ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
『超獣鬼』、『剛獣鬼』による冥界侵攻に伴い、各地に設置された避難所には多くの悪魔達が避難していた。数十分ほど前までは、誰も彼もが不安と恐怖に苛まれ、暗い雰囲気が避難所内を覆っていた。
しかし今、彼等の表情に陰は無い。それどころかまるでアイドルのライブ会場のような熱狂と興奮が悪魔達を支配していた。大人も子どもも、男も女も関係なく、瞳を輝かせ、声を張り上げ、腕を突き上げる。
彼等の視線はただ一つ。各避難所に置かれたテレビやモニターに注がれていた。外の状況を知るために用意されたそれに映し出されているものが悪魔達を熱中させる原因だった。
「がんばれせきりゅーてー!」
『おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
一人の男の子が声を張り上げると同時に、画面の先にいた全身を深紅に包んだ少年が眼前の化け物に全力で拳を叩き込む。少年よりも巨躯の化け物がその一発で紙屑の様に宙へ吹き飛ぶ様に歓声があがる。
「ヒューッ! 見たかよ今の!? あんなデカブツがワンパンで吹っ飛んだぜ!」
「やっぱり赤龍帝のパワーってとんでもねえな!」
「おいおい、パワーならあのヒトだって負けてねえだろ!」
『神崎殿の邪魔はさせん! 邪神共よ、我が拳に耐えられるものならば耐えてみせるがいい!!!』
黄金の鎧をまとった青年が腰を落とし、拳を構える。
『ぬぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!』
裂帛の気合いと共に放たれた拳が生み出した衝撃は迫りくる化け物の腹に巨大な穴を空けるだけにとどまらず、その後方にいた別の化け物達の体すらも貫通させてしまった。ひたすらに鍛え続けた者のみに許されたその一撃に黄色い声が一層激しくなる。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!! サイラオーグ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「今の何!? どうやったの!?」
「無理……ダメ……カッコ良すぎ……」
「ちょ!? さっちゃん!? 鼻血がとんでもない事になってるけどぉ!?」
「だ、大丈夫……。サイラオーグ様の雄姿をこの目に焼き付けるまでは耐えてみせるわ……」
己の戦いが一人の少女の命の危機を招いている事を知る由もない青年は倒した化け物には目もくれずに別の獲物に向かって駆け出すのだった。
『食らいやがれぇぇぇぇぇぇ!!!』
漆黒の巨龍から放たれた黒炎が大量の化け物達を包む。もがき苦しむ化け物達は瞬く間に全身を炭化させ、その場に崩れ落ちる。
『俺は任されたんだ! 尊敬するあの人に! だから、シトリー眷属の代表として、無様な姿は見せられねえんだよぉぉぉぉぉぉ!!!』
巨龍は自らの尾を鞭の様にしならせ、自らを取り囲んだ化け物達に一閃させる。数舜の後、化け物達の体は真っ二つとなり大地へ沈んだ。
「うわあ……えげつねえなあのドラゴン。シトリー眷属でドラゴンっつったら……」
「匙 元士郎だな。最近彼女の眷属達の中でも特に実力が伸び始めているヤツだ。まさか、赤龍帝と彼が共に戦場にいるとはな」
「そうか。リアス・グレモリーとソーナ・シトリー。『王』同士もライバルで自分達もライバルだもんな。おお、これは中々熱いものがあるじゃないか」
「うむ。増々目が離せんな。……っと、噂をすれば……」
『イッセー!』
少女の声と同時に上空から無数の魔力球が降り注ぐ。深紅の少年を襲おうとしてそれの直撃を受けた化け物は被弾箇所に抉り取られたかのような傷が生じ、自らの体を支えきれなくなったのか崩れ落ちる。
『部長、助かりました!』
眷属からの感謝の言葉に、空に浮かぶ紅髪の少女はその美しい顔を綻ばせる。
『どういたしまして。さあ、イッセー。リョーマの道を切り開くためにも、あなたは真っすぐに突き進みなさい! その為の援護は私達が請け負ったわ。―――朱乃!』
『雷光よ!』
紅髪の少女の背後から飛び出した黒髪の少女が放った光を真正面から受けた化け物達が跡形もなく消滅する。
『うふふ、私を忘れてもらっては困りますわ。イッセー君。リアスの言う通り、後ろは気にせず思い切りやりなさい』
『うっす! 兵藤 一誠、突撃します!』
「「「「「流石ですお嬢様!」」」」」
グレモリー邸に残った使用人達は、敬愛するお嬢様の雄姿を声を揃えて称えるのだった。
『ゼノヴィア!』
『任せろ!』
戦場に突如として巻き起こる旋風が化け物達の動きを止める。そこへ一人の少女が右手に掲げた輝く剣を振り下ろす。両断された骸を踏みつぶしながら別の個体が少女へ迫るが、そこへ聖なる障壁が現れその攻撃を防ぐ。間髪入れずに風を生み出した少年が反撃に移った。
『風刃閃!』
鋭い風の刃が容赦無く敵を切り刻む。さらなる追撃に備えて周囲を見渡す二人の元へ別の少女が空から近づいてきた。その翼は悪魔の物ではなく天使である事を証明していた。
『二人とも、ちゃんと周りを見て動いてよ!』
『なに、いざとなったら今みたいにお前が守ってくれるんだろう、イリナ?』
『あはは。頼りにしてるよ紫藤さん』
『ッ~~~~! もう! ゼノヴィアはともかく木場君はもっとまともな人だと思ってたのにぃ!』
反省どころか丸投げしてくる両者に天使の少女は頭を抱える。その嘆きは空しく天へ響き渡るのだった。
「あれ、あの娘って天嬢さんだよな? バカデカい剣を振り回すイメージしかないんだけど、あんな剣持ってたっけ?」
「さあ?」
……頑張れ天嬢さん! いつか、その汚名を返上できるその日まで!
『こうして誰かの下で戦うのなんて久しぶりだなぁ』
『おうコラサーゼクス。あなた、フューリー様の指揮の下という誰もがうらやむ状況に不満でもあるのですか?』
『まさか。こんな機会またとないだろうし、精一杯頑張らせてもらうつもりさ』
『魔王になってからは座って仕事する方が多くなってんだろうしな。いいストレスの発散だと思って気楽にやればいいさ』
『アザゼル先生! 生徒達があれだけ頑張っているのにあなたという人は!』
『ああ、いいんだよロスヴァイセ。今のは彼なりの励ましだからね』
『はあ……』
『まあいいです。あなた達と馴れ合う気もありませんし。私はここで活躍してフューリー様に褒めて頂くという大事な使命がありますので。頭を撫でてもらい。微笑みかけてもらい。そのまま勢いで自宅に招いたりしちゃって。私の手料理を振舞って。フューリー様の入られた後のお風呂に浸かって瞑想を一時間ほどこなして。そして、そして、寝る時は一緒の、一緒の……あ、やべ、想像しただけで逝きそう』
『……ホント、どうしてこうなっちゃったのかな』
『知るかよぉ』
ここが戦場とは思えないほど暢気な会話を交わす四人の男女。しかし、その周囲ではすさまじい暴虐が巻き起こっていた。近づこうとする異形達は一定距離まで近づくと瞬く間にその身を刻まれ、貫かれ、滅ぼされる。蹂躙につぐ蹂躙。殺戮につぐ殺戮。その犠牲となったのはすでに百や二百ではきかなくなっていた。
「……なんかあの場所だけ異次元だな」
「そりゃまあ、魔王様に堕天使の総督がいるしな。……ところで、なんであの眼鏡の女性はあんな酷い顔してるんだ?」
「……さあ?」
何となく触れない方がいい。そう思い、彼等は意識を別に向けるのだった。
(己の気持ちを認める。それだけでこんなにも心が軽くなるものなんだな)
もう疑わない。
もう迷わない。
もう間違わない。
(笑われようが、否定されようが構わない。それら全てを乗り越えた本物がいる。ならば俺も、この先どんな困難が待ち受けていようが必ず乗り越えてみせよう。神崎君、キミのようなヒーローに少しでも近づくために)
聞く者が聞けば失笑される様な夢。それでも、彼は進むのを止めない。誰かに言われたわけではない。ただ自分がそうありたいから。
「だから今は、俺の目指す英雄の為にこの槍を振るう! 邪神共、命の貯蔵は十分か……!」
こうして、青年は再び英雄への道を歩み始める。かつて違えてしまったその道を、今度こそ踏み間違えない様、ゆっくりと、しかし確実に……。
ただ一つの目的のために、少年達は戦場を駆け抜ける。そして、その活躍はついにこの男を動かす事となった。
『……さて、頃合いの様ですね』
人の身でありながら悪魔の英雄と呼ばれたその青年は、下僕である神喰狼の背に眷属達と乗り込むと、手にした剣の切っ先を邪神の本体へと向けた。
「おお……おおお……何という勇壮なお姿」
たまたま避難所へ来ていたとある宗教団体の信者達がその姿を直視して嗚咽を漏らしながらその場に蹲ったとかなんとか。とりあえず邪魔なんで移動した方がいいと思いますよ。
『ペルセポネさんを助け出してこの戦いを終わらせます。皆さん、力を貸してください』
『『『はっ!』』』
堕天使の翼をもつ少女達がそれぞれの武器を掲げ主の前に跪く。
『ご主人様、いざとなったら私と白音が壁になるから一気に突っ込んじゃって』
『……頑張ります』
猫耳を持つ姉は任せろとばかりに胸を叩き、眷属ではないが姉の意向で同道する事になった妹も力強く頷く。
『『がうっ!』』
父と同じく神喰狼の姿に戻ったもう一方の姉妹は顔を青年へ摺り寄せる。彼女達なりの意思表示であろう。
『れっつごー』
そして、青年の隣にちゃっかり座りこんだ幼女は相変わらずの無表情でそう声をあげるのだった。
「うおぉぉ! ついにフューリーが動くぞ!」
「勝ったな風呂入って来るわ」
「英雄! いや、鋼の救世主!」
「ママ! フューリー様が!」
「ええ! きっとあの方があの怪物を倒してくれるわ!」
怒号とも思える歓声があらゆる避難所から響き渡る。なお、信者達は未だ回復していない模様。
「「「「「フューリー! フューリー! フューリー! フューリー!」」」」」
なんでも娯楽にしてしまう悪魔の性か。最早ヒーローショーの様な空気になってしまった避難所だが、それを咎める者も不思議に思う者も誰一人存在しないのであった。
デュリオは映ったら都合が悪いので後ろでコソコソしてました。