ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第五十六話 壁に○○

グレイフィアさんが言っていた温泉は、庭の一角にひっそりと位置していた。純和風の造りは風情があっていいと思うが、冥界で日本を感じられるなんて不思議な感覚だな。

 

「旅ゆけば~」

 

乳白色の温泉に浸かっているアザゼル先生が上機嫌に歌っている。相変わらずいい声だ。そういえば確か、歌を歌うなら風呂場とかで歌った方がいい声になるって聞いた事があるな。喉が乾燥しないからだったっけ?

 

「生き返るぜぇ。これで後は酒と女がいれば完璧なんだがなぁ」

 

いや、先生としてそのセリフはどうかと思いますよ。木場君もどう答えたらいいのか困ったのか、曖昧な笑みを見せている。

 

「そういえば、兵藤君とヴラディ君は?」

 

「二人ならあそこですよ」

 

木場君が指したのは脱衣場と温泉を繋ぐ入口。そこにはヴラディ君の腕を掴んでいる兵藤君がいた。恥ずかしがっているヴラディ君を兵藤君が説得中といったところだろうか。

 

それはいいんだが、ヴラディ君。キミは何故に胸元までタオルで隠してるのかな。もう見た目完全な女の子なんだが。事情を知らない人が見たら兵藤君が無理矢理女の子を男湯に引きこもうとしている様にしか見えない。

 

「だから、いつまでも恥ずかしがってたってしょうがないだろ」

 

「だ、だって・・・。うう、こっち見ないでくださいよぉ」

 

「というか、何だよその格好! 男なんだから胸を隠すな! いくら女装癖があるからってそこまで女の子みたいにされたら戸惑うわ!」

 

「ひっ! ま、まさか、イッセー先輩、僕の事をそんな目で・・・!」

 

ブチ!

 

あ、キレたな・・・。

 

「吸血鬼一体入りまぁぁぁぁぁぁぁっす!!!」

 

突如、ヴラディ君を抱え上げた兵藤君が、そのまま彼を温泉の方へ放り投げて来た。狙ったつもりではないだろうが、綺麗に俺の方へ飛んで来たので、反射的にキャッチする。

 

「っと、大丈夫か、ヴラディ君」

 

「うーん・・・は、はうあ!? か、かかかか神崎先輩ぃ!?」

 

所謂お姫様抱っこの形で俺の腕に収まったヴラディ君の顔が瞬く間に赤く染まる。まだお湯に浸かって無いのに早くね? 場の雰囲気に当てられたのか?

 

「兵藤君、流石に危ないぞ」

 

「すみません、先輩。ですが、反省はしていますが、後悔はしていません!」

 

何かをやり遂げたかのように晴れ晴れとした顔を見せる兵藤君。いや、俺にどう返せと? まあいい、とにかくヴラディ君を降ろそう。

 

「降ろすぞ、ヴラディ君」

 

「は、はいぃ!」

 

降ろすやいなや、肩までお湯に沈めながらススっと離れた場所へ移動するヴラディ君。左胸に手を当てながら深呼吸している。やっぱり投げられたのが怖かったのだろう。

 

とりあえず、騒ぎも一段落したので、改めて全員で温泉に浸かる。ああ・・・気持ちいい。温泉なんて何年ぶりだろうか。

 

しばし無言の時が続く。そうなると、必然的に俺達以外・・・女湯の方からの声が耳に届いて来た。

 

『リアスったら、また胸が大きくなったのね。ちょっと触ってもいいかしら?』

 

『え? 別にそんな・・・ふぁっ! ちょ、ちょっと、なんで先っぽまで摘むのよ!』

 

『うふふ、相変わらず感度がいいわね』

 

『どれどれ~。私にも触らせるにゃ~』

 

『く、黒歌・・・ひあっ!? や、止め・・・そこは関係無いでしょ!』

 

『ほ~れほれ。ここかにゃ? ここがいいのかふぎゃっ!?』

 

『何をやっているんですか、姉様』

 

『まあまあ、ここは無礼講といきましょうよ、小猫ちゃん?』

 

『ひにゃっ!? あ、朱乃先輩、そこは・・・!』

 

『はあ・・・羨ましいです。私もお湯に浮くくらい大きければ・・・』

 

『アーシア。私がクラスメイトから聞いた情報では、揉んでもらうと大きくなるそうだぞ。どれ、私が試してみよう』

 

『ちょ、ゼノヴィアさ・・・きゃうっ!? あ、だ、駄目ですぅ、こんなのぉ・・・』

 

『む、そういえば、「好きな相手」というのが抜けていたな。まあいい、私のと違って、アーシアのは触り心地が素晴らしい。もう少し堪能させてもらおう』

 

・・・あー、その、なんだ。温泉だから気が大きくなって、普段やらない様な事をやっても仕方ないよな。ここは聞かなかった事にしてあげるのが優しさだろう。

 

「ところで兵藤く・・・」

 

空気を変えたかったので、適当に話を振ろうとして兵藤君の方を向いたら・・・そこにはおびただしい量の鼻血を両方の鼻の穴から噴き出している兵藤君がいた。

 

「兵藤君!?」

 

「・・・先輩。教えてください。俺はあと何回鼻血を出せばいいんでしょうか。ドライグは俺に何も言ってはくれないんです・・・教えてください、先輩」

 

そりゃそんな事聞かれてたってドライグさんも答えられないよ! いいからまずは温泉から出て鼻血を止めようよ!

 

意識が朦朧としているのか、意味のわからない事を口にする兵藤君を温泉から引っ張り上げ、『友情』をかける。これで、彼の鼻血を止めたのは二回目だ。にしても、精神コマンドをこんな使い方していいのかなぁ・・・。

 

「情けねえな、イッセー。あの程度の内容で鼻血なんざ、いかにも童貞らしい反応だぜ」

 

呆れ顔でそう言うアザゼル先生に、回復した兵藤君が反論する。

 

「し、仕方ないでしょ。むしろあれで反応しない方がおかしいですって!」

 

「その様子じゃ、女の胸を揉んだ事もつついた事も無さそうだな」

 

「つ、つつく!? それってどこを!?」

 

「乳首に決まってるじゃねえか」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

猥談を始める兵藤君とアザゼル先生。似た者同士とでも言えばいいのか、とにかく、ああなった二人は止められないし、そっとしておこう。

 

「そういえば、先輩。ここの温泉って飲めるらしいですよ。ほら、あそこに・・・」

 

会話に入らない俺を気遣ってか、木場君がそう言って視線を向けた先には、お椀みたいにくりぬかれた大きな石に、温泉がなみなみと注がれ、傍に柄杓が数本置かれていた。

 

「飲んでみますか、先輩?」

 

「そうだな、せっかくだし、ヴラディ君はどうする?」

 

「じゃ、じゃあ、僕も」

 

という事で、二人を連れて飲泉場に向かう。背後から「乳首は玄関のブザーじゃないんですよ!」という兵藤君の声と、「いや、あれはブザーさ。押すと鳴るんだよ・・・いやーんってな」と返すアザゼル先生の声が聞こえて来た。なんちゅう会話だ。

 

「そうだ。フューリー。お前に聞きたい事があるんだが」

 

「何ですか?」

 

柄杓でお湯を掬いながら、アザゼル先生の聞きたい事とやらを待つ。すると、彼はとんでもない事を聞いて来た。

 

「お前、リアス達と同棲してるみたいだが、もう一人くらい抱いてやったのか?」

 

「ぶっ!?」

 

予想だにしない問いかけに、俺は口の中のお湯をぶちまけた。そのせいで、目の前の木場君の顔にそれがかかってしまった。

 

「す、すまない、木場君!」

 

「・・・先輩の出した白濁液が僕の顔に」

 

アウツ! その表現完全にアウツ! お湯がかかっただけだから! ただの乳白色のお湯だからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「ア、 アザゼル先生! 何て事を聞くんですか!?」

 

「別におかしくはないだろう。男と女が一つ屋根の下で暮らしてんだ。そういう流れになるのが普通だろう」

 

「ど、どうなんですか、先輩! 俺、気になります!」

 

キミはどこぞの古典部か! とにかく、勘違いしているようだからハッキリ言っておかないと。彼女達にも迷惑がかかるし。

 

「どうも何も、俺と彼女達はそんな関係じゃないですよ」

 

「お前、ひょっとしてあれか? 恋人以上の関係にならないと抱く気にならないとかいうヤツか?」

 

「それが普通じゃないんですか?」

 

他はどうか知らないが、俺の中の倫理感に当てはめれば、それが当然といえる。

 

「イッセーもだが、お前も大概だな。いい女が身近にいるのに抱かないなんて逆に失礼だろうが! グダグダ考えている暇があれば抱け! 抱いてから考えろ!」

 

おかしいな、何で俺の方が怒られてるんだろう。というか、抱け抱け言わないでくださいよ恥ずかしい。

 

「それとも何だ。お前にとってリアス達は女としての魅力が無いとでも言うのか?」

 

「そんなわけないじゃないですか。彼女達はみんなとても魅力溢れる素敵な女性だと思ってますよ」

 

そこだけはキッチリ明言させてもらう。むしろ、彼女達に魅力を感じない男がいたら見てみたいわ。

 

「なら、語ってもらおうか。お前の言うリアス達の魅力ってヤツを」

 

「いいですよ」

 

売り言葉に買い言葉。俺はアザゼル先生に誘導されるように、リアス達の魅力について語り始めた。

 

この時、俺がもう少し冷静だったら気付けていただろう。アザゼル先生のニヤついた表情が何を意味していたのか。

 

そして・・・さっきまで騒がしかった女湯からの声が全く聞こえなくなっていた事に。




次回は女湯からの視点の話になります。はてさて、何故女湯の方は無言になったのでしょうかね。

それと、ご期待されていた方々には申し訳ありませんが、露出強と残念さんは出ません。流石に今の立場でここに出すのはまずいので。

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