ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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曹操が可愛いとか曹操がヒロインだとか・・・どうも掘られ隊予備群が増えてるようです。


第百五十六話 抵抗は正当な権利です

「・・・変だな」

 

その違和感に気付いたのは公園を出て少し歩いた頃だった。この道は何度も通っているから、周囲の景色や建物も憶えている。その記憶の中に存在するはずのものが存在せず、存在しないはずのものが、いま俺の目に映り込んでいた。例えば、今の位置から東の方を向けばマンションが見えたはずだし、さっき曲がった角の傍には電柱が建っていたはずだ。

 

んー・・・。モヤモヤするな。まさか、俺が寝ている間に工事したとか? いや、それこそありえない話だ。

 

「きゃっ・・・!?」

 

うおっ、しまった。景色に気を取られて前方不注意で女性にぶつかってしまった。・・・なんか、ぶつかった割には随分と柔らかな衝撃だったが。

 

「ああ、レ、レポートが!」

 

なんて言ってる場合じゃない。俺は周囲に散らばった用紙を回収して女性に手渡した。

 

「すみません。こちらの不注意で」

 

「いえ、そんな。私の方こ・・・そ・・・」

 

どこか見覚えのある、緑色のショートヘアに眼鏡をかけたその女性が俺を見て固まる。どうしたんだろう。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「い、いいいいえ! なんでもないです!」

 

「そうですか。それと、一応全て回収したと思いますが、確認してもらっていいですか?」

 

「え? あ、レ、レポートの事ですね! えっと・・・は、はい、全部あります!」

 

よかった。レポートって言ってるし、無くしたら大変な事になってただろうしな。改めて謝罪し、俺は女性と別れた。・・・にしても、あの女性から感じる既視感は何だったんだろう。

 

しばし考え、俺は答えに辿りついた。そうだ、今の人、山田先生にそっくりだった。今より少しだけ若い・・・ちょうど大学生くらいの山田先生はこんな風だったんだろうって感じの。・・・体の一部は既に今と同じレベルだったけれど。ぶつかった時の柔らかな衝撃の正体はあれだったのか・・・。

 

「先生に妹さんがいるとは聞いていないが・・・」

 

まあ、他人のそら似ってヤツだろう。たぶん、本人に話したら「へえ、私も会ってみたいです」なんて言うんだろうなぁ。

 

思わぬ話のネタをゲットし、俺は家路を進む。もう少しだ。この角を曲がればほら、天使達が待つ我が空き地が・・・空き地?

 

「なん・・・だと・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ! 俺とした事がついフリーズしてしまった。は、はは、どうやら調子に乗って走り過ぎたみたいだな。疲れで幻覚を見ちゃうなんて。うん、一度落ちつこう。目を瞑って大きく深呼吸を三回。そうして目を開ければ、今度こそ・・・空き地ですね。うん、どこからどう見ても、完全無欠に空き地ですね。

 

ど、どういう事だ・・・!? 空き地の両隣の家は・・・うん、山本さんと佐々木さんで間違いない。なら、間違い無くこの場所に俺達の家が建ってるはずなのに・・・!

 

まさか、俺の知らない内にリアスがまた改装を!? ステルスか!? ステルス機能でもつけたのか!? もしくは家ごとワープ機能とか!?

 

「そうだ、リアスに連絡を・・・!」

 

取り出した携帯が反応しない。ちょっ!? こんな時にバッテリー切れかよぉぉぉぉぉ!!

 

充電もせずに外出した過去の自分を全力で呪いつつ、俺は憎たらしいほどに澄み切った夜空を見上げ途方にくれるのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「あじゃじゃしたー」

 

帰るべき家が消失するという、普通に生きてたらまず体験する事の無い出来ごとに直面した俺が最初に向かったのはコンビニだった。目的は食料を確保する為だ。夕飯を食べていないという事もあるが、人間、空腹だと考えもネガティブに陥りがちになると聞いた事があるので、気持ちを落ち着かせ、冷静に頭を働かせる為にも必要だと思ったからだ。幸い、財布は持って出ていたのでお金の心配はしないでよかった。

 

にしても、コンビニ弁当なんて久しぶりだ。美味いのは美味いんだが・・・アーシアやリアス達の手料理に比べたらな。本当なら今頃家でアーシアの手料理をみんなで食べているはずだったのに・・・。っと、いかんいかん。早速考えがネガティブに。

 

ロクに味わいもせず弁当を食べ終わる。これでとりあえず腹は膨れた。

 

さて、落ちついたところで改めて状況を整理してみよう。まず思いつくのは、ペロリスト共によって違う場所へ連れて来られた可能性だが・・・。多少違和感はあるけれど、ここは駒王町で間違いない。さっき歩いている時に駒王学園があるのを確認したからな。

 

次に、消えた家とアーシア達の所在だが・・・。弁当のついでに充電器を買おうとしたら何故か古いタイプのものしか売ってなく、連絡手段の確保は叶わなかった。アーシアにはオカンがついているから、危険な目に遭ってるという事は無いだろうが・・・心配だ。本当にリアスのお茶目ならまだいいが、最悪、オカンに頼んで何とかしてもらうしかないかもしれん。・・・あれだけ大口叩いておいて情けないと思われるかもしれんが、あの子達の安全以上に大事なものなんざ存在しない。

 

とりあえず、ペロリストの一人でも絞めあげればこの状況について何かわかるかもしれない。まだこの街に潜んでるかもしれないし、探してみるか。

 

ひとまずの目標を定め、俺は夜の駒王町を一人彷徨い始めるのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

どれくらい歩いただろうか、気付けば俺は街外れに佇む廃墟へとやって来ていた。・・・怪しい気配がビンビンする。いかにもペロリスト共が好みそうな場所だ。

 

敷地内に足を踏みいれると、何とも言えないヌルっとした感覚が俺を襲う。そのまま奥の方へ進んで行くと、何やら人の話し声のようなものが聞こえて来た。もしペロリストならとっ捕まえて、もしDQNな方々が集会でも開いてたら・・・見なかった事にして回れ右しよう。

 

物陰からそっと様子を窺う。天井が崩れ、月の光が降り注いでる広間で、一組の男女と、それを囲むように立つ複数の男達の姿が確認出来た。何やら穏やかではない雰囲気だ。

 

(あれは・・・)

 

男達が男女に向けている物を見て俺は眉をひそめた。あのライトセーバーもどき・・・間違いない、クレイジー神父や教会の変態共が振り回して遊んでいたあの玩具の剣だ。という事は、アイツ等教会の人間!?

 

野郎・・・まだこの街に残ってやがったのか。しかも、未だ反省の気配ゼロじゃないか。チャンバラで遊ぶなら身内とやれ。一般人巻き込んでんじゃねえよ。

 

「・・・残念だよ、正臣。やれ」

 

「いや、正臣――――!」

 

教会側の男の一人の指示で、残りの男達が男女へ襲い掛かる。すると、男性の方が女性を守るように立ちはだかった。その光景を目の当たりにした俺を突然のフラッシュバックが襲う。

 

『あなたのお父さんは、逃げ遅れた女の子を守ろうとして・・・』

 

「―――何をしている」

 

気付けば、俺はその場へ身を投じていた。全員が一斉に動きを止め、顔だけをこちらに向けて来た。・・・にしても、アレを思い出したのは久しぶりだな。だが、理由を考えるのは後にしておこう。

 

「おいスミス! 人払いの結界はどうした!」

 

「いや、間違い無く張っていたはずだが・・・」

 

「・・・教会の連中だな」

 

俺がそう言うと、男達が驚いた様子で一斉に目を見開いた。ふん、やっぱりそうだったか。なら、お前等はこの瞬間から俺の敵じゃい!

 

「なるほど・・・どうやら裏の事情を知っているようだ」

 

「どうする轟木? ついでに始末するか?」

 

「馬鹿かお前は。無関係の人間を手にかけるなど紫藤さんが許すわけないだろうが」

 

「少年、何故ここに来たのかは知らないが、すぐに立ち去―――」

 

「お前達、その二人をどうするつもりだ?」

 

轟木と呼ばれた男の言葉を遮り、俺はそう投げかけた。これから返される答えの内容で、俺が取るべき行動が決まる。

 

「悪いが部外者のキミに話す義理は無い。いいから帰りなさい。これから先は、キミの様な若い子が見る様なものではないのだからな」

 

「いや・・・その答えで十分だ」

 

俺は男達の横を通り過ぎ、いつの間にか気絶していた男性と、その男性を介抱している女性の前に立った。

 

「・・・何の真似かな?」

 

「お前等の考えはわかっている。この二人に手出しはさせんぞ」

 

「このガキ・・・! おい轟木、これは教会に対する明確な敵対行為だぞ! 構う事はねえ! コイツもやっちまおうぜ!」

 

ほーら出た出た。所詮教会の人間なんざこんなヤツらばっかだって事だ。なら、俺も遠慮する必要は無いな。

 

「・・・仕方ない。多少痛い目に遭えば考えも変わるだろう。ただし、絶対に殺すなよ。あくまでも抵抗する力を奪うだけにしろ」

 

「へへ、そうこなくっちゃな! おいガキ、恨むんなら悪魔なんかに手を貸そうとした自分を恨むんだな!」

 

男がライトセーバーもどきを振り上げながら迫って来たので、俺は隙だらけな男の腹に思いっきり拳を叩き込んでやった。ズドムッ! なんて音を響かせながら、俺の拳が男の腹に深々と食い込んだ。

 

「か・・・ぺ・・・!?」

 

謎の呻き声を発しながら膝をつく男を続けて蹴り飛ばす。廃墟の壁を突き破って外へ飛び出して行く男を見送り、次の相手に目を向ける。

 

「・・・まず一人」

 

「ッ・・・! 全員警戒しろ! こいつ・・・ただの小僧じゃないぞ!」

 

「ディックの野郎、油断しやがって・・・。スミス! 連携で攻めるぞ!」

 

「了解した!」

 

今度は二人がかりか。だが甘い。チョコレートより甘い。そんな遅い動きでどうにか出来ると思うなよ。木場君にでもコーチしてもらって来るんだな!

 

「ふん!」

 

左右から迫る剣戟をかいくぐり、隙だらけな背中に一発ずつ叩き込む。

 

「とったぞ!」

 

直後、三人目の男が真正面から切り込んで来た。迫り来るライトセーバーもどきを右手で掴み、いつぞやの時の様に軽く力を入れればほらこの通り、バッキバキに砕け散るだけだ。

 

「な・・・は・・・え・・・!?」

 

愕然とした様子で後ずさりする男。その時、リーダー格の男が悔しそうな表情で口を開いた。

 

「・・・撤退するぞ」

 

「轟木!? 何を・・・!」

 

「いいから撤退だ! この戦力ではこの少年は止められん! お前達もわかっているはずだ!」

 

「くっ・・・!」

 

「ディック達を回収し、紫藤さんへ報告する! 急げ!」

 

それからの男達の行動は早かった。気絶したヤツ等を連れて逃げる様に廃墟を出ていった。この場に残っているのは、俺と男性達だけだ。

 

教会の連中の姿が完全に見えなくなった所で、俺は改めて女性と向き合った。どことなく快活そうな印象を受ける顔をしている。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、は、はい・・・。おかげ様で。あの・・・あなたは? どうしてここに? 何故・・・何故私達を助けてくれたのですか?」

 

「俺は・・・」

 

「う・・・うう・・・」

 

気絶していた男性が呻き声をあげる。って、この男性怪我してるじゃないか! まさか・・・さっきの教会の連中が!?

 

「ふ・・・ふふふ・・・」

 

やったな。やってくれたな教会。久しぶりだよ・・・ここまで俺をイラつかせたヤツは。・・・許さん。絶対に許さんぞ教会共! 次に会ったらボコボコにしてくれるわぁ!

 

「ひっ・・・!」

 

・・・おっと、しまった。俺とした事がつい我を忘れてしまった。過去の悪行(アーシアや木場君、ゼノヴィアさん達の件)がある所為でどうしても教会の連中を前にすると自分が抑えられない。

 

怯えた様子の女性に心の中で謝りつつ、俺は男性に『信頼』をかける。淡い光と共に出血が止まった。

 

「え・・・傷が・・・」

 

これで心配はないだろう。男性の呼吸が落ちついたものに変化したのを確認し、俺は男性を背負いあげた。

 

「ま、待って。正臣をどこに・・・」

 

「ひとまず移動しましょう。いつまた教会の連中が来るかもわかりませんので」

 

「あ、そ、そうですね」

 

そういう事で、俺は女性と一緒に廃墟を後にしたのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

数分して俺達が辿りついたのは、高台にある小さな休憩所だった。男性をベンチに寝かせ、俺もその横に腰掛ける。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

女性との間に無言の空気が流れる。何だろう。この男性が起きるまで話をするつもりないのかな。

 

「うう・・ん・・・」

 

「正臣・・・!」

 

「ク、クレーリア? 僕は・・・ッ!?」

 

目を覚ました男性の目線が女性から俺に移った瞬間、ばね仕掛けの様な動きで起き上がり女性を守るように男性が立ち上がった。

 

「何者だ!? 教会の手の者か!?」

 

「ま、待ってください正臣! この方は私達を助けてくれたんですよ!」

 

「え?」

 

女性の制止に男性が何やら思い出すかの様に顎に手を添える。

 

「・・・そうだ。確か僕達は轟木達に廃墟へ追い込まれて。そこへ何者かが・・・。ひょっとして、彼が・・・?」

 

「ええ。私達を守りながら彼等を追い払ってくれたんです」

 

「そうだったのか・・・。誰だか知らないが、キミのおかげで助かった。ありがとう」

 

深々と頭を下げる男性。だが、次に顔を上げた彼の顔には、疑問と疑いの色があった。

 

「・・・あの場に現れたという事は、キミも裏の世界を知る者なのだろう。なら、僕達の事情も知っているのかい?」

 

裏の世界? 事情? ・・・ああ、そちらの女性が悪魔とかそういう話ですかね? なんか気付いたら羽出ちゃってますし。

 

「ええ」

 

「ッ・・・! で、では、知っている上で僕達を助けてくれたのかい? 教会にも、悪魔にも追われる僕達を・・・!」

 

頷く俺に、二人が目を見開く。

 

「どうして・・・。僕達に手を貸すという事は、キミも追われる可能性もあるというのに・・・」

 

「俺にはそれが正しいと思えた。理由なんてそれだけで十分です。それに、あんな連中にいくら追われた所で返り討ちにするだけですよ」

 

というか、どう考えたってこの人達が被害者でアイツ等が加害者だもの。助けるのは当然だ。

 

「クレーリア・・・。僕達は、僕達はやっぱり間違ってなんかいないんだ・・・!」

 

「ええ。ディー兄様だけじゃない。私達の考えに賛同してくれる方は他にも存在するんですね・・・!」

 

な、何だかよくわからないが、二人がめっちゃ感動した面持ちで俺を見つめて来るんですけど。そんなに助けられたのが嬉しかったんだろうか。

 

「僕は八重垣 正臣。そして彼女がクレーリアだ」

 

「妻の八重垣クレーリアです」

 

「お、おいおいクレーリア」

 

「いいじゃないですか。いずれこう名乗るようになるんですから」

 

「クレーリア・・・」

 

「正臣・・・」

 

すんませーん! 誰かコーヒー持って来てくれませんかー! ブラックの滅茶苦茶濃いヤツでお願いしまーす! もう真っ暗なのに二人の周りだけピンク色に見えるんですけどー!

 

「あの・・・」

 

「あ、ああすまない! それで、キミの名前は?」

 

「俺は・・・」

 

そこでふと思い立つ。自分の状況がよくわかっていない今、迂闊に本名を名乗るのは危険ではないかと。いや、別にこの二人が怪しいとかそういうわけではないのだが。

 

「・・・アル=ヴァン。俺の名前はアル=ヴァン・ランクスです」

 

というわけで先生。手前勝手な理由で誠に申し訳ありませんが、あなたのお名前をお借りします。この体だって元はアル=ヴァン先生のものだし、間違ってはいないはず!

 

「では、アル君と呼ばせてもらいますね!」

 

クレーリアさんが手を叩きながらそう言う。アル君か・・・。J繋がりで某スペシャリストの乗る機体に内蔵されているAIを思い浮かべる俺は立派なスパロボ脳だと思いますはい。

 

「それでアル君。・・・こう呼ばせてもらっていいかな?」

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。では改めて聞くけれど、アル君はどうしてあの場所に? 僕達を助ける以外に何か目的でもあったのかな?」

 

どうしよう。・・・うん、話してみるか。それで何もわからなかったとしてもその時はその時だ。

 

「実は・・・」

 

・・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「・・・コスプレイヤーに勝負を挑まれて、戦ってたら変態集団に襲われて、実はコスプレイヤーもその集団の一味で、そいつ等が魔法陣を出現させて、それに飲み込まれたら家が無くなっていた?」

 

「はい、そんな感じです」

 

「・・・どうしましょう。正臣。私、何が何だかさっぱりわかりません」

 

「僕もだよ・・・」

 

案の定、困惑する二人。まあ仕方ないか。自分でも話してて「お前は何を言ってるんだ?」って思ったし。

 

「す、すまないが。僕達が役に立てそうな事案じゃなさそうだ」

 

「大丈夫です。いざとなったら(オカンという名の)最終手段がありますから」

 

「そ、そうか。では、僕達は僕達の事を考える事にしよう」

 

「私も考えたのですが・・・やっぱり、これ以上この街にはいられないと思います。ここはディー兄様を頼って冥界に身を隠すしかありません。既に兄様には連絡していて、明日の夜十一時に迎えを寄越してくれる手筈になっています」

 

「あの人が? 大丈夫なのかい?」

 

「ディー兄様は私達の味方ですから。・・・それに、私が掴んだ“あの駒”の情報は、レーティングゲームトップランカーの兄様に必要なもののはずですから」

 

「はは、流石だねクレーリア。明日の夜十一時・・・それまで逃げ切れば僕達の勝ちという事か」

 

「その通りです。ですが、その前に散り散りになった私の眷属達と合流しないと・・・」

 

その時、クレーリアさんの懐から音が鳴り始めた。彼女が取り出したのは携帯電話みたいな物で、その液晶に目を落とした彼女が微笑む。

 

「噂をすれば、シノアからです」

 

「シノアさんというのは?」

 

「クレーリアの眷属だよ」

 

「シノア? 今どこにいるのですか?」

 

通話を始めるクレーリアさん。その表情が見る見る内に曇りだす。なんだ? 何かあったのか?

 

「あなたは誰ですか? どうしてシノアの電話をあなたが使っているのですか! シノアは・・・シノアは無事なのですか!?」

 

電話の向こうから下品な笑い声が俺に耳にも届いた。クレーリアさんが悲痛な面持ちで電話を切る。

 

「クレーリア、彼女がどうかしたのか?」

 

「シノアが・・・追手の悪魔達に捕まってしまいました。今電話に出たのは、その追手の者です。シノア以外の眷属達も、みんな捕らえている。返して欲しくば指定した場所まで正臣と一緒に来いと・・・」

 

「人質か。汚い手を・・・!」

 

「シノア達を助けないと!」

 

「落ちつくんだクレーリア。これは明らかな罠だぞ」

 

「でもっ、シノア達は私を信じてついて来てくれたんです! あの子達が捕まってしまったのは私の所為なんです! だから、助けないといけないんです!」

 

「クレーリア・・・」

 

クレーリアさんが俺の方を向く。そして先程の様に深々と頭を下げた。

 

「アル君。これから私の身に何が起ころうと、あなたの事は決して忘れません。本当に・・・本当にありがとうございました!」

 

「待つんだクレーリア!」

 

弾かれる様にその場から駆け出すクレーリアさんを八重垣さんが慌てて追いかけていった。一人残された俺の視界が、地面に落ちているある物を捉える。

 

「・・・仮面?」

 

拾い上げたのは真っ白な仮面だった。顔全体を隠す様なものじゃなく、目と鼻までを隠すタイプ・・・スパロボで言うウォーダンがつけてたようなヤツだ。もしかしたら、教会から逃げる時にカモフラージュとして着けていたものかもしれない。・・・逆に目立つんじゃね? というツッコミは止めておこう。

 

「落し物は・・・やっぱり落とし主に届けるのが当然だよな」

 

その先で何かに巻き込まれようとも、その時はその時だ。

 

俺は仮面をポケットに仕舞い。八重垣さん達の後を追うのだった。




クレーリアの口調、及び性格は私オリジナルです。原作だと皇帝の口からほんの少ししか語られませんでしたので、どうかご容赦ください。

・・・密かに謎の仮面騎士爆誕フラグがたっている事に、誰も気付くまい。

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