ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
サーゼクスSIDE
「お帰りなさいませ、サーゼクス様」
「ただいま、グレイフィア」
魔王として忙しい日々の中、奇跡的に取れた休日を使って、僕はグレモリー邸に帰って来た。どうも、僕の周りは優秀で心配性な者が多い。今回の休みも、働き過ぎだから休んでくれとお願いされてのものだ。
とはいえ、突然の休みで予定も何も無かった僕が思いついたのは、こうして愛する妻と息子がいるここへ帰って来る事だけだった。
そういうわけで、グレイフィアを連れて部屋へと向かう途中、彼女は気になる事を口にした。
「ミリキャスの様子がおかしい?」
聞き流せる内容では無さそうなので、詳しい説明を求める。なんでも、最近ミリキャスはほぼ一日中自室に引き籠っているそうだ。さらに部屋の明かりが深夜遅くまで点灯しているらしく、気になったメイド数人が部屋を訪れても扉に鍵をかけたままで返事もしないとの事だ。
「私も事情を尋ねてはみたのですが、「やるべき事をやっているだけ」の一点張りでして。目の下にクマを作ってまでやるべき事とは何なのでしょう・・・」
「ふむ・・・」
「ですので、サーゼクス様からもそれとなく聞いて頂けないでしょうか。あなたから聞かれれば、流石のあの子も話してくれるでしょうし」
「わかった。この話は僕に任せてくれ」
「お願いします」
「・・・それとグレイフィア。今の僕は魔王では無くキミの夫だよ?」
期待を込めた目で見つめると、グレイフィアは戸惑っている様だった。
「ですが、誰が聞いているかわかりませんので」
「そんな事を気にする様な者はこの家にはいないさ」
促すようにそう言うと、ようやくグレイフィアは観念した様子だった。
「で、では・・・サーゼクス」
「うん、よろしい。互いの立場も大事だけど、愛する夫婦同士、やっぱり呼び捨てじゃないとね」
「別に呼び方など関係無く、私はあなたを愛して・・・」
「ん? 何か言ったかいぐふっ!?」
「わざとらしく聞き返さないでください」
い、いや、確かにバッチリ聞こえてたけど、躊躇い無く鳩尾って酷く無いかな・・・?
蹲る僕を尻目にスタスタと歩いて行くグレイフィア。
「・・・でも、あなたのそんな所も好きですけど」
そんな呟きが耳に届く。・・・ああ、全く困ったものだ。彼女のこういう所を見る度に僕は毎回こう思ってしまう。僕は世界で一番可愛い妻を得たのだと。
惚気? ああ、惚気さ。それがどうしたというんだ。どうせ誰にも聞かれていないのだ。心の中でくらい惚気たっていいじゃないか。
衝動的に後ろから抱き締めたくなったが、僕はその気持ちを抑えた。幸い、休みは二日ある。彼女を可愛がる時間はたくさんあるからな。
だけど、これくらいなら言っても構わないよね。
「愛してるよ、グレイフィア」
「ッ・・・!?」
一瞬だけ肩を震わせるグレイフィア。だけどそれだけだ。振り返りもしないし、何かを言うわけでもない。でもそれでいい。それが彼女だから。
さてと、これ以上置いて行かれるわけにはいかないな。僕は早足でグレイフィアを追いかけるのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
部屋で少し休んだ後、リーア達にも挨拶しておこうと思ったが、よく考えればあの子達は今度のレーティングゲームに向けての鍛練の最中だった。その最中に邪魔するのも悪い気がしたので僕は挨拶を断念した。それに、今じゃなくても、食事の席で顔を合わせるのだから問題は無い。
なので、僕はミリキャスの部屋へ向かう事にした。今日も朝から部屋に閉じこもっているらしい。
グレイフィアを伴ってあの子の部屋の前に立つ。ノックをして数秒・・・返事は無い。
「ミリキャス? いないのかい?」
「いえ、部屋を出た様子はありません」
ならばとドアノブを回してみると、部屋の扉は呆気無く開いてしまった。中に入ってミリキャスの姿を探すと、あの子は机に突っ伏していた。
「何だ・・・?」
机の上には山の様に重なった紙と、何十本ものペンが置かれていた。その異常とも言える量に、僕もグレイフィアも目を丸くする。いったい、この子は何をやっていたのだろうか。
「ミ、ミリキャス・・・?」
「すう・・・すう・・・」
傍に近づいたグレイフィアが恐る恐る声をかけるが、ミリキャスは応えない。代わりに聞こえて来たのは規則的な寝息だった。
「どうやら眠っているようです。けど、こんな時間からどうして・・・」
「・・・原因はこれだね」
眠っているミリキャスの下敷きになっていた紙を引っ張り出す。それは原稿用紙だった。その原稿用紙の最初の部分を読み上げる。
「『鋼の救世主』第一章 バルマー戦役 第五十話 ヴァリアブル・フォーメーション」
「どういう意味ですか?」
グレイフィアの問いに首を横に振る事で答える。『鋼の救世主』、バルマー戦役、ヴァリアブル・フォーメーション・・・その全てが初めて聞く単語だったのだから。
「どうやら、架空の戦争を記した物語のようだね」
興味が湧いた僕はそれを黙読する事にした。グレイフィアも気になったのか、近くの原稿用紙を手に取りそれに目を落としている。
親馬鹿と言われるかもしれないが、ミリキャスは中々に聡明な子だ。こうして小説家の真似事をするのもこの子らしいとは思う。だが、言い方は悪いが、所詮は子どもの空想の産物レベルのものだろう。
しかし、僕のその考えはすぐに消える事となった。そこに書かれていた物語は、僕の想像を遥かに上回る、壮大にして壮絶な戦士達の戦いの記録だった。僕は瞬く間にその世界に引き込まれてしまった。
途中までしか書かれていないそれを読み終え、僕はすぐさま別の原稿用紙に手を伸ばした。それを読み終え、また別の用紙を、さらにそれを読み終えて別の用紙へ手を伸ばす。
三十分、いや、一時間は経っただろうか。僕はようやく物語から抜け出す事が出来た。正直まだまだ読んでいたいが、そろそろ潮時だろう。ちなみに、この一時間の間、グレイフィアは一言も声をかけてこなかった。間違い無く、彼女もこの物語に引き込まれていたのだろう。
「・・・まさか、ミリキャスにこんな才能があったなんて」
「いや、この物語はミリキャスの考えた物じゃないよ」
「え?」
「ここを見てごらん」
僕は一枚の原稿用紙を指した。
―――この物語を『鋼の救世主』、そして彼らと共に戦い続けた『騎士様』へ捧げます。
「騎士様? ・・・ッ! まさか・・・!」
「う、ううん・・・」
その時、ミリキャスが眠りから目覚めた。寝ぼけ眼で僕とグレイフィアの顔を交互に見た直後、顔を驚愕させ立ち上がる。
「お、お父様にお母様!? あ、あれ、何で・・・!?」
「おはよう、ミリキャス。ちょっと休みが取れてね。こうして帰って来たんだ」
「そ、そうだったんですか。・・・はっ! ご、ごめんなさいお父様! お出迎えもせずにこんな・・・!」
「気にしないでいいさ。それでミリキャス。起きて早々で悪いんだが、この大量の紙と、ここに書かれている物語は一体何なんだい?」
僕の問いに、ミリキャスはバツの悪そうな表情を浮かべた。
「よ、読まれたのですか?」
「うん、バッチリね。とても素晴らしい物語だと思うよ。特に、最初に読んだ五十話のSRXというロボットの合体はとてもよく書けていたよ」
「私は、四十六話のヒュッケバインMk-Ⅲ起動シーンが・・・」
「ほ、本当ですか!? 僕もその場面を聞いた時は凄く興奮しましたから、そう言ってもらえて嬉しいです!」
満面の笑みを見せるミリキャスの頭を撫でる。同時に今の言葉で確信した。これはミリキャスが考えた物語では無く、“誰か”から聞かされたものだと。
その“誰か”の正体をほぼ確信しつつ、僕はミリキャスに尋ねた。
「ミリキャス。このお話を聞かせてくれたのは誰なんだい?」
「え、えっと・・・フューリー様です」
ああ、やっぱりそうだったか。予想通りの名前が出たので、僕は特に驚かなかった。
それにしても、どうして彼はミリキャスにわざわざ自分の過去の戦いを話したのだろう。ふと浮かんだ疑問を口にすると、ミリキャスは真剣な顔でこう言った。
「・・・わかりません。ですが、僕はあの方の過去を僕だけしか知らないままでいるのは駄目だと思ったのです。だから、こうして形にしたかったんです。それが・・・僕の役目で、使命だと思うから・・・」
そう答えるミリキャスの顔は“子ども”では無く、何かを固く決意した立派な“男”のものだった。
「なるほど。深夜まで明かりが点いていたのは、ずっと執筆を行っていたからだったというわけですね」
「ごめんなさい、お母様」
「怒っているわけではありません。ですが、自分の体も大切にしてください。・・・神崎様もあなたが無理をする事は望んでいないはずです」
「・・・はい」
「ミリキャス。その物語はいつ完成する?」
「ええっと、バルマー戦役編はもう少しで完成しますけど、まだ第二章のイージス計画編と第三章の封印戦争編、それと最終章の終焉の銀河編が残ってますから、まだまだかかりそうです」
「なら、今書いている物が完成したら、すぐに僕に読ませてくれ」
「それは構いませんけど・・・」
「その顔・・・何か企んでいますね、サーゼクス」
「企むとは酷いなぁ。僕はただ、可愛い息子の使命に協力しようと思っているだけだよ」
さて、そうと決まれば、今から撮影用の予算を考えておかないと・・・。
サーゼクスSIDE OUT
後にミリキャス・グレモリーによって発表される事となる『鋼の救世主』。著者の父親にして魔王であるサーゼクス・ルシファーにより、その世界はさらなる広がりを見せる事となるのだった。
「あら、リョーマ。顔が青いわよ。どうしたの?」
「いや、変な悪寒が・・・。何だか以前もこんな事があった様な・・・」
急に頭に浮かんだので書いてしまった。本編も進めずに何やってるんだろう俺・・・。
これからもたまにこういう感じで幕間を書くかもしれませんが、どうぞご容赦ください。
それと、ツンデレ成分が足りないので、この小説ではグレイフィアさんに担当してもらう事にしました。