ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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おそらく、今までで一番長いです。


第二十九話 もう・・・ブチ切れてもいいよね?

匙君の悲鳴をBGMにしつつ、とりあえず兵藤君に事情を聞いてみた。

 

何でも、教会の二人と協力出来るようになってから、夕方は兵藤君、木場君、塔城さん、そして匙君の四人でクレイジー神父の行方を捜索していたそうだ。

 

そしてほんのついさっき、目的のクレイジー神父と遭遇し、とっ捕まえようとしたらしい。さらにそこへゼノヴィアさんと紫藤さんも合流し、捕獲まであと一歩といった所で、逃げられてしまったそうだ。

 

しかも、その途中で、木場君と因縁のあるバルパーとかいうヤツまで現れて大変だったみたい。木場君とゼノヴィアさん、そして紫藤さんの三人はすぐさま追いかけて行ってしまってここにはいない。そうやって残された兵藤君達の元へ、グレモリーさん達が何事かと確認。勝手な行動を取った事へのお仕置きの最中に俺、参上。ここまでが一連の流れだった。

 

「なるほど。だが、そうなると木場君達が心配だな」

 

「ええ、そうね。今からでも探しに行った方がいいかしら」

 

「いや、もう夜になる。グレモリーさんや塔城さんは帰った方がいい。兵藤君と匙君も疲れているみたいだしな。ここは俺が探してみるよ」

 

「わかったわ。なら私は何があっても大丈夫なように準備しておくから」

 

「気をつけてください、先輩」

 

「先輩、俺もいつでも動けるようにしておきますから、木場の事頼みます!」

 

「ああ、その時は頼りにさせてもらうよ」

 

それからすぐ、俺はみんなと別れて木場君を探しに行こうとしたのだが、グレモリーさんに引き止められた。流石に一人だと心配だから猫モードの黒歌を連れて言ったらどうかと提案された。というわけで、俺は一度グレモリーさんと自宅へ帰り、黒歌へ事情を説明。猫モードの彼女を肩に乗せ、改めて木場君を探しに出かけた。

 

「ご主人様、どこから探すにゃ?」

 

正直、全く見当がつかない。逃げた相手を追ったんだから常に移動してるだろうし。うん、こうしてあれこれ考えるよりもとにかく歩きまわった方がいいな。

 

「しらみつぶしだ。済まないが付き合ってくれ、黒歌」

 

「了解にゃ。堕天使や教会の連中に、白音の住む街で好き勝手させないにゃ」

 

やる気に溢れる今のセリフだけで、彼女が塔城さんをどれだけ大切に思っているか何となくわかった。早く二人が和解出来るよう、俺も出来るだけの事をしてあげたいな。

 

その為にも、今は木場君を探さないとな! 俺は気合いを入れ、走り始めた。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

それから十分が経過し、三十分が過ぎ、一時間が経った。今の所、木場君どころかゼノヴィアさんも紫藤さんも見つかっていない。それでも根気よく探し続けていると、時刻は既に午後九時四十分を過ぎていた。辺りはすっかり真っ暗だ。そして、気付けば俺は、いつぞやの高台にまでやって来ていた。

 

「・・・まさか、こうも見つからないとはな」

 

流石にマジで心配になって来た。木場君もだが、ゼノヴィアさんと紫藤さんは女の子だ。しかも二人とも可愛いし綺麗だ。もし変態共が変な事を考えてたりしたら・・・。その時は本気で潰してやろう。

 

「ご主人様、そろそろ戻―――」

 

そう黒歌が口を開いた刹那、彼女は突然人の姿になると、ネコミミも尻尾も逆立て、街の方へ鋭い視線を向けた。

 

「こ、この圧倒的な力の気配は・・・!? しかもすぐそばにあの子の気も・・・!」

 

ただならぬ様子の黒歌に声をかけようとしたとたん。彼女は猛烈な速度で走り始めた。

 

「黒歌!?」

 

「ご主人様! 白音が危ない! アイツが・・・コカビエルが出て来たにゃ!」

 

え、マジで!? ついに変態共のトップがお出ましなのか!? さっきの彼女にならって街の方へ目を向けると、遠くの方で見るからに危なそうな光が発生していた。あれって・・・もしかしなくても学園の方か?

 

「私は先に行くにゃ! 絶対、絶対あの子は守ってみせる! 私の命にかえても!」

 

何気に今のって死亡フラグ? いやいや、まさか! ・・・むう、なんか猛烈に嫌な予感がしてきたぞ。これは俺も急いだ方がいいかも。

 

既に豆粒ほどの大きさになってしまった黒歌に続き、俺は学園へ向かって全速力で走り始めた。

 

SIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

「・・・ずっと、ずっと思っていたんだ。どうして僕が、僕だけが生き残ってしまったのかって・・・」

 

遂に姿を現したコカビエル。駒王学園での決戦の最中に語られたバルパーのクソ野郎の過去の所業。ヤツは木場の仲間達を殺した。聖剣を扱う為に必要な因子・・・たったそれだけの物を手に入れる為に。

 

全てを話したバルパーは、木場の仲間達から抜いた因子の結晶を木場に投げた。好きにしろと。もうこんな物は必要無いと。人の命を奪ってまで手に入れた物を、最早ゴミだと言わんばかりに。

 

木場が涙を流しながらそれを拾い上げた。・・・その時だった。因子の結晶が光を発し始めた。それは徐々に大きさを増して行き、やがてその光は小さな人の姿へと形を変えた。

 

俺にはわかった。あれは・・・あの子達は木場の・・・。

 

傍にいた朱乃さんが言う。今この戦いの場に渦巻く力が、あの結晶から彼らの魂を解き放ったと。

 

「僕よりも夢を持った子がいた・・・! 僕よりも生きたかった子がいた・・・! なのに僕だけがこうしてのうのうと生きて・・・!」

 

・・・違う。違うよ木場。その子達の顔を見てみろよ。お前を羨んでるように見えるか? お前を恨んでいる様に見えるか? 違うだろ! その子達は笑ってるだろ! お前が生きている事を喜んでくれてるだろ!

 

「・・・自分達の事はもういい。キミだけでも生きてくれ。・・・そう言っています」

 

朱乃さんが彼らの言葉を代弁する。ようやく彼らの思いが届いたのか、木場の目から涙が溢れ始める。そして、仲間達の口が一斉に動き出す。木場もそれに合わせて口を動かす。

 

「あれは・・・聖歌です」

 

アーシアが呟く。聖歌・・・それは、『聖剣計画』という辛い実験の日々の中で、彼らが夢と希望を持ち続ける為の手段。今幼子のような無垢な笑顔を見せている木場も、きっと当時は・・・。

 

『僕らは、1人ではダメだった――』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど――』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ――』

 

ッ・・・! 聞こえる! 俺にも彼らの声が・・・! 彼らの声を聞いている内に、俺は自然と涙を流していた。俺だけじゃない、アーシアもだ。あの子にもきっと、彼らの歌が特別に聞こえるんだろうな・・・。

 

『聖剣を受け入れるんだ――』

 

『怖くなんてない――』

 

『たとえ、神がいなくても――』

 

『神が見ていなくても――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――ひとつだ」

 

仲間達の魂が天へと昇り、それは一つの大きな光となって木場の元へ降りる。そして、木場の体をどこまでも優しく、温かな光が包みこんだ。

 

―――相棒。

 

ド、ドライグ!? どうしたんだよこんな場面で! 先輩とライザーの戦いからずっと黙ったまんまだから心配してたんだぞ!

 

―――スマン、あの時の俺はどうかしていた。もう大丈夫だ、問題しか無い。

 

そ、そうか。それなら・・・え?

 

―――それよりもあの『騎士』だ。所有者の思いや願いがこの世界の『流れ』にすら逆らった時・・・神器は至る。そう・・・禁手だ。

 

ッ・・・! それって俺の『赤龍帝の鎧』と同じ・・・!

 

―――そうだ。ヤツは至った。もうあの『騎士』は今までの『騎士』では無い。相棒。うかうかしていると追い越されるぞ?

 

そっか・・・。木場、やったな。あの子達はずっとお前の中で生き続ける。それに俺達だっている! オカルト部のみんながお前を支えてやる! 

 

「木場ぁぁぁぁぁぁぁ!!! お前はもう一人じゃねえぇぇぇぇぇぇぇ!!! だからお前が! お前の手で! エクスカリバーをブチ壊せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「そうよ、祐斗! やりなさい! 自分の手で全てに決着をつけなさい! エクスカリバーを越えるのよ! あなたなら出来る! 私の『騎士』はエクスカリバーごときに負けるはずが無い! そうでしょ、祐斗!」

 

「祐斗君、信じてますわよ!」

 

「祐斗先輩・・・!」

 

「全力で応援させて頂きます!」

 

俺だけじゃない! みんなだってお前を信じてる! だから見せてやれ、木場! あの人を人とも思わないクソ野郎に! お前を失敗作なんていいやがったあのクソ野郎に! お前と、お前の仲間達の思いと力を!!

 

「・・・ありがとう。みんな。ならば僕は・・・剣になる。僕を想ってくれる部長や仲間達を守る為に。何ものにも負ける事の無い、最強の剣にッ!!」

 

木場の想いに応えるように、あいつの神器が変化していく。元々の闇色のオーラに、あの子達の光が混じり合い、一つになる。あれが、あれこそが木場の禁手・・・!

 

「禁手・・・『双覇の聖魔剣』。聖と魔・・・その二つを有する剣の力、その身で受けるといい!」

 

神々しい光と禍々しい光。まさに聖魔剣というに相応しいその一本の剣を手に、木場はフリードへ襲い掛かった。ヤツはイリナから奪った一本を含めた四本のエクスカリバーを合体させた物で木場の攻撃を受け止めるが、木場の剣がフリードの剣のオーラを瞬く間に飲み込んでいく。それに驚愕しつつ反撃するフリードだが、木場はそれを完璧と言っていい動きで全て避けてみせた。

 

すげえ、マジで今の木場って無敵モードじゃね? あのフリードがまるで相手になってねえ。そこへさらにゼノヴィアが、デュランダルというトンデモ秘密兵器を解放して乱入する。これにはバルパーどころかコカビエルまでも驚いていた。

 

「感謝するぞ、フリード・セルゼン。お前のおかげで、デュランダル対エクスカリバーという頂上決戦が出来る。はは、歓喜で体が震えそうだ! せいぜい一太刀目で死んでくれるなよ!」

 

・・・もしかしなくても、あの人戦闘狂? 目がマジじゃないですかやだー! 等と思いつつ見守る俺達の前で、木場とゼノヴィアは確実にフリードを追い詰めていた。

 

そして・・・。

 

「チェックメイトだ!」

 

木場が聖魔剣を一閃させる。直後、フリードのエクスカリバーが甲高い金属音を発しながら根元からへし折れた。

 

「ば、馬鹿な、エクスカリバーが・・・!?」

 

驚愕で固まるフリードに、木場は容赦無く剣を振り降ろした。肩から脇腹まで深々と切り裂かれ、フリードがその場に崩れ落ちる。

 

「・・・やったよ、みんな。僕らの力は今・・・エクスカリバーを越えたんだ!」

 

天に向かって剣を掲げる木場。その叫びは、天国にいるであろう仲間達へ勝利を届けようとしているかのようだった。おめでとう、木場。しっかり見せてもらったぜ。お前とお前の仲間達の完全勝利を!

 

そんな木場に対し、バルパーが信じられないといった様子で顔を強張らせていた。

 

「せ、聖魔剣だと!? そんな事が・・・。聖と魔・・・反発しあう二つの要素が何故・・・」

 

「さあ、バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」

 

木場がバルパーに剣を向けても、ヤツはブツブツと呟いている。と思っていたらバルパーが突然閃いたように叫んだ。

 

「・・・そうか! そういう事か! 聖と魔のバランスが崩れたのだな! それならば説明がつくぞ! つまり、過去の対戦で魔王だけではなく神も・・・」

 

「そこまでだ、バルパー」

 

「なっ!?」

 

バルパーの言葉は最後まで続かなかった。ヤツの胸を貫く光の槍がその命を刈り取ったからだ。倒れ伏したバルパーに向かい、ヤツを殺した張本人・・・コカビエルが口を開く。

 

「バルパー。お前は確かに優秀だった。だからこそそれに気付いたのだろうが・・・。残念だな、最早お前は必要無い。いや・・・最初から俺だけでもよかったんだよ」

 

こいつ・・・協力者をこんな躊躇いも無く殺せるのか!? たった今起きた惨劇に固まる俺達の前で、コカビエルが静かに大地へと舞い降りる。

 

「ふん、雑魚共の相手をするつもりは無かったのだがな。おいリアス・グレモリー。この地にはあのフューリーがいると聞いている。だからこそ俺はこの地を選んだのだ。ヤツはどこにいる?」

 

「ッ! テメエ、目的は神崎先輩か!」

 

「神崎? ほお、フューリーの本名は神崎というのか」

 

何を感心しているのか頷くコカビエル。確かに先輩は今ここにいない。けど、あの人の事だ。きっと全速力でこっちに向かってるはずだ。

 

「彼の手は煩わせない。コカビエル、あなたはここで私達が倒す!」

 

部長の言う通りだ。先輩がいればきっとコカビエルも余裕で倒せる。けど、それじゃ駄目だ。あの人にばかり負担を掛けさせるわけにはいかない。そして俺自身、いつかあの人と肩を並べて戦えるように、強くならないといけない。コカビエル。テメエ相手に立ち止まってるわけにはいかないんだよ!

 

「・・・吠えるなよ小娘」

 

「ッ!? う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

イラつきの混じった声と共に放たれた衝撃波。たったそれだけで、俺達は容易く吹き飛ばされてしまった。加えて、全身に何かで切り裂かれたかのような切り傷が出来ていた。

 

「今の児戯に耐えられないお前達が、俺を倒せると思っているのか?」

 

これが・・・これが、堕天使の幹部の力だってのかよ! 悔しさで拳を握り締める俺達に向かって、コカビエルが憐れみの感情を込めた声をかけて来た。

 

「それにしても、仕えるべき神は既に死んでいるというのに、お前達はよく戦うものだな」

 

・・・え? 今、アイツなんて言った? 神が死んでる? それってどういう事だよ?

 

「どういう意味かしら?」

 

部長の返しに、コカビエルは嘲笑うように再び口を開いた。

 

「ハハハ! まあ、知らなくて当然だな。神が死んだなどと誰も言えないからな! 人間は神がいなくては心の均衡と定めた法も機能しない不完全な集まりだ! 我ら堕天使、悪魔さえ下々にそれらを教えるわけにはいかなかった。どこから神が死んだと漏れるかわかったもんじゃないからな。三大勢力でもこの真相を知っているのはトップの一部の者達だけだ。先ほどバルパーが気づいたようだがな」

 

誰もが言葉を失う。それを見てコカビエルはさらに喜悦に顔を歪ませながら続ける。

 

「戦後残されたのは、神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外ほとんどを失った堕天使。最早、疲弊状態どころじゃなかった。どこの勢力も人間に頼らねば種の存続ができないほどまでに落ちぶれたのだ。特に天使と堕天使は人間と交わらねば種を残せない。堕天使は天使が堕ちれば数は増えるが、純粋な天使は神を失った今では増えることなど出来ない。悪魔も純血種が希少だろう?」

 

マジか・・・マジで神は死んでんのか? ・・・おい、待てよ。それじゃ、施設にいた木場は何を信じて・・・。アーシアやゼノヴィアは、イリナは今まで何を信仰してたっていうんだよ!?

 

「そんな・・・嘘だ・・・嘘だろう・・・」

 

少し離れた場所にいたゼノヴィアが力無く崩れ落ちる。俺でさえ衝撃だったんだ。彼女のショックは計り知れない。

 

「正直に言えば、もう大きな戦争など故意にでも起こさない限り、再び起きない。それだけ、どこの勢力も先の戦争で泣きを見た。お互い争う大元である神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断しやがった。アザゼルの野郎も戦争で部下を大半亡くしちまったせいか、『二度めの戦争はない』と宣言するしまつだ! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めるだと!? ふざけるなッ! あのまま継続すれば、俺たちが勝てたかもしれないのだ! それを奴はッ! 人間の神器所有者を招き入れなければ生きてはいけぬ堕天使どもなど何の価値がある!?」

 

「主がいない・・・。主が死んでいる・・・。ならば、ならば、私達に与えられる愛は・・・」

 

「そうだ。神の守護、愛がなくて当然なんだよ。神はすでにいないのだからな。ミカエルはよくやっている。神の代わりをして天使と人間をまとめているのだからな。まあ、神が使用していた『システム』が機能していれば、神への祈りも祝福エクソシストもある程度動作する。ただ、神がいる頃に比べ、切られる信徒の数は増えたがね。そこの聖魔剣の小僧が聖魔剣を創りだせたのも神と魔王のバランスが崩れているからだ。本来なら、聖と魔は交じり合わない。聖と魔のパワーバランスを司る神と魔王がいなくなれば、様々なところで特異な現象も起こる」

 

愛は存在しない。神はもういないのだから。アーシアが絶望するには充分過ぎる理由だった。

 

「俺は戦争を始める、これを機に! お前たちの首を土産に! 俺だけでもあのときの続きをしてやる! 我ら堕天使こそが最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せ付けてやる!」

 

「ざっけんなぁ!!」

 

限界だった。こいつにこれ以上しゃべらせたくない。俺はありったけの大声を出しながらコカビエルを睨みつけた。

 

「テメエの勝手な都合でこの街を、みんなを消させてたまるかよ!! 今度こそ、どんなヤツが相手だろうと、絶対に仲間を守る! あの時、俺の代わりにライザーから部長を救ってくれた先輩に・・・俺はそう誓ったんだ!!!」

 

それに、俺はハーレムを作るんだ! まだ見ぬ女の子達の為に、俺はまだ死ぬわけにはいかねえんだよ!!

 

「ふん、威勢だけは立派だと評価してやろう。だが、気合だけで全て片付けられる等とは思うなよ? それよりもフューリーだ。そうだな・・・とりあえず、貴様等の内の誰か一人でも殺せば、フューリーも本気になってくれるだろうか?」

 

背筋が凍りそうなほどの冷たい微笑と共にコカビエルがターゲットにしたのは・・・小猫ちゃんだった。

 

「まずは貴様だ。俺とフューリーの戦いの為に死ね」

 

小猫ちゃんは逃げようとするが、吹き飛ばされたダメージが抜け切っていないのか立ち上がれない様子だった。

 

「逃げなさい、小猫! 早く!」

 

部長の悲鳴にも似た叫びに、小猫ちゃんは這いながらコカビエルから離れようとする。駄目だ! そんなんじゃ意味が無い!

 

「ふんっ!」

 

コカビエルの放った光の槍が一直線に小猫ちゃんへ迫る。・・・その時だった。突然の声が俺の耳に届いたのは。

 

「白音―――――――!!!」

 

黒い何か・・・。それが小猫ちゃんの前に立ち塞がり、その身に光の槍を食い込ませるのだった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

小猫SIDE

 

・・・目の前の出来事が信じられなかった。コカビエルは私を殺そうとした。なのに、どうして私は生きているの? どうして、目の前の人物のお腹に槍が刺さっているの? どうして・・・その人物が黒歌姉様なの? どうして? どうして? どうして!?

 

「ご・・・ふ・・・」

 

「姉・・・様・・・?」

 

大量の血を吹き出す姉様に、私はただそう呼ぶ事しか出来なかった。そんな私に、姉様は遠い昔の記憶の中にある笑顔をそのまま私に向けて来た。

 

「にゃ、にゃは・・・は・・・。間に・・・合っ・・・て、よかっ・・・。白・・・音・・・ケガ・・・は・・・」

 

「ね、姉様・・・? 本当に姉様なの? どうして、どうしてここに・・・」

 

「そん・・・なの・・・。ぐうっ! 白音の事が・・・心配・・・がはっ! だったからに決まって・・・ぐふっ!」

 

しゃべりながら、姉様の口からは血が溢れ続けている。槍の刺さったお腹からも、血と共に煙が立ち上り始めている。

 

「ね、姉様! あ、ああ、血が! こんなにたくさんの血が・・・!」

 

「こん・・・にゃの・・・今までの・・・白音の辛さに比べたら・・・。ゴメンね・・・。駄目なお姉ちゃんでゴメンね・・・」

 

姉様の目から徐々に光が失われていく。それは間違い無く“死”へ近づいている証拠だった。

 

「い、嫌・・・! 嘘です! 嘘ですよね姉様! 死なないで! 死なないでください姉様!」

 

せっかく再会出来たのに! 言いたい事だっていっぱいあるのに! また私を置いて行ってしまうんですか! もう嫌です! 一人ぼっちは嫌です!

 

「姉様ぁ! 私を・・・私を一人にしないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

誰でもいい。私に出来る事なら何でもします。だからこの人を・・・姉様を助けてください!!

 

「・・・そうだぞ、黒歌。せっかく再会出来たのに、すぐにお別れなんて俺が許さないぞ」

 

「え?」

 

背中越しに届く優しい声。それが聞こえたと思った次の瞬間、姉様の体を不思議な光が包みこんだ。そしてそれが治まった時。そこには出血どころか、掠り傷一つ負っていない姉様の姿があった。

 

「どうやら間に合ったようだな・・・」

 

声の正体。それは、神崎先輩だった。振り返った私に対し、先輩は満足気な笑みを向けて来た。

 

「先輩・・・。あなたが、姉様を・・・」

 

いや、聞かなくてもわかる。きっとこの人が姉様を助けてくれたんだ。まず抱いたのは安堵。そして次に抱いたのは、先輩に対する心からの感謝の気持ちだった。

 

「先輩・・・ありがとう・・・ござ・・・」

 

ちゃんとお礼を言いたい。なのに、後から後から出て来る嗚咽がそれを邪魔する。そんな私を、先輩はわかっているという表情をしながら優しく頭を撫でてくれた。

 

けれど、その優しい顔は次の瞬間豹変していた。先輩はコカビエルに向かって能面の様な顔を向けた。

 

「・・・貴様がコカビエルか」

 

「ああ、そうとも! そういう貴様がフューリーだな! 待っていたぞ! さあ、俺と心ゆくまで戦ぐあっ!?」

 

コカビエルの言葉は強引に中断させられた。瞬間移動・・・。正にそうとしか言えない方法で、先輩がコカビエルの眼前に出現、その顔面に向かって恐ろしい速度で膝蹴りを受けた事で。

 

白い何かを口から出しながら、コカビエルが吹き飛ぶ。だけど先輩はそれを逃がさない。またしても瞬間移動すると、コカビエルの胸倉を掴み、顔面に拳を叩きつける。

 

「ぎッ!?」

 

「答えろコカビエル。貴様、黒歌に何をした? なあ、何をしてくれたんだ?」

 

淡々とした口調。それが逆に私の背筋を凍らせた。今の先輩は怒りという感情が振りきれてしまい、逆に冷静な状態になっているんだと思う。だって、こうして私から見える先輩の背中から、燃え盛る様な激しいオーラが立ち上っている様に見えるから。

 

「答えろよコカビエル。よりにもよって塔城さんの目の前で、黒歌に何をしたんだ? 貴様というヤツは一体どこまで俺を怒らせたら気が済むんだ? それが貴様の趣味だとでも言うのか? おい、聞いているのか? いいから答えろコカビエル!!」

 

あ、あの・・・先輩。そんな殴ったらしゃべりたくてもしゃべれないんじゃ・・・。けど今の空気では口に出して言う事でもないので心の中で呟く私。

 

「ごぶっ!? え、ええい、調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

顔面を腫らし、鼻血を流したままコカビエルは上空へ逃げる。

 

「せ、先輩・・・」

 

イッセー先輩が小刻みに震えている。当然かもしれない。私達を圧倒したコカビエル。そんな存在をたった数秒であそこまで傷付けた神崎先輩に、味方ながら恐ろしさを感じたのかもしれない。

 

「限界だよコカビエル。貴様はやり過ぎた。貴様と、貴様に関わった者達の所為で悲しみ、傷付いた人達の為・・・貴様はここで終わらせる!!」

 

トクン・・・! と、一瞬だけ心臓が跳ねた気がした。なんだろう、たった今、勇ましくコカビエルに向かって叫ぶ先輩の姿に、妙な気分になってしまった。

 

「にゃはは、やっぱりご主人様はカッコいいにゃ」

 

「ッ! 姉様!」

 

起き上がった姉様を抱きしめる。伝わってくる温もりが、これが夢ではない事を証明してくれた。

 

「白音、もう大丈夫にゃ。ご主人様がいれば、あんな堕天使ちょちょいのちょいにゃ」

 

「え? あ、は、はい。そうですね。ところで、何で姉様は神崎先輩の事をご主人様って・・・」

 

「それは後で話すにゃ。今は一緒に、ご主人様の戦いを見守る事にするにゃ」

 

「わ、わかりました」

 

どっちにしろ、この戦いを終わらせないと落ちつく事も出来ませんしね。その言葉に従い、私は姉様の隣に座って先輩の戦いを見守る事にした。

 

(どうか、先輩に勝利を・・・)

 

神は死んだ。それに私は悪魔だ。だからそれ以外の何かに、先輩の勝利を祈る事にしよう。

 

―――安心しいや~!

 

・・・空耳だろうか?




突然ですがここでクイズです。この後、コカビエルさんを待ち受ける未来は次の内どれでしょう?

1:ラフトクランズモードでフルボッコ

2:遂に発動、スタイリッシュ指パッチン攻撃

3:イッセー、木場君を交えての集団リンチ

答えは次回!

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