ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第九十話 腹を割って話そう

朱乃の家の一室を重苦しい空気が漂う。理由は言わずもがな、会話どころか視線すら合わそうとしない朱乃とバラキエルさんだ。正確にはバラキエルさんの方は何とかアプローチしようとしているが、朱乃がそれらを一切無視しているといった感じだが。

 

「・・・それでリョーマ。どうしてこの人を呼んだのかしら?」

 

その声は僅かながら攻撃的な色を含んでいた。まあ、無理も無いんだがな。正直、今の彼女の雰囲気と合わさって結構怖いんだが、ここで怯んでいては始まらない。

 

「バラキエルさんを呼んだのは他でも無い。これから二人には腹を割って話をしてもらいたい。今まで溜めていたもの、抱えていたものを洗いざらいな」

 

「フューリー殿。まさか・・・」

 

「・・・聞いたのね、私達の過去を。おそらくしゃべったのはリアス辺りかしら」

 

バラキエルさんが目を見開き、朱乃は逆に目を細めた。

 

「リアスを責めないでくれ。彼女に話をさせる様な空気を作ったのは俺だからな」

 

「そう。まあ、どうでもいいですけれど。私はこの人と話す事なんてありませんから」

 

「キミのそれは話す事がないんじゃない。話す気がないだけだ。俺は今言ったはずだ。表面上の事じゃ無く、キミがずっと心の奥底に抑えていた本当の気持ちをバラキエルさんに伝えるべきだ」

 

なるべく刺激しない様に淡々とそう口にしたが、それが朱乃の気に触ってしまったのか、彼女は立ち上がり声を荒げた。

 

「そんなものない! この人の所為で母様が死んでしまったのは間違い無いんだから! 家族の問題に他人であるあなたが軽々しく踏み込んで来ないで!」

 

「他人じゃありません!」

 

そう言って同じ様に立ち上がったのはアーシアだった。彼女はズンズンと朱乃の方へ大股で近寄って行った。

 

「ア、アーシアちゃん・・・?」

 

アーシアの勢いに気圧されたのか、朱乃が表情を戸惑わせる。

 

「朱乃さんは私の・・・私達の大切なお友達です! 仲間です! そんなあなたが今こうして自分の気持ちを押し殺して辛そうな顔をしている。そんなの私には我慢出来ないんです! お友達は助けあうものだって、私は朱乃さんや他のみなさんを見て学んだんです! だから・・・だから、私は踏み込みます! 私は両親の顔を憶えていません。でも、朱乃さんはこうしてお父様の顔を見て話が出来るじゃないですか! それなのに、嫌いなままでいるなんて悲しすぎますよ・・・」

 

訴えかける様に力強く紡がれるアーシアの言葉に、朱乃の瞳が揺れる。

 

「はは、言いたい事を全部アーシアに言われてしまったな」

 

「あうう、すみません。朱乃さんの言葉が凄く悲しくて、気付いたらあんな事を・・・」

 

「謝らないでくれ。むしろよく言ってくれた。・・・朱乃、今アーシアが言った通りだ。俺達は中途半端な気持ちでこの場にいるわけじゃない。それだけはわかって欲しい」

 

「わ、私は・・・」

 

よし、もう一押しって所か。ならばここで切り札を使わせてもらうぞ! オカン! 準備は!?

 

『バッチリや! いつでも始められるで!』

 

了解! ならば起こしてやろう! 三十分だけの奇跡ってヤツを!

 

「・・・アーシア。始めよう」

 

「わかりました!」

 

「始める? 一体何の話?」

 

「朱乃、バラキエルさん・・・。これからアーシアの体にお母さんの魂を憑依させる」

 

「「ッ!?」」

 

まさに愕然といった表情を見せる二人に対し、俺はさらに説明を続けた。

 

「時間は三十分しかないが、その間にお母さんを交えて三人でしっかり話をすればいい。あの時、キミのお母さんが何を思っていたか。そして、キミとバラキエルさんの本当の気持ちを」

 

「ま、待ってリョーマ! 魂を憑依って、そんな事が可能なの!?」

 

「そうだ! 神器の中にはそのような力を秘めている物もあるかもしれないが、貴殿はその様な物は持っていないはずだろう!」

 

「その話はまた後でしましょう。さあ、来ますよ」

 

祈りのポーズを取るアーシアの頭上に淡く小さな光が生まれる。それは彼女の周囲を漂いながら大きさと光の強さを増して行き、それがある境を越えた時、その光がゆっくりとアーシアの胸へと吸い込まれて行った。

 

『憑依完了や! ほな、声をかけてやってな』

 

「朱乃。お母さんを呼んであげてくれ」

 

「母、様・・・?」

 

朱乃が恐る恐るといった感じでアーシアへ声をかける。それから五秒くらい経過した後、アーシアはゆっくりと目を開いた。

 

「・・・あなたは。いえ、わかるわ。あなたは朱乃ね。ふふ、こんなに素敵な女の子に成長するなんて、母親として鼻が高いわ」

 

朱乃の頭から足までじっくりと見つめた所で、アーシア・・・いや、朱乃のお母さんである朱璃さんはにっこりと顔を綻ばせた。

 

「し、朱璃? 本当にキミなのか?」

 

「まあ、愛する妻の顔を忘れちゃったの? ・・・っと、いけない。今はこの女の子の体を借りてるんだからわかるわけないわよね。そうね・・・あなたが私に言ってくれたプロポーズの言葉でも言えば信じてくれるかしら? あの時は夕日が綺麗だったわよね」

 

「ッ・・・朱璃ぃ!」

 

バラキエルさんが感極まったのか、朱璃さんに抱き着こうとする。・・・が、対する朱璃さんはそれをひらりと回避し、目標を失ったバラキエルさんは後ろの壁に顔から突っ込んでいた。うむ、とても痛そうだな。

 

「あがが・・・し、朱璃。何故・・・」

 

「この子の体で抱き合うわけにはいかないでしょ。うふふ、あなたったら、鼻の頭が真っ赤じゃない。そんなに私を抱き締めたかったのかしら」

 

な、なるほど、アーシアの事を考えてくれたわけだな。・・・それにしては何か凄く楽しそうな表情なんだけど。なんだかそこはかとなくSな雰囲気を感じる。つーか、アーシアのS顔とか初めてなんですけど。

 

そんなどうでもいい事をボケーっと考えていたら、不意に朱璃さんの表情が沈んでしまった。

 

「・・・事情はオ・クァーンさんという方に聞きました。ごめんなさい、私の所為で、あんなにもお互いを愛し合っていたあなた達の仲を引き裂いてしまって」

 

「ち、違う! 母様は何も悪く無い! 悪いのは母様を殺したヤツ等じゃない! それに私だって、母様が殺される時に何も出来なかった! 私だって同罪だわ!」

 

「そんなわけが無いだろう! 子どもだったお前に何の罪があるというのだ! 悪いのは私なんだ! 間に合わなかった私が! もっと言えば、そもそもあの時私があの寺に立ち寄らなければ、私と出会わなければ朱璃は死なずに済んだのだ!」

 

「あら、そうなると朱乃は生まれなかったのよ。あなたは朱乃の存在はどうでもいいの?」

 

「馬鹿な! 私は朱乃を心の底から愛しいと思っている! 感謝している! ありがとうと! 私と朱璃の間に生まれてくれて本当にありがとうと! キミだってそうだ朱璃! 私はキミの事も、朱乃の事も、一日とて忘れた日は無かった!」

 

「父・・・様・・・」

 

俺の記憶が正しければ、おそらく再会して初めて朱乃がバラキエルさんを父と呼んだ瞬間だった。

 

「・・・聞いたでしょ、朱乃? あの事件は確かにこの人が原因だったのかもしれない。だけど、この人が私やあなたを心から愛してくれていたのも確かなの。だから、ね? あなたもこの人を愛してあげて。私はもうあなた達といられないけど、二人が一緒になって笑顔でいてくれる事だけが私の願いだから」

 

「母様・・・! わた、私、父様が悪くないってわかってたの! でも、そうしないと、そう思わないと、私の心は耐えられなかった! けど・・・けど! 本当はもっと父様に会いたかったの! もっと父様に頭を撫でてもらいたかったの! もっと父様と遊びたかったの! もっと、もっと・・・!」

 

「そう・・・。なら、もう我慢しなくていいわ。これからはもっと父様に甘えなさい。親というのはね、子どもに甘えてもらう事がとっても嬉しいんだから。・・・そうでしょ、あなた?」

 

「ああ・・・ああ! 朱璃の言う通りだ! 朱乃! 私はもう二度と同じ過ちは繰り返さない! 今度こそ、私は私のかけがえのない家族を守ってみせる! お前が私を信じてくれるならば、例え伝説の騎士であろうとも命を捨てて立ち向かってみせよう!」

 

「父様・・・!」

 

さりげなく酷い事言われた気がするが、こうやって二人が抱きしめ合う姿が見れたんだから良しとしよう。・・・つーか、さっきから色々ヤバい。家族の大切な時間を邪魔しない様、一旦クールに去ろうとしたけど、涙とか鼻水とか、とにかく気を抜いたら穴という穴から吹き出しそうなんですけど。

 

この感動シーンを汚い物で台無しにしたくない。そう思って、俺は気付かれない様にその場を去ろうとしたのだが、朱璃さんに見つかってしまった。

 

「あら、どちらへ?」

 

「・・・邪魔者は退散します。どうぞ、俺の事は気にせず、存分に話をしてください」

 

なんか涙声っぽくなってしまった。そろそろ本気でマズイぞ。今度こそ部屋を出よう・・・としたら今度はバラキエルさんに引き止められた。

 

「フューリー殿! この様な奇跡を与えてくれた事、このバラキエル生涯忘れはしない! だが何故だ! 何故伝説の騎士とまで呼ばれる貴殿が私達の為にここまで・・・!」

 

「俺が何者かなど関係ありません。友を・・・大切な人の為に何かしてあげたい。それは人として当然の思いなのですから」

 

「た、大切・・・!?」

 

「あらあらまあまあ」

 

「や、やはり貴殿と朱乃は既にそれほどの仲に・・・!?」

 

なんかそれぞれ驚いている様だったが、この隙とばかりに俺はやっと部屋を脱出する事が出来た。そのまま玄関へ向かい、外に出て思いっきり深呼吸した。

 

「・・・終わった」

 

『ああ、終わったな』

 

オカン・・・。ありがとうございます。見ました、あの朱乃の顔。涙をボロボロ流してましたけど、本当に、本当に嬉しそうに笑ってました。

 

『もちろんや。そして、あの子の笑顔を取り戻したのはアンタや』

 

それは違う。朱乃の笑顔が戻ったのは、朱璃さんの魂を呼び戻してくれたオカン。そして、俺のお節介に付き合ってくれたアーシアのおかげであって、俺なんて、偉そうにくっちゃべってただけだ。

 

『それも、全てはアンタのあの子の為に何かしてあげたいという思いから始まったんやで。もう少し、自分の事を褒めてやってもええと思うけどな』

 

はは、そう言ってもらえるだけで十分ですよ。

 

『・・・アンタは目標というか、求めるもののレベルがちょっと高いと思うんやけどな(ボソッ)』

 

何か言いましたか?

 

『何でもあらへんよ。それで、まだ時間があるけどどうするつもりや?』

 

そうですね・・・。何だか体を動かしたい気分ですし、この神社の掃除でもしときましょうか!

 

偶然目に留まった竹ぼうきを手に、俺はテンション高くそれを使って掃除を始めるのだった。




原作よりもほんの少しだけ和解のタイミングが早まりましたが、特に意味はありません。ただ、書きたかっただけです。

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