ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第七十四話 再起

支取さんの勝利で幕を閉じたレーティングゲーム。決着のアナウンスが流れた直後、俺達はリタイアした子達が運ばれたという病室に駆け込んだ。

 

その途中、変なおじいさんに出会った。というか絡まれた。俺は何者だとか、その力はどうやって手にしたのだとか色々聞いて来たが、正直一刻も早く病室に向かいたかった俺は、失礼だとは思ったが道を開けてくれるように頼んだ。

 

およそ年配の方にする態度では無いとは思う。現にそのおじいさんのお連れであろう綺麗な女性には厳しい視線を向けられてしまったが、それをあえて無視する形で俺達は先を急いだ。

 

「また会おう。異世界よりの騎士殿」

 

そんな言葉を背に、俺達は走った。そして、病室へ辿り着いた時、そこにはなんとサーゼクスさんの姿があった。

 

「やあ、神崎君。それにアーシア・アルジェントさんに黒歌。ひょっとしてお見舞いかい?」

 

「ええ。サーゼクスさんはどうしてここに?」

 

「今回のレーティングゲームで最も優れた戦いを演じた“彼”を表彰しに来たんだ。キミ達も来るかい?」

 

「ご主人様。私は先に白音の所に行くにゃ」

 

という事で、黒歌を見送り、サーゼクスさんに続いて病室へ突撃すると、そこにはベッドに横になった匙君と、それに付き添っている支取さんの姿があった。

 

「サ、サーゼクス様!? 痛っ・・・!」

 

「無理に起き上がらなくていい。安静にしていなさい」

 

「は、はい・・・」

 

緊張した様子の匙君に、サーゼクスさんは小さな箱を手渡した。一目見て高価とわかるそれに首を傾げる匙君。

 

「あ、あの、これは・・・?」

 

「これはレーティングゲームで優れた戦い、印象的な戦いをした者に贈られるものだ」

 

微笑みながら答えるサーゼクスさんに匙君は言う。自分にはこれを受け取る資格は無いと。自分は兵藤君に負けてしまったからと。

 

サーゼクスさんが再び答える。確かに匙君は兵藤君に負けた。だけど、結果的には匙君も兵藤君を倒した。北欧のオーディンも匙君に大きな賛辞を贈ったと。・・・オーディンって誰よ。

 

それでも受け取ろうとしない匙君を見て、サーゼクスさんは自ら小箱から勲章を取り出すと、それを彼の胸に着けてあげた。

 

「今回のゲームを見た者達は、キミの持つ可能性を充分に感じ取った事だろう。キミの様な若手悪魔を見れて私は嬉しいよ。もっと精進しなさい。そして、これから何年先になろうとも構わない。キミの夢を・・・レーティングゲームの先生になる夢を叶えなさい。私は応援しているよ」

 

「ッ~~~~!!」

 

匙君は声にならない声をあげながら大粒の涙を流し始めた。見れば支取さんも泣いているし、アーシアも感動した面持ちだった。俺も気を抜けば涙が出そうだ。しかし、俺は泣かない。いや、泣いてはいけない。

 

何故なら、俺は匙君の戦いを見ていないから。魔王様すら心を動かされる様な立派な彼の戦いを目にしていないのに泣いてしまえば、それは逆に匙君の頑張りに対する侮辱になるから。お前に彼の何がわかるんだと自分に対して怒りたくなってしまうから。

 

なので、これ以上ここにいる資格は無いと、俺は匙君の病室を後にした。去り際にサーゼクスさんに見つめられていた気がしたが、俺は構わずドアを開けた。

 

SIDE OUT

 

 

 

サーゼクスSIDE

 

匙君に一言も声をかける事無く、神崎君は病室を出て行った。

 

「神崎君は何をしに来たんでしょう?」

 

「あ、あはは、ひょっとして俺の情けない姿を見て呆れたとか」

 

彼の行動に疑問符を浮かべる二人に僕は答えた。

 

「いや・・・それは無いよ」

 

「「え?」」

 

一瞬だけだが、僕は確かに見た。神崎君の両目がほんの僅かだけ潤んでいたのを。呆れたわけじゃない。神崎君は感動していたのだ。“夢”の為に己の可能性を最大限に発揮して見せた匙君に・・・。

 

そう伝えると、匙君は大層驚いた表情でドアの方を見た。

 

「せ、先輩・・・。俺を、俺なんかをそんな風に見てくれて・・・!」

 

「伝説の騎士のお墨付きだ。自分を卑下する必要なんて無い。これからも夢の為、努力を怠らないようにね」

 

「はい・・・はい! 俺はもうグダグダ難しい事を考えるのは止めます! そんな事をしているヒマがあるならただ夢の為に突っ走る方がずっと俺らしいから!」

 

およそ立ち上がれる状態ではないであろうに、匙君は拳を振り上げながらベッドから起き上がった。はは、青春だなぁ。

 

若い子はそれでいい。がむしゃらに、ひたすらに前に突き進んでいけば、いつかきっと目的地に辿りつける。それは若い子だけの特権だからね。

 

「さて、それじゃあそろそろ私は失礼するよ」

 

匙君の病室を後にする。さて、次は可愛い妹の様子でも見に行ってみようかな。

 

サーゼクスSIDE OUT

 

 

 

IN SIDE

 

匙君の部屋を後にし、他の子達を見舞っていた俺は、最後にリアスの病室へお邪魔したのだが、そこには死んだように眠るリアスがいた。

 

「おう、来たかフューリー」

 

「アザゼル先生。リアスは・・・?」

 

「心配すんな。眠ってるだけだ。お前も見ただろう? コイツ、まさかの土壇場で成功させやがった。どうも追い詰められた事でコイツの中のリミッターが外れたらしい」

 

それって所謂バーサーク状態って事? もっとわかりやすく言えば火事場の馬鹿力的な?

 

「リミッターってのは外せば自分の限界を越えた力が出せる。だがな、それは同時に自分の体の崩壊を招く事になる。当然だ。際限無く負荷をかけるんだからな。リアスの場合、魔力球の制御をするにあたって脳への負担がかなりかかっていたみたいだ。あの時の血涙はその所為だな」

 

冷静に説明するアザゼル先生に、俺の気分も幾分か落ち着いて来た。

 

「・・・フューリー。お前から見て、今日のゲームはどうだった?」

 

え? いや、あの、すみません。終わりしか見てませんからなんとも言えないんですけど。でも、こんな事で誤魔化したら余計話が拗れるし。・・・ここは正直に本当の事を言うべきだろうな。

 

「すみません。最後のリアスの所しか見ていないので答えようがありません」

 

「・・・そうかい。いや、それでいい。ありがとよ」

 

優しいなぁ先生。あえて礼を言う事で俺に気分を軽くしようとしてくれたんだろう。ホント、なんであの日あの時の電車が止まらにゃならんかったんだろう。

 

それからすぐ、病室に入って来たサーゼクスさんがリアスを見て仰天していた。アザゼル先生が説明したら落ち着いてくれたけど、やっぱりこの人シスコンだわ。

 

結局、リアスが目を覚ましたのはゲームの日から数えて三日後の夜だった。夕食後、彼女達は前日の時と同じように、アザゼル先生の部屋に集まって反省会を行うそうだ。

 

どうも、みんなそれぞれに後悔の残るゲームだったらしいし、今回の経験を元に、次はいい結果が出せるよう祈っておこう。俺に出来るのはそれくらいだしな。

 

冥界での生活も残す所後僅かとなったこの日、俺はそんな事を考えながら眠りにつくのだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

部屋の中を重苦しい空気が漂う。誰も言葉を発せない中、アザゼル先生の冷たい声が響く。

 

「・・・俺が何を言いたいかわかるな?」

 

答える者はいない。何故なら、答える必要が無いから。アザゼル先生の言葉の意味を理解していないヤツはここには誰もいないから。

 

「今回のレーティングゲームは直前の予想を大きく裏切る事となった。結果、ソーナ・シトリーは評価を大きく上げた。対するお前達はゼロどころかマイナスだ。俺自身、あまりの酷さに思わず目を覆いたくなった」

 

言い返せない。俺達だって自分がどれだけ不甲斐無かったかわかってる。アザゼル先生の修行をこなし、神崎先輩から教えてもらった必殺技を覚えて天狗になっていたんだ。そのくだらない慢心の所為で、俺達は勝てるはずだった勝負に負けたんだ。

 

「イッセーは相手の狙いに気付けなかった。小猫は一人で突出し過ぎた。朱乃、ゼノヴィアに関しては論外。木場は最後の最後で技に頼ろうとしなければもう少し粘れた。辛うじて褒められるのは自分の役目をしっかり果たしたギャスパーだけだ。そしてリアス。あの場面で技を成功させたのは認めるが、お前が本当にやらなければならなかったのは、ああいう局面に陥らない様、全員に的確な指示を出す事だった」

 

匙・・・アイツは俺を確実に戦闘不能にさせる為に、神器で俺の血を吸い続けていた。しかも、俺と殴り合いをしながら並行してそれを行っていた。俺は、心のどこかでアイツを侮っていたのかもしれない。それが結局敗北に繋がったんだと思う。

 

「・・・それと、フューリーも今回のお前達の結果が相当不満だったようだぞ」

 

その一言は俺達を凍りつかせるのには充分だった。手に汗が滲む。喉もカラカラだ。心臓だって急に激しく動きだした。果たして、先輩が俺達に下した評価はいったい・・・。

 

「リアスの病室で俺はアイツにゲームの感想を聞いた。そしたら、なんて答えたと思う?」

 

ゴクリと誰かが喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえた。それを合図にしたように、アザゼル先生が再び口を開いた。

 

「アイツは、最後のリアスの所しか見ていなかったと言った。・・・つまり、それ以前のゲームをアイツは見ていない。いや、あの時の表情から察するに、見る価値も無かったようだ」

 

「「「「「「「ッ!?」」」」」」」

 

瞬間、頭が真っ白になった。あの人が・・・今までどんなに情けない姿を見せても決して見捨てないでいてくれた先輩をして見る価値の無かった勝負。は、はは、上に下された評価よりもずっとキツイや・・・。

 

「僕は・・・僕は一体何をやっていたんだろう・・・!」

 

木場が机に拳を叩きつける。その目からは涙が流れていた。他のみんなも同じだった。あの小猫ちゃんまでもがハンカチで目尻を拭っている。そして、俺もまた涙を流していた。

 

俺は・・・俺達は先輩の信頼を裏切ってしまった。それは誤魔化し様の無い事実だ。それこそ、さっきアザゼル先生が言った様に、俺達の評価は落ちる所まで落ちてしまったのかもしれない。

 

「・・・だが、これはお前達だけの所為じゃない。安易に必殺技を覚えさせようとした俺の責任でもある。技を覚える事と技を使いこなす事は違う。それを最初に叩き込んでおけばよかった。だから、今回の敗北は俺達全員の責任だ。・・・だが、これからは違う」

 

「え?」

 

「俺はもう二度とお前達に同じ悔しさを味わわせない。評価が最底辺まで落ちた? 上等じゃねえか。これ以上落ちないんだ。後はただ駆けあがっていけばいいだけじゃねえか。お前達だって、言われっぱなしで我慢するつもりはねえんだろ?」

 

・・・そうだ。ああ、そうだよ。先生の言う通りだ! 馬鹿な俺に出来る事なんて、今までもこれからも、ただひたすらに前に進む事だけなんだから! 周りになんて言われようが、それが兵藤一誠のやり方だ!

 

「よっしゃ! 泣くの終わり!」

 

「イッセー?」

 

「部長! みんな! もう一度頑張ってみようぜ! きっとこれまでが順調過ぎたんだ! たまにはこんな風に壁にぶち当たってみるのも面白いじゃん! その壁だって、俺達が力を合わせればきっとすぐに乗り越えられるさ! だって、俺達は天下のグレモリー眷属だぜ! そんな俺達に越えられねえわけがないんだよ!」

 

俺の言葉にキョトンとする一同。だけど、それはやがて笑みに変わり、ついには大きな笑い声を招く事になった。

 

「ふ、ふふ、イッセー君。僕はキミのそういう所が本当に好きだよ」

 

「お前の好きは誤解を招くから止めろって言ってるだろうが!」

 

「だが、確かにイッセーの言う通りだな。なんだか目が覚めた気分だ」

 

「そうですわね。後悔や反省は大切だけれど、それに引き摺られるのは間違っていますわよね」

 

「・・・ありがとうございます。イッセー先輩」

 

「ぼ、僕も、僕なりに頑張りますぅ!」

 

そうだよ。みんなには悲しい顔なんて似合わない。そんな風に笑ってないと!

 

「イッセー。あなたが眷属でいてくれて本当に良かったわ。これからも、あなたのその前向きな心で、私を支えてちょうだい」

 

「もちろんです!」

 

今回の敗北で、俺達が失ったものは多い。だけど、たった一つだけ得られたものがある。それは目に見えないけれど確かに存在するもの・・・。即ち、仲間同士のより強い絆だった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

 

IN SIDE

 

朝食を食べようと部屋を出たらリアス達にもの凄い勢いで謝られた件について。

 

いやホント、こっちがたじろいでしまうほどの勢いだった。もう一度チャンスをくれとか、必ず汚名を返上してみせるとか、正直何を言っているのかわからないよ? 状態だった。

 

アザゼル先生はアザゼル先生で、どうか受け入れてやってくれとか言って来るし。その目が恐ろしいくらい真剣だったからつい頷いちゃったけど、マジで何だったんだろう。

 

リアス達も安心したように笑みを浮かべてそれ以上何も言ってこなかったけど・・・。そっちだけ納得せずに、俺にもちゃんと説明して欲しいと思うのは間違いじゃないはず。

 

そして、それからさらに数日後。いよいよ俺達が冥界を去る日がやって来た。帰りの列車が停まる駅前で、お世話になったみなさんと最後の挨拶を交わす。

 

リアスのご両親はもちろん。サーゼクスさんにグレイフィアさん、ミリキャス君。さらにはセラフォルーさんにカテレアさんまでみんな揃っている。

 

「神崎殿。家の扉はいつでも開けておく。また気兼ねなく遊びに来てくれたまえ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「フューリー様! 今度お会い出来る時までに必ず完成させておきますから待っててくださいね」

 

「? よくわからないが、期待しておくよ」

 

「フューリーさん。次はこっちから会いに行くからね!」

 

「フューリー様の家・・・ああ、きっと素敵なお家なのでしょうね」

 

「え、ええ。お待ちしてます」

 

全員と握手をし、列車に乗ろうとしたその時、アガレスさんからもらった端末にメッセージが届いた。

 

『今日がお帰りの日だと聞いています。また一緒にお話出来る日を楽しみにしています』

 

俺もです・・・と返事を送り、今度こそ列車に乗り込む。こうして、俺達の冥界生活は幕を閉じたのだった。後は残り少ない夏休みを消化するだけ。そう思っていたのだが・・・。

 

「アーシア。やっと見つけたよ。中継を見た時、もしやとは思ったけど。やっぱりキミだったんだね」

 

「あ、あの、あなたは・・・?」

 

「僕はディオドラ。ディオドラ・アスタロトだ。かつて、キミによって命を救われた悪魔だよ」

 

「ッ・・・!?」

 

「思い出してくれたかい? アーシア。僕はキミを迎えに来たんだ。命を救われたあの時から、僕はキミの事をずっと想っていた。どうか、僕の妻になって欲しい。僕は、キミを愛しているんだ」

 

地下ホームに突然現れたと思ったら、これまた突然アーシアに求婚しちゃったアスタロトさん。どうやら、また一騒ぎ巻き起こりそうな雰囲気だった。




というわけで、五章は終わりです。次回からは新章突入です。それにあたって、少し次章について触れてみたりします。

今まで、どちらかというと巻き込まれ体質だったオリ主ですが、次章ではある理由から自ら動こうとします。この『オリ主が誰かの為に本気で動いたらどうなるか』というのが次章のテーマとなります。それに伴い、おそらくシリアルメインになると思います。

シリアスじゃなくてシリアルです。私にゃシリアスなんて書けやしませんから。

そして同時に『オリ主が心の底からブチ切れたらどうなるか』も書こうと思います。・・・なんか既にあるキャラの命運が決まってる気がしますが、そこはスルーしてください。

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