ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百五十四話 堕ちた英雄

季節が冬に近づいている所為か、最近日の入りになるのが早くなっている気がする。家を出た時はまだ明るかったのに、こうして三十分走っている間に辺りはすっかり暗くなってしまっていた。けどまあ、暗くなろうが寒くなろうが今の俺は止まらんぞ!

 

『おー。随分テンション高いなぁ』

 

あ、オカンじゃないですか。なんか久しぶりですねこうやって話すの。

 

『そうやなぁ。近頃はアンタから相談される事も少なくなってしもうたしなぁ。うう、なんだか捨てられた気分や』

 

いやいやいや! 恩人相手にそんなわけないじゃないですか!

 

『わかっとる。ちょっとイジワル言ってみただけや。アンタ、安易にウチに頼りたくないんやろ?』

 

そういうつもりじゃないです。ただ、今の自分に何が出来るか。誰かに世話になってばかりじゃなく、自分のするべき事をやって行こうと思ったんで。

 

『そうか。・・・うん、よう言うた。ならウチも、アンタの決意を尊重して、余計なお節介は控える事にするわ。アンタが本当にダメだと思った時、自分一人じゃどうしようもなくなるような事に直面した時以外は、黙って見守らせてもらう事にするで』

 

それは・・・。・・・いえ、それくらい追い込んでもらわないと意味がないかもしれませんね。・・・すみません。今まで散々お世話になっておいて調子のいい事を。

 

『ええんよ。若い子の成長を見守るんはオバちゃんの義務であり特権なんやから。・・・あ、言うとくけど我慢するのはアンタに関係する事だけやからな。もしアーシアちゃんから助けを求められたら全力で助けさせてもらうで』

 

うん、それは仕方無い。というか当然ですね。

 

『それでこそ『アーシアちゃんを守る会』会長や!』

 

サムズアップしているであろうオカンの声が遠くなっていく。・・・さてと、脳内会話している間にいつもの公園の近くまで来てしまっていたわけだが、丁度いいしここで少し休憩するか。ここは知り合いとのエンカウント率が高いから、また誰かに会えるかもしれんし。

 

そう思い公園内へ足を踏み入れると、少しして俺の前に一人の人物が姿を現した。

 

「やあ・・・。ここにいれば会えると思っていたよ」

 

「あなたは・・・」

 

その学生服+民族衣装という珍しい格好は忘れられたくても忘れられない。しかも、今日は前回見なかったカッコいい槍まで持ってる。この寒空の下でコートも着ないなんてレイヤーさんの鑑だな。

 

「そこにベンチがある。話をさせてくれないかな」

 

こうして、俺は謎のコスプレイヤーこと曹操(仮)さんと二度目の出会いを果たしたのだった。二人でベンチに腰掛け、しばし無言の時を過ごした後、曹操(仮)さんが静かに口を開いた。

 

「・・・京都では俺の仲間が世話になった様だな」

 

京都? 何の話だ? 確かにオカンの指示で鬼畜ペロリスト集団をぶちのめしに行ったけれど、レイヤーさんと何かした憶えはないぞ。

 

「済まないが、記憶にない」

 

「そうか・・・(キミにとっては記憶に残らないほど矮小な相手だったという事か。キミの戦いを間近で見た者の中には、未だ恐怖から立ち直れていない者や逃亡してそのまま戻って来なかったヤツもいたのだがな)」

 

「あなたは何故ここに? そんな槍まで持ってどうしたんだ?」

 

この辺りで今日イベントをやってるって話は聞いていない。まさか、前回みたいに一人でコスプレして家の周りを歩いてたりしてたんだろうか。警察に見つかってたら間違い無く職質コースだったろうに。

 

「神崎君。・・・俺と勝負してくれないか」

 

「・・・どういう意味だ?」

 

「言葉通りさ。今、この場で俺と手合わせして欲しい」

 

いや、そんなしれっと言われても困るんですけど。というか理由を言ってくださいよ理由を。

 

「『鋼の救世主』・・・読ませてもらったよ。キミの戦いが・・・キミの王道の集大成がそこには書かれていた。だからこそ、俺は覇道を歩む者として、キミとの戦いを望む。そうすれば、俺は答えを・・・英雄という存在の真の答えを掴みとれるかもしれないんだ」

 

ッ・・・!? そうか。ここにも俺の罪の犠牲者がいたのか・・・! なら、俺には彼の求めに応える義務がある。それが俺の償いなんだからな。

 

「わかった。その勝負、受けよう」

 

俺の答えに、曹操(仮)さんは最初驚いた様に目を丸くしたが、すぐに嬉しそうな笑みを見せた。

 

「感謝するよ。・・・こうしている時間すら惜しい。早速始めさせてくれ」

 

曹操(仮)さんがはねる様にベンチから立ち上がり、広場の方へ向かう。俺もその後に続いた。

 

「能力は使わない。槍術のみで挑ませてもらう。そうでなければ、人間の身で至ったキミを越える事など出来はしない」

 

槍を構える曹操(仮)さん。瞬間、アル=ヴァンセンサーが激しく反応し始めた。この人・・・ただのレイヤーさんじゃない!?

 

・・・いや、考えようによってはこれはチャンスだ。クロウさんの時の様に一方的にボコられるかもしれんが、精々勉強させてもらう事にしよう。・・・あ、でも始める前にどうしても彼に言っておきたい事がある。

 

「始める前にこういう事を言うのもなんだが、上着だけでも脱いではくれないだろうか」

 

彼には何の非も無いのは重々承知しているのだが、どうしてもあの格好を見ると鬼畜ペロリストau派を思い出してしまう。無意識に力を入れ過ぎたり手元が狂ったりして大怪我させちゃうかもしれない。

 

「もちろん、あなたがそれをよしとするならばの話だが」

 

服を脱げとか一歩間違えたら変態だよな。どうか通報だけは勘弁してください。

 

SIDE OUT

 

 

曹操SIDE

 

ついに・・・ついにこの時を迎えた。間違い無く、俺の目の前にいるのはフューリーだ。俺は、今からこの男と戦う。覇道の先・・・英雄の答えを知る為に。

 

(まさか、快諾されるとは思っていなかったがな)

 

俺は英雄派であり『禍の団』の一員。つまり、彼の大嫌いなテロリストだ。顔を合わせてすぐに切りかかられてもおかしくなかったはずだが、彼はそれをしなかった。

 

その疑問の答えを、俺は次の瞬間に知る事となった。

 

「始める前にこういう事を言うのもなんだが、上着だけでも脱いではくれないだろうか」

 

耳を疑ったが、彼が意味も無くその様な事を言うはずが無い。その真意を探るべく、俺は考えを巡らせた。

 

(この漢服。そしてこの学生服は英雄派の証ともいえる。それを脱げという事はつまり、英雄派としての俺を望んでいないという事なのか)

 

英雄派としての俺でなく、あるがままの俺で挑んで来い。彼はそう言いたいのかもしれない。・・・なるほど、勝負を快諾した理由もそこに通じているという事か。

 

「もちろん、あなたがそれをよしとするならばの話だが」

 

「それでキミが本気になってくれるのなら」

 

俺は迷い無く学生服を脱ぎ去った。戦闘用の黒いボディスーツ姿となった俺を見て神崎君が目を丸くする。

 

「その傷は・・・」

 

「ああ、これかい。どれも最近ついたものさ。なんせ、人間である俺が、能力を使わず槍だけで化物達とやり合ったんだ。こうなるのも当然だよ。まあ、おかげで以前の俺よりも格段にマシになったと思うけどね。その証拠を、今からキミに見せるよ」

 

さて、おしゃべりはここまでにしておこう。伝説の騎士、超常を越えし英雄よ・・・俺は、俺の全力でキミに挑戦する!

 

「いくぞフューリー!」

 

槍を振り回しながら神崎君へ向けて走る。そのまま遠心力を利用して上段から一気に槍を振り下ろす。

 

「ッ・・・!?」

 

それを横に跳ぶ事で回避する神崎君に俺はさらなる追撃を行う。槍を支柱にし、連続で回し蹴りを叩き込むが、神崎君は両腕を組んでガードする。俺の蹴りが神崎君の腕に直撃するが、彼のガードは鉄壁のごとくそれを防ぐ。次の瞬間、俺の足を激痛が襲った。

 

(固すぎる・・・! 攻撃した俺がダメージを受けるなど・・・人間の体の固さではない!)

 

神崎君の防御力については俺も知っている。だが、それはあの鎧のものではないのか。まさか・・・彼の肉体そのものの防御力だというのか。

 

(だとしたら、こちらの攻撃は全て・・・)

 

・・・何を弱気になっている。相手は二天龍を下した男だ。こんな展開になったっておかしくは無いだろう。それに、彼はまだ武器すら手にしていないんだぞ。

 

(正攻法が王道だというのなら、搦め手で攻めるのが俺だ。伝説であろうと、人間ならばつけいる隙は必ずあるはずだ!)

 

槍で地面を抉り、大量の土を神崎君へ向けて弾き飛ばす。目くらましにすらならんだろうが、一瞬でも時間を作れれば十分だ。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

裂帛の気合と共に、槍を縦横無尽に突き出す。反応が遅れた神崎君に穂先が突き刺さろうとした刹那、甲高い音と共にその刃が受け止められる。それは、彼の持つ剣によって防がれた結果だった。あの一瞬で武器を出現させたというのか・・・!

 

「く、くく・・・」

 

本気の攻撃を防がれたというのに、俺は自分でも驚くほど悔しさを感じていなかった。それよりも、彼に武器を持たせたという結果に心が沸き立つ。これでいい。これでようやく彼の相手として認められたのだ。

 

(楽しいな。ああ、本当に楽しいよ神崎君・・・)

 

思えば、何のしがらみも無くこの槍を振るえるのは初めてではないだろうか。英雄派もロンギヌスも関係無い。今この場にいるのは、ただの男とただの槍だ。

 

俺の感情に中てられたのか、槍が淡く発光する。そうか相棒、お前も楽しいか・・・!

 

「さあ、勝負はここからだ・・・」

 

そう言って俺が槍を構えたその時だった。聞くはずの無い声が俺の耳に届いたのは。

 

「・・・いや、遊びは終わりだよ曹操」

 

曹操SIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

やべえ・・・この人強い。動きも速いし一撃も重い。何より、俺以外見る必要も無いと言わんばかりにギラギラした目がめっちゃ怖い! おい、誰だよこの人をレイヤーさんとか言ってた間抜けは! ビビり過ぎてオルゴンソード出しちゃったじゃないか!

 

「さあ、勝負はここからだ・・・」

 

ねえ、これ手合わせですよね!? 野郎、ぶっ殺してやる! なんてつもりじゃないですよね!?

 

「・・・いや、遊びは終わりだよ曹操」

 

その声はあまりにも突然だった。俺と向かい合う曹操(仮)さんの後方から、一人の男性がゆっくりと姿を現した。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてだな騎士殿。俺はゲオルク。『禍の団』英雄派に属している」

 

ッ!? 来た! 鬼畜ペロリスト来た! ここで潰す! なんて言ってる場合じゃない。何でau派がこんな所に・・・!?

 

「ゲオルクゥ・・・!!!」

 

「もういいだろう、曹操。そろそろキミには本来のキミに戻ってもらいたい」

 

「ふざけるな。手出しはするなと言ったはずだぞ」

 

「フューリーと勝負するというキミの願いは叶ったじゃないか。人払いの結界まで張って。・・・まあ、勝負に集中するあまり、俺達がここに来た事にも気付いていなかったようだがな。以前のキミならばすぐに気付いていただろうに」

 

気付けば、俺と曹操(仮)さんは大勢の人間に囲まれていた。その全員が同じ格好をしている。こいつらもau派か!

 

「勝負はまだついていない。俺は英雄派の曹操ではなく、挑戦者曹操として神崎君と戦うのだ・・・!」

 

・・・え? ちょ、ちょっと待ってくれ。曹操(仮)さんが・・・au派? そんな・・・この人も鬼畜ペロリストの仲間だったのか!? 英雄派=コスプレサークルじゃなくて、au派=鬼畜ペロリストだったっていうのか・・・!

 

「そうか・・・そういう事だったのか」

 

ショックだわ。ちょっと変わってるけどいい人だと思ってたのにな。

 

SIDE OUT

 

 

曹操SIDE

 

ゲオルクとの会話に夢中になっていた俺は、そこでようやく気付いた。神崎君が俺を見る目の色が一変していた。

 

「そうか・・・そういう事だったのか」

 

明らかな失望、落胆、幻滅の視線が俺を射抜く。

 

―――挑戦だなんだと言っておいて、最初から騙し討ちするつもりだったという事か。

 

「違う・・・。違うんだ神崎君。俺は、俺は純粋にキミとの勝負を・・・!」

 

まるで恋人に浮気がばれた男のように、俺は言いわけにもならないような事を口走り続けた。

 

「本当であれば曹操との戦いで疲弊した所を狙うつもりだったんだがな」

 

「黙れと言っているだろうゲオルク!」

 

「いいや、黙らないさ。この千載一遇のチャンスを逃すつもりはない。始めるぞ!」

 

瞬間、俺と神崎君の足下に巨大な魔法陣が出現した。この紋様・・・まさか!?

 

「ゲオルク! お前、ここでアレを・・・時空転移を使うつもりか!?」

 

「その通りだ曹操。騎士殿、突然だが貴殿には計画の邪魔にならぬよう、しばしの間退場して頂く。貴殿達が戦っている間に下準備は済まさせてもらっている。発動までもう十秒も無い」

 

「ちぃっ! 神崎君、すぐにこの魔法陣から離れろ!」

 

「それも想定済みさ」

 

突如として神崎君の体を鋼の糸が包み込む。咄嗟の事に反応が遅れ、気付けば俺の体も同じ様に拘束されていた。くそ、これでは『馬宝』も使えん・・・!

 

「曹操!? 何をしている! 動きを封じるのはフューリーだけでいい!」

 

ゲオルクが放った怒声の先で、メンバーの一人が手から糸を出しながら俺を睨んでいた。この糸はアイツの神器によるものか・・・!

 

「うるさい! 俺が信じた、俺が憧れた曹操はもう死んだ! こんな腑抜け野郎、フューリーと一緒に消えちまえばいいんだ!」

 

「止めろゲオルク! このままじゃ曹操が!」

 

無駄だ。確かこの術式は一度発動したら止める事は出来なかったはずだ。このままでは、俺は神崎君と共に、どこともしれない時の向こうへ消えてしまうだろう。

 

「・・・え?」

 

魔法陣の光がさらに激しくなる。それをまるで他人事の様に眺めていた俺の体が、トンッと何かに押され、魔法陣の外へ飛び出した。一瞬の事に何が起こったのか処理が追いつかない俺が見たのは・・・封じられていた右手をこちらに向かって突き出していた神崎君の姿だった。彼が俺を魔法陣の外へ突き飛ばしたのだと、その時になってようやく理解した。

 

「どうして・・・どうして俺を・・・!? 神崎君!」

 

「・・・これでいい」

 

満足そうな微笑みを残し、神崎君は魔法陣の向こうへと姿を消した。何故俺を助けた? 何故キミは満足そうに消えていった? 俺にはわからない。

 

だが、これだけは言える。俺は・・・神崎君への挑戦権を永遠に失ったのだ。騙し討ちの卑怯者が、誇り高き騎士の前になど立てるはずが無い。

 

この瞬間、俺の覇道は終わりを迎えたのだった。




Q:何でオカンはオリ主を助けないの?

A:オリ主が余計な事言ったからです。

オリ主「ひどい! だましたのね!」

曹操「それは誤解だ!」

・・・とまあ、こういう事がありまして、曹操は汚いリディ・・・もとい汚い曹操になりました。

・・・なんだこの修羅場感は。

二月十一日、騎士の日常の冥界掲示板第一話を追記しました。この章にもちょっと関係するかもしれないので、お時間がある方はチェックして頂けると嬉しいです。

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