ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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気付けば三ヶ月近く更新が滞っておりました。その所為でご心配をおかけしてしまった方々もいらっしゃったようで、この場を借りてお詫び申し上げます。わたくし、至って健康体であります。




第百六十四話 キミの中の英雄

祐斗SIDE

 

アジュカ様の元を後にした僕達はすぐさま冥界のグレモリー城へ帰還した。準備が出来次第、グレモリー眷属は首都防衛戦へ向かう事になっている。

 

「木場」

 

出迎えてくれた黒歌さん達と一緒にゼノヴィアとイリナさんの姿があった。

 

「ゼノヴィア! それにイリナさんも。戻って来てたんだね」

 

「ごめんなさい。遅くなっちゃって。だけど、目的はしっかり果たして来たわ」

 

ゼノヴィアが携える魔術文字と天界の文字が刻まれた布に包まれた長い得物に目を向ける。どうやら破壊されたエクス・デュランダルはちゃんと修復されているようだ。

 

イリナさんも新しい剣を腰に差している。ここに来ての戦力アップはありがたい。

 

「それで部長。魔王ベルゼブブはイッセーについて何と?」

 

「イッセーは生きている・・・そう断言してくれたわ」

 

「そうか! うん、そうだと思った。アイツがそう簡単に死ぬわけが無い」

 

「ええ、だってイッセー君は“せきりゅーてー”だもの!」

 

部長の言葉に二人は笑顔を見せる。・・・それにしても「せきりゅーてーだもの」・・・か。なんだろう。神崎先輩の「フューリーなら仕方ない」に迫る説得力を持ち始めている気がするのは僕だけだろうか。

 

「それで、これから私達はどう動くの?」

 

「もちろん、防衛戦に参加するのよ。けれどその前に状況確認ね」

 

部長がフロアに備え付けられていたテレビの電源を入れる。映し出されたのは冥界の各地で暴れる魔獣達の姿だ。魔獣の出現から随分時間が経過している。既に重要拠点まで辿りついている魔獣がいるかもしれない。

 

けれど、僕達が目にしたのは、『豪獣鬼』を相手に善戦している戦士達の姿だった。ヘリコプターから中継するレポーターが叫ぶように説明する。―――アジュカ様と眷属の方々が生み出した対抗術式。それが『豪獣鬼』に効果を与えていると。数時間前に中継を見た時とは形勢が逆転し始めている。

 

「部長、アジュカ様は・・・」

 

「・・・魔獣の出現を確認してすぐにアジュカ様はファルビウム・アスモデウス様と共に術式の構築を始められていたそうよ。私達がお会いした時にはすでに完成させていたというわ」

 

「この数時間であれほどまでの物を・・・」

 

「流石・・・としか言いようが無いな」

 

それぞれに感想を漏らしていると、映像が切り替わった。四足歩行型の『豪獣鬼』に対し攻撃を加えているのはセラフォルー・レヴィアタン様とその眷属の方々だった。

 

『・・・凍りつけ』

 

瞬間、『豪獣鬼』の右前足が完全に凍りついていた。続いて画面に映し出されるセラフォルー様の顔は、隠しきれない殺意に彩られていた。

 

「ッ・・・!?」

 

誰かが息を呑む。僕達の知るセラフォルー様は、あの様なお顔を見せた事は一度も無い。“レヴィアたん”では無い。あれこそが本物の“魔王セラフォルー・レヴィアタン”の姿なのだと、僕達は理解した。

 

やがて、氷は右足から左足。胴体を通って後ろ足までも覆い尽くして行く。完全に動きを止めてしまった『豪獣鬼』を前に、セラフォルー様が右手に魔力を溜め始める。その間に、『豪獣鬼』はとうとう顔を含め、全身を凍りつかせていた。

 

『・・・砕け散りなさい』

 

そして、セラフォルー様と眷属の方々による一斉攻撃を受け、『豪獣鬼』は甲高い音と共に文字通り“砕け散った”のだった。

 

『ご、御覧になりましたかみなさん! レヴィアタン眷属の方々により、たった今『豪獣鬼』の一体が撃破されました!』

 

それをリポートしていたリポーターが絶叫する様な声を上げている。

 

「・・・」

 

圧倒的過ぎて言葉が出て来ない。セラフォルー様はほとんどお一人で『豪獣鬼』を無力化してしまった。戦場となっていた広大な荒地が、魔力の余波による影響か真っ白になっている。そんな氷の世界に散らばる『豪獣鬼』の残骸を一瞥し、セラフォルー様は転移魔法の準備に入られた。

 

『もうここに用は無いわ。次の場所に向かうわよ。・・・フューリーさん、あなたを陥れたヤツ等は、この私が絶対に・・・!』

 

最後にそう言い残し、セラフォルー様は転移されていった。

 

「・・・そうよね。あの方が冥界の危機、そしてリョーマの事で大人しくしているわけがないもの」

 

部長が小さく呟く。だけど、おそらくここにいる者のほとんどがそれに当てはまるんじゃないだろうか。うん、間違い無い。

 

戦闘が終了したのでチャンネルを切り替えると、ちょうどタンニーン様が眷族のドラゴン達と共に『豪獣鬼』に向かって特大の火炎を浴びせている所だった。既に『豪獣鬼』の体は半分以上が炭化している。おそらく、後数回炎を浴びれば倒れるだろう。

 

さらにチャンネルを変えれば、今度は九尾の狐が『豪獣鬼』を組み伏せている場面が映った。あれは・・・京都の八坂姫!

 

『母上が『豪獣鬼』を抑えた! 今の内に赤剛鬼隊は前に出ろ! “鬼”としての格はお主等の方が上なのだと、このデカブツに存分に思い知らせてやるのじゃ!』

 

『『『『『おぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』』』

 

八坂姫の背に乗っているのは九重ちゃんか! 彼女の指示で屈強な巨人達が『豪獣鬼』へ攻撃を加え始める。流石京都妖怪勢力トップの娘。まだ幼いのに堂々とした指揮だ。

 

この勢いならば、全ての『豪獣鬼』が倒されるのも時間の問題だろう。そう思った直後、またしても場面が切り替わる。映し出されたのは、ボロボロになった同盟軍。そして、鳥型の『豪獣鬼』の姿だった。

 

『こ、こちらアグレアスです! 鳥型の『豪獣鬼』により、戦士達が追い詰められております!』

 

アグレアス・・・。先日僕達がサイラオーグ・バアルとレーティングゲームを行った空中都市が、『豪獣鬼』とそれに生み出された魔獣達の脅威に晒されていた。

 

『くっ・・・! みなさん! 攻撃の手を緩めないでください!』

 

シーグヴァイラ・アガレスが叫ぶ。ここの同盟軍は彼女が率いているのだろう。眷属や他の悪魔、同盟軍が指示に従って一斉に鳥型『豪獣鬼』へ攻撃するが、何故かその攻撃は『豪獣鬼』に命中する直前に全てかき消されてしまった。

 

「あの『豪獣鬼』・・・攻撃が通じていないのか?」

 

「見て! 『豪獣鬼』の周りに何か・・・!」

 

画面一杯に映し出される『豪獣鬼』の姿。その周囲に凄まじい風の渦が生じていた。

 

『ご、御覧の通り、同盟軍の攻撃はあの風の渦によって全て防がれてしまっており、未だ決定打を与えられておりません!』

 

「ふん、バリアのつもりか。私がいればアレごと本体を断ち切ってやるのに」

 

「厄介ね。あれほどまで強力な風だと、接近戦を挑むわけにもいかないでしょうし・・・」

 

『シーグヴァイラ様! このままでは・・・!』

 

『諦めてはいけません! アガレス家次期当主として、私はここを絶対に守らないといけないのです!』

 

肩で息をしながらも、シーグヴァイラ・アガレスはなおも諦めていなかった。今彼女が言った通り、次期当主としての想いが彼女を支えているのだろう。そんなシーグヴァイラ・アガレスを嘲笑うかのように、小型の魔獣達が一斉に彼女へ襲い掛かる。

 

―――刹那、鮮やかな炎の波が魔獣達を呑みこんだ。

 

『・・・え?』

 

何が起こったのか理解出来ていない様子のシーグヴァイラ・アガレス。そんな彼女の元へ“あの男”が姿を現した。

 

『よお、随分と手こずっているようだな』

 

「ラ、ライザー!?」

 

部長が仰天している。たった今シーグヴァイラ・アガレスを助けた人物。赤いスーツに首元を包むマフラーの様な炎。まさしく、ライザー・フェニックスその人であった。その後ろには彼の眷属達が勢ぞろいしている。

 

『あ、あれは! ライザー・フェニックスです! 最近になってレーティングゲームランクをどんどん上げて行っている話題の男が救援に駆け付けましたぁ!』

 

『どうしてあなたが・・・』

 

『兄貴にこっちの援護に回れって頼まれたんだよ』

 

『ふん、どうせならルヴァル氏が来てくれればよかったものを。フェニックスの落ちこぼれが来た所で・・・』

 

悪魔の一人がそんな悪態をつく。主を悪く言われた眷属達がその悪魔を睨むが、当の本人は涼しい顔でその悪魔に話しかけた。

 

『おや、ランキング五十四位の実力を持つタイタス氏にしては随分と弱気な発言ですな』

 

『ッ・・・!? わ、私の事を知っているのか?』

 

『アンタだけじゃない。そこにいるのは七十一位のバリウス氏。その隣にいるのは六十三位のローズ嬢だろ?』

 

『わ、私達の事まで・・・!』

 

『会話どころか、顔すらも合わせた事は無かったはずなのに・・・!』

 

『ライバル達のチェックは欠かしていないんでな』

 

匙君の事も知っていたんだ。もしかしたら、ゲームに登録している全ての悪魔の顔を覚えているのかもしれない。今の彼ならそれくらいの事をやってのけてしまいそうだ。

 

『・・・しかし、百位内に収まる実力者達がこれほど揃っているのにあんな魔獣一匹相手に何をやっているんだか・・・』

 

『し、仕方ないだろう! あの『豪獣鬼』は風のバリアでこちらの攻撃を悉く防いでしまうのだぞ!』

 

『ならば、そのバリアとやらを破壊してしまえばいいではないか』

 

『それが出来ないから困っているんです。あの激しさでは、接近して破壊するのも難しいですし』

 

シーグヴァイラ・アガレスの言葉に、ライザー・フェニックスは一瞬考える様なしぐさを見せ、口を開いた。

 

『ならば、この俺があのバリアを破壊してやろう』

 

『どうするつもりですか?』

 

『知れた事。俺の炎を直接叩き込んでやるのよ』

 

『は、話を聞いていたのか! あの風のバリアに近づくなど自殺行為だぞ!』

 

『俺は不死身のフェニックス! あの程度のそよ風など問題では無い! ユーベルーナ! 雑魚の相手はお前達に任せるぞ!』

 

『お任せください!』

 

『さあ、突撃だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

炎の翼を纏い、ライザー・フェニックスと眷属達が『豪獣鬼』の元へ突撃を開始する。当然、それを阻もうと小型、中型、大型の魔獣達が彼等に襲い掛かるが、眷属達は抜群のコンビネーションでそれらを全て撃退していた。驚くべきは、ライザー・フェニックス自身は何の指示もしていないのに、眷属達が見事に連携している事だ。

 

『あ、あれがライザー・フェニックスの“シンクロ戦術”か・・・!』

 

『「声に出さずに指示を与える」・・・まるで互いの考えがわかっているかの様に戦う事から名づけられた戦術。こうして直に目にするまではとても信じられなかったが・・・!』

 

『ふはははは! 愛する者同士が気持ちを確認し合うのに言葉など不要! そうだろうお前達!』

 

『『『『『はい! ライザー様ぁ!』』』』』

 

ノリノリで叫ぶライザー・フェニックスに同じくノリノリで応える眷属達。まさか、戦場で堂々と惚気られるとは思わなかった。

 

「・・・愛の力は偉大・・・って事でいいのかしら?」

 

部長が何とも言えない表情でそう言った。うん、多分そんな感じでいいと思いますよ部長。それ以上考えると疲れそうなので止めておきましょう。

 

『固まっている場合ではありません。私達も続きましょう・・・!』

 

シーグヴァイラ・アガレス達もすぐさまライザー・フェニックス達の援護を始めた。そのおかげで、ライザー・フェニックスと『豪獣鬼』の間に道が生まれた。

 

『シーグヴァイラ・アガレス! 俺がバリアを破壊したら全員でヤツに攻撃しろ! タイミングと指示はお前に任せるぞ!』

 

『で、ですが、それではあなたが・・・!』

 

『この都市を守りたいのだろう! だったら言う通りにしやがれ! それとも、お前の次期当主としての覚悟はその程度のものなのか!』

 

「ッ・・・! わ、わかりました・・・』

 

『そうだ! それでいい! さあ、いくぞ『豪獣鬼』! これが俺の・・・フェニックスの力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

ライザー・フェニックスの全身を鮮やかな炎が包み込む。やがてその炎は猛々しい鳥・・・フェニックスへとその形を変えた。そして、フェニックスは翼を羽ばたかせながら『豪獣鬼』へと突っ込んだ。

 

次の瞬間、『豪獣鬼』の体が炎に飲み込まれる。それから数秒も経たず、風の渦が目に見えて衰え始めた。

 

『シーグヴァイラ様! バリアが!』

 

『まだ・・・まだです・・・』

 

バリアはまだ完全に消滅していない。シーグヴァイラ・アガレスは攻撃のタイミングを計っている様だ。

 

『・・・消えた! 今です! みなさん、全力で『豪獣鬼』へ攻撃を!』

 

待っていたとばかりに、同盟軍の者達はそれぞれの最大火力を『豪獣鬼』へと放った。爆発と閃光が『豪獣鬼』の全身で生じる。やがて、『豪獣鬼』は断末魔の声と共に遥か下へ広がる地へと落ちて行った。

 

『・・・た、倒した?』

 

『勝った・・・我々は勝ったんだ!』

 

『待て! 彼は・・・ライザー・フェニックスはどうなったんだ!?』

 

先程ライザー・フェニックスに悪態をついた悪魔が慌てたように叫ぶ。そんな彼の元へ、ライザー・フェニックスの『女王』ユーベルーナが近づく。

 

『先程、あなたはライザー様の事をフェニックス家の落ちこぼれと言いましたね?』

 

『い、いや、あれは・・・』

 

『確かに、ライザー様は優秀な御兄弟の方々と比較される事もあります。ですが・・・』

 

『ッ・・・! み、見ろ! あそこ・・・!』

 

他の悪魔が指差す方向をカメラが映す。そこには力強く燃える炎が存在していた。

 

『ライザー様もまた、まぎれも無くフェニックス・・・天才なのです』

 

『女王』が炎へ目を向ける。数秒後、炎の中からライザー・フェニックスが姿を現した。

 

『不死鳥は! 炎の中から! 蘇る!』

 

ポーズを決めるライザー・フェニックス。効果音がつくとしたらバァーン! だろうか。

 

『『『『『きゃー! ライザー様ぁぁぁぁぁぁ!!!』』』』』

 

黄色い歓声をあげながら殺到する眷属達を抱きしめるライザー・フェニックス。「不死」という特性を持っているとはいえ、躊躇い無くあの渦に飛び込むとは・・・。案外、イッセー君と似たタイプなのかもしれないな。

 

「・・・この調子だと、『豪獣鬼』達については心配する必要は無さそうね」

 

「ええ。そうなると後は・・・」

 

「魔王領の首都へ向かっている『超獣鬼』ですね」

 

「え? あ、ロスヴァイセ先生!」

 

突如として会話に加わって来たその声に振り返れば、そこにはロスヴァイセさんが立っていた。

 

「つい今しがた帰還しました。・・・私が留守の間に大変な事になっていたようですね」

 

「ええ。だけど、反撃の狼煙は既にあがっているわ。リョーマとイッセーが帰って来るまで、私達は私達のやるべき事をやるだけだわ」

 

「その通りです。微力ながら私も手伝わせてもらいますよ」

 

力強い表情で頷くロスヴァイセさん。そこへ、先程お茶を用意すると言って席を外していたレイヴェルさんが駆け寄って来た。

 

「皆様!」

 

「どうしたのレイヴェル?」

 

「都民の方々の避難をお手伝いしていたシトリー眷属の方々から連絡がありました! 首都リリスに魔獣が出現したそうですわ! おそらく『超獣鬼』が生み出したものだと思われます!」

 

「何ですって!? くっ、グレイフィア達のおかげで本体は足止め出来ているからと油断していたわ」

 

「部長!」

 

「出撃するわよみんな! ソーナ達と協力して、魔獣達を倒すのよ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

こうして、僕達は出陣する事となった。恐れは無い。みんなで力を合わて、絶対に守りきってみせるんだ!

 

祐斗SIDE OUT

 

 

ルシファー眷属による足止めにより、都民のほとんどは避難を完了させていた。そんな無人と化した街の中を、一台のバスが走り抜けていた。乗っているのは運転手と一人の女性。そして、大勢の子ども達だった。

 

「もっとスピードを出してください!」

 

「わかってる!」

 

運転手がバックミラーを確認する。バスの後方から複数の魔獣が追いかけて来ているのが確認出来た。

 

「せんせい、こわいよー!」

 

「大丈夫。大丈夫よ。先生が絶対に守ってあげるから」

 

涙を流しながら抱きついて来る子ども達を優しくあやす女性。彼女はとある幼稚園の先生で、子ども達はそこの園児だった。バスで避難中、運悪く魔獣と遭遇してしまい、逃げている最中なのだ。

 

「他のお友達はみんな無事に脱出したって聞いたわ。だから、私達も絶対に大丈夫よ」

 

「ほんと?」

 

「ええ。先生が嘘を吐いた事がある?」

 

「ううん!」

 

「でしょ? だから絶対に大丈―――」

 

突然バスが停車した。女性はすぐさま運転席に向かう。

 

「どうしたんですか!?」

 

「あ、あれ・・・」

 

震える指で前方を指す運転手。その先に目を向けた女性の表情が凍りつく。バスの進行方向先―――そこに大型の魔獣の姿があった。その不気味な目がバスを捉える。窓から魔獣の姿を見た子ども達が悲鳴をあげる。

 

「そんな・・・私達、ここで死ぬの・・・?」

 

運転手、女性、子ども達。誰もが絶望の表情を浮かべる。―――ただ一人の少年を除いて。

 

「あきらめちゃだめだ!」

 

その少年の声に恐怖は無かった。泣いている友達の涙を拭い、再び声を張り上げる。

 

「みんなあきらめちゃだめだ! ライオンさんだっていってたじゃないか! あきらめなかったら、いつかぜったいにかてるって! だからあきらめちゃだめだ!」

 

右手に持つライオンさん人形(モデル、サイラオーグ・バアル)をみんなに見せながら何度も諦めては駄目だと繰り返す少年。そして、そんな少年の勇気は奇跡を起こした。

 

「―――そうだ。よくぞ吼えた少年」

 

聞き覚えの無いその声はバスの右隣から聞こえて来た。そちらに視線を向けた女性が目を見開く。そこにいたのは、巨大な獅子だった。そして、その獅子の上に乗る一人の男。女性はその男に見憶えがあった。先日、テレビで見て以来密かにファンになっていた人物。誇り高き獅子王。その名は・・・。

 

「あ、あなたはまさか、サイラオー・・・!」

 

「ライオンさんだーーーーー!」

 

女性の声は大興奮状態の少年の声によってかき消されてしまった。

 

「ほんとだ! ライオンさんだぁ!」

 

「すごーい!」

 

「カッコいい!」

 

気付けば、先程まで泣いていた子ども達の顔に笑顔が戻っていた。ライオンさんことサイラオーグ・バアルはそんな子ども達に笑みを浮かべると、運転手に声をかけた。

 

「後ろの雑魚共は片付けた。あの魔獣も俺が倒す。だからこのまま前進しろ」

 

「え、そ、それならここで反転して別の場所から逃げた方が・・・」

 

「脱出するならばこの道が近道だ。子ども達を安心させる為にも、迷っている暇は無いはずだぞ」

 

「た、確かにそうかもしれませんが・・・」

 

「ライオンさんライオンさん! ぼくねぼくね! おおきくなったらライオンさんみたいになれるようにしゅぎょーしてるんだ!」

 

憧れの人物との出会いに我慢しきれなかったのか、会話に混ざろうとする少年を、女性が慌てて抑える。

 

「だ、駄目よカイト君! 今大事なお話してるんだから!」

 

「カイト? そうか・・・お前はカイトというのか」

 

「うん! カイト・ブラストルっていうんだ!」

 

「ではカイト。よく見ておけ。お前が目指すものを。レグルス、行くぞ!」

 

サイラオーグの指示で走り始めるレグルス。カイトは窓を全開にし、これから起こる事を決して見逃さない様に目を見開いた。

 

「うんてんしゅさん! はやくライオンさんをおいかけてよ!」

 

「ええい、くそ! こうなりゃヤケだ!」

 

アクセルをべた踏みし、サイラオーグを追い始めるバス。子ども達が一生懸命応援の言葉をサイラオーグへとかける。

 

「がんばれライオンさーん!」

 

「まけないでー!」

 

「ぼくもあきらめないからー!」

 

「わたしもー!」

 

「・・・不思議なものだなレグルスよ。子ども達からの応援というものは、どうしてこれほどまで心地よく・・・力が溢れるものなのだろうか」

 

「それは、あの子達の言葉には、ただあなたを想う気持ちだけが込められているからではないでしょうか。打算も何も無い、純粋な、心からの声援だからこそ、心地よさを感じるのではないでしょうか」

 

「なるほど。では、不甲斐無い姿は見せられんな!」

 

不敵な笑みを浮かべつつ、サイラオーグは腰を深く落とし、右拳を引いた。そして、練り上げた闘気を拳に纏わせ、それを魔獣に向かって真っ直ぐに突き出した。

 

「ぬんっ!!!」

 

次の瞬間、魔獣の体は冥界の空へ舞い上がっていた。十秒以上滞空した後、バスの遥か後方の道路に頭から落下し、そのまま永久に動かなくなった。

 

「すごい・・・やっぱりライオンさんはすごいや・・・!」

 

カイト・ブラストル。―――後にサイラオーグの再来と呼ばれる実力者へと成長する少年は、憧れの人物の背中を輝いた目で見つめて続けていた。

 

「素敵・・・サイラオーグ様・・・」

 

そして、もう一人別の意味で憧れる者もいたのだった。




前回の次回予告とは少し変わってしまいました。あの方々の登場はもう少し後の方が都合がよかったので。すみませんが、無かった事にしてください。

しかし、久しぶりに書いた所為か、内容が滅茶苦茶だわ。・・・え、いつもと変わらないないって?

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