ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第五十五話 つかの間の休息

「フューリーさーん!」

 

帰りの電車を待っていると、セラフォルーさんが手を振りながらこちらへ駆け寄って来た。さっきまでキッチリしたスーツ姿だったのに、今は例の魔法少女コスを身に纏っている。

 

「はあ、よかったぁ。間に合った」

 

「セラフォルー様。どうなされたのですか?」

 

「リアスちゃん。ちょっとだけフューリーさんとお話しさせてもらっていいかな?」

 

彼女の登場に不思議そうな顔をするリアスに、セラフォルーさんが目的を話す。わざわざ追いかけて来てまでする話なんて・・・は、もしや、先程の会合でメンチビームなどと失礼な真似をしでかした俺に一言物申しに来たのだろうか。

 

「ええ。構いません。でしょ、リョーマ?」

 

「・・・ああ」

 

ビクビクしながら頷く。やってしまったものは仕方ない。大人しく怒られる事にしよう。

 

「ありがとう。それじゃ、フューリーさん、こっちに来て」

 

そう言って、みんなから少し離れた所へ移動した所で、セラフォルーさんが再度口を開いた。その顔に、とても嬉しそうな笑みを浮かべながら。

 

「あのね、フューリーさん。さっきはソーナちゃんを、ソーナちゃんの夢を守ってくれてありがとう。私、とっても嬉しかった!」

 

あれ? 説教どころかお礼言われてしまったぞ。メンチビーム撃ってからの俺って何しでかしたんだろう。誰かまた録画とか・・・してないですよね。

 

「ソーナちゃんの夢、今の冥界じゃ叶えるのは大変だと思う。上級悪魔の多くは、あのオジサマ達みたいな考えの人がほとんどだから」

 

もちろん、私は応援するけどね! と付け加え、セラフォルーさんの言葉は続く。

 

「でも、その中でフューリーさんみたいに真っ直ぐに応援してくれる人がいる事は、あの子にとって凄く励みになると思うの。だから、これからもどうか、ソーナちゃんを応援してあげてくれないかな。あなたに見守ってもらえれば、ソーナちゃんもきっと頑張れるはずだから」

 

「もちろんです。彼女の夢はとても尊い。俺は、俺に出来る全力で彼女を応援します」

 

俺に出来る事なんてたかがしれているだろうが、それでも、あんな立派な夢を持つ友人の為なら、何だってやる覚悟はある。それが、彼女への恩返しにもなるだろうし。

 

「えへへ、聞くまでも無かったかな。フューリーさんなら、きっとそう言ってくれるって思ってたから。それでね、これは個人的に興味があって聞くんだけど、フューリーさんの夢って何?」

 

夢・・・か。正直、俺にはリアスや支取さんの様な明確な目標や夢なんて無いんだよな。それこそ、こんな人外魔境な世界で毎日生きて行くのに精いっぱいだし。

 

「そうですね・・・。多くは望みません。人並みの幸せで充分です」

 

「人並みの幸せ?」

 

「ええ。職に就いて、生涯のパートナーを見つけて、天寿を全うする。そんなありふれた夢です」

 

リアス達に比べたら普通過ぎる夢。けど、俺にとっては大切な夢だ。前世じゃ二番目と三番目を叶える事無く逝ってしまったからなぁ。この体なら三番目は叶えられそうだけど、二番目は・・・うん、頑張ろう。具体的にどうしたらいいかさっぱりだけど。

 

「・・・そっか。そうだよね。フューリーさんは、そんな当然の夢すらも叶えられない様な世界からやって来たんだもんね・・・」

 

セラフォルーさんが神妙な顔で呟く。その様子は、俺の夢を肯定してくれているようで、ちょっと嬉しかった。

 

「わかった! 私に任せて、フューリーさん! このレヴィアたんが、あなたの夢を叶える手助けをしてあげるね!」

 

ビシっとポーズを決めたと思ったら、すぐにそれを崩して、胸の前で両手の人差し指をつつき始めるセラフォルーさん。手助けってなんだろう。・・・就職先でも紹介してくれるのだろう。

 

「そ、それでね、パートナーが欲しいっていう夢なら、今すぐでも叶えられるんだけど・・・」

 

『まもなく、列車が参ります。危険ですので、白線の内側までお下がりください』

 

その時、ホームに響くアナウンスが、セラフォルーさんの言葉をかき消した。

 

「すみません、セラフォルーさん。アナウンスの所為でよく聞こえなかった・・・ん・・・」

 

俺の言葉は最後まで続かなかった。何故なら、セラフォルーさんの様子が豹変したからだ。

 

ゴゴゴゴゴ!

 

そんな効果音が今のセラフォルーさんには相応しかった。先程までの可愛らしい顔を無表情に変えその場に立つ彼女はまさに“魔王”だった。

 

「フューリーさん・・・。ちょっと用事が出来たから、私は行くね」

 

「わ、わかりました。こっちも電車が来たみたいですから失礼します」

 

俺は逃げるようにセラフォルーさんの横を通って、たった今ホームに入って来た電車に向かった。

 

「ふふふ、女の子の一世一代の告白を邪魔してくれたお邪魔虫さんには、きっつ~いお仕置きをしてあげないとね」

 

よくわからんが、誰かが彼女を怒らせてしまったようだ。心の中でその誰かに合掌しつつ、俺はグレモリー領へと舞い戻るのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「なるほどねぇ、シトリー家か」

 

リアス宅へ戻った俺達を迎えてくれたのはアーシアと黒歌、そしてアザゼル先生だった。考えてみれば、サーゼクスさんが会合の場にいたんだから、話し合いだって終わってたはず。だからこの人がここにいるのも当然か。

 

「人間界の時間って言うと・・・今から計算して二十日間か」

 

「やっぱり修行ですよね?」

 

尋ねる兵藤君に、先生は当然だとばかりの表情で頷く。

 

「早速明日から開始するぞ。すでに各自のトレーニングメニューは考えてある。フューリー。お前にも手伝ってもらうぞ」

 

「わかりました」

 

それ以外にも、確かカテレアさんに会う事になってるし、アガレスさんのお家にもお邪魔する事になるかもしれない。おお、今の俺ってひょっとしてリア充ってヤツでは!?

 

・・・はい、言ってみただけです、すみません。

 

「でも、俺達だけ堕天使総督に加えて、先輩にまで協力してもらっていいんですかね」

 

「俺は悪魔側にデータを渡した。天使側もバックアップするとかいう話だ。あとは若手の連中のプライド次第だな。真に強さを欲するのなら、んなくだらねえもんに拘ってるヒマも無いだろうが」

 

「・・・どんなに無様だって、最後に勝てばいい」

 

「え?」

 

「ある人物の言葉だ。彼はさらにこう続けた。無様も晒せない負け犬が、一丁前に吠えるなと」

 

ふと、今のアザゼル先生の言葉で思い出した。カッコイイセリフだけど、あの絶望しか無い世界で戦う“彼”だから言えるセリフだよな。言った後で何だが俺が口にしても寒いだけだわ。

 

「中々に的を射た言葉だな。それはそうと、フューリー。シトリー側もセラフォルー経由でお前に協力を要請して来るかもしれない。判断は任せる。好きにしな。どうやら、あっちに手を貸す“理由”も出来たみたいだしな」

 

いや、それは無いでしょう。むしろ、俺が行ったら邪魔にしかならない気がする。

 

「話は以上だ。明日は朝食後に庭に集合しろ。そこで改めて修行の内容について説明する。気合い入れろよ」

 

各々に気合いの籠った返事をするリアス達。そこへ、狙いすましたかのようにグレイフィアさんが姿を現した。

 

「お話がまとまった所で、温泉のご用意が出来ましたのでよろしければご利用ください」

 

温泉って個人の家にある物なんですか? 冥界じゃそれが普通なの? それともこの家が凄過ぎるの? そこんところどうなんですか、グレイフィアさん。

 

「お、いいねぇ! やっぱり冥界といえば温泉に限る」

 

なるほど、つまり冥界=温泉というわけですか。・・・いや、なるほどじゃねえよ。何でその二つが=で結ばれてるんだよ。もう今後何があろうとも「冥界だから」で通していいんですかね。

 

「冥界で屈指の名家であるグレモリーの私有温泉とくれば、名泉も名泉だろう。今から楽しみだぜ」

 

ウキウキ顔のアザゼル先生に触発されたのか、みんなもそれぞれに温泉についてしゃべりだした。

 

「そうね。会合で疲れちゃったし、早速入ろうかしら」

 

肩に手をやりながらそう言うリアス。確かに、この中で精神的に一番彼女が疲れているだろう。

 

「うふふ、ここの温泉に入るのも久しぶりですわね」

 

いつもの微笑みを浮かべる朱乃。久しぶりって事は、何回か入った事があるんだろうな。

 

「白音、一緒に背中を流しっこするにゃ」

 

そう言いながら、手をワキワキさせる黒歌。明らかに洗う動きじゃないよね。

 

「いいですけど。・・・変な所触らないでくださいね」

 

警戒した様子で黒歌に返事をする塔城さん。黒歌、もしや前科があるのか?

 

「ふむ、ならアーシア、私達も互いに背中を洗ってみるか?」

 

そんな姉妹に触発されたのか、横のアーシアに提案するゼノヴィアさん。元々外国人だった彼女は、もしかしたら初温泉になるのかな。

 

「はい、ゼノヴィアさん! 精一杯頑張ります!」

 

妙に気合いを入れているアーシア。何事も一生懸命な彼女らしい。きっとゼノヴィアさんの背中はツルツルピカピカになるだろう。

 

「そういう事なら、僕もイッセー君の背中を・・・」

 

それが当然と言わんばかりに兵藤君を見つめる木場君。・・・うん、他意は無いよね。

 

「だが断る! お前にだけは絶対に背中を任せんぞ!」

 

全身で拒否の意を示す兵藤君。本来、背中を任せられる友人のはずなのに。

 

「うう・・・そ、そんな、神崎先輩と裸の付き合いなんて、僕には難易度が高すぎますぅ・・・」

 

ヴラディ君、キミも男でしょうが。それと、俺だけじゃないからね。兵藤君も木場君もアザゼル先生もいるんだからね。てか、何で俺の名前を引き合いに出すの。なんか俺が危ない人みたいな感じじゃないか。

 

そんな感じで、俺はそれぞれの会話や言葉に心の中で感想を漏らした。なんだろう、以前のプールを思い出してしまった。

 

最も、今回は露出強な“彼女”はいないから、ゆっくりのんびり温泉を楽しめるはずだが。・・・はずだよね?

 

というわけで、俺達はそれぞれの部屋に一旦戻り、着替えを持って温泉へと向かうのだった。




次回は、この手の小説ではお約束の温泉回。最も、プールの時の様な事にはならないでしょうけど。ええ、なりませんとも。

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