ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
イッセーSIDE
俺が悪魔になってまだ数カ月しか経っていない。部長達に教えてもらって“こっち側”の常識とか色々憶えたけれど、それでもまだまだ知らない事の方が多い。
そんな俺だが、今モニターの向こうで繰り広げられている光景・・・上級・中級悪魔であるはずの『禍の団』の連中が、虫けらのごとく次々と地へ墜ちて行くこの光景が、悪魔からすれば正気を失いかねないものだという事は理解出来た。
その光景を作りだした・・・というか今も絶賛継続中であるその人物とは、他の誰でも無い、神崎先輩その人だ。かつてないほどの怒り・・・いや、怒りなんて表現では収まりきらない、正に“激情”を曝け出していた。
・・・・・・・
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神崎先輩の感情を爆発させた原因・・・それは対戦相手だったディオドラだ。サーゼクス様の計らいで、上級悪魔が利用する観客席に特別に招待された俺達だったが、肝心の勝負は『禍の団』の襲撃によって潰された。
そして俺達はディオドラの正体、その目的を知った。全てはアーシアを手に入れる為、自分の欲望の為、たったそれだけの為に、あの野郎はあの子の人生を狂わせた。
まさかの登場を果たしたフリードの口から語られた内容に、俺達の怒りは頂点に達していた。それは同じく先輩の勝負を見に来た他の若手達・・・会長やサイラオーグさん。そしてアガレスの姉ちゃんも同じだった。ディオドラはこれまで俺が出会って来たどんなヤツよりもクズ野郎だった。ヤツに比べればライザーの方がまだマシだったと思えるくらいに。
俺達はすぐさま先輩の元へ向かおうとした。だけど、先輩達が今いる戦場は『禍の団』出現と同時に強力な結界に覆われ、サーゼクス様やアザゼル先生みたいなごく限られた人しか突入出来ないとセラフォルー様から説明された。
それに突入出来たとしても、敵は大勢の上級・中級悪魔だ。そんな場所へ俺達が飛び込む等自殺行為に等しい。だけど、こうして何もせずにただ見ておくなんて出来るわけが無い。いくら先輩が強いと言ったって、あれだけの数を相手には・・・。
『黙れ』
フリードがさらに先輩を挑発しようと何かを言いかけたその時―――世界から先輩の声以外の音が消えた。同時に、先輩を中心に恐ろしいまでの力が急速に溜まり始めたのを感じた。映像で見ている俺にすら届いてしまうほどの力が。
刹那、先輩の様子が一変した。明確な怒りの表情と共に、先輩は天に向かって咆哮した。
『ディオドラ・アスタロトォォォォォォォォォォォォ!!!!』
「せ、先輩・・・」
ライザーの時も、コカビエルの時も、確かに先輩は怒っていた。だけど、それは“静かな怒り”だ。感情を理性で抑え、制御していた。対して今の先輩はそれとは真逆だった。怒りという感情を完全に解き放っていた。まるで、その必要が無いと言わんばかりに。
雄叫びと共に、先輩の体・・・正確には先輩のポケットから飛び出した『王の駒』から天に向かって緑色の光の柱が伸びて行った。
『・・・奪わせてたまるか。貴様等ごときに・・・これ以上あの子から何かを奪わせてたまるかァァァァァァァァ!!!!!!』
「これは・・・神崎君の力が世界そのものに干渉を!?」
「ッ! 見ろ! 神崎殿の駒が・・・!」
会長の言う通り、いつしか戦場そのものが震えていた。大地も空も何もかもが、まるで何かに怯えるように激しく。
さらにサイラオーグさんが指差した直後、先輩の『王』の駒が光と共に砕け散った。いつの間にか鎧を纏っていた先輩の周囲を、まるで衛星の様に欠片達が漂う。
変化はそれだけじゃなかった。欠片達はさらに形を変えていった。大きさも形もバラバラのそれらは、まるで機械のパーツみたいだった。
そして、それらのパーツは意思を持っているかの様に一斉に先輩に向かって飛んで行った。先程の緑色のものとは違う激しい光が先輩を包み込み、俺はその激しさに耐え切れず目を瞑った。
時間にして五秒くらいだっただろうか。でも、その僅か五秒の間に、先輩の姿は全く異なるものへと変貌していた。
全身を覆っていたはずの鎧は、腕や足などの部分しか覆っておらず、その他の部分は体が剥き出しだった。頭部も兜というかヘッドギアみたいになってて顔が完全に露出していた。
「何だあの姿は・・・!? リアス! お前は何か知っているのか!?」
「し、知らないわ! あんなのは見た事が・・・!」
「・・・嘘。そんな、どうしてアレが・・・!」
誰もが先輩の姿に驚愕する中、アガレスの姉ちゃんが一人違う様子を見せていた。まるで、ありえない、信じられない様なものを見てしまったかのような表情を顔に張り付けていた。
「アレは・・・間違い無く、先日送った強化プランの姿そのもの! 何故神崎様がアレを纏って・・・!」
「アガレス! 知っているのなら一人で納得していないで説明しろ!」
サイラオーグさんが説明を求めようとしたその時、先輩が静かに動き始めた。とてもさっきまで怒りの叫びを放っていたとは思えない、普段よりもさらにクールな顔で、肩から伸びるスラスターみたいな所から大剣をゆっくりと引き抜いた。
「ッ・・・!?」
その大剣を見た瞬間、とてつもない悪寒が俺を襲った。アレは・・・アレはヤバい。上手く説明出来ないけど、俺の中の何かが絶対に触れてはならないと警鐘を鳴らしていた。
『あ、あのですね。今のはあくまでもディオドラ坊っちゃんの事でして、決して僕の事を言ったわけでは・・・』
『・・・失せろ』
『あっハイ』
すげえ・・・あのフリードに一睨みで道を譲らせたぞ。流石のアイツも、今の先輩を目の当たりにして逆らうほどイカれてないみたいだな。
フリードから『禍の団』の連中に視線を移す先輩。一斉に騒ぎ出すヤツ等に向かって、先輩は静かに・・・だけどその中に強い想いを込めて口を開いた。
『・・・俺はアーシアを助ける。邪魔をするならば・・・誰であろうとヴォーダの闇に還してやる!!!』
紡がれたのは誓い。そして俺は知っている。先輩の誓いは・・・何が相手だろうと、何が待ち受けていようと、絶対に果たされるものだと!
『ひ、怯むな! かかれぇ!』
数で言えば、『禍の団』が圧倒的だ。だけど、今の先輩を前に、そんな戦力差など無に等しいのではないか。・・・俺はそう思った。
・・・・・・・
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・・・
そして場面は今へ戻る。俺の予感はまさしく的中した。
先輩達と『禍の団』との戦いは、開戦直後から最早戦いですらない一方的な蹂躙劇となっていた。小猫ちゃんのお姉さんもカテレアさんも堕天使の子達三人も・・・元々実力者だった彼女達は存分にその力を発揮して敵を沈めていった。
特にカテレアさんの活躍は一騎当千と言えるものだった。魔力の質とでも言えばいいのか、それがとにかく桁違いだった。信じられるか? 野球ボールくらいの大きさの魔力弾で上級悪魔を十人以上一度に葬ってるんだぜ?
そこにさらにオーディンのじいちゃんまで参戦してた。前に会った時はただのスケベなじいちゃんだと思ったけど、カテレアさん以上の力で向かって来る敵を殲滅していた。
だけど俺は・・・俺達の視線は神崎先輩にくぎ付けになっていた。
『き、来たぞ!』
『止めろ! 止めギャアァァァァァァァァァ!!!』
肩のスラスターから耀きを噴かせ、最早俺なんかじゃ視認出来ない速度で百メートル以上の距離を一気に駆け抜ける先輩。たったそれだけで、進路上にいたはずの敵が悲鳴と共に次々と落下していった。あのヤバい剣に斬られたのは間違いないだろう。でも、それにしては目立った傷とかが見られない。
「・・・リョーマ。まさか、こんな時にまで不殺を守るっていうの・・・?」
不殺? ・・・ッ、そうか! 確かコカビエルを倒した時に先輩が言ってたじゃないか。人は殺さず、その怨念を殺すって。だから先輩はあえて致命傷を与えずに・・・!
「・・・ですが、あれではある意味、死よりも辛いのではないでしょうか」
「どういう意味、ソーナ?」
「あくまでも私見ですが、神崎君は手加減する事によって相手の命では無く心を奪うつもりではないでしょうか。体では無く心を斬り、精神的なダメージを与える事で二度と立ち上がれなくするつもりなのかもしれません」
それって、サイラオーグさんがヤンキー野郎にやったのと同じ・・・? でも、あの時とはダメージの質が明らかに違う。だって、ヤンキー野郎は震えながらも最後まで意識は保っていた。だけど、先輩に斬られたヤツ等の中には死んだように動かなくなっているヤツもいる。
「奪うどころか、あれは完全に精神が崩壊している。最早まともな生活は送れないだろう。・・・神崎殿も酷な事をする。いっそ楽にしてやればいいものを」
「・・・それだけリョーマの怒りが凄まじいという事よ。私達ですらここまで憤りを感じているのよ。目の前でアーシアを攫われた彼の気持ちはそれ以上のはずだわ」
部長の言う通りだ。先輩はアーシアの事をとても大切にしていた。それこそ“天使”なんて言うくらいに。
・・・俺は先輩の事をわかってなかった。俺の知ってるあの人は、いつもクールで、カッコ良くて、俺なんかじゃ足下にも及ばない滅茶苦茶すげえ力を持っているのに、決してそれをひけらかさず、常に誰かの為にその力を使っている。かと思えば、命のやり取りをしていたはずの相手を土下座までして助けようとする。正に完璧超人を越える聖人みたいな人だ。
そんな先輩の事を、俺は心の底から尊敬している。だけど、そんな先輩を、どこか人間離れした存在として見ていたのも確かだ。駒王協定の時に聞かされた先輩の正体・・・別の世界からの来訪者というのも、その思いを強くさせた原因だった。
でも、そんなのは所詮俺の勝手なイメージの押しつけだったんだ。こうして、大切なものを奪われて怒る先輩はどこまでも人間らしかった。
『ありえん! ありえん! 数はこちらが圧倒しているのだぞ! それなのにたった一人の人間ごときに何故・・・!?』
狂乱したかのように喚く悪魔を見て、俺は哀れみの感情を抱いた。こいつら、きっと先輩の事を何にもわかってなかったんだろうな。“ごとき”なんて口にする時点でお前らはすでに自分達の命運を決定づけてたんだよ。
『・・・俺は一人じゃない』
怒号が飛び交う戦場の中、先輩の声だけがハッキリと聞こえて来た。
『リアスや支取さんのおかげで戦いに必要な知識を得られた』
魔力弾の雨を剣の一振りで吹き飛ばしながら先輩が言葉を紡ぐ。
『木場君やゼノヴィアさん、真羅さん達のおかげで強くなれた』
自棄になって突っ込んでいった悪魔の腹に先輩が膝から突き出たブレードを深々と食い込ませる。
『朱乃や兵藤君達のおかげで折れる事無く鍛練を続けられた』
『な、何を言って・・・!?』
『みんなが俺に“力”を与えてくれた。そして、俺の中で一つになったそれの“形”をアガレスさんが示してくれた。彼女達の誰か一人でも欠けていれば、きっとこの力は得られなかっただろう』
ほんの一瞬だけ目を閉じる先輩。きっと、あの特訓の日々を思い返していたんだろう。何故かそう確信出来た。
『こんな俺をみんなは支えてくれた。だから負けない。みんなの想いが込められたこの力が・・・貴様等ごときに負けるわけが無い!!!』
「先・・・輩・・・」
俺は・・・俺なんか、飲み物を用意するくらいしか出来なかったのに、先輩はそんな俺をそんな風に思っていてくれたんですか・・・。
「・・・イッセー君、泣いているのかい?」
「ッ! ば、馬鹿言え。何で俺が泣かないといけないんだよ」
「でも・・・」
「そ、そういうお前だって泣いてるじゃねえか」
「え?」
木場の両目から涙が流れている。見れば部長や朱乃さん、他の子達も涙ぐんでいた。
「・・・なるほど。これこそが神崎殿の強さの本質という事か」
そんな俺達を余所に、サイラオーグさんが一人モニターを見つめながら呟いた。その顔は、どこか眩しいものを見ている様な感じだった。
「・・・見届けましょう、みんな。リョーマの戦いを。そして願いましょう。彼の勝利・・・そしてアーシアの無事を」
いつの間にか、一緒に観戦しようとしていた他の上級悪魔の方々は姿を消していた。きっとあの戦場に向かったのだろうと部長が言う。残ったのは俺達若手悪魔だけだ。
俺達はそれぞれ客席に着いた。本当なら俺も先輩の元へ駆けつけて一緒にアーシアを助けに行きたい。でも、今の俺達の実力でそんな事をすれば、かえって先輩の邪魔になるだけだ。
部長もそれがわかっているからこそ、見届けようと決めたんだと思う。本当なら誰よりもあの場へ飛んで行きたいだろうに。
・・・なあ、ドライグ。お前も願ってくれよ。先輩の勝利とアーシアの無事を。
―――ふ、願う必要など無いだろう相棒。フューリー様があの程度の敵に負けるはずが無い!
ああ、そうだよ・・・フューリー“様”?
―――愚かな連中だ! あの程度の数を揃えた所でフューリー様に勝てると思っているのか! あの方はかつてこの俺の尻尾を綺麗にぶった切ってくれたんだぞ! それがパワーアップとかもう相手からしたら絶望しか残らないだろうさ!
ド、ドライグ・・・まさか、また昔のトラウマが!?
―――ふははは! 見ろ相棒! 悪魔がゴミのようだ! フューリー様にたてつく愚か者どもマジザマァ! ・・・ザマァ。
うおおおい! テンション! テンションの落差!
―――アルビオン。どこにいるんだアルビオン? 俺はここだ。一人にしないでくれ・・・。
ドライグさーん! 戻って来てぇ! ここにアルビオンさんはいませんから!
今にも消えてしまいそうな声を出すドライグに必死に呼びかけながら、俺は先輩の戦いへと意識を向ける。・・・一度ちゃんとしたカウンセリングとか受けさせてあげた方がいいのかもしれない。
「前回の次回予告・・・あれは嘘だ」
・・・すみません。どうしても観戦側の視点を書きたかったので入れてしまいました。次回こそアーシアのビンタとアザゼル先生の悟りを書きます。
それと、ソーナが言っていた心云々はあくまでも彼女の私見です。オリ主に人を殺す度胸なんてありません。ただ『手加減』かけてぶっ飛ばしている(それがどういう結果を招くかは考えていない)だけですから。