ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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シリアル回です。




第三十八話 時獄からの解放

大変だった者は大変で、そうじゃなかった者はそうじゃなかった授業参観の翌日、俺はリアスと姫島さんに引っ張られて旧校舎にやって来ていた。

 

道中、自然と二人に腕を組まれ、柔らかい物がずっと肘辺りに当たっていた。これぞ正にハーレム状態! ・・・まあ、実際は俺が逃げ出さないように捕まえてるつもりなんだろうけどな。やれやれ、そんながっしり掴まなくても逃げたりしないって。

 

目的地である旧校舎一階のとある教室の前に着くと、そこにはすでに他のオカルト部の面子が集まっていた。一度みんなの顔を見渡してから教室へ目を向ける。

 

そういえばこの教室、なんか変な呼び名がついてたよな。ええっと・・・ああそうだ、確か『開かずの教室』だったっけ。名前しか知らないが、学園七不思議みたいなホラー的なヤツか? ここで何するんだろう。あれか? 百物語とか?

 

「ここに私の眷属の『僧侶』がいるの」

 

全然違いました。悪魔関係の話でしたよ。初めて聞いた俺やアーシアの為にリアスがしてくれる説明を聞きながらふと思う。なんだろう。すっごく今さらな気がするけど、人間である俺が毎回毎回悪魔に関する事に首突っ込んでいいのだろうか。

 

せっかくだし聞いてみるか。そう思って尋ねてみたら、全員から思いっきり呆れられてしまった。

 

「本当に今さらね・・・」

 

「それはひょっとしてギャグで言っているのかしら?」

 

「先輩、あなたはすでに人間という括りを突き抜けてますよ」

 

「ある意味、人外より人外だと思います」

 

「・・・一度自分の規格外さを振りかえってみたらどうですか」

 

「ふ、コカビエルが聞いたらショック死するんじゃないのか」

 

痛い。みんなの言葉が痛いよ。そりゃね、この体は確かにチートですよ? けどそれ以外は普通の人間なんですよ?

 

「だ、大丈夫です! リョーマさんはリョーマさんですよ!」

 

励ますように俺の手を握ってくれるアーシア。今日も相変わらずの天使っぷりに心が癒される。

 

気分が落ち着いた所で話を戻そう。そもそもどうしてこのタイミングで『僧侶』の話が出て来たのかというと、元々その『僧侶』は能力が危険過ぎるという理由でずっと封印されていたそうだ。それが、前回のフェニックスさんとのレーティングゲームの内容と、コカビエルとの一戦が評価され、この度封印が解かれたんだとか。確かに、あのゲームで最後に見せたリアスの誇りある姿は評価されて当然だと思う。コカビエルの件はよくわからんけど、きっと俺がプッツンしてる間にリアス達が頑張ったんだろう。

 

「その子は一日中この教室の中にいるの。一応、深夜だけは封印が解けて旧校舎内だけなら出歩いてもいいのだけれど、その子自身がそれを拒否してる現状なのよね」

 

立ち入り禁止のテープが張られた扉に向かって手をかざしながら説明するリアス。

 

「それって引きこもりってヤツなんじゃ・・・」

 

兵藤君の指摘に、リアスが溜息と共に頷く。そっか、引きこもりか。やっぱり暗い部屋でパソコンに向かって色々やってたりするのだろうか。姫島さんの追加説明では、実際にパソコンを使って悪魔のお仕事をこなしているそうだし。

 

「準備完了。それじゃ、開けるわよ」

 

はてさて、どんな人物が出て来るのやら。若干ワクワクしている俺の前で、リアスが扉を開ける。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

絹を裂くとはこの事かといわんばかりの悲鳴が俺の耳をつんざいた。ええ、マジでホラーだったの!? お札を! 誰かお札を寄越してくれ!

 

突然の悲鳴に固まる俺達を尻目に、リアスと姫島さんが躊躇い無く教室へ入って行く。直後、彼女達と別の声のやりとりが聞こえて来た。所謂中性的な感じのその声は、女の子とも、少年ともとれるものだった。

 

「せ、先輩。どうします?」

 

「・・・入ってみよう」

 

このままここにいても意味が無いし、そもそも俺達は声の主に会いに来たのだ。俺は兵藤君達と一緒に教室へ入った。

 

まず目に入ったのはでかい棺桶。おやおや、益々ホラーじみてきたぞ。で、その棺桶のさらに奥の方にリアスと姫島さんがいる。そして、その二人に挟まれるように『僧侶』の子がいた。

 

駒王学園の女子の制服を纏った金髪のその子は、涙目で震えていた。ああ、女の子だったんだな。しかし凄く可愛らしい子だ。

 

「お、女の子!? しかもすっげえ可愛いじゃないですか!」

 

嬉しそうだな、兵藤君。だが、そんな彼に対し、リアスが首を横に振った。

 

「イッセー。喜んでいる所悪いのだけれど、この子は男の子よ」

 

「「・・・え?」」

 

俺と兵藤君の声がハモる。いや、え? 男の子? この明らかに見た目美少女なこの子が?

 

「で、でも、女子の制服を!」

 

「女装趣味があるんです」

 

「なるほど」

 

女装癖よりもっと凄い性癖を持ってる子を知っている俺は、姫島さんの説明をすんなり受け入れた。しかし、リアル男の娘なんて初めて見たぞ。これは後で記念撮影をしておかないと。

 

「マ、マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」

 

兵藤君の方は未だ信じられない様子だったようで、驚きの声を張り上げていた。その声に、男の娘が再び悲鳴をあげる。

 

「ヒィィィィィィ! ご、ごめんなさい! 許してくださぁぁぁぁぁぁい!」

 

「こ、こんな残酷な事が許されていいのか! つーか、引きこもりのくせに何で女装癖なんだよ!」

 

「だ、だって、女の子の服の方が可愛いし・・・」

 

「ざけんなこらぁ! 返せよ! 俺の夢を返せよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

どうしてだろう。今の兵藤君の叫びは別の場面で使われるべきだったと思ってしまった。

 

「・・・人の夢と書いて、儚い」

 

おお、上手いな塔城さん。山田先生! 塔城さんに座布団一枚お願いします!

 

「と、ところで、この方達は・・・?」

 

男の娘が俺、兵藤君、アーシア、ゼノヴィアさんを指す。いかんいかん。すっかり自己紹介が遅れてしまった。ここは年長者として最初に名乗らねば。

 

「初めまして。神崎亮真だ。よろしく」

 

「アーシア・アルジェントです! よろしくお願いします!」

 

「・・・兵藤一誠」

 

「ゼノヴィアだ」

 

「イッセーとゼノヴィアは新しく増えた眷属よ」

 

「え? じゃ、じゃあ、そっちの人達は?」

 

「リョーマとアーシアは人間よ。最も、二人ともただの人間じゃないわ。アーシアは神器所有者だし。リョーマは・・・あの伝説のフューリーその人よ」

 

「そ、そうなんです・・・フューリィィィィィィィィ!?!?!?」

 

男の娘は絶叫しながら、体の震えを激しくさせていた。もうね、この反応にも慣れましたよ。

 

「そうよ。あの伝説の騎士があなたを迎えに来てくれたのよ? さあ、一緒に外に出ましょう」

 

「嫌ですぅ! 僕ごときがフューリー様に迎えてもらう資格なんて無いんですぅ! お外怖いよぉ! 僕なんて迷惑をかける存在でしかないのにぃ!」

 

「あー、わかったわかった! 泣きごとなら外で聞いてやるから!」

 

兵藤君が男の娘の手を掴む。あー、駄目だぞ兵藤君。そういう子には無理矢理じゃなく、まずは落ちつかせないと・・・。

 

「や、止めてぇ!」

 

男の娘が叫ぶ。その途端、表現のしようが無い変な感覚が俺を襲った。ただそれだけ。別に頭が痛くなったとかそういうわけじゃない。ただ、変な気分になっただけだ。

 

とりあえず謎の違和感は置いておいて、とりあえず兵藤君を止めよう。俺は兵藤君と男の娘に近づこうとした。

 

「な、ななななななんでぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

近付こうとする俺を見て顔面蒼白で叫ぶ男の娘。え、俺、別に変な事してないよね? なんでそんな怖がられないといけないわけ?

 

「ぼ、僕の神器が効かないなんて! 嫌ぁ! 近付かないでぇ!」

 

泣き叫ぶ見た目美少女へ近付く俺。・・・このシチュエーション。第三者から見たら俺って変質者じゃね? と、とりあえず落ち着かせないとな。

 

「あっ・・・!」

 

「大丈夫、落ち着いてくれ」

 

一瞬の隙を突き、俺は男の娘を抱き締めつつ頭を撫でた。とにかく、こちらに敵意が無い事を伝えないとな。抱き締めるのはやり過ぎかもしれないが、これくらいおおげさにしないとこの子には伝わらないかもしれない。野郎相手に抱きつくとかアレだが、男の娘ならギリギリセーフだろ。こういう時にナデポの力があれば便利なんだけどなぁ。・・・いや待て、男の娘相手に使ったら駄目だろ。

 

「は、離し・・・!」

 

「俺はキミを傷付けるつもりは無い。だからどうか落ちついて俺と話をしてくれないかな?」

 

逃げ出そうとする男の娘をしっかりホールドしつつ説得する。すると、徐々にだが彼の緊張が解れていくのがなんとなくわかった。

 

「・・・あ、あのぉ。もう大丈夫なんで離してくださいぃ」

 

まだ少しおどおどした感じの声だったが、そう言われたら離れるしかない。男の娘の背中と頭に乗せていた手を離して彼と向かい合う。若干顔が赤いが、この暑い時期に抱きついたりしたら暑いよな。ゴメンね。

 

「まずは、キミの名前を聞かせてくれないか?」

 

「ギャ、ギャスパー・ヴラディですぅ」

 

「そうか。よろしく、ヴラディ君。それで、どうして俺に対してあんなに怯えていたんだ? 特別キミを脅かすような真似をしたつもりはないんだが?」

 

「そ、それは、あなたが僕の神器の発動した中で普通に動いていたから・・・」

 

「キミの神器はどういう物なんだ?」

 

「え、えっと、『停止世界の邪眼』っていって、時を止められるんです。本当なら、あなたも他のみんなみたいに止まってるはずなんですけどぉ」

 

凄い名前だな。てか時を止めるって反則もいいところじゃないか。そして今気付いた。俺以外のみんなの動きが止まっている。でも、それならなんで俺だけ・・・

 

「・・・ああ。もしかして、『ラースエイレムキャンセラー』のおかげかもしれないな」

 

ゲーム内で、敵組織の使う時間兵器『ラースエイレム』に対抗する為に主人公機に搭載されていた装置だ。時を止める『ラースエイレム』と、それを無効化する『ラースエイレムキャンセラー』。チート兵器な割にイベントでちょこっとしか出なかった可哀そうな装置がまさかこんな所で役に立つとは。

 

「ラ、ラースエイレムキャンセラー?」

 

「ああ。詳しくは説明出来ないが、どうやら俺にはキミの神器は効かないみたいだ」

 

「じゃ、じゃあ! あなたも僕と同じ時間に関係する神器を持っているんですか!? ラースエイレムキャンセラーっていうのはその神器の名前・・・!?」

 

「いや、違う。これは俺の持つ能力の一つとでも言うべきか。・・・すまない、俺自身よくわかってないんだ」

 

そもそも、何で神器相手に効果が発動するのか。そこから俺にはわかっていない。そう答えると、ヴラディ君は落ち込んだ様子で顔を伏せた。

 

「・・・そうですか。けど、流石フューリー様ですね。僕なんかと違って完璧に制御出来てるみたいで羨ましいです」

 

「なら、キミは・・・」

 

「はい。僕は神器を制御出来てません。それどころかさっきみたいに暴走させちゃうんです。その所為で、みんな止まってしまう。友達も、仲間も。そしてその度に、みんな怖がる。みんな嫌がる。僕は、こんな神器なんて欲しく無かった・・・! この神器の所為で僕は一人ぼっちなんだ・・・! こんな神器を宿している僕なんて消えちゃえばいいんだ・・・!」

 

絞り出すような声で話すヴラディ君。ネガティブ思考に囚われている彼は、アル=ヴァン先生から言葉をもらう前の俺にどことなく似ている気がした。あの時の俺も、今のヴラディ君みたいに消えてしまいたいと度々思っていた。

 

だからこそ、ヴラディ君の気持ちはなんとなくわかる。だからこそ、ヴラディ君を放ってはおけない。だからこそ・・・俺はヴラディ君を導いてあげないといけない。俺にとって、アル=ヴァン先生がそうだったように。

 

「・・・俺がいるよ、ヴラディ君」

 

「え?」

 

「俺にはキミの神器は効かない。だから怖くないし嫌がりもしない。キミが俺を受け入れてくれるのなら、俺は絶対にキミを一人ぼっちにはさせない」

 

「フューリー様・・・」

 

「辛い思いをしてきたのだろう。悔やむ事もあったのだろう。俺も同じさ。自らの行いを何度後悔した事か。けれど、そのおかげで今の俺がいるのも事実なんだ。大事なのは、後悔を糧に自分を変えようとする勇気を持つ事だ。」

 

「・・・無理ですよ。そんな勇気、僕なんかが持てるわけが無いです」

 

「大丈夫。俺に出来たんだ。キミに出来ないわけがない」

 

ヴラディ君は今の自分を嫌っている。それは、今の自分から変わりたいと思っている証拠だ。きっかけさえ与えてあげれば、きっと彼は変われるはずだ。

 

思いの丈を全てぶつけた。そうして数秒の沈黙の後、ヴラディ君が囁くように口を開いた。

 

「本当に・・・本当に、僕も変わる事が、この神器を制御出来るようになれるんでしょうか?」

 

「ああ。諦めなければ、いつかきっとな」

 

「フューリー様も・・・見守ってくれますか?」

 

「もちろんだ」

 

「ぼ、僕は・・・えぐ、僕は・・・消えなくていいんでしょうか?」

 

「消える必要は無い。リアス達だってそう思っているはずだ」

 

「うう・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

大粒の涙を流しながら抱きついて来るヴラディ君を優しく抱きしめ返す。その瞬間、またあの謎の感覚が襲ってきた。さらに、止まっていたはずのリアス達が一斉に動き出す。そして、抱き合う俺達を見て呆気にとられていた。

 

「・・・どういう状況かしら?」

 

とりあえず、ヴラディ君が泣きやんでから説明させてもらおうかな。あやすように彼の頭を撫でつつ、俺はそう決めたのだった。




騎士(笑)と吸血鬼の異色師弟コンビ誕生! 果たして、彼らの道の行く先とは。

ギャー君はTSさせませんでした。彼は男の娘だから輝くと思うので。TSを望まれていた方、申し訳ありません。・・・まあ、後付けでどうとでもなるんですけどね。

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