ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
アザゼルSIDE
ストレスの原因ってのは実に多種多様だ。それは悩みだったり、辛い出来事との直面だったり、自分の理解を越える存在が、これまた理解を越える様な行動を次々と巻き起こしていく様を見せつけられたり様々だ。
最後だけやけに具体的なのは気にしてはいけない。ここで俺が言いたいのは、ストレスを抱えるのは何も人間だけじゃ無い。堕天使、悪魔、天使だって同じだ。
堕天使総督なんて面d・・・責任ある立場ではあるが、俺だって嫌なものは嫌だと言うし、辛いものは辛いと思う。・・・その結果が胃の不調なんだよなこれが。
でもな、ふと思ったわけさ。今そこにある現実を、目の前にいる存在を否定する事の何の意味があるのかってな。自分がいくら目を瞑ろうと、どれだけ耳を塞ごうと、それらは決して自分の前から消える事は無い。小難しい理屈も、くだらねえ常識も必要無い。・・・ただ、ありのままに受け入れちまえばいいんだ。これはこういうものだって納得すればいいんだよ。
その考えに至った時・・・俺の心は翼が生えたように軽くなった。まあ、実際生えてるんだが。
ここ最近悩まされていた胃の痛みも嘘の様に消え去った。これでまた美味い酒が飲めると思うと今から楽しみで仕方無い。
ありのまま・・・なんていい言葉なんだろう。確か人間界で少し前に話題になった映画の主題歌の歌詞にもあったな。思いだしたら歌いたくなっちまったぜ。
「な、何だ!? 急に鼻歌を歌い出したぞこの男!?」
「気をつけろ! あの笑み・・・何か仕掛けて来るかもしれんぞ!」
「・・・私には何か悟りを開いたかのような表情に見えるのだが」
・・・ああ、そうか。そういえば今俺って『禍の団』の連中とやりあってたんだっけか。あまりにも晴れ晴れとした気分につい忘れてしまってたぜ。
「くそ! 早くあちらの救援に向かわなければならぬというのに!」
相手の一人がチラリと目を向ける先では、フューリーとその眷属達が『禍の団』相手に無双していた。ふふふ、実に爽快な光景じゃないか。
「止めとけ止めとけ。お前らじゃあいつ等には逆立ちしたって勝てやしねえよ。それよりもここで俺とゆっくりしていけよ!!!」
「貴様! 我等を愚弄・・・というかその顔止めろ! 何故かはわからんがもの凄く腹立たしい!」
おいおい、このワイルドイケメン様の顔を羨むのはわかるが、そんな言い方しなくてもいいじゃねえか。俺が本気を出せば悪魔だろと天使だろうとイチコロ何だぜ?・・・なのによ、何でそんな俺よりも先に周りの連中ばっかり結婚するんだよ。ついこの間も一人婚姻してたしよ。
「一人身は俺だけってかちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」
・・・しまった。ついイラついて三人とも消し飛ばしてしまった。いいさいいさ。俺は趣味に生きる男なんだからな。
「・・・アザゼル。笑ったり怒ったり、忙しい」
「ん? おお、こっちから会いに行こうと思ってたのにお前の方から来てくれるとはな」
もうちょっとやそっとの事じゃ俺の心は乱れないぜ? こうしてお前が・・・『無限の龍神』オーフィス様が姿を見せたってほら、俺はこんなにも穏やかな気持ちでいられる。
「前に会った時はジジイだったくせに今回は黒髪少女かよ。で、何となく察してるが、お前さんは何をしに来たんだ?」
「ん」
ああ、やっぱりアイツを見に来たんだな。さっき消し飛ばした悪魔と同じ方向へ顔を向けるオーフィスに俺は確認する事も無く納得した。
「そうかそうか。なら存分に見て行けよ。ここでゆっくりな!!!」
「・・・」
「何だよオーフィス? お前が見たいのは俺じゃ無くアイツだろ?」
「アザゼル。その顔は止める」
「お前までそんな事を。いいか? 俺ってば人間界じゃそりゃもうモテモテで・・・」
「アザゼル。オーフィスが言っているのはそういう事では無い」
見つめ合う俺達の前に舞い降りたのはタンニーンだった。
「よお、タンニーン。今のはどういう意味だ?」
「気付いていないのか? 今のお前の顔・・・果てしなく不愉快だぞ。もっと簡単に言うならば凄くムカつく」
「へ、モテないオスの嫉妬は見苦しいぜタンニーン」
「タンニーン。久しい」
「オーフィス。貴様には聞きたい事がある。あれほど世界に興味を示さなかった貴様が今頃になってテロリストの親玉になるなどどういうつもりなのだ」
あ、無視ですか。そうですか。
「我が求めるのは静寂。ただそれだけ」
「静寂だ?」
「我は次元の狭間に戻りたい。けれど、今そこにはグレートレッドがいる。我はグレートレッドから次元の狭間を取り戻す」
・・・なるほど。何となく状況が理解出来たぜ。つまりこいつは、故郷に戻りたいがために、『禍の団』を使ってグレートレッドを次元の狭間から追い出すつもりなのだろう。
「・・・だけど、我は知った。グレートレッドを倒す可能性のある存在を」
「それがアイツか」
「我とフューリーでグレートレッドを倒す。そして、我は静寂を得る」
よかったなフューリー。世界最強からの直々のスカウトだぜ。はは・・・規格外×規格外とかそれなんてハルマゲドン?
「それはいいがな、オーフィス。アイツがお前の言う事を素直に聞くと思うか? アイツが戦うのはアイツ自身の日常を守る為だ。お前という存在はその中に入っていない」
「日常? それに入ればフューリーは我に手を貸す?」
「さてな。それはアイツ自身に聞きな」
俺の言葉に何やら考えている様子のオーフィス。―――その時だった。ヤツの横に魔法陣が出現し、そこから一人の男が姿を現した。そいつは自らをアスモデウスの血を引く者・・・クルゼレイ・アスモデウスと名乗った。
「アザゼル。堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」
「首謀者様のご登場か。いいのか? こんな所で俺を相手にしていて? お前のお仲間のディオドラ・アスタロトでも助けに行ってやれよ」
ディオドラの名を聞いて、オーフィスが小さく首を横に振った。
「ディオドラ・アスタロトには我の蛇を渡した。アレを飲んだディオドラ・アスタロトを倒すのは容易ではない」
「それはどうかな?」
「?」
首を傾げるオーフィスに俺は説明してやった。
「いい事を教えてやるよ。ディオドラはフューリー直々に片をつけに行く。そしてヤツは以前俺にこう言った。・・・自分はこの世界最強の存在に攻撃されようと、皮がささくれる程度だとな。さーて、この世界で最強っつったら誰だっけな、オーフィス?」
オーフィスは答えない。だが、ヤツの眉が一瞬ピクリとしたのを俺は見逃さなかった。
「んじゃまあ、アイツの事は置いておいて。そろそろ始めるとするか」
俺とクルゼレイが互いに戦闘態勢に入ろうとした正にその瞬間、またしても転移魔法陣が出現した。
・・・やれやれ。お前まで出て来るのかよ。
刻まれた紋様を見て、俺は呆れの混じった溜息を吐くのだった。
アザゼルSIDE OUT
カテレアSIDE
「ふーーはははは! 弱い! 弱過ぎですわ!」
フューリー様の覚醒シーンを間近で見る事が出来た私のテンションは最早天元を突破した! もう何人目になるかわからない悪魔を消し飛ばしながらあの方の雄姿を目に焼き付ける! ああ・・・気を抜けば昇天してしまいそう。
「・・・はっ! 固まっている場合ではありません! ここでしっかり私が使える女である事をアピールしなければ!」
そうすればきっとフューリー様は私を認めてくださる! つまり・・・!
私が敵を倒す→フューリー様に認められる→正式な眷属に昇格→私大勝利!
「完璧な作戦ですわ! ふ、ふふふ・・・自身の聡明ぶりが恐ろしい・・・!」
「カテレア・レヴィアタン! “殺戮の人形姫”として悪魔の敵を次々と葬りさっていたはずの貴様が何故そちら側にいる!」
「・・・また懐かしい呼び名を持ち出して来ましたね」
“殺戮の人形姫”・・・大戦時まで呼ばれ続けていた私の呼び名だ。
「確かに、私はかつて旧レヴィアタンに従い、言われるがままに敵を滅し続けていました。それが私の使命だと信じて」
あの頃の私は正に人形だった。感情らしい感情など無く、世界は全て灰色に見えていた。それすらも当時の私は変だとは思わなかった。これが普通なのだと。このままずっと生きて行くのだとしか感じなかった。
そんな私が初めて感情を覚えたのは・・・皮肉にも死の瀬戸際だった。今でも鮮明に思いだせる。私に向かって迫り来るドライグの巨大な尾を。そして・・・それを一刀の下に斬り飛ばしたフューリー様のお姿を。
死の恐怖と生の喜びを同時に抱いたあの瞬間、私の世界に色が着いたのだ。フューリー様の鎧・・・背中から吹き出す炎・・・その美しい“蒼”に私は目を奪われた。
あの方はきっと気付いていないだろう。セラフォルーを救うと同時に、私を救ってくださった事に。カテレア・レヴィアタンという“人形”に色を授け、ただのカテレアにしてくれた事に。
「・・・あなた達にはわからないでしょう。色の着いた世界がどれほど美しいのか。感情を持つ事がどれほど幸せなのか。永遠に得られないと思っていたものが手に入るのがどれほど嬉しいのか」
全てはあの方のおかげ。今の私があるのはあの方のおかげ。だから私はここにいる。あの方の敵を滅し、あの方の為に命を捧げる。あの時からずっと・・・私の願いはそれだけだ!
「“殺戮の人形姫”カテレア・レヴィアタンはあの時死にました。ここに立っているのは、あの方を想い戦うだけのただのカテレアです!」
叫びながら放った魔力弾が相手を消し飛ばす。感謝します名も知らぬテロリスト。あなたのおかげで私は改めて自分の気持ちを確認出来ました。
「さあ、次の相手は・・・」
「カテレアさん」
いつの間にかフューリー様が私のお傍に立っていらっしゃった。ああ・・・今のこの方の姿は本当に危険だ。気を抜けば鼻から赤黒い液体を吹き出してしまいそう・・・。
「カテレアさん。俺は今から神殿へ向かいます」
「承知しました。ザコは私や他の者に任せて、フューリー様はディオドラ・アスタロトと決着をつけて来てください。離れていても、私の心はいつもあなたのお傍におります」
「・・・ありがとうございます。カテレアさんもどうかご無事で」
「ッ・・・!」
私の横を通り抜け、フューリー様は神殿へ向かって飛んで行った。その場に残された私の頭に、たった今フューリー様から頂いた言葉が蘇る。
「フューリー様が、私の無事を祈ってくださった」
「な、何だ? 急に動かなくなったぞ」
「よくわからんが今が好機だ! 今の内に一斉攻撃で仕留めるぞ!」
カテレアさんに無事でいて欲しい→カテレアさんが大事→カテレアさんが好き→カテレアさんは俺の嫁!→カテレアさんに俺の子どもを産んで欲しい→二人は末永く幸せに暮らしましたとさ!
「えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」」
「眷属なんて余計な過程は必要無いというわけですね! ええ! ええ! むしろ望む所です! 私の方はいつでも準備出来ていますわフューリー様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私の制御から離れた魔力が暴走し、至る所で激しい爆発を起こす。それに巻き込まれた何十人もの悪魔達が消滅したが、それすらも今の私には二人の未来を祝う祝砲に見えた。
「夫を助けるのは妻の務め! さあ、『禍の団』!! 今の私を倒したければ、この倍の数でかかって来なさい!」
カテレアSIDE OUT
アーシアSIDE
「馬鹿な・・・馬鹿な・・・!!」
頭を掻き毟りながら叫ぶディオドラさん。ここに連れて来られてすぐ、彼は私に外の様子を見せて来た。リョーマさん達の死に様を私に見せ、絶望させる為に。
けれど、リョーマさん達は死ぬどころか逆に次々と『禍の団』のみなさんを倒していった。それがディオドラさんにとっては大きな誤算だったみたいだった。
「ディオドラさん。もう止めてください。今からでも遅くありません。罪を償いましょう」
血走った目で私を睨むディオドラさん。・・・怖いけど耐えて見せる。この人には絶対に弱音を見せたくないから。
「何でだよアーシア。何でキミの目はそんなにも綺麗なんだ。どうして・・・どうして真実を伝えたのに絶望しないんだよ!?」
真実・・・私を手に入れる為にディオドラさんがやった事は既に聞かされた。きっと、一人でいたらこの人の言う通り絶望していたかもしれない。
「今の私にはリョーマさん達がいてくれます。だから絶対に絶望なんてしません!」
みなさんが私に勇気を与えてくれる。その勇気を胸に抱き続ける限り、私は決してくじけたりしない!
「くそ! くそ! どいつもこいつもフューリーフューリー! あんな人間の何が凄いってんだ! 所詮は人間なんだぞ! 種族も家柄も僕の方がずっと優れているんだぞ!」
まるで子どもの様にわめきたてるディオドラさんの姿に、私はちょっとだけ憐れみの感情を抱いた。でも、それ以上にこの人の事が許せなくなった。この人は今、リョーマさんの事を馬鹿にした。あんなにも誰かの為に一生懸命なあの人を馬鹿にする事なんて誰にも出来ないし、してはいけない。
「リョーマさんを・・・あの人の事を悪く言わないでください」
私は右手を振り上げた。それを見たディオドラさんが小馬鹿にした様な表情で言葉を発する。
「はは、何だいその手は。もしかして僕を殴るつもりか? いいよ、やってごらん。どうせ効きやしないんだから」
言われなくてもわかっている。非力な私が叩いた所で、何の痛みも感じないかもしれない。それでも手は止めない。あなたなんかに絶対に屈しないと示す為にも!
『・・・アーシア・アルジェント』
(え・・・?)
頭の中に直接届いた声。聞くだけで深い安心と幸福を感じられるその声はまるで“聖母様”の様な声だった。
『私が力を貸します。その男に見せてあげなさい。あなたの怒りを。あなたの勇気を』
「え、えーーーーいっ!!!」
聖母様のお声に従って、私はディオドラさんの顔に向かって全力で手を振り降ろした。そして、私の手がディオドラさんの頬に触れた瞬間、彼の姿が消えた。
「ぶべらっ!?!?!?」
「ふえ・・・!?」
つぶれたヒキガエルの様な声が聞こえたと思ったら、五十メートルくらい離れた神殿の壁が音を立てて崩れ落ちた。何事かと思ってそちらを向くと、そこには壁に体をめり込ませているディオドラさんの姿があった。
「あわわわわ! わ、私がやったんですかアレ!?」
わ、私にこんな力が・・・!? はっ、もしかして、リョーマさんと一緒に頑張った腕立て伏せの効果!?
『さあ、今ですアーシア・アルジェント。呼びなさいあなたの“騎士”を。この世界であなたが最も信頼している彼を』
思い当たる人物は一人しかいなかった。
(・・・あなたにはご迷惑をかけてばかりですね。帰ったら私も強くなれるよう努力します。だからどうか・・・今この時だけはあなたの名を呼ばせてください)
私は跪き、両手を重ねた。―――けれど、その祈りを捧げるのは主では無く・・・。
「リョーマさん!」
彼の名を叫んだ刹那、神殿の天井から甲高い音が鳴ったと同時に、それが一瞬で細切れとなって消滅した。
「・・・確かに届いたよ。キミの声が」
そして、天井があったはずの部分に生まれた穴を通り、あの人が・・・私の中で一番強くて、一番優しくて、そして・・・一番大好きな“騎士様”が舞い降りて来た。
今回も他者視点オンリーでした。もういっそこのまま第三者からの視点だけで進めるのもアリかなと思ってしまいました。
ところで、本編の最後のアーシアのビンタですが、実はもう一つ案がありました。オカンがアーシアに憑依してビンタをかますというものです。ただ、そうなるとオカン口調のアーシアというオリ主号泣確実なものになってしまうので没にしました。
・・・ゆっくりアザゼルのフィギュア出ないかな。