ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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ワイ、ムーンデュエラーズをプレイしての感想

おお、いきなり先生の戦闘シーンを見れるとは!

グランティードってこんなにカッコ良かったっけ?

カルビ姐さん、相変わらずヒスってるなぁ・・・。

トーヤ、そこ代われ←今ここ

・・・見事にJ組だけの感想になってしまった。


第百六十七話 痛み

次元の裂け目より闇を纏いながら姿を現したナニか。戦場を一瞬で凍りつかせ、誰も彼もがあらゆる行動を停止した。『超獣鬼』すらも歩みを止め、“異形”へと目線を送っていた。戦場においてそれが愚行だと頭ではわかっていても、本能の内から湧き上がる“感情”がグレイフィア達の体をその場に縫いつけていた。

 

その感情とは・・・即ち“恐怖”以外の何者でも無かった。魔王眷属ほどの実力者でありながら・・・実力者であるからこそ、あの“異形”の異常さが理解出来た。出来てしまったのだ。

 

“異形”は何かを探す様に辺りを見渡し始めた。そして、その血の様に紅い目がグレイフィア達を捉えた。

 

「・・・!?」

 

その瞬間、グレイフィアの頭が、体が、魂が、細胞の一片に至るまで、彼女を構成する全てが“異形”に屈した。次元が、桁が、レベルが、格が、ランクが違う。いや、自分達と比べる事すらおこがましい。もしこの瞬間、アレが少しでも力を振るえば、自分達は皆等しく“死”を迎えるだろう。目を合わせただけで、グレイフィアにはそれがわかってしまった。後に彼女が聞いた話によれば、この時、“異形”を直視した戦士達の中には気絶した者も少なくなかったという。

 

「・・・んだよ、アレ・・・」

 

ルシファー眷属一の武闘派で、どんな敵が相手でも真っ先に突っ込んで行くほどの豪快さを持つ『戦車』、スルト・セカンドが戦慄した様子で言葉を発した。

 

「・・・私の中の妖怪達がざわめいています。抑えておかないと今にも逃げてしまいそうだ・・・」

 

ルシファー眷属の『騎士』、沖田 総司。彼はその体に数多の妖怪を巣くわせている。その妖怪達があの“異形”から逃げようと体から溢れ出ようとしていた。この様な事は初めてですと続ける沖田の額には汗が滲んでいた。

 

「シャルバ・ベルゼブブ! アレもテメエの差し金かぁ!」

 

『兵士』であるベオウルフが怒鳴るようにシャルバへ問いかける。

 

「し、知らん。あんな・・・あんなモノ、私は知らん!」

 

だが、返って来たのは否定の言葉だった。その声は明らかな恐怖と戸惑いが混ざっていた。

 

「では、アレは一体・・・」

 

正体不明の蒼き異形。だが次の瞬間、グレイフィアは信じられない言葉を耳にした。

 

「・・・ご主人様?」

 

「え・・・?」

 

震える声で主の名を呼んだのは黒歌だった。同じく、彼女と同じ眷属であるレイナーレ達もそれに追随する。

 

「・・・わかる。ウチにもわかるっす」

 

「駒が・・・あの方から賜った駒が私にそうだと言っている」

 

「間違い無い。あの方は・・・!」

 

「「「「ご主人様(神崎様)にゃ(よ)(だ)(っす)!!!」」」」

 

声を揃えて叫ぶ四人に、グレイフィアは耳を疑った。あの蒼き異形が神崎様? ありえない。アレは断じて騎士等では無い。アレは・・・あの姿は・・・。

 

「魔・・・神・・・」

 

グレイフィアは絞り出す様に異形をそう呼んだ。これ以降、異形の名は魔神で統一される事となる。

 

「ご主人様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

黒歌の叫び声に反応したかのように魔神が動き始めた。グレイフィア達()ゆっくりと近づいて来る魔神を前に無防備な姿を晒していた。魔神の放つプレッシャーは未だ彼女達を縛りつけていた。それは魔神からの重圧を感じ取れるからこそだ。

 

ならば、それを感じ取れない者達の行く末は? 答えは・・・“破滅”だった。

 

動きを見せた魔神に対し、量産型皇帝機が一斉に砲撃を放った。百をゆうに超える緑色の光線が魔神を貫かんと迫る。しかし直撃の間際、それらは影も形も無く消滅してしまった。

 

「なっ・・・!?」

 

目を疑う光景に絶句するグレイフィア。量産型皇帝機達は尚も砲撃を続けているが、それら悉くが魔神に届く寸前で消滅する。

 

「・・・まさか、吸収しているのですか?」

 

『僧侶』マグレガーの呟きをグレイフィアは聞き逃さなかった。

 

「どういう意味ですマグレガー?」

 

「あの魔神の背後に浮かぶ光輪をご覧ください」

 

言われるままにグレイフィアは魔神の光輪に目をやる。その光は先程よりも強く、禍々しさを増していた。マグレガーは言う。あの魔神は量産型皇帝機達の攻撃を吸収し、あの光輪にエネルギーを溜めているのではないか。そして、溜めているという事は当然それを放出するつもりであり、あれほどのエネルギーを全て解き放てばどれほど威力となるか、想像に難くない・・・と。

 

砲撃が無駄だと理解したのか、量産型皇帝機達は剣を手に魔神へと向かう。背中に付けられたブースターによる推進力は、見る者によっては瞬間移動したかと思わせるほどの爆発的な速度を生み出す。だが、だがしかし、()()()()魔神にとっては何の脅威にもならないのだと量産型皇帝機達は最期の瞬間まで理解出来なかった。

 

魔神を斬り伏せんと挑んだ量産型皇帝機達。その全てが一瞬で地へ伏せた。一定距離まで近づいた者から、見えない何かに叩きつけられたかの様な勢いで大地へ落下していくのだ。その姿は、愚かにも魔神へと剣を向けた自分達を許して欲しいと命乞いをしているかのようにも見えた。

 

しかし、その嘆願を魔神は聞き入れなかった。百を越える量産型皇帝機達は一機残らず圧壊。大地に転がる鉄屑と成り果てた。僅か数十秒の間に起こった悪夢の様な光景に誰もが顔を青ざめさせた。これが本当に夢であったらどれほど幸せであっただろうか。

 

「空間・・・。いや、あの不自然に陥没した地面・・・まさか、重力を操った・・・?」

 

一人冷静にいま起きた出来事を推察するマグレガー。ひょっとしたら冷静であろうと努めているだけなのかもしれないが、今のグレイフィアにはそれがありがたかった。傍に冷静な者がいれば、自分も取り乱す事は無い。

 

「ば、馬鹿な・・・我が皇帝機軍団がこうも簡単に・・・」

 

秒殺された配下達の姿に慄きの声を発するシャルバ。アレは自らの未来の姿を暗示しているのではないか・・・。そんな風に思ってしまった自分を叱責するシャルバだった。

 

(な、何を弱気な。まだ私にはこの『超獣鬼』がいるではないか。ルシファー眷属すら止められぬ最強の怪物。コイツがいる限り私に敗北は無いのだ!)

 

『超獣鬼』の額を撫で、シャルバは幾分か気分を落ち着かせた。

 

そして、邪魔者が消えた事により、ついに魔神はグレイフィア達から数メートルの距離まで辿りついた。グレイフィアがそれ以上近づかないように言うと、アッサリと魔神はそれに従った。

 

「ご主人様・・・なんだよね?」

 

待ちきれなくなった黒歌が魔神に向かって声をかける。その問いかけから数秒を経て、魔神は初めて言葉を発した。

 

「・・・久しぶりですね、黒歌。それにレイナーレさん達も。元気そうで何よりです」

 

名前を呼ばれ、自分達の予感が正しかったと喜びを爆発させる黒歌達。だからだろうか。その()()()に気付かなかったのは。

 

「マジかよ。これが本当にあのフューリーだってのか?」

 

「・・・信じられませんね」

 

「だ、だよな。フューリー殿の鎧ってこんなラスボスっぽいヤツじゃなかったもんな」

 

そんな黒歌達とは対象的に、ルシファー眷属に広がるのは疑惑と戸惑いだった。直接会話をした事は無いが、彼等もフューリーの事は知っていた。スルト達の中でのフューリーは正しく英雄であり、自分達の主も懇意にし、さらにその御子息はファン。そして妹君の将来の婿候補だった。そんな人物が、魔神となって自分達の前に姿を現したその理由がわからなかった。

 

「申し訳ありません、神崎様。差し支えなければお顔を拝見させて頂いてよろしいでしょうか。そうしなければこの者達も安心出来ない様なので」

 

「ええ、構いませんよ」

 

魔神の頭部が一瞬で消え、男性の顔が露わになる。それを見た黒歌達が目を見開く。

 

「おや、どうしました黒歌?」

 

「ご、ご主人様、髪の色がおかしいにゃ・・・!?」

 

黒歌達の知る主の髪色は鮮やかな蒼色だ。しかし、目の前の青年の髪の色はどう見ても()()だった。

 

「ん? おや、本当ですね。これも“博士”と一つになった影響ですかね」

 

「は、博士? 神崎様、一体何の話を・・・?」

 

「すみませんねレイナーレさん。今は詳しく話している暇は無いのです。・・・グレイフィアさん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「な、何でしょう?」

 

どうにも胡散臭・・・得体のしれない雰囲気を醸し出す亮真に、グレイフィアは若干の緊張を覚えた。

 

「サマエル。もしくはシャルバ・ベルゼブブ。この二名がどこにいるかご存知でしたら教えてくれませんかねぇ」

 

「サ、サマエルは恐らくハーデスと共に冥府にいるでしょう。シャルバ・ベルゼブブでしたら丁度あそこに・・・」

 

グレイフィアがシャルバを指差す。奇しくもこの時、シャルバもまた魔神の中から現れた人物の素顔を目にした。そう・・・目にしてしまった。

 

シャルバを見つめる亮真。その顔が狂気と清々しさの混ざった歪んだ笑みへ変わる。その表情は、亮真の世界で“オリジナル笑顔”と呼ばれているものだった。

 

ミ ツ ケ タ。

 

その瞬間、シャルバはその場から全速力で逃げ出した。冥界を滅ぼすという目的も、『超獣鬼』を従えているという余裕も、あの笑顔の前に一瞬で消え失せた。皇帝機の中、涙と鼻水を垂れ流し、股間を濡らし、恥も外聞も無く、シャルバは逃げた。

 

(逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される逃げなければ殺される!!!!!!!!)

 

「ご主人様、シャルバが逃げるにゃ!」

 

「逃がしませんよ」

 

再び魔神の仮面を被り、シャルバを追い掛けようとする亮真。しかし、その行く手を遮るように、『超獣鬼』の体から、小型、中型の魔獣が大量に生み出された。

 

「無駄に数ばかり多い・・・まるで“戦車級”ですね。ですが、このネオ・ラフトクランズの前では、数など無意味だと教えて差し上げましょう」

 

音も無く、魔神はその場から垂直に上昇を開始した。『超獣鬼』の顔と同じ高さまで移動した所で、グレイフィアは魔神の胸部が不気味な発光を開始した事に気付いた。

 

「ッ・・・! 全員、後方に退避しなさい!」

 

ほぼ反射に近い形で、グレイフィア達は逃げるようにその場から後退した。直後、彼女達は魔神の力の一端をその目に焼き付ける事となる。

 

「―――O・ワームスマッシャー」

 

突如として空間に出現した“穴”。そこからおびただしい数の緑色の光の槍が発射され、魔獣達を貫いて行った。

 

貫かれた魔獣達の体に異変が始まる。光の槍が突き刺さった部分から緑色の結晶が精製され、魔獣の体を包み込んだ。全身を完全に取り込みなお結晶はその大きさを増していき、ついには別の魔獣の結晶と融合していく。そうして全ての魔獣が結晶に取り込まれる頃には、『超獣鬼』の顔に匹敵するほどの巨大な結晶の塊が完成していた。

 

「見事なオルゴン結晶ですね。これを破壊するのは少々勿体無い気もしますが・・・」

 

本気でそうは思っていないであろう魔神が右手を突き出すと、またしても“穴”が出現し、魔神はその中から何かを引っ張り出した。

 

「剣・・・?」

 

それは巨大で分厚い剣だった。魔神はその剣を構えると、何と結晶に向かって投擲した。いや、投擲などという生易しいものではない。それは“射出”と呼べるほどの凄まじい速度で結晶に突き刺さった。

 

甲高い音と共に、結晶が砕け散った。それは、内部に取り込まれていた魔獣達も砕け散った事を意味する。またしても魔神は圧倒的な数の差を呆気無く覆してみせたのだ。

 

その音は、遠く離れたシャルバの耳にも届くほどの大きさだった。何事かと振り返ったシャルバは地面に落下して行く数多の結晶を見て魔獣達がやられたのだと察した。

 

「もっとだ。もっと遠くに逃げなければ、私も魔獣達の様に・・・」

 

「―――どこへ逃げるおつもりですか?」

 

「ヒュッ・・・!?」

 

シャルバがそれを理解するのに数秒の時間を有した。自らの前に立ち塞がる者。それは遥か後方にいたはずの魔神だった。

 

「また会いましたね、シャルバ・ベルゼブブ」

 

「ど、どうし・・・貴様・・・」

 

「この程度、ネオ・ラフトクランズには造作も無い事です。時間も空間も、全ては私の意のままなのですから」

 

それが誇張でも何でも無い事はたった今目の前で証明された。シャルバは理解した。最早自分に逃げ場所は無い。どこへ行こうと、この魔神は必ず追いついて来ると。

 

「話は兵藤君から聞きました。私がいない間に随分好き勝手されたようですねぇ。是非とももう一度お会いしてお礼をしたいと思っていたのですよ」

 

死刑宣告にも等しいその言葉に、シャルバの精神は限界を迎えていた。何故、どうして自分ばかりこの様な目に遭うのだ。自分はただ、()()()()()()()を始末しただけなのに。

 

最早自分の仕出かした事の大きさすらわからなくなっていたシャルバ。今はただ、自分の身に降りかかる理不尽を嘆き、憎む事しか出来なかった。

 

「・・・れ」

 

「何ですか?」

 

「黙れ黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!! 私はシャルバ・ベルゼブブ! 正当な血を引く真のベルゼブブなのだぞ! 正しいのは私だ! 間違っているのは冥界なんだ! 下等共は黙って私の言う事を聞いていればいいのだ! それを、貴様や赤龍帝の様なクズごときが邪魔をしていいと思って―――」

 

瞬間、シャルバの腹部に向かって黄金の光の槍が放たれた。皇帝機の装甲を紙屑の様に貫通し、そのままシャルバ自身の腹へ深々と槍が食い込んだ。

 

「ぎゃ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

「別に私の事を罵りたいのならば好きになさい。ですが兵藤君を・・・私の自慢の後輩をクズ呼ばわりして欲しくはありませんね」

 

冷たく言い放つ魔神だが、シャルバはそれどころでは無かった。激痛にもがきながらありったけの声で絶叫する。

 

「血が! 死ぬ! 死んでしまう!」

 

「死ぬ? そんなはずありません。あなたは()()()()()()()()()はずですよ?」

 

「ふざけるな! たった今貴様が・・・!」

 

そこでシャルバは気付いた。今の今まで自分を襲っていた痛みが全く感じられなくなっていた事に。

 

「な、何故だ。確かに今私は貴様に・・・」

 

シャルバは混乱していた。まさか、あまりの恐怖に幻痛を感じてしまったとでもいうのか。

 

「ククク、どうしました? 言いたい事があるのならばハッキリおっしゃったらどうです」

 

「その上から目線を今すぐ止めろフューリーィィィィィィィィ!!!」

 

この時、シャルバは選択を間違えた。本当に助かりたいのならば、何もかも投げ捨てて許しを請うべきだった。

 

「フ・・・愚かな」

 

「ガッ!?」

 

シャルバの全身を見えない何かが絞め上げる。その力は皇帝機を容易く圧壊させ、シャルバの骨を砕き、内臓を押しつぶした。

 

「世界の根本的な力は四つあります。重力、電磁力、強い力、弱い力の四つです。この中で、重力はもっとも非力です。ですが、その非力な重力ですら、制御すればこうしてあなたの体を破壊する事は容易なのですよ」

 

「あ・・・が・・・止め・・・」

 

「痛いですか? 苦しいですか? ですが・・・兵藤君はもっと辛かったはずですよ」

 

シャルバの意識が消える直前、彼の体は不可視の力から解放された。さらに、全身を襲っていた痛みが消え、破壊されたはずの皇帝機を纏った状態でその場に浮かんでいた。まるで数秒前に巻き戻されたかのような錯覚を覚え、シャルバはまたしても幻痛に襲われたのかと考え、すぐさまそれを捨てた。

 

(アレは幻痛等では無い。確かに私は骨を砕かれ、内臓を破壊されたはず。・・・まさか、フューリーが私を・・・?)

 

シャルバにはそうとしか考えられなかった。では何故フューリーは敵であるはずの自分を()()()()のか。それが決して善意によるものではない事は辛うじてシャルバにはわかった。

 

「どうです? 理不尽に痛めつけられる気分は? その痛みは、あなたが兵藤君に・・・あなたがこれまで傷付けて来た全ての人達に与えて来た痛みです」

 

「痛・・・みだと・・・」

 

「私は理不尽に痛みを撒き散らす者を決して許しません。あなたが自らの仕出かした罪を自覚するまで、私があなたに痛みを与え続けます。何度も、何度でもね」

 

魔神の宣言に、シャルバは先程の疑問の答えを得た。()()()()()()()()()()()()()。だからこそ、魔神は自分を治療したのだと。それはつまり、シャルバの命は既に魔神に握られているという事だ。

 

「何という・・・何という傲慢さだ・・・」

 

「おやおや、あなたがそれを口にするのですか。・・・あなたが何を思い、何を望んで冥界を攻撃したのは知りませんし知りたいとも思いません。ですが、私の友人達を巻き込んだのは断じて許せません」

 

魔神の手に剣が握られる。それは先程魔獣の結晶に向かって投げたはずの物だった。

 

「いきますよ蠅の王。SAN値の貯蔵は十分ですか?」

 

そこから繰り広げられたのは、魔神による一方的な蹂躙だった。剣が、光の槍が、重力が、休む間も無くシャルバを襲い続けた。しかし次の瞬間、その傷も痛みも癒える。

 

シャルバは耐えた。耐えようとした。この男は自分を殺すつもりは無い。ならば今は耐えてチャンスを待つのだと。

 

しかし、死ぬ事は無いというシャルバの考えは、いつしか()()()()()()()()()()へと掏り替わっていた。止めてくれ、もう治さないでくれ。もう・・・もう死なせてくれ。何度心の中でそう思っても、魔神がそれを聞き届ける事は無い。

 

何十回目かの治癒が施された所で、魔神がシャルバに言った。

 

「・・・もう充分な様ですね。これで終わりにしましょうか」

 

ああ、やっと楽になれる。シャルバはようやく訪れた安らぎを前に両手を広げて喜びを表現した。そして、自らの胸に剣が突き刺さったのを見届けた所で、シャルバの意識は闇へと沈むのだった。

 

 

 

 

グッタリとするシャルバを抱え、魔神は剣を仕舞った。死んだように動かないシャルバだが、治療は既に施してある。おそらく気絶してしまったのだろう。

 

その場から動かない魔神。その場には彼一人しかいない。にも拘らず、魔神は誰かに語りかけ始めた。

 

「・・・博士。あなたの言われるままにやりましたけど、これはちょっとやり過ぎじゃありませんか? え? これでもまだ生温い? 勘弁してください。あれ以上は私の精神が持ちません・・・」

 

おおよそ似つかわしくない、ひどく疲れた様な声を発する魔神。しかし次の瞬間、その声に力が戻る。

 

「ええ、わかっています。まだサマエルが残っています。それに・・・アレも何とかしないといけませんからねぇ・・・」

 

そう言って振り返る魔神。その視線の遥か先に捉えるのは、進撃を再開した『超獣鬼』の姿・・・そして。

 

「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その『超獣鬼』と同じサイズに巨大化し、今まさに『超獣鬼』へ殴りかかろうとしている後輩の姿だった。

 

「・・・なぁにあれぇ・・・」




シャルバへのお仕置き完了。次回は今回の分と合わせた主人公SIDE、もしくはイッセーSIDEの話になると思います。

それと、宣伝になって申し訳ありませんが、新しくISの二次を書きはじめました。良ければ御一読していただけると嬉しいです。

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