ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
ついに修行期間が終了し、久しぶりに全員が集合した。それぞれの修行の報告会を開く為、俺達はとある部屋に集まっていた。
「ひとまず、お疲れさんとだけ言っておく。俺が提示したトレーニングメニューに関しては、全員ほぼ完璧にこなせたみたいだな。必殺技の方も概ね好感触と聞いてるぞ」
「・・・」
「うっす!」
代表して兵藤君が返事をする。しかし、ちょっと見ない間に随分と逞しくなったように見える。
だけど、リアスは何だか浮かない顔をしている。どうも彼女だけあまり上手くいっていなかったと聞いたけど、やっぱりそれで落ち込んでいるのだろうか。
「イッセー君、しばらく見ない間に変わったね。なんと言えばいいか、こう・・・野性味溢れるとでも表現するべきかな」
「あははは! そりゃそうさ木場! 何せお前やゼノヴィアが別荘や山小屋で快適に修行している間にも、俺は野生動物を狩り、煮沸消毒した水を飲み、葉っぱに包まって寝てたんだからな! おかげでタンニーンのおっさんに捌き方を褒められるくらいの腕になったぜ! そのおっさんからは修行という名のいじめを受けまくったさ! 岩が吹き飛んだり山火事レベルの炎なんて日常茶飯事! どうだ、木場? お前もあのおっさんと数日過ごせばきっと俺と同じになるぜ?」
「ご、ごめん。ごめんよイッセー君」
「おいおい、何で謝るんだよ木場? って、あれ? 部長に朱乃さん、それに他のみんなも。どうしてそんな引き攣った顔をしてるんですか? ほら、俺はこうして元気なんですからもっと笑ってくださいよ!」
無理だよ兵藤君・・・。だって、さっき長々と自分の話をしていた時のキミ、口調こそ明かるかったけど目の光が完全に消えてたもの。とりあえず、休もう? 今のキミに必要なのは休息だよ。
「先生! 俺、これから先、どんな辛い事があっても頑張れそうです! 「ああ、あの時の地獄に比べたら・・・」なんて感じで!」
「お、おう、そうか。まあ、しっかりな・・・」
珍しくアザゼル先生が狼狽した表情を浮かべている。・・・たぶん、兵藤君がこんな風になってしまった事に責任を感じているのかもしれない。
「・・・イッセー。もういいわ。あなたの報告はもういいから、すぐに部屋に戻りなさい。何か食べる物を用意させるから、それを食べてしっかり休みなさい」
「え、俺だけいいんですか、部長? やったぜ、久しぶりにまともな物が食えそうだ! それじゃあ、みんな! 俺はお先に失礼させてもらうぜ!」
「俺が部屋まで連れていこう」
「堕天使の総督様に付き添ってもらえるなんて光栄だなぁ! よろしくお願いします!」
アザゼル先生と共に部屋を出て行く兵藤君。その背中を見送った俺達は一斉に顔を見合わせた。
「・・・これからしばらく、イッセーには優しくしてあげましょう」
俺達の心が一つとなった瞬間だった。
その後、他の子達がそれぞれ自分の修行について色々報告を行っていると、アザゼル先生が戻って来た。
「いきます! むむむ・・・え~い!」
ちょうどアーシアの番だったので、説明も兼ねて実演してもらった。以前見せてもらった時より若干スピードの上がった光がふよふよと壁際まで飛んで行った。
「こ、こんな感じですけど、どうでしょう?」
ホントは自慢したいのに、性格が邪魔してそんな風にしか聞けないアーシアマジ天使。これでまた明日から頑張れそうだ。周りを見渡せば、リアス達の顔も綻んでいる。どうやら彼女達も俺と同じ気持ちのようだな。
「何だこの気持ちは。今すぐアーシアを思いっきり抱きしめたいと思っている自分がいる」
ゼノヴィアさんが一人呟く。なら抱きしめればいいよ。俺がやったらハッ飛ばされるだろうけど、女の子同士なら問題無いと思うから。
「そういえば、先輩。さっきアザゼル先生から聞いたんですけど、先輩も修業をされていたそうですね。後学の為にもどんな修行されていたのかお聞きしてもいいですか?」
木場君の一言でみんなが揃ってこちらに顔を向けて来た。といっても、俺はみんなみたいに大変な事はしていない。ただ基本的な事をやっていただけだからな。
イメージに頼り切らないという目標の為、俺は技の型を徹底的に繰り返す修行をした。今までであれば、頭の中で技をイメージすると、体が勝手に動く。だけど、それはある意味操り人形状態であり、一度イメージすると、技の終了まで体の動きを制御出来ないという弱点の様なものがあった。
それに、一々イメージしなければ技が出せないというのも面倒だ。だったらイメージでは無く、俺自身が技を習得すればいい。そういう考えによる修業だった。
元々剣はおろか格闘技すらまともに経験した事の無い俺が思いついたのは、ただひたすらに技の型を練習する事だった。そのやり方が功をそうしたのか、はたまたこの体が優秀だったのか、修行開始三日目で白虎咬を出せるようになった。
その次に始めたのは剣の練習。木剣を手にアル=ヴァン先生の剣の知識を参考にしつつ、素振りをとにかく繰り返した。最後の纏めとして、木に向かって全力の一閃を放ってみたが、木は斬れるどころか傷一つついていなかった。流石に一日でマスターは自惚れ過ぎだと反省したっけ。しかも木剣で。
そういえば、修行場所を変えてもらったけど、新しい修行場所の付近で何百本もの木が何者かによって斬り倒されていたらしい。こっちは一本すら斬れてないっていうのに。目撃者の話によると、普通に立っていたはずの木が、風が吹いた途端一斉に倒れたのだとか。犯人は相当腕の立つ者に違いないとの事だった。
「特別な事はしていないよ。俺は未熟だからな。基本的な事ばかりさ」
「あなたで未熟なら私達はなんなのかしら・・・」
そりゃもちろん凄いさ。素の俺の駄目さ加減に比べ・・・いや、比べる事すらおこがましいか。
「俺としちゃあ、騒ぎを起こしてくれなくてなにより・・・」
「騒ぎ・・・」
「どうしました、リョーマさん?」
すみません、先生。騒ぎなら起こしちゃってます。しかも、初日に。どうしよう、やっぱり黙ったままじゃ駄目だよな。よし、懺悔しよう。
「・・・実は、初日の事なんだが、グレモリー領の辺境の地で修行しようとしたらあるドラゴンとトラブルになってしまった。名前は・・・確か、ティアマットさん・・・」
「「・・・はあ!?」」
リアスとアザゼル先生の声が綺麗に重なった。他の子達も声こそ出して無いが口をあんぐり開けたり目を大きく見開いていた。アーシアだけはよくわかっていないようで可愛らしく首を傾げているが。
「待て待て待て待てぇ! ティアマット!? ティアマットだと!? お前なに普通に『天魔の業龍』と会ってんだぁ!」
「何で五大龍王最強の存在がグレモリー領に!? リョーマ、教えて! ティアマットは何をしていたの!? 内容によってはすぐに対抗策を講じないと甚大な被害が・・・」
「お、落ち着いてください二人とも。今から説明しますから」
詰め寄って来る二人を何とか宥め。俺はティアマットさんとの事を説明する事にした。
「まずリアス。ティアマットさんは何もしていない。ただ、寝ていただけだ」
「ね、寝ていた?」
「ある洞窟を寝床にしていてな、俺はそこへ迂闊に入ってしまったんだ。そして、ティアマットさんに出会った。安眠を邪魔されたからかかなり不機嫌で、その上、俺をハンターと勘違いしていて、完全に頭に血が上っていた」
「そ、それで・・・?」
「謝罪と誤解を解くために近づこうとしたら攻撃されてな。非がこちらにある以上、何をされても仕方が無いと思っていたが、最後は目を開けていられないほどの激しい炎を受けてしまった」
「で、そんな攻撃を喰らっても、お前はピンピンしてるわけだな」
「ええ」
「ええ・・・じゃねえだろ! どうなってんだよお前の体は! ティアマットだぞ!? 『天魔の業龍』だぞ!? マジでちょっと一回調べさせろや!」
「お、落ち着いてください! アザゼル先生! 何で懐から工具取り出してるんですか!? 先輩の体にネジなんて付いてませんよ!」
「離せ木場ぁ! コイツの所為で、最近の俺は胃が荒れまくってんだよ! 胃薬を常に携帯しておかないといけない辛さがお前にわかるのか!?」
「僕は健康体なのでわかりません。ですが、今の先生が間違っているのはわかります!」
アザゼル先生の目がヤバい! こうなったら俺の体の秘密を話した方がいいかもしれない。
「先生。俺の体は、この世界で最強の存在に攻撃されても皮がささくれる程度の防御力を有しています」
オカンに願った“丈夫な体”・・・。最初こそやり過ぎかと思ったが、今では心底ありがたいと思っている。もしも願っていなければ、これまででもう何回死んでる事やら・・・。
改めて、オカンには感謝だな。祈りでもささげるか? それとも・・・。
「・・・」
そうやってオカンへの感謝をどう表すか悩んでいる俺の目の前で、アザゼル先生がぶっ倒れた。
「せ、先生!? アザゼル先生!?」
その後、すぐに人を呼び、アザゼル先生は運ばれていった。アーシアの神器と、俺も『友情』をかけておいたので、その内目覚めるとは思うが。
「リ、リョーマったら、いくらなんでもあのタイミングであの冗談は性質が悪いわ。私も一瞬信じそうになっちゃったじゃない」
「そ、そうですわよね。いくらなんでも皮がささくれる程度なんて・・・」
「にゃ、にゃはは、ご主人様でもそんな冗談言うんだね。なんか意外にゃ」
二人が抜けた室内。リアスが場の空気を変える為に口を開いた。それに便乗するように朱乃と黒歌までそんな事を言う。
「さ、さあ! 冗談はここまでにして、さっきの話の続きをお願い」
冗談じゃないんだけどな。でも、なんかリアスはもうこの話を切り上げたいみたいだし。まあ、野郎の体の事なんてそこまで興味湧かないわな。
「続きと言っても、もうあまり話す事はないぞ。その後、ティアマットさんはどこかへ行ってしまって結局謝る事が出来なかったからな。一応、追い掛けはしたんだが・・・」
「・・・追い打ちですね。というより・・・イジメ?」
「て、徹底的過ぎますよ先輩ぃ」
そりゃあ、悪いのは俺だから必死になるよヴラディ君。悪い事をしたら謝る。当然で大事な事だからね。
「そうだ。リアス、キミにも謝らなければ。ティアマットさんの炎で地形が変わってしまったが、そもそも俺が迂闊に洞窟に入らなければそんな事にはならなかった。すまない・・・」
「あ、う、うん。そうね。でも気にしないでいいわ。むしろティアマットを追い払ってくれたんだから感謝しないといけないわ」
リアスは優しいなぁ。でも、それに甘えたら駄目だよな。いずれ何かの形でお返ししないと。
「それじゃあ、そろそろ解散しましょうか。そうそう、明日は魔王主催のパーティーがあるわよ。ゲーム前の最後の息抜きになるでしょうし、みんな今日はしっかり休んで明日に備えなさい」
最後にリアスがそう纏め、俺達は解散した。自室へ戻る前に兵藤君とアザゼル先生の様子を見たが、兵藤君の方は眠ってしまったのかイビキが廊下まで聞こえていた。アザゼル先生の方は目を覚ましていたが、ちょっと一人にさせてくれと部屋を追い出されてしまった。何か悩みでもあるのなら言ってくれていいのに。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
次の日の夕方、学園の制服を着た俺は部屋を出て集合場所の客間へと向かったが、その途中、なんと支取さんと出くわした。
「あら、神崎君。お久しぶりですね」
支取さんは煌びやかなドレス姿だった。自己主張が激し過ぎず、かといって地味でも無い。まさに支取さんにピッタリなドレスだった。
「ああ、久しぶり支取さん。でも、どうしてキミがここに?」
「パーティー会場にはリアスと一緒に入る予定なので」
ああ、なるほどね。だから彼女もドレス姿なのか。改めて眺めていると、支取さんが怪訝な表情を浮かべた。
「あの・・・どこか変でしょうか?」
「いや、支取さんのそういう姿を初めて見たからな。つい見惚れてしまった。不快な思いをさせてしまったのなら謝らせて欲しい」
流石にガン見はまずかったよな。支取さんの顔が怒りの所為か真っ赤になっている。だけどさ、言い訳させてもらえるなら、こんな綺麗な女性が目の前に現れたら誰だって見ちゃうだろ?
「こ、ここはありがとうございますと言えばいいのでしょうか・・・」
「そうしてくれるとありがたい」
俺の精神的にね!
「と、ところで、リアスがどこにいるかご存知ですか?」
「いや、俺も今部屋を出たばかりなのでわからない」
「そうですか。ひょっとするとまだ準備に時間がかかるのかもしれませんね」
「リアスに何か用が?」
「ええ。宣戦布告を。今度の勝負。私達は夢の為に全力で彼女達に立ち向かいます」
夢・・・学校を建てるってヤツか。うん、やっぱり夢を語る時の支取さんは凄くいい顔をするな。
「そうか。俺は今度のゲームには関係が無いけど、応援してるから」
そういうと、何故か支取さんは信じられないものを見たように目を丸くしてしまった。
「どうかしたか?」
「いえ、今回はリアス側であるあなたに応援されるとは思っていませんでしたので・・・」
「確かに、リアスや他の子達にも色々手助けはしたけど、だからといって支取さんを応援しない理由にはならないだろう」
「え?」
「リアスも支取さんも、俺にとっては大切な友人だ。そこに順番や優劣は存在しない。そんなものをつけた時点で友人を語る資格など無いからな。俺に言えるのは、二人とも、それぞれの夢や目標の為に全力でぶつかり合って欲しいという事だけだ」
「神崎君・・・」
「だからこそ支取さん。俺はキミもリアスもどちらも『応援』するつもりだ。もちろん、今回の勝負が終わった後もずっとな」
リアス達の努力はこの目で見たし、支取さん達だって一生懸命に己を磨き続けたのだって容易に想像出来る。ただひたすらに相手に勝つ事を目指して。そんなの、応援したくなるに決まってるじゃないか!
「・・・神崎君は八方美人ですね。女性にはいつもそんな風に言っているのですか?」
「え・・・!?」
いやいやいや! 誤解! それ誤解! てか、女の子を口説いた事なんて今まで一回も無いですからね! 毎回毎回アホな事言って怒らせたり呆れさせたりしてるだけですからね!
「・・・なんてね。ふふ、冗談ですよ。さっきのお返しです」
じょ、冗談・・・? ッ、冗談だと!? おのれ、騙したな支取さん! そんな可愛らしくウインクしたって・・・許す!
「お、お返しと言われても・・・。俺、何かキミに気に障る様な事をしてしまったのだろうか?」
「さあ、どうでしょうね」
くっ、今度は人差し指を口に当てながらの微笑み・・・! ちくしょう、普段見せない様な表情を連続でとか卑怯だろ。
「・・・ありがとうございます。神崎君。私は今まで、何を言われたって自分の夢を諦めるつもりはありませんでした。でも、こうして誰かに応援してもらえる事がこんなにも嬉しいなんて知りませんでした」
「そう思ってもらえるなら俺も嬉しいよ」
「ふふ、何故かはわかりませんが、今回の勝負、自分の思っている以上の“経験”、そして“成長”が出来そうです」
「そうか。・・・っと、すまない。いつまでも引き止めているわけにもいかないな。そろそろリアスの所へ」
「神崎君。女性の準備には色々と時間がかかるものですよ?」
「そういうもの・・・か?」
「ええ。ですからもう少しお話していましょう。そうですね・・・神崎君の事を色々教えてもらいましょうか」
ひょっとして支取さんは『努力』の精神コマンドでも使えたりしてな。そんな事を思いつつ、俺は支取さんとの会話をもう少しだけ楽しむのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
支取さんと別れて数分後、客間で待機していた俺達の所に、ドレスアップしたリアス達が姿を現した。当然というか、みんな滅茶苦茶綺麗だった。特別参加の許されたアーシアと黒歌もドレスを着ている。黒歌なんかは普段は和服姿だから新鮮だった。アーシアは・・・天使っぷりが天元突破してた。
で、何故かヴラディ君までドレスを着ていて、それを兵藤君と匙君にツッコまれていた。支取さんがいたんだから彼がいるのも当然か。
いや、ホント綺麗だわ。ついテンションが上がって色々口走ってしまった。無意識だったから内容は憶えて無いけど、とりあえず女子の顔を赤くさせてしまう様な事を言ってしまったようだった。
そうして全員の準備が整った所で、突然庭の方から何かが着地したような大きな音が聞こえて来た。それから数秒して執事さんが一人客間へ入って来てこう言った。
「タンニーン様とその眷属の方々がいらっしゃいました」
みんなで庭に出ると、そこには確かにタンニーンさん、そしてドラゴンが合わせて十体ほどいた。
「おっさん! 本当に来てくれたんだな!」
「約束だからな」
「兵藤君、約束とは?」
「おっさんがパーティー会場まで俺達を乗せて行ってくれるって約束してくれたんです。修行を頑張ったご褒美にって!」
「そういう事だ。・・・どうやら予定よりも人数が多いようだが、構わん。全員キッチリ運んでやろう」
まさかこんな所で男なら一度は夢見るドラゴンに乗る機会を得られるとは。ありがとう兵藤君。
「待て、フューリー」
ウキウキ気分でタンニーンさんの背中に乗ろうとしたら止められてしまった。え、まさかの乗車もとい乗ドラゴン拒否? 俺だけ一人飛んでけって事?
「スマンが、お前はアイツの背中に乗ってくれ。お前のファンでな。今回の話を持ちかけた時に真っ先に食いついて来たのがヤツだ。・・・ちなみに雌だぞ?」
いや、どう反応しろと? ・・・まあ、そういう事なら彼女に乗せてもらおう。そして、俺が乗った所で、タンニーンさんを先頭に、全てのドラゴンが一斉に空へと舞い上がった。
乗り心地としては快適だった。結界を張って風圧がこっちに来ない様にしてくれているそうだ。なので、俺は寝転んだり、歩いてみたり、肌を撫でてみたり色々やってみた。ただ、肌を撫でると体をビクつかせて失速しかけてしまったので、一回で止めておいたけど。
一時間くらい経った頃だろうか、下の方に明かりが見えて来た。目を凝らして光の発生源を確認して見ると、そこには広大な森の中、天高く聳え立つ巨大なビルが存在していた。そちらの方へ飛んでいるので、あのビルがパーティー会場なのは間違いなさそうだ。
ビル近くのスポーツ競技会場っぽい所へ降り立つドラゴン達。最後に一言お礼を言い、俺も彼女から降りて兵藤君達と合流した。
すぐにさっきのビルの従業員らしき人達が近づいて来た。格好がホテルマンぽいからひょっとしたらあそこはホテルなのかもしれない。
案内された先には立派なリムジンが三台停まっていた。一台目にリアス達。二代目に支取さん達。で、俺はというと、一人三台目に乗せられてしまった。
「えへへ、迎えに来ちゃった」
しかも、何故か中にはセラフォルーさんがいた。そして、彼女の口から出た話に、俺はあやうく吹き出しそうになった。
「今日のパーティーでフューリーさんのお披露目会もやるの」
セラフォルーさん曰く、既に俺の存在は冥界に知れ渡っているが、そろそろ正式な発表を行うべきだという話が出たらしく、ちょうどいい機会なので今回とり行う事にしたのだとか。・・・そういうのって普通、本人に最初に伝えるべきだと思うんですけど・・・。
「ドッキリにした方が面白いかなーって」
あ、ドッキリですか。そうですか。そう言われたら納得・・・出来ないよ! いきなり言われてもこっちにも心の準備があるのに!
「それでねそれでね、実はフューリーさんの服も作って来たの!」
俺の嘆きなど露知らず、そう言ってセラフォルーさんが取り出したのは、上下ともに蒼で統一されたかなり凝ったデザインの服だった。もっと簡単に表現するなら、アニメキャラが着てそうなデザインと言えばわかるだろうか。
「騎士であるフューリーさんをイメージして作ったんだよ! カッコいいでしょ?」
あー、確かに言われてみれば騎士の儀礼用の格好って感じがする。見た目も確かにカッコいい。だが、それを実際に着てくれというのはどうだろう。正直、俺には似合わない気がする。見た目じゃなく中身的に。
「セ、セラフォルーさん。せっかくですが、俺には制服の方が合っていま・・・」
「それにね、ただの服じゃないんだよ! もうこれでもかというくらいに魔術的な処置を施していてね、防御力はもちろん、簡単な呪いだって跳ね返しちゃうんだよ! お金も労力もいっぱいかかっちゃったけど、フューリーさんの為に頑張ったんだぁ!」
あ、駄目だ。これ断れないヤツだ。断ったらたぶん俺の精神的に耐えられそうにないパターンだわ。
「・・・大切に着させてもらいます」
「ホント!? やったあ! 喜んでもらって私もとっても嬉しいよ!」
「は、ははは・・・」
これを着て今から大勢の悪魔のみなさんの前に出る。・・・あれ、何でだろう。今までの俺なら焦ったりうろたえたりしたはずなのに、妙に冷静な気分だ。
(・・・そうか。これが“諦め”か)
わかった。わかりましたよ。覚悟は出来た。俺の持てる力全てを発揮して乗り越えてみせよう。たった今から俺は騎士(笑)では無い。悪魔を救った英雄・・・フューリーとなるのだ!
もうすぐホテルに着く。決戦の時は刻一刻と迫っているのだった。
SIDE OUT
イッセーSIDE
会場の入り口が開かれる。その先のフロア一杯に大勢の悪魔のみなさんや美味そうな料理の数々。そして天井には豪華なシャンデリア。これぞまさにパーティー! って感じだった。
「おお、リアス姫ではありませんか!」
「相変わらずのお美しさ。サーゼクス様もさぞかし鼻が高いでしょうな」
会場入りした部長に早速多くの人達が殺到した。ここでも流石の人気っぷりだなぁ。っと、人気と言えば、ここに来れば注目間違い無しの神崎先輩の姿が無い。何故か一人だけ別のリムジンに乗せられて、俺達とは違う入口から入ったって聞いたけど、まだ来てないみたいだ。
先輩不在の中、部長について色々回ったりして時間を潰していると、突然照明が落とされた。ざわめく俺達の前で、会場の前方にライトが当てられる。その中心にはなんとセラフォルー様が立っていた。
「みんな~! お待たせ! ただいまより本日のメインイベント! フューリーさんのお披露目会をとり行いたいと思いま~す!」
ざわめきがさらに大きくなる。てか、俺も驚いてる。そうか、だから先輩だけ別行動だったのか。
「こ、こんなの聞いて無いですよお姉様! 今日は大事なお仕事があるとおっしゃっていたのに!」
近くにいた会長が頭を抱えて叫んでいる。そんな会長の叫びも虚しく、セラフォルー様は神崎先輩の説明を続けていた。
「さて、長々と私がお話してても詰まらないだろうし、そろそろ登場してもらおうかな!」
セラフォルーさんがフロア入口を指す。必然的に会場内の全ての視線がそこへ向けられる。うお、なんかテレビカメラまで用意されてるぞ。
「それじゃ、フューリーさん! どうぞ~~~~!」
セラフォルー様の声と共に会場内に再び明かりが灯る。そして、扉がゆっくりと開いて行く。
「・・・はあ」
その溜息は俺か、部長か、会長か、もしかしたらここにいる全員の物だったのかもしれない。
現れたのは間違い無く神崎先輩だった。だけど、その身に纏っていたのは制服では無く、勇壮感溢れる蒼色の衣装だった。
“騎士”・・・俺の脳裏の真っ先に浮かんだのはその単語だった。先輩の為だけに存在していると言っても過言では無いその衣装を纏う姿は、まるで英雄譚の登場人物がそのまま現実に飛び出てきたかのようだった。いや、まるでじゃないか。先輩って本当に英雄なんだよな。
マジでカッコ良すぎる。いや、カッコイイという単語じゃ今の先輩を表現するには陳腐にも程がある。こういう時、木場ならビシッと言ってくれるんだろうけど、俺の頭じゃどう表現していいかわからない。
先輩がゆっくりと会場内へ足を踏み入れる。たったそれだけの動作で俺は圧倒されていた。それは俺だけじゃなく、悪魔のみなさんの何人かが数歩後ろに下がっていた。
途中、先輩が俺達に気付いた。そして、おそらく俺達グレモリー眷属だけにしかわからないだろう、ほんの僅かな笑みを向けて来た。
「はう・・・」
「ちょ、部長!?」
へなへなと部長がその場に崩れ落ちた。部長だけじゃない、朱乃さんに小猫ちゃんのお姉さん、さらにはアーシアまでもが同じようにへたり込んでいた。
「「・・・」」
ゼノヴィアと小猫ちゃんは立ったままだ。だけど、その顔は見事なまでに真っ赤になっていた。
「は、はは。流石、先輩はこんな時でも堂々としてるね」
「ド、ドキドキしますぅ・・・」
木場は先輩の雰囲気に当てられたのか額に汗を浮かべている。そしてギャスパー。その感情は非常にマズイと思うぞ。
先輩はセラフォルー様の前まで進むと、そこで歩みを止めた。これからどうするんだろう。やっぱりスピーチとかするのかな。
「セラフォルーさん。この次は何をしたらいいですか?」
「ぽ~~~・・・」
「セラフォルーさん?」
「ッ! あ、ご、ごめんなさい! 自分の予想を遥かに超える破壊力に戸惑っちゃった! え、ええっと。それじゃあ、何か一言お願いします!」
セラフォルー様からマイクを手渡され、先輩が困ったような顔を見せる。そのまま数秒経った所で、意を決したように静かに口を開いた。
「・・・初めまして。神崎亮真と申します。この場でこうしてみなさんに挨拶出来る事を光栄に思います」
先輩の口から迷い無くスラスラと流れるように発せられる言葉はあっという間にこの場の全ての悪魔の心を鷲掴みにしていた。その証拠に、誰も彼も、先輩の言葉の一字一句を聞き逃さない様に集中している。
「以前から、自分が悪魔の英雄などと呼ばれている事は聞いています。ですが、自分はその様な誉れある呼び方をされる資格は無いと思っています」
資格が無い? そんなわけが無い。先輩が過去で行った事は間違い無く称えられるべきものだ。三陣営のトップの方々だってそう言っていた。
・・・いや、ひょっとしたら、先輩自身は自分が特別な事をしたという自覚は無いのかもしれない。
―――ただ助けたかった。
きっと、先輩はそんな簡単な理由で戦いの場に現れたんだろう。先輩はそういう人だ。どこまでも強くてどこまでも優しい“騎士”・・・それがあの人だ。
「・・・リョーマらしいわね」
いつの間にか復活していた部長がそっと呟く。きっと部長も俺と同じ感想を抱いたんだろう。部長だけじゃない。この会場で先輩の事を知っている人もきっと・・・。
「ですから、どうか自分相手に畏まったりしないでください。・・・人間と悪魔。種族の違いはありますが、自分はこれからも、悪魔のみなさんとは友好的な交流をさせて頂きたいと思っています」
そう締めくくり、深々と頭を下げる神崎先輩。だけど、会場内からは何の反応も無い。こういう時って普通拍手をするもんだよな。よし、ここは俺が先陣を切って・・・!
ぱちぱちぱち!
「え?」
とびっきりでかい拍手をやろうと思ったら、会場の一角から拍手が聞こえて来た。目を向けると、そこにはトップ会談の場に現れたあの強烈キャラなお姉さん。確かカテレアさんだっけ? が感動した面持ちで拍手をしていた。
「フューリー様! 種族の壁を越えて友好を結ぼうとするあなた様の御心! このカテレア感動いたしました! もちろん、私は今後もフューリー様とより深い仲を築けるよう一層の努力をさせて頂く所存ですわ!」
相変わらずだなあの人・・・。でも、そんな熱烈なカテレアさんの姿に、他の悪魔達の間でも少しずつ拍手が広がっていき、最後には会場全体を揺らさんばかりの拍手が鳴り響いていた。
「以上でお披露目会は終了だよ! これからはフューリーさんにもパーティーに参加してもらうから、お話したい人は順番にね! それと、後でまたお知らせがあるから楽しみにしてて! 特に女の子達はね!」
先輩、これからまた大変だろうなぁ・・・。大勢の悪魔に殺到される先輩の姿に、俺は心の中でエールを送るのだった。
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「とりあえず、騎士っぽいふるまいをすれば何とかなる!」
オリ主はこんな考えで行動しています。
次回はパーティー後半。ゲームの主役となる人物とのやりとりがメインになるかもしれません。
今回は色々書いたのでみなさんの反応が気になる・・・。