ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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お久しぶりです。



第百七十六話 自分らしく誇らしく

 サーヴァ・ヴォルクルス。地底世界、ラ・ギアスに存在した破壊神。長い間複数の封印がかけられていたがとある事件にてその封印が解かれ、最終的に完全に目覚めることになった。

 

 その姿は子どもが見たらトラウマ確実なほど醜悪で、上半身と下半身はそれぞれ独立して行動出来たりする。肉片が一欠片あればそれから全身を復元して数を増やしたり、人間相手に暗示をかけて支配したりと滅茶苦茶な存在である。博士もヴォルクルスに目をつけられた一人だったが、トンデモな方法で支配を抜け出し最終的に仲間達、そして因縁のあった”彼”と共にボコボコにして報復を完遂させた。というか、場合によってはお一人で倒しちゃうんだよな博士……。

 

 ざっと思い出すとこのくらいかな。どうですかね博士。というか、アレって以前の皇帝機みたいにもしかしなくても俺がこの世界に来た影響で生まれたんですかね?

 

『ええ、おおむね間違いありません。そして、あなたがおっしゃったように、あの邪神の紛い物はあなたという存在が生んだもので間違いないでしょう』

 

「馬鹿な、あの怪物がペルセポネ妃だというのか?」

 

 そんな感じで博士と脳内会話をしている俺の耳に、愕然とした様子のサーゼクスさんの声が届いた。そういえば、ハーデス神も我が妻とか言ってたな。

 

『ギリシャ神話の女神の一柱ですね。花を咲かせ、また花に彩を与える権能を持つ女神で、ハーデスに見初められ彼の妻になりました。ペルセポネという名もハーデスに与えられた名で、元の名はコレーです』

 

 流石博士。説明ありがとうございます。

 

「おいおい。ペルセポネっつったら冥府の美花、死者の国の至宝とか言われるほどのすんげー美女神だぞ。俺もかつて一度しか姿を見た事ねえが、間違ってもあんな化け物なんかじゃなかったぞ」

 

「キミの言うとおりだアザゼル。だが、ある時を境にペルセポネ妃は姿を消し、表舞台に現れる事は無くなったという。あの怪物と何か関係があるのか……?」

 

 サーゼクスさんがポツリとこぼしたその言葉に対し、一番近い距離にいた死神が射殺さんばかりの目をこちらに向けてきた。肩が震えているのを見るに相当怒っているようだ。

 

≪ふざけるな! 関係も何も、ペルセポネ様をあのような姿にしたのは貴様等だろうが!!≫

 

「何……!?」

 

「おい、どういう意味だそりゃ」

 

≪魔王である貴様がしらばっくれるか! どこまで……どこまでハーデス様とペルセポネ様を愚弄する気だ!≫

 

≪控えよ!≫

 

 最早我慢ならないとばかりに鎌を振り上げる死神達だったが、背後から近づいてきたハーデス神に一喝で動きを止める。

 

「ハーデス殿、そちらの彼が言った事は……ペルセポネ妃に何があったのですか?」

 

≪今更説明せずとも全て承知のはずではないのかな?≫

 

「知らねえから聞いてんだよ。まさか、『禍の団』の悪魔が何かしでかしたのか?」

 

≪ふん、あんな木っ端共にしてやられる我等ではないわ。我が妻、ペルセポネがあのような姿へ変貌したのは、かつて冥府に堕ちて来た存在に飲み込まれた事が原因だ≫

 

「飲み込まれた?」

 

≪それは我等の前に堕ちて来た途端、周囲に漂っていた死者の魂、果ては神殿そのものを次々と吸収し始めたのだ。止めようとしたこちらの攻撃すらものともせずにな≫

 

 そして、いよいよハーデス神にその手が伸びようとした瞬間、身を挺して庇ってくれたのがペルセポネさんだった。ハーデス神の目の前で飲み込まれた彼女の最後の表情は……笑顔だったそうだ。

 

≪女神である妻を取り込んだ事で、十分に力を蓄えたのだろう。肉の塊のようだったヤツは巨大化し、姿を変えた。それがアレ……”リリスの肉片”を核に、あらゆるものを飲み込み際限無く成長する。それがあの怪物の正体だ。あの時、ペルセポネを失った我の前に飄々と現れた羽つきが楽しそうに語ってくれたわ≫

 

「”リリスの肉片”……おい、サーゼクス。んな悪趣味極まりないネーミングセンスのものを送りつけてかつ自らやらかした場所に見学に来る様なイカレ野朗なんざ一人しかいねえ気がするんだが」

 

「同感だ。最近目立った活動をしていないと思ったら裏でこの様な非道を働いていたとはな」

 

 どうやらサーゼクスさんとアザゼル先生にはペルセポネさんをあんな風にした犯人に心当たりがあるみたいだ。

 

≪冥府の王として、我はアレを消滅させるべきだった。我にはそれが可能だった。……だが、ペルセポネはどうなる。地上から連れ去った我を愛してくれ、不毛な大地が広がる冥府に花を咲かせ、我の、死神達の光となってくれた愛しき妻に何の罪がある! だから我はアレを封印し、その上に神殿を移したのだ。それを、その封印を、貴様等が解いたのだ!≫

 

「何故それを黙っていたのですか。相談……いえ、抗議という形でもよかったので伝えていただければ私達も……」

 

≪貴様等羽つきなど信用できるか!≫

 

 ……そうか、ハーデス神もまた大切な相手を理不尽に奪われた。”痛み”を与えられた側だったのか。

 

『どうしました。まさか同情したのではありませんね?』

 

 違いますよ。

 

 博士の問いに俺は異を示す。むしろ余計腹が立つわ。つまりハーデス神は”痛み”を知った上でそれを他者に与えていたのだから。

 

 罪? お前等が命を奪った相手はみんな罪があったってのか? 

 

 愛しき? 殺された人にも愛する、愛される相手がいたはずだぞ?

 

≪……もうよい≫

 

 怒りから一変。諦めのこもったため息と共にハーデス神はヴォルクルスもどきへ顔を向けた。叫び声をあげてから今まで、ヴォルクルスもどきは特に動き出しそうな気配は無い。逆にそれが不気味ではあるが。

 

≪もう封印は出来ん。アレはこのまま冥府の全てを飲み込むだろう。その次は貴様等だ羽根つき。冥界も天界も人間界も、全てはアレの餌に過ぎんのだからな≫

 

「ハーデス殿。ペルセポネ妃と運命を共にする気ですか!?」

 

≪何故驚く? むしろ我の消滅は貴様等にとっては望むところであろう? さっさと去ね。まあ、逃げたところで無駄だろうがな。ファファファ!≫

 

 ブチッ!

 

「神崎君?」

 

「おい、何を……?」

 

 俺は無言でサーゼクスさん達の間を抜け、そのままハーデス神の前に立つ。そして、思いっきり顔面を殴りつけてやった。

 

≪がっ!?!?!?≫

 

≪≪≪ハ、ハーデス様!≫≫≫

 

もう無理。限界。これ以上こいつにしゃべらせたくないわ。地面に転がるハーデス神の胸倉あたりの骨を掴んで持ち上げる。

 

≪き、貴様! ハーデス様に何を!≫

 

「―――黙ってろ」

 

≪ひっ……!≫

 

 騒ぎ出す周囲を睨んで黙らせる。この時、プッツンしていた俺は口調が戻っている事に気づいていなかった。

 

「殴れられた気分はどうだ、ハーデス神。いや、卑怯者」

 

≪何……を……≫

 

「命を奪い続けてきたお前が、簡単に命を投げ出していいと思ってるのか。お前が死にたいと思っている”今”は、お前達に命を奪われたみんなが生きていたかった”今”なんだぞ。死んで楽になどさせん。お前は生きて責任を果たし続けろ」

 

≪黙れ! 貴様に命について説教をされる理由は無い!≫

 

 激昂し俺の腕を振り払おうとするハーデス神。その時、背後からアザゼル先生が何かを呟くように発した。

 

「……あるさ。この場でただ一人、フューリーにはその権利も理由もある」

 

≪どういう意味だ?≫

 

「ハーデスさんよ。アンタ、今までに失った部下の名前、全員覚えてるか? そいつらが最後に遺した言葉、一字一句覚えてるか?」

 

≪……≫

 

「そいつはな、全部覚えてんだぜ。かつていた世界で共に戦った者、戦いの中で失った者、そして……救えなかった者。味方も敵も関係無く、自分が関わった者達全てを、決して忘れる事無く今もその胸に刻み続けているんだぜ。ただ自分達はそういう存在だとしか答えないあんた等とは命に対する想いがまるで違う」

 

 ……え、ナニソレ。僕、そんな事一言も言ってないんですけど!? はっ、まさかミリキャス君!? ミリキャス君なのか!? 俺、そんな某エレガントさんみたいな記憶力持ってないですけど!?

 

「わかるか? 今のアンタは死者をさらに冒涜している。殴られるのも説教されるのも当然だ」

 

 いや、今はそんな事どうでもいい。アザゼル先生の言うとおりだ。けど、俺にはもう一つ、許せない事がある。

 

「ハーデス神。ペルセポネさんは死んだのか?」

 

≪……あの羽根つきは生きてはいるとは言っていた。だが、妻という”個”はすでに存在せず、アレを構成する”群”の一つになっているとも言っていたが≫

 

「ならば何故助けない。生きているのならば取り戻せるはずだ」

 

≪出来るのならばやっておるわ! だが、今言った通り、ペルセポネという”個”は既に存在しないのだ! 存在しないものをどうやって助けろというのだ!≫

 

 それこそ、当時のサーゼクスさんに相談すればよかったんだ。それが無理なら他にも相談する相手はいただろう。

 

「本当にペルセポネさんを助けたかったら手段なんか選んでる場合じゃなかった。お前は結局、ペルセポネさんへの愛より自分のプライドを優先させただけだ」

 

≪ッ……!≫

 

 俺は当時の事を何も知らない部外者だ。だからこれもただ自分の考えを押し付けているだけ。それでも言わずにはいられない。俺と違ってハーデス神にはまだ()()()()()可能性があるのだから。

 

 そうだ。まだ間に合う。彼女の命が消えていないのならば、救えるのだ。

 

『……助けるのですか? あなたに”痛み”を与えようとした報復相手のために』

 

 違いますよ。間違ってもハーデス神のためなんかじゃありません。とりあえず後でもう一発殴ろうと思ってますし。

 

『では、何故ですか?』

 

 だって……ペルセポネさんは今回の報復に関係ないじゃないですか。俺はこいつ等とは違います。俺は、目の前の命を諦めたくない。”傷み”の広がりを黙って見ているつもりはない!

 

『……やれやれ。ここまで徹底していると最早尊敬の域ですね。いいでしょう。元よりあなたの行動を咎めるつもりはありません。あなたはあなたの自由になさい。それに、誰もが助けられなかった彼女をいきなり現れたあなたが助け出す……自分達の無力さを思い知らせるという意味ではこれも報復になりますね』

 

 いや、そんな事欠片も思ってませんからね!?

 

『冗談ですよ。それで、助けると言いますが方法はあるのですか?』

 

 要はあのヴォルクルスもどきからペルセポネさんを切り離せばいいわけですよね。だったら『復活』を使って”群”から”個”に戻して助け出せばいけると思うんですけど。

 

 例えるならあのヴォルクルスもどきはぐちゃぐちゃに混ざり合った絵の具だ。その中からペルセポネさんという色だけを取り出す。俺にはそれが出来るはずだ。

 

 考えを伝えると、博士は関心したような声色で答えてくれた。

 

『ククク。こと”助ける”という事に関してのあなたの頭の回転の良さは目を見張るものがありますね。てっきり私に案を求めてくると思っていたのですが』

 

 じゃあ。

 

『それで大丈夫でしょう。残す問題はアレの動きを止める事ですね。今は大人しいですがもう数分もかからず動き出すと思われます』

 

 それこそ大丈夫です。俺には頼りになるみんながいますから。

 

「黒歌。それにみなさん。ペルセポネさんを助けるために力を貸してもらえませんか」




このオリ主なら報復より人助けを優先するかなと思いこんな感じになりました。なお、後回しにするとは言ったが止めるとは言っていない模様。

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