ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
「ほれ、出かける用意をせい。今から遊びに行くぞぃ」
再び家を訪ねて来るなり、開口一番そんなセリフを放つオーディンさん。あまりに突然の事にどう反応すればいいか困っている間に、あれよあれよと外に連れ出されたと思ったら、家の上に巨大な馬車、そしてそれを引くこれまた巨大な馬の姿があった。
それに対し、驚くよりもまず、近所のみなさんがこれを見たら腰を抜かすんじゃないだろうかという心配をする俺。とはいえ、そんな事はちゃんと考えてあるらしく、普通の人には見えない様にしてあるとか。
アーシアなんかはあわあわ言いながら目を思いっきり見開いている。素晴らしいリアクションだ。それを見て楽しそうに笑うオーディンさんがスッと手を動かすと同時に、俺達の体が馬車の方へ向かって浮かびあがった。
馬車の扉が開く。中に兵藤君達がいた。俺が尋ねるよりも先に兵藤君がオーディンさんの護衛として付き合わされてるのだと説明してくれた。
「これで全員揃ったの。では出発するぞ」
こうして、俺達はいつものメンバー勢ぞろいで、オーディンさんの言う遊びに付き合う事となったのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
それからあっという間に時間は過ぎ、辺りはすっかり暗くなってしまった。いやホント、色々な所に行ったな。こんな立派な馬車を用意するのだから遠出する事は予測していたが、まさか日本中を巡る事になるとは思わなかった。
「いやあ、今日も遊んだ遊んだ。どうじゃフューリー。お主等も楽しめたかな?」
「ええ。ですが、何故俺達を誘ってくれたんですか?」
「まあそうじゃな。お主がおれば何が襲撃してこようが大丈夫というのもあるが・・・たまにはワシも部下に対して褒美をやらんといけんからのぉ。そう思わんかロスヴァイセ?」
「・・・別に思いませんけど?」
「やれやれ、そこで意地を張らずに素直にありがとうと言えんのがお主の短所じゃな。本当は嬉しいのじゃろう? こうしてフューリーと共に・・・」
「ああ、なんだか無性にハリセンを振り回したくなりました。どこかにいいツッコミ相手はいないでしょうか。具体的には人をおちょくって悦に浸るクソジジイとか」
ハリセン片手に笑みを見せるロスヴァイセさんにオーディンさんが口を噤む。その時だった。突然馬車が停車し、その衝撃が俺達を襲った。
「きゃっ!?」
ロスヴァイセさんがバランスを崩して倒れ込んで来たので慌てて支える。何が起こったのか理解出来なかったのか、ロスヴァイセさんはポカンとした顔で俺と目を合わせ、次いでその綺麗な顔を真っ赤に染め上げた。・・・以前セラフォルーさんと同じような状況になった事があるが、今回は言わせてもらいたい。そんな・・・そんな反応されたら勘違いしちゃうでしょうが!
「おいフューリー。こんな時にまでラブコメってないで警戒しろ」
そう言って呆れた様子アザゼル先生。こんな時にまでって、逆にこんな風に咄嗟の出来事の時じゃないとこんな事出来ませんがな。
「ほらご主人様! 外を見てみるにゃ!」
固まっているロスヴァイセさんを俺から引っぺがした黒歌が窓の外を示す。心なしか不機嫌そうだが、どこかぶつけでもしたのだろうか。なら後で『信頼』でもかけてあげようか。
ともかく、窓を全開にして外の様子を見る。馬車の周囲を護衛役の木場君、ゼノヴィアさん、紫藤さん、そしてバラキエルさんが警戒しながら飛んでいる。どうでもいいが、ラフトクランズモードなら俺も飛べるから交代しようとしたら全力で断られてしまった。
木場君達の視線は前方に向けられていた。それを追うと、そこには一人の男性が浮かんでいた。イケメンでオーディンさんの物に似たローブを纏っている。
「チッ・・・!」
「まさか・・・あの方が出て来るなんて!」
「やれやれ、早速行動した阿呆が一人現れたようじゃな」
舌打ちしたのがアザゼル先生。心底ビックリしているのがロスヴァイセさん。不機嫌そうに溜息を洩らすのがオーディンさんだった。どうもこの三人はあの男性の事を知っているようだ。
「・・・間違い無いわ。アレはロキ。北欧の神よ」
「その通り! お初にお目にかかる! 我こそはロキ! 北欧の悪神である!」
高らかに名乗りを上げるロキさん。しかしロキ・・・ロキか・・・。
「リョーマさん? どうしたんですか?」
「ああ、いや何でも無いんだ。ロキというとどうも裸マントに褌一丁のイメージが強くてな」
もしくはスタイリッシュなツナギ姿。まあ、オーディンさんで既に全然違うんだから、前世の、しかもゲーム内での姿なんて当てになるはずがないんだけどな。
「「「「「「「「「「どんなイメージよ(ですか)(だ)(にゃ)!!!!」」」」」」」」」」
オーディンさんとアーシア以外の全員にツッコまれてしまった。そ、そんなに強く言わなくてもいいじゃないですか。
「え、お主そんな趣味があったの? 正直ドン引きなんじゃけど・・・」
オーディンさんがロキさんに対してアブソリュート・ゼロな目線を送っていた。いや、違いますよ。これはあくまでも俺の勝手なイメージであって・・・。
「く、くくく・・・なるほど、いきなりの挑発、ありがたく受け取らせてもらおう!」
ちょっ!? そんなつもり無いですから! おいこら! 誰だよ誤解される様な事言ったの! ・・・俺じゃねーか!
「これは裸マント殿。我等に何か用ですかな? この馬車には北欧の主神オーディン殿が乗られているのだが、それを承知の上での行動ですかな・・・プッ」
もう止めて! ロキさんの我慢は限界よ! もう思いっきり最後笑っちゃってるじゃないですか!
「ッ! 堕天使ごときが神を侮辱するか! やはり我等以外の神話体系など存在するべきではない! 予定通りオーディン共々粛清してくれる!」
最早完全にプッツンしているロキさんがそう叫んだ直後だった。彼の後方の空間がぐにゃりと歪み、そこから巨大な存在が姿を現した。
「・・・犬?」
その正体は灰色の犬だった。その犬は一度体を大きく震わせた後、ゆっくりと俺達に向かって視線を向けて来た。
「アレは・・・!? おいお前等! あのデカイ狼には絶対に手を出すなよ!」
あ、狼だったんだ。・・・ん、待てよ。北欧神話、ロキ、そして狼といえば・・・。
「先生、あの狼はいったい・・・!?」
「お前もゲームとかで聞いた事があるんじゃねえか、イッセー。アレは神喰狼・・・フェンリルだ」
「その通り! これこそ神すらも殺す牙を持つフェンリルである! 我が開発した魔物の中でもトップクラスに最悪の部類だ。神殺しの牙の前では例え上級悪魔や伝説のドラゴンだろうが皆等しく得物に過ぎん!」
自慢気だなロキさん。・・・まさかその為に呼んだのか? ペット自慢ならこんな空の上なんかじゃなくて、もっと人がたくさんいる場所でやればいいのに。
そんな感想を抱いていると、ロキさんが右手を上げる。そしてその指先を俺に向けて来た。
「まずは先程の挑発の礼をさせてもらおう。出て来たまえ。貴殿には我が愛しき子どもと存分に戯れてもらおう!」
戯れて・・・遊び相手になれってか? まあ、それくらいでさっきの件を許してくれるなら相手になるけどさ。
「だ、駄目よリョーマ! アレは今までの相手とは次元が違うわ! いくらあなたでもフェンリルを一人で相手なんて・・・!」
縋りついて来るリアス。確かに、あんなに大きな、しかも狼を相手にするなんて怖い。でも、こうなったのは俺の所為だし、その責任は果たさないといけない。
「大丈夫だ。彼の言う通り、少し遊んでくるだけだ」
俺は心配は無用とばかりにリアスに向かって微笑んだ。そしてラフトクランズモードになると扉を開け外へ出た。・・・背後でリアス達が驚愕しているのにも気付かずに。
「せ、先輩・・・」
木場君の横を通り過ぎようとしたら彼から声をかけられた。夜の空は寒いからか震えている。我慢出来ないようなら馬車に戻った方がいいよ。
「おや、その姿・・・。まさか貴殿があのフューリーとかいう英雄様ですかな? 噂でしか聞いてはおりませんが、北欧の神である我を下賤な悪魔や堕天使などと同じと思わないで頂こう」
・・・ちょっとムカついた。今のってつまりリアスやアザゼル先生といった俺の大切な人達を馬鹿にしてくれたんですかね?
「くくく、怒ったのか? だが、それは我も同じだ。・・・行け、フェンリル!」
「アオォォォォォォォォォォォォォン!」
ッ!? ちょ、速っ!?
遠吠えと同時に姿を消すフェンリル。次の瞬間、俺の右腕にフェンリルの牙が突き立てらてれていた。
SIDE OUT
イッセーSIDE
鎧を纏った先輩が馬車を出て行く。いつもの様にクールに、まるで近くのコンビニへ買い物に行くかの様な余裕を見せながら。
「おや、その姿・・・。まさか貴殿があのフューリーとかいう英雄様ですかな? 噂でしか聞いてはおりませんが、北欧の神である我を下賤な悪魔や堕天使などと同じと思わないで頂こう」
先輩の姿を見てロキはフューリーの名前を口にする。だけどそれだけだ、今までの悪魔や他の勢力のみなさんみたいに激しい驚きや畏怖した様子は見られない。
「ワシも最初はロキと同じじゃったよ。じゃが、サーゼクス坊やセラフォルーの嬢ちゃんから映像を交えて話を聞き、そして・・・前回のレーティングゲームであの力を見せつけられ、ワシはようやくあの青年がとんでもない存在なのだと理解した。おそらく、他の神話体系の連中も今の段階ではフューリーという存在を侮っておるじゃろう」
先輩の力を知っている俺からすれば思わず鼻で笑ってしまいそうな事実だった。ロキの完全な上からの発言に、先輩から感じるプレッシャーが増した。
「くくく、怒ったのか? だが、それは我も同じだ。・・・行け、フェンリル!」
「アオォォォォォォォォォォォォォン!」
その遠吠えは聞き惚れてしまうほどに美しく、そしてどこまでも恐ろしいものだった。体の震えがさらに激しくなり、膝をついてしまいそうになってしまった。
「い、いや・・・リョーマァァァァァァァァァ!!!」
部長の悲鳴に顔を上げる。そこにはフェンリルに右手を飲み込まれた神崎先輩の姿があった。う、嘘だろ・・・先輩ですらヤツの速度に反応出来なかったっていうのかよ!?
「ふはははは! 英雄殿の最期にしては呆気なさすぎたな! まさか断末魔さえあげずに逝ってしまうとは! さあフェンリルよ! 腕だけでなく残りも飲み込んでしまえ!」
「ぐるるる・・・」
勝ち誇った顔のロキの指示に、フェンリルは低く唸るだけだった。な、なんだ? なんか様子が・・・。
「・・・どうやら、異世界にはフェンリルなどよりもよっぽど恐ろしい魔物が存在するようじゃな」
「え?」
俺が聞き返そうとした正にその時、フェンリルの口からピキピキと音が鳴り始めた。それが牙に罅が入る音だと理解した瞬間、牙は一気に砕け散った。
「ぎゃんっ!?」
「ば、馬鹿な!? フェンリルの牙が砕けるなど・・・」
牙を失った痛みでもがくフェンリルと、それを見て顔から余裕を一気に失ったロキ。そして、そんなロキ達を含めた俺達全員の耳に聞こえるはずのない声が届いた。
「威勢がいいのは結構だが・・・どうやら躾がなっていないようだな」
「先・・・輩・・・?」
こ、こんな事が・・・神殺しの牙すらも先輩には効かないってのか・・・? は、ははは・・・良かった。良かったけど・・・なんかとんでもなく恐ろしい事を知ってしまった気がする。
「き、貴様! 何をしたのだ!?」
「別に何もしてはいない。それよりも、自慢のペットならばしっかり教えておくのだな。噛みつく相手を間違えれば、怪我をするのは自分だと」
実力差もわきまえないからこうなる。・・・今の先輩の言葉にはそんな意味が込められている気がした。
「ふざけるな! フェンリル、お前の力はそんなものではないだろう!」
「が、がう・・・」
「フェンリルめ、怖気づいておる。無理も無いわい。今まであの牙に砕けなかったものは無い。それを逆に砕いてしもうた彼奴に得体のしれん恐怖を抱いておるのじゃろう」
マ、マジか・・・。でもよく見たら体も震えてるし、目の光も鈍い。心なしか先輩から距離も取ろうとしてる。
「どうした? 来ないのか? ・・・ああ、痛いのか? ならば治してやろう」
先輩がそう言うと同時に、フェンリルの口を光が包み、それが消えるとそこには失ったはずの牙が完璧な状態で並んでいた。
「さあ、これで大丈夫だろう? では、ここからは俺も本気で相手をしよう。先程の様な醜態は二度と晒さない。存分に戯れようじゃないか。もちろん、何があろうとも治してみせるから安心して向かって来てくれ」
や、やべえ・・・。先輩キレてらっしゃる。ボコる→回復→ボコるの無限ループで徹底的に痛めつける気ですよあの人! さっきの“遊ぶ”とか、今の“戯れる”とか意味深過ぎてめっちゃ怖え!
「待て! それ以上我が子をいたぶるのは許さん! フェンリル、ここは一度退くぞ!」
ロキがマントを翻すと、先程フェンリルを呼び出した時みたいに空間が大きく歪み始め、一人と一匹はその向こうへと消えて行くのだった。
新たなトラウマ所持者が増えてしまったようです。
オーディンが少しだけ言いましたが、オリ主を救世主扱いしているのは悪魔、堕天使、天使だけで、他の神話体系の神々は完全になめきってます。・・・まあ、章が進むごとに「ファッ!?」っとなる人たちは増える事になるんですけど。