ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第九十一話 魔装騎士~THE KNIGHT OF FURY~

「ふ・・・完璧だ」

 

目の前で山盛りに積もった落ち葉その他のゴミに満足気になっていると、家の中からアーシア、そしてちょっとだけぎこちなさが残るが、それでもしっかりと寄り添って朱乃とバラキエルさんが出て来た。

 

「な、何をやっていたのリョーマ?」

 

「ああ、少しばかり掃除をな」

 

「な、何でお掃除なんですか?」

 

「しかもその量、少しばかりというレベルでは無いぞ」

 

人間、テンションさえあれば大抵の事は出来るもんですよバラキエルさん。先日のペロリスト達との戦いで俺が学んだ事です。

 

「それよりも・・・そちらも終わったみたいだな」

 

「・・・ええ」

 

アーシアが元に戻っているという事は、朱璃さんの魂は彼女の中から消えた事になる。本当に短い時間だったが、二人の満足そうな顔を見る限り、心残り無く話が出来たみたいだ。

 

「リョーマ、アーシアちゃん。改めてお礼を言わせて。あなた達のおかげで、私は母様の、そして父様の本当の気持ちを知る事が出来た。本当に・・・本当にありがとう」

 

「いや、俺は・・・」

 

「次にリョーマさんは『ただ朱乃の悲しむ顔が見たくなかった』と言います」

 

「ただ朱乃の悲しむ顔が見たくなかった・・・はっ!?」

 

「あらあら、アーシアちゃんたらお見事ね」

 

「えへへ、リョーマさんなら絶対そう答えるって思いましたから!」

 

楽しそうに笑うアーシアと朱乃。それを見てバラキエルさんも僅かに口元を緩める。正直、そこまで面白い事かなとも思うが、みんなから感じられる温かい雰囲気が心地よかったので俺も余計な事は言わず笑っておく事にした。

 

『うんうん、みんなええ笑顔や』

 

『そうですね。あの人も朱乃もやっぱり笑っていてくれないと』

 

・・・あるぇーーー? 幻聴だよね? オカンに続いて朱璃さんの声まで聞こえて来たんですけど。

 

『幻聴ちゃうよ。この子の魂はウチが引き取ったからな。あの子達と一緒にこっちでウチの手伝いでもしてもらおう思うてな』

 

『これで二人を見守り続ける事が出来ます。それにしても・・・うふふ、まさか女神様の正体がこんなひょうきんなおば様だったなんて思いませんでしたわ』

 

『幻滅したか?』

 

『とんでもありませんわ。でも、それなら私が最初に見たあのお美しい姿は?』

 

『アレはゴッデスモード言うてな。言うなればウチの仕事姿や』

 

『へえ、そうなんですか』

 

な、なんかめっちゃ仲良さそうに会話しとる。

 

その間に、朱乃は自分の胸に手を当てながら宣言するかのように言葉を発した。

 

「改めて決心したわ。私は精一杯生きてみせる。きっと、今も私を見守ってくれているであろう母様の分まで」

 

うん、そうだね。本当に見守ってくれてるみたいだから頑張らないとね。

 

『ほんなら、ウチ等はこの辺で失礼するな。この子にこっちでの決まり事やら何やらを説明せんとアカンから』

 

それっきりオカン達の声は聞こえなくなった。・・・いいのか? こんな終わり方でいいのか?

 

「しかしフューリー殿。先程は聞きそびれてしまったが、貴殿は如何にして朱璃の魂を呼び戻したのだ?」

 

「父様。あまり詮索は・・・」

 

「むっ、そうだな。恩人に対して今のは失礼だったな。フューリー殿。今のは忘れて頂きたい」

 

別に答えても構わなかったんだけど。こっちから話すとなんか恩に着せるみたいだし、バラキエルさんが引っ込んだならこの話題はここで終わらせておこう。

 

「・・・では朱乃。私はそろそろオーディン殿の元へ戻る。アザゼル総督に無理を言ってこちらへ来させてもらったのでな」

 

「うん・・・」

 

素直に頷く朱乃だが、その表情はどこか寂しそうだった。それに気付いたバラキエルさんが彼女の頭を優しく撫でる。

 

「そんな顔をしないでくれ。護衛という立場ではあるが、時間がある限り、こちらに戻るようにするからな」

 

最後にもう一度朱乃を抱き締め、バラキエルさんは石段の方へ向かって歩き始めた。その背中へ朱乃が声をかける。

 

「父様!」

 

「ん?」

 

「あの・・・その・・・い、行ってらっしゃい!」

 

「・・・ああ、行って来るよ、朱乃」

 

慈しみに溢れた表情を見せながら、バラキエルさんは去って行った。

 

「・・・リョーマさん。家族って、本当に素晴らしいですね」

 

「そうだな・・・心底そう思うよ」

 

「わ、私も、いつかはあんな素敵な家族を持てるでしょうか」

 

「そうだな・・・アーシアならきっといいお嫁さん、そしてお母さんになると思うよ」

 

「な、なら・・・リョーマさんが貰ってくれますか?」

 

「そうだ・・・ん?」

 

ちょっと待て、今さらっと凄い事言われなかったか。アーシアが・・・こんな天使が俺の嫁だと・・・?

 

「・・・駄目だな」

 

「え・・・? あ、そ、そうですよね。私なんかじゃリョーマさんと釣り合わ・・・」

 

「幸せ過ぎて俺の命が持ちそうに無い」

 

「ふえぇ!?」

 

うん、想像しただけで昇天しそうだわ。妄想だけで俺を殺しかけるとは・・・アーシア、恐ろしい子!

 

「もう、リョーマ。さっき父様と母様の前であんな風に言ってくれたのにもう浮気するの?」

 

ちょっ!? あ、朱乃さんや! 何でしなだれかかって来るの!? 近いから! 顔とか色々近いから!

 

「さっき? な、何を言ったんですかリョーマさん!?」

 

「ゴメンねアーシアちゃん。それは私とリョーマだけのひ・み・つ」

 

「むむむ・・・ま、負けませんよ!」

 

「うふふ、それはこっちのセリフよ」

 

何を争ってるのかは知らんが、とりあえず離れてください!

 

俺を挟んで火花を散らす二人を見て、俺は心からそう思うのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

最後に妙に疲れてしまったが、とにかく朱乃とバラキエルさんの関係の修復は完了した。これで今日は気持ち良く眠れる・・・と思っていた俺は風呂上がりにハッと思い出した。

 

「・・・そうだ。明日は冥界で撮影があった」

 

今日の朝までしっかり憶えていたはずなのに、朱乃とバラキエルさんの事で完全に吹っ飛んでいた。これはマズイ。今からでも明日の確認をしておかないと。

 

俺は一旦部屋に戻り、台本を手にもう一度リビングへ向かった。

 

「リョーマ? どうしたの一人で」

 

そこへリアスがやって来た。首を傾げる彼女だったが、俺が持つ台本を見て察したようだった。

 

「そういえば、明日が撮影なのよね。公開収録なんでしょ? 残念だわ、明日は私ちょっと用事があって行けないのよ。でも、放送分はしっかり見させてもらうつもりだから、頑張ってねリョーマ」

 

見る事は決定なんですね。これは益々プレッシャーだな。アガレスさんからも『今から凄く楽しみです!』なんてメールが送られて来たし。本当に人気の作品だったんだな。

 

「どんな風に撮影するの?」

 

「ああ、それなんだがな・・・」

 

俺は台本の付箋のあるページを開いた。ちょうどここからがアクションシーンになる。セラフォルーさんが言っていた通り、オールアドリブと書かれてはいるんだが・・・。なんかアクションだけじゃなくセリフもアドリブで入れてくれとか書いてある。

 

「動きならまだしも、言葉までその場で瞬時に考えるなんて俺に出来るかどうか・・・」

 

「別に難しく考える必要はないんじゃないかしら。・・・そもそも、最近あなたが口にして来た言葉を思うと、演技とかしなくても素で十分な気がするけどね」

 

最近って・・・なんかおかしな発言したかな俺? ちょっと前までなら確かに恥ずかしいセリフを連発していた憶えもあるけど。

 

「それにしても、あなたってこんな時にでも真面目なのね。リハーサルだってあるんでしょうし、本当に重要な所なんかはきっとセラフォルー様が言ってくださるわよ」

 

そ、そうかな・・・? うん、そうだよな。確かにリアスの言う通りだ。俺はただ、俺の役目を務めればいいだけだしな。そう思ったらちょっと気が楽になったぞ。

 

「ちなみにアクションシーンだけど・・・ちゃんと手加減するんでしょ?」

 

「もちろんだ」

 

思うままにやれと言われたって、あくまで演技なんだからな。けどなぁ・・・あのスタントマンのみなさんを見る限り、ガチで俺をボコりに来そうな感じでちょっと怖いんだよな。

 

「だが、あまりに手加減が過ぎると不自然に映らないだろうか」

 

「それは大丈夫よ。冥界の編集や合成等の技術は人間界のそれとは比べ物にならないくらい優れているから」

 

あ、なるほど。流石冥界。

 

「ん、ふわあ・・・。ごめんなさい、お先に部屋に戻らせてもらうわね。リョーマも、あまり遅くならない様にした方がいいわよ」

 

「ああ。おやすみ、リアス」

 

自室へ去って行くリアスを見送り、再び一人となった所で、俺は台本の一ページ目を開き、主人公である魔装騎士フューリーのセリフを読み始めた。主人公に合わないセリフを口にしてしまわない様、キャラクターを知っておく必要があると考えたからだ。

 

そんなわけで始めたセリフの確認だが・・・なんというか、言葉の一つ一つがやけに仰々しいな。でも、思い出してみると、前の世界で小さい頃見ていた特撮もそんな感じだったっけ。現実ではまず口に出来ない熱いセリフや、恥ずかしいセリフの連発。だからこそ、主人公達を応援する気持ちに力が入ったわけだけど。

 

ゲームだってそうだ。俺の大好きだったスパロボにだってそんなセリフはいくらでもあった。そうだな・・・俺の無い頭で考えるよりも、元々あったセリフを引用させてもらった方がいいかもしれないな。

 

よし、これでセリフに関してはいけそうだな。夜も遅いし、台本を最後まで読んだら俺も寝る事にしよう。まさか、寝坊するわけにもいかないしな。

 

俺は改めて台本へ目線を落とすのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「・・・」

 

翌日、俺は針の動かなくなっていた目覚まし時計を無言で見つめていた。んー・・・どうも電池切れを起こしたみたいですな。

 

なので別の時計で時間を確認する。撮影開始がこっちでの午前八時丁度からで、今は・・・午前七時五十分。・・・おい! ギリギリじゃねえか!

 

「マズイ・・・!」

 

俺はすぐさま洗面所へ向かい洗顔等を済ませ部屋に戻った。そして、クローゼットから前にセラフォルーさんから貰ったあのアニメ服を取り出し、それを身に纏った。これはセラフォルーさんから当日にこれを着て来て欲しいと言われたからだ。

 

とにかく、これで最低限の準備は完了した。後はこの転移用の簡易魔法陣の封を切れば向こうに跳ばされるんだっけ。前にリアスの婚約パーティーのお邪魔した時と同じヤツだ。

 

とりあえず、向こうに着いたらまずはセラフォルーさんを始めとするみなさんに謝らないとな。いくらなんでも、ギリギリの時間に来るとか迷惑以外のなにものでもない。

 

俺は魔法陣の封を切った。同時に眩い光が俺の視界を奪う。それが治まった頃を見計らい、目を開けると、そこは採掘場の様な場所だった。確か、レーティングゲームのフィールドみたいに、撮影用に作られたフィールドなんだっけ。

 

それはいいとして、セラフォルーさん達の姿が見えない。まずは合流しないとな。そう判断してその場から移動すると、何やら前方の方から騒ぎが聞こえて来た。おそらくみなさんあっちの方に集まってるんだろうな。

 

歩くスピードを速める。そうすると騒ぎの中に怒号や悲鳴が混じっているのがわかった。これって・・・まさかもう撮影始まってるのか!? 台本では確か、スタントマンのみなさん扮する悪の組織の戦闘員達が暴れている所に魔装騎士フューリーが現れて、そこからアクションシーンが始まるってなってたよな。

 

どうする? 飛び出るか? それとも先にセラフォルーさんを探すべきか? 一瞬悩む俺だったが、どちらにせよ姿を見せないと始まらない。乱入OKなら撮影が続くだろうし、駄目ならカットが入るだろう。

 

ただ、無言でシレっと出るのもアレだし。何か一言言わないとな。

 

「・・・そこまでだ」

 

暴れる敵に対してのお決まりのセリフを口にしつつ、俺は撮影現場に乱入するのだった。

 

SIDE OUT

 

 

オーディンSIDE

 

やれやれ、本当にテロリストというのは空気を読まんヤツ等じゃな。まさか撮影現場を襲撃してくるとは思わんかったぞ。

 

「動くな! 我々は『禍の団』だ! たった今よりこの場は我々の支配下に置かせてもらう!」

 

武装した連中の姿に、撮影を見学に来た悪魔達が悲鳴を上げる。にしても・・・見事なまでに女の子ばかりじゃな。うーむ、羨ましいぞフューリー。

 

「むー。まさかスタントマンになりすまして来るなんて。本物のみんなは無事なんでしょうね!」

 

「安心しろ。命までは奪っていない。今頃は病院に運ばれているだろうさ。・・・思った以上に手こずってしまったがな」

 

「なら目的は何?」

 

「我々は『禍の団』において、悪魔至上主義を掲げる者である。故に、人間ごときに心を奪われた諸君等の目を覚まさせる為に参上した」

 

ふむ、なるほどのぉ。では、連中が着けておる仮面はその一派の証なのじゃろうか。何を掲げるかは個人の自由ではあるが、それをテロによって主張するなど浅はかにもほどがあるわい。しかも、今この場には魔王に旧魔王の血を引く者、さらにワシまでおるのに襲撃してくるとは。まあ、見た所『禍の団』の末端の末端な連中の様じゃし、組織の強さをそのまま自分達の強さを勘違いしておるのじゃろうて。愚かというよりも哀れじゃな。

 

「・・・貴様等、この記念すべき日を台無しにしてくれた覚悟は出来ているんだろうな」

 

案の定と言うべきか、カテレアじゃったか? あの嬢ちゃんがキレてしもうた。瞳に危険な光を宿らせ、右手に濃密な魔力を収拾させていく。

 

「おっと、下手な真似はよすんだなカテレア・レヴィアタン。こちらにはいくらでも人質がいるのを忘れないでもらおう」

 

「・・・チッ」

 

ギャラリーへ目を向ける男達に、カテレアの嬢ちゃんは舌打ちと共に魔力を霧散させた。

 

「オーディン様。どうも連中は私達には気付いていない様です。あの程度の数ならば私一人でも無力化は可能です」

 

「私も援護しよう」

 

「待つんじゃ二人とも」

 

動こうとするロスヴァイセとバラキエルを止める。何故? と視線を向けて来る二人に、ワシは答えた。

 

「ひょっとしたら、面白いものが見られるかもしれんぞ」

 

「「面白いもの?」」

 

「二人とも忘れておらんか? この場において本当の主役がまだ姿を見せておらんことを」

 

「「ッ・・・!」」

 

「そして、ワシの予想が正しければ・・・」

 

「・・・そこまでだ」

 

ほっほっほ。そろそろ来る頃だと思っておったぞ。のお、フューリーよ。

 

勇壮なる衣に身を包み、威風堂々と現れたのはまさしく伝説の騎士その者であった。彼奴の姿に、ギャラリーの娘達が先程までの恐怖とは別の理由で体を固まらせておった。

 

「・・・勇者様」

 

ロスヴァイセよ、ワシに弄られるのが嫌だというならば、そうやって迂闊な事を口にするでないぞ。もうこの娘も完全にフューリーの虜じゃな。くくく、これでまたいいネタが出来たわい。

 

「待っていたぞフューリー! 悪魔至上派として、我々は貴様の存在を断じて認め・・・」

 

「黙れ!」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

全ての者が、その凄まじい覇気の込められた一喝に畏怖する。前回のゲームで見せたものに比べれば控えめではあるが、連中からすればそのプレッシャーたるやとんでもないものであろう。

 

「そして聞け! 我はフューリー! 魔装騎士フューリー! 我は・・・悪を断つ剣なり!」

 

テロリストという犯罪者へ、今まさに断罪の剣が振り下ろされようとしていた。

 

オーディンSIDE OUT

 

 

IN SIDE

 

乱入してもカットが入らなかった。つまり、このまま演技を続けていいという事だよな。にしても、グダグダ話そうとする相手をぶった切るにはやっぱり親分のセリフが効果抜群だな。堂々と「黙れ!」なんか普通じゃ中々言えないぞ。

 

「な、何が悪だ! 我々からすれば貴様こそが悪だ! 貴様の存在が今の歪みを生み出したのだ! 我等は貴様を殺し、その歪みを正す!」

 

スタントマンのみなさんが一斉に向かって来る。なんだろう。仮面してるからだろうか、前に紹介されたみなさんとちょっと違う様な印象を受けるな。あれがこの作品の敵組織の戦闘員のコスチュームなのかな。

 

でも、やる気は十分みたいだ。アル=ヴァンセンサーがヤバいくらい反応してる。予想通りというか、みなさん本気で俺をぶっ飛ばすつもりなんだろう。だったら、俺も中途半端だけはしないようにしないとな。

 

かざした右手にオルゴンソードが握られる。その感触を確かめる間も無く、俺は眼前に迫る一人に向かって剣を一閃させる。

 

「がふっ!?」

 

『手加減』のおかげで、刃はその人の体を切り裂く事無く、体を宙に大きく吹き飛ばすだけにとどまった。続けて、並んで連携をしかけて来た二人に対し、剣を上空へ放り投げる。

 

「「え・・・?」」

 

それに気を取られている間に、右から来た人の腹部に右拳を叩き込む。前のめりに倒れようとするその人の背中を台にし、空中で剣をキャッチ。そのままもう一人に対して振り下ろす。

 

「そ、そんな・・・」

 

「馬鹿な・・・」

 

背後で二人がその場に崩れ落ちる。次の相手へ向かおうとする俺に、数十発の魔力弾が飛んで来た。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

どうやらあそこのローブを纏った人が放って来たようだな。数は多いが、前回のペロリスト達との戦いで魔力弾の相手は嫌というほどさせられたからな。あの時に比べれば大したことないわ。

 

「甘い!」

 

隙間をかいくぐり、回避不能な物は剣で弾き飛ばす。そうやって少しずつ接近し、魔力弾が途切れた瞬間に一気に飛びかかる。

 

「ひっ! ば、化物・・・!」

 

逃げようとするローブの人を撃破する。ええっと、これで四人目だから、あと・・・え、もう一人だけじゃん。前回の人達と人数が合わんぞ。あ、もしかしたら体調不良とかで欠員が出たのかも。

 

「・・・さて、残すは貴様一人だな」

 

「くうっ! こ、こうなれば・・・!」

 

「きゃっ!?」

 

最後のリーダー格らしき人が突然ギャラリーから一人の女の子を引っ張り出した。・・・って、あれ? あの子レイヴェルさんじゃん。あの子も見に来てくれてたんだ。

 

「は、離しなさい! 私をフェニックス家の娘と知って・・・!」

 

「う、うるさい! 大人しくしろ!」

 

「ッ・・・!」

 

レイヴェルさんの首筋にナイフを当てるリーダー。こういう飛び入り参加もアドリブじゃないと出来ないよな。やっぱり役者さんはどうすれば盛り上がるか良くわかってる。そういう事なら、俺もレイヴェルさんをちゃんと活かさないと。

 

「フュ、フューリー様・・・!」

 

おお、演技上手いなレイヴェルさん。涙目で体まで震えさせて、まるで本当に人質にされているようだ。

 

「う、動くなよフューリー! 動けばこの娘の命は無いぞ!」

 

さて、そろそろクライマックスなんだろうが、そこでふと思う。そういえば、俺まだラフトクランズモードになってないな。特撮物なのに変身無しで敵を全滅させるとか面白くないよな。

 

「可憐な乙女を人質にするなど鬼畜の所業。我が剣、ラフトクランズによって、貴様をヴォーダの闇に還してやる!」

 

叫びつつ、俺はラフトクランズモードになった。これで後はリーダーを倒せば完了だ。けど、その前にまずはレイヴェルさんを助けないとな。というわけで、オルゴンクラウド発動。

 

「ッ!? き、消えた!?」

 

「何処を見ている」

 

リーダーの背後へ回り込み、腕をねじり上げる。そうやって解放されたレイヴェルさんを抱きかかえ、リーダーから離れる。

 

「フューリー様!」

 

ギュッと抱きついて来るレイヴェルさんをそのままに、俺はオルゴンソードを空に向かって掲げた。やっぱり、最後は必殺技で締めないとな。

 

オルゴンソードが割れ、そこからオルゴン結晶で出来た緑色の刀身が天に向かって伸びて行く。まさか、特撮の撮影がFモードの初披露の場になるとはな。

 

「これで・・・終わりだ!」

 

「~~~~~~!?!?!?!?」

 

声にならない叫び声をあげながら、リーダーは巨大な刀身の向こうへ消えていった。・・・いや、死んでないよ? ちゃんと『手加減』かけたし。

 

閃光と爆発の後、そこには黒焦げアフロのリーダーの姿があった。ふいー。全員倒したし、これで一応終わりだよな。俺はラフトクランズモードを解除し、レイヴェルさんを離した。

 

「あ・・・」

 

ええっと、これからどうすればいいんだ? とりあえず、シーンが終わったからカットの合図が出るはずなんだけど。

 

「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

 

ギィヤァァァァァァァァ!?!?!? 耳が! 耳がぁぁぁぁぁぁぁ!! な、なんじゃ今の悲鳴は!? ギャラリーのみなさんの声みたいだけど、まだなんかあるのか!?

 

「フューリーさん!」

 

そこへ、セラフォルーさんが駆け寄って来た。今のは何事かと尋ねようと思ったら、思いっきり抱きつかれてしまった。

 

「ありがとうフューリーさん! みんなを守ってくれて!」

 

みんな? ああ、作品内のみんなって事か。よし、セラフォルーさんは今の内容で満足してくれたみたいだな。

 

「これが俺の役目ですから」

 

そうとも、監督であるセラフォルーさんに納得してもらう動きをすることこそが今回の俺の役目だったのだから。

 

「そういえば、カテレアさんは?」

 

「カテレアちゃんなら救護室に運ばれて行ったよ。まあ、予想してたんだけどね。あの様子だとカテレアちゃんも大満足みたい」

 

救護室!? 何があったんだ!?

 

「はふう、一時はどうなるかと思ったけど、カメラだけは回しておいてよかった! おかげで予定してたよりもずっといいものが撮れたもん!」

 

安堵の溜息を零すセラフォルーさん。なんかトラブルでもあったのだろうか?

 

「ほっほっほ。いいものを見させてもらったぞフューリーよ」

 

あ、オーディンさん。それにロスヴァイセさんとバラキエルさん。本当に見に来てたんだな。

 

「うむ、少しばかり話がしたいのじゃが・・・その前に静かな場所へ移動した方がよさそうじゃな」

 

「なら、一旦このフィールドから出てお話しよっか。ギャラリーの子達も帰してあげないといけないし」

 

セラフォルーさんがスタッフのみなさんに指示を与えた後、俺達は撮影用のフィールドを後にするのだった。

 

SIDE OUT

 

 

ミリキャスSIDE

 

「で、出来た・・・とうとう完成したぞ!」

 

最後の一文を書き記し、僕はついそんな声を上げてしまった。フューリー様の戦いの歴史を記した『鋼の救世主』。その最終章の最終話をやっと書き終える事が出来た!

 

「フューリー様の撮影見学を我慢した甲斐があった! よーし、後はこれを全部纏めてしまおう」

 

ああ、早くフューリー様にお見せしたいな! 次はいつグレモリー家に遊びに来てくださるんだろう。おじい様もおばあ様もフューリー様がいらっしゃるのを楽しみにしているんですよ。

 

「・・・そうだ! リアスお姉様からフューリー様に遊びに来て頂けるようお伝えしてもらうのはどうだろう!」

 

もちろん、すぐには無理だろうけど、それでも時間が出来たらきっと遊びに来てくださるはずだ。よし、そうと決まれば早速お姉様に連絡しないと。

 

そんなウキウキした気持ちで、僕は部屋を出て行くのだった。




このオリ主・・・ノリノリである!

しかしまあ、本人は軽い感じでこなしてますが、結構滅茶苦茶な動きしてますよね。これも特訓のおかげだな。

そして・・・ついに処刑のカウントダウンが始まった様です。

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