ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
気絶した兵藤君が目を覚ましたのは、ヴァーリさんが美侯と名乗った男性と共に消えてから三十分ぐらい経ってからだった。彼を含めて、俺達は改めて話し合いを行う事となった。校舎がぶっ壊れてる所為で、校庭の中心での話し合いとなってしまった。ホント済みません。
けど、あの時、兵藤君がぶっ放して来たヤツには本気でビビった。あれって、以前の合宿で山一つ消し飛ばした技で間違い無いよな。流石に食らうわけにはいかなかったし、バリアも意味無いと思って、こっちもラフトクランズ唯一の内蔵武器だったオルゴンキャノンで何とか相殺を狙った。万が一の事を考えて出力を抑えて撃ったが、成功してよかった。
「アザゼル、彼女は・・・」
ヴァーリさんの事を言っているのだろう。サーゼクスさんから向けられた視線に、アザゼルさんも両手を振りながら答える。
「まあ、ある意味必然とも言えるか。アイツは露出狂でドMだが、それ以上に力を追い求める女だったからな。言われた時は驚いたが、時間が経った今なら納得出来るってもんだ」
「『白龍皇』が『禍の団』にか・・・。厄介だな」
「そうか? 案外、すぐにでも離反しそうだけどな」
「何故そう思うのですか、アザゼル?」
「なに、少々変わってはいるが、アイツも女って事だ」
アザゼルさんが意味深な視線を送って来る。そこには期待のようなものが込められている気がした。
「ああそうだ。おい、赤龍帝」
「いいかげんその呼び方止めてくれ。俺には兵藤一誠っていうちゃんとした名前があるんだ」
「なら兵藤一誠。正直、お前の実力はまだまだだ。未熟な者が相手であればいいが、格上の者や、『赤龍帝の籠手』の能力を把握している者が相手からすれば御しやすいものだ」
「わかってる。俺は・・・」
「それを指摘した上で言わせてもらう。・・・兵藤一誠。お前の見せた“覚悟”を俺は認める。それを抱き続ける限り、お前はどこまでも強くなれるはずだ」
「・・・え?」
アザゼルさんの評価に、兵藤君が呆けた顔を見せる。あれは、まさか褒められるとは思わなかったといった感じの顔だ。
「アザゼルの言う通りだ。イッセー君。キミは正に『赤龍帝』の力を振るうに相応しい男だ。今後も期待しているよ」
「これからも努力なさい。いつか、彼の隣に立てる事を祈っておきますね」
「え、あ、その・・・」
サーゼクスさんとミカエルさんにも褒められて、兵藤君が完全に固まってしまった。そりゃあ、あんな凄い人達から褒められたらそうなるよな。
「イッセー。あなたはそれだけのものを見せたのよ。もっと胸を張りなさい」
「カッコよかったですわよ、イッセー君」
「・・・ちょっと見直しました」
「僕の目標が一つ増えたよ」
「私も、イッセーさんみたいに弱い自分を変えたいです」
「見事だった。・・・私にはそれ以上の言葉が見つからない」
「ぼ、僕も、立ち向かう大切さを学んだ気がします」
「俺は・・・」
リアス達からも称賛され、兵藤君は自分の手を見つめながら小刻みに震えている。あれかな。嬉しくてしょうがないからか?
そこへ、リアスがそっと耳打ちして来た。
「リョーマ。あなたからも何か言ってあげて。きっと、あなたの言葉を一番に待ってるはずだわ」
俺みたいな覚悟もクソも無い人間の言葉なんてむしろ失礼じゃない? でも、なんか兵藤君も期待してる感じだし。ならばここは最大限の敬意を持って言わせてもらおう。
「兵藤君。キミは本当に強くなった。これからも、お互いに色々助け合っていける事を願うよ」
「ッ・・・! お、俺なんかが、先輩の助けになるでしょうか?」
「もちろん。頼りにさせてもらうぞ」
「は、はい! 俺の方こそ、よろしくお願いします!」
爽やかさと力強さの混じったイケメンスマイルを向けて来る兵藤君。眩しい! 目が! 目がぁぁぁぁぁ!
「んふふ~♪ フューリーさんと二天龍の戦い。これは凄い物が撮れちゃったな~」
「セラフォルー。わかっているとは思いますが・・・」
「もっちろん。DVDに焼いてあげるからね」
「そりゃいいな。おい、セラフォルー。ウチにも何枚か寄越してくれよ。連中が喜ぶぜ」
「私にも分けて頂きたいのですが・・・下手したら堕天する者が増えてしまいそうですね」
「ミカエル様。何故私を見るのです?」
お供の女天使さんを見つめるミカエル様。それに対し、怪訝な表情を返す女天使さんに、ミカエルさんが柔らかな笑みを浮かべる。
「いいえ、他意はありませんよ」
「OK~! 出来たらそれぞれの所に送ってあげるから、楽しみにしててね」
「その前に、カテレアには事情聴取をさせてもらいたいのだけどな」
「何ですって!? サーゼクス、あなた私とフューリー様を引き離すつもりですか!?」
怒りの形相で詰め寄るカテレアさんに、サーゼクスさんもやや圧倒されながら答える。
「望んで入ったわけでは無いとはいえ、キミが『旧魔王派』だったのは事実だ。疑いを晴らす為にも改めて話を聞かせてもらえれば助かる」
「ですが・・・」
「・・・それで容疑が晴れれば、大手を振って神崎君と出会えるよう私がとりなす事を約束しよう」
「何でもお答えします!」
サーゼクスさんが耳打ちした途端、カテレアさんが急に事情聴取に乗り気になってしまった。一体、何を伝えたのだろう・・・。
「と、ところで、さっきから気になってたんですけど、そのエr・・・セクシーなお姉さんは誰なんですか?」
あ、そっか。ブラディ君を助けに行った兵藤君や、停止していた子達からしたら、カテレアさんって初めて見る人か。
「彼女はカテレア・レヴィアタン。旧レヴィアタンの血を引く悪魔だ」
「ついでに、フューリーにイカれて色々残念になっちまった女でもある」
「失礼ですね、アザゼル。私のフューリー様に対する想いは純粋なんですよ」
「はっ! 自家発電のネタにしてたのに純粋とかよく言うぜ!」
「うええ!? そ、それって・・・」
「イッセー君。それ以上は駄目だと前に念押ししたよね?」
木場君が恐ろしいほどの無表情で兵藤君の肩を掴む。怖い! なんか知らんが怖いよ!
「リョーマ・・・あなたって本当に・・・」
リアスはリアスでジト目で睨んで来る・・・あれ、朱乃にアーシア、それに塔城さんまで一緒だ。止めてよ、それもちょっと怖いんだから。
その視線に気付かないフリをしながら、サーゼクスさん達のやりとりを黙って眺め続ける。すると、今度はいつの間にか俺の話になっていた。
「神崎君。今回もキミには非常に助けられた。そこでだ、お礼に、私達が出来る範囲での願いを聞いてあげようと思うのだが。何がいいかな?」
まさかのご褒美に面食らう俺。いやだって、俺はただ自分の感情に任せてペロリスト共をぶちのめしただけだ。いわば俺の都合で暴れただけ。それなのにお礼なんてもらうわけにはいかないだろ。
「いえ、俺はそんなつもりでは・・・」
「んな事は百も承知だ。でも、それじゃ俺達の気が済まねえんだよ」
「アザゼルの言う通りです。そもそも、かつて我ら三陣営を救ってくれた英雄に何もお返し出来ていない事がおかしいのです。遠慮せずに言ってください。お望みなら、赤龍帝殿に贈ったアスカロン以上の剣を差し上げますよ」
ミカエルさんの主張はとてもありがたいんだけどなぁ。正直、現状で満足な生活が送れてるし、これ以上望む事なんて・・・。
『―――私は、今の生活で充分幸せだから・・・』
あるじゃん、俺。そうだ。何よりも望む事があったじゃないか! 彼女を・・・今も苦しんでいる彼女を解放する事が、俺の望みだ!
「・・・俺の望みはただ一つ。黒歌の事だけです」
SIDE OUT
小猫SIDE
三陣営のトップからの直々の褒美。望むなら、それこそ手に入らない物なんて存在しないと思う。
「・・・俺の望みはただ一つ。黒歌の事だけです」
なのに・・・それなのに・・・神崎先輩はそう言った。富でも名声でも力でも無い。あの人の・・・姉様の事を。
「黒歌? どうしてはぐれである彼女の名前が。・・・いや、待てよ。そう言えば、先程会議室で見た映像に一瞬だけ彼女が映っていた気が・・・」
サーゼクス様のおっしゃる通り、さっき見たビデオには神崎先輩によって回復された姉様の姿が映っていた。
「今、黒歌は俺の家で生活しています」
「どういう事だ? 何故キミと黒歌が・・・?」
腑に落ちない様子のサーゼクス様に、神崎先輩が姉様との出会いを話した。私はすでに聞いていたけど、改めて思う。姉様が汚されなくて本当によかった。そして、姉様を助けてくれた神崎先輩には心から感謝を。
「サーゼクスさんは黒歌が過去に何をしたのかはご存知だと思います。指名手配までされているみたいですからね。俺も彼女の口から聞きました。それを踏まえた上でお願いします。彼女の罪の帳消し。もしくは罪の軽減は出来ないでしょうか?」
それを聞いて私は確信した。先輩、あなたはあの日の・・・プールから帰って来てからの姉様との約束を果たすつもりなんですね。あの時、私も聞いてたんですよ。あなたが、姉様の事をサーゼクス様にお願いするつもりだった事を。その時はとても驚いて、とても嬉しくてちょっと泣いちゃいました。先輩が、そこまで姉様の事を大切に思ってくれている事が。
「だが、彼女の犯した主殺しは・・・」
「それも聞きました。そして、その裏にあった真実も」
「真実?」
「塔城さん。話してもいいかな?」
こんな時にでも私を気遣ってくれる先輩。それが少し・・・ううん、とても嬉しかった。だから私は、迷う事無く首を縦に振った。
私の了解を得て、先輩は姉様が主殺しをした本当の理由を話した。それを聞いたサーゼクス様の表情が変わる。
「・・・そうか。あの事件の背景にそんな事が」
「黒歌は塔城さんを守る為に罪を犯した。それは変わりようの無い事実です。ですが、たった一人の肉親を守る為にやってしまった事を“悪”と断定するのはあまりにも悲し過ぎはしませんか?」
感情に訴えるかの様な先輩の口調に、サーゼクス様の瞳が揺れる。そこへ、アザゼル・・・様が、からかうように先輩に尋ねた。
「フューリー。もしもサーゼクスが許さなかったら、お前はどうするつもりだ?」
「そうですね。黒歌が俺の所へいると知られてしまったわけですし。・・・彼女を連れて逃げましょうか」
「そりゃいい! そうなったら俺の所に来いよ。お前の力の研究もしたいし、歓迎するぜ」
楽しそうに笑うアザゼル様。もし本当にそうなったら、先輩に守ってもらえる姉様はきっと大丈夫。でも、それだと、私の前から姉様と先輩がいなくなってしまう事になる。それは・・・それだけは嫌だ。私はもう、姉様と離れたくない。神崎先輩だって・・・その、優しくて、頼りになる素晴らしい人だし、これでお別れなんて寂しい。うん、そう、それだけ。他意なんて無い。
「アザゼル。さりげなく神崎君を勧誘するのは止めてくれ」
「それはお前の選択次第だぜ。フューリーが留まるか、それとも、俺の所に来るか」
それが止めの一言だった。サーゼクス様は小さく溜息を吐かれると、神崎先輩に向かって口を開いた。
「・・・わかったよ。キミの願いを叶えよう。今この場で、黒歌の罪を不問とする事を誓おう」
ッ・・・! や、やった。やりましたよ姉様! 神崎先輩がやってくれました! これで、これで姉様も・・・!
「ど、どうしたんだ、小猫ちゃん!?」
イッセー先輩が私を見て驚いている。その顔と、頬を流れる熱い物に、私はようやく自分が涙を流している事に気付いた。
「・・・何でもありません」
「で、でも、泣いて・・・」
「いいんです。これは悲しくて泣いているんじゃないですから」
むしろ逆。私は今とても嬉しくて、とても幸せなんです。あの人の、先輩のおかげで・・・。
涙を拭う私を、先輩はいつものように優しい笑顔を向けてくれた。
トクン・・・!
あ・・・まただ。またあの不思議な感覚だ。コカビエルとの戦いの最中にも抱いた、表現出来ない不可解な感情。だけど、嫌じゃない。むしろ、どこか幸せな気持ちになって来る。
神崎先輩に対するその気持ちが一体何を表しているのか。今からちょっとだけ遠い未来に、私はとても恥ずかしい目に遭わされる事で思い知らされる事となるのだった。
次回こそ終わらせます。