原作に登場しないモブだけど性悪すぎる悪役令嬢に悪の美学を叩き込んだらなんかバグった   作:苺1円

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プロローグ

「うん、決めた、あなたは処刑するわ」

 

まだ幼いことが明らかな声、だがそこから紡がれる内容は多量の毒を含んでいた、それこそ致死量の猛毒を

 

「お嬢様お許しください!なんでもします、だからどうか処刑だけは……」

 

その言葉を受けた女性は服装や目前の少女を呼ぶときに用いた呼称から予想するにメイドなのだろう、少女の機嫌を損ねないためか表情を変えることはせず、それでも声音から滲む悲痛な思いを隠すことはできていなかった、恐怖に声が震えていないことが奇跡に近いのは間違いない

 

「いいわよ?はいこれ」

「感謝いた……え?」

 

実際の所メイドが処刑される正当な理由なんて存在しない、ただ少女が具合が悪いと自身の部屋にこもっていたときに食事を運んできただけ

 

だからこそ処刑するという宣言も冗談だろうとメイドが考えるのは必然で、だが少女の身分である王女という立場から不敬罪などの理由をつけて自身を処刑するなど簡単なことであるのは理解していた、つまり少女の言葉は先程の言は冗談だと告げている、救いに思えた、前半までは

 

「あの、お嬢様、これは……」

「あなたが運んできた食事についてたナイフよ?なに?そんなことも分からないわけ?王家のメイドとしての自覚はないの?」

「…………」

 

確かに平民の中にはナイフというものを知識としてすら知らないものもいるだろう、だがメイドの教養としてナイフを知らないなどありえない、それは王家だから、底辺貴族だから、など関係なく

 

少女の言葉から溢れる感情は明らかなまでの侮蔑、自身の意図も把握できないのか、と言外に伝えていた

 

だが前触れもなくナイフを渡されて何を求められているのか分かれというのも土台無理な話で

 

「本当に理解できないの?選ばせてあげるって言ってるの、自害するか、処刑されるか、私って優しいわね!メイドなんかに選択肢を与えるなんて、あなたもそう思うわよね?

……そういえば、なんでもするから処刑は嫌って、じゃあ選択肢になってないわね、残念」

 

つまり最初からメイドは詰んでいた

少女が処刑すると言葉にした時点でここまでの流れを考えていたのかは不明ながらも、それだけ頭が回るならどう足掻いても避けられなかった結末

 

『本来の歴史ならば』処刑の場合は家族にまで汚名が及んでしまうからとメイドはそれが当然のように自死を選び、少女はメイドで遊んでいた結果として己がどれだけ高貴な立場なのか、自覚してしまう

 

“そこまで行き着けば、少女もまた詰みである”

 

将来は確定される、悪役として英雄の道を邪魔して、邪魔し続けて、その果てに断頭台へ歩みを進めるのだ

 

だが……そうはならない、それは何故か?

簡単な話だ、メイドが命を断つ直前、少女にとってはひどく無粋で、メイドにとってはとても英雄的な、介入があったから

 

「本当に不愉快な話だ」

「だれ?」

 

少女からすれば不思議な出来事だった、此処は王家の人間が住まう場所でどんな化物だって侵入できないように、許可なく足を踏み入れたものを抹殺すること前提の罠が幾重にも張り巡らされている

 

だが目前の青年だろうか?顔は仮面で覆われ全身を隠すように黒いローブを着用しているために声のみでの判断にはなるが、それは少なくとも王家に関係する人物には思えない、そんな存在が突然自室に出現した、まるで手品のように、本当に唐突に

 

「誰、面倒な質問だな、君が求めているものは全て返答できないものだ、いやそうだな、1つだけ答えられるものがある、俺は……」

 

【悪の伝道師だ】

 

「なにそれ?私を悪党だとでも言うつもり?………分かった、謝罪は要らないわ、自分の首だけ置いて帰りなさい、そしたら私は全部忘れてあげる、挑戦する価値はあると思うのだけど、どう?」

 

少女は未だに小馬鹿にした態度を貫いていた、自身が絶対の存在なのだと信じて、自身に従わないものこそが悪なのだと主張するように

 

それは幼い故の経験の少なさに由来するものか、はたまた生来の気質なのか

 

少女は気付かないだろう、自分が高貴な立場であっても絶対の存在ではないという事実に

そもそも、どれだけ権威があろうとも現状においてはただの非力な少女に過ぎない事実に

 

「まずは自身が悪であることを自覚しろ」

「まだ続けるの?………え?…あ…え?…わた…しは…王女で……」

 

少女の表情が恐怖に染まった、先程の自信も忘れて、状況を理解する頭脳があったからこそ、慢心することもできずに、自身の首元に突きつけられているものが即座に理解できた

 

ナイフだ、見覚えがあるという領域ではなく、つい先程の自分がメイドに渡したもの

そして、メイドの運命を決めるはずだったもの

 

少女は幻視する、このナイフがメイドの鮮血ではなく自身の青い血で染まる光景を

 

なんという幻視だろうか、もし目前の青年が同じ光景を見たら高貴な身分にあろうとも流れる血の色は同じなのだと教えてくれるだろう、僅かな傷を対価として

 

「理解できたか?その恐怖を与えた俺は君にとってどんな存在だ?善人か?聖人か?勇者か?英雄か?どれも違うだろう?これが悪党、ほら、簡単な話だ、君がそこの女にした光景を思い出せ」

「…………」

 

少女は押し黙るしかなかった、理解できないはずがない、メイドの驚愕と恐怖の入り混じった表情を無様だと嘲笑していたのは他ならない自分で、自身と同程度の恐怖を抱いたとは思わないが、それでも目前の存在を悪だと思っていただろうことは容易に察せられる

 

理解した、理解させられた、無自覚な悪意を自覚してしまったら、自身の価値観と問答がはじまるのは簡単なことだった

 

自身は悪か?悪なのだろう、では何故…?

自身は善良なる王家の出身で、悪であるはずが……だが悪であることは事実で

それでも道を踏み外す要素など……

 

「悪らしい思考、それもまた才能だよ」

 

思考の海に沈んでいても、その言葉は鮮明だった

救済?その言葉は相応しくないだろう、自身へ刃を向けたものに使うなど生涯の恥として墓場まで持ちこむ覚悟すらできるほど

 

そう、これは……自身の正当化、都合のいい言い訳を見つけた、そんなドス黒いものだ

 

「例えば政治、悪意を理解できない愚物が玉座に座れば簡単に食い物にされる傀儡の出来上がり」

 

少女は本当の意味で理解できているわけではない、だが想像は容易だ、最近習いはじめたばかりといえども多少は政治の知識がある

 

不正を罰するために知識を得るという勉学であるからこそ、今の青年の言葉は異様なまでに当てはまる

 

不正を罰するために知識が必要なら、悪意についての知識がない貴族や王族など獲物として最適にすぎるだろう

 

「だが無闇に悪意をばらまくだけでは盗賊などとなんら変わらない、悪党には悪党なりに美学が必要なんだ」

「美学……?」

 

理解できない、そんな意思が透けていた

だが青年にとっては、その問いかけこそ待っていたもので、僅かな喜悦すらにじませた声音で青年は世界でたった1人のために演説をはじめた

 

「そう美学だ、その悪党ごとの美学があるだろう、だから今から語るのは俺の美学、参考にするのも微塵も掠らない己の答えを見つけるのも自由、だがよく聞いてくれ

 

最後に頼れるのは自分の能力だけだ、自分以外は全て裏切るものと思え、家の権威など悪意の前ではどれだけ奪えるかの指標にすぎない

 

悪意の使い時を選べ、それは利点になる、英雄が正義しか使えなくとも、悪党は正義も悪意も使えるんだ、偽りの善性と本物の悪性をもって盤面を食い潰せる

 

さて、これで悪の伝道師としての役割は終わりだ、最後まで話を聞き終えたご褒美として1つ願いを叶えよう、現実的にできる範囲で、まあ信用できないなら帰れとでも言ってくれ」

「………そうね、そこのメイド、全部聞いてたわけだけど、できる限り無惨に殺してくれる?侵入者に遊ばれてましたって感じで」

「了承した」

 

ある意味では吹っ切れたのだろう

そこに無邪気な少女の面影はなく、いや、誰よりも無邪気そうな笑顔の仮面を完璧に貼りつけた少女がいた

もはやメイドの最期など語る必要はない

断末魔すらあげることを許されず………

1つ言うなら、青年が介入したときは見えた希望など、幻想だったということか

 

…………

王女の悲鳴が聞こえてきた、現場に駆けつけた騎士が見たのは部屋の中央付近で全身の衣服を剥ぎ取られて血溜まりに沈む女性だったものと、部屋の片隅で恐怖からか全身を震わせて泣きじゃくる王女の姿だった

…………

 

それは悪役令嬢が悪の美学を知ったIFの物語、だがこの世界では紛れもない現実で

 

本来の歴史においては名前も語られない青年は嘆くだろう

『悪役にも信念がある作品が好きだけど、まさかサイコパスで小悪党なだけの悪役令嬢があそこまで覚悟ガン決まりするのは予想外だった、やりなおしを要求する』




なんだろう、悪役令嬢なのに裏ボスフラグ建設するのやめてもらっていいですか?
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