ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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本編も進めます。


第六十四話 彼女が残念になった理由

料理、さらにはサービスで頂いたデザートまですっかり平らげ、今はまったり食後のティータイム中。他にお客さんがいないので、店の三人も加えて一つのテーブルで談笑していた。

 

「そういえばカテレアちゃん。アンタこの間フューリー様とお会い出来たって話してたけど、あれから何か進展はあったのかい?」

 

噴き出しそうになった紅茶を何とか飲み下し、俺は呼吸を整えた。いきなりむせかけた俺に対し、ボルドさん達が不思議そうな顔を向けて来る。あ、ボルドさんっていうのはここの店主の人の名前だ。ちなみにおかみさんがマテリアさん、娘さんの名前がレイラさんだ。

 

それはともかく、何故ここでフューリーの名が出て来るんだ。・・・いや、待て。確かアザゼル先生は最初こう言っていた。

 

―――というか、すでにお前の復活を知らない者を探す方が難しいだろうな。

 

あれは流石に言い過ぎだろうとタカをくくっていたのだが、こうして実際に冥界にやって来てそれが誇張でも何でもない事を実感した。バアルさんを含めた若手悪魔さんも俺の事知ってたし、それ以前に街中でのざわつきも、列車から出た時のみなさんの反応だって、今にして思えば納得が出来てしまう。

 

あんまり深く考えない様にして来たけど、俺ってとんでもない事をしてしまったのかもしれない。前世では何の取り柄も無い一般人だったのに、まさかここまで注目される様な人間になってしまうとは。

 

俺の望みだった平穏な生活・・・。ひょっとしてその夢への道は、最初の段階から思いっきり逸れてしまっていたのかもな。・・・だからと言って諦めるわけにはいかない。逸れてしまったのなら戻せばいいだけ。今は騒がれてるけど、きっと一過性のものだろう。それさえ過ぎればきっとみんな忘れるはずさ。うん、今後は“自分から”目立つような事をする事もないだろうしな。

 

「どうしたの? 急にむせたと思ったら難しい顔をして」

 

レイラさんが俺の顔を覗き込んで来る。俺は首を振り、気にしないで欲しいと伝えた。

 

「それならいいけど。・・・あーあ。私も写真じゃなくて本物のフューリー様に会いたいなぁ」

 

「・・・え?」

 

写真? え、写真!? ど、どういう事だってばよ!? 何でこんなごく普通のお宅に俺の写真があるの!?

 

「す、すみません。今レイラさんが言った写真というのは・・・!?」

 

「え、あなた読んでないの? 魔王、サーゼクス・ルシファー様の妹でいらっしゃるリアス・グレモリー様の婚約パーティーの最中に現れた伝説の騎士、フューリー様のお姿が写ってるあの新聞を」

 

初耳です! ええ、初耳ですとも! いや、そりゃあ、あの凄い両家の婚約という事でそういう人があの場にいた事には納得出来るけど、何で主役じゃなくて俺を撮ってんの!? あの時の俺って遅刻した挙句騎士ごっこなんてふざけた事やらかしてパーティー台無しにした張本人なんですけど!

 

色々と混乱している間に、レイラさんが店の奥に引っ込み、少しして一枚の新聞を片手に戻って来た。

 

「ほら、これがその新聞だよ」

 

俺は渡された新聞にすぐさま目を通した。マテリアさんが「こんな大ニュースを知らないなんて、アンタどんだけの田舎から出て来たんだい」とか言ってるがそんな事はどうでもよかった。

 

まず目に飛び込んだのはでかでかと書かれた『蘇る英雄! 紅き姫の元へ参上した伝説の騎士!』という見出しと、その下にこれまたでっかく載せられたラフトクランズモードの俺の姿が写っている写真だった。それを見た瞬間、衝動的に「な、なんじゃこりゃあ!?!?!?」と太陽に向かって吠えたくなってしまった。だが残念! 冥界には太陽は無い!

 

―――この日行われるのはグレモリー家とフェニックス家の婚約パーティー・・・のはずだった。しかし、我々が目にしたのは伝説の騎士の復活という奇跡の瞬間だった。かつて、我ら悪魔、そして堕天使、さらに天使の三陣営を二天龍から救った英雄フューリー。なんとその正体は人間! しかもリアス・グレモリー様のご学友であった! 前々号を読んで頂いた方はご存知だろうが、今回の婚約、リアス・グレモリー様は納得しておらず、婚約相手であるライザー・フェニックス様とレーティングゲームを行い、勝てば婚約破棄とする約束を交わした。だが前号に記した通り、結果はライザー・フェニックス様の勝利で終わった。その結末はちょっとした物議をかもしだしたが、とにかく婚約は予定通りとり行われるはずであった。その会場に現れた一人の青年。「すまない、グレモリーさん。少々遅れてしまったようだ」。会場にいた上級悪魔さえも圧倒するプレッシャーを放ちながら、リアス・グレモリー様にそう語りかける青年の口調はどこまで優しかった・・・。

 

・・・駄目だ。とりあえず一行目から読んでみたけどもう限界です。チラッと“フューリー語録”とか見えたけど、ここから先を読む勇気が俺にはありません。しかも下の方にはフェニックスさんの炎に焼かれて上半身裸になった俺の姿の写真がある。なんでよりによってそれを載せるんですかね。

 

「私もこの新聞一部持ってるよ。劣化しない様に厳重に結界をかけて保存してるんだぁ」

 

「この新聞の反響って凄かったみたいだよ。新聞社に何百、何千もの問い合わせがあったんだって。中には他の写真が欲しいとか、新聞に載ってた半裸の写真のカラーが欲しいなんて電話もあったって聞いてるよ」

 

「あ、それ私です。ちなみに私は鑑賞、保存、さらに夜のお供用に三部確保しています。元々、私がフューリー様のご復活を知ったのはこの新聞ですからね。私にとっては特別な物なのです」

 

軽く現実逃避としゃれこんでた間に、セラフォルーさん達が何やら話しこんでいた。いいなぁ。俺も仲間に入れてくださいよ。ダイオウイカの生態とか、ジャージの裾についてる「足掛」の存在意義とか何でもいいから話しましょうよ。

 

「アンタ・・・見てごらんよ。カテレアちゃんのあの活き活きとした顔・・・!」

 

「へ、へへ、悪い母ちゃん。さっき調理中にぶちまけちまった香辛料が今になって効いてきちまった。俺の代わりに存分にカテレアちゃんを見てやってくれ」

 

で、お二人はお二人で何で泣いちゃってるんですか。もうカテレアさんを見る目が完全に親レベルになってる気がするんですけど。

 

そうやって一人疎外感を味わっている俺は静かに天井を見上げた。ああ、誰か俺を癒してくれないだろうか。・・・帰ったら黒歌に猫モードになって思いっきりモフらせてもらえるようお願いしてみようかな・・・。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「ありがとうございました~!」

 

「またいつでも来いよ!」

 

「カテレアちゃん! その二人、絶対大切にするんだよ! それがアンタの為なんだからね!」

 

すっかり話しこんでしまった所為で時間的に夕方になってしまった。ボルドさん達の声を背に、俺達は店を後にした。

 

「お邪魔しました」

 

「また遊びに行くからね~」

 

「だから! それは誤解だと・・・!」

 

どうやらカテレアさんのボッチ誤解は最後まで解けなかったようだ。それを可哀そうに思いつつ、歩きだす俺達。入り組んだ場所なのでタクシーを呼ぶと迷わせるかもしれないので大通りに出るまで歩く事になったのだ。

 

「楽しかったね、フューリーさん。カテレアちゃん」

 

「そうですね・・・」

 

俺が楽しめたのは料理を食べ終わる所まででしたが。

 

「・・・そうですね。ええ、本当に。こんなに楽しかったのは久しぶりです」

 

カテレアさんの声のトーンが今までと違う。思わず立ち止まる俺とセラフォルーさんに対し、カテレアさんが再び口を開く。

 

「誰かと一緒に食事をして、たわいない話で盛り上がる。・・・こんな何気無い事を、私は随分と長い間忘れていました。旧魔王派にいた頃の私は一人でしたから」

 

やる気がなかったから当然ですけどね、とカテレアさんはおどけた様子で続ける。

 

「その切っ掛けを与えてくださったのは・・・他の誰でも無い、フューリー様です。“あの時”もそうでした。私が“カテレア・レヴィアタン”から“カテレア”になる事が出来たのも・・・。あなたは出会うたびに私に切っ掛けを与えてくださいますね」

 

「カテレアさん?」

 

「ふふ、この先はまた次の機会にいたしましょうか。そうすれば、またこうしてフューリー様とお会い出来ますし」

 

人差し指を口に当てながら微笑むカテレアさん。その表情はとても晴れ晴れとしていて、そして、とても綺麗だった。

 

(やべ、カテレアさんの顔がまともに見れん・・・!)

 

残念さが目立つ女性だけど、普通に綺麗なんだよな。そんな人がどうして俺にここまで好意的なのかも、ひょっとしたら今言いかけた事が関係しているんだろうか。だとしたら、俺には聞く義務があるのかもしれない。

 

「ねえ、カテレアちゃん。私は?」

 

「あなたは別に。・・・ま、まあ、全く感謝していないと言えば嘘になりますけど」

 

「ホント!? 嬉しい!」

 

「ぐえっ!?」

 

セラフォルーさんの腹部へのダイブという名のタックルを受けたカテレアさんが勢いよく後ろに倒れた。

 

「ぐぐぐ・・・な、何をするんですかセラフォルー!」

 

「えへへ、ごめんなさい。嬉しくってつい」

 

ペロッと舌を出しながら起き上がるセラフォルーさん。俺はカテレアさんに手を差し出した。

 

「大丈夫ですか、カテレアさん?」

 

「は、はい。問題ありません」

 

手を握り、カテレアさんを引っ張り上げた。よく見たら頬が砂煙か何かでちょっと汚れてる。ええっと、ハンカチハンカチ・・・。

 

「カテレアさ・・・ひょっとして手を傷めましたか?」

 

掴んだ方の手を凝視するカテレアさんが心配になって声をかけると、彼女は慌てて手を振った。

 

「な、何でもありませんわ! ほら、こんなに振っても痛くありませんし!」

 

千切れんばかりに手を振り回すカテレアさん。何も無いならいいけど、ちょっとやり過ぎじゃないですかね。なんか余計心配になったわ。

 

「そうですか。それでは、少し失礼しますね」

 

答えを聞く間も無く、俺はハンカチを手にカテレアさんの頬をそっと拭った。断りも無く女性の顔を触るなど失礼だろうが、一々口で伝えるよりもこの方が早いから勘弁してもらおう。

 

「え、あれ、今、フューリー様の手が私の・・・」

 

カタコトな口調でカテレアさんがそう呟いたと思った瞬間・・・彼女の鼻から勢い良く血が噴き出した。ヴァッ!? 何事!? 鼻血は兵藤君の担当じゃないの!?

 

「セ、セラフォルーさん! カテレアさんが・・・!」

 

「とりゃ~~~~~!」

 

どうしようかとセラフォルーさんの方を向くと、彼女は何を思ったのか地面に向かって思いっきりヘッドスライディングをかましていた。

 

「セラフォルーさん!?」

 

「え、えへへ、ちょっとつまずいちゃった。ほっぺも汚れちゃったし、誰か拭いてくれないかなぁ・・・?」

 

いや、明らかにつまずくってレベルじゃなかったですよ! しかも「とりゃ~~~~~!」とか叫んでたし!

 

片や鼻血を吹き出し、片や顔どころか全身を汚している。カオスな空気の中、俺は誰に言うでも無くこう口にした。

 

「・・・俺にどうしろと?」




カテレア回は一応今回で終わりです。次回から修行に戻ります。


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