ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百六十二話 今の僕達には勢いがある

オカンからJIJYOUをTYOUSYUした俺は、彼女の力であの記憶世界から現実に戻って来た。・・・それにしても、まさかここが過去の世界だったとはな。どうりで家が無いわけだ。

 

『そ、それで、どうするつもりや?』

 

オカンが妙におっかなびっくりな声色でそう聞いて来る。そんなの兵藤君に会いに行くに決まっているじゃないですか。生きているのは間違い無いけど、危険な状況なんでしょ?

 

『なら、ウチが責任もってアンタを・・・って、どこ行くんや?』

 

俺は駅前から最初の公園へ移動した。深夜の時間帯、辺りに人の影は全く無い。ここでなら人目につく事も無い。

 

「・・・始めるか」

 

『始めるって・・・何を?』

 

試したい事があるんですよ。もし、また鬼畜ペロリスト共が同じ手を使って来た時、今回の様にオカンがいない状況でも連中に対抗出来るようにする為に。

 

公園の中心でラフトクランズモードとなる俺。時間と空間・・・元々この機体にはそれに干渉出来る機能が搭載されている。これまでの経験から、それを模したこの姿にも同じ機能が搭載されているのは確認している。

 

なら・・・この力を使えばオカンの力を借りなくとも、元の時代に戻れるのではないのか? もちろん、これはあくまでも俺が勝手に思った事だ。元のゲームでも時間を停止させたり、それを解除する機能と説明されているだけで、時間を進めたり巻き戻したり出来るとは一言も言っていない。しかし、あえて言わせてもらう。それがどうした・・・と。俺のカッコいいラフトクランズに不可能なんてあるわけが無い!

 

「必ずやれる・・・行けるはずだ・・・!」

 

―――そうだ! 限界を決めるのは他人じゃない、いつも自分自身なんだ!

 

「ッ・・・!」

 

俺の脳裏に、熱い言葉が次々と浮かび上がって行く。これは・・・前世で俺が落ち込んでいた時に励ましてくれたあの人物の・・・!

 

―――崖っぷちに感謝!

 

―――いいぞ! 緊張して来た!

 

―――お前、ぬるま湯なんかに浸かってんじゃねえよ!

 

―――竹になろう! 台風が来てもしなやかで、雪が来ても跳ね除ける竹に! ホラ一緒に叫ぼう! バンブー!

 

―――言い訳してるのか? 無理だって諦めてるのか? ダメだダメだ! 出来る出来る! 絶対出来る!

 

「う・・・おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

体の奥底から力が込み上げて来るのがわかる。向こうの方に設置された時計の針が滅茶苦茶に動き始めるのを確認した。

 

―――打ち上げてみろよ、お前の花火を!

 

―――もっと熱くなれよ! 熱い血を燃やしてみろよ! そうすりゃホントの自分に出会えるんだよ!

 

―――壁があっても叩き続けろ! キミが次に叩いた一回でその壁が壊れるかもしれないんだから!

 

『な、なんやこの力は・・・!?』

 

―――諦めんなよ! 諦めんなよお前! そこで止めずにもう少し頑張ってみろよ! お前の周りの人達の事を考えてみろよぉ!

 

待っててくれ兵藤君! さあ行くぞ! これが・・・不可能すら可能にする魂の叫びだ!

 

「シュウッッッッゾォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

ガチャリと何かが噛み合う音が脳内に響くと同時に、周囲の風景が一瞬で捩じ曲がる。そして次の瞬間に俺が目にしたのは―――どこまで広がる赤い大地だった。

 

間違い無く、兵藤君はここにいる。予感では無く、俺はそう確信していた。

 

『アンタ・・・滅茶苦茶やな』

 

驚愕と呆れの混ざった様なオカンの声が聞こえて来た。いくらイメージ通りの力を発揮できるとはいえ、既に存在している能力を自分の望むままに改変するなど、よほどの意思の力が働かない限り出来るものではないのだとか。

 

「つまり・・・シュウゾウに不可能はないという事ですね」

 

『いやその理屈はおかしい』

 

えー、でもスパロボだってピンチの時は大体熱血と根性でなんとかするし。・・・はっ、という事は、シュウゾウを参戦させたらその時点で勝利確実!? そうか、彼が本当の勝利の鍵か!

 

さて、とりあえず兵藤君を探しに行かないとな。見た限りかなり広大みたいだし、このままラフトクランズモードで飛んで行こう。

 

そんな感じで、俺は兵藤君の探索を始めるのだった。・・・後から聞いた話だが、俺が転移する直前、あの公園周辺の温度がニ、三度上昇していたらしい。

 

『・・・何やろう。このいつの間にかウチの手を離れて行ってしもうた様な感じ・・・』

 

SIDE OUT

 

 

祐斗SIDE

 

その方がこちらにいらっしゃったと聞いたのは、僕がソーナ会長と別れてすぐだった。訪問の理由は・・・おそらく“彼女”の呪いを解く為だろう。

 

グレモリー邸の地下に位置する部屋・・・そこにいたのはヴァーリさんとその仲間達だった。共にあの空間から脱出して以降、グレモリー卿の計らいで彼女達を匿って頂ける事になったのだ。決別したとはいえ、今はまだテロリストの立場である彼女達を匿う事は下手をすれば大問題に発展してしまう恐れがあるが、それでも卿は受け入れてくださった。

 

部屋に入ると、ヴァーリさんチームの面々。そして、小柄なご老体・・・京都での戦いで援軍に来てくださった初代孫悟空様の姿があった。

 

ベッドで上半身を起こすヴァーリさんの体に手を当てる初代様。その手が白く発光している。闘気が満ちている証拠だ。

 

闘気の満ちた手をヴァーリさんの腹部から胸、胸から首、そして口元へ移して行く。すると、ヴァーリさんの口から黒い塊がごぼりと吐き出された。初代様はそれを容器に入れ札を貼った。これは・・・封印処理だ。という事は、今の塊こそがサマエルの毒?

 

「ふいー。これで呪いは取り除けたわい。少し休めば体も楽になるだろうよぃ」

 

「おいクソジジイ。ヴァーリはちゃんと治るんだろうな?」

 

「やれやれ、ちょっとは労いの言葉くらい寄越さんか。・・・ま、この娘っ子にゃ切っ掛けさえ与えりゃ十分だろうさ」

 

「・・・ありがとう。初代様。だけどね・・・」

 

その瞬間、ヴァーリさんの拳が初代様の顔面に叩き込まれた! ええ!? 何してるんだいきなり!?

 

「どさくさにまぎれて人の胸を揉んだのはちょっと頂けないわね」

 

「かかか、すまんすまん。普段から色々曝け出しまくっとるからお触りOKかと思っとったぞぃ! いやー、ワシとした事が、ついこう揉み揉みっと」

 

鼻血を垂らしながらも、笑顔で両手をワキワキされる初代様。・・・なんだろう、この何とも言えない残念な感じ。さっきまでの威厳が台無しだ。

 

「このスケベジジイが! 用が済んだんならさっさと出ていきやがれ!」

 

「ふん、お前が呼んで来たくせによくもまあそんな失礼な言葉が吐けるのぉ。・・・まあいい、元々ワシもテロリスト駆除の為に天帝に遣わされた身じゃしな。今回の件は・・・まあ、ハーデスのヤツがやり過ぎたんだろうぜぃ」

 

そう言いながら出て行こうとする初代様。そのタイミングで僕は話を切り出した。

 

「お待ちください初代様。僕に少しお時間を頂けないでしょうか」

 

「ん? 何だい聖魔剣の。聞きたい事でもあるのかぃ? このジジイでよければ答えてやるぜぃ?」

 

「たった今、サマエルの呪いに触れたあなたに訊きます。この呪いを受けたドラゴンが生き残れるとして、それはどの様な状況なのかを」

 

仙術と妖術を極め、神格化までされた斉天大聖孫悟空。この方ならば答えを持っているかもしれない。

 

「そうさな・・・まず肉体は間違い無く滅ぶだろうぜぃ。そうなりゃ次は魂だ。器を失った魂の脆さってのはウエハース菓子に迫る勢いだからな」

 

「ですが・・・」

 

「お前さんの言いたい事はわかるぜぃ。・・・だったら、どうして魂と連結しているはずの悪魔の駒が無事だったのか。お前さん達によって召喚された赤龍帝の駒からはサマエルの呪いは検出されなかったんだろう?」

 

「は、はい。アザゼル先生が確認しました。けど、どうしてそれを・・・?」

 

「ジジイってのはどいつもこいつも地獄耳なんだぜぃ? つまり、駒が消滅していないってえ事は、少なくとも魂は無事な可能性があるって事さねぃ。あの気持ちのいい坊主がどんな状況になっているかは分からんが、疑似フィールドの崩壊に巻き込まれて、そのまんま次元の狭間のどこかに漂ってたりしてるんじゃねえのかねぃ。・・・お前さん達も、あの坊主が死んじまったなんて欠片も思ってないんだろう?」

 

「もちろんです!」

 

間髪入れずに頷く僕を見て、初代様は優しく笑みを見せて踵を返した。

 

「若いモンは真っ直ぐでいいもんだねぃ。それじゃあ、今度こそワシは帰るぜぃ。外に玉龍を待たせたまんまなんでねぃ。・・・美猴、おめえさん達はこれからどうするつもりだぃ?」

 

「私はこれからもヴァーリ姉様について行きます!」

 

「もはや『禍の団』には何の興味も未練もありませんからね。彼女と一緒にいた方が、より強者と戦える機会もありますから。ルフェイ同様、私もヴァーリとの付き合いを続けますよ」

 

「俺っち達みたいな連中を指揮出来るヤツなんざ、コイツだけだしな。これからもよろしく頼むぜ露出大好きな我等がリーダー!」

 

「あなた達・・・」

 

・・・正直、「露出大好き」の部分はカットしても良かったと思うが・・・。まあ、美猴なりの照れ隠しなのかもしれないな。

 

「種類の違いはあるが、今代の二天龍は他者の心を惹き付ける何かを持っている。面白い・・・やっぱりお主等は面白いヤツ等じゃよ」

 

それだけ言い残し、初代様は今度こそ退出して行った。

 

「・・・ヴァーリさん、これからキミ達はどうするつもりなんだい?」

 

「そうね・・・。前回はロクに力を振るう事も出来なかったし、その分も合わせて誰かにぶつけてみるのもいいかもね」

 

「それは・・・先輩やイッセー君の為にかい?」

 

「仇討ちとでも言いたいの? あの二人は負けた。それだけの事でしょ」

 

そうだね。強さを第一に考えるキミからすればその通りだ。けどそれなら・・・どうしてキミの顔はそんなにも怒りで満ち満ちているんだい?

 

「・・・そうよ。この胸に渦巻く怒りは、あの二人とは関係無い。関係無いはずなのよ・・・」

 

その言葉からは・・・純粋な殺気だけが感じられた。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「祐斗さん、こちらにいたのね」

 

ヴァーリさん達の滞在する部屋から出て上に戻った僕に、グレイフィア様が声をかけて来た。プライベートモードなのか、口調が普段より柔らかい。普段のメイド服では無く、戦闘服を身につけていらっしゃるという事は、これから出陣されるのだろう。

 

「グレイフィア様、前線に出られるのですか?」

 

「ええ。サーゼクスは別行動の為、私が他のルシファー眷属を指揮して戦います。狙うは魔王領の主都に向かっている『超獣鬼』。歩みだけでも止めてみせるつもりです」

 

凍り付けや強制転移、さらには落とし穴等、迎撃部隊の方達はあらゆる方法で魔獣達の進行を封じようとしているが、そのことごとくが失敗に終わっている。それらの術式を無効化する呪法が組み込まれているのではないだろうかと考えられていた。それでもこの方達なら・・・悪魔の中で最強と名高いルシファー眷属のみなさんなら、あの魔獣を本当に止められるのではないかと思えてしまう。それだけの実力、安心感がこの方達にはあるんだ。何を隠そう、僕の“師匠”もルシファー眷属のお一人で『騎士』なんだから。

 

「これをお持ちください。サーゼクスとアザゼル総督からの情報です」

 

そう言ってメモ書きを渡して来るグレイフィア様。

 

「現ベルゼブブであるアジュカ・ベルゼブブ様の現在地が記してあります。あの方にイッセーさんの駒を見てもらいなさい。アジュカ様ならば、たとえほんの少しの可能性であろうとも、必ず拾い上げてくださるはずです」

 

アジュカ・ベルゼブブ様。『悪魔の駒』を制作した張本人である方だ。

 

「ありがとうございます。ちょうど僕も連絡手段を探そうと思っていた所なんです」

 

「それと・・・“彼”から伝言を預かっています」

 

「彼・・・?」

 

「今回に限り封印の解除を認める。あなたの“光”を敵に見せつけて来なさい・・・との事です」

 

「ッ・・・!」

 

師匠・・・! ありがとうございます・・・。そういう事なら思い知らせてやりますよ。限界を越えた・・・僕の“光刃”を!

 

「伝説の騎士は冥界全体の・・・そして赤龍帝は子ども達の希望。あのお二人がこのまま敵に屈したままでいるわけがありません。ならば私は、その希望が帰還するまで、戦い続けましょう。それが私の務めです」

 

・・・先輩、イッセー君。僕達以外にも、二人の帰還を信じている人達はいる。希望は・・・まだ潰えていないんだ!

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・そしてこの日の深夜、部長と朱乃さん、そして護衛役として小猫ちゃんも加え、僕はメモ書きに記される場所に到達していた。久しぶりにゆっくり休めたんだろう。全員の顔には精気が満ちていた。

 

駒王町から駅で八つほど離れた市街。そこに存在する廃ビル。それがアジュカ・ベルゼブブ様が人間界の隠れ家にしている場所の一つだそうだ。

 

「・・・ようこそお出でくださいました。皆さまがいらっしゃる事はすでにあの方もご存知です」

 

ビルの中に入ると、ロビーの奥からスーツ姿の女性が現れた。目線で示す先には、エレベーターがある。

 

「屋上へどうぞ。アジュカ様がお待ちです」

 

言われるままにエレベーターに乗り込み屋上へ向かう。そこは緑に囲まれた美しい庭園だった。

 

「やあ・・・よく来たね」

 

庭園の中央に置かれた机と椅子。その椅子に腰かけた妖麗な雰囲気と美しさを持った若い男性。この方こそ、僕達が会いに来たお方だった。

 

「アジュカ様、突然の訪問でありながらこの様にお話する場を用意してくださってありがとうございます」

 

「ああ、そんなに畏まらなくていいよ。それにしても、毎回毎回、キミ達は面倒な事に巻き込まれるな。その所為で、変な所で有名になっているよキミ達は」

 

そう言いながら目を細めるアジュカ様。

 

「それで、早速件の駒を見せてもらいたいのだが・・・どうやらキミ達以外にもお客様が来訪して来たようだ」

 

その時になって、ようやく僕達はその気配に気づく事が出来た。庭園の奥に生まれた闇・・・そこから現れたのは、僕達と同じ悪魔だった。

 

「ようやく見つけたぞ。偽りの魔王アジュカよ」

 

「このオーラ・・・どうやら上級悪魔クラスみたいね」

 

部長の分析に僕も頷く。そして、アジュカ様を偽りの魔王と呼ぶという事は、この悪魔達の正体は・・・。

 

「口調だけで一発で把握出来てしまえるのも、旧魔王派の魅力だな。・・・それとも、嫉妬派と呼んだ方がいいかな?」

 

「嫉妬派?」

 

「おや、知らないのかい? フューリーとの戦いを見た者達はそう言っているよ。あの戦いは騎士に女を奪われたと勘違いした男達が暴走した挙句返り討ちにあったのだと」

 

「あの様な者達と我等を一緒にするな!」

 

アジュカ様の言葉に、一人の男が激しく噛みつく。そんな中、新たな人物が僕達の前に姿を現す。

 

「初めまして、アジュカ・ベルゼブブ。僕は英雄派のジークフリートです。それと、今あなたが挑発してくれたこの方々は、英雄派に協力してくれている前魔王の関係者です」

 

ジークフリート・・・まさかこの男までここに来るとは。それにしても、超常を否定する英雄派が悪魔の協力を受けている事に違和感がある。連中からしたら、互いに利用出来る相手としか見ていないんだろうが。

 

挨拶もそこそこに、本題へ入るジークフリート。その口から飛び出たのは信じられない言葉だった。英雄派と同盟を結んで欲しい。ジークフリートはアジュカ様にそう持ちかけたのだ。

 

その理由をジークフリートは語る。現ルシファーであるサーゼクス様。あの方に唯一対抗出来る悪魔こそがアジュカ様だと。もし同盟を結んでくれるのなら、英雄派が有している情報と研究の資料を全て提供すると。それは、新しい物を常に求め続けるアジュカ様には魅力的な条件だろうと。

 

「テロリストになってサーゼクスに敵対する。・・・なるほど、それも面白そうだ。彼の驚く顔を見るだけでもその価値はある」

 

「では・・・」

 

「―――だが、お断りさせてもらうよ」

 

直前まで肯定的に見えたはずのアジュカ様の口から出たのは明確な否定だった。ジークフリートは顔色を変えないが、周囲の悪魔達からの殺気が一段と強くなった。

 

「・・・理由は?」

 

「まあ、色々あるのだが、キミも長々と付き合わされるのは嫌だろうし、簡潔に答えよう。彼・・・いや、アイツは俺の“友”だ。理由としてはそれで十分だろう?」

 

若い頃からお互いを高め合って来たライバルであり親友。アジュカ様とサーゼクス様はそういう関係だと僕も聞いている。きっと、アジュカ様の中で、サーゼクス様との間に確固たるものがあるのだろう。そしてそれは、いくら条件を重ねられようと、テロリストに屈するものではない。

 

それに怒りを爆発させる旧魔王派の者達、彼等はアジュカ様へ向けて憎しみの籠った声を浴びせながら攻撃を始める。だが、アジュカ様はそのことごとくを手元の小さな魔法陣を操作するだけで全て逸らしていく。

 

「撃ったからには、当然撃たれる覚悟はあるんだろう。ならば、俺も魔王としての役目を果たそうか」

 

小型魔法陣の上を、アジュカ様のしなやかな指が超高速で走る。何を入力したのか? 数秒も経たず、その結果が僕達の目に飛び込んで来る。先程逸らした攻撃がまるで何かに操られる様に、旧魔王派の者達へ襲い掛かったのだ。

 

あるものは分厚い光線に、またあるものは散弾に、さらにあるものは枝分かれしながら、放った者へ返っていく。

 

「俺は小さい頃から計算が好きでね。ずっと数式や方程式と向き合っている間に、魔力もそっちの方に特化していった。これくらいの事は、片手でも十分さ」

 

「『覇軍の方程式』! こんな・・・こんな馬鹿げた力が・・・!」

 

そして、たった今最後の男が消滅した。結局、アジュカ様は椅子から立ち上がる事も無く全て倒してしまった。驚嘆とかそういうレベルじゃない。畏怖の念すら抱いてしまうほどの絶対的な力量だ。

 

「さて、残りはキミだけとなったわけだが、どうするジークフリート君? 撤退するというのなら俺は止めないよ」

 

「それはありがたい。けど、このまま帰っても笑い者にしかならないんでね、持って来た切り札を切らせてもらうよ」

 

「ほお、それは興味深い。そういう事であれば、俺は観戦に回りたいな。・・・そこの『騎士』君、もしよければ、彼の相手をしてあげてくれないかな?」

 

アジュカ様が指名されたのは僕だった。

 

「僕・・・ですか?」

 

「剣士の相手は、やっぱり剣士が相応しいと思ってね。もちろん、断ってくれてもいいんだが」

 

「いえ・・・そういう事でしたらお任せください」

 

魔王様の指名を断るなんてもってのほかだ。それに・・・彼とはいいかげん決着をつけたいとも思っていた。

 

「ジークフリート・・・」

 

「木場祐斗。騎士殿や赤龍帝を失った割には元気そうで安心したよ」

 

そう言うと同時に、ジークフリートの背中から龍の腕が四本生えて来る。いきなり禁手を見せるとは・・・どうやら向こうも僕と同じ気持らしい。背中の手に魔剣を握らせ、ジークフリートが右手に魔帝剣グラムを握る。

 

「木場祐斗。京都でキミにやられてからずっと考えていたよ。キミの限界突破に対抗するには、僕もこの魔帝剣の力を全て出し切らなければならないと。・・・けど、僕にはそれが出来ない。魔帝剣の名に相応しい切れ味。攻撃のオーラを纏い、いかなるものも断ち切る剣。それがグラムだ。・・・けれど、この剣にはもう一つ特性がある」

 

「―――龍殺し」

 

僕の答えに、ジークフリートは満足そうに頷く。

 

「かつて、あの『黄金龍君』ファーブニルを滅ぼしたのも、その特性があったからだ。そして、その特性の所為で、僕はグラムの真の力を出せない。僕の神器はドラゴンの性質を持っているからだ。力を解放した瞬間・・・僕自身の体を破滅に導く。・・・けどね、もしも解放しつつ破滅しない方法があったとしたらどうだい?」

 

そんなものはあり得ない。しかし、ジークフリートは不気味な笑みを見せながら左手に何かを持つ。それは拳銃の様な形をした注射器だった。そしてそれを、躊躇い無く自分の首元に突き刺し、中身を挿入していく。

 

変化はすぐに訪れた。まず彼の背中の腕が肥大化を始めた。続けて、彼本来の手が持っていた剣と同化していく。顔中に血管が浮かびあがり、筋肉が意思を持つかのように蠢きまわる。それに耐えきれなかったのか、着ていた英雄派の服が破れていく。

 

その姿は、最早阿修羅とは呼べず、蜘蛛の化物としか形容出来ないものとなっていた。

 

「―――これこそが『業魔人(カオス・ドライブ)』。僕達はそう呼称している。先程注射した薬は『魔人化(カオス・ブレイク)』と呼んでいてね、それぞれ『覇龍』と『禁手』から名称の一部を拝借しているんだ」

 

「人間は時として、悪魔や天使を越えるものを作り出す。・・・だからこそ、人間は可能性の塊だと俺は思ってしまうよ」

 

「みんな、僕達から離れて。アジュカ様もお下がりください」

 

「俺の事は気にしないでいい。・・・と言いたい所だが、それでキミの邪魔をしてしまうのはよくないしな」

 

部長達が十分な距離まで離れた所で、僕はジークフリートに向き合った。

 

「さあ、限界突破を使うんだ木場祐斗。あの状態のキミを越えなければ意味がない」

 

「言われるまでもないさ!」

 

第一、 第二の枷を一気に解き放ち、僕は両手に風の魔剣を持ちながらジークフリートに肉薄した。全速の一閃は果たして・・・グラムによって受け止められる。剣と剣のぶつかり合いで生まれた衝撃波が、周囲の木々を大きく揺らす。

 

それならばと連続で攻撃するが、ジークフリートは肥大した四本の腕の剣でそれら全てを防いでいく。完全に今の僕の速さに追いついているみたいだ。

 

「ははは! 止まって見えるぞ木場祐斗! キミの自慢の速さも、『業魔人』になった僕には通じないみたいだな! 今の僕ならば、赤龍帝ともいい勝負が出来そうだ! もっとも、彼もう死んでしまったがな」

 

―――その言葉は、僕の怒りを呼び覚ますのに十分だった。イッセー君の死を口にしたからでは無い。彼は生きていると僕は信じているから。だがその前の・・・イッセー君といい勝負が出来るというその言葉だけはどうしても許せなかった。

 

「・・・ふざけるな」

 

「何・・・?」

 

「ジークフリート。先程あなたはこう言った。『業魔人』は『覇龍』からその名を取ったと」

 

「それがどうかしたのか?」

 

そうか・・・。やっぱり何もわかっていないんだな。なら、ハッキリ言わせてもらう。

 

「あの力は・・・『覇龍』は! イッセー君の夢と努力がもたらした彼だけの力だ! それを・・・その『覇龍』を! 名前だけとはいえ、そんなくだらない力なんかに使うんじゃない!」

 

そう、それだけが僕にはどうしても許せなかった。最強の『兵士』になる・・・そんな彼の夢すら汚されてしまったようで本当に許せないんだ!

 

「全く・・・キミ達は本当によくわからない事で怒るんだな。それで・・・僕を許せないというキミはこれからどうするつもりだ?」

 

「あなたを倒す。今日、この場で、僕が、必ず!」

 

師匠。おそらくあなたは魔獣との戦いに備えて許可を出してくださったのかもしれません。ですが、その前に・・・この男に対して使う事をお許しください。

 

風の魔剣を消し、僕は瞑目する。剣を出す必要は無い。最後の枷を解き放つのは・・・僕自身の想いなんだから!

 

「・・・我が名は木場祐斗。リアス・グレモリーの『騎士』にして、立ち塞がる敵を全て切り裂く最強の剣なり・・・」

 

「何を始めるつもりかは知らないが、隙だらけだぞ木場祐斗!」

 

「我が信念、我が想い、我が全てを鋼に変え・・・ここに、最後の枷を外さん」

 

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ジークフリートの攻撃が迫る中、僕は最後の言葉を口にした。

 

「・・・リミットオーバー」

 

瞬間―――僕の体から爆発的に溢れ出る聖と魔のオーラが屋上全体を照らしあげる。そのオーラはジークフリートの攻撃から僕を守り、彼の体を遥か後方へ吹き飛ばした。

 

全身を包み込む聖魔のオーラ。そして、背中に展開されるオーラの翼。僕は今・・・全ての枷から解き放たれた!

 

「その力は・・・!?」

 

「忘れたのかい? 僕が師匠からつけられた枷は全部で三つだと言ったはずだよ」

 

そして、この状態ならば、先輩から教えてもらった“あの技”を使う事が出来る!

 

―――よっしゃ! お前の力を見せてやれ木場!

 

「ッ・・・!?」

 

今の声・・・間違いない。イッセー君・・・キミなのかい!?

 

「祐斗!」

 

部長が僕の名を叫んだ。振り向く僕へ向け何かが飛来して来る。それはイッセー君の駒だった。僕の目の前で紅い閃光を放ちながら、駒はその形を変えていった。そして、その光が治まった所で僕が目にしたのは一本の輝かしい光を放つ聖剣―――アスカロンだった。

 

ふふ、イッセー君の友達思いには脱帽だよ。駒ですら僕達を助けようとしてくれるんだもの。だったら・・・不甲斐無い姿は晒せないよね!

 

僕はアスカロンを右手に持ち、左手に鞘を創り出す。そして、その鞘にアスカロンを仕舞い、腰元に構えながら態勢を低くする。

 

「英雄ジークフリート。自らの力を信じず外道に手を染めた者よ。この一撃で・・・終わらせる」

 

そう宣言し、僕は無心となってジークフリートへ突っ込む。一瞬の交差―――それが勝者と敗者を決定づけた。おそらく、ジークフリートから見たら、何もせずただ自分の背後へ駆け抜けていった様にしか見えなかっただろう。

 

「はは、どうしたんだい? 終わらせるんだろう? 僕はまだこうして生きて・・・」

 

「―――光刃閃」

 

僕はアスカロンを鞘に納めた。その瞬間、ジークフリートの体が細切れとなり、主を失った魔剣達と共に庭園の床へと散らばるのだった。

 

全ての枷を解放した状態で放つ神速の居合術。それが、僕が神崎先輩に教えてもらった技・・・光刃閃だった。

 

「さようなら・・・ジークフリート」

 

空に向かって黙とうする。それが、同じ剣士として僕が彼に出来る最後の事だった。




というわけで、オリ主現代に帰還&木場君の無双回でした。ちなみに、オリ主を励ました言葉はシュウゾウという人物の言葉であって、リアルに存在するあの人とは別人です。なので、あの人が言った言葉と微妙に違っていたりするものもあるのであしからず。

・・・え? 帰還方法が納得できない? じゃあサイトロンエナジーの応用だって事にしといてください。それでも納得出来ないなら、オリ主の言う通りシュウゾウパワアッー! で何とかなったって事で(適当

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