ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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時間が欲しい! いっぱい書きたい! 


第七十七話 自らの意思で

どうも、みなさん。イッセーこと兵藤一誠です。突然ですが、僕の話を聞いてください。

 

既にみなさんご存知でしょうが、僕には尊敬する一人の先輩がいます。その先輩の様子が最近エライ事になってるんです。

 

闘気・・・オーラと言った方がいいですかね? 漫画とかで見る、見えないけど感じ取れるアレです。そのオーラを、先輩が全身に纏ってるんです。もうね、最初に見た時はただただビックリしましたよ。これからラスボスとの決戦にでも赴くんですか!? って本気で聞きそうになるくらいに。

 

だけど、そんな物騒な雰囲気とは裏腹に、先輩の顔は妙に晴れ晴れとしているんです。それこそ、何かを決意した“漢”の顔でした。ただでさえイケメンだったのに、そんな風になっちゃったからウチの学園の女子達が騒ぎまくって大変なんですよ。つーか、僕と先輩が最近仲が良いからって、普段嫌っている僕に先輩に何があったのか聞いて来るとか止めて欲しいですよ。ったく、こういう時だけ頼るなっつーの!

 

「・・・さっきから何を言っているんだい、イッセー君?」

 

オカルト部の部室、俺の対面に座る木場の声が俺の意識を呼び戻した。

 

「気にするな。今の俺の気持ちをみなさんに伝えたかっただけだ」

 

「今、この部室には僕とイッセー君だけ。キミの言うみなさんなんて人はどこにもいないんだけれど」

 

「いいんだよ。わかる人にはわかるんだから」

 

「僕はキミが何を言っているのかさっぱりわからないけどね」

 

何だよ。お前だって前に似たような事を言ってた癖に。・・・まあいい。俺だってこんな事をグダグダ続けるつもりは無い。今重要なのは神崎先輩の事だ。

 

「でもさ・・・確かにキミの言う通り、先輩には驚かされてばかりだよね。この前のアレ・・・僕は未だに信じられないよ」

 

ああ、アレな・・・。俺だって忘れられねえよ。あの日、部室に集められた俺達に向かって、深々と頭を下げた先輩を。

 

『俺はもう迷わない。アーシアの為、みんなの力を貸して欲しい』

 

何者かの所為で、先輩とディオドラがアーシアを懸けてレーティングゲームをする事は知っていたが、正直先輩が何に悩んでいたのかはさっぱりだった。でも、あの先輩が俺達に頭を下げたんだ。・・・何より、ついこの間不甲斐無い姿を見せてしまった俺達を頼ってくれた事が嬉しかった。

 

俺達の答えは決まっていた。先輩からしたら取るに足らない存在の俺達だけど、それぞれの精一杯で先輩を支えようって。

 

部長はレーティングゲームについて色々教える。木場やゼノヴィアは先輩の特訓の相手。朱乃さんは特訓を行う先輩への差し入れ。ギャスパーは神器を使って何やらやっているらしい。小猫ちゃんとお姉さん、そしてアーシアは家での先輩のケア。みんな自分が一番役に立てる事で先輩の力になろうとしていた。

 

アザゼル先生は・・・どうなんだろう。なんか「胃が・・・胃が・・・」とかブツブツ言ってたけど。

 

俺? 俺は・・・どうしよう。俺の神器じゃ長時間の特訓には付き合えないし。・・・朱乃さんみたいに差し入れとかしてみようかな。母さんに疲れた時に効く食べ物とか聞いてみるか。それと、俺の秘蔵のお宝本・・・は止めとこう。見せた瞬間真っ二つにされそうだし。

 

「今の先輩を剣で例えるなら・・・日本刀だろうね。斬るという目的の為に、極限まで研ぎ澄まされた刃。最も、先輩の目的は相手を斬るんじゃ無く、アーシアさんを守る事なんだろうけど」

 

ああ、何となくコイツの言わんとしている事が理解出来る。今の先輩って何となく近づき難いんだよな。松田と元浜ですら、今の先輩に感じるものがあるみたいだし。もちろん、話しかければ応えてくれるし、困っていたら助けてくれる所は変わって無いけど。

 

「今回のゲーム。先輩は並々ならぬ思いを抱いて臨むみたいだ。明らかにこれまでの先輩とは様子が違う」

 

「何言ってんだ、木場。そんなの当たり前じゃないか」

 

「え?」

 

「アーシアは天使。・・・これ以上言葉がいるかい?」

 

「・・・ゴメン。確かに愚問だったね」

 

「そういや、木場。話は変わるけど、お前一昨日に先輩の特訓に付き合ったんだろ。どうだったんだよ?」

 

「・・・聞きたいかい?」

 

おい、何だよそのおどろおどろしい声は? 聞いたらマズかったのか?

 

「確かに、僕は先輩の特訓の手伝いをさせてもらったよ。だけどね、その結果、僕は先輩の恐ろしさに改めて気付かされた」

 

「ど、どういう意味だよ?」

 

「最初はね、お互いの剣を軽く合わせる程度だったんだ。それでわかったんだけど、先輩の剣は凄く綺麗だった。いや、綺麗過ぎだった。まるで、ロボットが剣の型を繰り返している様に、何度やっても同じ角度、同じ速度で剣を振るっていた」

 

「それって何か問題があるのか?」

 

「型通りに技を繰り出すのは悪い事じゃないよ。だけど、変化もつけず、ただ同じ事を繰り返していたらいつか必ず対処法を見つけられる。そうなれば、もういくら攻撃しても通じない」

 

なるほど。確かに、ワンパターンだとすぐに見切られたりするんだよな。俺がそうだし。

 

「だからね、開始十分くらいまでは何とか先輩の攻撃を防げていたんだ。だけど、それを過ぎてから先輩の剣が変わったんだ。今まで通りの剣かと思えば、突然乱雑な一撃を叩きつけてきたり、かと思えば今まで以上に正確無比な一閃を放ってきたり。素人と達人、両方の相手をしている気分だったよ」

 

「ほうほう。それで?」

 

「三十分を過ぎた頃だったかな。その時にはもう、先輩の剣は完全に別物と化していたよ。重さも鋭さも正確さも速さも、全てにおいて開始前を上回っていた。何となくだけど、僕の剣を参考にした動きもいくつかあった。あの短時間でそれを身につけたのか、それとも本来の力を出しただけなのかは判断はつかないけど、よくよく考えたら、先輩ほどの人が素人丸出しな剣を振るうわけ無い。アレは僕を油断させるためにわざとやっていたのかもしれない。おかげで最後の方は避けるだけで精いっぱいだったよ。・・・あれでも手加減してたみたいだけどね」

 

や、やっぱり先輩ってすげえな。手加減した上で木場を簡単に追い込むとか。

 

「その後は休憩を入れて実戦形式で手合わせを行ったんだけど・・・」

 

あ、また何かあったんだな。木場の見せる表情から俺は何となく察した。

 

「・・・『魔剣創造』で生み出した剣の海をものともせずに突っ込んで来られた時は、正直泣きそうになったよ。僕の中の何かが粉々になっちゃった気がしてね」

 

そ、そうか。うん、ドンマイ、木場。最近・・・というか、だいぶ前から思ってるけど、先輩に俺達の常識を当てはめたら駄目だと思うんだ。

 

「極めつけは特訓が終わった後の先輩がボソッと呟いたセリフだよ。「まだだ・・・まだ足りない・・・」だってさ。はは・・・もうね、笑うしかないよね」

 

「もういい! もういいよ木場! お前は頑張った! 俺はお前を尊敬するよ!」

 

「イッセー君・・・」

 

木場でこれかよ・・・! って、あれ。ちょっと待てよ。確か今日はゼノヴィアの番だった様な・・・。

 

「ゼノヴィアのヤツ。この機会に先輩の技を盗んでやるとか言ってたけど・・・」

 

「ああ、無理だよ。そんな事考える余裕なんてすぐに無くなるから」

 

て事は、お前も盗もうとしたんだな。つーか怖いから目のハイライト消すの止めれ。ヤンデレじゃあるまいし。

 

「そ、それにしても部長遅いな~! どこに行ったんだろうな~!」

 

何とか木場を元に戻そうと、いきなり話を変えてみる。すると、木場の目に光が戻った。

 

「部長なら神崎先輩と一緒に生徒会室に行ったよ」

 

「生徒会室? 何で?」

 

「特訓は夜だからね。その前に会長にレーティングゲームについて教えてもらえるよう頼みに行ったみたいだよ」

 

部長だけじゃなく、会長にもか・・・。もうさ、ここまで徹底すると勝負は決まった様なもんじゃないのか。

 

「なあ、木場。ぶっちゃけ、これほどまでに気合い入りまくりの先輩が負けると思うか?」

 

「・・・勝率八十パーセントの勝負に負けた僕達が言っても説得力が無いだろうけど、あえて言わせてもらうよ。・・・そんな未来、絶対にありえない」

 

「だよなぁ・・・」

 

ディオドラ・アスタロト・・・。とりあえず、無事でいられるようには祈っておいてやるよ。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

 

ソーナSIDE

 

生徒会のメンバー。そしてリアス達が固唾を呑んで見守る中、私と神崎君の勝負に決着がつこうとしていた。

 

「・・・これでチェックメイトだ」

 

私の『王』が神崎君の手に取られる。こうして迎えた結末が信じられなくて、私はそれを呆然と眺めていた。

 

「か、会長が・・・負けた」

 

サジが声を震わせながら愕然としている。それは他のメンバーも同じだった。リアスも目を大きく見開いている。そんな周囲を尻目に、神崎君だけが微笑む。

 

「はは。何とか最後は勝てたか。五戦やって一勝四敗。やっぱり支取さんは強いな」

 

最終的な結果は私の勝ち越し。だけど、そんなものはどうだっていい。四勝一敗・・・。そう、私は最後の最後に負けてしまった。

 

数日前に、お姉様から神崎君とディオドラ・アスタロトがレーティングゲームを行う事は聞いていた。だから、レーティングゲームについて教えて欲しいとやって来た彼に、今現在の戦術眼の確認、そしてそれを鍛える為の軽いトレーニングのつもりで、私は彼にチェスでの勝負を持ちかけた。

 

チェスの経験を聞くと、彼はこう答えた。「経験は無いが、こういった駒を動かすシミュレーションならやった事がある」と。

 

ルールを簡単に説明し、いざ勝負してみれば、なるほど、確かに初心者にしては中々な腕だった。だけど、手加減しているとはいえ、経験者として簡単に負けるつもりは無かった。

 

そして、気付けば四連勝を達成していた。時間的に次が最後のゲームになるだろう。そう思った私は、ほんの軽い気持ちで彼にこう言った。

 

「次のゲーム。私の『王』をディオドラ・アスタロトだと思ってやってみてください」

 

そう冗談めかして告げた瞬間、彼の様子が一変した。穏やかだった表情は一瞬で引き締まり、私を見つめるその目が鋭さを増した。

 

「せ、先輩、何だか雰囲気が・・・」

 

「しっ・・・!」

 

「はあぁ・・・やっぱりカッコいいなぁ」

 

眷属達のヒソヒソ声が聞こえる。この子達も神崎君の雰囲気の変化に気付いたのだろう。・・・一部、あまり関係の無い声も聞こえた気がしたが、流しておく事にした。

 

「では、神崎君からお先にどうぞ」

 

先行を彼に譲り、最後の勝負が幕を開けた。そして、私がそれに気付いたのはゲームが中頃まで進んだ時だった。

 

(・・・押されている?)

 

ほんの僅か、まだいくらでも挽回出来るチャンスはある。だけどこの時、私はこの五戦の中で初めて彼にリードを許していた。

 

「くっ・・・」

 

「・・・」

 

勝負の時は流れ、逆転可能だったはずの差は、気付けば完全に不可能な所まで開いていた。このゲームも手加減はしていた。けれど、油断だけはしていないつもりだった。なのに、神崎君の『騎士』は既に私の『王』を射程圏内に捉えていた。

 

私は理解した。神崎君の吸収力、そして応用力は異常だ。一しか与えられなかった情報を、自分の中であっという間に十にしてしまう。私はこのゲーム、四戦目までの手のパターンを組み合わせた攻めを行ったが、彼はそれに気付いたのだろう。複雑なパターンを頭の中で整理し、私が次に何をするのかを予測し、最適な行動に移る。その結果が今の盤上に現れていた。

 

そして、彼は最後の言葉を口にする。

 

「・・・これでチェックメイトだ」

 

私の脳裏に、神崎君に剣を突き付けられるディオドラ・アスタロトの姿が浮かび上がった。こうして、私は負けたのだった。

 

「ま、まさか、ソーナに勝つなんて・・・」

 

「俺も何で勝てたのかわからない・・・」

 

自分でも信じられないのか、神崎君がそんな言葉を口にする。四戦目までと最後の違い。それは、彼が私の『王』を倒すべき敵と判断したから。

 

神崎君の行動理念がわかった。彼は自分じゃなく、他人の為に力を発揮する人だ。リアスの時も、コカビエルの時も、彼は自分じゃない誰かの為に戦った。誰かを思うその心が、彼の力を極限にまで引き出すのだろう。

 

「・・・なるほど。勝てないわけです」

 

「支取さん、何か言ったか?」

 

「いえ、何でもありませんよ。とりあえず、簡単にではありましたが、現在のあなたの能力についてわかりました。次はより実践的なアドバイスをさせてもらおうと思います」

 

「そうか。ありがとう。キミやリアスに教えてもらえると本当に心強いよ」

 

「あ、あの、神崎先輩!」

 

突然、憐那が声をあげた。何事かと神崎君が目を彼女に向ける。

 

「草下さん、何か?」

 

「私も何かお手伝い出来る事はありませんか? アーシアさんの為に一生懸命な先輩に、私も何かしてあげたいんです」

 

「わ、私もお手伝いします!」

 

「私も・・・!」

 

気付けば、全員が神崎君へ協力を申し出ていた。だけど、気持ちはわかる。どうも今の彼を見ていると、助けてあげたくなってしまう。私自身、どうしてこんな気持ちになっているのかはわからないけれど、それだけは確かに感じていた。

 

「俺もッス先輩! 俺を認めてくれたあなたを、今度は俺が応援します! いや、させてください!」

 

「みんな・・・」

 

「神崎君、この子達で良ければ、手伝わせてあげてください」

 

「だが・・・」

 

「遠慮は無用です。何故なら、私達は生徒会。そして生徒会の役目は、困っている生徒の力になる事ですから。・・・何より、大切な友人の為に何かしてあげたいと思うのは当然でしょう?」

 

「・・・ありがとう」

 

この時彼が見せた笑顔は、悪魔である私達でさえ見惚れてしまうほどの輝きに満ち溢れていたのだった。

 

・・・余談だが、後日彼の特訓に付き合ったらしいメンバーが翌日全員休んでしまい、生徒会の仕事が滞ってしまった。この責任はいずれ神崎君にとってもらうとしよう。




周りに支えられながらオリ主は一歩一歩強くなっていきます。与えられたものでは無く、自らの、そして仲間の協力で得た力は、オリ主の中で一つになり、やがてその力はラフトクランズとは違う新たなる“剣”としてオリ主の手に渡る事になるでしょう。

・・・なんて煽るだけ煽ってみたりします。

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