ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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焦らすつもりなんて無かったんですよ?


第十九話 悲しみの少女に救いの手を

リアスSIDE

 

「皆様! この度は私、ライザー・フェニックスと、その妻となるリアス・グレモリーの婚約の席にお集まり頂き、誠にありがとうございます!」

 

 両手を高々と掲げ、会場全てに響く様な声で挨拶するライザー。その背中を、私は他人事であるかのような気分で見つめていた。パーティーに参加する名だたる貴族達がそれに合わせるように盛大な拍手を送る。

 

 ふと、視線を動かすと、幼い頃からの友人であるソーナ。その姉でお兄様と同じ四大魔王の一人であらせられるセラフォルー様。そして、イッセーを始めとする私の眷属達の顔が見える。

 

(みんな…そんな顔をしないで)

 

 四人はそれぞれの表情を浮かべているが、共通するのは“悲しみ”だった。特にイッセーは酷い。今にも泣き出しそうだ。もしかしたら、責任を感じているのかもしれない。

 

 でもね、イッセー。あなたが悲しむ必要は無いのよ。あの土壇場で、『禁手』へと至るなんて誰が想像出来たかしらね。

 

 イッセーだけじゃない。朱乃も、祐斗も、小猫も、みんな自分の全力でゲームに挑んでくれた。本当に、私は恵まれている。あんなに素晴らしい眷属を持つ事が出来たのだから。

 

 神崎君とアーシアはここにはいない。人間である彼等はこの場には呼べないのだ。

 

 その事に、どこか安堵している私がいた。あの二人…特に、神崎君には今の私を…ライザーの物となった私の姿を見て欲しくなかった。

 

 ―――不思議な男の子。

 

 それが、神崎君への第一印象だった。一年前、山田先生に連れられて教室へ入って来た彼の姿を見た瞬間、私は強い興味を抱いた。

 

 淡麗な顔つきに、逞しい体。他の子達はそちらに惹きつけられたみたいだったけど、私が何よりも惹かれたのは、その鮮烈な目。強い意思の込められたそれは、“戦う者”の目だった。そんなはずは無い。普通の人間がそんな目をするはずが無い。そう頭では思っても、心では否定しきれなかった。

 

 そんな彼の放つ独特な雰囲気に、皆興味はあっても近付けないようだったので、私が最初に彼に話しかけた。今だから言うけれど、きっかけを作ってあげよう…というのは建前だった。私は、今まで出会ったどんな男性とも違う彼と何故か繋がりを持ちたかったのだ。

 

 それからすぐだった。彼と友人となったのは。

 

 神崎君の性格を一言で表すなら…『優しい』。これに尽きる。物静かだが、決して無口では無い。誰であろうと、困っていたら手を貸す。悩んでいたら相談に乗る。そんな彼を学園の子達は『駒王学園の頼れるお兄様』なんて呼ぶようになった。

 

 私も、彼と過ごす時間は楽しかった。“こちら側”じゃない彼との何気ない会話は、私を悪魔のリアスでは無く、ただの学生であるリアスでいさせてくれた。彼と話す時だけが、私を色んなしがらみから解放してくれる瞬間だった。

 

 そんな彼の秘密を知ったのは、イッセーの友達を助ける為に教会に乗り込んだ時。何故かそこにいた神崎君は、大勢のエクソシスト達を一人で殲滅し、さらには堕天使すらも無力化させていた。神器すら持たない普通の人間がありえない…と思いつつ、どこか納得してしまう私はおかしいのだろうか?

 

 その後、どうしてかその堕天使達を庇う彼を、私は教会の人間かと疑ってしまった。…この時ほど己の浅はかさを悔いた時は無かった。

 

『俺をあんなヤツらと一緒にするな!!』

 

 見えないはずの怒気が刃となって私の全身を貫いた。ハッキリとした恐怖と、それを越える悲しみが私の心を支配する。

 

 ―――そんな、そんな目で私を見ないで。

 

 言いたいけれど言えなかった。だって、彼にそんな目をさせてしまったのは私の所為なのだから。

 

 すぐさま謝罪したら彼はあっけなく許してくれた。でも、私の心は晴れなかった。そんな私の前で、ついには土下座までして堕天使を庇う神崎君。彼女達にチャンスを。そう懇願する彼の顔には、信念の様な物が宿っていた。結局、私は堕天使達を消滅させる事が出来なかった。

 

 後日、彼の事情と私達の正体について話す為、二人をオカルト部へ招いた。そこで語られた彼とアーシアの関係。小猫の問いに、何が相手でも彼女を守ると言い放った彼に、私はいいようの無い感情を抱いた。彼にそこまで想われるアーシアの事が羨ましいとさえ思ってしまった。

 

 そして、気付けば、彼に悪魔への転生をもちかけていた。了承する神崎君だったけれど、結果は『悪魔の駒』を受け入れられないという前代未聞の失敗に終わった。

 

 その結果に、自分でも驚くくらい落ち込んでしまった。どうして? 彼ほどの戦力を引き入れる事が出来なかったから? それとも…。

 

 それとも? 戦力以外に他に何があるのか? あの時の私にはそれが何なのかはわからなかった。

 

 それから数日経ち、朝の公園でイッセーを鍛えている私の前に、神崎君とアーシアが現れた。仲睦まじい様子で買い物に行くと言う二人の姿に、何故か胸がモヤモヤした。

 

 会話の節々に込められるアーシアの神崎君への好意。けれど、彼の方はそれに気付いていない。それを察した私はアーシアに知った様なセリフを吐きながら、心のどこかで安堵していた。

 

 …それからすぐだった。私とライザーの婚約の予定が早まったと聞かされたのは。彼は私の求める相手とは正反対の男だった。だからどうしてもこの婚約を破棄したいと思った私は、神崎君の元へ押しかけ、処女を奪ってくれるようお願いした。

 

 けれど、彼は全てを理解したかの様な顔で、私の肩を優しく抱いてくれた。私が傷つく必要は無いと、何があっても私の味方だと、私を安心させるようにひたすら優しく。

 

 そこでようやく、私は自分が震えていた事に気付いた。覚悟はしていたつもりだった。けれど、私は怖かったのかもしれない。神崎君に抱かれる事が。こんな形で初めてを失う事が。

 

 彼の言葉で冷静さを取り戻した私の前にグレイフィアが現れた。その場は一旦彼女に従ったけれど、私は諦めるつもりは無かった。後日、直接婚約の話を伝えに来たライザーとレーティングゲームで勝てば婚約を破棄すると約束させた。

 

 ゲームに勝つ為の合宿。神崎君は嫌な顔せずについて来てくれた。祐斗と小猫の特訓の相手を勤めてくれて、さらに私達全員の食事まで担当してくれた。本当に、彼には頭が下がる思いだった。

 

 ちょうど合宿も折り返し地点に差しかかった頃だったと思う。その日の夜。私は外に出る神崎君を見かけ、追いかけた。彼は星空を眺めていた。

 

 空を見上げる彼の凛々しい横顔につい見惚れつつ、私は今回の件について謝罪した。けれど、神崎君はいつものように、自分で役に立てる事だったから協力したのだと答える。

 

 本当に、彼は出会った当初から変わっていない。だからだろうか…甘えたくなるなんて漏らしてしまったのは。

 

 甘え…それは、私には許されないもの。次期当主として、『王』として、甘えは許されない。なのに彼は、そんな私の意地をあっさりと突破してしまった。

 

『―――そんなのは俺には関係無いんだ。俺は人間で、キミの眷属じゃないから。俺とキミは…ただの友達なんだ』

 

 言葉が出なかった。神崎君にとっては私が何者であろうと関係無いのだ。ただ私を、大切な友達としか思っていない。いや、“いない”じゃない。“くれている”のだ。悪魔と人間という立場を越えて、私を受け入れてくれようとしているのだ。

 

 泣きそうになった私を、神崎君は抱きしめてくれた。きっと、私の泣き顔を見ないようにと察してくれたのだろう。その上で、私は誇り高い女だと言ってくれた。自分という人間の友達がいる事を忘れないで欲しいと言ってくれた。

 

 限界だった。…いいのよね? あなたになら甘えてもいいのよね? 私は彼の背中に腕を回した。密着した彼の胸から心臓の鼓動が伝わって来た。彼らしい力強いものだった。

 

 今なら普段言えないような事も言えそうだと、私は自身の夢を神崎君に話した。グレモリーの私じゃ無く、リアスとしての私を見てくれる人と一緒になりたい。そんな小さな夢を、彼は肯定してくれた。

 

(…ああ、そうだったのね)

 

 私はようやく気付いた。

 

 どうして、神崎君に睨まれたのがあそこまで怖かったのか。

 

 どうして、彼を眷属に出来なかったのがあれほどまでにショックだったのか。

 

 どうして、アーシアとの仲を見てモヤモヤしてしまったのか。

 

 どうして、処女を捨てようとした時に、真っ先に彼の顔が思い浮かんだのか。

 

 どうして、彼の言葉があんなにも私の心を揺さぶったのか。

 

 どうして、彼に抱きつかれた時、幸せに感じてしまったのか。

 

 どうして、レーティングゲームであそこまで追い込まれたのに諦めなかったのか。

 

 どうして、届くはずが無いのに、助けを求めてしまったのか。

 

(私は…こんなにも彼の事を…)

 

 最後の最後に気付く事が出来て本当によかった。これから、私は違う男性の物として生きていく事になる。けれど、この心は・・・この想いだけはあなただけに捧げます。

 

(神崎君。せめて、もう一度だけでもあなたに…)

 

「では! 改めてご紹介しましょう! 彼女こそ、我が最愛の妻となる女性リア―――」

 

 ライザーの言葉が止まる。それと同じように、参加者達の拍手も治まった。何事かと沈めていた顔を上げれば、会場の中心…その床に、紫色の魔法陣が出現した。まさか、参加者の誰かが遅刻して来たのだろうか?

 

「おや、今になって誰だ? 確か、参加者は全員揃っているはずだが」

 

「いえ、もうお一方残っております」

 

 首を傾げるサーゼクスお兄様に、傍に控えていたグレイフィアが答える。

 

「グレイフィア。キミは知っているのか?」

 

「ええ。そして、これから現れるお方こそ、リアスお嬢様が一番会いたいと望んでいるお方です」

 

 魔法陣から発せられる光が徐々に強くなっていく。そこから現れた人影。その正体が明らかになった時、私は己が目を疑った。

 

 …嘘よ。そんなはずない。彼が…彼が、ここに来るはずなんて無いのに…!

 

 その人物は魔法陣から静かに出て来ると、周りを見渡す。そうやって私を見つけたその人物は、招待状を持つ手を掲げ、いつものように私の名前を呼んだ。

 

「すまない、グレモリーさん。少々遅れてしまったようだ」

 

「神…ざ…」

 

 どうして…どうしてあなたは、そんなにも私の求めに応えてくれるの…?

 

 泣くつもりなど無かった。決して情け無い姿を見せるつもりは無かった。けれど、私は、溢れ出る涙を止める事が出来なかった。

 

リアスSIDE OUT

 

 

サーゼクスSIDE

 

「すまない、グレモリーさん。少々遅れてしまったようだ」

 

 魔法陣から現れたのは、制服を纏った青い髪の少年だった。何故だろうな、あの少年の髪色を見ていると、かつての“彼”を思い浮かべてしまった。

 

「あの少年は?」

 

「あの方の名は神崎亮真様。リアスお嬢様のご友人の“人間”です」

 

 …そうか。彼がキミの言っていたリーアの本当の想い人か。グレイフィアの“人間”発言に周りの者達が一斉に騒ぎ出す。

 

「人間だと!? 何故そんな者がこの場所に!?」

 

「招待状を持っているという事は、正式な参加者なのか?」

 

「馬鹿な! 人間などがこの席に呼ばれるはずが無かろう!」

 

 好き勝手に喋る貴族達。その中でライザー君が衛兵に指示を飛ばす。

 

「何をしている! さっさとつまみ出せ!」

 

「で、ですが、招待状を持って…」

 

「知るか! 人間ごときにこのめでたい場を汚されてたまるか! 早くしろ!」

 

 神崎君を取り囲む衛兵達。だが、その包囲網は呆気無く崩壊した。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 リーアの眷属…確か兵藤君だったかな? その彼が、『赤龍帝の籠手』で衛兵の一人を殴り飛ばした。

 

「先輩! 待ってましたよ!」

 

「貴様! 邪魔をするか!」

 

 別の衛兵が兵藤君に跳びかかる。すると今度は別の少年がその衛兵の槍を、自らの剣で受け止めた。

 

「ふふ、ずいぶんと遅いご到着ですね、先輩」

 

「けど…!」

 

「ええ。信じてましたよ、神崎君。あなたなら、きっとリアスを助けに来ると!」

 

 神崎君を守るように立ち塞がるリーアの眷属達。姿を見せただけで、先程まで沈んでいた彼等をここまで奮い立たせるなんて。どうやら相当人望のある少年の様だ。

 

「おらあ! 道をあけやがれ! 先輩の邪魔をするヤツは、俺が相手してやる! 『赤龍帝の籠手』にぶん殴られたいヤツはかかって来やがれぇ!」

 

「ついでに、僕の剣と!」

 

「私の拳…!」

 

「さらに、私の雷もセットでお付けしますわよ!」

 

「ひ、怯むな! かかれ!」

 

 一斉に動き出す衛兵達を相手に、リーアの眷属達は縦横無尽に暴れ回った。ゲームを観ている時にも思ったが、彼等は一人一人凄い可能性を秘めている。その証拠に、衛兵達がまるで相手になっていなかった。

 

「先輩! ここは俺達に任せてください! 部長が待ってますよ!」

 

「…わかった」

 

 兵藤君の言葉を背に、神崎君がリーアの方へ向かってゆっくりと歩いて行く。一人となった今ならば、彼を止めるのは簡単だろう。そのはずなのに、誰一人として動こうとしない。

 

 …気圧されているのだ。悪魔である彼等が、人間である神崎君から発せられているプレッシャーのようなものに。そうして誰もがただ見つめる中、神崎君はライザー君と対峙した。

 

「貴様ぁ! 何者だ! 貴様のような男が何故ここに…!」

 

「言う必要があるのか?」

 

 刹那、神崎君から放たれた圧倒的な殺気に、ライザー君は戦慄の表情を見せる。いや、彼だけじゃない。きっと今の僕も彼と同じ顔をしているだろう。

 

 何故なら、神崎君の放った殺気…それは、かつて僕が“彼”から向けられたものと酷似していたのだから。

 

 ―――この婚約を認めるわけにはいかない。

 

 神崎君は何も言っていない。けれど、言葉にしなくても、その殺気が、ここにいる全員にそう受け取らせた。

 

 …そろそろ動かないとな。

 

 信じられないが、神崎君の実力は、おそらくライザー君を上回っている。このままでは最悪の展開になるかもしれない。そう危惧した僕は努めて冷静に二人に近づいた。

 

「待っていたよ、神崎君」

 

 最初からその予定だったかのように声をかけると、神崎君が僕の方へ顔を向ける。…一瞬だけ目を見開いたのは僕の見間違いだろうか。

 

「キミの事はリーアから聞いているよ。人間の身でありながら、かなりの実力を秘めているとね」

 

「サ、サーゼクス様!? あなたがこの人間を呼んだのですか!?」

 

「そうだよ。リーアから彼の事を聞いて興味が湧いてね。そこでだ、ライザー君。どうだろう、この子…神崎君と手合わせしてみないかい?」

 

「なっ!? 何故私が人間などと!?」

 

「リーアの夫となる者の力を、集まったみんなに見せてあげたくてね。…で、どうだろう?」

 

「…それがご命令なのでしたら」

 

 渋々ながら頷くライザー君。

 

「ならば早速準備をしよう。…そうそう、ライザー君。キミの眷属も全員参加させてくれ」

 

「全員ですと!? サーゼクス様! この私が人間ごときに後れを取るとでも思っておられるのですか!?」

 

「いや、そんなつもりでは無いよ。けれど、もし、僕のこの予想が現実となるのなら、あるいは…。とにかく、これも命令だ」

 

「ぐっ…!」

 

「神崎君もそれでいいかな?」

 

「…はい」

 

 両者が納得した所で、僕は早速準備を命じた。急遽バトルフィールドが用意され、会場には超大型モニターが出現した。フィールドの中央。眷属にフォーメーションを組ませるライザー君と、ただ一人、その様子を見つめる神崎君。

 

(さあ…いよいよだな)

 

 神崎君…キミの力、見せてもらうよ。

 

サーゼクスSIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

 俺…いや、会場の全ての悪魔達が見守る中、神崎先輩とライザーの勝負が始まろうとしていた。ライザー側は、俺達と勝負した時と同じフルメンバー。対する先輩はたった一人、普通に考えたら勝負にはならない。

 

「何でだろうね。先輩が負ける姿が全く想像出来ないよ」

 

「私もです」

 

木場と小猫ちゃんの言葉に俺も頷く。

 

「そうですわね。もし負けたら…私がキツイお仕置きでも」

 

 げっ! 朱乃さんがドSモードになってる! 先輩! 勝ってくださいよ! じゃないと下手したら俺にまでとばっちりが…!

 

『くそ、何故俺があんな人間の相手など…!』

 

 モニターの向こうで、ライザーが忌々し気に吐き捨てる。うーん。イラついてるアイツの顔見ると気分がいいや。

 

『そもそも、貴様は何者だ! 俺のリアスとどういう関係だ!』

 

 まだお前のじゃねえよ! 心の中でツッコむ俺。

 

『彼女は大切な友人だ』

 

 クールに答える先輩。それから逆にライザーに向かって質問した。

 

『聞かせて欲しい。あなたは何故グレモリーさんとの婚約にそこまでこだわる?』

 

『ふん、下等な人間などに語った所で理解など出来るはずもないが、いいだろう。いいか、俺とリアスは共に純血悪魔と呼ばれる存在だ。先の大戦で純血悪魔はその数を半数以下に減らした。だからこそ、純血悪魔の血を途絶えさせない為に、俺達が夫婦となるのは必要な事なのだ』

 

『ならば、あなたにとってグレモリーさんは純血としての価値しかないと?』

 

『まさか! あれほどの美貌と肢体だぞ! さぞや俺を楽しませてくれるだろうさ! はは、今から夜が待ちきれないくらいだ!』

 

 …最低だな、アイツ。本人も家族も聞いてるのによくあんな事が言えるもんだ。何か女性悪魔達も気分を害しているみたいだった。

 

『…違う』

 

『なに?』

 

『違う。違うぞ。グレモリーさんの価値はそんなものじゃない』

 

 静かに反論する神崎先輩。…俺にはわかる。今、あの人は怒っている。しかも、爆発一歩手前くらいの所まで。

 

『ならば、貴様の言うリアスの価値とは何だ?』

 

『…彼女は、グレモリーさんは…とても誇り高い女性だ』

 

「あの人間は何を言い出すんだ?」

 

「ちょっと、黙っててくれるかしら」

 

 神崎先輩の言葉に、会場内から戸惑いの声があがった。そのほとんどが男性悪魔の声だったが、すぐに女性悪魔達がそれを制する。

 

『周りの期待に応えようといつも一生懸命で、学園ではお姉様と呼ばれて多くの生徒に慕われている。いつも優雅で大人びた様子だが、不満な時には頬を膨らます等、年相応の反応を見せてくれる時がある』

 

「ほお、紅髪の滅殺姫と呼ばれている妹君にそんな一面があるとはな」

 

「ふふ、やっぱり女の子ですわね」

 

 先程とは違い、会場に笑い声が響き渡る。何だか、みんな少しずつ先輩の話に夢中になっていっている様子だった。

 

『そして、何よりも、彼女はとても優しい。俺は…そんな彼女の優しさに救われた。そんな彼女と友人になれた事を…俺は心から誇りに思う』

 

 …すげえよ、先輩。よくもそんなセリフを臆面も無く言えるもんだ。しかも、普段より熱の籠った口調と笑顔のセットで。聞いてるこっちが赤面ものだぜ。

 

 現に、会場の女性悪魔達が皆等しく顔を赤らめている。…あ、よく見たらライザーの眷属の子達もだ。で、肝心の部長はと言うと…。

 

「あ…あう…」

 

 言葉が出ないのか、口を金魚のようにパクパクさせている。顔なんか赤を通り越して紅色になっている。

 

『あいにくだが、純血悪魔という物の価値は俺にはわからない。だが、彼女の価値が外見にしかないような風に言うあなたの言葉は認められない。そんな物は、彼女を構成する一部でしか無い。それを含めたグレモリーさんの全て。それこそが真に彼女の持つ魅力だと俺は思っている』

 

 決定的な言葉だった。グレモリー家との繋がりと部長の体だけを求めるライザーと、部長の全てが魅力的なのだと言う先輩。どちらがより部長を想っているかなど、一目瞭然だった。

 

『え、ええい! 黙れ黙れ黙れ! 黙って聞いていればくだらない事をグダグダしゃべりやがって! 話は終わりだ! お前達! やってしまえ!』

 

 ライザーが眷属達に指示を出す。けれど、それに応えた者は一人としていなかった。

 

『おい、どうしたお前達! 早くあの人間を殺…』

 

『お断りしますわ』

 

 その中から、金髪縦ロールの女の子が一歩前に出る。あの子…確かライザーの妹のレイヴェルだったっけ?

 

『ど、どういう事だ、レイヴェル?』

 

『お兄様。私達全員、あのお方とは戦うつもりはありません』

 

『な、何故だ!?』

 

 慌てるライザーに、レイヴェルは冷たい目で答える

 

『…わからないのならそれで構いません。そもそも、私達はあのゲームの最後に不満を持っていますの。確かにお兄様の判断は正しかったのかもしれません。ですが、最後まで誇りを持って戦おうとしたリアス様に対してのあの所業、正直言って私はあなたを軽蔑します』

 

 そう言って、レイヴェルは神崎先輩の方へと顔を向けた。ライザーに向けたものとは百八十度違う優しい表情で。

 

『神崎様…でよろしいかしら? お聞きになられていたとは思いますが、この勝負、私達は手出しをしません。ですから私達の事は気にせずに戦ってください』

 

 レイヴェルの言葉に従うように、他の女の子達も武器を下ろしたり構えを解いたりした。

 

『ッ! もういい! ならばお前達はさがっていろ! こうなれば俺自らの手でこいつを…!』

 

 ライザーが先輩に向かって手をかざそうとしたその瞬間、ライザーの体が宙を舞った。

 

『ぐばっ!?』

 

 受け身も取れず地面に転がるライザーに、先輩が殴り飛ばした格好そのままに言い放った。

 

『悪いが…本気で行かせてもらうぞ』

 

 …あばよ、ライザー。骨は拾ってやるからな。

 

 モニター越しに見る先輩のマジ顔に震えつつ、俺は手を合わせたのだった。




孤立無援のライザー君。果たして彼に勝機はあるのでしょうか? なんかラフトクランズモードにならなくてもスタイリッシュ指パッチン攻撃で倒せそうですけど・・・。

次回は今回のオリ主SIDEの話となります。何か別人のような感じになってしまいましたが・・・相変わらず勘違いしちゃってます。

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