ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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一応、最新刊のネタバレ的な部分がありますのでご注意を。


第百五十二話 家族に乾杯

曹操SIDE

 

「・・・機は熟した」

 

俺は聖槍を手に自室をでる。すると、部屋の前にはゲオルクが待ち受けていた。

 

「どこへ行くつもりだ」

 

「なに、少しばかり伝説へ挑戦しに行こうと思ってな」

 

「本気・・・なのか?」

 

「ふ、伊達や酔狂で挑む様な相手じゃない。それはお前だってわかっているだろう?」

 

「わかっているからこそ、キミの考えが読めないんだ! 曹操、キミは自分の立場を忘れてしまっているのか!? キミの行動は、既に計画から大きく逸脱しているんだぞ! 悪魔達だけじゃなく、キミまであの騎士の影響を受けてしまったというのか!?」

 

溢れ出す怒気を真っ直ぐにぶつけて来るゲオルク。彼の言う事もわかる。以前の俺が今の俺を見れば、本当に自分なのかを疑うかもしれない。

 

だが、俺は見てしまった。知ってしまった。運命として定められた英雄ではなく、人々の願い、想いによって生まれた英雄という存在を。

 

「それについては済まないと思っている。だがなゲオルク。超常へ挑むという俺の本質は今も変わっていないさ。ただ、俺は答えを・・・英雄という存在の本当の意味を知りたいんだ。“彼”に勝てば・・・いや、勝敗は関係無い。戦えば、俺はその答えに至る事が出来るかもしれない。その時、俺は本当の意味で英雄になれるんだろう」

 

これ以上、言う事は無い。俺はゲオルクに背を向けて歩き始めた。

 

「曹操・・・!」

 

「ついて来るなよゲオルク。たとえお前であろうと、この戦いの邪魔はさせない」

 

この時、俺がほんの少しでも注意を傾けていれば、ゲオルクの呟いた言葉を聞く事が出来たかもしれない。そして、これから起こる後悔の連鎖を防ぐ事が出来たかもしれなかった。

 

「・・・そういうわけにはいかないんだよ、曹操」

 

曹操SIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

黒歌達とケーキバイキングに行った翌日。俺は朝から兵藤君の家へと向かっていた。リアスから兵藤君へのお使いを頼まれたからだ。

 

『ごめんなさいね、本当なら私が持って行くべきなのに』

 

『用事があるなら仕方ないさ。この問題集を渡すだけでいいんだろう?』

 

『ええ。お兄様とグレイフィアがイッセーに丁度いいレベルの物を見つけたからぜひ使って欲しいって送られて来たの』

 

そういうわけで、俺の右手には問題集の入った袋。左手には散歩用のリード。その先をハティがちょこちょこと歩いている。あー、今日も癒されるわぁ・・・。

 

・・・そういや、スコルが人の姿になれるって事は、この子も同じなのか? スコルが元気一杯の子だから、こののんびりで大人しい子は人の姿になってもそんな感じなのかもしれんな。あれだ。ちょうど昨日のテレビ番組でみた「遊佐こずえちゃん」みたいな。

 

おっと、妄想している間に目的地に到着したぞ。表札も「兵藤」だし、ここで間違いないだろう。ひとまずインターホンを押して・・・と。

 

「はーい」

 

数秒後、玄関の扉が開き、一人の女性が顔を覗かせた。優しそうな人だ。この人が兵藤君のお母さんだな。

 

「朝早くからすみません。ここは兵藤一誠君の自宅で間違いないでしょうか?」

 

「え、ええ、そうですけど。あなたは?」

 

「初めまして。兵藤君と同じ駒王学園三年生の神崎亮真と申します。今日は兵藤君に渡す物があってお邪魔しました」

 

「神崎亮真君? ・・・あ、もしかしてあなたがイッセーの言っていた“神崎先輩”ね!」

 

「え?」

 

「っと、いけない。お客様をいつまでも玄関先に立たせておくわけにはいかないわね。さ、どうぞ上がってちょうだい」

 

「いえ、お気遣いなく。それに、今はこの子もいますので、家の中にお邪魔するのは・・・」

 

「がうっ」

 

「あら、可愛いワンちゃんね! わかったわ。なら足を拭く為のタオルを持って来るから」

 

そう言って兵藤君のお母さんは一旦玄関を閉め、数秒してからタオルを持って戻って来た。最早招き入れる気満々だ。うーん、ここまでされて断るのは流石に悪いよな・・・。

 

「では、少しだけお邪魔させて頂きます」

 

「ええ、どうぞ」

 

こうして、俺とハティは兵藤家へと足を踏み入れた。兵藤君のお母さんの案内でリビングへ入ると、そこでは一人の男性がソファーに座って新聞を読んでいた。兵藤君のお父さんで間違いないな。

 

「どうしたんだ母さ・・・っと、そちらの彼は?」

 

「イッセーの先輩よ。ほら、例の」

 

「・・・おお! キミが神崎君か! ウチのイッセーが随分と世話になってる様だね」

 

「それと、えっと・・・」

 

「ハティです」

 

「ハティちゃんよ」

 

「くるるる」

 

「はは、ずいぶん可愛らしいお客さんじゃないか。母さん、そっちの戸棚にジャーキーがあったから取ってくれないか」

 

「ええ」

 

「あの・・・」

 

「まあまあ、まずは座って座って」

 

あれよあれよと椅子に座らされてしまった。二人も俺と向かい合う様に席に着く。

 

「はい、どうぞハティちゃ・・・あ、勝手に用意したけど、食べさせて大丈夫かしら?」

 

「え、ええ。基本的に何でも食べる子なんで」

 

「よかったわ。それじゃあ改めて、好きなだけ食べてねハティちゃん」

 

「がうっ!」

 

小皿に移されたジャーキーを勢いよくパクつき始めるハティ。キミ、さっき朝ご飯食べたばかりだろうに。

 

「きゃー、可愛い! こういうのを見ると、ウチでも飼いたくなっちゃうわ!」

 

「だが母さん。ウチにはもう手のかかるヤツが一人いるからそりゃ無理だよ」

 

「・・・それもそうね」

 

「済まないね神崎君。ウチのヤツがはしゃぎ過ぎて。それで、今日はどうして来てくれたんだい?」

 

「実は・・・」

 

俺は問題集の事を説明した。もちろん、悪魔云々の話は抜きにして。

 

「そうか。それはわざわざご苦労だったね。しかし・・・せっかくの問題集をアイツはちゃんと活用するのかねぇ」

 

「でもあなた。最近は夜遅くまで頑張ってるみたいよ。昨日も深夜の二時くらいにお手洗いに立ったら、休憩中のあの子とはち合わせたもの」

 

「そういえば、兵藤君は?」

 

「夜更かしし過ぎたせいか、まだ寝てるみたいよ。こうして神崎君が来てくれたっていうのにあの子は・・・」

 

「い、いえ、こちらも急にお邪魔したわけですし」

 

「ふふ、そんな申し訳なさそうな顔をしないでちょうだい。ただの冗談なんだから」

 

「真面目なんだなキミは。そんなキミがどうしてウチのイッセーなんかと仲良くしてくれているのか不思議でならないよ」

 

「そんな。兵藤君は自慢の後輩ですよ。俺の方こそ、何で彼が慕ってくれるのか不思議に思ってますから」

 

俺がそう言うと、二人は目を丸くしながら顔を見合わせた。

 

「・・・聞いたか、母さん? あのイッセーが自慢の後輩だとさ」

 

「ええ、確かに聞いたわ。・・・ねえ、神崎君。ひょっとして、あの子に弱みでも握られてるの? もしそうなら今ここで話してちょうだい」

 

「ああ。内容によっては、久々に鉄拳制裁を行わないといけないからな」

 

ちょ、どんだけ息子さんの事信用していないんですか!?

 

「進級して少しばかり落ち着いた様に見えるが、去年までのアイツには色々苦労させられたからなあ。おそらく、二年生になって、学校でキミや他の子達の影響を受けて少しずつ変わってきたんだろう」

 

「そうね。神崎君のご両親が羨ましいわ。いっその事、一度お礼でも言いに行かせてもらった方がいいのかしら」

 

両親・・・か。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、俺の両親は既に死んでいます。とある事件に巻き込まれて、二人一緒に」

 

「「ッ!?」」

 

俺を残していなくなった両親を恨み、俺から両親を奪った世を憎み、そして同時に、両親が遺したものの大きさを知り、俺に両親と同じ生き方をするように決意させた事件。俺はもうふっ切っているつもりだが、目の前の二人は酷く狼狽した様子で慌てて頭を下げて来た。

 

「ご、ごめんなさい! 私ったらなんて無神経な・・・!」

 

「いいんです。そういうつもりで言ったわけじゃないってわかってますから」

 

やってしまった・・・。馬鹿か俺は。初対面の人に話す事じゃないだろ。この話になると、決まって余計な事を言ってしまう。考えるよりも先に口が動いてしまう。この癖みたいなものなんとかならんだろうか・・・。

 

「いや、それは違う。誰にだって触れて欲しく無い部分や、知られたくない事はある。知らなかったとか、そういうつもりじゃなかったなんてのは、それに無遠慮に踏み込んでいい理由には決してならない。本当に済まない神崎君。俺からも謝罪をさせてもらうよ」

 

なおも頭を下げ続ける二人。俺に対して本当に申し訳なく思っているのがひしひしと伝わって来る。

 

「それに、かつて家族を・・・家族になるはずだった存在を失ってしまった俺達だけは、同じ様に家族を失ったキミに対してその話題に触れる事は絶対にやってはいけなかったんだ」

 

「どういう事ですか?」

 

俺の疑問に、二人はようやく顔を上げた。そして数十秒の沈黙の後、重い口を開いた。

 

「・・・本当なら、イッセーには兄か姉がいたはずだった。俺達は、あの子の兄か姉になるはずだった子を・・・喪ってしまった」

 

SIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

「ふわー・・・眠ぃ・・・」

 

『大きなあくびね、イッセー』

 

許してくださいよエルシャさん。昨日の夜から今日の四時過ぎくらいまでずっと起きてたんですから。

 

『あら、私は感心してるのよ。勉強嫌いのあなたにしてはよく頑張ってるじゃない』

 

へへ、どうもっす。さーてと、試験まで日がねえし、とりあえず朝飯食ったらまた机に向かうとしますか。

 

今日のスケジュールを組みながらリビングまで後少しの所まで来た所で、何やら父さんと母さんの話し声と、別の人物の声が聞こえて来た。ありゃ、お客さんでも来てんのかな?

 

「そんな。兵藤君は自慢の後輩ですよ。俺の方こそ、何で彼が慕ってくれるのか不思議に思ってますから」

 

え・・・この声って、神崎先輩!? な、何で先輩が俺の家に来て、俺の親と話ししてんのよ!?

 

「・・・聞いたか、母さん? あのイッセーが自慢の後輩だとさ」

 

「ええ、確かに聞いたわ。・・・ねえ、神崎君。ひょっとして、あの子に弱みでも握られてるの? もしそうなら今ここで話してちょうだい」

 

「ああ。内容によっては、久々に鉄拳制裁を行わないといけないからな」

 

酷い濡れ衣だ! よし、ここは乗り込んで俺の口から直々に潔白を証明してやる!

 

意気揚々とリビングへ足を踏みれようとした俺だったが、次に聞こえて来た言葉に一瞬で動きを止めてしまった。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、俺の両親は既に死んでいます。とある事件に巻き込まれて、二人一緒に」

 

「なっ・・・!?」

 

先輩のご両親はもう死んでる? しかも事件って事は・・・まさか、殺されたってのか!? 何で、何でそんな事に・・・。

 

―――相棒。ヤツがかつての世界でどういう存在だったのか思い出せ。

 

世界を脅かす敵と戦い続けた鋼の救世主達の総司令。だったら、必然的に敵の恨みや憎しみは先輩に集中してた?

 

―――そして、ヤツに手が出せないとわかった者達が、標的をヤツ本人からヤツに近しい者へと変えたとしたら・・・。

 

んだよそれ! 先輩に敵わないから先輩の親を狙うとか卑怯過ぎるだろうが!

 

―――ああ、いかにも小物が考えそうな事だ。だが、結果的にヤツの両親は何者かによって命を奪われた。もしかしたら、ヤツの目の前でな。

 

絶句する俺の耳に、父さんと母さんが先輩へ謝罪する声が届く。先輩は気にしていない様に言うが、もしかしたらそう装っているだけなのかもしれない。

 

「それに、かつて家族を・・・家族になるはずだった存在を失ってしまった俺達だけは、同じ様に家族を失ったキミに対してその話題に触れる事は絶対にやってはいけなかったんだ」

 

「どういう事ですか?」

 

「・・・本当なら、イッセーには兄か姉がいたはずだった。俺達は、あの子の兄か姉になるはずだった子を・・・喪ってしまった」

 

「・・・え?」

 

俺に兄か姉・・・? ど、どういう事だ? そんな事聞いた事もねえぞ?

 

「私達、結婚したらたくさん子どもを作ろうって決めてたの。可愛い子ども達に囲まれて幸せな一生を過ごしたいって、二人でいつか夢を叶えようねって。だけど、数年経っても中々妊娠出来なかった。そこでようやく、私の体が妊娠しにくい体質だって気付いたの」

 

「もちろん、そんな事でへこたれる俺達じゃなかった。それからさらに数年して、ついに子宝を得るチャンスがやって来たんだ」

 

「だけど・・・。私がそういう体質だった所為で、その子は私達に抱かれる事無く天国へ行ってしまった」

 

当時の辛い記憶が蘇ったのか、母さんの声が震えている。どうしよう・・・。俺はこの話を聞き続けていいのだろうか。

 

『聞いておきなさい、イッセー。きっと、それがあなたと、あなたのご両親の為になるはずよ』

 

エルシャさん・・・。わかりました。辛い話かもしれないけど、聞く事にします。

 

「最初の子を喪って二年が経った頃、俺達に再び機会がやって来た」

 

「あの時のこの人のはしゃぎっぷりったら本当に凄かったのよ。狭い部屋の中を駆け回ったり、出産や育児に関する本を買い漁って、食事中どころかトイレやお風呂の中でまで読みふけってたんだから」

 

「おいおい、それはお前も一緒だったろう。そんな感じで、とにかく俺達は細心の注意を払って出産の為の準備を進めた。逝ってしまったあの子の分まで、精一杯の愛情を注いで育てるんだって」

 

「・・・でも、お医者様は再び私達に残酷な言葉を告げて来たわ。私達は、二人目の子どもも喪ってしまった」

 

「諦めようと思ったよ。確かに子どもは欲しい。だけど、これ以上コイツの体を、コイツの心を傷付けたくはなかった。だから、俺達は二人だけで生きて行こうって決めた」

 

「それでも、心のどこかで子どもを求めていたのかもしれない。二人目の子を喪って数年後、この人と一緒になって八年が過ぎた頃、私のお腹に三人目の命が宿ったの。そして、それがあの子・・・イッセーだったわ」

 

八年・・・。結婚して俺が生まれるまで八年かかったっていうのか。

 

「俺は覚悟を決めたよ。俺の命と引き換えにしてでも、この子を無事に誕生させてみせるって。絶対に、コイツに子どもを抱かせてやるんだって。何冊も本を読んだ。専門の機関にも足しげく通った。それでも足りないと神様にも祈った」

 

「そして・・・あの子は生まれて来てくれた。私達の元にやって来てくれた。あの子の名前はこの人が考えてくれたのよ。一番、誠実に生きて欲しいと願って“一誠”って」

 

「父さん・・・母さ・・・ん・・・」

 

俺は泣いていた。辛かったはずなのに、悲しかったはずなのに、それでも二人が願い続けたから、俺はこの世に生まれる事が出来た。初めて知ったその事実と、二人の深い愛情に、俺は胸が一杯になってしまった。

 

『・・・素敵なご両親ね』

 

はい・・・。自慢の、最高の両親です!

 

「・・・はは」

 

「神崎君?」

 

「兵藤君がどうしてあんなに真っ直ぐな好青年なのかよくわかりましたよ。こんなに・・・こんなに素敵で素晴らしいご両親に育てられたんだ。そうならないわけがない」

 

「・・・ありがとう。私達にとっては最大級の褒め言葉だよ」

 

―――真っ直ぐな好青年か。ふ、随分と評価されたものだな相棒。

 

わざわざ言うんじゃねえよ! なんか恥ずかしくなって来たわ!

 

「神崎君。イッセーはね、私達にあなたの事をよく話して来るのよ。女の子にばかり現をぬかしていたあの子が、楽しそうに、嬉しそうに話すの。まるで、兄の自慢をする弟みたいに。私はそれを見て、天国へ行った子のどちらかが、生まれ変わってあの子に会いに来てくれた・・・なんて馬鹿な事を考えちゃったりしたわ。だから、一目でいいからあなたに会ってみたいと思っていたの」

 

「キミからしたら手のかかるヤツかもしれん。だが、どうかこれからもイッセーと仲良くしてやってくれ。アイツには、生まれるはずだった兄や姉の分までたくさんの幸せを掴んで欲しいんだ。親馬鹿だって自覚はしてるがね」

 

「もちろんです。それに、俺だけじゃない。同じ部活の仲間や、クラスメイト。兵藤君の周りにはたくさんの仲間がいますから」

 

―――相棒、話も落ちついた事だし、そろそろ中に入ってもいいんじゃないか。

 

・・・そうだな。よし、んじゃあ行くとするか!

 

「おはよーっす! ってあれ、先輩じゃないッスか!」

 

俺は涙を拭い、テンション高く挨拶するのだった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

「おはよーっす! ってあれ、先輩じゃないッスか!」

 

おっと、ここで寝間着姿の兵藤君の登場だ。寝癖もついてるし、起きてすぐここへ来たっぽいな。

 

「やっと起きて来たのねイッセー。アンタ、ちょっと目が赤いけどどうしたの?」

 

「な、何でも無いって。遅くまで勉強してて充血しただけだから」

 

「それよりイッセー。お客さんの前でなんて格好してるんだ。先に身支度を整えて来なさい」

 

「へーい」

 

姿を消す兵藤君。数分して着替えその他を済ませて再び姿を現した。

 

「先輩、改めておはようございます」

 

「がうっ!」

 

「うおっ、ハティもいたのか!? そ、それで、今日はどうしたんですか?」

 

「キミにコレを持って来たんだ」

 

問題集を渡すと、兵藤君は察した様に頷いた。

 

「ありがとうございます! これでバリバリ勉強しますよ!」

 

「ああ、頑張ってくれ。では、俺はこの辺りで失礼するよ」

 

「あら、もう帰るの? もう少しゆっくりしていっていいのよ?」

 

「そうだぞ。遠慮なんてしなくていいんだ。話をしている間にちょうどお昼時だし、せっかくなら昼飯も食べていきなさい」

 

「そうですよ! 食べていってください! ウチの母さん、料理だけは上手ですから」

 

「アンタは一言多いのよ!」

 

「ちょっ、顔は止めて! せめてボディーに!」

 

「はは、ならご厚意に甘えさせてもらいます」

 

せっかくのお誘い。何より・・・この素敵な家族の温かな空気をもう少し感じたいと思い、俺はご一緒させてもらう事にした。

 

兵藤君の言葉に、彼のお母さんが容赦の無いツッコミを入れ、それを見て彼のお父さんが笑う。眩いばかりの“家族”の光景がそこには存在していたのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「それじゃあな、神崎君」

 

「またいつでも遊びに来ていいからね。あ、出来ればハティちゃんも」

 

「はい。必ず」

 

昼食後、俺は玄関で兵藤家全員からお見送りされていた。

 

「先輩、えっと・・・」

 

「兵藤君。ご両親を大事にな?」

 

「・・・うっす!」

 

「また学園で会おう」

 

大きく頷いた兵藤君に別れを告げ、俺は兵藤家を後にした。・・・来て良かった。心からそう思える時間だった。

 

同時に思う。兵藤君が危ない時は、俺の全力で彼を守らなければならないと。あの家族の絆を、幸せを引き裂く様な外道が現れたら俺は・・・。

 

「誓いを破るつもりは無い。だが、その時は・・・」

 

SIDE OUT

 

 

アーシアSIDE

 

イッセーさん達の試験まで後三日。学園から帰宅してすぐにリョーマさんが出かけようとしていた。

 

「あれ、リョーマさん、どちらへ?」

 

「ちょっと走って来るよ。済まないが留守番を頼む」

 

「またですか?」

 

「黒歌達にも聞いたが、結局、自分に出来る事を少しずつやって行こうという結論になってな」

 

「ふふ。なら、私はリョーマさんに美味しく食べてもらえるよう、夕飯の準備を頑張りますね」

 

「そうか。今日の当番はアーシアだったな。これは頑張る理由が増えたな」

 

ランニングシューズを履いたリョーマさんが玄関を開ける。そして、私の方に振り返って笑顔で言った。

 

「行って来ます」

 

「行ってらっしゃい」

 

玄関の向こうへ消えていくリョーマさんの背中。―――これが、私とリョーマさんが交わした最後の言葉だった。夕飯の時間を過ぎ、一日が経過し、二日を越え、そしてイッセーさん達の試験当日を迎えても、リョーマさんが再び玄関を開けて帰って来る事は無かった・・・。




いくつか意味深な発言をしたオリ主ですが、この章では彼の過去が少しだけ明らかになります。ヘタレだなんだと理由を付けていた“不殺”の本当の理由もわかるかも。

なのに最後の最後で行方不明になるというね。はてさて、オリ主はどこへ行ったのでしょうか。そして、オリ主をD以来久々にブチ切れさせる相手は果たして・・・。

つヒント(原作十一巻後半に出てくるアイツ)

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