ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第七十八話 新たな絆

みんなに支えてもらいながら、アスタロトさんとのレーティングゲームに向けて自分を鍛える日々が続いた。その最中、サーゼクスさんが再び俺を訪ねて来た。

 

今回は俺の家ではなく、オカルト部の部室を話の場に設けた。リアス達に支取さん、そしてアーシアと黒歌も揃ってサーゼクスさんを迎える事となった。

 

「・・・なんて覇気だ。一体この数日でキミに何があったのか是非とも聞かせてもらいたいものだね」

 

感心したかのようにそう言うサーゼクスさんだが、俺は特別な事など何一つしていない。俺の都合に巻きこんでしまったにも拘らず、それでも快く協力してくれたみんなに助けてもらって、今の自分を変えたかっただけなのだから。そして、俺はまだ自分自身に対して納得していない。

 

リアスや支取さんのおかげでレーティングゲームについての心構えや知識は僅かだが理解出来た。アザゼル先生のおかげで鍛えるのに十分な場所を得られた。木場君やゼノヴィアさん、真羅さん達のおかげで剣の振り方も多少はマシになった。朱乃や兵藤君の差し入れにヴラディ君の応援、さらに家での黒歌達のマッサージ等のケアのおかげで、一度も挫ける事無く鍛え続ける事が出来た。

 

それでも足りない。今まで頼ってばかりで素人丸出しの俺がこの程度で満足していいわけが無い。そんなの、俺の為に時間を割いてくれたみんなの優しさを裏切る事にしかならない。

 

「俺はただ、自分に足りなかったものを得たかっただけです。・・・ですが、まだ足りません。俺はもっと力をつけなくてはいけない」

 

(・・・アレで足りないと言うのねあなたは)

 

(神崎君、あなたはどこへ向かおうとしているんですか・・・)

 

(ストイックなんてチャチなもんじゃねえ。この人の中の強さの基準ってどうなってんだ・・・)

 

リアス達もそれがわかっているのか、俺に向かって無言の視線を送っている。はあ、彼女達に認められるまでまだ先は長そうだ。

 

「なるほど・・・。着実に準備を進めているようだね。やる気を持ってくれるのは嬉しいよ。キミからすれば、ほぼ強制的に決められた様なものなのにね」

 

「その件に関してはサーゼクスさんが気にする事なんて無いですよ」

 

むしろ、この人は俺に考える時間を与えようとしてくれた。それを別の誰かが台無しにしてくれた。それだけだ。

 

「覚悟は決めました。後はもう駆け抜けるだけです」

 

自ら戦いの場へ上る事に恐れはある。不安だって拭いきれない。それでも、支えてくれる人達がいる限り、俺はもう迷いはしない。

 

「ただ駆け抜けるだけ・・・か。いい言葉だ。・・・メモしておこう」

 

「え?」

 

「何でも無いよ。キミの想いは十分に伝わって来た。だけど、それに水を差すようですまないが、今回は本当の戦いでは無い。あくまでもゲームだ。当然ルールだってある。はそれはわかって欲しい」

 

「ルール・・・ですか?」

 

「その説明の前に、神崎君。キミには今眷属はいるのかい?」

 

「いえ。悪魔の駒を貰ってから今まで、ゼロです」

 

「なら、ゲームまでに必ず一人は眷属を見つけておいてくれ。でなければ・・・キミは確実に負ける」

 

負ける・・・。サーゼクスさんのその言葉にみんながざわめく。

 

「ど、どういう意味ですか、お兄様?」

 

「落ちついてくれ、リアス。サーゼクスさん。それは眷属の有無が関わるルールがあるという事ですか?」

 

「・・・少しは慌てるかと思ったけど、流石だね。その通りだ。今回のゲームにおいて、キミには三つの枷をつけさせてもらう」

 

一つ・・・俺自身が相手を出来るのは三人まで。四人目を戦闘不能に追い込んだ時点で俺の負けになる。

 

二つ・・・ラフトクランズモードの使用禁止。

 

三つ・・・回復魔法(精神コマンド)の使用は五回まで。

 

・・・なるほど、眷属がいなければ負けるというのはそういう事か。手を出せば負け。手を出さなくてもこちらに対抗手段が無いのだから結局は負け。中々に厳しいルールだな。

 

「な、何だよそれ! 何でそんな先輩ばっかり不利なルールに・・・!」

 

「これは厳正に話し合った結果だよ。ハッキリ言って、無条件で戦えばディオドラ君の負けは目に見えている。彼にも勝つチャンスを与えなければフェアじゃないからね」

 

「そ、それはそうかもしれないですけど・・・」

 

「だから神崎君。キミはゲームまでに眷属を見つけなければいけない。・・・だけど、眷属というのは本来、お互いに心からの信頼を結んだ上で関係を持つものだ。今回の様に時間の限られた中で慌てて探す様なものじゃない」

 

「では、どうすれば?」

 

「『悪魔の駒』は持って来ているね?」

 

「はい」

 

事前に『悪魔の駒』を全部持ってくるよう言われていたので、俺は全ての駒が収められた箱をサーゼクスさんに手渡した。

 

「この術式で・・・」

 

サーゼクスさんが何やら唱えると、箱が紫色の淡い光に包まれた。その光が治まった所で、箱が俺に返された。

 

「今のはアジュカ・・・現ベルゼブブから教えてもらった術式でね。これでこの『悪魔の駒』は、一度だけだが、使用せずとも所持するだけで眷属とみなされるようになった」

 

つまり、一回だけの仮契約みたいなものか。確かにこれなら今度のゲームが終われば眷属じゃなくなるから問題無いな。

 

「今回のルールに対するキミへのお詫びだよ。こんなもので納得してもらえるとは思っていないけどね」

 

「いえ、十分です。ありがとうございます、サーゼクスさん」

 

「どういたしまして。ところで、今から私は十秒だけ魔王からサーゼクスに戻らせてもらう」

 

「はい?」

 

「・・・応援してるよ神崎君。僕はキミに勝って欲しい」

 

ッ・・・。そうか。今のを俺に伝えたかったから十秒だけという事か・・・。

 

「さて、私はこれで失礼するよ。ゲームに向けて色々忙しくなりそうだからね」

 

魔法陣に消えて行くサーゼクスさんを見送り。俺達も解散する事になった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

夜。俺は自室で『悪魔の駒』とにらめっこをしていた。

 

「・・・眷属か」

 

貰った以上、いつかは使う事になるかもしれないとは思っていたけど、まさかここで迫られるとはな。

 

レイヴェルさん・・・は無理か。あれはただの俺の妄想だしな。そもそも連絡手段が無い。

 

となると・・・やはり“彼女”しかいないか。きっと彼女ならアーシアの為にも手を貸してくれるはずだ。もし駄目だったら・・・いや、考えるのは止めておこう。まずは話をしなければ。

 

そう決めて部屋を出ようとした時、ふいに扉がノックされ、たった今会いに行こうとしていた“彼女”の声が聞こえた。

 

「ご主人様・・・ちょっといい?」

 

「ああ、どうぞ」

 

ドアを開ける。彼女・・・黒歌は真っ直ぐに俺を見つめながら部屋に入って来た。ひょっとしたら、彼女も俺と同じ事を考えているのかもしれない。そんな淡い期待が頭を過った。

 

「ご主人様・・・お願いします。私を眷属にしてください!」

 

「ッ・・・!」

 

「ご主人様にとって、アーシアはとっても大切な存在なんだよね。ちょっと嫉妬しちゃうな。でもね・・・それ以上にご主人様の気持ちがわかるの。私にとってもあの子は大切だから。アーシアは・・・この家の大切な家族だから! ご主人様がいて、私がいて、リアスがいて、アーシアがいて、白音がいるこの家は私の大切な場所だから! 私はそれを守りたい! だって・・・私はみんなが大好きだから!」

 

「黒歌・・・」

 

「だからお願いします! 私を眷属にしてください! 足手纏いにだけは絶対にならないから! 私にもあの子を・・・アーシアを守らせてください!」

 

土下座しそうな勢いで頭を下げる黒歌。それを見た俺は込み上げて来る笑いを押さえる事が出来なかった。

 

「は、ははは・・・!」

 

「ご、ご主人様?」

 

いきなり笑いだした俺に不安を感じたのか、黒歌の表情が強張る。いかんいかん。ちゃんと説明しないと。

 

「いや、すまない。今から頼みに行こうとしたのに先に言われてしまってついおかしくなってしまった」

 

「頼みに・・・。え、そ、それじゃあ・・・!」

 

目を見開く黒歌に、俺は改めてお願いする事にした。

 

「黒歌。どうか俺の眷属になって欲しい。アーシアを守る為、キミの力を貸してくれ」

 

「・・・はい!」

 

差し出した手を、黒歌は満面の笑みを浮かべながら取ってくれた。

 

こうして、俺は黒歌という眷属・・・いや、仲間を得る事が出来た。今日はもう遅い。明日もう一度部室に集まってもらって、そこで発表する事にしよう。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

翌日の放課後、俺はサーゼクスさんを除いた昨日と同じメンバーに集まってもらい、黒歌を眷属にした事を伝えた。

 

「まあ、妥当な所ね」

 

「これで一人目。出来ればもう二、三人いれば戦術も練りやすいんですけど」

 

支取さんの言う事は最もだが、もう候補となるような相手は・・・。

 

「そういえば、アザゼル先生は? こういう時は先生に頼めば何とかしてくれると思うんだけど」

 

「おい、イッセー。俺をどこぞの眼鏡にこき使われる青いヤツみたいに言うな」

 

噂をすればアザゼル先生のご登場。・・・なんかちょっとゲッソリしてるけど、お腹でも壊してるんだろうか。後で『信頼』でもかけておいてあげよう。

 

「先生、どこ行ってたんですか?」

 

「フューリー。人手が欲しいんだろ? おあつらえ向きなヤツ等を連れて来てやったぜ」

 

「え?」

 

「入れ」

 

「「「失礼します」」」

 

思いがけない人物達の登場に目を丸くする。声を揃えて部室へ入って来たのは、レイナーレさん、カラワーナさん、ミッテルトさんだった。

 

「みなさん、どうして・・・」

 

「今回の事情を説明したら面白いくらいに反応してな。そのやる気を買って連れて来た」

 

「神崎様。私達でお力になれるのであれば、存分に使ってくださいませ」

 

恭しく頭を下げる三人に反応出来ずにいると、リアスがアザゼル先生に尋ねた。

 

「先生、正直彼女達に戦力的な期待は出来ないんだけれど」

 

「そりゃ以前のコイツ等の事だろ? 今は違うぜ。俺の助手に弱いヤツ等がいても困るからな。俺自ら鍛えてやった。階級的には今も下だが、実力だけ言えば中級は軽く超えている」

 

「なっ・・・!」

 

「それにな、コイツ等にはとっておきを渡してある。レイナーレ、見せてやれ」

 

「はい」

 

返事と共にレイナーレさんが右手をかざす。他の二人もそれに倣う。次の瞬間、眩い光が彼女達の右手を覆った。そして、それが治まった時、レイナーレさんは巨大なライフルを握り、カラワーナさんは鋭い槍を構え、ミッテルトさんの右手がごつい手甲に包まれていた。

 

そして、その全てに見憶えがある俺は、驚きのあまり目を見開いた。だって、彼女達の武器・・・どう見てもスパロボJの各主人公機の持つ武器じゃないですか!

 

「せ、先生・・・。これは・・・!」

 

「冥界でお前から話を聞いて作りたくなってな。手始めにコイツ等専用の人工神器として作ってみた。一応、お前から聞いた情報通りに設計してみたぜ」

 

あんな話だけで実際に作るとか技術チートもいいところじゃないですか・・・。

 

「まあ、コレについて詳しく説明する前に、とりあえずコイツ等の話を聞いてやれ」

 

アザゼル先生に言われるがまま、とりあえず彼女達の話を聞いてみる事にした。

 

「神崎様。もしも私達を末席に加えて頂けるのでしたら、あなた様への恩。そして・・・彼女への贖罪の為、命を懸けて役目を務めさせて頂きます」

 

そう言ってレイナーレさんが見つめる先にはアーシアがいた。視線が合った彼女はおずおずといった様子で口を開いた。

 

「レイナーレ様・・・」

 

「様なんてつけないでアーシア。私達があなたにしてしまった事は決して許される事じゃないわ」

 

「贖罪って言ったって、結局は自己満足に過ぎないのかもしれないっす」

 

「だが、それでも私達の力がほんの僅かでも助けとなるのであるならば・・・この身を捧げる事に躊躇いなどあるはずが無い」

 

「これが私達の気持ち。神崎様に救って頂いて、自分達の愚かさに気付けた私達の本当の気持ちよ」

 

言葉の節々に込められた心からの想い。それはアーシアの目に涙を浮かべさせるには十分だった。

 

「・・・嬉しいです。とっても、とっても心強いです・・・!」

 

「アーシア・・・ありがとう」

 

・・・いかん。俺の涙腺も潤んで来やがった。特殊プレイを望んだ者と、それに巻き込まれた者の和解がこんなにも感動的だなんて・・・。

 

「よっし、話は決まったな。それじゃ改めてコイツ等の神器について説明を・・・」

 

その時だった。慌ただしい足音が部室の方へ近づいて来た。全員が何事かと扉に目を向けたと同時に、足音が部室の前でピタリと止まった。

 

「見つけましたわオカルト部! ここにフューリー様がいらっしゃるのね!」

 

「もー! 待ってよカテレアちゃ~ん!」

 

「・・・おい。この声まさか・・・」

 

アザゼル先生がそう言いかけた刹那、扉が大きく開かれ、その先には二人の女性が立っていた。一人はセラフォルーさん。そしてもう一人は・・・。

 

「フューリー様! 水臭いですわ! どうして私に声をかけてくださらなかったのですか!? ですが、私が来たからにはご安心ください! フューリー様の偉大さを理解していないアスタロト家の小僧なんか、私が(自主規制)してさしあげますわ!」

 

大声で物騒な事を口走るカテレアさんだった・・・。

 

SIDE OUT

 

 

 

カテレアがオカルト部に突入しているのと時を同じくして、冥界の某屋敷の一室ではたった今情事を終えた男が服を整えていた。

 

「はあ・・・はあ・・・」

 

男の足下には艶めかしく息を荒げる裸の少女が横たわっていた。その数は一人では無い。

 

「・・・随分とお楽しみのようだったな。廊下まで声が聞こえて来たぞ」

 

部屋の扉が開き、新たな男が入室して来た。元々居た方の男がそれを一瞥しながら口を開く。

 

「盗み聞きとは良い趣味をしているね」

 

「ふん、こんな時間から盛っているお前こそ大したものだ」

 

軽口の応酬を済ませ、男達は本題へと移った。

 

「フューリーは勝負を受けるそうだな」

 

「そうだね。最も、受けざるを得なくなっただけみたいだけど。ゴシップってのは怖いよね。何を書かれるのかわかったものじゃない」

 

「・・・まあいい。これでヤツは戦場に立たざるを得なくなった。後は計画通りに進めるだけだ」

 

「そっちは任せるよ。僕にはもっと大切な目的があるからね。もう少しで“彼女”が手に入るんだ。今からどうしてあげようか悩んじゃうよ。ああ、彼女の中はどんな味なのかなぁ・・・」

 

「あまり調子に乗るなよ。策があるとはいえ、相手は伝説の騎士だぞ」

 

「むしろ調子に乗っているのは向こうだろうさ。どうせこちらの事なんて気にも留めず、普段通りの生活を送ってるに決まってる。はは、その余裕面が一瞬にして崩れ去る瞬間を想像しただけで笑いが抑え切れないよ」

 

「・・・」

 

「それに、こっちには切り札が二つもあるんだ。そっちの状況はどうなんだい?」

 

「案ずるな。既に“皇帝機”の最終調整は完了している」

 

「それならいいんだ。ふふ、世界最強から与えられた“力”に“皇帝機”・・・この二つがあればフューリーだろうが敵では無い。騎士は皇帝の前に跪くもの。その逆なんてありえないんだからね」

 

今度こそ抑え切れなかったのか、男の口から盛大な笑い声が発せられた。もう一方の男はただ無言でそれを眺めていた。

 

(・・・役目さえ果たすのならば、何も言う事は無い。我ら悪魔が、いつまでも人間ごときに踊らされるわけにはいかんのだ)

 

それぞれの思惑を胸に動き出す者達。・・・だが、彼らは理解していなかった。自分達の取ろうとしている行動がある人物のフューリー・・・即ち“大いなる怒り”を呼び覚ましてしまう事になるのだと・・・。




眷属が増えたよ! やったね騎士(笑)ちゃん!

「おい馬鹿やめろ」

それと、どうやら最後の最後にどこかで誰かが特大なブーメランを放ったようです。きっとすぐに帰って来るんでしょうね。

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