ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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今回は勘違い要素無いかも・・・。


第十七話 紅き姫の夢と赤き龍の苦悩

 十日…実際には最終日は休息に当てるので九日に及ぶ今回の合宿。最初は長いなーと思っていたが、既に半分の日数を消化していた。俺はひたすらに木場君と塔城さんの相手、そして自分の鍛練を行っていた。

 

 何故この二人だけなのかというと、グレモリーさんと姫島さんは肉弾戦じゃ無く魔法みたいなもので戦うらしいので俺じゃ役に立たない。アーシアの修行も他の人間が手助け出来るものじゃないらしい。兵藤君はというと、人間の俺じゃ攻撃受けたら死ぬかもしれないと許可自体出なかった。

 

 それはそれとして、たった数日だが、木場君も塔城さんも素人目から見てもメキメキ成長していた。木場君は剣の速度がさらに増していたし、格闘技を得意とする塔城さんも、所謂コンビネーション技が光るようになってきた。

 

 いや、初めて彼女の戦いを目にした時は驚いた。とりあえず打って来てとお願いした上で食らったパンチで俺は簡単に吹っ飛ばされたのだ。その時、つい「な、なんだこいつのパワーは!?」と某島田兵のセリフをリアルに叫んでしまった。それくらいの衝撃だったのだ。この体でなければ間違い無く内臓パーン! してただろうな。

 

 けれど、この合宿で一番頑張っているのは、あの二人では無く兵藤君だと俺は思っている。何せ、特訓中に何度も彼の悲鳴が聞こえて来たし、夕飯の時間ではズタボロになった彼の姿を見るのが日課となっていた。

 

 それでも、俺の前で彼が弱音を吐いた事は一度も無かったのだ。そんな兵藤君の姿に、密かに感動していた俺。せめて精のつく物を食べさせてあげようと、俺は毎日気合いを入れて料理を作った。

 

 ちなみに、食事は全部俺の担当だ。これでも一人暮らし歴は長いのだ。料理の腕だって嫌でも上がるってものさ。まあ、流石にレストランレベルの物を出せと言われたら無理だが、それなりの物を振る舞うくらいは出来る。

 

 この日も、夕食の時間が終わり。皿洗いを済ませた俺は、涼を求めて外に出た。ふと上を向き、そこに広がっていた満天の星空に目を奪われていると、背後から声がかけられた。

 

「神崎君」

 

「グレモリーさん?」

 

 声の主はグレモリーさんだった。彼女はゆっくりとこちらに近づいて来ると、俺の隣に立った。

 

「あなたが外に出て行くのが見えたから。どうしたのこんな時間に外に出て?」

 

「少し涼もうと思ってな。そうしたら綺麗な星空だったんでつい見惚れていた」

 

「ふふ、そうね。とても綺麗だわ…」

 

 ここで恋人同士なら「ふ、キミの方がずっと綺麗だよ」「嬉しい! 抱いて!」なんて会話が繰り広げられるんだろうが。残念、俺とグレモリーさんはただの友人である。そんな発言をすれば、絶対零度の目で「気持ち悪い」と言われる事間違い無し!

 

 よって、無言で夜空を見上げ続ける俺。グレモリーさんも俺に倣って夜空に目を向けている。

 

 …うーむ。気まずい。無言の時間っていうのはどうにも苦手だ。けれど、今も昔も彼女なんていない俺は、女の子と何を話せばいいのか、さっぱりなのですよ。ここは脳内チャットで意見を求めよう。

 

 HN騎士(笑)「凄く綺麗な同級生と一緒に星空を眺めているんですが、どうしたらいいですか?」

 

 HN理論家だけど異性好き「押し倒せ!」

 

 HN姉様「むしろ押し倒されるのもアリよん!」

 

 HN霞さん「でもそれって根本的な解決になりませんよね?」

 

 流石、霞さんはブレないなー。…マジでどうしよう。

 

「…ごめんなさい」

 

 そんな俺の気持ちを察したのか、グレモリーさんの方から話しかけて来てくれた。ただ、その内容が謝罪というのはどういう事なのだろうか? 俺、彼女に謝られるような事無いと思うんだけど…。

 

「何故謝るんだ?」

 

「私の事情に巻きこんでしまって、本当に申し訳無いと思ってるわ。それに、この前の事もそうよ。あの時の私はホントにどうかしてたわ」

 

 ああ、あの襲撃事件の事ね。いや、まあ確かに驚いたのは驚いたけど、別に怒ってはいないよ? それに今回の合宿だって、どこかで楽しんでいる俺がいるし。

 

「気にするな。ただ俺に役に立てる事があるならと思って参加しただけだからな」

 

「ふふ、あなたっていつもそうよね。「友達だから」「困っているから」そう言って、ただそれだけの理由で付き合ってくれる…」

 

「それは当然の事じゃないのか?」

 

 少なくとも、俺はそう思っている。そう言うと、グレモリーさんは小さく首を横に振った。

 

「気分を悪くしたのなら謝るわ。けど、決して馬鹿にしているわけじゃないの。むしろ、その思いには尊敬の念を抱いているわ。そんなあなただから、学園のみんなも頼りにしているんだろうし。…私も甘えてしまいそうになる」

 

「別に甘えてくれてもいいんだが」

 

「駄目よ」

 

 キッパリと言い放つグレモリーさん。その姿は、俺にではなくまるで自分自身に言い聞かせているように見えた。

 

「何故?」

 

「私はグレモリー家の次期当主で、イッセー達の『王』よ。そんな私が弱音を吐いたり、誰かに寄り添ったりしていては、他の者達に示しがつかないわ」

 

 一瞬寂しそうな表情を見せるグレモリーさんだが、次の瞬間には決意の籠った瞳で俺を見つめて来る。そんな彼女を見て、俺は理解する。ああ、この子は自分の家を誇りに思っていて、周りの期待に応えようとどこまでも一生懸命なんだなと。

 

 …けどな、グレモリーさん。キミは一つだけ勘違いしているぞ。

 

「グレモリーさん。俺はなんだ?」

 

「え?」

 

「キミにとって、俺はどんな存在なんだ?」

 

「…と、友達?」

 

 よかった。彼女もそう思ってくれていたみたいだ。これでただのクラスメイトとか言われてたらこれからの話が全部意味無くなってた。

 

「ありがとう。俺もキミの事を大切な友人だと思っている。…だからこそ、キミのさっきの言葉が許せない。キミが弱音を吐けないほど、キミが甘えられないほど、俺は頼りないか?」

 

「ち、違うわ! あなたの事を頼り無いなんて思った事は一度も無い! けど、私は…」

 

「さっきキミはこう言った。自分はグレモリー家で王だからと。だがな、そんなのは俺には関係無いんだ。俺は人間で、キミの眷属じゃないから。俺とキミは…ただの友達なんだ」

 

「ッ…!」

 

 ハッとするグレモリーさん。やれやれ、そんな簡単な事にも気付いてなかったのね。

 

「学園でも、オカルト部でも、キミはみんなの中心にいる。きっと色々な重責があるんだろう。…だからといって、それを我慢しなければならない理由なんてどこにもない。たとえ、キミが何者であろうとな」

 

「神崎…君…」

 

 瞳を揺らすグレモリーさん。もう一押しって所か。ならば、ここは勢いに任せて、普段では絶対やらない事をして追い込んでやろう!

 

「あっ…」

 

 俺はグレモリーさんを正面から力一杯抱きしめた。彼女の体の柔らかさが一気に伝わってくる。

 

「キミは誇り高い女性だ。全てを曝け出してくれ・・・とは言わない。だが、こうして心配している男が…悪魔でも眷属でも無い、ただの人間の友達がいるという事を忘れないでくれ」

 

 …うーわ、恥ずっ! こんなん俺のキャラじゃない。けれど、恩人であり友人である彼女が悩んでいるのに、何もしないなんてそれこそ俺じゃない。生前「お節介が服を着て歩いている」という異名を与えられたのは伊達ではないのだ!

 

 過去を振り返る俺の背中に、グレモリーさんがおずおずといった感じで腕を回して来た。これで、俺達は完全に抱き合っている形となった。ははは、今の状況を学園の彼女のファンに見られたら殺されるな。

 

「…今だけ」

 

「ん?」

 

「今だけ…このままでいさせて。きっと、きっとすぐにいつもの私に戻るから…」

 

 はいはい。お兄さんでよければいくらでも胸を貸しますよ? なんか女の子特有の甘い香りが漂って来るが、真面目モードの俺はそんな事では動じ…てますけど何か? 逆に何も感じないヤツは男として致命的な何かを失っていると思うな。

 

 その状態で、グレモリーさんはポツポツと自分の事を語ってくれた。彼女には立派なお兄さんがいるらしい。しかも、前回グレモリーさんを迎えに来たグレイフィアさんはなんと、お兄さんの奥さんなんだとか。二人は周囲の反対にもめげず大恋愛の末に結婚したらしく、自分もお兄さんのように、心から好きになった相手を生涯の伴侶にするのが夢なんだとか。

 

「私は、私を…リアスを見てくれる人と一緒になりたい。小さな、本当にささやかな夢なんだけどね」

 

「グレモリーさん。夢に大きいも小さいも無い。どんな夢だって、その人にとってはかけがえの無い物なんだから」

 

 あくまで俺の持論だけどな。ちなみに俺の夢は平穏無事な日常を送る事。…すでに大きく道を逸れている気がするが。

 

「ふふ、あなたって、本当に私が欲しい言葉をかけてくれるわね。…あなたみたいな人が相手だったら私も…」

 

 ボソボソと独り言を呟くグレモリーさん。なんだか、思っている事が勝手に口から出てしまったって感じだな。ならば聞かなかった事にしておこう。…実際聞こえなかったし。

 

 それからしばらくして、グレモリーさんが静かに俺から離れた。その顔はどこか満足そうに見えたのは自惚れだろうか。

 

「ありがとう、神崎君。おかげで少し気が楽になったわ」

 

「それはよかった」

 

 と、ここでグレモリーさんが思い出したように話題を変えた。

 

「あ、そういえば、ここに来る前にイッセーとすれ違ったんだけど、何だかあなたに相談したい事があるって言ってたわよ。もしかしたら今頃あなたの部屋に行ってるかも」

 

 あ、そうなの? なら待たせるのも悪いし、そろそろ行くか。俺はグレモリーさんをその場に残し部屋に戻ろうとして…振り返った。

 

「そうだ、グレモリーさん」

 

「?」

 

「俺ごときに評されるのは不快かもしれないが…俺から見てキミはとても素敵な女性だと思うよ」

 

「なぁっ…!?」

 

 フォロー完了。神崎亮真はクールに去るぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はてさて、グレモリーさんの言う通り、俺の部屋の前には兵藤君の姿があった。

 

「待たせたな、兵藤君」

 

「神崎先輩…」

 

 …あれ、兵藤君だよね? 学園でいつもおっぱいおっぱい叫んでる彼と今の彼が同一人物とは思えないほど意気消沈している。と、とりあえず部屋に入ろう。

 

「適当に座ってくれ」

 

 ベッドに腰掛ける俺と、向かい合うように椅子に座る兵藤君。さて、グレモリーさんが言うには、相談事があるらしいけど…。

 

「兵藤君。俺に何か話があるんだろ?」

 

「先輩…俺、不安なんです」

 

「不安?」

 

「合宿が半分過ぎて、自分が弱すぎるって事に気付かされたっていうか…。部長も朱乃さんも木場も小猫ちゃんもどんどん強くなっていってるのに、俺だけまるで成長してない気がするんです」

 

 そんな事は無い…とは、今の彼の顔を見ると軽はずみには言えなかった。兵藤君は本気で悩んでいるみたいだ。

 

「もちろん、部長をあんな焼き鳥野郎に渡すつもりなんてありません」

 

 焼き鳥? グレモリーさんの婚約者って焼き鳥屋さんか何かなのか?

 

「…でも、本当に俺なんかが部長を守れるのかって思ってるのも事実です。『赤龍帝の籠手』なんて凄い神器を持ってるのに、これじゃ宝の持ち腐れですよ…」

 

「兵藤君…」

 

「はは、情けないですよね、俺。それに比べて、先輩は凄いですよ。木場も小猫ちゃんも褒めてましたよ。人間の身でありながら悪魔である自分達を簡単に負かしてしまうなんてって。…先輩、どうしてあなたはそんなに強いんですか?」

 

「…強くならなければならなかったから」

 

 じゃないとこの世界ではすぐに死んじゃうらしいからね!

 

「そうですか。なら、先輩には守りたい人っていますか?」

 

 守りたい人か。うーん、普通なら家族とか仲間とかって言うんだろうけど、この世界じゃ俺って一人だからな。けど強いて言うなら…。

 

「今の俺にはアーシアくらいしかいないな」

 

 我が家の天使である彼女に近寄ろうとする変態共は俺が成敗してくれるわ! それと、人間じゃなくていいのなら我が家の癒しである黒歌の事も忘れてはいけない。

 

「今の…? それじゃ先輩は大切な人を亡くした事が…」

 

 兵藤君が愕然とした顔で俺を見つめて来る。え、どうしたの? 俺、変な事言った?

 

「す、すみません、先輩!」

 

 かと思えば、いきなり頭を下げる兵藤君。ちょちょちょ、どうしたのさ急に!?

 

「ホント、すみません! 嫌な事思い出させちゃって! くそ、最低だ俺って…!」

 

 何を言っているのかさっぱりわからないよ? とはいえ、兵藤君のあまりにも真剣過ぎる表情に何も言えないチキンな俺。とにかく、気にしてないって事をアピールしよう。

 

「兵藤君。俺は気にしてないから頭を上げてくれ」

 

「でも…」

 

「いいから」

 

「…わかりました」

 

 ようやく頭を上げてくれた兵藤君。さて、いよいよ本題だ。弱音を吐かなかった彼が、ここに来て初めてそれを口にした。ならば、それを最初に聞いた俺にはそれに答える義務がある。

 

「兵藤君。キミがそこまで悩んでいるなんて思わなかった。だから、大丈夫だ、とか、余裕だ、とか軽はずみに言うつもりは無い。そんな物はキミに対しての侮辱にしかならない」

 

「…」

 

「けど、俺は兵藤君が今日まで必死で努力を重ねて来たのは知っている。だからそれを…キミ自身の努力を信じてあげる事くらいはしてもいいんじゃないか?」

 

「俺の努力を…信じる?」

 

「腕立ての一回一回で兵藤君の力は増していく。険しい道を走れば走るほど、兵藤君の体力は増えていく。それら全てが合わさって、兵藤君という存在を強くする。努力っていうのは、どんな小さなものだって、決して無駄にはならないんだ」

 

「努力は…無駄にならない」

 

「グレモリーさん達だって努力を重ねている。だから強くなっているんだ。キミが弱いんじゃない。キミが強くなる間に、彼女達も強くなっていっているんだ。だから、キミは周りの事は気にせず、一秒前の自分よりも強くなれるよう、頑張ればいい」

 

 周りが凄すぎて劣等感を抱いているみたいだが、そんなの関係無い。兵藤君は兵藤君の強さを磨いていけばいいだけだ。

 

「…はい。はい! そうですね! 俺は俺だ! 木場みたいに剣は振るえないし、小猫ちゃんみたいに上手に戦えない。でも、そんなの関係無いんだ! 俺は木場でも小猫ちゃんでも無い! 俺は兵藤一誠なんだから!」

 

 …おい、急にイケメンになったぞこの子。まるで漫画の主人公のようなセリフを叫びながら、椅子から立ち上がる兵藤君。

 

「ありがとうございます、先輩! おかげで吹っ切れました! 『駒王学園の頼れるお兄様』って名は伊達じゃないって身を以て知りました!!」

 

 ぶふぉっ!? な、何で今それが出て来るの!? 心の中で噴き出す俺に対し、兵藤君は満面の笑みを向けて来た。

 

「先輩! 俺、明日も頑張ります! 絶対に強くなって、部長を守ってみせます!」

 

 深々と頭を下げ、兵藤君は俺の部屋を出て行った。いや、若いっていいね。

 

 翌日、兵藤君が山を吹っ飛ばす場面を目撃する事を、この時の俺は知る由も無かったのであった…。

 

「先輩! 見ててくれましたか!」

 

「…これは夢か?」




既に死に設定ですが、オリ主の基本設定は『呆れるくらい、いい人』です。それでオカンの目に止まったわけですから。彼だって真面目な時は真面目にやるんですよ。何気にオリ主サイドで真面目な話って今回が始めてだったりして。

さて、今回でオリ主は二つのフラグを建てました。一つはリアス。そしてもう一つはイッセーです。別にホモォ・・・展開になるわけじゃないですよ? ただ、原作のレーティングゲームとは違う所が出て来ると思います。

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