っている。それなのに、誰一人として会場を後にしようとせず、総立ちしながら二人の名前を叫び続けていた。

 

「俺、明日から仕事頑張れそうだわ」

 

「俺も、なんか努力しなきゃって思った。何をどうするかとか具体的にはねえけど、あの二人を見てとにかく頑張りたいって思った」

 

「・・・あの試験、もう一回受けてみようかな」

 

「帰り道走って帰ろうぜ!」

 

「おう!」

 

周囲からそんな声が次々に聞こえて来る。・・・俺も同じ気持ちだった。走り込みでも筋トレでもいい。とにかく、ジッとしているのが我慢出来ない。パワーアップした兵藤君が某紅の牙に見えたとか、サイラオーグさんが某勇者王の技を出したりとか色々あったけど、本当に・・・本当にいい試合だった。

 

「みなさん、本当に凄かったです。私、感動してさっきから涙が・・・」

 

涙ぐむアーシアにレイナーレさんがハンカチを渡す。余計な言葉は必要無い。その涙が全てを語っていた。

 

信じられるか? あんなカッコ良くて強い子が俺の後輩なんだぜ? しかも、俺みたいな男を尊敬してくれてるんだぞ? 嬉しいとかそういうレベルじゃないし、そもそも、俺にそんな価値ってあるのか?

 

「・・・俺も今以上に頑張らないとな」

 

だからこそ、俺に必要なのは努力なんだろう。兵藤君達が尊敬してくれる俺でい続ける事。それが、兵藤君や他の子に対して俺に出来る精一杯の誠意のはずだ。

 

(なんか今不穏な言葉を聞いた気がするが・・・気のせいか?)

 

「私はレーティングゲームの実況歴はそれなりにあるのですが。今回のゲームほど熱く、そして会場が一つとなったゲームはありません! 今回のゲームを実況出来た事を、私は誇りに思います!」

 

「そうですね。たゆまぬ努力の果てに得た自分達だけの力・・・。勝負とは・・・レーティングゲームとは安易に得た才能などではなく、彼等の様な者達が行うから面白い。・・・それを歪める様な“あれ”の存在は、やはりあの子の言う通り必要無いのだろう」

 

「皇帝?」

 

「失礼。少し思う所がありまして。私も、今日のゲームをこうしてこの場で見届ける事が出来て大変嬉しく思っています。兵藤選手とサイラオーグ選手、きっとこの二人は今の、そしてこれから生まれて来る若き悪魔達にとっての道標となってくれるでしょう。さあ、皆で称えましょう、紅と金色・・・二人のヒーローの誕生を」

 

「「「赤龍帝! 赤龍帝!」」」

 

「「「サイラオーグ! サイラオーグ!」」」

 

観客達によるコールはさらに激しさを増し、いつまでも会場内に響き続けるのだった。

 

SIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

目を覚ました俺がまず目にしたのは、真っ白な天井だった。ここは・・・病室か? 身動ぎした事でパイプベッドが軋む。体は・・・上手く動かせない。体力がスッカラカンになっちまってる。

 

「起きたか、兵藤一誠」

 

「ッ!? サ、サイラオーグさん!?」

 

俺のベッドの隣・・・そこに全身包帯姿のサイラオーグさんが横たわっていた。

 

「ふっ、酷い姿だな」

 

「そ、そういうサイラオーグさんこそ」

 

互いの姿を指摘し合い、俺達は小さく笑いあった。

 

「俺達、どうなったんですかね? サイラオーグさんと最後に互いの顔面を殴りあった所までは覚えてるんですけど・・・」

 

「俺も覚えているのはそこまでだ。まあどちらにせよ、今回のゲームは俺の負けだ」

 

「え? 何でですか?」

 

「『王』である俺が倒れたのだから当然だろう。そちらにはまだリアスが健在だったからな」

 

「あっ・・・!」

 

正直、途中から勝敗とかすっかり頭から消えてた。ただ、この人に負けたくないって思いで必死になって拳を握り続けてたんだ。

 

「何故だろうな。お前が再び立ち上がり、俺に立ち向かって来た辺りから、これがレーティングゲームだという事を忘れてしまった。ただ、お前と戦いたい。お前を倒したいという思いしか湧いてこなかった」

 

「俺もです。あなたに勝ちたい。あなたに負けたくないってそればっかりでした」

 

まるでガキみたいな意地の張り合い。だけど、この人とならそれでよかった。くだらねえ考えなんか投げ捨てて、ひたすらにぶつかりあったからこそ、今、俺の胸はこんなにも清々しい気持ちでいっぱいになってるんだから。

 

「・・・次は負けんぞ」

 

「・・・こっちのセリフですよ」

 

ったく、匙といいこの人といい、なんで強いヤツらばっかりが俺のライバルになるんだよ。

 

「しかし、これで神崎殿と手合わせをする事は叶わなくなってしまったな」

 

手合わせ? ・・・あ、そうか! サイラオーグさん、今回のゲームに勝ったら先輩と模擬戦をするって約束してたんだっけ!

 

「あ、で、でも先輩ならお願いしたらきっと・・・!」

 

「いや、これでいいのだ。それに、仮にお前を倒し、リアスを下して勝利をおさめていたとしても、俺は辞退するつもりだったからな。神崎殿は母上を・・・俺の大切な人を目覚めさせてくれた。これ以上神崎殿に何かを求めるなどという恥知らずにはなるつもりはないのでな」

 

サイラオーグさんのお母さん。間違い無く、あの場面でサイラオーグさんに立ち上がる様叱咤した女性の事だよな。神崎先輩、俺の知らない間にまた一人・・・いや、サイラオーグさんを含めて救ってたんだな。へへ、やっぱり敵わねえなあの人には。だからこそ憧れるし、だからこそ追いつきたいんだ。

 

「やあ、失礼するよ。ああ、そのままでいいから」

 

その時、病室の扉が開き、サーゼクス様が姿を現した。慌てて佇まいを直そうとしたら先に制されてしまった。

 

「イッセー君、サイラオーグ。本当に素晴らしかった。心からそう思える試合だったよ。上役達も全員満足していたし、皇帝も絶賛していたよ」

 

「「ありがとうございます」」

 

「さて、こうしてお邪魔させてもらったのは、イッセー君に話があるからなんだ。サイラオーグ、少し彼を借りてもいいかな?」

 

「ええ、存分にどうぞ。話し難い内容でありならば席を外しますが?」

 

「そこまでは及ばないよ。それに、キミにとっても損は無い話かもしれないしね」

 

話? なんだろう?

 

「イッセー君。試合開始前に話した事を覚えてるかな?」

 

「え、えーっと・・・」

 

「キミの昇格についてだよ。あの時はまだ予定としか言っていなかったが、今回の試合で完全に決定される事になった。おめでとう」

 

思い出そうとする前にサーゼクス様が答える。・・・って、ちょっと待ってくださいよ! え? え!? 決定しちゃったの!? この短い時間で!?

 

「受けるべきだ兵藤一誠。戦った俺が断言する。お前はそれに値する男だ。お前自身が証明したのだ。出自や才能など関係無い。お前は・・・この冥界の英雄になる男だ」

 

「サイラオーグさん・・・」

 

「サイラオーグの言う通りだよイッセー君。ただ、一つだけ言わせてもらうと、キミには英雄じゃなく、冥界のヒーローを目指してもらいたい」

 

「ヒ、ヒーローですか?」

 

「はは、それはいいな。確かにお前にはその呼び名の方が似合っている気がするぞ」

 

サイラオーグさんまで止めてくださいよ! ヒーローなんて立派な呼び名、俺なんかには似合わないですって!

 

「そ、それならサイラオーグさんだってそうじゃないですか! ほら、子ども達にライオンさんって応援されてましたし!」

 

「馬鹿を言うな。俺のような男にその様な名など・・・」

 

「あ、私もそのつもりだから」

 

「・・・は?」

 

「紅の龍帝に金色の獅子王。互いを高め合い、ぶつかり合いながら成長するWヒーロー。・・・いいね、いいぞ、み な ぎ っ て き た!」

 

「サ、サーゼクス様?」

 

「では、イッセー君! 詳細は今後改めて通知させてもらうから! 私はここで失礼するよ! 昇格の為の準備もあるし、他にも色々考えたい事があるからね! さあ、忙しくなるぞ!」

 

すっげえにこやかな顔でサーゼクス様が病室を出て行った。残された俺達は互いに顔を見合わせた。

 

「サイラオーグさん。俺、なんかすげえ嫌な予感がするんですけど・・・」

 

「奇遇だな。・・・俺もだ」

 

それからしばらくサイラオーグさんと色々話していると、不意な尿意が俺を襲った。

 

「すみません、サイラオーグさん。俺、ちょっとトイレに行って来ます」

 

「ああ、行って来い」

 

ベッドから降り、置いてあったスリッパを履いて病室を出る。あー、体がだりい・・・。トイレ行くのも一苦労だわ。

 

部屋を出てトイレに向かって歩いていると、一人の女性とすれ違った。・・・あれ、今の人って・・・。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

サイラオーグSIDE

 

兵藤一誠が出て行った事で、部屋の中は俺一人だけとなった。このままもう一眠りでもしてやろうかと思ったその時だった。不意に病室の扉がノックされる。

 

「開いているぞ」

 

「失礼しますね」

 

「ッ!? は、母上・・・!?」

 

母上が・・・母上が立っている。これを・・・この光景をどれほど待ち望んでいた事か・・・! 

 

「隣、失礼しますね」

 

ベッドの横に供えられていた椅子に座る母上。いつこちらへ? お体は大丈夫ですか? 聞きたい事は山ほどある。それなのに、俺は声を出せなかった。

 

「サイラオーグ」

 

「はい・・・」

 

長い眠りの所為で細くなってしまった手を、母上はそっと俺の手に重ねた。ああ、これだ。この暖かさ・・・。間違い無く母上のものだ。

 

「よくぞ最後まで諦めずに立ち続けましたね。あなたの誇り高き姿、母はしっかりと見ていましたよ」

 

「・・・ですが、俺は負けてしまいました。俺は・・・母上の言葉を守れませんでした」

 

母上を直視できず、俺は顔を伏せた。そんな俺に、母上は優しく、まるで小さな子どもに言い聞かせるような声で語りかけて来た。

 

「サイラオーグ、あなたは勘違いをしています」

 

「え・・・?」

 

「私は、諦めるなとは言いましたが、負けるなとは一言も言っていませんよ」

 

「ッ―――!?」

 

「敗北は終わりではありません。諦め、逃げ出す事が本当の終わりなのです。サイラオーグ、あなたはこの敗北で全てを投げ出してしまう様な男なのですか?」

 

「・・・いいえ。いいえ! そんな事あるはずがない! この敗北を糧に、俺は前に進み続ける! リアスにも、そして兵藤一誠にも二度と負けるつもりはありません!」

 

「それでいいのです。そう思い続ける限り、あなたの道が途切れる事は無いのです。あなたが諦めなければ・・・いつか必ず勝てるのだから。サイラオーグ。私の愛しい子・・・。本当に・・・本当に立派になりましたね」

 

「はは・・・うえ・・・」

 

慈しみに満ちた母上の微笑み。それを目にした俺の頬に、熱い何かが流れて落ちて行くのだった。

 

サイラオーグSIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

「・・・へへ」

 

俺は病室の前に立っていた。流石に、いま中に入るわけにはいかねえよな。

 

(サイラオーグさん。お母さんと好きなだけお話してください)

 

その間、俺は適当に時間でも潰しときますから。

 

「さーて、そうと決まれば探検でもしてみるかぁ」

 

ひょっとしたらギャー助や他のみんなに会えるかもしれねえしな!

 

室内から聞こえる呻き声をなるべく耳に入れない様にしながら、俺はそっとその場を離れるのだった。

 

「・・・なんか、俺も父さんと母さんに会いたくなっちまったな」

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

試合から三日後、この日、俺達は人間界へ戻る事になった。いやー、この三日間は極楽だったな。俺達の試合を見たホテルの支配人さんが感動させてくれたお礼と言って、なんとグレモリー家とバアル家、さらに先輩達や先生を含めた全員をタダで泊めてくれたのだ! 一緒にメシを食べたり、一緒に風呂に入ったり、この三日間でお互いにすっげえ仲良くなれた!

 

そして今、俺達はホテル前で最後の挨拶を交わしていた。みんな、それぞれ対戦した相手と話をしている。俺も今リーバンさんと握手を交わしたばかりだ。

 

「神崎殿、また改めて礼をしにお邪魔させて頂く」

 

「この度は、本当にお世話になりました」

 

「はい。お待ちしてます」

 

先輩とサイラオーグさんとお母さんが三人で話している。終わったら俺も挨拶しとかないとな。

 

「はあい、イッセー」

 

「あ、コリアナさん。色々お世話になりました」

 

この三日間、何かと俺を気にかけてくれてたもんな。飲み物が無くなったらすぐに淹れてくれたし、外に出る元気も無かった時は面白い雑誌を何冊も用意してくれたし。うう、こんな気遣い出来る素敵な美人の腹を殴っちまったのか俺は・・・。

 

「これであなたと会えなくなるなんて残念だわ」

 

「あはは。俺もコリアナさんみたいな綺麗な人と離れ離れになるなんて寂しいですよ」

 

「ホント? ホントにそう思ってくれてる?」

 

「え? ええ、もちろん」

 

俺がそう言うと、コリアナさんはスーツのポケットからペンとメモ帳を取り出し、何か書いたメモをちぎって俺に渡して来た。

 

「あの、コレは・・・?」

 

「私の連絡先。いつでもいいから連絡してね。あなた、甘い物は好き?」

 

「は、はい」

 

「私、美味しいケーキを出す喫茶店を知ってるの。今度一緒に行きましょうね」

 

「え・・・え・・・?」

 

「うふふ、楽しみにしてるわ」

 

妖艶な笑みと共に俺の前から去って行くコリアナさん。そこへ入れ代わるように木場が近寄って来た。

 

「デートの約束を取り付けるなんて、やるじゃないかイッセー君」

 

「はは、何言ってんだよ木場。あんな美人なお姉さんが俺みたいなガキとデートなんかするわけねえだろ」

 

「・・・」

 

「な、何だよその残念なものを見る目は」

 

・・・え? ひょっとして・・・マジで?

 

色々なものを得る事が出来たサイラオーグさんとの勝負。俺が最後に手にしたのは・・・美人なお姉さんの連絡先でしたとさ。




今回で九章は終了です。原作でも熱かった漢と漢の殴り合い。それを私なりに書く事が出来て満足でした。たくさんの感想、ありがとうございました。感想返しはちまちまとやっていきます。

この作品の主人公はオリ主です。ですが、オリ主ばかり活躍させる事に拘って、原作のキャラをオリ主の為の舞台装置みたいにしたくない。だからこそ、原作キャラ達にもしっかりとした出番を作りたいと思った結果、オリ主の存在価値が薄れるというとんでもない事態ががががが・・・。

ですが、後悔はありません。誰かが言っていた通り、みんなが主人公なんですよ。うん、そういう事にしておいてください。

さて、ここからは次章について。原作の流れはみなさんご存知でしょうから、それ以外の部分をちょっとだけお話します。

今回の章で全く目立たなかったオリ主ですが、次章も序盤から中盤にかけてほとんど空気です。この点に関しては予想されている方もいるかもしれません。その分、後半でしっかり暴走(ここ重要)してもらいます。原作を読まれている方は、オリ主の性格を考えると理由が何となくわかるかと思います。

























ラスボス騎士も出るよ(ボソッ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。