ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百六十五話 Birthday

祐斗SIDE

 

首都リリス。日本の東京とほぼ同じ規模の面積を誇り、文化、文明という点でもほぼ同じクラスと言える。もしも『超獣鬼』がこの首都に辿りついてしまえば、壊滅的打撃を受け、都市機能は停止、そうなれば冥界の各所にも甚大な影響が出てしまうだろう。

 

現在、グレイフィア様が率いるルシファー眷属の方々が『超獣鬼』を足止めしてくれている。・・・言い換えれば、あのルシファー眷属でさえ倒す事は叶わず、足止めしか出来ていないのだ。

 

それでも、諦めるわけにはいかない。僕達一人一人が為すべき事を為せば、必ず冥界を守る事は出来るはずなのだから。

 

僕達はグレモリー城の地下にある魔法陣から転移し、ついさっきリリスの北西区画に出たところだ。グレモリー眷属では無い黒歌さんと堕天使三人は僕達とは別の区画の防衛に向かっている。そして、非戦闘員であるアーシアさんと、元々ゲストであるレイヴェルさんはグレモリー城に待機してもらっている。

 

「みなさん!」

 

「ギャスパー!?」

 

高層ビルの屋上から街を見下ろし、シトリー眷属と合流しようとしたその時、なんとギャスパー君が姿を現した。

 

「ここにいればみなさんと合流できると聞いていました!」

 

「そうだったの。なら、トレーニングの成果、期待してるわよギャスパー」

 

「精一杯頑張ります! ・・・あれ? そういえばイッセー先輩や神崎先輩はいないんですか?」

 

辺りを見渡して首を傾げるギャスパー君。・・・まさか、彼にはまだ知らせていないのか?

 

(説明・・・するべきだろうか)

 

もちろん、教えるべきなのだろう。けれど、ギャスパー君のメンタルを考えると、今説明してしまえば、戦う事が出来なくなってしまうかもしれない。

 

「部長、あそこ・・・!」

 

部長に耳打ちで確認しようとした時だった。小猫ちゃんが突然とある方向を指差した。何事かとそちらを確認すると、黒い巨大なドラゴンが同サイズの魔獣の首元に牙を突き立てている姿が見えた。

 

「あれは、匙君だ!」

 

「という事は、ソーナ達もあそこね! みんな、行くわよ!」

 

僕達は翼を広げ、一斉に空へと飛び出すのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

街の中は既に火の海と化していた。建物も道路も公共物も、ありとあらゆる物が抉れ、砕け、裂けている。そんな場所にシトリー眷属のみんなはいた。

 

「ソーナ!」

 

「リアス、来てくれたのですね」

 

「状況は?」

 

「都民の避難を護衛している途中で『禍の団』の者達が襲撃して来たのです。それは問題無く撃退できたのですが、今度は魔獣が至る所から出現して来まして。たった今、サジが大型を一匹倒してくれたのですが」

 

「へへ、あの程度のヤツなら何匹来ようが俺がブッ倒してやりますよ!」

 

既に龍王から元の姿に戻っていた匙君が笑顔で拳を握る。これは頼りになりそうだ!

 

「ええ。おかげであなた達の居場所が把握出来たわ」

 

「現在、私達は『禍の団』構成員や魔獣と戦いながら逃げ遅れた方がいないか見て回っています。リアス、手伝ってもらえますか?」

 

「もちろんよ。みんな、聞いたわね! シトリー眷属と協力して逃げ遅れた人達がいたら救助するのよ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

行動指針が決まった所で、早速動き出そうとした僕達の元へ、シトリー眷属の巡さんと花戒さんが慌てた様子で駆け寄って来た。

 

「か、会長!」

 

「巴柄に桃? どうしたんですか? あなた達には東の捜索をお願いしていたはずですが?」

 

「そ、それが、避難民の捜索をしている最中に、あの男が・・・!」

 

「あの男?」

 

「曹操です! 英雄派トップのあの男が一人で姿を現したんです!」

 

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

 

曹操!? 何故あの男がこのタイミングでこんな所に現れたんだ!? まさか、またよからぬ企みを・・・。

 

曹操の目的について考えを巡らそうとしたその瞬間、背後から強烈な殺気を感じ取った。振り返った僕の視線の先で、殺気の主・・・匙君が口を開く

 

「・・・巴柄、桃。本当にあの野郎が出て来たんだな?」

 

「げ、元ちゃん?」

 

「間違い無いかどうか聞いてんだ」

 

「う、うん。聖槍も持ってたし間違い無いよ」

 

花戒さんがそう答えた瞬間、匙君は弾かれた様に走り始めた。その背中を見つめながら、僕はグレモリー城で彼と交わした会話を思い出していた。

 

―――神崎先輩を嵌めた英雄派の連中。そして兵藤を殺したシャルバ・ベルゼブブ。どっちでもいい。もし見かけたらすぐに俺に教えてくれ。俺が・・・ヴリトラの炎で魂まで燃やしつくしてやるから。

 

「匙君!」

 

気付けば僕は匙君の後を追いかけていた。背後から部長が僕の名を叫ぶ。

 

「祐斗!? どうしたのいきなり!」

 

「部長、会長! 匙君は曹操の所に行くつもりです! あの聖槍相手では彼一人では危険過ぎます!」

 

「ッ!? サジ・・・!」

 

匙君、頼むから無茶だけはしないでくれ・・・!

 

祐斗SIDE OUT

 

 

「ふっ・・・!」

 

男の突き出した槍の穂先が魔獣の腹部を易々と貫いた。引き抜く際、魔獣は一瞬だけ体を震わし、地へ伏せた。

 

槍にへばりついた泥の様な血を飛ばし、男は背後にいた女性へと目を向ける。この女性は魔獣に襲われそうになった所をこの男に助けられていた。

 

「あ、あの・・・ありがとうございました!」

 

「・・・礼をいうヒマがあるならさっさと逃げるんだな」

 

頭を下げる女性に対し、男は興味もなさげにそう返した。女性はもう一度頭を下げると、一人燃え盛る街の中を駆けて行った。本来であれば、女性が無事に避難するまでついて行くのが正解だろう。だが、男が女性を助けたのはただの気まぐれであり、これから先あの女性が助かろうが助かるまいが男にとってはどうでもよかった。

 

「気まぐれで悪魔を助ける・・・か。はは、俺は一体何をやっているんだろうな」

 

自嘲する様に薄く笑う男・・・曹操。疑似空間でグレモリー眷属と戦った後、彼は魔獣襲撃で混乱する冥界へ一人足を運んでいた。それは、冥界が崩壊する様子を特等席で見物する為か、それとも、仲間の能力を利用した者への報復の為か。

 

―――否。彼には最早目的など存在していなかった。あの日、真の英雄と呼べる男を結果的に騙し、その上で救われてしまった時から、曹操は全てがどうでもよくなっていた。もしかしたら、あの女性を助けたのも、あの男の行動を模しただけなのかもしれない。「彼ならば、きっと助けただろう」・・・と。

 

「いなくなってなお、その影を追い続ける。神崎君、どうやら俺は相当キミにまいってしまっていた様だ。こんな事を言われてもキミからすればいい迷惑だろうけどね」

 

曹操の人生の中で、ここまで何かに執着した事など一度も無かった。それほどまでに、“彼”という存在に焦がれるのは、やはり“彼”が本物の英雄と称される存在だからだろうか。曹操は自問を繰り返す。

 

「キミを失ったあの日、夢を見たんだ。その夢の中で、俺とキミは英雄として共に戦場を駆けていた。互いに背中を預け合い、どんな敵だって倒してみせた。だから、すぐに夢だって気付けたよ。キミが俺に背中を預けてくれるなんて、万に一つもありえないのだから。あんなに楽しくて、あんなに幸せで・・・あんなに残酷な夢は初めてだった」

 

もっと早く“彼”と出会えていれば、もっと早く“彼”という存在を知っていれば、ひょっとしたらその夢は現実となっていたかもしれない。だが、所詮は可能性、IFでしかないのだ。

 

「この聖槍を持って生まれた以上、俺には英雄になる以外に道は無い。そう思っていた。・・・だが、今なら彼が言っていた言葉の意味がわかる気がする。英雄とは、自ら名乗れる様な安いものでは無い。本当の、真の英雄とは・・・」

 

その時、曹操は不意に背後に人の気配を感じ取った。振り返らずとも、彼にはその気配の正体がわかった。

 

「・・・ゲオルクか」

 

そう言って振り返れば、そこに立っていたのはまさしくゲオルクだった。

 

「急に姿を消すのは止めてくれ曹操。ここまで探すのに随分苦労したぞ」

 

「そいつは済まなかった。それで・・・これから英雄派はどう動くつもりだ?」

 

「それを決めるのはキミだろう」

 

「ふっ、誤魔化すな。既に英雄派のほとんどはお前の下へついているそうじゃないか。まあ、こんな腑抜けより、野心溢れるお前の方へついて行きたくなるのは当然だろうがな」

 

曹操は既に仲間達の心が自分から離れている事に気付いていた。そして、それを再び纏め上げているのが目の前の男なのだという事も。

 

「・・・確かに、英雄派の中には俺を支持してくれている者もいる。だが、それでも俺達のトップは曹操、キミだ。キミがこの組織をここまで大きくしたんだ。キミがこれだけの者を集めたんだ。俺じゃない。キミだから出来た事なんだ。キミという英雄が俺達には必要なんだ。だからこそ、キミには最後まで組織に対する責任があるはずじゃないのか?」

 

「ゲオルク。お前にとって、俺はまだ英雄なのか?」

 

「もちろんだ。他者によって認められ、初めて英雄となるのであれば、曹操・・・キミと出会ったあの日から、俺はずっとキミを英雄だと認めて来たよ。これは俺だけじゃない。英雄派全員の総意だ」

 

「・・・神崎君を嵌めたのも、総意だと?」

 

測る様な口調に一瞬言葉を詰まらせるゲオルクだが、それでも臆せず答えた。

 

「・・・騎士殿の事は済まなかったと思っている。だが、俺はキミに負けて欲しくなかった」

 

「どういう意味だ?」

 

「キミは騎士殿を真の英雄と認め、接触していた。キミからすればそんなつもりではなかったのだろうが、俺達から見れば、戦わずに敗北を認め、擦り寄っている様に見えたのも確かだ」

 

「ッ・・・」

 

曹操が僅かに目を見開く。それを確認し、ゲオルクは続ける。

 

「超常に挑む・・・そう語るキミの姿は眩しかった。以前のキミはまさしく怖いもの無し。何が相手であろうと怯まずに立ち向かうその姿に俺達は惹かれた。俺は・・・そんなキミに戻って欲しかっただけなんだ・・・」

 

「・・・そうか。そうだったのか。結局、全ての元凶は俺だったという事なのか・・・」

 

曹操の中に一つの答えが生まれようとしたその時だった。二人しかいないはずのその場に新たな人物が姿を現した。

 

「曹操ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

祐斗SIDE

 

「曹操ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

今のは匙君の声!? くそ、もう接触したのか! 僕はギアをさらに上げ声のした方へ全力疾走した。

 

数秒後、僕が目にしたのは、匙君と、それに相対する曹操とゲオルクの姿だった。よかった。まだ戦闘は始まっていないみたいだ。しかし、ゲオルクまでいるとはな。巡さん達が見た時は一人だったらしいから、ここに来るまでの間に合流したのかもしれない。

 

「木場祐斗? キミもいたのか?」

 

「僕だけじゃないよ」

 

「サジ!」

 

「元士郎!」

 

「元ちゃん!」

 

「祐斗!」

 

「木場!」

 

他のみんなも追いついた様だ。改めて、全員で曹操達と向き合う。

 

「グレモリー眷属とシトリー眷属が勢ぞろい・・・いや、赤龍帝は既に死んでいるから勢揃いというわけではないか」

 

「曹操ぉ! テメエの、テメエ等の所為で神崎先輩は消えちまった! 兵藤も、テメエ等が呼び寄せたサマエルの毒を食らった上でシャルバ・ベルゼブブに殺された! 許さねえ・・・テメエ等だけは絶対に許さねえからなぁ!!!」

 

「シャルバに関してはこちらも出し抜かれた・・・と言っても納得してくれないだろうな」

 

匙君の殺気を受けても、ゲオルクは動揺も無くそう答える。この時、僕は匙君の怒りにばかり気を取られ、“彼”の事を考えていなかった。

 

「・・・え? どういう事ですか?」

 

ギャスパー君がきょとんとした様子で漏らす。しまった! このタイミングで真実を知ってしまったら・・・!

 

「ま、待ってください! 神崎先輩は!? イッセー先輩は!? あの大きな魔獣を止めに行ってるんじゃないんですか!?」

 

「? キミは知らされていないのか? 騎士殿は禁術により過去とも未来ともしれない時空の彼方へ消えた。そして赤龍帝は俺達が地獄より呼び寄せた『龍殺し』サマエルの毒を受けた状態で旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブと交戦し戦死した。・・・最も、赤龍帝に関してはシャルバが勝手に言っている事だが、サマエルの毒を受けた以上、生存は絶望的だろう」

 

「嘘・・・嘘だそんなの・・・」

 

ギャスパー君の顔から瞬く間に生気が失われて行く。違うんだギャスパー君。イッセー君は間違い無く生きているんだ。だが、今ここでそれを言えば曹操達にも聞かれてしまう。だから、それを話すのは後だ。

 

―――この判断が大きな間違いだったと、僕は数秒後に思い知る事となる。崩れ落ち、顔を伏せるギャスパー君。その顔が上がった時、そこには『無』が広がっていた。

 

「ッ・・・!? ゲオルク!」

 

突如として曹操が聖槍を構えゲオルクの前に立つ。そして次の瞬間、ギャスパー君の口からおぞましい呪詛めいた声が紡ぎ出された。

 

≪―――死ね≫

 

僕達の立つフィールド。それが一瞬で闇に包まれた。地面も、空も、全てが暗闇に支配される。それらの闇は全てギャスパー君の体から生まれていた。

 

「なんだ・・・これは・・・!?」

 

「これは・・・ギャスパー君の禁手なの・・・?」

 

「いいえ違うわ! これは・・・この力はヴァンパイアの・・・」

 

戸惑いと恐怖で混乱する僕達を尻目に、ギャスパー君・・・いや、今のアレをギャスパー君と呼んでいいのだろうか? 闇に包まれた人型が異様な動きで曹操達に近づいて行く。

 

≪ウバッタナ・・・僕ノダイジナ人達ヲウバッタナ・・・。ユルサナイ・・・今度ハ僕ガオ前達カラウバッテヤル・・・!≫

 

「部長・・・ギャスパーは・・・!?」

 

「・・・ヴラディ家がギャスパーを蔑ろにしていたのは神器の所為じゃない・・・。これが・・・この存在を知っていたからこそ家から追い出した・・・?」

 

「くっ・・・!」

 

赤く輝く双眸を向けられたゲオルクが魔法陣を展開しようとするが、次に瞬間には闇に跡形も無く食われてしまった。

 

「ッ・・・!? 馬鹿な!? 魔法も神器も使わず、どうやって我が魔法陣を・・・!?」

 

「止めろゲオルク! 下手に刺激するな!」

 

曹操の制止を聞かず、ゲオルクは距離を取り大量の魔法陣を展開させ、ギャスパー君を攻撃した。だが、それらの攻撃は闇の中に出現した無数の赤い“目”の輝きの前に全て停止させられてしまった。そして、先程と同様、全て闇に食われ消滅していった。

 

≪アハ・・・アハハハ・・・! ウバッタ・・・ウバッテヤッタ・・・。オ前ノ魔法ヲ全部ウバッテヤッタ・・・! 最高ニ・・・最高ニハイッテヤツダァァァァァァ・・・!≫

 

こめかみ辺りを指で押さえながらケタケタと笑うギャスパー君。僕達が知る彼とは言動がまるで違う。もう・・・別の存在といっていいかもしれない。

 

「そ、曹操・・・!」

 

「・・・撤退だ。それしか方法は無い」

 

「この状況で逃げれると思うんじゃねえぞ!」

 

匙君が曹操達を捕えようとその右手に黒い炎を浮かべようとしたその時だった。上空から快音が鳴り響いた。見上げると、闇を通して辛うじて宙に次元の裂け目が生まれようとしているのが確認出来た。

 

その裂け目の中から・・・それは出現した。“それ”を目の当たりにした今日という日を、僕は一生忘れる事は無いだろう・・・。

 

祐斗SIDE OUT

 

 

グレモリー眷属とシトリー眷属が曹操達と遭遇する最中も、ルシファー眷属と『超獣鬼』との戦いは続いていた。『女王』グレイフィアが地形を変えてしまうほどの絶大な力を秘めた魔力を放つ。他の眷属達も、それぞれに強大な攻撃を加え続ける。それでも、『超獣鬼』は倒せない。

 

「くそったれ! いいかげんくたばりやがれこのデカブツが!」

 

「スルト、口を動かす余裕があるなら一発でも多く攻撃しなさい!」

 

「でも姐御! このままじゃ埒があきませんぜ!」

 

「それに、こちらの消耗も無視できないレベルまで来ました」

 

「誇りあるルシファー眷属にあるまじき発言ですね。この戦いが終わったら久しぶりに“勉強会”でも開きましょうか?」

 

「おらテメエ等ぁ! ぶつくさ言ってねえでどんどんぶちかませぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「ちょっ、スルト変わり身早過ぎぃ!」

 

「うっせーベオ! テメエは勉強会の恐ろしさを知らねえからそんな事が・・・!」

 

「グレイフィア!」

 

いきなり名前を呼ばれ、グレイフィアが目を向けると、見憶えのある四人の女性が自分に向かって近づいて来ていた。

 

「あなた達は、神崎様の・・・! どうしてここに?」

 

「加勢しに来たのよ。首都の方はリアス達に任せてあるにゃ。・・・こっちにいれば、“アイツ”に会えるかもしれないしね」

 

「加勢など・・・いえ、今は少しでの戦力が欲しい所です。どうか、お力添えをお願い致します」

 

「ほ、本当にあんな化物と戦うんスか?」

 

「怯むなミッテルト! 我等は神崎様の眷属として、あの方が御帰還されるまで戦い続ける義務があるのだぞ!」

 

「カラワーナの言う通りよ。神崎様の帰る場所は私達で守るのよ!」

 

「・・・そうッスね。はい! すみません! ウチも覚悟出来ました!」

 

「やれやれ、世話が焼け・・・危ない!」

 

黒歌がミッテルトを抱きかかえその場を離脱する。一瞬の後、そこを緑色の光線が通り過ぎて行った。

 

「今のは・・・!?」

 

「ッ! あそこだ! 『超獣鬼』の顔の辺りを見ろ!」

 

全員が『超獣鬼』の顔へ目線を向ける。周囲の空間が歪み、そこから無数のロボットらしき物が姿を現した。百や二百ではきかない数だ。そのロボットに黒歌達は見憶えがあった。

 

「あれは・・・間違い無い。皇帝機にゃ!」

 

「という事は・・・まさか!?」

 

「くははははは! ごきげんようルシファー眷属の諸君!」

 

一機の皇帝機が前に出て来る。誰もがその声の正体に気付いた。

 

「シャルバ・ベルゼブブ・・・!」

 

「どうかな、私の用意した毒は? これこそが、悪魔の歴史に終止符を打つ最終兵器だ!」

 

「あなたのやっている事は冥界の・・・悪魔社会への不当な暴虐です。速やかに投降しなさい」

 

グレイフィアの降伏勧告に対し、シャルバはビームでもって返答した。

 

「何が降伏だ! 最早この『超獣鬼』を止める者など存在しない! フューリーは消え、赤龍帝は死んだ! このままリリスを破壊し尽くしてやる。貴様等の守ろうとする物がどれほど無価値な物か、思い知るがいい!」

 

「はっ、ご主人様がアンタ達みたいな三下ごときにやられるわけがないじゃない。今度は許されると思うんじゃないわよ。精々覚悟しときなさい」

 

「黙れ雌猫風情が! フューリーよ! 私はここだぞ! 戻れるものなら戻って来るがいい! はは、はははは、あひゃひゃひゃひゃ!」

 

シャルバが高笑いをあげると同時に―――黒歌達の耳にその音が聞こえて来た。次元が裂ける時特有の快音。それは、都市と『超獣鬼』との丁度中間位置から鳴っていた。

 

「何だ・・・?」

 

「見ろ! 何かが現れるぞ・・・!」

 

次元の裂け目から飛び出して来たモノ―――それは紅き偉大なるドラゴン。『真なる赤龍神帝』グレートレッドであった。突然現れた世界最強の存在に目を見開く一同。

 

「な、何故今グレートレッドが・・・」

 

誰もがグレートレッドの姿に目を奪われる。・・・その中で一人、違和感に気付いた者がいた。

 

「・・・グレイフィア様」

 

「どうしましたマクレガー?」

 

「次元の裂け目が閉じません・・・それどころか先程よりも大きさを増しています」

 

グレイフィアは改めて次元の裂け目に目を向けた。・・・確かに、グレートレッドが飛び出して来た時よりも大きさが増している様に見える。さらに、変化はそれだけでは無かった。

 

「・・・何かが噴き出している?」

 

裂け目の向こうからこちらの世界に噴き出して来ているもの・・・それは、深く、おぞましい“闇”だった。その“闇”が次元の裂け目を侵食し、結果、裂け目は大きさを増していたのだ。

 

「まさか・・・グレートレッドはあの“闇”から逃げようと・・・?」

 

だとすれば、あの向こうにはグレートレッドすら逃げ出すほどの“ナニか”が存在していて、それが今にもこちらの世界へ出て来ようとしているという事なのだろうか。グレイフィアは無意識に体を強張らせていた。

 

「・・・来る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その瞬間、首都リリス周囲にいた全ての者達が“ソレ”を見上げた。遠く離れ、直接目にしない者達は、“ソレ”の方向に向かって目を向けた。悪魔・・・いや、冥界に存在する全ての命あるモノが“ソレ”の存在に気付いたのだ。ギリシャから呼ばれた屈強な戦士達や、ヴァルハラの美しきヴァルキリー部隊も例外では無い。戦闘中であるにもかかわらず、戦う手を止め、“ソレ”に意識を奪われる。

 

“ソレ”は人々の前にゆっくりと姿を現した。闇と交じり合ったかのごとく、どこまでも冥い青き鎧。血に彩られたかのように鈍く輝く赤き双眸。背中に浮かぶ光輪から放たれる光は、神々しさとは真逆の禍々しさに満ち溢れていた。

 

「あ・・・ああ・・・!」

 

ある者は恐怖で崩れ落ち。

 

「御覧なさい! 冥界の危機に、あの方が再臨されました!」

 

またある者は“ソレ”を見て笑いながら涙を流す。

 

「リョーマ・・・さん・・・?」

 

そして、またある者は自らの愛する者が帰還した事に気付いた。

 

歴史家達により、後に「魔神が生まれた日」と名付けられたこの事件は、「鋼の救世主」と共に冥界の歴史において永久に語り継がれる事となるのであった。




途中でBLっぽくなってしまいましたが、書きたい所まで書けてよかったです。

シャルバ「やーい! 来れるもんなら来てみろーい!」

魔神「呼んだ?」

シャルバ「ファーーーーッ!?」

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