ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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前回、前々回の感想の数を比較して、やっぱりみなさん、シリアスよりコメディを求めていると感じました。


第四十五話 覚悟

祐斗SIDE

 

僕は・・・いや、今この場にいる全ての存在が、目の前で繰り広げられる戦いに目を奪われる。二天龍対フューリー・・・。かつての伝説がこうして現代で再現されている事実に、僕はアニメに夢中な子どもみたいな興奮と喜びを感じていた。

 

きっかけはヴァーリさん。魔術師を殲滅した直後、彼女は突如として神崎先輩に勝負を挑んだ。イッセー君までも巻き込んでだ。

 

そして語られた二天龍の“誓い”。神崎先輩を倒す為に互いの力を高め合っていた二頭。・・・自業自得という言葉を、僕はそっと飲み込んだ。

 

やる気満々なヴァーリさんに対し、イッセー君は消極的だった。気持ちはわかる。先輩と戦うなんて悪い冗談としか思えない。コカビエルに勝てなかった僕達が、コカビエルを倒した先輩に勝てるわけない。

 

だけど、そんなイッセー君に対し、ヴァーリさんは厳しくも的を射た言葉を放った。将来、神崎先輩を殺すのは僕達かもしれないと。僕達の存在が先輩の弱点になると。

 

確かに彼女の言う通りだ。今の僕達は神崎先輩の足手纏いにしかならない。イッセー君はその言葉に酷くショックを受けたみたいで、顔がこわばっていた。

 

「・・・言い返せないのが余計悔しいな」

 

隣のゼノヴィアが苦虫を噛み潰したような顔をしている。彼女も思う所があるようだ。そして、それは僕も同じだ。部長の婚約も、コカビエルも、先輩がいなければ乗り越えられなかった。それは裏を返せば、先輩がいなければ僕達は何も出来ないという事になる。弱者の都合に強者を巻き込むな・・・。ヴァーリさんの言葉が胸に突き刺さる。

 

僕達は先輩に依存している。それは誤魔化しようのない事実だ。けど、それでいいのか? おそらく・・・いや、間違い無く、僕達はこれからも様々な相手と戦う事となるだろう。それは『禍の団』や、もしかしたら他の組織かもしれない。その中には、今の僕達では足元にも及ばない強大な敵だっているはずだ。

 

もし、そんな相手が僕達の前に現れたら? もし、その相手によって僕達が傷つきそうになったら? その時はきっと先輩は僕達を守ってくれるだろう。

 

なら・・・その先輩を守るのは誰だ? 未だあの人の力の全てをこの目にしたわけではないけれど、先輩にだって限界はある。いつか、先輩が危機に陥った時、手を差し伸べられるのは誰だ?

 

それはきっと、僕達だけだろう。先輩が友人である僕達を守ってくれるように、僕達も友人である先輩を助けないといけない。いや・・・僕は助けたい。平穏を望みながら、それでも守りたいものの為に剣を取り続けるあの誇り高い騎士様を。同じ騎士である僕が!

 

「・・・強くなりたいな。もっと、もっと・・・」

 

「ああ・・・私もだ」

 

無意識に出た呟きに、ゼノヴィアが頷く。

 

チラリと視線を向けると、先輩はフューリー・・・いや、以前聞いた話ではあれはラフトクランズという名前だったっけ? とにかく、あの鎧を纏っていた。素顔が見えない所為か、いつも先輩が放つプレッシャーよりもさらに冷たいそれが感じられる。

 

「さあ、亮真! 私を楽しませてちょうだい!」

 

ついに戦いが始まった。イッセー君を残し、ヴァーリさんが先輩へ襲い掛かる。僕の目でなんとか認識出来るほどの凄まじい速度で先輩へ向かって足を振り上げるヴァーリさん。対する先輩は両腕をクロスさせ、防御態勢に入る。

 

そこへ、ヴァーリさんが閃光の様な速度で蹴りを叩きこむ。だが、先輩は吹き飛ばされるどころか、その場に根を生やしたかのように僅かたりとも動かなかった。ダメージはもとより、衝撃すら完全に防ぎきってしまったようだ。

 

「触れたわね?」

 

攻撃が通らなかったにも関わらず、ヴァーリさんが不敵な笑みを見せる。そこで僕は彼女の狙いに気付いた。

 

『白龍皇』の神器・・・『白龍皇の光翼』は、触れた相手の力を半減させ、それを己が力へと変換させる力を持つと聞いている。彼女は先輩の力を奪うつもりなんだ。確かに、先輩のあの凄まじい力をそのままぶつけてしまえば、いくら先輩でも・・・。

 

だが、ヴァーリさんの狙いは失敗に終わった。それどころか、先輩から奪った力は彼女を追い込む事となった。

 

『Divide!』

 

「ッ!? あ、あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

力の奪取が完了した事を伝える音声が鳴り響いた直後、ヴァーリさんが胸を掻き毟りながら絶叫したのだ。背中の翼から噴出される光が、かつて無いほどに激しくなる。

 

―――な、なんという力だ!? 処理しきれん! ヴァーリ! すぐに吐き出せ!

 

強すぎる力は身を滅ぼす。今、ヴァーリさんは自分の許容量以上の力を得た事で、逆にその力に飲み込まれそうになったのだ。

 

「な、何が起こったんでしょう・・・!?」

 

いつの間にか、会議室にいた全員が集まっていた。ギャスパー君が落ちついた事で、停止したままだった朱乃さん達もそこに加わっていた。

 

「「・・・」」

 

セラフォルー様とカテレアは無言で撮影に夢中になっている。・・・うん、そっとしておこう。

 

「あの馬鹿。身の程も知らずに奪おうとするからだっての」

 

「アザゼル、彼女は」

 

「ああそうさ。フューリーから奪った力がデカ過ぎたんだ。制御出来ない力が暴れてアイツの体を蹂躙してんだよ」

 

やはりそうだったか。僕達が見つめる先で、なおもヴァーリさんがもがき続ける。その様子をジッと見つめる先輩は果たして何を思っているのだろう。

 

「はあっ・・・はあっ・・・! ふ、ふふふ、まさか、たった一度の半減でこんな目に遭うなんてね。素敵よ亮真。こんなの初めてだわ」

 

―――どうするヴァーリ? ヤツの力を半減出来ないとなると・・・。

 

「ええ、素の状態のままでは、先程の様に防がれてしまう。ここは赤龍帝君の倍加の力を借りられればいいのだけれど」

 

―――だが、ヤツは戦いを放棄した。助力は期待出来んぞ。

 

「だったら、私だけでやらないとね!」

 

ヴァーリさんが再度先輩へ向かって飛び掛かる。今度は直線的にでは無く、撹乱するかのように先輩の周囲を旋回しつつ拳を放つ。

 

「もらったわ!」

 

僅かに反応の遅れた先輩の顔面にそれが突き刺さる。これは効いたか? そう思ったのもつかの間。先輩は自身の顔を襲った手と、反対の手の両方を掴むと、それを握り締めた。

 

「いぎっ!?」

 

かつて、エクソシストの剣どころか、エクスカリバーすら素手で破壊しかけた先輩なら、彼女の両手を粉砕する事など容易い事だろう。現に、ヴァーリさんの手を覆う鎧に急速に罅が入り始めていた。

 

「・・・そう言えば、木場祐斗君。以前聖魔剣の事で話をさせてもらった時に、キミは言っていたよね。神崎君は素手で聖剣を破壊しようとしたと」

 

僕が頷くと、サーゼクス様を除いた全員が酷く驚いた。うん、当然の反応だと思うな。

 

「うぐっ・・・!」

 

両手を握り締めたまま、先輩が軽くヴァーリさんを押し出す。たったそれだけの動作で、彼女はイッセー君の所まで呆気無く吹き飛ばされていた。

 

イッセー君は先程から立ち竦んだままだ。彼の足下に、ヴァーリさんの鎧から外れた宝玉が転がって行くのが見える。

 

「そろそろ終わりにしないか?」

 

戦いが始まって初めて先輩が口を開いた。ヴァーリさんを気遣う様なその声色は、いかにも先輩らしい。例え戦っている相手でも、それが友人なら手を指し伸ばす。それを優しさと呼ぶか、それとも甘さと取るべきか。僕には判断がつかなかった。

 

「冗談! こんな楽しい戦いを止められるわけないじゃない! ええ、そうですとも! 諦めてたまるものですか! 亮真! 私が諦めるのを諦めなさい!」

 

正直言って、ヴァーリさんが勝てる見込みはこの時点ではほぼゼロだと言ってもいい。それでも、彼女の目には、言葉には、諦めの色は感じられなかった。

 

絶対的な強者を前にしても臆する事無く挑み続ける。その姿が、どこまでも眩しく、どこまでも羨ましく見えた。

 

「俺は楽しくもなんともないのだがな・・・」

 

空へ舞い上がったヴァーリさんを、先輩も溜息を吐きつつ、背中から青白い炎を噴射させて追う。結界に覆われた空で、蒼き騎士と白き龍が幾度となくぶつかり合う。

 

「・・・私達に必要なのは、あの子みたいな強さなのかもしれないわね」

 

イッセー君の所にいたはずの部長がいつの間にか傍にいた。ヴァーリさんに向ける目には、どこか憧憬の様な物が込められている気がした。そして、それは部長だけでは無かった。

 

「ごちゃごちゃ考えるのは止めだぁ! いくぜドライグゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

『Welsh Dragon over booster!!!』

 

どこか吹っ切れた表情を見せ、イッセー君が禁手を発動させた。勇ましい鎧姿となった彼は、ヴァーリさんが落とした宝玉を拾い上げた。

 

―――相棒、それをどうするつもりだ?

 

「神器は想いに応えて進化する・・・。お前は前にそう言ったよな」

 

―――その通りだ。

 

「なら、俺は進化してみせる! 今までの弱い自分を変えてみせる! ドライグ、俺の想いに応えてくれ!!」

 

決意の込められたイッセー君の言葉に、ドライグも力強く答える。

 

―――ははははは! 面白い! 面白いぞ相棒! だが、それを望むのなら死を覚悟する必要があるぞ? お前にその覚悟はあるのか?

 

「上等だ! 死だろうがなんだろうが、絶対に越えてみせる! ドライグゥ! お前もそうだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

―――応っ! 俺も覚悟は出来ている! 我は赤き龍の帝王! この程度の障害など乗り越えて見せるさ!

 

一体何をするつもりだ? そう思った直後、イッセー君は自分の右手の甲にはめ込まれていた宝玉を自ら破壊し、そこへヴァーリさんの宝玉をはめ込んだ。

 

「はっはあ! 面白え! アイツ、『赤龍帝』と『白龍皇』の力を融合させるつもりか!」

 

相反する二つを混ぜる。僕と同じだ。だけど、それは本来ありえない現象だ。故にそれを成す為には相応のリスクや代償を負う可能性が・・・。

 

「う、が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

「イッセー!?」

 

右手を押さえながら絶叫するイッセー君に、部長が悲鳴にも似た声をあげる。あれが、あの痛みが融合の代償か!

 

「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

「兵藤君!?」

 

尋常じゃない叫びに、先輩は動きを止めてイッセー君の方へ顔を向ける。その声に反応するかのように、イッセー君も先輩の方へ顔をあげる。

 

―――何を考えているドライグ!? 誓いを果たさぬまま消滅するつもりか!?

 

信じられないといった様子のアルビオンに対し、ドライグが答える。

 

―――相変わらずお前の冗談は笑えんなアルビオン! 心配せずとも見ているがいい! 俺と相棒の進化をな!

 

進化・・・。ああそうだ。進化だ。イッセー君はまさしく進化しようとしているのだ。今までの自分を変える為に。

 

「強くなってやる! あの人の背中を追いかけるんじゃなく、あの人の隣に立って戦う為に!! だから・・・俺の想いに応えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

『Vanishing Dragon Power is taken!!』

 

そして、イッセー君は掴み取った。新たな自分を。新たな力を。その右手に輝く白い籠手と共に。

 

「『白龍皇の籠手』・・・。これが俺の覚悟の証だ!」

 

・・・イッセー君。今僕は、純粋にキミを凄いと思った。ヴァーリさんの言葉を否定せず、自分の弱さを受け入れ、そしてそれを乗り越えようと決意し、その為の可能性を掴み取ったキミを。

 

「先輩・・・。俺の覚悟を受け止めてください!」

 

言い様も無い高揚感が僕の全身を駆け抜ける。ただひたすらに熱い。体の震えが止まらない。武者震いと言った方がいいかもしれない。

 

「どうしてかな。今すぐあの場に乱入したくてしょうがない」

 

「はは、僕もだよゼノヴィア。だけど・・・」

 

「ああ、今回はあの二人に譲ろう。いずれ機会があれば、私も神崎先輩に挑んでみたい」

 

「その時は僕も参加させて欲しいな。騎士同士の戦いだ。きっと楽しいだろうね」

 

「ふ、そうだな・・・」

 

先輩、僕達の事も受け止めてくださいね?

 

祐斗SIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

なんだろう。一瞬ものっそい寒気がしたんだけど・・・。風邪でも引いたかな?

・・・なんて、くだらない事考えてる場合じゃないか。

 

OHANASHIするためにラフトクランズモードになったのはいいけど、さっきから色んな事が起こり過ぎて混乱するわ。ヴァーリさんは絶叫するし、結局兵藤君まで参加してるし、かと思ったら彼も絶叫するし・・・。

 

しかも、またイケメン化したよ彼。すっげえカッコイイセリフと共になんかパワーアップしたみたいだけど、何であんなに熱血しちゃってんのかな?

 

もしかして、ヴァーリさんを傷付けた俺に対して怒ってたりして・・・。誤解だよ? 俺はただ停戦といえば握手だろうと思って彼女の手を握っただけなんだよ? でも、女の子大好きな彼からしたら、女の子を傷付けた俺が許せないんだろうな。一応、ヴァーリさんに『信頼』かけたから大丈夫だとは思うけど。手加減って難しいね。

 

しかし、あれだね。今の俺達を現すなら、兵藤君が熱血主人公でヴァーリさんがヒロインって感じかな。・・・あれ、それだと俺って悪役?

 

「驚いたわ。まさか、私の力を取り込むなんて」

 

「ヴァーリちゃん。キミのおかげで目が覚めたよ。一緒に戦わせてくれ!」

 

「・・・いい気迫ね。さっきの負け犬根性丸出しだった時とは別人のようだわ。期待させてもらうわよ、赤龍帝君」

 

「兵藤一誠だ。好きに呼んでくれ」

 

「なら・・・行くわよ、一誠!」

 

「おう!」

 

もうキミ達付き合っちゃえば? 今のやり取りを見てそう思ったのは俺だけじゃないはず。

 

「先輩! 俺が先輩と共に歩む資格があるかどうか、この戦いで見極めてください!」

 

むしろ今のキミのイケメンっぷりに俺がついて行きたいです! いや、マジであの短い間で彼に何があったの?

 

まあいいか。どちらにせよ、兵藤君もOHANASHIしないと引っ込んでくれそうにないし。ここはアル=ヴァンモードも合わせて発動させるしかないな。

 

「いいだろう。・・・来い、兵藤君!」

 

SIDE OUT

 

 

リアスSIDE

 

ついに赤き龍帝と白の龍皇が並び立った。二つの龍の力を宿した者達が立ち向かうは、絶対的な力を誇る気高き騎士。

 

それにしても、イッセー。リョーマもだけど、あなたにも驚かされてばかりね。見せてもらうわ、あなたの“覚悟”を。それが、きっと私の“覚悟”にも繋がるはずだから。

 

―――相棒。パワーアップしたのはいいが、その所為で禁手を保つ時間が食われた。残り五分を切ったが、何とか出来るか?

 

「そんだけありゃあ充分だ! 俺の全力を先輩に見せてやる!」

 

「一誠。力を奪えない私では、亮真の防御を突破する事は出来ない。でも、あなたの倍加なら、限界まで溜めればもしかしたら・・・」

 

「へへ、コカビエルの時と同じだな。よっしゃ、任せろ! ヴァーリちゃんは時間を稼いでくれ!」

 

「了解」

 

リョーマに対し、ヴァーリが三度目の攻撃をしかける。今度は接近戦は挑まず、遠距離からの魔力弾でリョーマを攻める。無限に等しい魔力弾が四方八方から彼に襲い掛かった。

 

けれど、リョーマはまるで気にしていないかの様に、背中から激しく炎を吹き出しながらヴァーリの元へ向かい始める。弾幕の中を駆け抜ける騎士は、その体にいくつもの魔力弾の直撃を受けているにも関わらず、その速度を緩める事は無かった。

 

その姿に私は思った。リョーマの真の恐ろしさは、コカビエルを簡単に沈める攻撃力ではなく、むしろ、あれほどの攻撃を受けても全く意に介さない防御力の方ではないのかと。思い返せば、これまでリョーマが戦ってきた相手は彼に掠り傷一つ負わせていなかった。果たして、この世界でリョーマにダメージと呼べるものを与えられる者は存在するのだろうか。

 

「もう、ちょっとは痛がってよね・・・!」

 

決して接近を許さず、ひたすらリョーマから距離を取り続けるヴァーリ。そして、それをひたすら追い続けるリョーマ。彼は先程の会話を聞いていた。ヴァーリが時間を稼いでいる事だって気付いているはず。それなのに、どうしてイッセーを狙わず、ヴァーリに目を向けるのか・・・。

 

少し考えて、私はすぐに理解した。というより、彼の性格を考えれば悩む必要なんて無かった。リョーマはイッセーが言った、“覚悟”を受け止めるつもりなのだ。あの子の全力に真正面から挑み、その上で示すつもりなのだろう。自分との差を、あの子が目指す場所がどれほど高いのかを。

 

そして信じているのだろう。それを知ってもなお、イッセーは自分の所まで駆けあがって来ると。リョーマはとっくにイッセーを認めていたのだ。それが羨ましくて・・・悔しかった。私はまだそこに至っていないから。力も覚悟も、今の私には足りないから。

 

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost!!!!!!!!』

 

「まだだぁ! もっと・・・もっと高めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「違う・・・明らかに今までのイッセーと・・・!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost!!!!!!!!』

 

イッセーの周囲で幾度となく爆発が起こる。地面が抉れ、校舎の窓ガラスが一つ残らず割れ、外壁までもが崩壊を始めていた。体から発せられるオーラが質量を持つまでに膨れあがり、あの子の体を包み込んでいる。

 

「これは・・・凄まじいな。流石赤龍帝と言うべきか・・・」

 

「ふん、スケベ根性だけは立派で、実際は人間に毛が生えた程度のヤツだと思っていたが・・・少しだけ評価を上げてやる必要がありそうだな」

 

「なんという魂の輝き・・・。あれが彼の“覚悟”という事ですか」

 

各陣営のトップがそれぞれ感心と驚きを込めた言葉を口にする。対象的に、私の眷属達は、この光景に圧倒されているのか、固まっている。

 

―――相棒! 準備完了だ!

 

「おっしゃあ!! ヴァーリちゃん!! 後は俺に任せろぉ!!」

 

イッセーの指示を受け、ヴァーリが下がる。リョーマも、ここでようやくイッセーを視界に捉えた。

 

「いきます、先輩! これが・・・今の俺の全力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

イッセーが腰を落とす。その状態のまま、両手を上下で合わせ、そこへ魔力球を生み出す。それは瞬く間に大きさを増していく。文字通り、自身の全てが込められたそれを、イッセーはついに解き放った。

 

「ドォォォォォォラァァァァァゴォォォォォォンンンンン・・・ショットォォォォォォォォォ!!!!」

 

撃ったイッセーの五倍・・・いや、十倍はあろうかという巨大な魔力球が、地面を抉り、大気を震わせ、進行上のあらゆるものを破壊しながら一直線にリョーマに迫る。

 

「リョーマさん!」

 

アーシアが叫んだ直後、リョーマが動いた。彼の背中から肩に向かって二つのユニットがせり上がると同時に、腹部に開いた穴に急速に緑色の光が収束していく。肩のユニットにも同様に光が集まり始める。

 

「・・・おい、サーゼクス。アレはヤバいぞ」

 

「ああ、わかってる。みんな! 衝撃に備えろ!」

 

お兄様の指示にみんながすぐさま地面に伏せる。その状態を保ちつつ顔を上げた私の目の前で、リョーマはそれを発動させた。

 

「オルゴンキャノン・・・発射!!!」

 

魔力球に向かい、腹部と両肩から一斉に放たれた緑色のエネルギー波。互いが互いを呑み込まんとするかのように、二つの力が激しくぶつかり合う。その結果、校舎は跡形も無くなっていた。

 

凄まじい光と音が私を襲う。気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうになるのを、必死で耐える。やがて、光と音が治まった時、そこには魔力球も緑色のエネルギーも何も残っていなかった。

 

「へ・・・へへ、これでも届かなかったか。やっぱ・・・先輩は凄・・・」

 

禁手が解け、イッセーがその場に崩れ落ちた。私達はすぐさま駆け寄った。

 

「イッセー! 大丈夫!?」

 

―――心配するな。疲れで気絶しただけだ。そっとしておいてやってくれ。

 

「そう・・・」

 

ドライグの言葉にホッとする。お疲れ様、イッセー。あなたの“覚悟”・・・確かに見せてもらったわ。私も、そんなあなたの『王』として相応しい器になる事を誓うわ。

 

「一誠は大丈夫なの?」

 

降りて来たヴァーリがイッセーの顔色をうかがう。

 

「ええ。疲れて気絶しただけみたいよ」

 

「そう・・・」

 

「それで、あなたはまだ続けるの?」

 

継戦の意思を確認すると、ヴァーリは小さく首を横に振った。

 

 

「流石に、アレを見た後で続ける気は起きないわ。勇気と無謀は違うもの」

 

「それはよかった」

 

元の姿に戻ったリョーマがやって来た。あれだけの戦いを繰り広げたというのに、その顔に疲れは感じられなかった。

 

「完敗だわ、リョーマ。敗者は勝者に従うのがルール。さあ・・・私を好きにすればいいわ。そう・・・エロ同人誌みたいに!」

 

好きねそのネタ・・・。リョーマも呆れたのか頭を抱えている。

 

「と、とにかく、戦いは終わりね。とりあえず、イッセーを保健室に・・・」

 

「いんや〜。凄かったなぁ。思わず仕事も忘れて見入っちまったぜぃ」

 

聞き覚えの無い声が私の言葉を遮った。その正体を探す為に視線を動かすと、そこには一人の男性が立っていた。

 

「あら、美侯じゃない。どうしたのよ?」

 

ヴァーリが親しげに声をかける。

 

「迎えに来たんだぜぃ? 好き勝手遊ぶ時間は終わりだぜぃ。そろそろ北の田舎神族とやり合うから帰って来いとさ」

 

「あら、そうなの? わかったわ」

 

「ちょ、ちょっとヴァーリ。誰よその人?」

 

「彼は美侯。闘戦勝仏の末裔よ」

 

「闘戦勝仏?」

 

「こう言った方がわかりやすいか? こいつは孫悟空。西遊記に出て来るクソ猿だよ」

 

突然アザゼルが会話に割り込んで来た。補足として、実際には孫悟空の力を受け継いだ猿の妖怪なのだとか。けど、今はそれはあまり重要では無い。大事なのは、何故このタイミングで現れたのかという事だ。

 

「おいヴァーリ。お前こいつとつるんで何をやっている?」

 

「丁度いいわ、アザゼル。たった今から、私は『禍の団』の元へ向かうから。あなたとはここでお別れね」

 

「何だと!?」

 

突然の宣言に驚愕する私達に対し、ヴァーリがさらに続ける。

 

「私が求めるのは戦い。あなたの下にいるより、あっちにいた方がより多くの強者と出会えるでしょうからね」

 

「そういうわけさ。んじゃあ、お別れのあいさつも済んだ事だし。そろそろ・・・」

 

 

「・・・行かせない」

 

リョーマがヴァーリの手を掴んだ。あまりの速さに誰も反応出来なかった。

 

「ヴァーリさん、行ってはいけない。キミはあんな場所にいてはいけないんだ」

 

「あら、私がどこで何をしようと、あなたには関係無いじゃない」

 

「関係はある」

 

「え・・・?」

 

リョーマはヴァーリの目をしっかりと見つめながら続ける。

 

「大切な友人が間違った道を進もうとしている。ならば、それを止めるのが俺の役目だ」

 

「ッ・・・!」

 

初めて、ヴァーリの顔に動揺の色が浮かんだ。他者を寄せ付けず、一人での強さを求める彼女にとって、今の言葉は衝撃だったのかもしれない。

 

「でも・・・それでも私は・・・」

 

「ヴァーリさん?」

 

「美侯。お願い・・・!」

 

「あいあいさぁ」

 

美侯が手にした混を地面に突き立てる。瞬間、地面に闇が出現し、それに捉われたヴァーリと美侯の体が沈み始めた。

 

「ヴァーリさん!」

 

掴まれた手を払い、ヴァーリが彼に告げる。

 

「さようなら、亮真。次に会う時は本当に敵同士ね」

 

そして、完全に闇に沈む直前、彼女の囁き声が私に届いた。

 

「・・・ごめんなさい。それと・・・ありがとう」

 

その言葉を最後に、ヴァーリと美侯の姿は私達の前から消えたのだった

 

リアスSIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

ヴァーリさんが消えて行った地面をじっと見つめる。これで彼女にペロリスト属性が付いたら、止められなかった俺の所為になるのかな・・・。

 

「リョーマ。あなたなら力ずくで止められたらと思うけど、何か考えがあるの?」

 

確かに、止めるだけなら力に訴えてもいいかもしれない。けど、それでは意味が無い。そんな事をすれば、彼女の性格からしてきっと反発を招いてしまう。おそらく、今止めたとしても、再び『禍の団』に行こうとするだろう。

 

ならば、俺に出来る事は、ひたすらに説得し、彼女自身の意思で『禍の団』を抜けてもらう事だけだ。

 

待ってろよ、ヴァーリさん。必ずキミの目を覚ましてみせるからな!

 

決意を新たにする俺の前で、たくさんの悪魔や堕天使、天使のみなさんが滅茶苦茶になった校庭や校舎の片付けを始めていた。そういえば、どーすんだこれ? 修理費用とか俺も払うべきなのかな?

 

もしそうなら、何とか払える範囲で治まるように・・・! そう願いつつ、俺は作業の様子を眺めるのだった。

 


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