ナイジェルらと兵舎に戻ってから24時間後、基地中にアラームが鳴り響いた。作戦の開始時刻である。
タクミは整備場で渡されたケースから黒いライダースーツのようなものを取り出した。ガンツスーツだ。
一見するとただのゴムの服だが、内部は特殊なゲル上の液体で満たされており、超人的なアクションが可能となり、防御能力も格段に向上する。ターミネーターと渡り合うためには必須の装備だ。
むき出しの頭部も弾丸を跳ね返すほどの安全が保障される。ここまでが最低限度の必需品でタクミらは次にハンドサイズの銃火器をホルスターにぶちこんだ。Xガンという敵を内部から破壊する武器だ。発射から着弾まで数秒かかるが、扱いやすく、チャージショットやロックオン機能も搭載している。
これにスコープやバレルを追加したXショットガンを加えれば準備完了となる。すべての安全確認を終わらせたタクミは黒い幅1メートルほどの球体の前に整列した。
同じスーツに身を包んだ曹長が進み出ると同時に、球体からラジオ体操曲が流れる。理由は不明だがこれがミッションの合図らしい。
「いいか!我々はこれから山東半島の煙台で敵と交戦する。ここを死守しなければ、奴らは極東侵攻の決定的な拠点を得ることになる。そうなればまた多くの市民が犠牲となってしまうことだろう。それだけは絶対にあってはならん。今までの厳しい訓練に耐えてきた諸君だ。この作戦を必ず成功に導いてくれるとオレは信じている。
戦場で会おう。各隊、位置につけ!」
黒スーツの男たちが一斉に敬礼し、球の前に並ぶ。すると球から一筋の光線が発射され、彼らの姿が頭から消えていく。現地に転送されたのだ。ガンツのこの機能により、通常は何時間もかかった輸送時間が大幅に短縮され、スピーディーな陣形展開が可能となった。
タクミも震えそうな足を進め、ガンツの正面に立つ。
いってくだちい。
というヘンテコなメッセージとともに光がタクミを包んだが、次に現れたのは砂風と煙が舞う見知らぬ景色だった。あちこちで火の手が上がり、穴だらけの地面から硝煙の匂いが立ち込める。死の匂いだ、と思った。
「タクミ、何やってんだ!置いてくぞ!」
ナイジェルの怒声に意識を引き戻される。
「すいません!」
と返し、近くの土手に身を潜めた列に入り、顔だけ少し出すとそこにあるのは無数のターミネーターと次々に倒れる仲間を庇いながら応戦する味方の姿だった。思わず唾を呑み込む。
無線から曹長の野太い声が聞こえた。
「敵は今正面の味方に釘付けになっている。オレが合図したら一気に突っ込め。」
「了解!」
仲間たちが声を荒げた。永遠と思えるほどの時間が流れたように感じたときだった。
「行けぇ!」
合図が響き渡り、男たちが雄叫びを挙げながら阪を駆け下りる。
タクミも叫びながら混沌のフィールドに突入し、ショットガンを構えた。すぐに目の前の一体が振り返る。タクミはトリガーを引こうとしたが、その顔を見て硬直してしまった。
骸骨を削りだしたような体躯に真っ赤に光る目。人が無意識に恐怖を覚えるように設計されたそれは、教習で何度見たにもかかわらず、タクミを動けなくした。
早く動かなければ、早く撃たなければ。
頭がどんなに念じても体はピクリともしない。混乱した思考をよそに、敵は無造作に機関銃を撃ち放った。
ばら撒かれた球のいくつかが命中し、後ろに吹き飛ぶ。普通なら死んでもおかしくないのだが、スーツの性能がタクミを守った。したたかに打ちつけた頭を振り、起き上がる。
荒くなった呼吸が木霊する最中、再び銃声が発しタクミは二度地面を転げまわった。いくらスーツが防いでくれても全身の刺すような痛みは消えない。
しかし、なおも近づく敵を視界に収めた瞬間、痛みよりも純粋な死の恐怖が上回り、タクミは拾い上げたショットガンをろくに狙いもつけず喚きながら乱射した。独特の発射音を気にする様子もなく、悠然と歩み寄るターミネーターが銃口を向けた。
外した、殺られる!
咄嗟に身をすくませたそのとき、金属のひしゃげる音と同時に凄まじい爆発が起こり、タクミはまたまた吹き飛ばされた。何か硬いものにぶつかり、グラグラする光景の一端に屑鉄と化した敵が映る。
撃った一発が偶然燃料電池に当たったのだが、このときのタクミが理解できたのは自分が生き残ったということだった。やった。ざまあみろ。
安堵しつつ空気を補充するために渇いた口を広げる。そのときガチャリと音がしたのは背後からだった。
振り返ると、そこにはさっきと似た個体がガトリング砲を突きつけた姿があった。
「え?」
タクミは自分の状況が理解できず、ただその一言を発しただけだった。マズルフラッシュとともに衝撃が体を貫き、目の前が真っ暗になった。
「ウワアアァァァァァ!」
悲鳴と同時に跳ね起きる。
次の瞬間、コガ・タクミがいたのは横須賀基地第4兵舎のベッドの上だった。