ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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二月二十四日、追記しました。


第百五十九話 そして世界は彼を失った

イッセーSIDE

 

窓を飛び出し、駐車場に降り立った俺達へ死神達が殺到する。俺達はすぐに散らばって戦闘を開始した。俺や木場達が前衛を務め、アーシアを背負った先生や呪いの影響で思う様に戦えないヴァーリちゃん、レイヴェルが後方からバックアップする手筈になってる。だから俺は、目の前に迫って来る死神の連中を思いっきり殴り飛ばしてやればいいってわけだ!

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

丁度十人目をぶっ飛ばした直後、そんな悲鳴が俺の耳をつんざいた。チラリと目を見やると、小猫ちゃんのお姉さんに腹に手を当てられている死神の体があり得ないくらい膨らんでいた。

 

「や、止めっ・・・! これ以上は入らな―――」

 

「・・・ブチ撒けろ」

 

瞬間、死神の体が弾け飛んだ。周囲に散らばる臓物らしき物体がピクピクと蠢いていた。

 

「殺す・・・。『禍の団』の連中も、それに手を貸すアンタ達も、皆殺しだ・・・!」

 

こ、怖過ぎる・・・。あの絶対零度の表情・・・、いつもの飄々とした雰囲気がまるで感じられない。

 

(この人・・・。本当に先輩の事が大切だったんだな)

 

先輩の眷属でもあったんだ。もし、俺も『禍の団』に主である部長を奪われたら・・・多分同じ様な感じになるんだろう。俺だけじゃなく、きっと木場達もそうなる。

 

「くっ・・・!」

 

「朱乃さん!?」

 

三人の死神が朱乃さんに迫る。まずい! こっからじゃ援護が・・・!

 

「下がりなさい朱乃!」

 

そこへ、部長の放った滅びの魔力が割り込み、朱乃さんを襲おうとした死神達を消滅させる。ナイス援護です部長!

 

「た、助かったわリアス」

 

助けてくれた部長へお礼の言葉を述べる朱乃さん。けれど次の瞬間、部長は鋭い声で朱乃さんを叱責した。

 

「いつまで腑抜けているつもりなの! 戦う気が無い者にうろちょろされてもいい迷惑よ! 後衛にでも下がってなさい!」

 

「ッ・・・!」

 

目を見開く朱乃さん。さらに部長の怒声は他のみんなにも向けられる。

 

「突出し過ぎよ黒歌! 戦線を揃えなさい!」

 

「ちっ・・・!」

 

舌打ちしつつも指示に従うお姉さん。

 

「祐斗は後ろを気にし過ぎよ! アザゼルにオーフィスもいるのだからあなたはオフェンスに専念しなさい!」

 

「は、はい!」

 

アーシアやレイヴェルを守りながら戦うつもりだったのか、さっきから後衛の近くで戦っていた木場がすぐさま前に出る。

 

「小猫は黒歌のサポートを! 今の彼女を一人にしたら危険だわ!」

 

「了解です・・・!」

 

一人暴れまくるお姉さんの傍で戦い始める小猫ちゃん。流石に、妹が傍にいれば無茶はしないだろう。

 

「後衛組は身を守る事を第一しつつ援護を続けて! アザゼル! 自分が言った言葉くらいちゃんと守りなさいよ!」

 

「わかってるよ。アーシアやレイヴェルに手を出そうとする輩は俺の槍で消し飛ばしてやるさ!」

 

「それとアーシア! さっきから回復のオーラを飛ばし過ぎよ! 軽い傷をいちいち回復しないでちょうだい!」

 

「で、ですが・・・!」

 

「あなたの気持ちはわかるわ。でもね、これから何が出て来るかわからない以上、いたずらに消費して欲しく無いの。これは実戦よ。致命傷を受けた時、回復出来ませんでしたじゃ済まないの!」

 

「わかり・・・ました・・・」

 

「レイヴェルはアザゼルから離れないで! フェニックスだからって油断してはダメよ!」

 

「こ、心得ましたわ!」

 

「ヴァーリ! 魔力弾を撃つのはいいけどちゃんと狙って撃ちなさい! さっき黒歌のすぐ傍に着弾してたわよ!」

 

「狙ってるつもりなんだけどね・・・」

 

「オーフィス! ここから出たいんでしょう! ならあなたも力を貸しなさい!」

 

「ん、わかった」

 

頷いたオーフィスが手をかざしたと思った次の瞬間、冗談みたいな爆発音と共に大勢の死神が消し飛んだ! な、なんちゅう威力だ!

 

「おかしい。加減、上手く出来ない」

 

「・・・やっぱりさっきのは無しよ。オーフィス、あなたは何もしないでちょうだい!」

 

ですよね! 流石に今のを連発されたら俺達も危ないですもんね!

 

「それと・・・イッセー!」

 

部長が俺の方を向いた刹那、紫色の光弾が俺のすぐ横を通り過ぎていった。振り向くと、その光弾に貫かれた死神達が消滅していた。

 

「さっきから何をつっ立っているの! 早く動きなさい!」

 

「す、すみませーん!」

 

俺とした事が、なんて情けない所を見せてしまったんだろう。・・・けど、凄いな部長。自分も戦いながらみんなの状況もしっかり見てるだなんて。間違い無く、今の部長はこれまでで一番頼りがいがあるぜ!

 

(やるのよリアス。こんな時だからこそ、私は『王』として振る舞わなければならないのよ。それが私がやらないといけない務めなのだから・・・!)

 

この時、部長が本当は何を思い、何を考えていたのか、俺は最後まで気付く事は無かったのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

戦闘を開始して感覚的な時間で三十分。もう数えるのも馬鹿らしくなるくらいの死神をブッ倒した気がする。

 

そんな俺達の前にあの男・・・ジークフリートが姿を現す。さらに、空間をねじ曲げて新たな死神・・・しかも最上級死神と呼ばれるプルートってヤツまで現れた。道化師みたいな仮面を着け、どす黒い刃の鎌を持っていた。もう見るからにヤバいヤツってわかる。

 

「伝説に名を残す死神が何の用だ?」

 

「あなた方はテロリストの首領であるオーフィスと結託し、せっかく結ばれた同盟を陰から崩そうとしました。自分達で同盟を訴えておきながらのこの所業に、ハーデス様も大変お怒りになっておられます」

 

「・・・そうか。そうやって理由をつけて俺達を消すつもりだな。テメエ等・・・どこまで俺を怒らせれば気が済むんだ!」

 

「別に怒らせるつもりはありませんよ。ただ、私達は為すべき事を為すだけですので。そちらの偽物となったオーフィスを回収させて頂きます」

 

「悪魔+堕天使と死神の戦いか。観戦してみたい気もするが・・・僕も戦いたい相手がいるからね」

 

既に禁手状態となったジークフリートが木場を見据える。京都では木場に軍配が上がったが、油断出来る相手じゃないのも確かだ。

 

「・・・ああ、そうだ。赤龍帝達の相手も用意してあげないとね」

 

ジークフリートの言葉に合わせる様に、周囲に霧が発生。そこから死神の大群が再び姿を現した。ッ・・・! 今の霧もゲオルクの神器か!

 

駐車場を埋め尽くす勢いでどんどん出現する死神達。すでに二百や三百ではきかない数になっている! くそ! まだこれだけの数が控えてたってのかよ!

 

「どうだい? 流石にこれだけの数を一度にぶつければキミ達でも防ぎ切れないだろう。撃破するにしても時間はかかる。その間、僕は木場祐斗と心ゆくまで戦えるというわけさ」

 

愉快そうに笑むジークフリート。しかし次の瞬間、そのムカつく余裕顔が一瞬で驚愕に染まる事となった。

 

「―――いいえ、十秒もいらないわ」

 

「何・・・?」

 

部長が空を指差す。俺達、ジークフリート、プルート、そして死神達が一斉に見上げた先には・・・おびただしい数の魔力球が浮遊していた。アレって・・・ま、まさか全て部長の滅びの魔力で出来てるのか!?

 

「どうせ増援を送って来ると思ってたわ。だからそれに備えて少しずつ魔力球の精製を始めていたの」

 

マジッすか!? そんな素振り全然見せてなかったのに!

 

「英雄ジークフリート。そして最上級死神プルート。果たしてあなた達はこれを受けても無事でいられるのかしらね」

 

「ちぃっ! 退避しろぉ!」

 

「遅い!」

 

死神達に向かって腕を振り下ろす部長。それを合図に、魔力球が死神達に向かって凄まじい速度で降り注ぎ始めた。死神達を飲み込みながら着弾と結合を繰り返す魔力球を見て俺は思い出した。この技・・・確かロキとの戦いで見せたヤツだ! 名前は・・・。

 

「消え去りなさい! 『滅殺の雨』!」

 

そうだ! 『滅殺の雨』だ! いやー、相変わらず見てるだけで死ねそうなおっそろしい技だなぁ。・・・なんて言ってる場合じゃねえ! 魔力のドームがこっちにまで迫ってきてるんですけどぉ!

 

「お前等! 早く空へ!」

 

先生の叫び声に合わせ、俺達は一斉に上空に舞い上がった。眼下では魔力のドームによって駐車場が完全に飲み込まれていたのだった。

 

やがて、ドームが消滅したのを確認し、俺達は再び地上に降り立った。辺りには何も残って無い。部長が全て“滅ぼした”のだ。

 

「ジークフリートとプルートは?」

 

「さあな、死んだんじゃねえのか?」

 

「・・・勝手に殺されては困るな」

 

ジークフリート・・・そしてようやくゲオルクも姿を見せた。おそらくジークフリートはゲオルクの神器にドームの範囲外へ転移させられて助かったのだろう。プルートは・・・少し離れた場所から俺達を見下ろしている。

 

「どうやらこれでチェックのようだな。ゲオルク、ジークフリート」

 

「・・・馬鹿げた攻撃力は赤龍帝の専売特許だと思っていたのだがな」

 

「おいおい、今さら何を言ってやがる。グレモリー眷属はゴリゴリのパワータイプばかり揃ってんだぞ」

 

「先生、僕も一緒にされては困るんですけど」

 

木場が不服を申し立てる。―――その時だった。バチバチという快音と共に、空間に穴が開き始めた。まさか、また増援かとも思ったが、ゲオルク達も訝し気な表情を見せていた。じゃあこれは・・・コイツ等も想定していない乱入者なのか?

 

そして現れたのは、軽鎧にマントを纏った一人の男。俺はその男の顔に見覚えがあった。間違い無い。コイツは神崎先輩とディオドラ達との戦いの最終局面で現れたあの男だ!

 

「お前は・・・シャルバ・ベルゼブブ」

 

先生に呼ばれ、男・・・シャルバは優雅に一礼してみせた。

 

「その通り。私はシャルバ・ベルゼブブ。ベルゼブブの名の正当な後継者である」

 

「冥府が絡んでる時点でお前が出て来る可能性は確かにあった。・・・が、フューリーにボコられて自分から地獄に引き籠ったヘタレが今さら何の用だ?」

 

「ふん、あの時は皇帝機が私に馴染んでいなかっただけだ。だが今は違う。もはや皇帝機は私の手足も同然! それに聞いているぞ。あの忌まわしき騎士は時空の彼方へ消えさったとな。今頃はどことも知れぬ時代で一人孤独な時を過ごしているのだろう。それどころか、孤独に耐えられずに自ら命を断っているかもしれんなぁ。はははは! 伝説の騎士などともてはやされた割にはつまらない最期だとは思わないかな?」

 

嘲笑と共に放たれたその言葉は俺をブチ切れさせるのに十分過ぎる燃料だった。

 

「ふざけた事言ってんじゃねえ! あの人が・・・先輩が自殺なんかするわけねえだろ!」

 

「挑発に乗るなイッセー。おい、質問に答えてねえぞシャルバ。お前の目的はなんだ?」

 

「―――宣戦布告だよ」

 

シャルバがマントを翻す。すると、そこから一人の少年が姿を現した。この子も見憶えがあるぞ! 京都でアンチモンスターを生み出していた『魔獣創造』の所有者のレオナルドだ!

 

「レオナルド!?」

 

「シャルバ・ベルゼブブ! 何故お前がその子を連れている! しかもその目・・・まさか、洗脳の類か!?」

 

「その通り。この少年には少しばかり協力してもらおうと思ってね」

 

「ッ!? う・・・あ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

絶叫と共に、レオナルドの影が凄まじい速度でフィールドに広がり始めた。そして、その影を波立たせながら、巨大な存在が姿を現していく。何もかもが規格外の大きさの“ソレ”が鼓膜が破けそうなほどの咆哮を上げた

 

『ガァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

絶句する先生に向けて、勝ち誇ったかのような笑みを向けるシャルバ。

 

「ふははははは! この少年の『魔獣創造』は素晴らしい! わざわざ拉致して来たかいがあったというものだ! おかげで今の悪魔どもを滅ぼす為の怪物を創り出す事が出来る!」

 

シャルバがしゃべっている間にも、影から怪物達が生まれ続ける。最初に現れた二百メートル近くはある化物と、それより一回り小さい怪物達の足下に巨大な魔法陣が現れる。

 

「この怪物達を冥界に転移させ、全てを滅ぼす! 現悪魔を全てなぁ!」

 

「止めろ・・・。全力でアレを止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

俺達は全力で怪物達に攻撃した。けど、止めるどころか傷一つつけられない! くそ、固すぎるだろコイツ等!

 

「怪物達が・・・!」

 

魔法陣の光の中へ消えていく怪物達。ちくしょう・・・間に合わなかった!

 

その途端、フィールド全体が揺れ始めた。空に断裂が生まれ、ホテルが崩壊していく。

 

「空間が崩壊を始めた! シャルバ・ベルゼブブめ、これほどまで無理な能力発現をあの子にさせたのか!」

 

「プルート! これもハーデスの指示した事―――」

 

ジークフリートがプルートのいた方向を睨みつけるが、すでにそこにプルートの姿は無かった。

 

「・・・それが答えというわけか。わざわざ禁手化の方法まで教えて。あの骸骨神は本気で冥界を滅ぼす気なのか? ・・・その為にレオナルドを。あの一瞬の禁手化の為に、この子がどれほどの犠牲を払ったと思っているんだ・・・!」

 

ジークフリート、ゲオルク、そして気絶したレオナルドの三人が霧の中へ消えていった。

 

「さて、キミ達はどうするのかね? 今の三人の様に大人しく逃げ帰るか。それともこの場で私に殺されるか、選択させてあげよう。真の魔王は慈悲深いのだよ」

 

「真の魔王だぁ? オーフィスにハーデス・・・他人の手を借りねえと何も出来ねえ癖によく言うぜ」

 

「何とでも言うがいい! 所詮は結果が全てなのだ! 過程などに拘るなど愚の骨頂なのだよ! そして、私が望むものはまだある!」

 

シャルバがオーフィスに向けて手を伸ばす。瞬間、オーフィスの体に螺旋状の魔力が浮かび、縄の様に絡みついた。一瞬の出来事に誰も反応出来なかった。コイツ・・・オーフィスの弱体化も知ってたのか!?

 

「オーフィスを捕える事を条件に私はこの世界に戻って来れたのだ! ついでに“蛇”も頂こう! そしてその力で私自らが“毒”となり、冥界を覆い尽くしてやるのだ!」

 

「させるかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

俺はブースターを噴かせて一気にシャルバへ詰め寄った。

 

「赤龍帝! 貴殿が大切にしているという冥界の子ども達も全滅させてやろう! 怪物に踏みつぶさせてもいいし、食わせてもいい! 下級、中級はもちろん、上級悪魔の子息子女も例外無くな!」

 

「・・・あ?」

 

お前、今なんつった? 子ども達を殺す? 俺なんかを応援してくれる、俺なんかを夢や目標にしてくれている子ども達を殺すだと?

 

―――シャルバ・ベルゼブブ。どうやら貴様は禁句を口にしたようだな。

 

わかってんじゃねえかドライグ。コイツは・・・この腐れ野郎は今、この場で俺が絶対にブッ倒す!

 

「イッセー! 転移の準備が完了したわ! 早くこっちに!」

 

「行ってください! 俺はコイツと戦います! ついでにオーフィスも助けます!」

 

振り返らずに答える。きっと、後ろでは部長達が仰天している事だろう。

 

「イッセー君! 今までの戦いとは状況が違うのよ!」

 

「シャルバは見逃せません。オーフィスも渡せません。だから、俺は残ります」

 

「じゃあ僕も一緒に・・・!」

 

「おいおい。お前まで残ったら誰が部長達を守るんだよ。木場、お前はグレモリー眷属の『騎士』だろ? 俺がいない間ちゃんと部長達を守ってくれよ」

 

木場は答えない。けど、きっとわかってくれてるはずだ。頼むぜ親友。お前だから託せるんだからよ!

 

「これ以上は待てん! イッセー! あとで龍門を開いてお前とオーフィスを召喚する! そのつもりでいろ!」

 

「了解です!」

 

「イッセー! 必ず・・・必ず帰って来るのよ!」

 

「もちろんです! 俺は「せきりゅーてー」ですからね! それに、オーフィスを助けておかないと先輩が帰って来た時に怒られちゃいますから! 俺としてはそっちの方が恐ろしいんですよね!」

 

ホテル上空で哄笑するシャルバの元へ向かう。同時に転移の光が弾ける。みんなの転移が完了した様だ。

 

「こうして相対するのは初めてだな、今代の赤龍帝。貴殿の情報は私の耳にも届いているぞ。あの忌まわしき騎士の一番弟子だそうだな」

 

一番弟子!? そんなの名乗った事もねえし聞いた事もねえよ! なに? 『禍の団』の中で俺ってそんな立場になってんの?

 

「誰も彼も騎士騎士騎士! あの男の所為で冥界が狂ってしまったのだ! そうだ! あの男の所為で真なる魔王の血筋である私が蔑にされたのだ! 何もかもがあの男の所為なのだ!」

 

いや、それ全部先輩関係ないだろ。自業自得じゃん。

 

「俺にはお前の言っている事が理解出来ねえよ。ただ・・・これ以上お前に先輩の事を語ってほしくねえ。あの人は俺の・・・俺達の尊敬する人なんだからな!」

 

「何が尊敬だ! 人間ごときに心奪われた悪魔など悪魔ではない! この狭間で果てるがいい! 赤龍帝ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

シャルバの手が空間を歪ませ、そこから大量の蠅が出現する。その蠅に円陣を組ませ、そこから強力な魔力波を撃ち出して来た。

 

―――突っ込め相棒! あの程度・・・避ける必要すらない!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

背中と『練成』で創り出した両足のブースターを全開にし、突き出した右腕で魔力波を切り裂きながら俺はシャルバへ突撃した!

 

「なっ・・・!?」

 

魔力波が拳で割られた事に驚くシャルバ。その一瞬の硬直を俺は見逃さなかった。吸い込まれる様にシャルバの腹へ俺の拳が突き刺さる!

 

「ぶっ飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

瞬時に『練成』でキャノンを創り出し、俺は躊躇い無くそれをぶっ放した! 空中で撃ったせいで反動が半端無い。肩が外れるかと思ったわ。けど、無茶した価値はあった。黒煙を吹き出しながらシャルバが彼方へ吹っ飛んで行くのを確認した。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! おのれ! おのれぇ! 穢れたドラゴンごときが、真の魔王である私を!」

 

「何が真の魔王だ! テメエの攻撃は軽すぎるんだよ! サイラオーグさんと違って、想いが全然籠ってねえ! そんな攻撃で俺を倒せると思うなよ!」

 

「黙れ! ならばこれならどうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

シャルバが新たな魔法陣を展開させ、そこから一本の矢が姿を現す。へっ、あんなもん喰らったって大した威力じゃ・・・。

 

―――アレは・・・! いかん、相棒! 避けろぉ!

 

「え?」

 

「遅いわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

予想以上の速度で飛来した矢が鎧を貫通して俺の肩に突き刺さる。その瞬間、肩から全身に向かって耐えがたい苦痛が広がって行くのを感じた。

 

「ゴフ・・・」

 

鎧の中で吐血する俺。やべえ・・・。なんだよコレ・・・。

 

「いかがかな。サマエルの毒は?」

 

「サマ・・・エル・・・?」

 

・・・そうか。この矢にはサマエルの毒が塗り込んであったのか。究極の龍殺しの毒。ヴァーリちゃんは・・・こんな痛いモンを喰らったのか。

 

―――相棒。

 

ドライグ! 大丈夫なのか?

 

―――まだ戦える程度にはな。だが、気を抜けば意識を持っていかれそうだ。

 

「ふははは! さあ、その状態でどこまであがけるかな?」

 

毒にやられた俺を見て気分をよくしたのか、シャルバが滅茶苦茶に魔力波を撃って来る。毒の所為か鎧そのもの耐久力まで低くなったのか、あっという間にボロボロになってしまった。

 

「ぐうっ・・・!」

 

俺はわずかに残っていた地面に落下した。マズイ。ドライグじゃねえけど、いつ意識を失ってもおかしくない。

 

―――相棒! しっかりしろ相棒!

 

だ、大丈夫だ。問題無いぜドライグ。

 

「ほお、まだ息があるか。ならば、死出の旅への土産に、我が皇帝機の力を見せてやろう」

 

何とか空を見上げると、シャルバはあの皇帝機とかいうヤツを身に纏っていた。だが次の瞬間、俺の見つめる先でその皇帝機の姿が変貌を始めた。シャルバがいるであろう胴体部分を除く全てのパーツが分離、変形して再び胴体へ接続する。その姿は、最早皇帝と呼べるものではなく、表現のしようがない正に“異形”だった。

 

「どうだ! これが皇帝機の真の姿だ! だがまだ終わりでは無い! いでよ! 量産型皇帝機軍団よ!」

 

異形の周囲の空間がまたしても歪み始める。そしてそこから現れたのは、百体以上の皇帝機だった。

 

「この量産型皇帝機はオリジナルである私の皇帝機の指示通りに動く! 騎士との戦いでは間に合わなかったがね! 喜ぶがいい、貴殿が最初の得物だ! さあ! 怯えろ! 命乞いをするがいい! そして絶望せよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

量産型皇帝機達の目が俺を捉える。シャルバが命じれば、すぐにでも俺を殺しに来るだろう。だけど、それでも・・・。

 

「・・・それが・・・なんだってんだよ」

 

「何・・・?」

 

「お前と戦った時・・・先輩はこう言った・・・。お前は、絶望どころか脅威にすらならないって・・・」

 

あの時は、先輩だから言えたんだって思った。けど、こうしてコイツと戦ってみて俺にもわかった。

 

「お前には・・・お前にだけは負ける気がしねえ・・・。お前には何も無い・・・。夢も、思いも、誇りも、何も無い・・・。俺は最強の『兵士』になる・・・。それが俺の夢・・・。それが俺の誇り・・・。俺の夢を・・・俺の守るべきものである子ども達を・・・テメエみたいな三下に奪わせてたまるかよ!」

 

「はっはっは! 負け犬の遠吠えほどみじめなものはない! 満身創痍の貴殿に何が出来るというのだ!」

 

「出来るさ。俺にまだ奥の手があるんだ・・・!」

 

―――ッ・・・! まさか、相棒・・・!? ダメだ! サマエルの毒を受けた今『覇龍』を使えばお前の体は・・・!

 

「―――我・・・目覚めるは・・・夢の果てを追い求めし・・・探究者なり」

 

―――止めろ相棒! ここは龍門が開くまで逃げるのだ! まずは呪いを解き、改めてオーフィスを助け出せばいい!

 

「未来ある者達の無限の夢と希望を背負い・・・決して絶えぬ紅蓮の意志をここに示さん」

 

―――止めてくれ相棒! お前は・・・お前はこんなところで死ぬ男では無いんだ!

 

「愛するものを・・・かけがえのないものを守る為に・・・」

 

―――止めろ・・・。止めてくれ相棒・・・。俺は・・・俺はお前を失いたくないんだ!

 

『ドライグ・・・もうイッセーは止まらないわ』

 

―――エルシャ!? お前も無事だったのか!?

 

『・・・私の事はどうでもいいわ。ドライグ。イッセーは命をかけて戦おうとしている。命が燃え尽きる最期の瞬間まで、この子は戦い続けるわ』

 

エルシャさんの言う通りだぜドライグ。俺は・・・俺は死ぬつもりはねえよ。俺にはまだやりたい事がたくさんあるんだ! お前のリベンジにも付き合わないといけないしな!

 

―――相棒・・・。

 

だから見ててくれよ。お前が最高の相棒だって言ってくれた俺の戦いを。この詠唱だって、俺の足りない頭でそれっぽくなるよう考えたんだぜ。

 

―――は、はは、これでは精々三十点だな。

 

そうかよ。なら・・・コイツをブッ倒してから、お前も一緒に新しい詠唱を考えてくれよ。

 

―――・・・いいだろう。紅の龍帝に相応しいヤツを考えてやる。だから相棒・・・。

 

わかってる。絶対勝って帰るさ!

 

そうドライグに誓い、俺は最後の一文を口にした。

 

「赤き龍帝は今・・・紅の極致へと至る!」

 

立ち昇るは紅蓮のオーラ。纏うは真紅の鎧。この『覇龍』でシャルバ! テメエをブッ倒す!

 

「紅の鎧・・・! あの偽りの男を彷彿とさせる忌々しい色だ!」

 

吐き捨てるシャルバを正面に見据え、俺はウイングを展開させる。おそらく、この一撃が最初で最後のチャンスだ。それくらい俺の体の限界は近い。だから難しい事は考えない。正面から突っ込んでシャルバをぶっ飛ばす!

 

『Crimson Nova Booster!!!』

 

全てのエネルギーを推進力に回し、立ち塞がる量産型皇帝機軍団を打ち砕きながらシャルバへ突撃する! 量産型の持つ剣が俺の全身へ突き刺さるが、それすらも無視してシャルバだけを目指す!

 

「シャルバァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

そして、ついにシャルバの元へ辿り着いた俺は、オリジナルの皇帝機の胴体に向かって最後の力を振り絞って拳を叩きつけた! 外装が呆気無く破壊され、中にいた人物の姿が露わになる。

 

「が・・・はあ・・・」

 

「なっ・・・!?」

 

シャルバ・・・じゃない!? コイツは・・・この男は、コカビエル!? ならシャルバは!? シャルバはどこへ行った―――。

 

「見事・・・だがそれでも私の勝ちだな赤龍帝」

 

ズブリ・・・と、俺の左胸から刃が突き出る。背後を振りかえると・・・そこには皇帝機から顔を覗かせているシャルバがいた。

 

「わかるぞ。その鎧の中で貴殿はどうしてという顔をしているだろう。なに、簡単な事だ。量産型皇帝機もオリジナル同様変形出来るのだよ。それを利用し、私は量産型軍団の中へ姿をくらまし、量産型の一つを変形させて私を演じさせていた。その男・・・コカビエルも地獄に幽閉されていたのだが、協力者から好きに使えと言われてね。こうやって利用させてもらったというわけさ」

 

『覇龍』が解けた俺は崩壊する建物の屋上に落ちた。徐々に遠くなっていく意識の中で、シャルバの笑い声だけが聞こえて来た。

 

「お別れだな赤龍帝。だが心配する事は無い。すぐに貴殿の仲間と貴殿の大好きな子ども達も送ってやるからな! さあ、行くぞオーフィス!」

 

「待ち・・・やがれ・・・」

 

オーフィスは連れていかせねえ・・・。立て・・・立てよ俺・・・。みんなに約束したじゃねえか・・・。オーフィスを連れて帰るって・・・。約束したじゃねえか・・・。

 

シャルバの声が聞こえない。たぶん、オーフィスを連れて転移したのだろう。これで、この空間には俺一人しかいない。

 

―――耐えろ・・・棒! も・・・少・・・だ! もう・・・しで・・・門が・・・!

 

悪い・・・ドライグ。もう、お前の声も聞こえなくなって来た・・・。

 

(俺・・・何も出来なかったな)

 

こんな姿、先輩が見たらきっと呆れるだろうな。けど、それでもいい。それでも、もう一度だけ先輩に会いたかったな・・・。

 

そして、俺の意識が完全に闇に沈もうとした寸前・・・。

 

『・・・大変だ』

 

『ドラゴンのお兄ちゃんが死んじゃう・・・!』

 

『どうしよう・・・』

 

『助けなきゃ・・・』

 

『うん、助けなきゃ・・・』

 

―――・・・だ!? お前達・・・だ・・・!?

 

幼い子ども達の声がやけにクリアに聞こえて来た。でも、ドライグの声は途切れ途切れだ。

 

『母様は・・・?』

 

『えっと・・・今は別の世界のお仕事で忙しいみたいだよ・・・』

 

『じゃあ、お兄ちゃんが死んじゃったって伝えて来るね・・・!』

 

『え、まだ死んでな・・・ああ、行っちゃった・・・』

 

『それよりも、このお兄ちゃんを助けないと・・・』

 

『うん。このお兄ちゃんはイザイヤの大切な友達だもんね・・・!』

 

『あの子には・・・もう仲間を失う悲しみを味わって欲しく無い・・・』

 

母様? イザイヤ? 何だ? 一体何の話を・・・?

 

『今の僕達の力じゃお兄ちゃんは助けられない。僕達に出来るのは祈る事だけだから・・・』

 

『だから祈ろう。お兄ちゃんを助けてくれる存在を、この場所に呼ぼう・・・』

 

『祈ろう・・・』

 

『呼ぼう・・・』

 

謳う様に祈ろう、呼ぼうと繰り返す子ども達の声。その声に合わせる様に、圧倒的な存在感を放つ何かが姿を現すのを感じた。

 

―――・・・な。何故・・・が。偉・・・赤・・・。グレ・・・ッド!。

 

ドライグのその言葉を最後に、俺の意識は今度こそ闇へと沈むのだった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

 

祐斗SIDE

 

疑似フィールドから脱出した僕達はすぐに龍門を開く為の準備を始めた。タンニーン様をお呼びし、ヴァーリさんにも協力してもらう。すでに魔法陣の用意は出来た。後はアザゼル先生に任せるしかない。

 

先に脱出したゼノヴィアとイリナさんが各勢力の上層部へ事件の顛末を伝えてくれたおかげで、同盟勢力からそれぞれ救援部隊が派遣される事になった。『魔獣創造』によって生み出された規格外の魔物達に対し、救援部隊に最上級悪魔の眷属チーム。そして僕達若手悪魔も総動員し、魔物を迎撃せよとの命令が下されたばかりだ。

 

進撃を始めた魔物達は、進行方向上の村や町をことごとく破壊し、さらに自らアンチモンスターを生み出しながら各都市へ向かっている。

 

「よし、龍門を開くぞ!」

 

アザゼル先生がそう叫ぶと同時に魔法陣が輝き始める。イッセー君、帰って来て早々に大変かもしれないけど、キミにも頑張ってもらうよ。なにせ・・・キミは「せきりゅーてー」なんだからね!

 

眩い光を手で遮る。それが止んだ所で、僕達は魔法陣の中央へ視線を向けた。

 

「・・・え?」

 

そこに出現したもの―――それは紅色の八つの『兵士』の駒だった。イッセー君の姿はどこにも見当たらない。それが何を示しているのか、僕は理解出来なかった。いや、理解したくなかった。だって、これじゃあイッセー君が・・・。

 

「・・・馬鹿野郎。馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

膝をついた先生が絶叫と共に床を殴る。嘘だ・・・。僕は信じない。イッセー君は約束してくれたんだ。必ず勝って帰るって! なのに・・・なのに・・・!

 

「イッ・・・セー・・・」

 

八つの駒を胸に抱き、部長が彼の名を呼ぶ。その姿を見た瞬間、僕の中の何かが決壊した。

 

この日、僕達は神崎先輩に続き、イッセー君を失ったのだ。




勢い任せで書いたので修正するかも・・・。


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