ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第六十六話 教えてアル=ヴァン先生!~伝授編~その一

「俺・・・そんな事になってたんですね」

 

アザゼル先生の機転? で正気を取り戻した兵藤君。差し入れに持って来た弁当をかっこみながら、彼は自分の身に起きていた事を聞いてゲンナリした表情を浮かべている。

 

「すみません、なんか先輩にも迷惑かけちゃったみたいで」

 

「いや、気にしなくていいさ」

 

驚きはしたが、別にどこもケガとかしてないしな。そう言うと、兵藤君は少し安堵したようだった。

 

「そうだぜイッセー。むしろ誇れよ。不意打ちとはいえ、あのフューリーを吹っ飛ばしたんだぜ? 良い自慢話になるじゃねえか」

 

「何言ってんですか! それで変な連中に目を付けられちゃったらヤバいでしょうが!」

 

「にしても・・・さっきの野生化状態。なかなかに興味深いな。あそこまで理性を失えば使い物にならねえが、暴走一歩手前で抑える事が出来れば・・・」

 

「話聞いてますか!?」

 

至近距離のツッコミにも関わらず、先生はアゴに手を当てながら熟考している。最近わかったが、どうも先生が考え事をする時には周りの声は届かないようだ。

 

「もういい、先生は放っておこう。先輩、部長達の様子はどうですか? やっぱりみんな頑張ってますか?」

 

「ああ。みんな一生懸命に修行しているよ」

 

「そうですか。・・・なら、俺も頑張らないとな!」

 

残りの弁当を平らげ、気合いと共に立ち上がる兵藤君。しかしながら、彼の熱血っぷりは見ていてとても気分がいい。この世界は小説が元になっているが、ひょっとしたら彼が主人公だったりして・・・。

 

「そんなやる気溢れるお前にさらなるやる気が出る話を持って来てやったぞ」

 

考えごとが済んだのか、アザゼル先生が会話に加わる。何の事かと首を傾げる兵藤君に、先生はここを訪れた目的を告げた。

 

「イッセー。お前には今日から通常の修行に加えて、必殺技の修行も行ってもらう」

 

「ひ、必殺技!?」

 

「しかも、フューリーがお前の為に用意した必殺技だ」

 

「マ、マジッすか!? 先輩が俺の為に!? おおお! 燃えて来たぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

兵藤君、喜んでくれるのは俺も嬉しいんだけど、そこまで大きなリアクションとられるとちょっと気恥ずかしくもあるんだよな。木場君達といい、どうしてこんな素人の意見をそこまで信頼してくれるんだろう。おかげでプレッシャーかかりまくって胃が痛くなって来そうだ。

 

「いいぜ、イッセー。それこそ俺が望んでた反応だ」

 

「当然ッスよ! 必殺技と聞いて燃えない男なんていやしませんって!」

 

「だよな! 燃えるよな!」

 

「ええ、燃えますとも!」

 

「「はははは!!」」

 

やっぱり仲いいなあの二人。肩まで組んじゃって。・・・そういえば、俺ってこの世界に来てあんな風に気心の知れた同性の友達っていたっけ? クラスのみんな・・・は仲はいいけど、親友と呼べる子はいないし。ていうかそれ以前にどうも年上目線になっちゃって一歩引いちゃうし。・・・あれ、ひょっとしなくても0人?

 

「よし、ならまずはこれを見て・・・どうしたんだ、フューリー?」

 

「先輩、顔が真っ青ですよ? 気分でも悪くなりました?」

 

「いや・・・何でも無い」

 

二人の気遣いが今の俺には辛かった。・・・いや、しかしこれは丁度いい機会だったのかもしれない。こうして俺の置かれた状況に気付けたのだから。よし! 卒業までの目標が一つ出来たぞ。必ず親友と呼べる相手を見つけてみせる! 具体的には兵藤君と木場君みたいな!

 

「そうか? なら気を取り直して。イッセー、お前にはこの技を習得してもらう」

 

アザゼル先生が小型プレーヤーにディスクを差し込む。画面に例の広大なフィールド、そしてアル=ヴァン先生=俺の姿が映し出された。

 

「え、これって先輩ですよね? 先生、何なんですかコレ?」

 

「まあ見てろ」

 

先生がプレーヤーを操作すると、画面の中の俺が動き出した。十メートルほど離れた目標に対し、右腕を突き出し左腕を引く。そうして構えをとった俺の左腕が紫電を纏う。データ作成時にも思ったが、プラズマバックラーが無いので違和感ありまくりだ。とはいえ、イメージさえしっかりすれば再現は出来たので、今は気にする必要は無いか。

 

ともかく、攻撃態勢をとった俺が目標に向かって一気に飛び出す。ブースターをイメージしたので、およそ人間の出せるとは思えない速さで目標に接近する俺。そして、振りかぶった左腕を、紫電と共に全力で目標に叩きこんだ。バチバチと弾けるプラズマが目標を包み込み、一瞬の間を置いた後、盛大に爆発した。

 

煙が晴れた時、そこには立ち尽くす俺と、足下で粉々になっている目標の残骸が映っていた。

 

映像はここで終了し、俺達は三者三様の表情で顔を見合わせた。その中で真っ先に口を開いたのは兵藤君だ。

 

「あの、先輩。せっかく考えてもらって悪いんですけど、この技、俺に使えますか? 俺、朱乃さんみたいに雷を扱えるわけじゃないから、無理な気がするんですけど」

 

「別にこれをそのまま再現しろってわけじゃねえよ。これはあくまで雛型だ。これを参考にしてよりお前に相応しい技に昇華していく。例えば、お前が今言った雷を倍加に変えるとどうなる?」

 

答えようとしたらアザゼル先生が先に口を開いた。

 

「あっ・・・!」

 

合点がいったのかそんな声を上げる兵藤君。アザゼル先生は頷き、再びプレーヤーを起動させる。流れる映像は、もう一つの案であるジェット・ファントムのモーションデータだ。ちなみに第二次では無くOGs仕様である。これにはちょっとした理由があった。

 

「イッセー。お前は以前白龍皇の力を馬鹿みたいな方法で手に入れた」

 

「馬鹿みたいって・・・」

 

「褒めてんだよ。で、実際その力・・・“白龍皇の籠手”は使えるのか?」

 

―――難しいだろうな。

 

アザゼル先生の問いに答えたのはドライグさんだった。

 

―――元々が相反する力である上、相棒はまだ制御権を得ていない。使用自体は可能だろうが、おそらく完全には無理だ。消耗も激しいだろう。相棒が力をつけ、制御するに足りる者へと成長したその時、初めて“白龍皇の籠手”は全開の力を発揮出来るようになるだろう。

 

つまり、今の兵藤君では実力不足で使えないという事か。中々に厳しいですな、アルビオンさん。

 

―――俺がアルビオンの立場なら、宿主以外に自分の力を勝手に使われるのは気分が悪い。それが実力不足な者ならばなおさらな。相棒、“白龍皇の籠手”を使いたいのならば、ヤツに認められる実力を早く身につける事だな。

 

「結局、俺の弱さが原因ってわけですか・・・。ああ、わかった! わかりましたよ! どうせいつかは再会するんだ。その時までに認められるよう強くなってやるさ!」

 

改めて強くなる必要性を確認する兵藤君。強化フラグにライバルは欠かせないしな。にしてもライバルか。仮にだけど、俺にもライバルがいたとしたら・・・。いや、駄目だ。そもそも騎士(笑)なんて名前からしてふざけているような人間相手に真面目になってくれる相手なんているわけないか。

 

「なるほどな。なら、今はまだこの技はお預けって事か」

 

「先生、どうしてここで“白龍皇の籠手”の話を?」

 

「一撃目で相手を“半減”させ力を奪い、二撃目で“倍加”と共に一気に叩きこむ。もちろん、簡単に出来る技ではないだろうが、これをモノに出来れば、おそらく若手の中でお前を止められる者は存在しないだろう」

 

「ッ・・・!」

 

アザゼル先生の説明に息を呑む兵藤君。つまり、限界まで倍加して、さらに相手の力を上乗せして叩きこむって事でいいのかな。しかも、相手の力を半分にした状態で。それに、相手が強ければ強いほど奪える力も大きいから、今後兵藤君がこの技を使えるようになったら、完全なボスキラーになるじゃないですか。

 

情熱お兄さん「みんな、こういうのをなんて呼ぶか知ってるかい?」

 

みんな「チート!」

 

情熱お兄さん「そうだね。プ○テインだね」

 

いかんいかん。つい脳内で懐かしいネタを再生してしまった。とにかく、今すぐには使えないが、将来的には期待出来る技になりそうだ。

 

「説明は以上だ。早速始めるぞ。タンニーン、ちょっと耳かせ」

 

ドラゴンに耳打ちする堕天使。・・・見る人が見たら卒倒しそうだな。一分ほどして顔を上げたタンニーンさんが突然翼を動かした。

 

「ふん、いいだろう。お前に従うというのも癪だが、中々面白そうだ。ちょっと待っていろ」

 

そう言い残し、タンニーンさんは空へ舞い上がり、どこかへ行ってしまった。何が始まるのか説明を求めたら「待ってろ」と言われたので、そのままタンニーンさんが戻って来るのを待った。

 

数分後、タンニーンさんは大きな岩をいくつも抱えて戻って来た。どれくらい大きいか? 地面に降ろしたら辺りが揺れるレベルですけど何か?

 

かと思うと、再び飛びあがるタンニーンさん。そして、次に運んで来た岩を見て、今度こそ俺と兵藤君は絶句した。その岩・・・最早ビルレベルの大きさのそれを満足そうに見上げるアザゼル先生。

 

「おお、こいつは中々よさそうだな」

 

「ああ。どうもこの辺りの岩は質がいいみたいでな。固さは文句無しだ」

 

「あ、あの、先生。こんなでっかい岩で何をするつもりなんですか?」

 

「修行に決まってるだろうが」

 

お前は何を言っているんだとばかりに答える先生。いや、それはこちらのセリフです。

 

「アンタは何を言っているんだ」

 

あ、兵藤君が言っちゃった。けど、実際これでどうするつもりなんだろう。・・・まさかと思うが、これらの岩を相手にジェット・マグナムを撃ってみろとか?

 

「イッセー、これからお前にはあの岩を使って技の練習をしてもらう。さっきの映像を思い出しながらやってみろ」

 

当たりかよ! しかもいきなりやってみろとか流石に早過ぎじゃないですかね。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! アドバイスも無しにいきなり撃てとかどんなスパルタ!?」

 

「習うより慣れろっていうだろ。それに、うだうだ話すよりもこうして体を動かした方がお前には合ってるだろうが」

 

「そ、それはそうですけど・・・」

 

「いいからやってみろ。アドバイスはそれからだ」

 

「わかりました。よし、いくぞドライグ!」

 

切り替え上手いな兵藤君。籠手を掲げた彼の体を真っ赤な鎧が包み込む。彼は一番小さな岩(それでも彼の身長に三倍はありそうな大きさだが)を目標に動いた。

 

「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

左腕を振り上げながら岩に向かって全速力で走りだす兵藤君。そして、岩に向かって思いっきり拳を叩きつける。結果、岩は見事に砕け散った。

 

「どうでした?」

 

鎧を解除して駆け寄って来た兵藤君に、アザゼル先生が容赦無く拳骨を落とした。痛みで悶える彼にアザゼル先生が呆れた様子で言い放つ。

 

「アホ。お前の背中のブースターは飾りか? あんなとろい攻撃が当たるとでも思ってんのか。覚えとけ。どんな強力な攻撃もな、当たらなければどうって事はねえんだよ」

 

ッ!? 何故先生があの少佐(発言当時)のセリフを!? つまり、兵藤君は今の三倍の速さを身につけなければならないという事なのか!?

 

「仕方ねえ、ここはやっぱり先生のお手本を見せてもらうしかねえな」

 

「頼むぜ」と俺の肩を叩くアザゼル先生に戸惑う。え、手本って・・・俺が?

 

「わざとらしく言いおって。最初からそのつもりで俺にあの岩を持ってこさせたのだろうが」

 

タンニーンさんの目線の先には、あのビル岩(勝手に命名)が聳え立っている。つまり、俺にあの岩をぶっ壊せと? はは、それなんてイジメ?

 

「バラすなよタンニーン。・・・ま、そういう事だ。いっちょお前の例の力でイッセーに手本を見せてやってくれ」

 

それってラフトクランズモードでって事? それならまだ希望が持てる。流石に生身のパンチ一発でアレを壊すのはなぁ・・・。

 

まあ、そういう事ならやってみよう。手本になるかわからないが、精々兵藤君に幻滅されないよう頑張らないとな。

 

SIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

というわけで、俺の新しい必殺技のお手本を先輩が見せてくれる事になった。ワクワクするぜ。一体どれほどの威力の技になるんだろうな。

 

「・・・みんな、離れていてください」

 

あ、あれ・・・? 気のせいかな。先輩の声が本気なんですけど。これってお手本ですよね? 何でそんな親の仇を見るような目で岩を睨んでるんですか?

 

俺の不安は先輩が鎧を纏った所でさらに大きくなり、ライザーを一撃で追い込んだあの爪を腕に装着させた所で益々増大し、背中のブースターからもの凄い炎を吹き出した所で抑え切れなくなり、それに合わせて鎧の節々から緑色の光が迸り始めた所でついに限界を迎えた。

 

「せ、先生! なんか無茶苦茶ヤバそうな雰囲気なんですけどぉ!!」

 

たまらず先生に声をかけたが、先生は先生で固まっていた。タンニーンのおっさんも目を大きく見開いている。

 

そんな俺達が見守る中、先輩がついにブースターを始動させる。俺のブースターが玩具と思えるほどの超高速で岩に突撃する先輩。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

滅多に聞けない雄叫びと共に先輩の腕がかき消えたと思った次の瞬間、先輩の目の前に聳え立っていたあの巨大な岩が“消滅”した。

 

砕けたわけじゃない。どこかへ吹っ飛んだわけじゃない。文字通り跡形も無く“消滅”したのだ。まるで最初からそこに何も無かったかのように、静かに、だけど、確かに岩を消し飛ばしたのだ。

 

「「「・・・手品?」」」

 

正にそうとしか言えない出来ごとに、俺とアザゼル先生、タンニーンのおっさんが全く同じ言葉を口にした。

 

「イッセー。やっぱりお前は誇っていいぜ。魔力も何も使わず、拳だけで岩を消し飛ばすような存在を吹っ飛ばしたんだから」

 

「つまり、先生は俺に死ねと?」

 

―――落ちつけ俺落ち着け俺落ちつけ俺落ち着け俺落ちつけ俺落ち着け俺落ち着け俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺落ちつけ俺・・・。

 

「これがフューリーの力か・・・。ところで、ドライグの様子がおかしいが、何かあったのか?」

 

俺達はそれぞれに思った事を口にしながら、戻って来た先輩を迎えるのだった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

やれやれ、アザゼル先生も人が悪いなぁ。最初からデモンストレーション用の岩を用意してたんなら言ってくれたらいいのに。

 

いきなり岩が消えた時は驚いたが、後になってアザゼル先生が何を考えていたのか俺なりに結論が出た。きっと先生は兵藤君が技の習得に積極的になるように、最初にインパクトを与えたかったんだろう。

 

その為にも、技の威力がどれだけ凄いか彼に見せる必要があった。だからあの岩にも最初から触れると消えるような細工がしてあったんだろう。俺が貰った認識阻害眼鏡のパワーアップ版とかかな? 実際にはそこにあるけど見えなくなるとかそういうヤツかも。殴った時もまるで手ごたえが無かったし、材料も発泡スチロールとかだったりして。よくよく考えてみれば、いくらなんでもあんな大きい岩が都合よくあるとも思えないし。わざわざタンニーンさんに採りに行かせるフリまでしちゃって。おかげでまんまと騙されてしまった。

 

とはいえ、演技とか出来ない俺に教えてたら兵藤君に気付かれたかもしれないし、先生もそれが不安だったから俺に教えなかったんだろうな。ただ、一言だけ言わせてもられば、消すよりも壊すような演出の方がよかったかもしれないな。あれじゃ凄さがいまいち伝わってない様な気がする。

 

たぶん、この調子で他の子達にも色々教えないといけないんだろうな。木場君とかならなんとかなるけど、リアスのガンスレイブは無理だからね? アル=ヴァン先生にだって出来ない事はあるんだから。

 

とりあえず、時間一杯までは兵藤君の練習に付き合おう。そう決めて、俺は何故か委縮している兵藤君に近づくのだった。


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